タイトル:【?】 籠の中身は何であるか
ファイル:SPACE-NIGHTMARE.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1203 レス数:4
初投稿日時:2016/07/04-02:45:05修正日時:2016/07/04-02:45:05
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バチッ…バチッ…プツン……


『エラーを検知、乗組員の蘇生プログラムを実行。』
『解凍処置…液剤注入…活性剤注入…オハヨウゴザイマス』

ああ、また憂鬱な無機質な声だ。今度はどこが壊れたんだか?
体がぴしぴつと強張っている。さっさと仕事を片付けて眠ってしまおう
「ハァー…」
ため息ばかり増えた自分に嫌気がさす

ロッカールームに入って、いつものスーツを着る
脚立を使わないと着れないのでうっとおしい事この上ない
だが着ないと仕事が出来ない、憂鬱で仕方がない
「ハァー…」
『装着ヲ確認シマシタ。本日ノ仕事場ハ、D−28デス』
着終わるとせっつくようにアナウンスが流れるのもため息が出る原因だ
「…ハァ」

船、宇宙船はA〜Dの外部ブロックと中央のメインブロックで構成されている
そのだだっ広い宇宙船のメンテナンス要員はたった一人
嗚呼、憂鬱だ、起きていると疲れる事ばかり目に入る
「ェ…ッ…ハーァ……」
早く終えて眠りたい、起きていてもろくな事が無い










窓のない通路を抜けて、Dブロックへ入り、目当ての28番ユニットへ
上下左右も糞も無い無重力状態の部屋へ入るとアナウンスが流れた
『破損個所ハ壁面パネル、Ⅲ−23、部品ガ一ツしょーとシマシタ』
アナウンスは丁寧に教えてくれるが、そこまでわかるなら自動で部品を交換できるようにも作れそうなものなんだがなぁ

ねじを外して、蓋を開ける
中で1つ、チップの足元が黒く焦げていた
基盤毎取り換えねばどうにもならない、これが別の取り換え可能な部品ならそこだけ変えればよかったのだが

ふむ、その辺のファジーな思考は機械では無理なのか?


基盤を入れ替え、パネルを戻す
そのときうっかりねじを無重力の海に放り出してしまった
「ッ…、ハァ…」
つかむ、逃げる、つかむ、逃げる、つかむ、逃げる
ねじはさも生き物かの如くスーツの指から逃げる

「ハァ」
仕方がない、生身でつかもう
ヘルメットを開けて、そこから出る
スーツの腕を伝って、生身の、指の無い手でねじを掴んで、それをスーツの指に挟みこんだ。


これで良い、さっさと仕事を終わらせよう










D−28での仕事を終えて、帰る時にうっかり窓を見てしまった
これだから外部ブロックでの仕事は嫌なんだ
外部ブロックには窓が付いているんだから

窓には二つのものが映っている
1つは宇宙、一つは僕自身の鏡像

鏡像は緑の右目と朱い左目をしていた、否応も無く真実を告げてくる

つくづく、このプロジェクトを考えた奴は救いようの無いサディストだと思う

「デ…ハァーァ」

ああ、くそ、言葉が半分出かけたのかよ
僕が実装石になってしまった事を認識してしまうから喋りたくなかったのに

外宇宙への人類進出に向けて、コールドスリープが実用できなかった世界
それでも人類は外へと出たがった、そして技術が無いなりに無茶な解決方法をいくつか作り、実行したのだ

その一つが、僕の有様だ
これを考えた奴は、本当に、救いようの無いサディストだ

実装石の体なら、カラカラに干からびてもそこから水を与えるだけですぐ復活する
偽石だってちょっとした薬液に付けておけば何年も、ずっと綺麗なままでいる

実装石は馬鹿で、細かいことが出来ない?
ならば人間を実装石にしてしまえばいい。幸いにもそれは既にあるのだから


実装病なんて、忘れ去られたままでいてほしかった


おかげで僕は干物からの黄泉がえりを何度も何度もするハメになってしまった










一仕事終えてもコールドスリープ()から目覚めた以上、まだ仕事は残っている
眠っていた間のログチェックと、体力の回復だ

体力の回復、具体的に言えば食事と運動だ
「ハァ…」
その食事がまたこれ以上なく憂鬱だ



なにせ、食事すら実装石の特性を全面に押し出した仕様になっているのだから
この艦においては食事は憂鬱な作業で、楽しめるものではない



食糧区画に行くと、実装石が何体も干物の氷漬けになって保存されている
他のクルーではない

これらは全て僕の娘だ。絶対に認めたくないけど

なんでも、実装石にとっての一番理想的な食糧が実装石なんだとか
おまけに実装石を使うならば小難しく生命の循環環境を作る必要もない
実装石だけのコンパクトな循環環境だけで済む

後続に居るはずの、人間が、人間のまま積まれているはずの世代交代型生命循環型宇宙船は
なんでもコロニーよりも少し大きいくらいになってしまったそうだ


干物の氷漬けの1つを取り出し、作業台に磔にする
初めてこの作業をした時、固定もせずに作業をしてあっちこっちに蛆やら糞やら飛び散って酷い事になった

乾燥実装石に水をかけるとみるみるうちに膨らんで、そのうちぴくぴく動き出した

「ェェッ…デギャァアアアアアアア!」
そして僕の顔を見るなり叫びだした

刃物を取りだし、実装石の腕を傷つけて血を取る

「嫌デス!嫌デス!ママ止めてデス!」
「…ハァ」

この作業の嫌な点は実装石の言葉がリンガルも無しにわかってしまう事だ
そしてどいつもこいつも僕をママと呼んで命乞いをする

僕は、実装石なんかじゃ、無い。

採った朱い血を実装石の緑の目に注ぐ

「ヤアアアアアア!もう嫌デス!産みたくないデス!止めて!止めてデス!」

ぶりょぶりょと間抜けな音がして蛆実装石が落ちていく
仔どころか親指も居ない。そうか、こいつはもう駄目か

「ママは悪魔デス!自分の孫を貪る悪魔デス!地獄に落ちてしま」

ぶちりという音がして実装石のがなり声が止む
スーツには実装石の生首が握られている

「ハァ…」

憂鬱だ。規定ではこの後一匹産み直さなくてはならないからだ。
仮にも、僕は元は男だったのに

つくづく、この艦の仕様を定めたの最低最悪の糞野郎だ


「ハァ……デー…ハァ。」
今、心の底から塩が欲しい

首のない実装石の股の下には、蛆実装が山と盛られたボールが一つあるだけだった










そうして一週間ほど、ログチェックと体力回復に努めたあと
再びコールドスリープに入る

コールドスリープとは名ばかりで、実際は実装石の特性に頼りきったただの仮死である
はっきり言って、毎度死にたくなるくらいに苦しい

でも死ねない、死なせてもらえやしないのだ
そのために、偽石だけは艦のAIに管理されている

さしずめ、僕は艦に繋がれた囚人のようなものか

『こーるどすりーぷ、開始シマス。』
ああ、はじまった
シューという音がしてカプセルの中が真空になっていく

もちろん、窒息する
実装石の体とはいえ苦しいものは苦しい、むしろ壊れやすい分人間の時以上に苦しみが大きくなった気さえする

「ゲッ…カペッ…デッギュ…デギィアァァァ…」

真空にするとはいってもすぐには抜けず、ゆっくりと窒息するハメになっている
その間、僕はか細い実装石の悲鳴を上げながら穴と言う穴から汁を垂れ流す地獄に居る

ゆっくり空気を抜くことで腹の汚物やら、余分な水分やらを無理矢理引きずりだすだとか、そういう話らしい
僕は忘れていない、出発前の最初のコールドスリープの時、あの糞野郎は苦しむ僕を見て確かに笑っていやがった

「ヶッ…ヶッ…ッ…っ……」

もう声らしい声も出ない、吸える空気も無い
そろそろ僕の意識が落ちる

願わくば、もう目的地に着くまで何も壊れない事だけを祈る


もう、起きたくない、蘇りたくない。

何度も何度も生死を行き来するなんて経験、人間の記憶力と精神じゃぁ耐えれたもんじゃない。
こんなものに耐えられるのは、忘れっぽくて単純な、実装石くらいなものじゃぁないのか?


「キューーーーッ」

喉から肺の中の最後の空気が吸い出されて、嫌に甲高い音が聞こえた


『内容物排出処理完了、乾燥、冷凍…偽石チェック。』

『オツカレサマデシタ、オヤスミナサイ』










ああ、そういえばこのコールドスリープとは名ばかりの代物にも利点はあった
それは、夢を見なくて済むということだ

臨死の一瞬の意識で、ふとそんな事を思った















後にはただ、暗闇の中にかすかなモーター音が響くばかり

星の最果てへ。実装石一匹だけの為の檻は、静かに航程を進む













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1 Re: Name:匿名石 2016/07/04-21:49:29 No:00002433[申告]
この世界に足を踏み入れてまだ日が浅いから
実装病なんて単語初めて知ったんで、保管庫の用語集で調べちゃったよ

不気味な雰囲気だけど虐待でもなく愛護でもなく、まさに【?】としか表現しようのないスクだね
ちょっと火の鳥宇宙編っぽい
2 Re: Name:匿名石 2016/07/04-23:01:42 No:00002434[申告]
起承転結もきちっとしていて気持ち良いし、
文章もすごく読みやすい。
世界観にグイグイひきこまれた。
すごい人がいたものだ。
3 Re: Name:匿名石 2016/07/05-02:19:14 No:00002435[申告]
セルフまとめがてら、過去に投下したスクを関連に放り込んでみました
よろしければご一緒にどうぞ
4 Re: Name:匿名石 2016/07/05-12:48:14 No:00002436[申告]
SFなのかホラーなのか……
しかし実装病がある世界だったらどこかの国が実行しそうに思えるプロジェクトで妙なリアリティと迫力を感じた。
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