タイトル:【虐】 実装専門放火魔 番外編 プロメテウスの日常
ファイル:【虐】実装専門放火魔 番外編 プロメテウスの日常.txt
作者:ジグソウ石 総投稿数:42 総ダウンロード数:2171 レス数:5
初投稿日時:2016/04/26-00:41:14修正日時:2016/07/23-03:13:11
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 ※人間と実装石の会話は全てリンガル使用済みとしてお読みください。

その虐待派の男は特殊な嗜好を持っていた。
他の虐待派にありがちな、バールでの殴打などの直接的攻撃を好まない。
男が好むのは、実装石を火だるまにして、その踊り狂う様を楽しむことだった。

その実装石は、他の飼い実装とは違っていた。
実装石でありながら、他の同属を虐待することに何の良心の呵責も感じない。
だからといって糞蟲化しているわけではなく、飼い主に対してはどこまでも従順であり、実装石としての分を弁えていた。
その実装石が主人の完璧な下僕たらんとするのは、全て主人への絶対的な忠誠心からであった。

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ワタシの名前はプロメテウス。
ゴシュジンサマの忠実な飼いジッソウだ。

かつてはアイゴハのゴシュジンサマに飼われていたが、ある日突然公園に捨てられ、野良ジッソウに服と髪を奪われて禿裸にされた挙句
磔にされてカラスに体を啄まれていたところを今のゴシュジンサマに拾われた。

今のゴシュジンサマはギャクタイハと呼ばれるニンゲンさんであり、私と同じジッソウに火をつけて焼き殺すのを何よりの楽しみにしているという
ジッソウにとってはとてもオソロシイニンゲンさんだが、ワタシにとっては新しい服を与えてくれたうえ、カツラを作って髪を元に戻してくれた大恩人だ。
ワタシはゴシュジンサマのためなら、他のジッソウをジゴクに引きずり込むのに何の後ろめたさも感じない。



「ゲェッホゲッホ!!!」

「デェ……ゴシュジンサマ、大丈夫デスゥ?」

「ああ、ちょっと風邪気味なだけだ。薬飲んどけばすぐに治る」

そう言いながら、ゴシュジンサマはカプセル状の薬を口にポイと放り込む。

「この世にたった一つだけ完璧なものがある……それは正義超人の友情さ……」

「男であったぞ喧嘩男デスゥ!」

ゴシュジンサマの唐突すぎるボケにすかさずツッコむのもワタシの大切なオシゴトだ。
こういうことにも対応できるよう、ワタシは文字を教え込まれたうえで、ゴシュジンサマの所有する漫画を全て読み込み、見た映画の内容を暗記している。

それにしてもゴシュジンサマは本当にゆで○まご作品が好きだ。
前にワタシが些細な粗相をして、ゴシュジンサマに「このウスノロがーっ!」と怒鳴られたとき、すぐに「おらウスノロじゃねえデスゥーッ!」と返せなかったせいで
顔面に蹴りを食らって両目玉が飛び出したが、ゴシュジンサマが自分でやったくせに、片腕しかない毒手使いの拳法家みたいに「こりゃひでえ……即死だ」と呟いていたのも記憶に新しい。
それにゴシュジンサマが次の遊びのために作ったあのキカイは、まさにゴシュジンサマが大好きな『闘○!!拉○男』に出てきた“アレ”そのものだ。

「そんなことより、新しいオモチャの実験台を浚いに行くぞ。着替えてついて来い」

「デスッ」

『了解しました』の意味を込めて敬礼し、服を通常の緑のものから、飼いジッソウ仕様のピンクのものに着替える。
そして首輪をはめれば準備完了だ。



ゴシュジンサマはかなり大きめのダンボールを用意し、それを台車に乗せてゴロゴロと押して歩いている。
この箱は公園にいる野良ジッソウを入れて連れ帰るためのものだ。
この箱のサイズなら、成体ジッソウでも三匹、仔ジッソウなら十匹以上は座って入れる。

公園に着くと、ゴシュジンサマはベンチの前に陣取って野良ジッソウたちにコンペイトウをばら撒き始めた。
その姿はアイゴハそのもので、バカな野良ジッソウたちはゴシュジンサマが実はギャクタイハであるなどとは全く気がつかない。
ワタシはベンチの上に立って、その光景を眺めていた。

「今日はここにいる皆にいい話があるんだ。なんと、ウチに来て僕の飼い実装になってくれる子を大募集しちゃう!」

その言葉に、集まっていた野良ジッソウたちが色めきたつ。

「ウチの飼い実装になればコンペイトウ食べ放題! 今ならフリルのついたピンクの実装服もプレゼントしちゃおう! そう、この子みたいに!」

ワタシはゴシュジンサマがワタシを指差すと同時にポーズをとり、「デッスゥ〜ン♪」と誇らしげな声でアピールしてみせる。
普段ならこんな声を出せばその場で舌を引っこ抜かれ、さらにそれを鉄板で焼いたものをその日の夕食にされるというギャクタイコースが待っているのだが、この場でだけは許されているのだ。

「す、すごいデスゥ! このドレイニンゲンの飼いジッソウになればテンゴク行き間違いなしデスゥ!」

野良ジッソウたちはもう勝手な妄想を抱き、シアワセな未来を思い描いている。
あまつさえ、すでにゴシュジンサマを“ドレイニンゲン”扱いとは……実に浅ましく、醜い姿だと思う。

確かにオマエたちは逝けるだろう。
ただしそれがテンゴクかジゴクかの保障はしないが。

ワタシは元々ショップ出身で、飼い実装となるべく生まれたときから最低限の躾は受けていた。
それに加えて、糞蟲にならないよう今のゴシュジンサマによってさらに厳しく躾られたことで、今ではこいつらのバカさ加減にも気づくことができるようになったが
もしもあのまま前のゴシュジンサマに飼われていたり、公園の野良ジッソウとして過ごしていたら、ワタシもあのように愚かな糞蟲に成り果てていたのだろうか?
そう考えると、ゴシュニンサマのギャクタイじみた躾にさえ感謝の気持ちが湧いてくる。



アホな野良ジッソウどもに対して、ゴシュジンサマがとどめの誘い文句を告げる。

「だけど残念、今日連れて行けるのは成体実装たった三石! そしてその家族だけなんだ。申し訳ない!」

ゴシュジンサマのその一言を皮切りに、野良ジッソウたちが一斉に取っ組み合いの喧嘩を始める。

「デッジャァァァ! 飼いジッソウになるのはワタシデッスァァ!!!」

「オマエみたいな糞蟲が飼いジッソウとか笑わせんなデスゥゥ! 飼いジッソウになるのは高貴で気高いワタシが相応しいデギャアァ!!!」

野良ジッソウたちは地面を転げ周り、殴り合い、噛みつき合い、お互いの腕や足、そして命より大事なはずの髪や服まで失っていく。
それが自分たちの価値をさらに貶めているのだが、欲に目が眩んだ野良の知能ではそれに気づけない。

数分後、ベンチの前には四体の野良ジッソウだけが生き残っていた。

生き残っているといっても、全員が髪か服、もしくは両方を失って禿裸となり、手足を失っていないものは一匹しかいない。
ある一匹などは、逆に四肢を全て失ったおかげで脱落したとみなされ、生き残れたようなものだ。
だが、ゴシュジンさまはそんな連中には目もくれず、少し離れたところから遠巻きに見ていただけの、まだ髪も服も残ったままの一匹に手招きする。

「君は最初から争いに参加しないほうがいいと思っていたのかい?」

「どうせ生き残っても禿裸では飼ってもらえないデスゥ。もしも飼ってもらえなければ、ただ禿裸になって大損こいただけになるデスゥ。ワタシはこのアホどもとはココの出来が違うデス」

そう言いながら、頭まで届かない手で頬をツンツンとつつく少々賢い野良ジッソウ。

「よし、君は合格だ。もし家族がいるなら仔や姉妹も連れてくるといい」

ゴシュジンサマにそう言われて、野良ジッソウは自分の子供たちを連れてきた。
仔ジッソウが六匹と、オヤユビちゃんが一匹、そしてウジちゃんが一匹。

その親仔をダンボールに入れると、ゴシュジンサマは後ろを振り返ってワタシに告げる。

「(そいつらは駄目だ。アホすぎて興が削がれる。プロメテウス、お前が後始末をしておけ)」

「(了解デスゥ)」

ダンボールの中の親仔に聞こえないよう、お互い小声での耳打ちだ。

ゴシュジンサマがご自身でジッソウを殺すときは、火をつけて燃やすか、熱いものを押し当てて胸のおイシがパキンするまで苦しめるか、いずれにせよ必ず火傷を負わせて殺す。
ゴシュジンサマが火を扱うことのできないワタシに後始末を命じるときは、ゴシュジンサマ自身にその気がないときだ。
とはいえ、この騒ぎの目撃者や当事者は全て始末しておかないと、生き残ったやつが他の連中に今回の顛末を伝えて、また次回同じようなことをするときに警戒されてしまうおそれがあるので
生存者を残しておくわけにはいかないのだ。

ゴシュジンサマは目当ての家族を見つけてもう帰り支度を始めている。
あまり時間をかけるとジッソウであるワタシの足では追いつけなくなってしまう。
手早く始末しないと。

ワタシはゴシュジンサマにもらった“丸棒ヤスリ”を背中に忍ばせたビニール製の鞘から抜いた。
これは釘などでは成体のワタシには短すぎて使い勝手が悪く、千枚通しなどでは長すぎて服の中に入れておけないため、ゴシュジンサマが丁度いい長さの武器として与えてくれたものだ。
全体は細長い葉っぱのような半円状をしているが、先端は針のように尖らせてあり、ジッソウの体など簡単に貫くことができる。
しかもザラザラした部分が傷口の肉を引っ掻くことにより、ただ殺すだけなら無用な痛みまで与えるあたり、さすがはギャクタイハのゴシュジンサマらしいと思う。

「デエッ!」

 ——— ブスリ! ———

まずはうつ伏せに倒れている野良ジッソウの、胸のあたりに棒ヤスリを突き刺す。

「デゲェッ!」

刺した部分におイシはなかった。
もしもそこにあったなら、一撃で終わって手間が省けたのだが。

「デッ!」

 ——— ドスッ! ———

次は頭、首の後ろの窪みよりも少し上あたりを狙って突き刺した。

「デガッ……」

ここにもおイシはない。

おイシの位置はジッソウごとに様々だが、大体は胸の真ん中から少し左、ニンゲンさんでいう心臓のあるあたりか、頭なら後頭部ど真ん中の少し下あたり
ニンゲンさんでいえば延髄のあたりにある場合が多いので、そこら辺にあたりをつけて狙ったのだが、どちらも空振りに終わってしまった。

仕方がないので、棒ヤスリの薄くなった部分をノコギリのように使って首を切り落とすことにした。
肉はともかく、ジッソウの力で骨を断つのは少し手間がかかるけど、首を切り離しておけば目が灰色に濁らない仮死状態でもなかなか再生できない。
そうしておけば、公園では悠長に再生などする前に、他の野良ジッソウのエサになってしまうのだ。



幸いにも、首を切り落とすところまでやらなければならなかったのは二匹だけで、もう二匹は二撃目までにおイシを砕くことができた。
急いでゴシュジンサマのところへ戻らなければ。

公園の入口まで必死に走っていくと、ゴシュジンサマが待っていてくれた。

「(ちゃんと全員始末したか?)」

「(バッチリデス)」

「よし、お前もダンボールの中に入れ。お前の歩くペースに合わせていたら帰りが遅くなる」

「ハイデスゥ」

ダンボールの中に入れられると、先客である野良ジッソウの親仔たちと顔を合わせることになった。
親を入れると九匹の大家族だ。

これだけの仔が食われることも間引きされることもなく生き残っているということは、この親ジッソウの教育と躾が高いレベルで行き届いているということと
それをやってのけた親ジッソウ自身もかなり知能が高いことを表している。

「あなたは先に飼われていた方デスゥ? ワタシの子供たちともども、これからよろしくお願いしますデスゥ」

ぺこりと頭を下げる親ジッソウ。
一般的なジッソウや糞蟲なら、自分たちだけがゴシュジンサマの寵愛を受けるのが当然のように思い込み、尊大な態度を取ってくるものだが
やはりこの親は野良とは思えないほど頭のいいジッソウらしい。

「こちらこそよろしくデス。ワタシはプロメテウスというデスゥ」

「デェェ、カッコいいお名前デスゥ……ゴシュジンサマのお家に着いたらワタシやこの仔たちもそんなリッパなお名前をつけてもらえるデスゥ?」

「きっと皆いいお名前をつけてもらえるデス」

無論これは嘘だ。
ゴシュジンサマはこの親仔をギャクタイするつもりで連れ帰るのだから、飼いジッソウの証であるお名前などつけてもらえるはずがない。

「テチィー……オナマエつけてもらえるテチ?」

「そうデスゥ、オマエは賢くてカワイイから、きっとスバラシイお名前をつけてもらえるデスゥ」

「オネチャばっかりズルいテチ! ワタチもカッコいいオナマエつけてもらうデチ!」

「これ、あまりワガママをいって騒いじゃダメデス。そんな仔は糞蟲デスゥ。いい仔にしてないとお名前もらえないデスゥ?」

「テェェ……イイコにするテチィ……」

「そうデス、ようやくわが家にもシアワセになれる日がやって来たデス。このシアワセを大事にしないといけないデスゥ」

その期待は間もなく裏切られることになるのだが、それを知る術はこの親仔にはない。
シアワセを夢見る親仔の会話に多少のアワレミを覚えないでもないが、ワタシはただゴシュジンサマへの忠義を尽くすだけだ。



そうこうしているうちにゴシュジンサマのおウチに到着した。
ゴシュジンサマはワタシたちの入ったダンボールを乗せた台車を押したまま、お庭のほうへと歩いていく。

このウチのお庭は結構広い。
他のニンゲンさんのおウチを見る限り、ジッソウにとってだけでなく、ニンゲンさんの基準でも広いほうに違いない。
ゴシュジンサマはゴシュジンサマの親からこのおウチを受け継いだらしいが、このお庭の広さだけを見ても、ゴシュジンサマが裕福な部類のニンゲンさんであることが分かる。

「デェェ……スゴク大きいおウチデスゥ。ここならきっとおいしいゴハンがオナカいっぱい食べられるデスゥ」

目の前の親仔もまた、自分たちが拾われたのが裕福なおウチであるのを悟ったのか、期待に目を輝かせていた。
いかに賢い個体といっても、やはり野良ジッソウは野良ジッソウだ。
少しイイコトがあったり、そういうことへの期待を感じただけで、すぐに“シアワセ回路”が都合のいい妄想を描き出してしまう。
ゴシュジンサマにとってこのお庭の広さは、火をつけられたジッソウが転げ回っても他の場所に燃え広がらないので丁度いいというものでしかないのに。

ワタシ自身でさえ、少しでもゴシュジンサマの機嫌を損ねたらいつ焼き殺されるか分からない。
ギャクタイハのニンゲンサンに飼われるというのはそういうことだ、ということを理解しているからこそ、辛うじて上手くやれているにすぎないのだ。



台車が止まり、ワタシを含めた十匹のジッソウが地面に降ろされる。

目の前には広いお庭、そして成体ジッソウなら三〜四匹ぐらい入れる広さと、仔ジッソウの身長では丁度よじ登れないぐらいの深さに掘られた穴が一つ。
ゴシュジンサマはその穴の中に、ウジちゃんやオヤユビちゃんを含めた仔ジッソウたちを全員入れた。

「デ、デデッ? ゴ、ゴシュジンサマ、何をするデス? 子供たちをどうする気デスゥ?」

ゴシュジンサマはそれには答えず、縁側にあったキカイを持ってくる。
今回のギャクタイのために、ゴシュジンサマが数日前から作っていたものだ。

それは、大きな天秤だった。
その片方には、庭に掘られた穴と丁度同じくらいの大きさのタライが吊り下げられていて、その中にはたくさんの石と炭が入っている。
もう片方にもタライが吊り下げられているが、そちらには何も入っておらず、タライには何箇所か穴が開けられていた。

ゴシュジンサマは石と炭が入った方のタライに軽く灯油を注ぎ、火をつける。
たちまちタライが炎上し、中の炭が真っ赤に燃え、石が焼けはじめた。
『闘○!!拉○男』に出てきたやつは天秤の片方がトゲトゲのついたオモリになっていたが、燃えるタライにアレンジしてあるあたりがゴシュジンサマらしい。

ゴシュジンサマは燃え盛るタライのあるほうを、仔ジッソウたちが入った穴の真上にくるようにセットし、もう片方のタライを足で踏みつけて親ジッソウに告げた。

「このタライが下に落ちれば仔実装たちは焼け死ぬ。運良く一回で死ななくても、大火傷を負って苦しむ時間が長引くだけだ」

「デ、デェェェッ!?」

「それを防ぐ方法は一つしかない……プロメテウス、手本を見せてやれ」

「ハイデスゥ」

ワタシは返事をすると、天秤から数メートル離れたところにある水道の蛇口まで走ってゆく。
そこにはニンゲンさんの子供が使うビニールプールが用意してあり、たっぷりと水が張られていた。
そこから水道の横に置かれていたバケツに水を汲んで天秤のところまで戻り、空のタライに注ぐ。

「こうやって水を注ぎ、もう片方のタライと重さのバランスをとってやれば仔実装たちは焼け死なずに済む。ただし、タライには穴が開いているから水はどんどん漏れ出していく
 仔実装たちを死なせないためには、何度も何度も往復しなければならない」

「デェェ……ど、どうしてデスゥゥ! どうしてこんなことをするデスゥ!? ワタシたちを飼ってくれるんじゃなかったデスゥゥ!?」

「ああ、ごめん。それ嘘。ただお前らを虐待して遊びたかっただけ」

「デギャァァァッ!? このニンゲンはギャクタイハだったデスゥゥ!?」

ようやく自分たちの置かれた状況を理解した親ジッソウが、地面をバンバンと叩きながら悔しがる。

「今頃気づいても遅えよ。いずれにせよ、やらないと仔実装たちが死ぬぞ? 水の入ってない状態から初めてもすぐに終わっちまうから、最初はお前じゃなくてプロメテウスに水を汲ませて
 燃えてる方とのバランスがとれるまでこっちの方を支えててやるよ。天秤が丁度地面と平行になったらゲーム開始な」

そういうルールで始めることは前もって聞かされていたので、ゴシュジンサマの指示を待つまでもなく、ワタシはすでに何度も水をタライに注いでいた。
水が流れ出す速度はさほど早くないとはいえ、タライをいっぱいにするのはかなりの重労働だ。

「よし、これで大体平行……だな。じゃあゲーム開始だ。ああ、一つ言っておくが、その水をこっちの燃えてる方にかけて火を消そうだなんて思うなよ。天秤の真ん中よりもこちら側に来ようとしたら
 容赦なくお前を蹴り飛ばす。そうなったら、水が漏れる早さに追いつけなくなって確実に仔が死ぬぞ」

そう言い終わると同時に、ゴシュジンサマが天秤を支えていた手を離す。
すると、漏れ出した水のぶん軽くなったタライのほうがゆっくりと持ち上がり、燃え盛るタライのほうが仔ジッソウたちの入った穴へと落下しはじめた。

「「「テ(レ)ヒャァァァーーーーーーー!!!!!」」」

穴の中から仔ジッソウたちの悲鳴が響く。

「デ、デェェェェッ!」

親ジッソウは慌ててバケツを拾い、ビニールプールへと走り出した。



「ご苦労だったなプロメテウス」

最初にタライをいっぱいにするのに何度も往復し、ゼェゼェと息を切らすワタシにゴシュジンサマがねぎらいの言葉をかけてくれた。

「デェェ……な、なんのこれしきデスゥ………」

「さあて……面白いゲームになるといいんだがなあ」

「そういえばゴシュジンサマ、このゲームってどうなったらあの親仔の勝ちデス?」

「あ、そういえば決めてなかったわ。最初から殺す気満々だったし」

「……………」

「うーん、まあもうすぐ日が暮れるし、太陽が完全に落ちるまで耐え切ったらあいつらの勝ちってことでいいんじゃないか。それか、ビニールプールに溜めてある水が全部なくなったらとか」

ゴシュジンサマは計画的なように見えて、こういうところが結構雑というか、行き当たりばったりだ。



穴の中の様子を窺ってみると、早くも仔ジッソウたちのシュラバが繰り広げられていた。

「テヒィィー! アツイテチ! あんなのが落ちてきたら死んじゃうテチャァァ!」

「チイサイイモウトチャたちは伏せるテチ! オヤユビちゃんとウジちゃんをミンナで守るテチ!」

「レチィィ! タスケテレチ! ママ! ママァァ!」

「レ? なんだかさわがしいレフ。オネチャたちナニをそんなにあわててるレフ?」

「テチャァァー! ママは何してるテチィ! 早くカワイイワタチを助けろテチィィ!!!」

一番落ち着き、妹たちを守ろうとしているのはおそらく長女だろうか。
そして先ほどダンボール内で名前をねだっていた仔だと思われるが、早くも糞蟲化している仔までいる。
このゲームの恐怖にどこまで耐えられるか、仔ジッソウたちにとってもこれは自分との戦いだろう。

そんなことを考えながらビニールプールのほうに目をやると、親ジッソウのほうはすでにかなり息を切らしている。
あの親ジッソウは野良にしてはイマイチ体力がないみたいだ。
それ以前に、バケツに水を汲む動き一つとってもなにやら鈍くさい。
転ぶんじゃないかな、転んだりしたら水を注ぐのが遅れてえらいことになるぞ、などと思いながら見ていたら……案の定、親ジッソウが転んで盛大に水をぶちまけた。

「デゴァ!」

転んだ表紙にバケツの底で顔面を強打したらしく、親ジッソウは鼻を押さえて転げ回っている。

「おい、そんなことしてる場合か。仔が焼け死ぬぞ」

「デァァッ!?」

ゴシュジンサマに言われて、親ジッソウはボタボタと垂れた鼻血が服を汚すのも構わず、慌ててビニールプールのほうへと戻る。
けど、バケツを持ってくるのを忘れており、水を汲むことができない。
再び転んだ場所まで走って戻る。
やっぱり頭の出来とは裏腹に、この親ジッソウはどうにも鈍くさいようだ。



そんなふうにもたついている間に、タライからは水がどんどん漏れて軽くなっていく。
そしてそれとは逆に、熱いほうのタライはどんどん仔ジッソウたちのいる穴へと下がっていく。
すでに灯油は燃え尽くして炎そのものは治まっているけど、中の炭と石はまだ真っ赤に焼けたままだ。

よく見ると、水の入っているほうのタライが持ち上がるスピードが上がっている気がする。
いや、確かに早くなっている。
それどころか、タライから漏れる水の筋の数が増えているような気さえする。

「……ゴシュジンサマ、あのタライに何かしたデスゥ?」

「ふふ、気づいたか。実はな、あのタライに開けた穴のうち、数箇所に大きめのラムネ菓子を貼り付けて塞いでおいたんだ。タライに水を注ぐと、それが時間とともに溶けて水の漏れる穴が増えるのさ」

「えげつない罠デスゥ……」

親ジッソウは懸命に走って水を注ぎ続けているが、だんだん疲れて走るのも遅くなっていく。
そしてついに、熱いほうのタライの底が穴の中へと吸い込まれていった……

 ——— ジュゥゥゥ…… ———

「テヂィィィィィッ!!!!!」

仔ジッソウの鋭い悲鳴が聞こえた。
けど、それと同時に親ジッソウがもう片方のタライに水を注いだため、再び熱いほうのタライが少しだけ持ち上がる。

穴の中を覗き込んでみると、仔ジッソウのうちの、長女と思われる一番背の高い仔が頭を押さえて蹲っていた。
頭巾が焦げて頭を軽く火傷してはいたが、命に関わるようなケガではない。
その仔がつっかえ棒代わりになったおかげで、他の仔ジッソウたちは無傷だったみたいだ。

「テチャァァ! 座るなテチィィ! オマエが立ってジッソウ柱にならないとミンナがアツイアツイになるデチィィィ!!!」

糞蟲と化した仔が火傷を負った仔に何度も蹴りを入れるが、長女らしき仔は火傷の痛みで立ち上がれない。
そして再び熱いタライがゆっくりと下がってきて………今度は立っている仔ジッソウ全員の頭を焦がした。

 ——— ジュジュゥゥゥゥゥゥ……… ———

「「「テヂャァァーーーーーーー!!!!!」」」

少し遅れて親ジッソウが水を注ぎ、再び熱いタライが持ち上がる。
糞蟲もそうでない仔も分け隔てなく、六匹の仔ジッソウたちは頭を焼かれて蹲っていた。
もう一度タライが落ちてくれば、今度は仔ジッソウだけでなく、オヤユビちゃんやウジちゃんも焼かれてしまうだろう。



親ジッソウがプールへ向かって走る。
水を汲む。
天秤のほうへと戻って………疲れが限界にきていたのか、足がもつれて再び転んだ。

「デ、デジャァァァ!!!」

親ジッソウが立ち上がる間もなく、熱いタライが穴の中へと吸い込まれていく。
これで仔ジッソウたちも終わりか———そう思ったとき、親ジッソウが驚くべき行動に出た。

「デッスァァァ!!!!!」

水の入ったタライに飛び込み、自らが重しとなって天秤を傾けたのだ。

「あっ、テメエ! さすがに反則だろそれは!」

仔ジッソウたちを助けるのには成功したが、この親ジッソウはゴシュジンサマの怒りを買った。
一体どんなオソロシイ目にあわされることやら。
そう思って見ていたが、意外なことにゴシュジンサマはニヤニヤと笑っていた。

「………なーんてなwww それも最初から想定済みよ」

「デ? デェェ?」

親ジッソウがのしかかっているにもかかわらず、水が抜けていくとともに熱いほうのタライが下がっていく。

「ちゃあんと成体実装の平均体重を考慮したうえで、焼け石の入ったほうのタライはそれより重くなるようにしておいたんだよ」

「デァァァーーーーーーー!!!!!」

親ジッソウの叫びも空しく、熱いタライが穴の中へと落ちていく。
けど、それが穴の中に落ちる前に、ゴシュジンサマが天秤の真ん中を掴んでそれを止めた。

「デ、デェェ? 助かったデスゥゥ!?」

「いーや、助けてなんかいねえよ。お前は反則をしたからな。このまま仔を殺しても面白くないから、ちょっとペナルティを与えてやろうと思ってな」

「デギャァァッ!?」

ゴシュジンサマは天秤を支えたまま、親ジッソウの頭を掴んで持ち上げる。
そして親ジッソウを熱いタライのほうへ連れて行き、仔ジッソウたちが捕われている穴へと放り込んだ。

「デェェッ!」

親ジッソウは一瞬呻いたが、周囲に自分の仔らがいるのを見つけると血の涙を流して喜んだ。

「デェッ? オマエたち、無事だったデスゥ!」

「テェェーン! ママァ!」

「ゼンゼン無事じゃないテチィィ! ママのせいでワタチのカワイイ頭が台無しテチャァァ!!!」

再会を喜ぶ仔、親ジッソウを口汚く罵る糞蟲、反応は様々だが、とりあえずは安堵したことだろう。
しかしワタシのゴシュジンサマはそんなに甘いニンゲンさんではない。

「ママ! 上テチィ! 危ないテチャァァ!!!」

仔ジッソウの声で親が慌てて上を向こうとする。
そのときには、すでに熱いほうのタライが親ジッソウの頭を直撃するところだった。

「デゲァ!」

さらに焼けたタライが頭のてっぺんを焦がす。

 ——— ジュキュゥゥゥゥゥ……… ———

「デッギャァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

親ジッソウの悲鳴がお庭に響き渡る。

「ほれほれ、しっかり支えてやらないと仔が死ぬぞー」

ゴシュジンサマはそう言うが、そもそもジッソウは頭の上まで手が届かないのだ。
上から降ってきたものは頭で支えるしかない。
いくら熱くても、体を曲げてしまえば背中まで焼かれてしまう。

けど、親ジッソウは苦しみに耐えかねてだんだんヒザが落ちている。
徐々に両手が前に下がり、後頭部が、そして背中が焼かれ始める。

「デギィィィイーーーーー!!! デガッ………デァァァーーーッッッ!」

発狂しそうなほどの高熱に頭と背中を焼かれながらも、仔らが身を焼かれないよう、親ジッソウは必死で耐えていた。
漏らした糞ではち切れんばかりに盛り上がったパンツはその重みでずり下がって、もはや下着としての用を成していない。

元々ジッソウセキの体は恐ろしく燃えやすく、火に弱い。
肌やおニクは高熱ぐらいで燃えはしないが、髪や服はそれに輪をかけて燃えやすいので、焼けた物を押し当てられたりしただけですぐに焦げるし、そこから炎上することもある。
ゴシュジンサマがこの親仔をあえて禿裸にしなかったのはそのためだ。
黒い煙を上げていた親ジッソウの頭巾と髪に火がつき、あっという間に全身が炎上した。

「デ……ェ……ァ……………」(パキン!)

ついにおイシが割れて親ジッソウは死んでしまった。
成体ジッソウは仔ジッソウに比べるとおイシが強く、多少のことではパキンしないのだが、さすがに全身を炎で焼かれる痛みには耐えられないのだ。

顔が炎に包まれて呼吸することもできなかったのか、大きな叫び声は上がらなかった。
親ジッソウは成体なので、地面にヒザをついていても頭だけは穴から出ているのが見えるのだが、丸というよりは微妙に四角ばったジッソウの頭が燃えるその様は、まるで焼きマシュマロみたいだ。



「テヒャァァァーーーーー!!! ママァーーーーー!!!!!」

炎上する親の姿を見た仔ジッソウの声が穴の中からコダマする。

駆け寄りたいが、触れれば自分も火だるまになってしまう。
だからといって離れようとしても、中央で火柱と化した親ジッソウの体が穴のほとんどを占領してしまっているため、そのスキマがほとんどない。
オヤユビちゃんを含む七匹の仔らは必死で壁際に退避し、なんとか自分に火が燃え移らないようにしていた。
しかし———

「レフゥ……ママ、とってもキレイレフ。ウジチャンもママみたいにキレイになりたいレフー」

何が起こっているのか理解できないウジちゃんは、燃え盛るママの体へと近づいていってしまう。

「レヒャッ!? アツイレフ! ママのカラダどうしてこんなにアツイレフ? レ……レェェ? アツイレフ! ウジチャンのカラダもアツイアツイレフ! レッピャァァァァッ!?」(パキン!)

すぐに服に引火し、それが全身に燃え広がって、親ジッソウに続いてウジちゃんもパキンしてしまった。

親ジッソウと壁際にぴったりとくっついた仔ジッソウ、丁度その真ん中の中途半端な位置で新たな火種となったウジちゃんの体。
そこから小さな火の粉が飛び火して、また一匹の仔ジッソウの服に引火する。

「テチャァァァッ!?」(パキン!)

瞬く間に全身が燃え上がり、火だるまとなってパキン死する仔ジッソウ。
その体が隣にいた仔ジッソウの方へと倒れてゆき———

「テ、テヂィィィッ! コッチに来るなテヒャァァァ!!!」

今度は糞蟲化した仔ジッソウに燃え移って、その仔もまた一瞬で炎上した。

「テヂャァァァーーーーーーー!!!!!!!!!!」(パキン!)

「テチィィーーーーーーー!!!!!」(パキン!)

「レチャァァーーーーーーー!!!!!」(パキン!)

次々と家族が炎上していくのを見て、まだ自分に火が燃え移っていない仔までもがおイシをパキンさせて死んでしまう。
ジゴクの釜と化した穴の中に残っているのは、もう仔ジッソウニ匹だけだ。



「テェェ……もうダメテチィ………」

「テェェーン! テェェーン! ママァー!」

諦めてただ血の涙を流し続ける仔。
腰を抜かして泣き崩れ、もはや自分たちを焼く火柱でしかなくなったママを呼び続ける仔。
どちらにせよ血の涙か糞か、いずれかを垂れ流すことしかできない。

「助かりたいか?」

火柱と化した親ジッソウの体がなおもタライを支え続けているおかげで、わずかに空いたタライと穴の淵のスキマから、ゴシュジンサマが生き残った仔ジッソウたちに声をかける。
また何か新たなギャクタイを思いついたのだろうか?
こういうとき、ゴシュジンサマはよく思いつきで予定になかった行動をする。
ゴシュジンサマの行動についていけるよう、ここからは注意深くしなければ。

ゴシュジンサマはいつの間にか家の中から持ってきた釣り用のツールボックスから、釣り針のついた糸を取り出して穴の中へと垂らした。

「助かりたければ……この針を自分の目に刺して引っ掛けろ。そうすれば引き上げてやる」

「「テェェッ!?」」

「ただし、助けてやるのはどちらか一匹だけだ。糞蟲じゃないほうを助けてやろう」

そう告げられても、二匹は動けない。
そりゃそうだ。
自分の目に針を刺すなんて成体ジッソウでも普通はビビってしまう。

とはいえ、迷っていたら焼け死ぬだけだ。
さっきまで諦めかけていたほうの仔が、意を決したように針を掴んだ。

「オネチャ、ダメテチィ! そんなもの刺したらオメメがイタイイタイテチィ!」

「うるさいテチャァ!」

針を持ったほうの仔が妹らしき仔を突き飛ばす。
そして、震える手で自分の右目を………針で突き刺した。

「テヂャァァァァーーーーーーー!!!!!」

「しっかり刺して、頬まで貫通させるなり、頭の奥まで突き刺すなりしとけよ。そうしないと、引っ張り上げるときに目玉だけがすっぽ抜けてまた落ちるぞ」

ゴシュジンサマの容赦ない忠告に、姉ジッソウは歯を粉砕せんばかりに食いしばって、針を目の奥まで刺し込んでいく。

「よーし、そんなもんでいいだろう。しっかり掴まってろよー」

そう言いながら、ゴシュジンサマは姉ジッソウを引っ張り上げる。

「テヂィィィィッ!!!」

自分の体重全てが右目と、その奥まで突き刺さった針にかかって、姉ジッソウがたまらず悲鳴を上げる。
そのとき、持ち上がっていく姉ジッソウの足に妹ジッソウが取りすがった。

「テヒャァァァ! オネチャ、待ってテチィ! 置いていかないでテチャァァ!!!」

そのせいで姉の目にさらなる激痛が走る。

「テギャァァァ!!!!! イタイテヂィィ!!! はなせ!!! はなせテヂャァァァ!!!!!」

姉ジッソウは足で妹ジッソウの頭を蹴りまくり、すがるその手を無理やり引き剥がす。
姉に蹴り落とされた妹ジッソウは地面にへたり込み、全てを諦めたような表情でうつむいていたが、ふと顔を上げると、ゴシュジンサマのほうを見て言った。

「テチィィ……もういいテチ………ワタチがアツイアツイになればオネチャは助かるテチ。ニンゲンさん、ワタチがここに残るテチ。そのかわりオネチャを助けてあげてほしいテチ」

その言葉を聞いた瞬間、ゴシュジンサマがワタシのほうを見た。
そして自分が持っているのとは違うもう一本の、先に小さなオモリのついた糸をワタシに渡して、“くい”とあごをしゃくる。

ゴシュジンサマの意図するところは、つまり妹のほうを助けろということだ。
確かにゴシュジンサマはさっき『糞蟲じゃないほうを助ける』と言ったし、今の行動を見ればどちらが糞蟲かは明らかだ。
もしも姉ジッソウが自分を襲う激痛が二倍になっても妹を助けようとしていたなら、ゴシュジンサマは妹のほうにデコピンを食らわせて落とし、姉のほうを助けただろう。
ゴシュジンサマは連れて来るときにはよくジッソウを騙すが、自分が宣言したゲームのルールに関してだけはウソをつかないのだ。
まあ最初から助かりようのないゲームをさせることもしょっちゅうだけど……

ワタシはオモリのついた糸を穴の中へと下ろし、妹ジッソウをそれに掴まらせて引っ張り上げた。
オモリが手から糸がすっぽ抜けるのを防ぐストッパーになってくれるので、妹ジッソウは姉ジッソウのようにイタイ思いをすることもなく、穴の外へと引き上げられた。



「テヒィィ……助かったテチ………オバチャン、アリガトウテチィ………」

「お礼ならゴシュジンサマに言うデス。それに、アナタの“オネチャ”はもう助からないデスゥ」

「テェェッ!?」

妹ジッソウが上を見上げると、目玉を貫通した針と糸で吊られた姉ジッソウが、ぶらぶらと振り子のように揺らされていた。

「イタイテチィィィ!!! やめテチ! やめテチャァァァ!!!」

姉ジッソウの漏らした糞が、パンツの横から溢れてぼたぼたと地面に撒き散らされる。

「さーて、こいつどうやって始末しようかなあ」

そう言ったゴシュジンサマの口元が、すぐに『にやり』とお月様のように歪む。
ああ、ダメだ。
こうなったらもう姉ジッソウに助かる道はない。

「テチャァァァ! ニンゲンさんやめテチィ! オネチャをタスケテチィィ!」

「だめデス。ゴシュジンサマが『始末する』とおっしゃった以上、その言葉はゼッタイデスゥ」

ゴシュジンサマは吊り下げたままの姉ジッソウを、まだ赤く燃えているタライの中の石や炭の上に近づけていく。

「テヂャァァァァッ!? アツイテチ! オメメイタイテチィィー!!!」

姉ジッソウの叫びは完全に無視して、ゴシュジンサマはゆっくりと糸を下ろしていく。
ゴシュジンサマに飼われるようになってから教えてもらったことだが、炭というものは派手な炎を上げなくても、エンセキガイセンとかいうものを発しているので
離れていてもかなりの熱さを感じるらしい。
姉ジッソウはそのエンセキガイセンとかいうものに炙られ、燃えやすい靴からはすでに黒い煙が上がりはじめている。

「テェェァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「あっはははは! こりゃまるで大気圏突入だな」

いけない、ここはボケるかツッコむかしなければいけないところだ。
ワタシは脳みそをフル回転させ、ゴシュジンサマに見せられた漫画やアニメの中から似たようなシチュエーションがなかったかを思い出す。
『タイキケントツニュウ』………そうだ!

「しょ、少佐、助けてくださいデス! げ、減速できませんデス! シ○ア少佐、助けてくださいデスゥゥーーーー!!!」

「お、なかなかいい吹き替えだぞプロメテウス」

そんな小芝居をしている間に、姉ジッソウの全身が炭の上に着地し、それと同時に服が燃え、全身が炎上する。
火だるまとなった姉ジッソウは手足をバタバタと振り回しながら、焼けた石と炭の上を踊り狂っていた。
やれやれ、これで今回の遊びは終わりかな。



お庭に『パキン!』という音が響く。
ついに姉ジッソウのおイシが割れたか。
そう思ったが、姉ジッソウの体は焼け石の上に仰向けに倒れてはいるものの、まだ手足はイゴイゴと動いている。

ふと隣に目をやると、助けてやったはずの妹ジッソウが舌を出し、両目を灰色に濁らせて死んでいた。
家族を全て失い、自分の命と引き換えに助けようとした姉までもが火だるまになるのを見て、ストレスのあまりおイシがパキンしたのだ。
網の上で炙られたスルメみたいになっていた姉ジッソウのほうは、それから数秒遅れてパキン死した。

「あーあ、せっかく助けてやったのに。糞蟲は論外だが、性格がまともすぎる実装石も考え物だな。とはいえ……助けると約束したのに死なせちゃったのはさすがに悪い気がするな
 せめて『飼い実装にする』という約束のほうは守ってやるか」

そう言いつつ、ゴシュジンサマは庭の端っこに手ずから穴を掘り、死んだ妹ジッソウの体を埋めてやった。
なるほど、飼いジッソウらしく、ちゃんとしたお墓を作ってあげようというのだ。

「プロメテウス、そっちの連中の後始末は任せるぞ」

「了解デスゥ」

そして、飼いジッソウではないこっちの連中は死体も適当に処分するというわけだ。



ゴシュジンサマはワタシに親仔の死体の処理を任せると、楽しそうに鼻歌を歌いながらおウチの中に入っていった。
その間に、ワタシはプールからもう一度水を汲んできて、それをタライに残っている焼け石と炭にかけて火の後始末をした。
まずは火を消さないと、その上に乗ったままの姉ジッソウの死体が処理できないからだ。

ちゃんと火が消えたかどうか、スコップで炭をつついて砕いて確認する。
そうしておいてから、姉ジッソウの死体をまだ親ジッソウをはじめとする家族の死体が燻っている穴の中に放り込んだ。
このまま穴を埋めてしまってもいいのだが、それでは妹ジッソウとそう変わらない埋葬になってしまうし、ゴシュジンサマがあまりお喜びにならないかもしれない。
そんなふうに考えていると、ゴシュジンサマがおウチの中からカマボコの板と油性マジックを持って戻ってきた。

「死体の処理は済んだか?」

「とりあえず火は消したデス。けど死体は一晩このままにしておいて、穴を埋めるのは明日にしようと思うデス。そうすれば猫やカラスや虫が死体にたかって
 糞蟲らしいミジメな姿にしてくれるデスゥ」

「なるほど、そりゃいいな」

「ところでゴシュジンサマ、その板はなんデスゥ?」

「ああこれか。墓石代わりにするんだけど、飼い実装らしく名前だけは付けといてやろうと思ってな」

そう言いながら、ゴシュジンサマはカマボコ板にマジックでさらさらと何かを書くと、その板を妹ジッソウを埋めた土に突き刺した。
その板には、カタカナで『カンダタ』と書かれていた。

「………ゴシュジンサマ、これはむしろこの仔を蹴落とした姉のほうに付けるべきお名前ではないデスゥ?」

「お、よく知ってるな。『蜘蛛の糸』も読んだのか?」

「ムズカシイ字がいっぱい書いてあるほうじゃなくて、蔵の中にしまってあった絵本のほうを読んだデス」

「まあ気にするな。どうせ死人ならぬ死実装に付ける名前だ。テキトーテキトー」

「………ゴシュジンサマの血は一体何色デスゥ………」

「お前らみたいに緑が混じってないことは確かだな」

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後片付けも終わって日も暮れたころ、ワタシはゴシュジンサマといっしょに縁側でスイカをかじっていた。

今日はゴシュジンサマが住むこの町でハナビタイカイというものがある日らしい。
そしてわざわざハナビタイカイの会場まで行かなくても、このおウチのお庭からはハナビが見えるのだとか。
それにしても、ハナビってなんだろう?

しばらくすると、ニンゲンさんが吹く口笛のような音とともに、小さな光が空へと浮かび上がり、そして———

 ——— ドドォォン!!!!! ———

「デェェッ!?」

オナカの中にまで響く振動とともに、夜のお空にキレイなお花が咲いた。

「デェー………キレイデスゥー………」

「あれが花火というものだ。綺麗だろ」

「でも大きな音がちょっとコワイデス」

「まあすぐに慣れるさ」

そしてしばらく二人でハナビを眺めていたが、ふとゴシュジンサマが口を開いた。

「まあ……俺は実装石を燃やしたときのほうが美しいと思うけどな」

ゴシュジンサマならきっとそう思っているだろうとは思っていたが、まさかジッソウであるワタシを目の前にして口に出すとは。
こういうところが全くブレないのがゴシュジンサマらしい。

「心から生きたいと願い、心から死にたくないと願っている実装石、そんな実装石の命そのものが燃え上がる様の美しさときたら
 ただのレクリエーションで打ち上げられた花火や、せいぜい芸術作品程度の美しさじゃあ遠く及ばないぜ。あっははははははは!」

心底楽しそうに高笑いするゴシュジンサマ。

こう言ってはなんだが、ゴシュジンサマは死んだ後きっとジゴク行きだと思う。
悪いこと、ザンコクなことを、そうだと分かったうえで数え切れないほどのジッソウにやらかしているのだから。
けど、ゴシュジンサマはそんなことも覚悟のうえでやっているに違いない。

そしてそれはワタシも同じ。
ゴシュジンサマの片棒を担いだ時点で、そんなことは覚悟のうえだ。

ワタシの名前はプロメテウス。
ゴシュジンサマの忠実な飼いジッソウ。

いつかジゴクに落ちたって、ゴシュジンサマはジゴクの炎でジッソウたちを燃やして遊ぶに決まってる。
そのときは、きっとまたワタシもお手伝いをしよう。

ワタシとゴシュジンサマはスイカのタネをお庭に飛ばしながら、夜のお空に咲くハナビをいつまでも眺め続けていた………



-END-

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あとがき

せっかく多めに出した実装親仔を一気に処刑しちゃうと勿体無い&多く出した意味がない気がして、途中で別の趣向を加えたら少し長い話になってしまいましたが
完結したはずの『実装専門放火魔』シリーズの番外編を書いてみました。

虐待シーンの元ネタは作中で語られているとおり、『○将!!拉麺○』に出てくる処刑用天秤です。
それを使ってた悪党の相撲取りも、手首につけた火打石ブレスレットによる火炎放射を得意としていたので、それ繋がりで登場させてみました。

今回は前作の感想でいただいた「実装石側の内面ももう少し描写しては?」というご意見を受け、自分でもそれが課題だと感じていたので
最初から実装石視点で書くために、内面を描写しやすそうなキャラとしてプロメテウスに再登場願ったわけですが……実装石の内面を上手に描写するというのがとても難しいです。

第三者視点や主人公視点で書くときは人間の知能のまま描写できるのですが、知能が低いという設定の実装石視点で描くとなると、どうしても難しい表現が使えなくなり
子供の絵日記のような感じで書こうとすると自分らしい文章が書けなくなってしまったり、虐待スクではなくただの観察スクのようになってしまったり。
そして『知能の高い個体』という設定に逃げたうえでモノローグ調で書くと、結局いつもとそう変わらない内容になってしまうという……

しかも、それでも何とか実装石らしさを出すために、モノローグ内でも難しい漢字はカタカナ表記に改めるという技法を使ってみたのですが
逆に読みづらくなってしまったり、そうならない程度に抑えると今度はそれっぽさが失われたりと、本当に今回は悩みに悩みました。
同じ語句でも、キャラによって漢字表記とカタカナ表記が混在しているので、見直しも大変だったし……

(ちなみに実装石の「デス」という語尾はあくまでリンガルの副産物らしいので、モノローグ内では人間と同じように喋っていると解釈しました)

今回はそういう試行錯誤のうえでの完全なる習作ですので、読みづらかったりキレが悪かったりするのはご勘弁ください。

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1 Re: Name:匿名石 2016/04/26-10:51:59 No:00002296[申告]
小ネタの内容が俺と同年代ホイホイ過ぎるw
2 Re: Name:匿名石 2016/04/26-18:22:01 No:00002303[申告]
良かったです
メザシ→炭火焼きの刑が特に好き


3 Re: Name:匿名石 2016/04/29-06:40:35 No:00002360[申告]
このダークフレイムマスターの工作の巧みさよ
4 Re: Name:匿名石 2016/08/02-04:17:10 No:00002460[申告]
うーん、日常シリーズと同じくらいこの作者の作品好きだなあ。
5 Re: Name:匿名石 2016/11/12-01:54:34 No:00002793[申告]
糞蟲だけど主人に対する思慕と忠誠は本物、というのもなかなか珍しい。愛護されてるわけじゃないからというのもあるだろうけど
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