【シン・実装石】 ゴミ捨て場を荒らす野良やコンビニで託児を企む野良は駆除するが、 わざわざ公園まで出向いて殺すほど実装石に興味があるわけではない僕は、 もちろん虐待派でもなければ愛護派でもない。 一般的な常識人、あるいは敢えて言えば無関心派といったところか。 そんな実装石に興味がない僕が、 実装石と実装石が戦う動画を撮影しようと思いついたのは、 あの夏の日の太陽がまぶしかったから。 いや、最近話題になっている怪獣映画のせいかもしれない。 今回の映画のように謎の巨大生物と人類の科学との直接的な戦いではなく、 人類に害をなす巨大生物が別種の巨大生物と戦って、 結果的には人類の危機を救ってくれる… 僕が子供だった頃はそんな怪獣映画が毎年のように公開されていたのだ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「実装ギドラ、実装ギラス、ウジラの幼虫… でもやっぱりメカ実装石が面白そうだよなぁ…」 使えそうな道具を安く探すとなれば、行く先はもちろん100円ショップ。 さすがにスペースチタニウム製の実装石専用武器や装甲板なんて売っていないが、 ステンレス製の食器なんかはピカピカの金属光沢でそれっぽく見えるし、 実装石の武器としては充分過ぎるほどの威力と強度がある。 加工のし易さを考えると防具は厚目のプラ板がいいかな。 キッチンバサミやカッターで切れるし、表面にアルミホイルを貼れば銀色になるしな。 そのキッチンバサミやカッター、アルミホイルも100円のもので充分だ。 とりあえず胴体部分や腕、足、頭部の防御用にプラ板(大)を2枚、 武器に使えそうなバーベキュー用のステンレス串(小・5本セット)、 プラ板の加工用にキッチンバサミ、カッター、万能接着剤・各1個。 そして表面仕上げ用のアルミホイルも1巻。 これだけ買っても1000円以内に納まるんだから100円ショップというのは有り難い。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— さて、あとは主演の実装石だ。 他の実装石と戦ってくれる実装石でないと困るのだが、 どうせ馬鹿な実装石は強い力を手に入れると増長して、 他の実装石からエサや仔実装を強奪するだろうから、 僕が武器、防具を与えることで条件は簡単にクリアできるだろう。 むしろ僕が作った武器、防具にジャストフィットするように 実装石の体形を補正する方が面倒かもしれない。 え?実装石の体形に合わせて武器、防具を作ればいいって? いや、実装石のウレタンボディは切ったり貼ったりできるので、 向こうの体形を防具に合わせてしまった方が楽だし、 それに普通の実装石じゃ面白くないからね。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「…というわけで、君は主演俳優に選ばれた。」 『デッ???』 まだ状況がつかめていないのだろう、 全身傷だらけの禿裸はキョロキョロと周りを見回してから、 僕の顔を見上げた。 ここは近所の公園。 そしてコイツは数匹の野良実装石にリンチされていた成体実装石。 コイツを集団で襲っていた野良実装石どもは僕が蹴っとばしたら慌てて逃げていった。 コイツが僕に恩義を感じて僕の言うことをきく…なんてことは期待していないが、 他の実装石に対する恨みがあれば積極的に暴れてくれるだろう。 「さあ、これが君の新しい服だ。」 『デデデッ?』 早速プラスチック製の装甲板を体に当ててみるが、やっぱりサイズが合わない。 実装石のコロニーを蹂躙する怪物という設定だから、 標準的な成体よりも一回り以上大きく作っておいたのだ。 防具にジャストフィットするように実装石の体形を補正することを 最初から予定していたのはそういう理由もあっての事だ。 「オッケー!それじゃ次いってみよう!」 『デーッ!?』 僕が急に大声を出して立ち上がったので驚いたのだろう。 主役に大抜擢された禿裸の実装石は装甲板を手に持ったたまま尻もちをついた。 僕は禿裸の主役が逃げないようにネムリスプレーをかけて眠らせると、 近くにあったダンボールハウスへとダッシュした。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「うん、こんなもんかな。」 満足そうに頷きながらディスポーザブルのゴム手袋をはずす僕。 目の前のダンボール箱の上には一回り大きくなった主役実装が転がっている。 最初から改造手術をするつもりで用意しておいたネムリスプレーを ダンボールハウスにも噴霧した僕は、 中にいた親実装1匹、中実装1匹、仔実装3匹を誘拐した。 脳と内臓を捨ててから実装家族全員をミンチにしたのは、 別に実装料理を作るためじゃない。 同じくネムリスプレーで眠っている主役実装の全身の皮を剥いて 体の表面に実装ミンチをペタペタと塗り付けた。 その結果が一回り大きくなったこの禿裸の主役実装なのだ。 特に腕と脚は倍以上の太さにしてあるのだが、 これは筋肉の断面積と筋力が比例関係にあるからだ。 コイツの腕と脚は太さが2倍以上あるので 断面積は約5倍ってとこか。 デタラメ生物である実装石相手に そんな計算がどこまで通用するかわからないが、 通常の5倍のパワーがあれば、 タイマンで負けることはまず無いだろう。 さらにリーチが長い方が殴り合いには有利なので、 腕の長さは5割ほど伸ばしてある。 実装石としてはかなり異様なプロポーションだ。 もちろん誘拐した家族実装の偽石は禿裸の両腕、両脚、頭部に 1つずつ移植してあるので、筋肉量以上のパワーアップも期待できる。 後は活性剤代わりのドリンク剤を 丸ごと1本ドバドバとかけてやれば出来上がり。 ホームセンターの10本398円の安物だが、 ファイト2〜3発分くらいの有効成分が含まれていると書かれているだけあって、 見る見るうちに皮膚が再生されて改造手術の跡も残らない。 髪の毛も再生したのは想定外だが、邪魔なのでハサミで切り落とす。 「それじゃ、次は装甲板を装着しちゃいますかね。(ニヤリ)」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「よう、目が覚めたかい?」 『デー…』 主役の実装石が目を覚ましたのは翌日のことだった。 接着剤が固まらないうちに動き回られても困るし、 暴れ始めるところから撮影したかったので、 ネムリスプレーを何度か追加して調節したのだ。 眠っている間に他の実装石に襲われないように 閉じ込めておいたダンボールから出すと、 主役実装を地面に座らせる。 『デッ?デッ?デッ?』 自分の腕や体を不思議そうに見ている主役実装。 全身がプラスチック製の装甲板に覆われている姿は 丸っこい実装石とは異なる直線的なデザイン。 そしてプラスチック板の表面に貼り付けられたアルミホイルの 金属光沢と相まって、昭和のロボットのような印象だ。 「新しい服は気に入ったか? これは僕からのプレゼントだ。」 『デス、デス。』 僕の言葉に反応しておじぎをする姿は、なんだか礼を言っているようにも見える。 もしかしたらコイツは野良ではなく、誰かの飼い実装なんじゃないだろうか。 だとしたら改造したのはマズかったかな。 まあ、やっちまったもんは仕方ない。 「この銀色の服を着たオマエは前よりもずっと強くなった。 お前を禿裸にした奴らに復讐するがよい。」 『デッ、デスデスー。』 わざと仰々しい言葉を使う僕と、再びおじぎをする主役実装。 リンガルを使っていないのでハッキリした事はわからないが、 なんとなく会話が成り立っているような気がする。 「今日からお前の名前はメカ実装だ。 行けメカ実装!生まれ変わったお前の力を見せてやれ!」 『デスゥーッ!』 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— メカ実装の異様な姿を警戒しているのだろう、 野良たちは植え込みやベンチの陰に隠れて様子をうかがっている。 ははは、怯えろ怯えろ… どうせお前らには対策会議をするだけの社会性も コイツと戦うだけの知恵も勇気も科学力も無いのだから。 おまけに米国からの美人エージェントもいないしな。 メカ実装は周囲の野良たちには目もくれず公園の奥へ向かって歩き出した。 人間から見れば同じ顔に見える実装石も実装石同士ではちゃんと個体識別できるというが、 自分を襲って禿裸にした野良がいる場所がわかっているのだろうか。 なんかこう、もっとこう、 メカ実装が野良を無差別に殺しまくるのを想像していたのだが コイツは意外と冷静だ。 頭がいいのか、厳しい躾けをされた飼い実装なのか。 偶然ではあるが僕は珍しいやつを主演に選んだらしい。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デェースゥーッ!』 突然大声をあげて走り出したメカ実装。 スマホで撮影しながら僕も追いかける。 改造手術、特に脚を強化したせいか実装石にしてはかなり速い。 人間と比べればもちろんたいしたスピードではないが、 一般的な実装石に対して持っているイメージよりも3倍以上速いのではないだろうか。 『デッ!デッ!デッ!』 メカ実装が突進した先にいた野良は慌てて逃げようとするが、 スピードがまったく違う。 『デスッ!』 『デゲァー!』 メカ実装のパンチ1発で野良が数メートル先まで転がって行く。 『デッ…デッ…』 手をつき立ち上がろうとする野良、その顔からは血が流れている。 メカ実装の両腕に2本ずつマウントされているステンレス製の バーベキュー串が突き刺さったのだ。 手に取り付けた方が敵に刺さる部分が長くなるので殺傷力は高くなるのだが、 手が自由に使えるようにするためと、手がちぎれる可能性も考えて、 という理由よりもむしろ外見重視で前腕部の装甲板に取り付けたバーベキュー串は、 まるで○式機龍のようだ。 『デスゥーッ!』 『デゲッ!』 『デスデスゥーッ!』 『デガッ!』 殴る。 蹴る。 そのたびに野良は数メートル先まで転がって行く。 実装石の軽いポフポフパンチやポフポフキックではなく、 ガードした腕がちぎれ、頭がへこむような重たい攻撃だ。 筋肉増量手術と偽石移植による規格外のパワー、 さらに腕や脚の装甲板も実装石にとっては固い凶器になる。 そして最初から攻撃力を増す武器として取り付けられているステンレス製の串。 ものの数分で野良はミンチになった。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『オロローン、オロローン…』 服と髪の仇を討ったはずのメカ実装は なぜかその場に立ち尽くし空を見上げて涙を流していた。 嬉し涙…じゃなさそうし、 やっぱりコイツは変なやつだな。 『デスゥ…?』 メカ実装と野良の戦いを見ていた野次馬達も 危険が去ったと感じたのか、 植え込みやベンチの陰からゾロゾロと出てきて、 メカ実装を取り囲む。 『デスデスゥ?』 『デースー』 『デププ』 『デプププ…』 『デェープップップッ…』 あれだけビビって物陰に隠れていたくせに なぜこのタイミングでメカ実装を笑えるのか? メカ実装だけじゃなく実装石ってやつは全般的に 僕には理解できない物のようだ…。 と、その時… 『デェースゥーッ!』 突然大声をあげて再び走り出したメカ実装。 『デッ!デッ!デッ!』 メカ実装が突進した先にいた野良はやはり慌てて逃げようとするが、 スピードが違い過ぎて逃げられないのもやはり同じだ。 再び戦いが始まった。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デスッ!』 『デゲァー!』 メカ実装のパンチ1発で野良が数メートル先まで転がって行く …のもさっきと同じ。 『デッ…デッ…』 手をついて立ち上がろうとする野良の顔から血が流れている …のもさっきと同じ。 だがメカ実装はそこで攻撃をやめた。 『デスー、デスデスデスー!』 『デッ…デェーッ…』 先ほど殺された野良と区別するために 今度の野良は野良2と呼称することにしよう。 メカ実装は野良2に対して大声で何かを話しかけているようだ。 そしてヨロヨロと歩いて逃げる野良2の後をゆっくりと追い始めた。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デェーッ…デェーッ…』 メカ実装に殴られた野良2はとあるダンボールハウスにたどり着くと、 倒れ込むように中へと逃げ込んだ。 おそらくここが野良2の棲家なのだろう。 本気で戦えばその場で簡単に殺せた野良2を ダンボールハウスの中にみすみす逃がしてしまったメカ実装。 だが… 『デエェェェースウゥゥゥーッ!!!』 ドガッ、ドガッ! 『ドォウゥエェェェースウゥゥゥーッ!!!』 ベリベリッ! 殴る。 蹴る。 引きちぎる。 実装石にとっては絶対安全領域であるはずのダンボールハウスが メカ実装の怪力によって簡単に壊されてゆく。 『テチー!』 『テチュー!』 何があっても安全な筈のダンボールハウスが壊されるという 予想外の出来事にパニックを起こしているのだろう。 中からは仔実装の悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる。 『デエェェェースウゥゥゥーッ!!!』 ベリベリベリッ!!! ついにダンボールハウスが引きちぎられ 抱き合って震えている野良2と仔実装2匹の姿が現れた。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『オロローン、オロローン…』 野良2とその仔実装を虐殺したメカ実装は ピンク色の実装服を抱きしめて涙を流していた。 ピンク色の実装服は2匹の仔実装が着ていたものだ。 どう見てもメカ実装のサイズじゃない。 だがこれでなんとなく分かってきた。 ピンク色の実装服はメカ実装の仔が着ていたものだろう。 つまりメカ実装はやはり飼い実装で、 散歩中だったのか捨てられたのかはわからないが、 成りすましを狙った野良達に襲われて、 自分の服を奪われただけじゃなく、 子供達も殺されて服を奪われたのだろう。 『デスー…デスデスゥー…』 コイツにとっては自分の服や髪というよりも 子供の敵討ちだったのかもしれないな。 メカ実装と野良2の戦いを見ていた野次馬達も 危険が去ったと感じたのか、 植え込みやベンチの陰からゾロゾロと出てきて、 再びメカ実装を取り囲む。 『デスデス?』 『デププ』 『デプププ…』 『デェープップップッ…』 『デェースゥーッ!』 「調子はどう、ひであき君?」 メカ実装がまたしても突然大声をあげて野良3を襲い始めた時、 僕の後から声をかけてきたのは… 「あ、トシ子先輩!」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— トシ子先輩というのは、僕の大学の先輩だ。 本名は「歳子 明子」(とし あきこ)というのだが、 みんなから「トシ子」と呼ばれている。 美人…というよりは可愛いらしい外見に似合わず、 実装石に対してはえげつない虐待を行う 自称「ライトな虐待派」だ。 実装石の読み方が「じっそういし」なのか 「じっそうせき」なのかさえも知らない無関心派の僕が メカ実装の改造手術を一発で成功させることができたのは 事前にトシ子先輩からやり方を教わっていたおかげだし、 ネムリスプレーもトシ子先輩のバイト先の実装ショップで買ったものだ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「おかげ様で順調です、トシ子先輩。」 「ふーん、あれがひであき君が言ってたカイジュウなのね。」 まあ、アルミホイルでキラキラ目立つ外見だから 間違えようがない。 『デエェェェースウゥゥゥーッ!!!』 ベリベリベリッ!!! 野良3の逃げ込んだダンボールハウスを メカ実装が力任せに引きちぎった。 中にいたのは、焼き鳥用とおぼしき1本の竹串を両手で構える野良3と その後ろに隠れている3匹の仔実装だった。 『ドゥオッセエェェェーイッ!!!』 気合を込めてメカ実装に突進する野良3。 竹串を腰の高さに構えて殺る気満々だ。 だが… 野良3の攻撃をサイドステップであっさりかわすと、 カウンター気味に右パンチを叩きこむメカ実装。 『デッ…』 たまたま運悪く偽石にステン串が当たったのか、 たった1発のパンチで目を白く濁らせて倒れる野良3。 うーん、装甲板で竹串をはね返すっていうのが1番燃える展開だけど、 こんなのも悪くないか。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『オロローン、オロローン…』 野良3の仔をつかまえて生きたまま食いちぎりながら またしても涙を流すメカ実装。 「…というわけで、変な奴なんですよ、コイツ。」 戦いに勝つたびに涙を流す理由が 子供を殺されたせいではないかと推理している事を トシ子先輩に説明すると、 「へえ、それ本当だったらアタリだよ。 いい実装石を拾ったね、ひであき君。」 トシ子先輩はそう言いながらスマホをいじり始めた。 どうやら文字表示タイプのリンガルアプリのようだ。 「トシ子先輩、アイツはなんて言ってるんです?」 「んふふー、内緒♪」 なんで内緒なんだか分からないが、 トシ子先輩はスマホの画面を見せてくれない。 「でも、そうだとすると、 未確認のピンクの実装服が第壱形態 禿裸が第弐形態 今の銀色の姿が第参形態というわけよね。 これはもう、第四形態にしちゃうしかないわね。」 「第四形態って… トシ子先輩もあの映画を見たんですか?」 「ひであき君が立派な虐待派になるためには 丁度いい練習でしょ? お姉さん応援してるからね♪」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 立派な虐待派になるつもりはないが、 トシ子先輩の笑顔にはさからえない。 第四形態ってことはメカ実装を改造して さらに強くするってこと…ですか? 「第四形態といえば…やっぱり尻尾がポイントだよな。」 さっそく100円ショップで資材を買い足して公園に戻ると、 『オロローン、オロローン…』 野良5だか野良10だかわからないが、 新しい野良実装を殴り殺したメカ実装が泣いていた。 「はいはい、わかったから大人しくしてねー。」 ネムリスプレーをかけてメカ実装を眠らせると、 周りにいた野次馬実装を適当につかまえる。 「明日の朝までに接着剤が乾くように 急がないと…なっ!」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デー…』 メカ実装が目を覚ましたのは翌日のことだった。 接着剤が固まらないうちに動き回られても困るし、 暴れ始めるところから撮影したかったので、 ネムリスプレーを何度か追加して調節したのだ。 眠っている間に他の実装石に襲われないように 閉じ込めておいたダンボールから出すと、 メカ実装を地面に座らせる。 昨日と違うのは体長と同じくらいの長さの 太い尻尾が生えていることだ。 もちろん尻尾もプラ板で装甲してアルミホイルで銀色に仕上げてある。 尻尾の材料は成体実装2匹分の筋肉と偽石だ。 さらに余ったミンチは脚と腕に足したので 昨日よりも微妙に太く逞しくなっている。 腕の装甲に赤いマジックで「MG2」と書いてあるのはお約束だ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「おはようメカ実装。 パワーアップした気分はどうだい?」 『デッ?デッ?デッ?』 「腕や脚よりも(多分)強力な尻尾を手に入れたお前は、 前よりも(多分)ずっと強くなった。 お前を禿裸にした奴らに復讐するがよい。」 『デッ、デスデスー?』 メカ実装が立ち上がり尻尾を振ってみる。 右に。左に。 上に。下に。 小さな装甲版を組み合わせて関節部を設けただけあって 尻尾は自由に動かせるみたいだ。 『デスーッ?デスーッ?デスーッ?』 尻尾をフリフリ動かして 僕の顔と自分の尻尾を交互に見る。 『デスーッ?デスーッ?デスーッ?』 尻尾をフリフリ動かして 僕の顔と自分の尻尾を交互に見る。 『デスーッ?デスーッ?デスーッ?』 尻尾をフリフリ動かして 僕の顔と自分の尻尾を… 「…いや、もういいから早く野良を殺しに行けよ。」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— スタタタターッ 尻尾の分、かなり体重も増えた筈なのに、 昨日よりも走るのが速い。 脚の筋肉が微増した効果というよりも、 尻尾でバランスが取れているのが大きいのだろう。 いや、それとも偽石が増えたのが効いているのか。 『デェースゥーッ!』 昨日と同じ場所で大声をあげるメカ実装。 走ってきたそのままの勢いで1匹の実装石に蹴りを入れる。 『デゲァー!』 メカ実装のキック1発で野良が数メートル先まで転がって行く。 『デッ…デッ…』 蹴られた野良は立ち上がろうとするが、 腕がちぎれかけていて、立ち上がれない。 やはりキックの威力も昨日より上がっているようだ。 そして今日のメカ実装はそこで攻撃をやめなかった。 『デスーッ!』 『デッ!』 体を半回転させて尻尾で強烈な一撃。 野良の体から首が簡単にちぎれて落ちる。 『デェースゥーッ!』 空に向かって勝利の雄たけびをあげると すぐに次の野良に襲いかかるメカ実装。 成体実装、仔実装合わせて18匹の野良を血祭にあげるのに 3分とかからなかった。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デスデスゥー♪』 行儀よく座って仔実装の死体を行儀よく食べるメカ実装。 なんだか機嫌がいいのは僕の気のせいか? 新しい力を手に入れたせいなのか、 メカ実装の戦い方が昨日とはまったく違う。 戦い方というか、性格自体が好戦的に変わったような印象だ。 仔実装の味を覚えたからなのか、自分の力に酔って糞蟲になったのか、 それとも新しく移植した偽石の影響なのか。 そんな事を考えながらメカ実装の食事をぼんやりと眺めていると、 トシ子先輩からメールが入った。 ”カイジュウは無事に第四形態になったかな? 今からカイジュウと一緒に西公園の噴水広場に来てね” 西公園は大学の反対側にあって、今いる公園よりも大きい公園だ。 実装石もここよりたくさんいる。 トシ子先輩、まさかデートのお誘い…のわけはないな。 何か面白い事でも考えついたのかな? 僕はメカ実装をダンボールに入れて自転車の荷台に乗せると、 西公園に向かって出発した。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 西公園に着いた僕はトシ子先輩からの指示通り 中央部分にある噴水広場へと向かった。 公園のルールに従って、自転車から降りて押して歩く。 ちなみに自転車に「轟天号」という名前を付けているのもお約束だ。 『スピー、スピー…』 暴れ疲れたせいなのか、それとも腹がふくれたせいなのか、 メカ実装はダンボール箱の中で寝ているらしい。 メカ実装が外に出たがって本気で暴れたらダンボール箱など壊されてしまうので、 その時はネムリスプレーを使うつもりだったが、余計な心配だったか。 『スピー、スピー…』 花壇の向こうに噴水広場が見えてきた。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「来たわね、ひであき君!」 噴水の近くのベンチの上に立って ふぬびしぃっ!! という効果音が聞こえてきそうな勢いで僕を指さすトシ子先輩。 …いや、ベンチの上に立っちゃダメでしょ。 なんか悪役っぽいメイクしてるし、 服も黒でまとめているし、 なんかいつものトシ子先輩と雰囲気が違うなぁ…。 「あの、トシ子先輩、今日はいったい…」 「んふふー、あのねー、今日はねー…」 ピョンとベンチから飛び降りると、 僕の腕に抱きついて下から僕の顔を見上げるトシ子先輩。 うっ…先輩、悪役っぽいメイクでもやっぱり可愛いです… 「ひであき君に協力してあげようと思ってぇー、 あたしもカイジュウを連れて来たんだぁー。」 「カイジュウ…ですか?」 「うん、カイジュウ。」 『デスデス』 「ひであき君のカイジュウがちょっと強くなり過ぎて、 普通の実装石と戦っても面白くないでしょ? だからぁ、あたしもカイジュウを連れて来たのぉー。」 「そ、そうだったんですか。」 『デスデス』 「やっぱり虐待の師匠としては、弟子の面倒を見てあげないとねー。」 『デスデス』 さっきから足元でデスデス言ってるけど、 コイツがトシ子先輩の用意したカイジュウ実装石なのか…? 「あ、練習台!?」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— いつの間にか僕達の足元にやって来ていて、 『デスデス』と言いながらゴキゲンな様子で煮干しをかじっているのは、 トシ子先輩に教わりながら実装石の改造手術の練習をした時の練習台だった。 「お、ちゃんと憶えていたのね。偉い、偉い。」 「コイツが先輩のカイジュウですか?」 「そ。ひであき君の練習台にして 私のオリジナル改造手術”M.(ミンチ)O.(大盛り)オペレーション”で 肉体強化した実装石第6号、”The X-06”よ。」 「ジックス・ゼロ・ジックス…ですか?」 「ジ・エックス・ゼロ・シックス!!」 僕のちょっとお下劣なボケにムキになって突っ込んでくれたトシ子先輩。 なんだか距離がちょっと近づいたような気がして嬉しいかも。 「…というわけで、ひであき君のカイジュウと私のカイジュウを戦わせて 動画を撮影しましょ。 さ、ひであき君のカイジュウを出して。」 「はい。」 自転車の荷台からダンボールを降ろし、 フタを開けると、 『スピー、スピー…』 まだ寝てたのかよっ!? —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 呑気に寝ていたメカ実装をデコピンで無理矢理起こして、 地面に立たせる。 『デスゥ…?』 「出番だぞ、メカ実装。 あの実装石をプチ頃してきなさい。」 指さす先にいるのは練習台ことThe X-06。 体の大きさは平均的な成体実装だが、 脚が異様に太くて長い。 ミンチを盛って筋肉を増量する手術を 僕はコイツの両脚で練習したのだ。 『デスデスゥ…』 まだ寝ぼけているのか いまいちテンションが上がらないメカ実装。 一方トシ子先輩は 「いい、The X-06? あのギンギラギンの特別な服は 特別なあなたにこそ相応しいわ。 ぶっ殺して奪い取ってきなさい。」 The X-06に煮干しを手渡しながら 戦う動機付けをしている。 『デスッ!』 根拠の無い単純な褒め言葉にあっさりと乗せられて やる気満々のThe X-06。 あの太くて長い脚は 筋肉の量から言っても偽石の数から言っても メカ実装以上の脚力がある筈だ。 強敵ではないと思うが油断はできない… そんな相手だ。 「よし、行け!」 『デスゥー…』 「やぁーっておしまい!」 『デス、デス、デッス!』 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 先手を取ったのはThe X-06だった。 メカ実装の全速力と同じか、 あるいはそれ以上のスピードで助走すると、 『デスッ!』 メカ実装の胸に飛び蹴りを命中させる。 『デデッ!』 装甲板のおかげでたいしたダメージは無さそうだが、 バランスを崩して倒れそうになるメカ実装。 『デスゥー!』 尻尾で体のバランスを取りながら、 右手のパンチを繰り出すが、 『デプ、デププ…』 楽々とメカ実装のパンチを避けて 素早く距離をとるThe X-06。 このスピード…怪獣映画で言うと エメ〇ッヒ版のゴ〇ラみたいだ。 『デププ、デプププ…』 完全にメカ実装を見下した態度で助走をつけて、 もう一度攻撃を仕掛けるThe X-06。 『デスゥー!』 The X-06が飛び上がってキックの態勢になった瞬間、 体を半回転させて尻尾で迎え撃つメカ実装。 『デビャッ!』 カウンター気味にヒット! 数メートル先のベンチまでふっ飛ばされたThe X-06は、 ベンチの鉄製の脚に頭から突っ込んで、 上半身が原型を留めないほどグシャグシャに潰れてしまった。 『デェースゥー!』 メカ実装が勝利の雄たけびをあげた。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「やっぱり、魚ばっかり食ってるような奴はダメだな。」 先輩、もしかしてそのセリフのために 実装石に煮干しを食わせてたんですか? 悪役風のメイクもそのためですか? 黒い服の上に黒いサマーコートを羽織っているのもそのためですか? 「まあ、いいわ。 次のカイジュウ行くわよ! いでよ、The X-01!!」 トシ子先輩はサマーコートのポケットから小さなスコップを取り出し、 花壇の土を掘り始める。 …いや、花壇を掘っちゃダメでしょ。 『テースー…』 土の中から出て来たのはメカ実装の半分くらいの大きさの中実装。 『テースー…』 なんだかズングリムックリした体形。 赤茶色っぽい肌の色。 ちょっと大きめのパタパタ動く耳。 短いが太くて力が強そうな手足。 そして地中から登場… もしかしてコイツって婆〇護吽ですか? 「私のオリジナル改造手術”M.(ミンチ)O.(大盛り)オペレーション”で 肉体強化した実装石第1号、”The X-01”よ!」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「ジックス・ゼロ・ワン…ですか?」 「ジ・エックス・ゼロ・ワンッ!! …って、そのボケはもうええっちゅーねんっ!!」 『『『『『デス、デス、デス…』』』』』 二匹のカイジュウ実装の戦いを植え込みやごみ箱の陰から見ていた野良の実装石どもが こわごわと出て来てThe X-06の死体にたかり始める。 まるで飴玉にたかる蟻のようだ。 「コイツは仔実装の頃に拾ったんだけど、 たまたま拾った日に冷蔵庫の中に賞味期限が切れた 牛豚合い挽き肉があったのよねぇ…」 「じゃあ、コイツは実装石のミンチじゃなく牛豚合い挽き肉で 筋肉増量手術をしたんですか?」 「正確に言えば実装石のミンチと牛豚合い挽き肉を混ぜた物だけどね。 実装石の贅肉同然の筋肉だけで作ったミンチと違って、 牛や豚の筋肉を使用してるから、 そんじょそこらの成体実装よりもずっと力は強いわよ。 打たれ強さもね。」 これはまた予想外な強敵が出てきたもんだ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『テースー!』 突進するThe X-01。 The X-06ほどではないが、 やはり普通の実装石よりもかなり速い。 『デースー!』 真正面から受け止めるメカ実装。 『テッ!』 『デッ!』 ズッ、ズズッ… メカ実装が押し負けている。 自分より極端に身長が低い相手には踏ん張りが効かないというが、 その分を差し引いたとしてもすごいパワーだ。 しかもコイツ、筋肉を増量しただけで偽石の移植は受けていないらしい。 『デェスゥー!』 強引にThe X-01を投げとばすメカ実装。 『テスー!』 すぐに立ち上がって再び突進するThe X-01。 『デスー!』 タイミングを合わせて尻尾で迎撃するメカ実装。 クリーンヒット! …だが弾き飛ばされたThe X-01はすぐに立ち上がる。 『テッ、テスッ、テスーッ!』 普通の実装石なら一撃で致命傷になるメカ実装最大の必殺技、 尻尾攻撃を耐えるとは、 確かに尋常でない打たれ強さだ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デス?デスゥ?デッスゥ?』 The X-01を見て、自分の尻尾を見て、僕の顔を見るメカ実装。 今まで対戦相手を一撃で葬ってきた必殺技に耐える相手が現れたことが 信じられないのだろう。 『テスッ!テスッ!』 それでもダメージはゼロではなかったようで 尻尾攻撃を用心したのだろう、 The X-01は今度は少し距離をとって メカ実装の隙をうかがっては死角からパンチやキックを放つ ヒット&アウェイに戦法を変えてきた。 コイツ、戦い慣れしてる!? しかもかなり頭がいいみたいだ。 『デェースゥーッ!』 プラスチック製の装甲板に全身を覆われているので メカ実装のダメージはほとんど無さそうだが、 The X-01は体格差を利用してパンチや尻尾攻撃をかいくぐって パンチ、キック、タックルを決めてくる。 『デスッ!デスッ!デスッ!』 決してスピードで負けているわけではないのに、 自分の攻撃は全てかわされて The X-01の攻撃ばかりが当たることにイラついているのか、 攻撃が大振りになっているメカ実装。 そのせいで余計に攻撃が当たらないという 悪循環に陥っている。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— そういえばメカ実装のパンチやキックのスピードが なんだか遅くなってきたような? このままでは敵の攻撃によるダメージではなく スタミナ切れで自滅する可能性の方が大きいかも。 『テッス!テッス!テッス!』 ここで何か作戦があるのか、 The X-01は近くにあったベンチに登り始めた。 『デスゥーッ!』 The X-01を追ってメカ実装もベンチへと向かう。 『テェースゥーッ!』 しかし一足早くベンチの座面に上がったX-01は メカ実装と睨み合って一声吠えると ほぼ同じ高さになったメカ実装の顔に向かって飛びかかった。 『デェースゥーッ!』 頭を下げるように体を回転させるメカ実装。 空中で軌道が変えられないThe X-01を高く上がった尻尾が捉えた。 『プギャッ!』 叩き落されたThe X-01はベンチの鉄製の脚に頭を打ち付け、 大きくバウンドして地面に転がる。 『テ…スゥ…』 これでまだ生きてるとは驚きだが、 さすがにダメージで体が痺れて動けないみたいだ。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デスッ!デスッ!デスッ!』 うつ伏せに倒れているThe X-01に近づき 背中を何度も踏みつけるメカ実装。 「あー、はいはい、 勝負はついたから、もうやめようねー。」 後ろからメカ実装を抱き上げて 両者を分ける。 『キュウ〜…』 普通の実装石なら4〜5回は死んでるくらいの大ダメージを受けている筈なのに、 The X-01は気を失っているだけで骨折どころか出血さえもしていない。 装甲板の防御力が無ければ負けていたのは間違いなくメカ実装の方だろう。 恐るべし牛豚合い挽き肉! 「う〜ん、The X-01にも勝つとは、 なかなかやるわね。」 「いえ、最後の尻尾攻撃でX-01が偶然ベンチの脚に頭をぶつけなければ こっちが負けていたところでした。 本当にすごいパワーと打たれ強さですね。」 「オーストラリア牛とカナダ豚の合い挽き肉だからね。 脂肪の多いコウ〇ビーフやトウキョウ〇ックスとはワケがちがうわよ。」 いや先輩、自慢するポイントはそこですか? てか、高級ブランド肉をライバル視してますかっ? —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「それにしても尻尾攻撃って、そのまんまの名前ねえ。 もっとカッコイイ名前付けたらどうなの? 必殺技なんでしょ?」 「そう言えばそうですね。 じゃあ…テール・アタック…とか。」 「それもそのまんまじゃない。 スピニング・ファイナル・アタックとか スパイラル・テール・インパクトとか アルティメット・ホイップ・インフェルノとか アブソリュート・デス・トルネードとか もっとあるでしょ、厨二病っぽい名前が。」 いや先輩、厨二病って… それ褒め言葉じゃないし。 「えーと、それじゃあ、 スパイラル・テール・インパクトの方向で、 どうかひとつ。」 「スパイラル・テール・インパクト…って 私が適当に言った名前のままじゃない。 まあいいわ、最後のカイジュウとの勝負、 行くわよ!」 「ちょ、ちょっと待ってください、トシ子先輩。 ウチのメカ実装は連戦してるんで、少し休憩させてくださいよ。」 後ろから抱き上げたままのメカ実装は 地面に降りたがってイゴイゴと暴れているが、 その動きからかなりバテているのがわかる。 「うーん、そうねえ。 次のカイジュウは私の自信作だし、 疲れてる相手と戦うのもフェアじゃないわよねえ。」 「ありがとうございます。」 メカ実装を地面に降ろして座らせ、 ポケットからカリカリの実装フードを取り出す。 緑色でいびつな球形の固いドッグフードみたいな外見で、 栄養はあるが味は悪いという安物だ。 「ちょっと待って。 これ、私からのご褒美よ。」 トシ子先輩が差し出したのは、 骨の形を模した甘い香りのする薄いピンク色の クッキーみたいなものだった。 「これは… 実装フード…ですか?」 「うん、ご褒美用のちょっと高いやつ。 味もいいし活性剤が入っているから疲労回復もバッチリよ。 通称メ〇の元。」 「メカ〇元…ですか?」 「うん、メカの〇。」 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デッス!デッス!デッス!』 ご褒美用のフードが効いたのか、 思ったよりもかなり早く回復したメカ実装は シャドーボクシングみたいにパンチやキックを繰り出して、 やる気満々だ。 僕が改造してからというもの連戦連勝で1度も負けたことがないんだから、 それも当然か。 「ひであき君のカイジュウって おもしろ〜い!」 なぜかトシ子先輩はメカ実装のシャドーボクシング(?)がツボにはまったようで、 手を叩いて笑っている。 『デッスゥ?デッスデッス?』 自分が褒められていると思ったのか、 今度はボディビルのサイドチェストみたいなポーズを決めてみせるメカ実装。 「あ〜、もうダメ〜! 腹筋が崩壊しそう〜!」 トシ子先輩は笑い過ぎて目に涙を浮かべている。 さらに調子に乗ってボディビルのダブルバイセップスみたいなポーズを決めるメカ実装。 美味しいフードをくれたトシ子先輩になついてしまったみたいだ。 なんかいいなあ、こんな雰囲気。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「さて、それじゃあ最後の戦いを始めるわよ。」 「お願いします。」 『デッスゥ。』 僕が頭を下げると真似をしてメカ実装も頭を下げる。 笑うのを一所懸命我慢しているトシ子先輩の顔がヒクッとひきつる。 「い、いでよ最強のカイジュウ、The X-08!!」 『『『『デッスー!』』』』 植栽のサツキの陰から現れたのはキング〇ドラ… いや、マラが3本も生えた異形のマラ実装だった。 『『『『デス、デス、デス!』』』』 よく見るとマラの亀頭にも目と口が付いている。 これは、いったい…!? 「説明しよう! このマラ実装は私のM.O.オペレーションによって 3匹の実装石を3本のマラに作り変え、 普通の実装石の股間に移植したものなのだ。」 説明ありがとうございます。 てか先輩、アンタ富〇敬ですか。 「マラ実装は通常の実装石の数倍の力があるというけど、 この子はさらにその3倍のパワーがあるの。 ひであき君のカイジュウ程度では絶対に勝てないわよ。」 「こいつは…確かに強敵ですね。 しかしメカ〇ジラVSキン〇ギドラなんて、 ある意味特撮ファン垂涎のドリームマッチだし、 戦う前に棄権なんて、絶対にできませんよ!」 『デッスゥ!』 ん、メカ実装もやる気みたいだ。 「その意気や良し! 行け、The X-08! お前の力を見せつけてやれ! 力こそぉー!パワーだぁー!」 『『『『デースー!』』』』 先輩、今度は若〇規夫ですか。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『デスー!』 『『『『デスー!』』』』 正面からぶつかり合う異形の実装石と異形の実装石。 しかしメカ実装はあっさりとはじき飛ばされてしまう。 本当にバケモノみたいなパワーだな、こいつ。 『デスー!』 それでも元気に起き上がり、もう1度突進するメカ実装。 やはり装甲板の防御力でダメージは少ないみたいだが… 『『『『デスデスー!』』』』 『デェーーースゥーーー!』 またしてもあっさりとはじき飛ばされてしまう。 このままではメカ実装に勝ち目は無いな。 「いいわよ、The X-08! そのままやっつけちゃえ! あ、ちなみに3本のマラには右から順に のぞみ、かなえ、たまえって名前を付けたのよ。」 のぞみ、かなえ、たまえってキングギ〇ラじゃなく、 平成版モス〇に出てくるデスギ〇ラじゃないですか! 操演の際に首を間違えないようスタッフが3本の首につけた愛称… これはまた、マニアックなネタを… いやいや、感心している場合じゃない。 メカ実装に作戦を指示しなくては本当に負けてしまう。 「体当たりはやめるんだ! 距離をとってパンチを使え! 腕に装備したステンレスの串を刺して攻撃するんだ!」 『デッスゥー!』 「ステンレスの串なんて、そのまんまな名前ねえ。 せめてオーバーエレメント・デュアル・ブレードとか ダブル・オーバードライブ・スティンガーとか インフィニット・ジャスティス・セイバーとか ファイナル・ツイン・ランサーとか もっと厨二病っぽい名前にすればいいのに。」 「はあ、すみません。 名前までは考えていなかったもので…。」 『デッ!スッ!デッ!スッ!』 『『『『デッ、デゲッ!デゲァー!!』』』』 僕とトシ子先輩がステンレスの串の名前について話している間に、 メカ実装は左右のパンチで3本のマラをザクザクと刺している。 男としては見ているだけで痛い気がする光景だが、 ちょっと血が出るだけで、 見る見る傷口が塞がっていく。 こっ、これはっ!? 偽石を活性剤に漬け込んでいるのか? それとも大量の偽石を移植したのか? —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 『『『『デッ、デェーン!デェーン!』』』』 これはもう負けたかと覚悟した時、 急にThe X-08は泣いて逃げ出した。 『『『『デェーン!デェエーーン!』』』』 「んもう、しょうがないわね。 肉体は無敵のはずなのに弱虫なんだから。」 広場の向こう側へと走り去るThe X-08を 追いかけもせずあきれたように見送るトシ子先輩。 そうか、いくら力が強くても再生力が強くても 根性が無いから痛みには弱い。 実装石っていうのはそういう生き物なんだ。 『デッスー!』 苦しい戦いに勝利したメカ実装は ガッツポーズを決めている。 「トシ子先輩、The X-08が逃げちゃったけど、どうしますか? あんな化け物を公園に野放しにしておくと色々と問題になりそうですが…」 「敵前逃亡するようなやつは”こう”よ。 ポチッとな。」 トシ子先輩が手の中のスイッチを押すと遠くの方から ボムッ という音がしてドクロ形の煙が舞い上がる。 「トシ子先輩、今のはもしかして…」 「うん、自爆装置よ。 脱出装置と自爆装置と加速装置は男のロマンなんでしょ?」 そう、そうなんですよ先輩。 いやぁー、さすが男心をよく分かっていらっしゃる。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 「それにしても、私のカイジュウ達が全敗するとは思わなかったわ。 やるわね、ひであき君。」 「いやあ、マグレみたいなもんですよ。 肉体的なスペックは先輩の改造した実装石の方が上だったし、 っていうか、武器や防具を装備してなきゃ確実に負けてました。」 『デスデッスー♪デスデッスー♪』 勝ってうかれたメカ実装は手を上げたり下げたりして 盆踊りみたいな阿波踊りみたいな 不思議な踊りを踊っている。 見ているとなんだかMPを吸い取られそうだ。 「それじゃあ、ひであき君のカイジュウに ご褒美をあげなくちゃね。」 意味あり気にニヤリと笑うとトシ子先輩は コートを脱いで裏返してからもう一度羽織り直した。 あー…リバーシブルだったのね。 そして白いコートの胸ポケットから黒いアイパッチを取り出すと 右目に装着した。 先輩、コレはもしかして… 『デスゥ?』 不思議そうに首をかしげるメカ実装の前に 長さ40cmくらいの透明なカプセルを差し出すトシ子先輩。 その中心には直径10cmくらいの銀色の球体が入っている。 あー、コレはやっぱり… っていうか、こんな大きなもん、どこから取り出したんですか? 「さ、ご褒美よ。」 『デス、デッスゥ。』 ペコリと頭を下げて両手で行儀よく受け取るメカ実装。 「特大の特別なコンペイトウよ。 なめると楽園…ううん、天国にいるような気分になれるわ。」 『デッスゥ?』 言葉の裏の意味がよくわかっていないのか、 素直に透明なカプセルをペロリとなめるメカ実装。 すると… 『デエエエエェェェェ!!!グエエエエェェェェェ!!!!!』 急に地面に倒れて苦しそうにのたうち回るメカ実装。 口からは泡を吹いている。 …いや、肉体が崩壊して溶け、泡になっているのだ。 「先輩、これはいったい!?」 「市販の強力実装コロリと実装ドロリを特殊な配合比で混ぜて作った オキシジェン・デスゥ・トロイヤーよ。 すべての実装を溶かして消滅させてしまう悪魔の発明よ。」 ああ、やっぱりアレでしたか。 ところで先輩、そこ伏字にしなくて大丈夫なんですか? あまりにもアレに似過ぎている名前なんですけど。 『デゲァー…!』 見る見る全身の皮膚が溶け、肉が溶け、骨がむき出しになるメカ実装。 そして骨さえも溶けてゆく。 『デッ、デスゥー…』 助けを求めているのだろう、 両目から本気涙を流しながら僕に向かって腕を伸ばそうとするが、 すでに半分以上溶けた腕は装甲板やステン串の重さを支えるだけの強度は無く、 メカ実装の腕が中ほどから折れて落ちる。 『デスゥー…、デ…スゥー…』 ほんの数秒前まで有頂天で浮かれていたメカ実装が 苦しみながら消滅しようとしていた。 「実装石のくせに人間に恋したり結婚を夢見たり、 そんな糞蟲はお仕置きが必要よね!」 「恋とか結婚とか、コイツはそんなこと言ってたんですか?」 『デェ…ェ……』 「ひであき君が知ったら動画を撮影する前に殺しちゃうかもしれないから 今まで内緒にしてたけど、ね。」 そうか、音声リンガルじゃなく文字表示のリンガルで、 僕に内容を秘密にしていたのは、そういうことだったのか。 「先輩、このたびは危ないところを助けていただき、 ありがとうございました。」 「ほーんと、あまり実装石に優しくしちゃダメよ。 こいつらすぐに付け上がるんだから。」 「しかし、公園には今も大量の実装石が生息しています。 あれが最後の一匹だとは思えません。」 既にメカ実装は完全に溶けきってしまい、 装甲板のアルミホイルとステンレスの串だけが夕日を浴びて光っていた。 —*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*— 【完】 —*—*—*—*—*—*—*—* あとがき *—*—*—*—*—*—*—*—*—*— どうも、みなさんお久しぶりです。 デスゥ・ノートの作者です。 本作を書き始めたときはあんなに暑かったのに、 完成した今はもうすっかり寒くなってしまいました。 え?書くのが遅い? おっしゃる通りです、どーもすみません。 今回は徹底的に東宝の怪獣映画のパロディ仕立てにして、 その他アニメや特撮の小ネタをトッピングしてみました。 それにしても前作「48匹目の実装石」を書いた頃はまだ 「ヘタレ」とか「ブサイク」とか言われていたさっしーが 前人未踏の総選挙2連覇&通算3回優勝という大記録を打ち立てるなんて 時の流れるのは早いものですなぁ。 スク投稿リスト ・マラ実装エステの時代 ・デスゥ・ノート① ・デスゥ・ノート② ・デスゥ・ノート③【完】 ・48匹目の実装石 ・本作

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/19-23:26:28 No:00002902[申告] |
| 元ネタありの創作はパロってこそだけど
それにしても積み込みまくりですげえ |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/11/20-00:41:31 No:00002903[申告] |
| 楽しく遊んだ後はきっちり処理する
いい虐待を見た |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/11/20-03:12:44 No:00002906[申告] |
| うーん、なつかしの作者さんが帰ってきてくれて本当に嬉しい
荒れてるときにこうやっていくつもの作品が投稿されるというのは 豚肉炒めと豚汁で豚がダブってしまったときのナスのおしんこのように すっごく爽やかな存在だ そして内容もすっごく爽やかwww メカ実装がなんで泣いたり笑ってたりしたのかがちょっと分かりにくかったから 具体的になんて言ってたのか、先輩だけがリンガルで見た内容は 最後には読者にも見せてほしかったかも |
| 4 Re: Name:匿名石 2016/11/20-03:18:17 No:00002907[申告] |
| 先輩の言葉でだいたいの想像がつくけど見たいかって言われると俺は微妙だな
ジックス系、嫁系のキモいやつだろうし |
| 5 Re: Name:匿名石 2016/11/22-19:13:59 No:00002936[申告] |
| シン・ゴジラの監督は庵野秀明
庵野秀明といえばエヴァンゲリオン それっぽい謎を散りばめておきながら最後まで詳しい謎解きをしないで終わってしまったことで賛否両論だった有名なアニメです このスクのタイトルが「シン・実装石」で主人公の名前が「ひであき」ということは メカ実装が本当に飼いだったのかとか 先輩のリンガルにはどんな言葉が表示されていたのかを伏せてあるのは 意図的に作風を庵野秀明に似せているのでは? |