タイトル:【虐】 ジョルノ13(サーティーン) シリーズその2「Purple nest(紫の巣)」
ファイル:【虐】ジョルノ13(サーティーン) シリーズその2「Purple nest(紫の巣)」.txt
作者:ジグソウ石 総投稿数:42 総ダウンロード数:916 レス数:4
初投稿日時:2016/08/06-00:35:39修正日時:2016/08/06-00:35:39
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 ※登場する国名、団体名、人物名その他の設定は全てフィクションです。


 PART.1 狡猾な糞蟲


 2016年 双葉市—————ジャパン


双葉市運動公園。

ここは元々市民の健康や体力維持のため、様々な運動が行えるように鉄棒などの器具やウォーキングコースが設けられた公園で、広さは400m四方もある。



ある日、この公園に5匹の飼い実装が捨てられた。

かつてはとあるIT企業の女社長に飼われていた高級飼い実装だったのだが、その会社が倒産し、女社長自身も破産するという憂き目に遭ったために捨てられたのだ。

そして成金趣味の愛“誤”派に甘やかされ抜いて育った飼い実装の例に漏れず、この実装石たちは5匹全てが糞蟲化していた。

糞蟲化していようとしていまいと、普通であれば飼い実装が公園に捨てられれば半日ともたずに野良実装に髪と服を奪われ、奴隷待遇の禿裸となるか、もしくは文字通り餌食となる。

だが、捨てられた飼い実装たちの中に1匹だけ、頭抜けた知能を持つ者がいた。



5匹の元飼い実装たちは、通常ならば赤い胸元のリボン(紐?)が5色に色分けされており、それぞれに対応する名前がつけられていた。

前述の個体は胸元のリボンが紫色で、飼われていたときの名を『紫苑』といった。

紫苑は飼い実装であった頃からとてもずる賢く、他の者を陥れて自分が最も得をするように仕向けつつも、自身の糞蟲性は巧妙に隠し、飼い主であった女社長の一番のお気に入りであった。

そしてこの公園に捨てられた日も、紫苑は他の者が捨て実装の末路をテンプレどおりに辿る中、自分だけはいち早く飼い実装の証であるピンクのフリル付き実装服を脱ぎ捨て、なるべく善良で気弱そうな野良実装を捕まえて、

「おいそこのお前、この美しい服とお前のみすぼらしい服を交換してやるデスゥ」

と持ちかけ、服を交換することで生粋の野良実装を演じ、見事に難を逃れたのだ。
(当然交換に応じたほうの個体は飼い実装と間違われ、他の野良実装に殺された)

糞蟲性にせよ幸せ回路にせよ、実装石の思考というものはえてして自身を破滅に導くものでしかない。

少々知恵の回る個体であっても、その知能ゆえに自爆するということも多々あるのだ。

しかし紫苑は“自分だけが得をする”もしくは“自分だけが生き延びる”ということに関して、異様なほどに知恵が回る実装石であった。

それからも紫苑はその狡猾さを如何なく発揮し、捨てられてから2ヶ月が過ぎる頃には、彼女はこの公園に住む野良実装たちのボスの座にまで上りつめていた。


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 PART.2 リストラされた青年


 2016年 双葉市運動公園—————双葉市


公園のベンチに一人の青年が座っている。

青年は両膝の上に両肘を乗せ、まるで神に祈るように両手を組んで項垂れていた。

「はぁ………」

傍目にも『私は落ち込んでいます』というのが分かる……というよりは、それを周囲に伝えようとしているようにしか見えないほどのため息。

そんなことを何度くり返しただろうか。

青年が自分の膝の上に落とした視線を上げたとき、目の前に1匹の実装石がいた。

「ニンゲンさん、そんなにため息をついてどうしたんデス?」

野良実装が青年に話しかける。

その胸元には、紫のリボンが結ばれていた。

「実装石ちゃんか……」

「ニンゲンさんはよくワタシたちにゴハンを持ってきてくれる、アイゴハのニンゲンさんじゃないデスか。こんなところで一体どうしたんデスゥ?」

そう、青年は実装石をこよなく愛する愛護派だった。

いつもこの公園で、野良実装たちにフードやコンペイトウを撒いている。

だが、勤めていた会社を先日リストラされ、ほぼ無一文になっていたのだ。

「ああ……ゴメンね。今日はフードもコンペイトウもないんだ………というか、僕はもう君たちに食べ物を持ってきてあげられないんだ。勤めていた会社をクビになった……って分かるかな? 仕事がなくなって、
 自分の食べるご飯も用意できなくなっちゃったんだよ……ああ、もうどうしたらいいんだ!」

野良実装を前に再び青年が項垂れる。

しかしそれを見た実装石、紫苑の反応は「なんだ、そんなことか」とでも言わんばかりのものだった。

「そんなことで困っていたデス? だったらおヤクショに行って、ワタシたちジッソウをクジョするお仕事に応募すればいいデスゥ。最近はなり手が少なくなって、シガンシャは引く手アマタらしいデスよ?」

「は? ……………は!?」

青年は顔を上げ、面食らった表情で目の前の実装石を見た。



紫苑の言葉は本当だった。

意外かもしれないが、実は役所の実装石駆除係というのはなり手が少ないのだ。

なにせ相手が実装石とはいえ、生き物を殺すのが仕事である。

人間と同じようにモノを考え、人間と似たような生活を営む生物を、眉一つ動かさずに殺していかないといけないのだ。

作業中にわざわざリンガルを起動するような物好きはいないが、ときに涙を流して命乞いをする善良な実装石がいたとしても、容赦なく処分していかなければいけないのだ。

また、そんな良心の呵責などは慣れてしまえば感じなくなってくるにせよ、逆ギレした糞蟲に糞を投げつけられたりした日には、防汚用のスーツ越しでも臭いがそうそう取れない。

まともな神経を持ち、他にまともな職に就ける人間が、わざわざ選ぶような職業ではないのである。

ならば『虐待派が応募すればいいのではないか? むしろ嬉々として作業に励むだろ』と思う人もいるだろう。

だが、この仕事は『楽しむ』ことが許されるようなものではない。

公園を浄化することが目的なのだから、できるだけコロリなどの薬品を使い、なるべく血や糞を出させないように殺して、死体は麻袋に詰めて持ち帰ったうえで焼却しなければならないのだ。

バールのようなもので頭を砕いたり、どてっ腹に風穴を開けたり、ましてや仔実装を踏み潰して地面の染みにするなどもってのほか。

ただ粛々と実装石たちを駆除するだけの、虐待派にとってはつまらないことこの上ない“作業”にすぎないのである。

たまにそのあたりを勘違いした虐待派が志願したりもするが、いざ実務に就いてみると思っていたものとは全く違い、堅苦しい規定に基づいて行動しなければいけないことに辟易してすぐに辞めてしまう。

そういったこともあり、実装石の駆除係というものは常に人手不足で、志願者は面接もそこそこに即日採用されるほどの売り手市場だった。



青年は阿呆のように口をぽかんと開いたまま、目の前の実装石を見つめていた。

(一体この実装石は何を言っているんだ? 自分たちを駆除する仕事に、しかも愛護派である自分に就けと?)

怪訝な顔で自分を見つめる青年に、その反応も予想通りだと言いたげな落ち着きようで紫苑が話を続ける。

「ニンゲンさんの言いたいことは分かっているデス。でも、ニンゲンさんがそのお仕事につくことでニンゲンさんもシアワセになって、そしてワタシたちも助かる方法があるんデスゥ♪」

知能の高い紫苑は糞蟲特有の「デププwww」という下卑た笑いを浮かべることはなく、あくまでも『可愛い実装ちゃん』が「イイコトを思いついたデスゥ♪」とでも言うときの、愛護派にとってはたまらないであろう
絶妙の媚びを含んだ笑みを浮かべると、青年に自分の“計画”を話し始めた。


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 PART.3 市長からの依頼


 2016年 市庁舎—————双葉市


双葉市庁舎の市長室で、2人の男が机を挟んで向かい合っていた。

1人は豪華なソファに腰掛け、1人は部屋の入口からすぐ傍の壁にもたれて葉巻をふかしている。

双葉市の市長と、その依頼を受けてやってきたジョルノ13ことトシアキ・西郷であった。



「………用件を聞こうか」

ジョルノの言葉に促され、市長がエ○ァの碇ゲン○ウのように机の上で手を組んで話を始める。

「実は……最近この市の運動公園でおかしなことが起きているのです」

「おかしなこと……とは?」

「言うまでもなく、運動公園は市民の健康維持を目的として造成されたものです。そこに実装石などという害蟲がのさばり、糞の臭いを振り撒かれてはたまったものではありません」

「……………」

「もちろん実装石という生物はゴキブリと同じで、1匹でも生き延びればそこからいくらでも増えるし、また別の公園から渡ってくることもあるので、完全に絶滅させることは難しい生物です。それゆえ私どもは
 実装石が増えるたびに定期的に駆除を行なってきたのですが………それによって捕獲される実装石、そして回収される死体の数が、ここ最近目に見えて減ってきているのです」

「………単純に個体数が減っただけという可能性は?」

「でしたら最初から駆除を行う必要がありませんし、近隣住民や公園利用者からの苦情があったうえで動いているのです。確実に実装石の数は増えているのに、いざ駆除を行なってみるとさほどの成果が上がらない」

「ならば今、その公園は実装石で溢れかえっているということか」

「それが………これまたおかしなことなのですが、駆除の成果が全く出ていないわけでもないのです。あくまで今までの半分以下というだけで、常に一定数の成果は出ている。それなのに、公園に巣食う実装石の絶対数は変わらない。
 それゆえ実装石が増えすぎた公園にありがちなように、食料が確保できなくなった実装石たちが共食いをして地獄の様相を呈するということもなく………まるで実装石たちが暮らしやすいよう、個体数が適正になるように、
 私たち人間が間引きの片棒を担がされているようなものです」

「………原因に心当たりは?」

「生け捕りにしてきた個体を拷問し、仔を人質にとって聞き出したところ、どうやら最近群れのボスになったという元飼い実装が色々知恵を与えているようなのです。そいつのせいで、公園に住む実装石たちはコロリなどの毒物にも
 ほとんど引っかからなくなりました」

「つまり今回、俺に依頼したいことというのは……」

「はい、その狡猾なボス……通称『紫リボン』を見つけ出し、殺害していただきたいのです」

「………『紫リボン』?」

「そうです。そいつの特徴は飼い実装時代から身につけているという、紫色をした胸元のリボンであることからそう呼ばれています」

「そんな目立つ特徴がありながら、見つけ出すことができないのか?」

「もちろん我々のほうでも、すでに紫のリボンを手がかりに何度も捜索を行いました。しかしどこに隠れたものか、いつも空振りに終わってしまうのです。こうなれば、実装石殺害のプロである貴方にお願いする他はありません!
 どうか、どうかヤツを捜し出し、息の根を止めていただきたい!」

「……………わかった………引き受けよう」

「おおっ!」

「まずは下見が必要だな………誰か1人、助手代わりの人間をつけてくれ」

「分かりました。実装石駆除課の課長を同行させましょう」


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 PART.4 実装石の地下城


 2016年 双葉市運動公園—————双葉市


次の日、ジョルノは実装石駆除課の課長と共に双葉市運動公園を訪れた。

「……………ここか……確かに糞の臭いが酷いな」

「はい、そのせいで運動公園としての利用者がどんどん減っています。今でも訪れているのは、実装石どもに無責任に餌を撒く愛護派の人間ぐらいですよ」

ジョルノがあたりを見渡してみると、それだけでかなりの数の実装石が確認できる。

普通なら実装石たちは茂みの中に隠されたダンボールハウスに住み、基本的に外を出歩くのは餌を探すときだけである。

それなのにこの公園にいる個体はどいつもこいつも我が物顔で公園内を歩き回り、あちこちでデスデステチテチと談笑しているほどだ。

「まったく忌々しい限りです。私が無責任な虐待派だったら、公園が汚れるのなんかお構いなしに皆殺しにしてやるのに」

「役所のやり方が大量虐殺に不向きなのは分かるが………これだけの数の実装石がいて、なぜ駆除の成果がそれほど上がらないのだ?」

「それが………私どもが駆除に来た日に限って、なぜかこいつらはそのほとんどが何処かに姿を消してしまっているのです」

「消して“しまう”ではなく、消して“しまっている”ということは………駆除の人間が来てから慌てて逃げるのではなく、来たときにはすでに消えている………ということか」

「は、はい。ですので仕方なくダンボールの家を一つ一つ覗いて回り、残っている者を駆除するのですが………もぬけの空のダンボールも少なくありません。そして駆除が終わった後、交代で清掃業者が実装石たちの漏らした糞や
 ダンボールを片付けにやってくると、そのときにはすでに実装石たちが戻っているのです」

「………残っている者というのは、どんな感じのやつだ?」

「どんな感じのと申されましても………ああ、そういえば糞蟲が多い気がしますね。威嚇してきたり糞を投げつけてきたり、ときには自分の仔を身代わりにして助かろうとしたり……まあ酷いもんですよ」

「……………少しやつらの様子を観察する」

そう言うと、ジョルノは公園のベンチに腰掛け、葉巻に火をつけた。

その目は入口にほど近い茂みの中にある一軒のダンボールハウスを凝視しつつ、周囲にいる実装石たちの様子を注意深く窺うのも忘れない。

何のためにそんなことをするのか分からない課長は、ただジョルノの隣に座ってそわそわと落ち着かない様子であった。



約10分後、ジョルノが目をつけたダンボールハウスから少し離れた場所で談笑していた1匹の成体実装が、他の実装石たちに手を振りながら集団を離れ、そのままトテトテと歩いて件のダンボールハウスへと入っていった。

「ただいまデスー」

ジョルノが立ち上がり、ダンボールハウスへと歩いていくのを、課長が慌てて後を追う。

ジョルノはダンボールハウスの前に立つと、懐からスプレー式の実装ネムリを取り出し、ダンボールの持ち手部分に開いた穴から噴射した。

「デデッ? ………デスー………デスー………」

「………テチー………テチー………」

すぐに中から実装石たちの寝息が聞こえてくる。

「こいつらを殺さないんですか?」

「殺せばこいつらの死体から足がつき、例のボスに俺たちが何かを探っているのを気取られるおそれがある………それを見られないように、わざわざ家主が帰ってくるのを待ったのだ」

「な、なるほど」

ジョルノは周囲の実装石たちに見られていないのを確認すると、中にいた実装石たちをいったん外に出して地面に寝かせ、ダンボールハウスの中をごそごそと探り始めた。

中にあったのは薄汚れたタオルケットと、濁った水の入った500mlのペットボトルが2本、あとは防寒用の落ち葉や新聞紙の切れ端などで、何の変哲もない平均的な実装石の家庭という感じだ。

親らしき成体実装が寝こけていた部分はダンボールの床が一部破れていて、その上にベニヤ板の切れ端のようなもので蓋がしてあり、その隣には大きめの石が置いてあった。

蓋をどかして開けてみると、地面に仔実装の体長ほどの深さの穴が掘られており、中にはドングリなどの木の実が保存食として蓄えられている。

親実装が家にいるときは常にこの位置に鎮座し、外出時は自分の代わりに石を置いておくのは、仔が勝手に食料の保管庫を開けて中身に手をつけないようにするためだ。

ジョルノはダンボールの中を一通り確認すると、動かしたものを全て元あった場所に完璧に戻した。

「………特に変わったものはありませんでしたね」

「………いや、まだだ」

ジョルノは落ちていた枝でダンボールハウスの外周をなぞって印をつけると、ダンボールハウスそのものを1個分横にずらした。

するとそこには—————

「……………これが消える実装石の秘密だ」

ダンボールハウスのあった場所には、食料の保管庫である穴の隣にもう一つ、成体実装が丸々入れるほど大きな穴が空いていた。

ペンライトで照らしながら中を覗き込んでみると、60cmぐらいの深さまで潜った後は横穴になっており、手を突っ込んでみても奥に手が届くことはなく、どこまで続いているか分からない。

「こ、これは……?」



この公園の実装石たちは、役所や業者の人間が来たときだけ穴の奥に隠れ、駆除を免れていた。

そして駆除に来た人間が去った後で穴から出てくれば、清掃業者が来る頃にはすでに実装石たちはダンボールハウスに出戻り済みというわけである。

役所の人間や駆除業者は実装石を殺し、その死体は回収するが、地面に付いた血や糞などの汚れを片付けたりしないし、ダンボールハウスも回収しない。

公園の汚れを落とし、ダンボールやその中にある生活用品などを処分するのは外部委託の清掃業者なのだ。

そして駆除係の後からやってくる清掃業者は、生き残っている実装石がいてもそいつらに手を出したりはしない。

そもそも清掃業者は公園を汚さずに実装石を殺すための装備、すなわちコロリや防汚スーツなどを用意してこないし、下手に殺して公園を汚せばわざわざ自分の仕事を増やすことになる。

しかも死体は生モノなので、回収に使う車や処理の部署が別なのだ。

上記のような、つまりは殺せば面倒が増えるという理由から、生き残った者がいればダンボールハウスもそのまま放置となる。

この公園に住む実装石たちのボスである『紫リボン』は、その分業制の穴と、駆除係と清掃業者が交代するまでのタイムラグを突いたのである。 

「………恐らくこの穴は全てのダンボールハウスの下にあり、地下で繋がっているに違いない。だとすれば………どこかに大きな空間を作ってコロニーを形成している可能性もある」

「ええっ!?」

「地上をいくら捜索しても『紫リボン』が発見されないのはそういうことだろう。ヤツは地下に築いた自分の王国で悠々と指揮をとっているのだ。恐らく駆除された糞蟲というのも、そのコロニー内の秩序維持に
 邪魔だと判断された者が家を与えてやると騙されて地上に戻されたのか、それとも元々地上に住んでいる者たちのうち、糞蟲にだけ退避命令が知らされないのか………いずれにせよ、間引きのためにわざと配置された者たちだ」

「な、なんてことだ………そこまで知恵をつけた実装石が………」

そう、『紫リボン』には“知恵”があるのだ。

実装石という生物は糞を汚いものと認識したり(認識したうえで食糞行為を行うからこそ“糞蟲”なのだが)、人間の言語を解する能力があるなど、他の生物に勝る“知能”があることは広く知られている。

だがその反面、毒物などの罠に何度引っかかっても学習しなかったり、逆にその知能の高さゆえに自身を破滅に導くことが多々あるなど、“知恵”においては昆虫にも劣る面がある。

そういう意味では、カラスのように狡猾な“知恵”を身につけた実装石というのは稀有な存在なのである。

『紫リボン』こと紫苑がそのように高度な知恵を身につけることができたのは、もちろん飼い実装として人間の生活をつぶさに観察することができたこともあるが、多数の同僚の中で成り上がるために培われた糞蟲性が
全て都合の良い方向に作用してくれたからに他ならない。

「……………まずは地下のコロニーを壊滅させる手立てから考えよう………とりあえず公園の中を一回りしてから市長のところに戻るぞ」

「は、はい………」

ジョルノは印をつけた位置にダンボールを戻し、実装石の家族をこれまた元の位置にぴったりと収めると、公園内をくまなく歩き、他のダンボールハウスの位置を全て確認してから立ち去った。


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 PART.5 作戦会議


 2016年 市庁舎—————双葉市


『紫リボン』の殺害を依頼したときと同じ場所、そして人物の配置も体勢も全く同じというシチュエーションで、市長は苦りきった顔でジョルノの報告を聞いていた。

「なんということだ………まさかそこまで知恵の回る実装石がいたとは」

「……………しかし………駆除への対策を考えることはできたとしても、人間がいつ駆除に来るかというタイミングを実装石が知ることはできない。これは人間、それも駆除のスケジュールを知ることができる者の中に
 内通者がいるとみるべきだろう」

「な、なんですって!?」

同席していた実装石駆除課の課長が驚いて声を上げる。

「そうでなければ駆除係がやって来るより前に姿をくらますことは不可能だ」

「そ、そんな……………まさか我々の中に……?」

「駆除の成果が落ちてきた時期を教えてもらおう………それと同時期に駆除課に配属された者のリストと、公園の見取り図を見せてくれ。」

「わ、わかりました」



ジョルノはリストに一通り目を通した後、公園の見取り図に今日確認したダンボールハウスの位置を書き込んでいく。

その後、ジョルノは課長に様々なものを用意させた。

もちろん野良実装たちのコロニーを壊滅させ、ボスである『紫リボン』を始末するための準備である。

「あとは実行に移すだけだが………決行は明後日の夕刻4時、駆除課の人間全員にそう伝えておいてくれ」

「いいのですか? 内通者がいるというのに………」

「むしろそいつに情報を流させ、ヤツらを安心させるのが目的だ」

「わかりました。全員にそう伝えます」



その日の夜、公園の地下に作られた蟻の巣のようなコロニーの中心部に位置する大部屋に、そこに君臨する王である『紫リボン』こと紫苑の実装服から、声とも電子音ともつかない奇妙な音が鳴り響いた。

 ————— デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪ —————

そこに集まっていた数匹の成体実装は、その音に驚いてあたりをキョロキョロと見回すが、音は土の壁に反響してその発生源が分からない。

そんな中、唯一音の発生源を知る紫苑は慌てることなく、パンツのゴムに挟んである実装フォン—————人間が自分の飼い実装に緊急連絡用として持たせる小型の携帯電話を取り出して、
指のない不恰好な手で器用に通話ボタンを押して電話に出た。

「もしもし、ワタシデスゥ」

『もしもし、紫苑ちゃんかい!? 大変なことになったんだ!』

「ニンゲンさん、そんなに慌ててどうしたんデス?」

『いいかい、よく聞いてくれ。明日、君たちのいる公園で大規模な駆除が行なわれる』

「なんだ、そんなことデスゥ? 大丈夫デス、いつもどおり群れのためにならない糞蟲をイケニエにしてやり過ごすデス」

『それだけじゃないんだ。市長は君を始末するために、凄腕の実装石殺しのプロを雇ったらしい。僕には何もしてあげられないけど………十分に気をつけてくれ』

「わかったデス。ニンゲンさん、いつも情報アリガトウデスゥ」

精一杯嬉しそうな声でそう言ってから、紫苑は実装フォンの通話ボタンを『切』にした。

「フン……役に立たないグズニンゲンデス。それにしても………ジッソウ殺しのプロ……デスか。デッププププwww 面白いデス………いつでも来やがれデッシャァァァ!!!」

成体実装が立ったまま20匹は入れるであろう広大なスペースに、紫苑の雄叫びが響き渡った。


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 PART.6 襲撃


 2016年 双葉市運動公園—————双葉市


その日、双葉市運動公園はお昼の少し前から閉鎖された。

実装石たちの糞による悪臭によって訪れる人が少なくなったとはいえ、一部の物好きな愛護派はいる。

これから実装石たちを大量虐殺しようというのだから、万が一にもそういった人間に駆除対象の野良実装たち、特にボスである『紫リボン』を助けさせたりしないためである。



通常の駆除と同じように、公園の各出入口には実装石が乗り越えられない高さのバリケードが張られ、その周囲では白い防汚スーツに身を包んだ駆除係の人間たちがガヤガヤと何かの準備をしている。

ジョルノはその中の一人に声をかけた。

「君、今日は私が指揮を執らせてもらうことになっているのだが………君に私の助手を務めてもらってもいいかな」

「えっ!? ぼ、僕ですか?」

返事をした気弱そうな青年は、かつてこの公園で『紫リボン』こと紫苑に声をかけられた男である。

「これから地下のコロニーを攻撃するが、万一逃げ出した野良実装たちの中に目当てのボスがいないか、私と一緒に公園内を見回ってくれるだけでいい」

「わ、わかりました………」

青年があまり乗り気ではないといった表情で返事をする。

この表情だけで、彼が実は愛護派であることが誰の目にも明らかである。

彼は良く言えば善良な人間であり、悪く言えばあまりにも融通の利かない、本音と建前を使い分けるのが下手な人間であった。

言ってしまえば、前の職場でもその愚鈍さゆえにリストラ対象にされたようなものだ。



「午後4時10秒前………7、6、5、4、3、2、1、作業開始だ!」

ジョルノが手を上げて合図をすると、白いスーツの男たちが一斉に公園内になだれ込んだ。

まずは配られていた公園見取り図のコピーに記された赤い○を目印に、20数個あるダンボールハウスにそれぞれ1人ずつの人間が向かう。

そして昨日ジョルノがやったようにダンボールの中にスプレー式の実装ネムリを噴霧し、中にいた野良実装たちを眠らせた。

この公園に住む野良実装たちは『紫リボン』の入れ知恵により、コロリなどの毒物にほとんど引っかからなくなっているためだ。

コンペイトウの形をしたものは、愛護派であることがすでに確定している人間から、その場で与えられたものだけを口にしてもいいと、コロリによって無惨な死体となった同属を見本にして厳しく教えられているのである。

その点、噴霧式の実装ネムリであれば、そのような知恵を持った実装石であっても、呼吸をするだけで否が応にも吸い込んでしまうので問題ない。

眠らせてしまえば扱い方は死体と同じなので、回収用の麻袋に詰め込んだ後から蹴りでも数発入れて潰してしまえばいい。

何より、今回の目的は地下の巣に潜むボス『紫リボン』である。

スケープゴートならぬスケープ実装として向こうが用意した糞蟲などに時間を割いている暇はないのだ。



「ダンボールハウスの撤去、及び地下への進入路確保、完了しました!」

最初の突入班の班長からジョルノに報告が入る。

「うむ……次の作業に移る」

ジョルノが先程と同じように手を挙げて合図すると、今度は消防車に積んであるような長い放水ホースを抱えた部隊が公園へとなだれ込む。

そして公園の四方に散らばると、恐らく公園内に設置された消火栓へと繋いできたのであろう、伸ばしたホースの先端を各ダンボールハウスの下にあった穴へと挿入した。

「み、水責めにするんですか?」

ジョルノの隣にいた青年が驚いた声を上げた。

「………実装石は水に浸かってしまえばそれまでだからな」

「あ、あの……すいません。課長から連絡みたいですので、少し外してもいいですか?」

もちろん青年の言葉は嘘である。

課長はこの作戦について全てジョルノに一任しているし、黙って吉報を待つようジョルノに言い含められている。

進捗状況を訊ねるために電話などしてくるはずがないのだ。

電話に出るふりをして、ジョルノの作戦を『紫リボン』に知らせようというのだろう。

「ああ………構わんよ」

それを知ったうえで、ジョルノは青年の好きにさせた。



青年はジョルノや同僚に会話を聞かれないよう、公園の外に出て紫苑に電話をかけた。

それに合わせて、地下にいる紫苑の服の中に入った実装フォンから着信音が鳴り、紫苑が電話をとる。

「も、もしもし? 紫苑ちゃんかい?」

「デェ………ニンゲンさん、どうしたデス?」

「大変だ! 実装石殺しの男が、君たちの住むコロニーに水を引き込んだんだ! 早く逃げないと君たちみんな溺れてしまう!」

紫苑は「ハァ……」とため息をつき、心底どうでもよさそうに青年の話を聞き流す。

「そんなことは見張りのやつからもう報告が来てるデス。ちゃんと対策してあるから大丈夫デスゥ」

青年にそれだけを告げると、紫苑は「やれやれ」と言わんばかりに頭を振って実装フォンを電源ごとオフにした。

「まったく………いちいち大げさなニンゲンデス………ワタシがその程度のことをソウテイしてないとでも思ってるんデスゥ? ワタシはお前らとは頭の出来が違うデス」

事実、ジョルノ率いる駆除班が注ぎ込んだ水は野良実装たちが住むコロニー内部にまでは到達していなかった。



紫苑はこの地下城を作るとき、野良実装たちにまず自分たちの住むダンボールハウス下の地面を6mほど斜め下へと掘らせ、そこからまた上に向かって4mほど、つまりV字型に穴を掘らせた。

それを何度か繰り返して上下にジグザグの連絡通路を作った後、それらの交わる地点に蟻の巣のようなコロニーを作ったのである。

もちろん実装石である紫苑がそんな原理を知っていたわけではないが、そうしておけぱ上から流れ込んできた水は『パスカルの原理』によってコロニー内までは届かない。

仮にジョルノがやったように、ホースからそれなりの圧をかけて水を注ぎ込んだとしても、ジグザグの部分が長いために水の溜まるスペースが広く、しかもコロニー内に届くまでにほとんどが土の地面に染み込んでしまう。

そもそも豪雨でも降ればダンボールの下からでも水が染み込んでくるのだから、水に弱い実装石が地下に巣を作るなら当然の備えといえるし、蟻の巣に煮えた鉛を注ぎ込んで型をとった有名な動画のように、
もしも虐待派や残酷な子供が花火や爆竹などの危険物を放り込んできてもこれなら安心だ。

とはいえ、それにかかった労力と時間は半端なものではない。

不器用な実装石が、柔らかい土とはいえこれだけの穴を掘るのは大変なことである。

この城は紫苑がこの公園のボスの座に就いてから半年以上をかけて、自分に逆らった者を禿裸にした奴隷だけでなく、群れの実装石全てに手の皮膚が破れるまで働かせて造り上げたものだった。

もちろん最初は不平を言う者もいたが、反逆者は禿裸の奴隷とするか、もしくはいずれ駆除係の目を欺くための生贄にするという掟を作り、逆に労働に参加した者は休んだ者よりその日の餌を多めに分けてもらえるという
飴と鞭を使い分けたこと、そして紫苑が言葉巧みに「この地下城が完成すれば未来永劫に渡ってここの実装石たちは安全だ」と吹き込んだことによって、そのうち不満を漏らす者もいなくなった。



紫苑が水責めを想定していたように、ジョルノもまたこの作戦が決定打とならないことは想定していた。

実装石たちが寝静まった昨晩から今日の夜明け前にかけて、ジョルノは1人この公園を訪れ、GPRシステム(地中内を電磁波で探査する機械)で地下城の構造をほぼ完璧に調べつくしていたのである。

この水責めは実装石たちを溺れさせるためのものではなく、逃げ道を塞ぐためのものだった。


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 PART.7 降り注いだ“粉”


ジョルノが狙う本当の攻め口は別にあった。

これだけの地下城、しかも水責めなどで出入り口を塞がれることも想定した構造である。

必ず空気を確保するための通気口があるはずなのだ。

それはダンボールハウスの下に隠された穴とは別に、公園の茂みに植えられた樹木の根元に、目立たないように開けられていた。

ここなら少々の雨が降っても木が傘となって水が流れ込むのを防いでくれるし、実装石本体が通る必要はないので、仔実装が通れるほどの大きさがあれば十分だ。

実際にその縦穴は、群れの中の仔実装たちを労働させて作られたものであった。



巧みに隠されていた通気口ではあったが、GPRシステムで地中の様子を把握しているジョルノにはほとんどの所在が割れてしまっていた。

ジョルノはその中でもなるべく直径が大きく、コロニーの中心部に近い穴に近づいて、大きな袋からチョークの粉のような黄色い粉末をその穴へと流し込んだ。

この穴は小学生などに煙玉などを放り込まれたときの換気口の役割を兼ねているので、水責め対策を施された連絡通路の穴とは違い、グネグネと上下にうねってはいない。

注ぎ込んだものはそのまま真下へと落ちていくようになっている。

その代わりにコロニーよりも深いところまで穴が掘られ、万一ここから水を注ぎ込まれてもコロニー内部には水が溜まらない構造になっているのだ。

「デェ?」

上からパラパラと落ちてきた粉に気づいた見張りの実装石が、それを拾い集めて紫苑のところへと運んでいった。

「これは……ニンゲンが上から降らせてきたデスゥ?」

紫苑は粉を手にとると、クンクンと鼻を鳴らして臭いを嗅いでみる。

臭い。

卵の腐ったような臭いだ。

それは、火山の火口や温泉の湧く場所の付近で採取できる『硫黄』であった。

他の野良実装はおろか紫苑にすら知る由もないことだが、この粉に塩素系の洗剤でも混ぜれば生物の肺や喉を焼く硫化水素が発生し、不死身性の高い実装石といえどひとたまりもないだろう。

しかし紫苑たちにとって幸いなことに(?)、ジョルノにそんなつもりはなかった。

あくまで殺し屋であるジョルノはターゲットの死体を確認しなければならないのだから、地下でいくら無惨な死を迎えさせても意味はないのだ。

「フン……どうせ毒か何かデス。こんなものにワタシが引っかかるとでも思ってるデスか。愚かなニンゲンデスゥ」

紫苑が人間の狙いを看破したとほくそ笑んでいる頃、ジョルノは持参していたもう一つの袋から、緑色をした別の粉末を穴に流し込んでいた。



「ボス、また上から変な粉が降ってきたデス。今度のは緑色の粉デスゥ」

見張りの実装石が再び粉を集めて持ってきたのを、先程と同じように臭いを嗅ぐ。

「ブベェーッヘ! ブェッヘ!!! こ、これはウンチのニオイデスゥ!」

そう、ジョルノが穴に流し込んだのは、乾燥させて粉末状にした実装石の糞だったのだ。

実装フードも同じ材料から作られるが、これは栄養分を整えるために別の素材を混ぜる前の、しかも消毒や脱臭もしていないものであり、その臭さは尋常ではなかった。

「ふ、ふざけんなデスゥ!!! ワタシに知恵比べで負けたからって、ウンチの粉を降らせて嫌がらせをするなんて、上にいるニンゲンは糞蟲デスッ!!!」

紫苑の脳内ではすでに自分が勝利したことになっており、人間が糞の粉を降らせたのはただの腹いせだと思い込んでいた。

しかし紫苑は気づいていなかった。

このコロニーの破滅は刻一刻と迫っていることに。


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 PART.8 緑の煙


ジョルノは袋の中の実装糞を全て穴の中に注ぎ込むと、今度はそれまで注ぎ込んだ粉に染み込ませるように、プラスチックのボトルからアルコールを流し込んだ。

「そ、それは一体何ですか?」

電話から戻ってきた青年がジョルノに問いかける。

「……………これで………ヤツらも終わりだ」

ジョルノは青年の問いには答えず、懐からライターを取り出すと、穴の傍に溢れた粉に火をつけた。

 ————— ボゥッ! —————

硫黄に引火し、染み込ませたアルコールが導火線となって、火は一気に穴の底まで伝っていく。

「デデェッ!?」

上から降ってくる物を警戒していた見張りの実装石は慌てて飛び退き、自分に引火するのを免れる。

炎が通り過ぎた後、見張りの実装石が恐る恐る穴の底を覗き込んでみると、そこから緑の煙が濛々と立ち上った。

「デギャァァァー!!!!!」

「な、何事デスッ!?」

「大変デス! ニンゲンが降らせた粉から火が出てケムリが上がってるデスゥ!」

「ケムリぐらいなんデスゥ! 横穴に隠れてやり過ごせばすぐに上に抜けていくデスッ!」

「そ、その穴が塞がれているデスゥゥー!」

「な、なんデスゥーーーッ!?」

そう、メインの換気口そのものが発火源なのだから、そこから煙が抜けていくことを期待すること自体にそもそも無理がある。

しかもジョルノは火を放った後、他の穴にも人員を派遣して全ての換気口を塞いでいた。

自然と煙は行き場をなくし、コロニー内部に充満していく。

「デデェッ!? な、なんデスこのケムリは? ゲェッホ! め、めちゃくちゃ目にしみるデス! 息ができないデスゥゥーッ!!!」



洞窟に住むコウモリの糞が凄まじく臭いというのは広く知られているが、それに硫黄を混ぜたものを燃やすと、暴徒鎮圧用に使われるのと同じレベルの強力な催涙ガスが発生する—————というのをご存知だろうか?

ジョルノはそれを、コウモリの糞よりもはるかに臭いといわれる実装石の糞でやったのである。

鼻をつくその異臭、目に沁みるその煙、脳に酸素を送るための呼吸を妨げるその毒性は、野良実装たちにとって想像を絶するものだった。

「「「「「デッギャァァァァァァァ!!!!!」」」」」

コロニー内の実装石たちは酸欠で倒れて窒息する者、目が見えないと叫びながら無闇に走り回って縦穴に落ちる者、右往左往する成体実装にもれなく踏み潰される仔実装や親指実装に蛆実装たち、さらには逃げようとして
水の溜まった連絡通路に突っ込んで溺れる者や、そうやって死んだ者が前でつっかえているところに、後ろから来た者に押されて圧死する者など、各所で阿鼻叫喚の様相を呈しながら次々と死んでいった。

もちろんボスである紫苑の周囲も、偽石の砕けるパキンパキンという音の大合奏である。

「デェェェ! なんということデス! こ、このままではワタシのオウコクが崩壊するデスゥゥ!!!」

人間に飼われていたときに見たTVで『火事のときは身を低くして、煙を吸い込まないこと』ということを学んでいた紫苑は、頭巾を脱いで西部劇の強盗のように巻きつけ、口と鼻を塞ぐことで何とか煙を吸い込まずにいた。

「こ、こうなったらここをホウキして逃げるデス………おいそこのお前! ワタシについてくるデスゥ!」

紫苑は傍にいた親衛隊の1匹に声をかけた。

この野良実装は紫苑と同じく糞蟲の類ではあったが、他の有象無象よりは多少知恵の回る個体であった。

そのため何かと役立つうえ、知恵が回るといっても到底自分には及ばないと思っていたため、クーデターの心配などもせず親衛隊に組み込んだのだ。

「ボ、ボス……他のやつはどうするデスゥ?」

「そんな糞蟲ども、どうだっていいデス! ワタシさえ生き残ればオウコクの再建は何度だってできるデスゥ!」

「……………わ、わかりましたデスゥ……………」

そして紫苑は親衛隊の1匹のみを連れ、自分だけが知る秘密の抜け道を通って地上への脱出を図った。


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 PART.9 『紫リボン』との対峙


ジョルノは双眼鏡を覗き込み、広い公園の中をくまなく見渡していた。

GPRシステムでほとんどの連絡通路は位置が割れているし、ダンボールハウスの下に隠されていた出入り口は全て水を流し込んで塞いである。

それでも、1つの通路の下に重なるようにもう1つの通路があった場合など、見落としている箇所があるかもしれない。

いや、噂に聞く『紫リボン』ほどの知恵を持った個体であれば、そういった自分だけの抜け道を用意している可能性は十分にある。

ジョルノがそれを見つけるための目印にしようとしているのが、実装糞と硫黄を混ぜたものに引火させたことで発生した煙であった。

そもそも本来であれば、どれだけ通路が上下にうねっていようと、ホースそのものを穴の奥まで突っ込み、高圧の放水車でも使って完全に巣穴を水浸しにしてしまえばよかったのだ。

それなのにあえて“煙”を武器として選んだのは、ターゲットである『紫リボン』を確実に、文字通り燻り出すためなのである。

実装石そのものが出入りするための穴は水で、煙をコロニーの外へ排出するための換気口は人をやって塞いである。

そんな中でなお煙を上げている場所—————それこそが『紫リボン』の緊急脱出口だ。



その穴は、公園の出入口にほど近く、茂みの奥にある植え込みの中にあった。

ちょうど公園の外壁の内側、その隅っこあたりだ。

出入口から近いのは脱出後に身を潜め、駆除係が撤収したらすぐに自分も公園そのものを捨てて逃げ出せるようにと考えての工夫だろう。

それにこんなところ、人間はゴミ拾いのときぐらいしか分け入ってはこないだろうし、実装石ですら餌があるとは思わない。

草で巧妙に偽装されたその穴から、煙とともに2匹の野良実装が這い出してきた。

「デハァ……デハァ……し、死ぬかと思ったデス………」

「デヒィ……デヒィ……ヒドイ目にあったデスゥ………」

植え込みの木の陰になった場所で、2匹の実装石が安堵のため息を漏らす。

そこに近づいてくる二人の人影。

「………お前が『紫リボン』………この公園のボスだな」

「デヒィッ!? ニ、ニンゲンデスゥゥーッ!」

「デェェッ!?」

2匹を見下ろす黒い影は、いわずもがなジョルノ13ことトシアキ・西郷であった。



ジョルノは長さ1.5mほどの、鉄パイプの先端を竹ヤリのように斜めにカットしたものを、2匹の実装石のうち胸元のリボンが紫のほうに向ける。

この鉄ヤリは実装石の駆除用に役所が考案したもので、先端から40cmほどのところにレーザーポインターのような簡易式の偽石サーチャーが取り付けられており、偽石のある箇所に切っ先を向けるとセンサーが反応して
持ち手のほうに向けてランプが点灯するという、単純な見た目からは想像できないほど必殺性の高い武器だ。

「ニ、ニンゲン……オマエがワタシのオウコクを………デッシャァァァ!!! 許さんデスゥゥ!」

紫リボンの実装石が額に青筋を浮かべ、無謀にもジョルノに殴りかかる。

ジョルノはそれをひょいとかわすと、足をひっかけて紫リボンを転ばせ、その背中の上で円を描くように鉄ヤリの先端をくるくると回して偽石の位置を探り、銛で魚を獲る漁師のように鋭く突き刺した。

 ————— パキン! —————

「デギァ……!」

偽石が正確に貫かれ、紫リボンは瞬時に絶命する。

「……………」

ジョルノは何の感慨も浮かべずに、冷徹そのものの表情で紫リボンの死体を見下ろしていた。

その視線が、紫リボンと一緒に出てきたもう1匹の実装石へと移される。

「デヒャァァッ!?」

抜き身の刃のようなジョルノの視線を向けられた実装石が、パンコンしながら腰を抜かしてひっくり返った。

「デ、デェェー!!! ゆ、許してくださいデスゥゥー! ワタシはこいつにメイレイされてイヤイヤ従っていただけデス! こ、これからはニンゲンさんにメイワクをかけないようにツツマしく暮らしていくデス!
 仔も作らないデス! ゴミ捨て場も汚さないようにするデス! だから命だけは助けてデスーッ!」

実装石は額を地面に何度も打ちつけ、必死で助命を嘆願する。

ジョルノはその背中にも情け容赦なく鉄ヤリの先端を向け、偽石の位置を特定して突き刺そうとしたが、一緒に来ていた青年がジョルノの前に立ちはだかってそれを止めた。

「ジョ、ジョルノ13……もういいでしょう! あなたが依頼されたのは『紫リボン』の抹殺だったはずです。ターゲットは始末したんですから、これ以上の血を流すのは………」

「……………それもそうだな」

そう言って、ジョルノが青年と実装石に背を向ける。

そして実装石が、土下座をしたままの姿勢で口角だけをニヤリと上げようとしたそのとき—————

 ————— ドス —————

「デ………?」

ジョルノの投げた鉄ヤリが、青年の脇を通り抜けて実装石の背中に突き刺さっていた。

「な……なぜです!? 今、あなたはこの実装石ちゃんと許すと……」

そこまで言いかけて、青年は自分が「実装石“ちゃん”」と言ってしまったことに気づいて慌てて口をつぐんだ。

「………やはりお前がこいつらに情報をリークしていた愛護派か………」

「………し、知っていたんですか………」

「いくら知能の高い実装石とはいえ、役所の駆除係がやってくる日や時間を正確に知ることは不可能だ………となれば、人間の中に情報をリークしているものがいることは自ずと明らかになる。そして駆除の成果が落ち始めた時期と
 時を同じくして駆除係の志願者特別枠として採用されたものは………お前しかいない」

「………っっ! そ、その通りです………ですが、どうしてこの子まで!? この子は『紫リボン』に無理やり従わされていただけだと………」

「………こいつこそが本物の『紫リボン』だ………」

「ええっ!?」

青年が驚きの声を上げる。

「………恐らく前もって調子に乗りやすい糞蟲を側近として傍に置いておき、逃げる最中に『私はもう駄目だ、だからお前に全権を譲る』『これからはお前がこの公園のボスだ』とでも吹き込んで影武者に仕立て上げたのだろう。
 穴から出てくる前に服………いや、リボンさえ交換してしまえば、俺たちにはそれ以外にボスを見分ける目印などないからな」

そのとき、倒れ付していた実装石が顔を上げ、苦悶と憤怒の入り混じった表情でジョルノを睨みつけた。

ジョルノによる鉄ヤリの一撃は偽石をわずかに外してあり、本物の『紫リボン』は地面に縫いとめられたのみで、致命傷には至っていなかったのだ。

「……………ど………どうしてわかったデス………ニンゲンにはワタシたちのお顔の見分けなんてつかないはずデスゥ………」

その言葉でジョルノの言葉が正しかったことを確信した青年が、驚愕の表情で両者を見比べる。

「……………これだけの知能を持ち、今まで駆除の手を逃れて生き延びてきたほどの実装石が、追い込まれたからといって人間に向かってくること自体がそもそも不自然だ………即席で影武者に仕立て上げるためには
 糞蟲である必要性があったのだろうが………もう少し賢いやつを選ぶべきだったな」

「デ、デギィィィィ………!」

本物の『紫リボン』こと紫苑が、両目から血涙を流し、歯を粉砕せんばかりに噛み締めて悔しがる。

「そしてこんな手口を思いつくほど生きることに執着を持つ実装石であれば、追い込まれても必ず最後に自分だけは生き残る策を巡らせる………つまりお前が“最後に生き残ったこと”こそが、お前が本物の『紫リボン』であることの
 何よりの証明に他ならない」

「こ、こんな馬鹿なことが………デスゥ………」


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 PART.10 青年の未来は


ジョルノが鉄ヤリを紫苑の背中から抜き、すぐ傍にある偽石の位置に向けて構えなおす。

「デェェ………お、おいそこのニンゲン……ワタシを助けろデスゥ………」

切羽詰った紫苑は、最後の期待を込めて傍らの青年に助けを求めた。

だが、青年はジョルノのほうをちらりと見ただけでその視線に威圧され、ピクリとも動くことができない。

「な……なにをしてるデスこのグズニンゲン! さっさとワタシを助けろデギャァァ! そんなことだからオマエはカイシャをクビになるデス! 馬鹿ニンゲン! 無能ニンゲン! ほんとにお前は使えないデスゥ!」

口から血を吐きながら、紫苑があらん限りの悪口で青年を罵倒する。

それを聞いた青年の表情がみるみる曇ってゆく。

信じていた者、その者だけは自分を認め、必要としてくれていた—————そういう者に裏切られた、そんな顔だ。

呆然自失の青年にジョルノが語りかける。

「………これが実装石という生物の正体だ。自分のことだけを考え、ありとあらゆるものは自分に奉仕し、自分のための犠牲になって当然の存在と思い込む。当然どれだけ世話になろうと感謝の念も持たず、万一あったとしても
 自分の思い通りになる生活がほんの少し続いただけで、容易く糞蟲化してそれを失う………」

そう言いつつ、ジョルノは紫苑の偽石に向けて鉄ヤリを突き刺した。

 ————— パキン! —————

「デギャァッ!」

断末魔の叫びの後、紫苑の両目がみるみるうちに白く濁っていく。

さんざん役所の人間を悩ませ、公園の地下に一大帝国を築いた実装石の、あまりにもあっけない最期だった。

「僕は……………僕は今まで何をしていたんでしょうね……………こんな生物に利用されて………その挙句にこんな仕事に就いて……………」

青年がうな垂れ、自虐的に失笑を漏らす。

実装石の糞蟲性を知り、そのような生物にさえ利用されていたことに気づいて、心底自分の愚鈍さが嫌になったならしい。

「……男なんてのは、自分が一番良いと思う事をやるしかないんだ……たとえそれが、糞蟲に導かれて行き着いた仕事だとしても……な。そして、一度始めたら状況がどうなろうとやりきるしかない……」

ジョルノのその言葉に、青年がハッと顔を上げる。

「そうだ………こんな僕にだってできることはあるはずだ! よし………僕がこの町から実装石を一掃してやる! やってやる………やってやるぞ糞蟲どもめ!」

こうしてまた一人、新たな駆除派が誕生した。

「………後の始末は任せる………報酬は指定しておいたとおり、びわ湖銀行の口座に振り込んでおいてくれ」

「は、はい………どうも………どうもありがとうございました、ジョルノ13!」

頭を下げる青年を置いて、ジョルノは葉巻をふかしながら公園を後にする。

青年はその背中が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けていた………



— END —



次回予告。

ジョルノを憎悪する愛護派団体が、わざと飼い実装の殺しを依頼してジョルノを逮捕させようと罠を画策する。

それを看破したジョルノはいかにして偶然を装い、ターゲットの実装石を始末するのか?

次回、ジョルノ13(サーティーン)—————『不運と踊れ(ハードラック・ダンス)』

奴の後ろに立つな……命が惜しければ……


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あとがき


コンビニ版ゴ○ゴ13を読んで影響されたシリーズ第2段として書いてみました。

作中の催涙ガスの元ネタは『再発!ギラン・バレー症候群』から、そしてターゲットの実装石が目印を入れ替えることで影武者を立てるというネタは『TATTOO・刺青』から拝借。

あと、最後にジョルノが青年に語った台詞はどの作品かは知らないものの、ゴ○ゴの名台詞として有名なやつですね。

ちょっとだけ改変して使わせていただきました。

ジョルノ13は元ネタであるゴ○ゴに比べてちょっと饒舌すぎな気もしますが、そこはまあ……初期のゴ○ゴも結構おしゃべりだったということで。

また嘘予告まで入れといてなんですが、このシリーズはあまりウケがよくないうえ、そのくせ書くのも結構難産になりがちなので、今回で最後にしておきたいと思います。



次回作は……徹頭徹尾虐待するか、少し搦め手から攻めるか、両方のネタがあるのでどちらを先に書くか悩んでいるところですので、また少々お待ち下さい。

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1 Re: Name:匿名石 2016/08/06-13:49:04 No:00002467[申告]
ディテールがしっかりしててストーリーにもメリハリがあってええわ。
硫黄混ぜて毒ガスを作るくだりとか『あっ、これあうげぇゴル●っぽい!』と感動(?)した。
エサ撒きしてた人間も更生させて駆除派として自立させてるし大団円感がある。
手間が特にかかりそうなスクなのはわかるが、もし機会があったら次作も読んでみたい。
2 Re: Name:匿名石 2016/08/06-13:50:23 No:00002468[申告]
これあうげぇってなんだよw
『これスゲェゴノレ●っぽい!』のタイプミスです。
3 Re: Name:匿名石 2016/08/06-17:22:36 No:00002469[申告]
知能の高い獲物との(あいての)命を(一方的に)かけたハンティングにワクワクした
でも業者として、つまり仕事として殺るなら作業化して面白味も何も無くなっちゃうかー
と妙に納得

4 Re: Name:匿名石 2016/08/08-11:02:48 No:00002470[申告]
長編作品や設定の凝ったシリーズものは好き嫌いが分かれるからダウン数伸びづらいかもしれないけど
わかりやすい普通の虐待作品よりもこういう凝った作品の方が好きだからぜひこの路線も続けて欲しいです
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