『 流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう② 〜条件付けは重要〜 』 男は布団に潜りながらスマホをいじっていた。 ずいぶん前に、実装用品なるものが存在していたと朧気に思い出したからだ。 しかし、いくら検索をかけても商品を取り扱っている場所は見当たらない。 やっとリンクを見つけたかと思えば、リンク先は404NotFoundと表示される。 「まあ、犬の躾とそう変わらないだろうし、このままやっていくしかないか。 餌については、こんな小さいとドッグフードは硬すぎて食べれないだろうし、しばらくは離乳食かー…。 慣れてくるまでは、俺も家では味の薄いものしか食べれそうにないなぁ。 こいつに“待て”ができるようになるの、どのくらいかかるだろうなー…。」 チィー…チィー… ベッド下のティッシュ箱の中で、安らかな寝息を立てて丸まっている仔実装の頬をつつきながら男は苦笑いする。 改めて仔実装を観察すると、薄汚れた頭巾、ほつれた前掛け、恐らく母の遺品だろう仔実装には少し大きめの緑色のボロ切れを不器用に体へ巻き付けた姿。 到底、野外で平穏無事な生活が送れていたとは思えぬ仔の容貌に、憐れみを感じないでもない。できる限りの愛情を注いでやりたいとも思った。 だが男の脳裏に、仔犬を買ってた少年時代の苦い思い出がよぎる。 可愛いからと、ただただ仔犬を可愛がっただけの少年に対して、成長した犬が与えた評価は“自身より格下”というあまりにも悲しい序列だ。 男は、嫌な思い出を振り払うかのように頭を振る。 寝る前に念のため新たに用意した希釈酢入りの霧吹きと、電源を落としたスマホを枕元に置きながら、部屋の明かりを消すと仔に背を向けるように寝返った。 男が、夜の微睡にしばらく体を任せていると、後ろの方から小さな物音が聞こえる。 ガサゴソ と何かを探すような物音、シュルリ とシーツが床にずり落ちる音、テチテチ という掛け声と共にシーツが引っ張られる感覚。 そしてコテンっと何かが転がる音が聞こえた。 (なんだろう、ネズミでも出たのだろうか。 まずいなぁ、寝ている間に仔が齧られでもしたら破傷風にでもなるんじゃないか。 箱じゃなくてケージとか買った方が安全かなぁ。犬用のケージだと大きすぎるし、あの大きさならハムスター用の籠かなんかで代用すればいいかな? あれ、でもそういえば今の部屋に越してからは、ゴキブリすら見たことないんだが…。 はて??) テェェェェンッ!!! テェェェーーーンッ!!! 男が面倒くさげに思案していると小さな物音が突然の絶叫に変わる。 「って、なんだなんだ!?」 男は大きな鳴き声に驚いて飛び起きる。 寝起きで霞む視界を手で拭いながら、部屋の明かりを点けて異音の発信源を探る。 テェーン、テェーン! 栄養と休息を取ったからなのか、ずいぶんと血色の良くなった仔実装が、 床にずれ落ちたシーツの裾と、親の形見の緑のボロ切れを胸元まで手繰り寄せて仰向けに倒れて鳴いていた。 大方、夜中に目が覚めて男の姿が見えず不安になって探し回っていたのだろう。 「なんだ、お前か。 シーツがずり落ちてるとこみると、シーツを登って俺に近づこうとしたけど失敗して泣いてるってとこかね。」 男は自分を探し求めようとしている仔の行動に信頼を得られているのかなとにやけつつ、 仔を安心させてやろうと、ベッドの上で寝転んだまま、仰向けになっている仔の眼前に右手の人差し指を突き出した。 チぃっ! テッチューン! 目の前に現れた男の指先に、仔は喜びの鳴き声を上げて抱き着く。 しばらくの間、指に頬擦りをしつつ、仔は男をジーっと見つめて一声鳴いた。 テチぃー (ははーん、さては自分も俺のベッドで寝かせろってところか。 ホント犬と一緒だなぁ。だが俺との上下関係を徹底させるまでは絶対にベッドでは寝かせん。絶対にだ。) 「俺はここにいるから安心して自分の寝床で寝なさい。」 男を見つめる仔に優しく語りかけながら、仔実装のために用意したタオルを敷き詰めたティッシュ箱を左手で指さす。 テー… テチー 仔は男の人差し指に頬を摺り寄せつつ、男と、男の指さす方向を交互に見るが、頑なに動こうとはしない。 力なく鳴き声を上げながら、すがるように男を見上げ続けた。 だが男も折れず、仔を見つめ続ける。 笑顔のままでは仔が動かないと判断すると、男は能面のような無表情を作り、 「 ハ ウ ス 」 と淡々と抑揚のない、はっきりとした発音で、再度ティッシュ箱を指さした。 男の今までと違う表情に戸惑いながらも、仔実装は必死になって 常に共に居たいのだと表現するかのように、男の人差し指を丁寧に舐め回して毛づくろいした後 右前脚を右頬に軽くつけて、小首をかしげるポーズをとった。 テッチューン! 無論、男には、これが媚やお愛想と言われる実装石が庇護者へ依存するための習性であるという認識はない。 (恐らく犬の尾振りと同じ感情表現のうちの一つなんだろうが、内容を正しく読めないんじゃ迂闊な返答ができない。 どちらにせよ、要求を飲んだら、相手が自分に屈服したっていう誤学習につながってしまう。それだけは避けたい。) 男は、お愛想のため指を手放した仔が、再度すがることがないように指を引っ込めて 「 ハ ウ ス 」 と改めて、箱を指さしながら淡々と告げた姿勢のまま固まる。 テッチューン!テッチューン! テッチューン? テー… テチュン、テチュン… チュぅー、ちゅん、ちゅん… お愛想を続ける仔に男は一切反応せず、ハウスと命じた姿勢のまま固まっている。 男の無反応に対し、最初はお愛想の合間に反応を伺っていた仔も、次第に無視されていると感じたのか、涙を零しすすり泣きながら箱にポテポテと戻り始める。 テチュー… チュぅー… すすり泣きながらも、仔はティッシュ箱の側面に手をかけて、ジタバタとよじ登り、ころんっと箱の中に滑り落ちた。 男は仔が箱に戻ったタイミングを見守り、間髪入れずに、仔に駆け寄って頭を撫でた。 「よぉぉぉぉしよしよしよしよしよしっ!」 某動物王国の長老張りに満面の笑みで、優しく少々大げさに褒めながら、仔が自ら箱に戻ったことを褒めまくる。 テ、テェ? テッチューン!! 仔は因果関係がまだわかっていないのだろうが、先ほどと違い無視されず、 優しい声をかけられ撫でられている事に、有頂天になり喜びの鳴き声を上げて目を細める。 チュアーン! ぺろぺろぺろっ 仔は、差し伸べられた手を二度と離すものかと全身でしがみついて毛づくろいするようになめ続ける。 「ふふ、くすぐったいっての。ん? あー、やべ、そういやトイレ設置してなかったな。 糞する前に、気付いてよかった…。取り敢えず、小皿にティッシュ詰めて箱の隅に置いておこう。」 男は言うが早いか、戸棚から小皿を取ってこようとするが、仔が指からしがみついて離れないので、 しがみついた仔を優しく手のひらで包みながら戸棚に移動して、片手で器用に小皿を取りだすと、ベッドまで戻る。 そのまま箱の隅に小皿をおいてティッシュを敷き、簡易トイレを完成させた。 「ついでだし、このまま寝る前に、トイレさせておくかー。 ほら、お前、ここがトイレだ。 ト イ レ 」 男が小皿の上に仔を載せる。 てちぃ? 仔は小首を傾げながら男を見上げる。 「 ト イ レ しー しー 」 男は構わず、仔が体に巻き付けているボロ切れをたくし上げて、排泄の声かけをしながら腹部をぷにぷにとマッサージし始めた。 テッ!? テッチュー! てちゅぅぅんっ! ぷりぷりぷりぷりぷりぷりぃーーっ!!! 排泄音と共に体躯からは想像もできない量の糞が排出された。 その膨大な量と臭いに、男は一瞬顔をしかめつつも、タイミングを逃さないために、顔を背ける事も鼻をつまむ事も我慢しながら仔の頭を撫でた。 「よぉぉぉしよしよし!」 もちろん優しい声で大げさに褒めながらだ。 テチュゥゥー! 排泄の快感と相まっているのか、頭を撫でられながら、仔は涎を垂らしながら喜んでいる。 (んー、かなり軟便だなぁ。尻拭かないとかぶれるな、これ。 ちと早いが尻拭きのプロンプトもやっとくか) 「 お し り ふ き ふ き 」 男は仔の前肢にティッシュを持たせ、その肢に指を添える形で、仔自身が尻を拭く動作を覚えるように介助した。 テェ! テチャア! 急に総排泄口に刺激を受けたためか、仔は驚きの声を上げつつも、尻に手を当てて、汚れが拭いとれた事を理解したのか 万歳のポーズを取っている。 男は、もちろん優しく褒めながら仔の頭を撫でる。 仔もスッキリしたのか満面の笑みでテチテチと鳴いている。 立て続けに褒められたのが、よほど嬉しかったのか、仔は小さな前肢を上下に振り、腰を左右に振りながら 体に巻き付けたボロ切れがずり下がるのも気にせずに箱の中で小躍りを始めた。 テッチュンテッチュン! テッチュンテッチュン! 男はその隙に小皿の糞をスーパーの袋に詰めてしっかりと口を縛って封をする。 これで取り敢えず臭いはマシになった。 (うん、くせぇ。なんだろう、腹を下した時の下痢便のような…すえた臭いだったわ。 これ、トイレットトレーニング早めに習得させないと大惨事になるな。間違いない。) 小皿に新しいティッシュを敷いた後、男は糞を入れた袋をゴミ箱へ捨てるためベッドから離れる。 テッチュンテッチュン! テッチュンテッチュン! ベッドに戻ってくると、仔実装はまだ箱の中でLet's Danceしていたようだ。 男はベッドに寝転び頬杖を付きながら、その姿を見て、躾がうまくいけば、何か芸を仕込ませるのも楽しいだろうなと考える。 「今日は、疲れたな…。」 そう呟きながら男の意識は途切れた。 ガサゴソ、ころんっ、ポテっポテっ、テチテチ うろうろ、キョロキョロ テチュー、ちゅー… ・・・ ・・・・・・ テェェェェンッ!!! テェェェーーーンッ!!! ヂィィィィーーーーー!!! 大きな鳴き声に、櫂を漕いでいた男はハッと目覚めて辺りを見渡す。 案の定、箱から出た仔が床の上で、仰向けになりながら、ボロ切れを胸元に手繰り寄せてジタバタしていた。 (まあ、一回で理解できるわけないよな…) 「 ハ ウ ス 」 男は内心独り言ちながら、再度、箱を指さす姿勢を保ち、能面の表情で淡々と告げた。 テッッチィィィーーー!!? 意味が分からない!とばかりに仔の口がいつも以上に開き、自然と叫び声が上がった。 仔にとって男は、餌をくれて、トイレを手伝ってくれて、理由はよくわからないけど頭も撫でてくれる、まるで親のような存在だ。 そんな優しい庇護者の傍で眠りたい。 先ほどは、きっと男へのお愛想が足りなかったのだ。だから次はとっておきの心を込めた感謝の踊りを捧げた。 それなのに、自分を見下ろして寝るとは思ってもいなかった。どういうことだろう? 試しに泣き叫んでみよう、親を呼ぶように鳴いてみよう。 だが、返ってきたのは、先ほど同様の良く分からない言葉と抑揚のない返事。 テー、テチぃー… テチュン…テチュン… 仔は、えぐえぐと涙を零しながら、ティッシュ箱にとぼとぼと戻り、ころんっと箱の中に滑り落ちる。 無論、男は仔が箱に戻ったタイミンで間髪入れずに頭を撫でる。 「よぉぉぉぉしよしよしよしよしよしっ!」 テッチュ〜〜〜〜ン!!! さてさて、仔実装がハウスを理解できるまで、あと何回? つづく {後書き} 一度の躾で指示が身につくなんて、普通のペットだと早々ないですよね。 だからこそ辛抱強く行動強化されるまで条件付けを繰り返し躾けていく覚悟が飼い主には求められるのじゃないかなと思います。 しかし、誤字脱字チェックのため読み返してみたら、普通に上げ落としですね、これ(笑) なんだやっぱり虐待じゃんwと思われないかビクついています(汗) 前回の後書きにも追記致しましたが、私の拙い作品を閲覧して頂き、また温かい応援やご指摘を頂き、本当にありがとうございます。 読んでくださった方からのコメント、とても励みになります。 今後もこのシリーズを続けたいと思いますので、今しばらく、私の戯れにお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

| 1 Re: Name:匿名石 2016/10/21-00:33:55 No:00002597[申告] |
| >なんだやっぱり虐待じゃん
いや、ヌルい ヌルすぎるよ 逆に虐待スク読む前のストレス溜めに丁度いいぐらいだわ いいわーこの愛護スク やっぱりたまに愛護も読まないと殺意が薄れるよね |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/10/21-08:16:28 No:00002598[申告] |
| 飼い主が愛情を持ってやってることがわかるからね
ただし犬に対する過去のトラウマが気になる 悪気のない人間が勘違いで結果虐待に誓い扱いしちゃうって某氏の得意な展開だったなあ、と…… なにより虐待にせよ愛護にせよ実装石側を丁寧に描写している作品は何より面白い |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/10/21-10:44:34 No:00002599[申告] |
| 犬と同じように考えてることで
いつか破綻がくるんじゃないかとドキドキしながら読んでる ぜひ完結するよう頑張って欲しい それはそうと 甘えん坊ちゃんな実装ちゃんはマジかわいいザマス |
| 4 Re: Name:匿名石 2016/10/22-04:29:24 No:00002602[申告] |
| おまたふきふきって時点であ、こいつ…と思ったけど
今のところはまだそっち方向の勘違いはしてないってことでいいのかな… 今はまだ大丈夫でも早晩そっち方向もめんどくさくなりそうだな それにしても情報も大概404ってどこまで廃れてるんだ |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/06/24-21:51:56 No:00007342[申告] |
| なんか男がキモイ |