タイトル:【愛】 【躾】流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう① ~上下関係を築く~
ファイル:【躾】流行り廃りのその跡に.txt
作者:ジャケットの男 総投稿数:27 総ダウンロード数:1971 レス数:6
初投稿日時:2016/10/20-04:02:00修正日時:2016/10/20-19:56:37
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『 流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう① 〜上下関係を築く〜 』


秋風が身に染みる…。

夜勤明けで疲れ切った体を引き摺りながら舗装された道を歩く男は、身震いしながらジャケットを喉元までしっかりと閉じた。
カイロ代わりにとポケットに忍ばせている缶コーヒーの徐々に失われつつある熱も相まって、やけに侘しさが込み上げてくる。

「そういやこの辺に公園あったよな、ずいぶん前は変な動物がウジャウジャ繁殖してたから足が遠退いてたけど。
 最近はすっかり静かになったなぁ…。」

誰に言うでもなく、男は独り言ちした。
実装石の流行が去って幾年か経った今、あれだけ絶え間なく公園と近場のゴミ箱を行き来していた
実装石達の姿はどこにも見えず公園の入り口は閑散としていた。

男はポケットから辛うじて温かさを保っていた缶コーヒーを取り出して一気に飲み干しながら、
寂れた公園の中に置いてある自販機を目指した。



カンッ…カランッカラン…



男がクズ籠に無造作に投げ捨てた缶の音が虚しく公園に響く。
新たなカイロ代わりに温かい飲み物でも買おうかと男が自販機の前に立った時、幽かに弱々しい動物の鳴き声が聞こえた。


チィ…


「ん?」

男は周囲を見渡したが、視界に移る範囲に鳴き声の主は見つからない。
もしやと自販機の下を覗き込むと、懐かしい姿がそこにあった。


母親の遺品なのだろうか、ボロボロになった緑色の布切れを大事そうに抱きしめて
手のひらに収まる程度の体躯を更に縮めながら、薄汚れた頭巾と解れた前掛けだけを着ぐるんだ小さな仔実装が丸まって震えていた。

頬は苔ており顔色も良くない。栄養失調といった処か。
手足もやや紫になりチアノーゼを起こしている様子から察するに、低体温による血行不全から凍傷も起こしかけているのだろう。

放置しておけば、今日明日のうちに凍え死ぬ。

男は改めて周囲を見渡す。この仔以外の実装石の姿は一切見られない。
無論、男以外の人の姿も見られない。


男は思案した。今、男が手を差し伸べなければこの仔は確実に死ぬだろう。
親兄弟、他の実装石といったコミュニティによる救済はあり得なさそうだ。
ましてや寂れた公園に今日明日のうちに足を運ぶ人間なぞ、数えるほどもいないだろう。


「さて、どうしたものか…実装石なんて飼った事ないんだがなぁ…」


実装石が隆盛を極めていた頃ですら男は実装石に関心をもたなかった。
予備知識なぞ一切ない。
辛うじて、親が絶対的な存在、飼い主を直ぐに下に見る、何でも食う、糞を大量にするといった情報を聞きかじった程度だ。


「ん?序列をつけて行動するなら犬に近いのか?
 うーん、実家にいた頃、犬の躾に失敗して苦い思いしたんだよなぁ…。
 このまま死なれても寝覚めが悪いし、躾の再チャレンジと思って育ててみるか…。」


男は迷いに踏ん切りをつけ、自販機の下にいる仔実装を這いつくばりながら傷つけないように優しく手で包み込んで救い出す。


テ…チゥ…


人肌の温もりに安堵したのか、仔実装は小さく鳴くと温かい男の手を離すまいと、弱々しくも必死にしがみつき、すりついて暖を取ろうとまごついた。
くすぐったい感触に頬を緩めつつ、男は仔実装を優しく包んだ手をポケットに突っ込んで家路を急いだ。






間幕




チィー…チィー…


男が家に着いた頃には、人肌に温められ体温を取り戻した仔実装は小さな寝息を立てていた。
可愛らしさから撫でたい気持ちを押さえつつ、男はバスタオルを用意して、仔を丁寧に包みリビングの床に置く。


(早く汚れた体を洗ってやりたいところだが、この仔がどの程度の社会性を学んでいるか不明な以上、まずは俺との序列をハッキリさせておきたい。
 ってことは、まずは飯だな)


「何でも食うってことだったと思うが…。さて。
 かなり飢えているようだし、消化にいい物にするか。取り敢えず離乳食みたいなもん作るかな。」

男は手慣れた動作で、炊飯ジャーからよそった米と、溶き卵をたっぷりと水を張った鍋に投入し、
中火で煮込みながらペースト状にしていく。とろみがついたところで火を止めて塩をほんのひとつまみふりかけてざっくりと混ぜた。
その片手間にニンジンを丁寧に擦り下ろし、茹でたほうれん草をペースト状にする。


そのどれもが仔実装に与えるには量が多すぎる。人間の一回の食事量といった処だ。


「さて、後は、アレを一応作っておこうか。
 霧吹き、どこかに閉まってたはずなんだが。お、あったあった。」

男は霧吹きの中に少量の酢を垂らし、多めの水で希釈する。

調理を終えた男は、離乳食を盛り付けたワンプレートと霧吹きを持って仔実装を寝かしつけた居間に戻る。
運ばれてきた食事の優しい匂いにつられたのか、夢見心地だった仔実装がうっすらと目を開けた。
男は急いでプレートと霧吹きを後ろに隠して仔実装の前に屈みこむ。

…テ…チ?
テチィ…

仔実装は見慣れない景色と見知らぬ男の姿に驚きながら、よろよろと立ち上がり小さく耳をピクピクと動かす。
だが、柔らかなタオルの心地に安堵したのか小さな鳴き声を漏らすと座り込んだ。

仔実装が一息ついた処で、男は自身の右手をポケットでぬぐい
左手を後ろ手に霧吹きを持ちつつ、右手の指先を仔実装の鼻の前に差し出した。

…テェ…テチ…
テチュー

凍えていた自分を包んでくれた手と同じ匂いだと理解したのか、仔は指先に抱き着いて頬擦りをする。
その姿を見て、男は内心安堵しつつ、霧吹きを置いて、仔の頭を優しく撫でた。

テチューン…

仔は男が危害を加える者ではないと理解したのか、弱々しくも、右脚を右頬に軽く当て、小首をかしげるように鳴いた。
男を庇護者と判断してお愛想したらしい。

「ん、変わったポーズだな?
 よく分からんが、そういう習性でもあるのかな。警戒してるとかじゃなきゃいいんだが。」

男は仔の行動が理解できなかったので、取り敢えずスルーしつつ、
自身と仔の序列を刷り込ませるための躾に取り掛かった。


男は徐に後ろからプレートを取り出す。
先ほどから漂っていた優しい匂いの元だ。
仔実装の目に食べきれない量の餌が映り込む。

チぃっ!
テチュー!

母が生きていた時ですら、こんな大量の餌をもってきた時はなかった。
衰弱していた体のどこにそんな体力を残していたのか、仔は必死に餌にありつこうとジャンプを始めた。


「おお、欲しいか、腹減ったか?」


仔の分かりやすい反応に男は優しく微笑むと、仔がケガをしないようタオルに包み、胡坐をかいて股と足の間に仔を挟み込みながら…。


「だが俺の食事が先だ」


と言い放つとプレートの食事をガツガツと食べ始める。


チィィィィ!?
テチュゥゥー!!!


食事が与えられると思っていた仔は男の行動に涙を流しながら鳴き続けて抗議する。
無論、男は無反応。姿勢を崩さないように仔の行動を観察しながらも食べ続ける。


テェェェー!
チィィーーッ!!


食事を摂らねば命に関わると感じている仔は、切迫感からか男の戒めを解こうと、男の足に向かって歯を立てようとした。


プシュッ!


男はすかさず後ろに隠していた霧吹きを手に取って仔の上から顔に向けて霧を吹き付けた。


テッ!?
テチィ!?


酸っぱい匂いと味が口内に広がり、驚きのあまり仔は自身に害を与えた存在はどこかと見渡すが、男はすでに霧吹きを後ろに戻している。
上を見上げても、男は何も知らぬ存ぜぬとばかりに食事を続けている。

仔が理解できる範囲で酸っぱい感覚の原因を見つける事はできなかった。
ふと、母が生きているとき、言いつけを守らなかった際に強く頬を打たれたことを思い出す。
だが、今は自分には肉体的な痛みはない。


テ?
テテ?


仔は不思議に思いつつ、自身に害のある存在は周囲にないと悟ると、今度は食事が欲しい一心で、男に再度のお愛想をしてみた。


テチューン!


しかし男は無反応で食事を続ける。


テェェェ…
チュアァァ!


業を煮やした仔が再度、男に噛みつこうとした時


プシュッ


またも仔の上から希釈酢の霧が舞い降りた。


テっ…テッチュンっ!テッチュンっ!
チャアアア!!!


仔は、咳き込みながら動きを止める。
威嚇の声をあげながら周囲を忙しなく見渡すも何もない。
上を見上げれば、男が何食わぬ顔で食事をしている。

テェ?

と小首をかしげて項垂れ、またも食事をもらおうと媚び、もらえぬとあらば噛みつこうとして酢を吹き付けられる。
そんなやり取りを3度ほど繰り返した処で男を噛もうとすると不快感が生じると理解したのか、
それとも単に気力が尽きただけなのか、仔が男の足にもたれ掛かるように脱力した。

仔が大人しくなったところで男が食事を取りやめ、仔が栄養補給するには十分の、しかし与えすぎない量の食事を残したプレートを床に置き、
わざとらしく腹をさすって言い放った。


「あー、うまかった。腹いっぱいだ。
 残りの餌は、お前が食っていいぞ。」


男が戒めを解いて、仔をプレートの前に立たせる。
仔は男を見上げながら、おずおずと目の前の食事に手を触れる。
男は特に何もするでもなく笑顔で仔の反応を見ている。

仔は食事の邪魔が入らないと判断すると、勢いよく餌を食べ始めた。
男は仔を微笑みながら見つめる。


「よく待てたな、えらいぞ」


優しい声色で男は仔に語り掛けた。
仔は耳をピクピクと動かしながら男の言葉を聴き、


テチぃ…

と、男に見守られている事を悟り、安心して餌を食べることに集中した。
10分ほどで仔は皿を綺麗になめ終える。


「綺麗に食べたな、えらいぞ」


男はすかさず仔を優しく抱き上げて頭を撫でる。


チぃ…テチュー?


仔は大きな存在に守られ愛されているという実感に心地よさを感じて声を漏らす。


チぃ…テー…テー…


腹が満たされると共に安堵も得られたからか、仔は男の指にしがみつきながら小さな寝息を立て始めた。


「よしよし、寝たか。
 取り敢えず、今日はこれくらいでいいかな。まずは関係作りが基本だしな。
 しばらくは上下関係を中心に徹底して躾ていくかね…。」


男は仔に最初に包ませたタオルを空のティッシュ箱に敷き詰めて、
自分の指にしがみついている仔を優しく箱に移し替えると自分のベッドの下に箱を設置して床に就いた…。







つづく












{ 後書き }

わんこには上下関係きっちり覚えさせないとダメですよね。
ただ罰を与えるにしても、肉体的な苦痛だと「 手 → 痛い 」だけの関連付けになってしまう。
正しくオペラント条件付けするには、なかなか経験がいるなぁと思います。色々試行錯誤してきたブリーダーさん達すげぇ。
というわけで、本作は実装石ブームが過ぎ去り実装用の便利ツールが廃れて一切ない世界観の中で、
ただの一般人が仔実装を糞蟲化させず立派に躾けていけるか?というお話にしたいと思います。
ちなみに、主人公は実装石を犬と同列に考えているので、肉体的な虐待は一切ないです。
ヒャッハーされたい方には申し訳ないスクですのでご了承くださいませ。

>>追記
温かいコメントとご指摘を頂き本当にありがとうございます。
ご指摘を受けて気付いたのですが、私の描写力の至らなさから仔実装の服装描写が不明瞭になっていた事をお詫び申し上げます。

仔実装の恰好なのですが、自前の薄汚れた頭巾と解れた前掛け以外は裸と思ってください。
オプションとして母の遺品と思われる緑色のボロ切れを所持しており、
それを服代わりに抱きしめて前を隠したり腰に巻きつけたりしている姿をイメージして頂ければと助かります。

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1 Re: Name:匿名石 2016/10/20-07:57:24 No:00002592[申告]
人間と同レベルの知能や感性がある生き物として
それでもその違いと弱さゆえに不幸が降りかかる実装石
ちゃんとマジメに愛護を描くスクは非常に楽しみです
続き期待していますのでがんばってください
2 Re: Name:匿名石 2016/10/20-10:27:31 No:00002594[申告]
久々の正統派愛護作品!
虐待のももりはなく懸命に生きようとしながらも
実装石ならではの苦労と悲劇にみまわれる

そんな展開を期待しています
3 Re: Name:匿名石 2016/10/20-18:20:20 No:00002595[申告]
仔実装の格好がよくわからん。頭巾と前掛けしかつけてないのか、服は着てるけどボロボロなのか
4 Re: Name:匿名石 2016/10/20-21:28:49 No:00002596[申告]
>ヒャッハーされたい方には申し訳ないスクですのでご了承くださいませ。
躾にわざわざ酢を使うのがヌルいと思ったがそういうことか
くうぅっ!もどかしい!
内容は面白そうなんだけど、仔実装が目を覚ましたあたりで
すでに足を潰すなり顔面にタバコの火を押し付けるなりしたくなった俺には耐えるのがキツそうだwww
5 Re: Name:匿名石 2016/10/22-04:21:58 No:00002601[申告]
人様から餌を頂戴する分際で待てもできずに噛みつこうとするなんて糞蟲認定で髪の房でももいでいいと思うけど
まあ、愛護スクだしな
それにしてもやつらの繁殖力を以てしても消滅寸前とは
6 Re: Name:匿名石 2016/10/22-20:53:03 No:00002607[申告]
※5
実装石って人から存在を認められないと消えちゃうみたいな設定なかったっけ?
だから無視されるのが一番こたえるとかなんとか
世の中が無関心派ばかりになればこうなるんだろうね
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