タイトル:【虐・サイコ】 切り裂き“J”
ファイル:【虐・サイコホラー】切り裂き“J”.txt
作者:ジグソウ石 総投稿数:42 総ダウンロード数:1558 レス数:5
初投稿日時:2016/04/11-15:58:47修正日時:2016/07/24-15:22:53
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 ※人間と実装石の会話は全てリンガル使用済みとしてお読みください。

二ヶ月ほど前から、その町では外を散歩させてもらう飼い実装の姿が消えていた。

体の構造があまりにも脆弱な実装石は、ちゃんと首輪にリードをつけ、しっかりと目を離さずにいたとしても、いついかなる危険に遭遇して命を落とすか分からない。
仔実装ともなれば、人間側に危害を加える気がなくても、足元を通るだけで気づかずに踏み潰されてしまうことも多々あるのだ。
そのため、飼い実装を外に出すことを避けたがる飼い主は意外と多い。
ましてや飼い主が付き添わず、実装石だけで散歩に出すなど、よほど飼い実装に好き勝手を許している愛“誤”派でもない限り、そのような光景を見ること自体稀である。

しかしここ二ヶ月の間、町で散歩する飼い実装の姿を見ないのはそういった事情のためではない。
この町に、一つの不穏な噂が流れているからである。



ある日、公園で奇妙な野良実装の死体が発見された。
公園の野良実装であれば禿裸であることも、実装社会におけるヒエラルキーの最底辺である禿裸が餓死していることも特に珍しいことではないのだが、その個体には奇妙な傷があった。
腹部が総排泄孔から胸にかけて大きく切り裂かれ、それを糸で縫い合わせた痕があったのだ。

その死体を発見したのは警察官であったが、そもそも普段なら気にも留められないであろうその死体が注目されたのは、数日前に飼い主から操作願いが出されていた飼い実装が
全く同じ傷をつけられた状態で発見され、その事件の捜査が行われていたからである。

発見された飼い実装は公園で発見された個体と同じく禿裸にされており、それが捜索願の出ていた個体だと判明したのは、彼女自身が捜索中の警察官に自分の名前を口にしたことによる。
飼い実装は自分の命こそ無事であったが、連れていた三匹の仔実装は全て、自分のせいで死んでしまったと証言した。
そして彼女自身も、なぜか食事を摂っても全く栄養が吸収されず、食べたものがほぼそのまま排泄されるという症状が続いた後、数日後に死亡した。
栄養そのものは点滴によって補われ、腹部の傷もそれによって回復していたが、肝心の彼女自身が生きる気力を完全に失っており、偽石が深刻なダメージを受けて崩壊したのだ。

その後、死亡した飼い実装と、公園で発見された禿裸が同時に司法解剖された。
結果、二匹の傷はやはり同一人物が行った同様の処置によるものと判明した。

二匹の死体はいずれも総排泄孔から胸骨までを鋭利な刃物によって薄く切り開かれ、俗に糞袋と呼ばれている、胃袋から腸までを兼ねる臓器が根こそぎ切除されていた。
そのせいで食べたものが消化されず、栄養を吸収することができなくなっていたのだ。
しかも念入りなことに、切除した臓器そのものが再生しないよう、その切り口だけでなく臓器のあった部分が全面的に焼き潰されていた。
飼い実装のほうは点滴による栄養補給で傷口そのものは塞がり、しばらく命を繋ぐことができたが、野良実装のほうは栄養不足で傷口を塞ぐこともできず、そのまま餓死したのだろう。

被害者が公園の野良実装だけなら警察が動くことなどなかっただろうが、飼い実装はれっきとした飼い主の財産として扱われている。
つまり飼い主以外の者が勝手に傷つければ器物損壊にあたるのだ。
犯人が野良実装も飼い実装も無差別に襲っているのだとあれば、警察も動かざるをえない。
そうして捜査が始められたが、事件はその二件で終わらなかった。

もちろん案件が器物損壊(傷害)、もしくは実装石に対して適用されるのか、未だ法整備が進んでいない動物愛護法違反なのもあって
動くのは殺人などの強行犯罪を扱う捜査一課ではあるものの、警察は殺人事件のように本腰を入れた捜査などしない。

それにしても、である。
犯人は巧妙に警察の手を逃れ、野良実装と飼い実装を問わず、同様の暴行を加え続けた。

それがいつの間にやら噂となって一般人の間にも広まり、この町で実装石を飼っている愛護派は、自分の飼い実装を表に出さなくなった。
そして彼らは、いつしか犯人をこう呼んだ。

『切り裂き“J”』と……



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その男は虐待派ではなかった。
ましてや実装石をただ無慈悲に虐殺する駆除派でもなかった。
だからといって、決して愛護派でもない。

男は実装石という生物を憎んでいるわけではない。
ただ、全ての実装石が糞蟲だと思っているだけである。
そしてむしろ、それを憐れに思っていた。

他者を蹴落としたり貶めたりする糞蟲性など全く感じられない、純粋無垢というよりは少し頭が足りないようにも見える蛆実装。
そんな少し頭の足りない蛆実装を大事に抱え、一生懸命に姉の責務を果たそうとしている、親にとって自慢の仔実装。
その仔を限りなく大切に思い、溺愛している親実装。
そんなふうに、いかに善良な心を持っているように見える親仔であろうと、男にとって実装石という生物は一皮剥けば例外なく全て糞蟲であり
そして自分の行為は、そんな救いようのない生物である実装石に救済を与えるものだと信じきっていた。



午前四時。
ほとんどの人が寝静まり、起きているのはパン屋か豆腐屋、そして外をうろついているのは新聞配達の人ぐらいであろうという時間。
そして警察官のパトロールでさえ、最も警戒が薄くなる時間。
公園のトイレで、両目が赤く染まった一匹の野良実装が出産しようとしていた。

「デッヒッフー……デッヒッフー……」

自分の母親よりも前から代々伝わる奇妙な呼吸法で陣痛の痛みを和らげながら、親実装は必死でいきんでいた。
二度目の出産ともなれば、もうすぐ仔が生まれてくるのが感覚で分かる。

「ママ、がんばるテチ!」

「イモウトちゃんたちが産まれたらワタチもお姉ちゃんテチ」

「テェェ……楽しみテチィ」

前の出産で生まれた三匹の仔も、深夜にもかかわらず眠らずに応援してくれている。
あと一息、頑張らねば。

必死になるあまり、親実装は目の前のドアの陰に、一人の男が立っていることに気がついていなかった。
男は親実装とは正反対に息を殺し、ドアの蝶番の隙間から中の様子を窺っている。

「主よ……憐れなる糞蟲が今、御許に参ります。願わくば慈悲を垂れ給え………」

男は胸の前で十字を切ると、両手にゴム手袋を嵌める。
そして乱暴にドアを開き、トイレの中へと踊り込んだ。

 ——— バァン! ———

物音に驚いて振り向いた仔実装たちの顔の、わずか数センチの距離に自分の顔を近づけて、ぎょろりと目を見開いて睨みつける。

「「「テヒャァァーーーーーーー!!!!!」」」

仔実装たちはいきなり飛び込んできた男の形相に震え上がり、思わず糞を漏らす。
男はすかさず指でそれをすくい取ると、その緑色の糞を親実装の左目に塗り込んだ。

「デェェッ!?」

左目が糞で緑色に染められたことで、親実装の出産モードが強制的に解除される。
理屈は不明だが、こうなると胎児を覆っていた粘膜が急速にその保護能力を失い、あと数秒で産まれるはずだった仔実装ですら
胃腸と子宮を兼ねた糞袋の中であっという間に消化され、糞と成り果ててしまうのだ。

「レヒィィィー!」

「レチャァァ! ……ァ………」

「レゥッ!? ……レァァァ……!」

「レァァ……ァ………!」

溶かされ、消化されていくわが仔たちの断末魔の声が、親実装の胎内で響き渡る。

「デ、デァァァァーーーーーーーアァァ!!!!!」

それを聞いた親実装の悲痛な叫びが、公園のトイレの個室にこだました。

茫然自失の親実装が前を見上げると、そこには年老いた男がいた。
頭頂部はほぼ禿げ上がっており、両サイドに残った髪もほぼ真っ白で、一見すると七十歳近くにも見える。
だが、その体つきは恐ろしく大きい上に筋肉質で、とても老人のものではない。

顔の下半分にびっしりと白い髭を生やしたその男は、よくいる虐待派のようにニヤニヤとした笑いを浮かべるでもなく、かといって狂気に満ちた目で舌なめずりをするわけでもなく
ただ深い悲しみと憐れみをたたえたような瞳で、残された親仔を見つめているだけだった。

「な、なぜデス……なぜうちの仔たちを殺したデスゥゥ!!!」

出産寸前だったことで体力を消耗しているのか、まだふらふらと立つのがやっとの親実装が、這いつくばったまま男の足をぽふぽふと殴りつける。
男は表情を崩さぬまま、淡々と親実装に告げた。

「君たち実装石が……糞蟲だからだ。だから生まれる前に神の御許へと還してあげたのだよ」

その言葉を聞いて、親実装の動きが硬直した。

一体何を言っているのだこの人間は?
カミのミモトとかいう単語はさっぱり理解できないが、糞蟲? 糞蟲と言ったのか?

「く……糞蟲なんかじゃないデスゥゥーッ!!!!! この長女を見るデス! とてもいい仔デスゥ! ゴハンがあまり手に入らなかった日に、妹たちに自分のゴハンを分けてあげるような優しい仔デス!
 下の仔たちだってそうデスゥ! 産まれるはずだった仔たちだって、糞蟲になんかなるハズなかったデスゥゥ!!!」

発狂せんばかりにまくし立てる親実装を、男は冷淡そのものの目で見下ろしている。

「それでは一つ実験をしようか、ここにいる三匹の仔たちが糞蟲かそうでないか……試してあげよう」

そう言うと、男は素早く親実装の喉元を掴み、地面に押さえつけた。

「デェ………な、何をする気デスゥゥ………」

男はその質問には答えず、懐からメスのような刃物を取り出すと、素早く親実装の服と下着を切り裂き、髪を引き抜いて禿裸にした。
そしてメスの刃が上半身側を向くように、総排泄孔にそっと当て、女性器を思わせるその割れ目の上端から胸骨の下端にかけて、一気に切り開いた。

「デギャァァーーーーーーー!!!!!」

麻酔もせずにいきなり行われた処置に、親実装がたまらず悲鳴を上げる。
しかし男はそんなことは全く意に介さない様子で、膝で親実装の首にのしかかって動きと声を封じ、淡々と手術を進めていく。

傷口を左右に開いて糞袋を露出させ、食道に繋がる上の部分を指で挟み、メスでぶつりと切断する。
続いて総排泄孔に繋がる下の部分を同じように切断し、糞袋を体内から取り出す。

男の手の動きは流れるようで、一流の外科医を思わせるほどだ。
最初の一刀も皮膚だけを的確に切り裂き、糞袋自体は全くの無傷であった。

切除した糞袋は床に放置して、男は次の処置にかかる。
まずはトイレの外に置いてあった鞄からボンベ式のガスコンロを取り出し、鉄製のヘラを炎で炙って真っ赤になるまで熱する。
それを使い、食道の管と総排泄孔そのものは塞がずに、糞袋を切除した傷口だけを焼き潰す。
さらに、緩いアーチを描いた鉄板が先端に溶接された棒をガスコンロで熱し、それを空っぽになった腹の内部に突っ込んで、元々糞袋のあった場所を念入りに焼き潰す。

それらの処置が全て終わると、針と糸で最初の傷口を手際よく縫い合わせて完了である。
男はそこでようやく首を押さえていた足を離し、親実装を自由にしてやった。

「デェェ………デヘェェェ………」

親実装は解放されたものの、傷の痛みでまだ動けずにいる。
男はそんな親実装を無視して、今度は後ろで腰を抜かしたままパンコンして震えていた仔実装の三姉妹に語りかけた。

「君たち、ママのお腹から取り出したこれを食べなさい」

男が“これ”と言って指差したものは、先ほど摘出された親実装の糞袋である。
母親の体の一部であり、その中に詰まっているものは紛れもなく排泄物であり、つい先ほどまでは自分たちの妹として産まれてくるはずだったもの。
まともな神経を持ち合わせていたなら、とても口にすることなどできるものではなかった。

「テェェ……い、嫌テチィ……そんなの食べられないテチィ」

「ママのオナカの中身を食べるなんて糞蟲のすることテチ! ワタチは絶対に嫌テチィ!」

怯えながらも拒絶の意思を見せる長女。
気丈にも男を真っ直ぐに見据え、きっぱりと断る次女。
そして震えたまま声を出すこともできない三女も、首を横にふるふると振っている。
それを見た男は優しく微笑みつつ、懐からあるものを取り出した。

「本当に君たちはいい仔だねえ。ご褒美にコンペイトウをあげよう」

「「「テッチュゥ〜ン♪」」」

今さっきまで目の前の男に抱いていた恐怖や嫌悪感もどこへやら、男が手にしたコンペイトウの袋を目にした仔実装たちは、たちまち顔を綻ばせて気色の悪い嬌声を上げる。

そう、これが実装石という生物なのである。
特に仔実装や蛆実装など、幼体であればあるほど物事の因果関係を把握する能力に乏しいため、どんなにえげつない虐待を行おうが、家族を傷つけようが
コンペイトウさえ与えればあっという間にそれまでの恐怖も恨みも忘れ、直前まで自分を虐待していた相手にさえ懐き、媚びはじめる。
逆にどれほど愛情をかけて育ててやった個体でも、贅沢が過ぎて満足中枢が破壊されれば、たちまち飼い主を自分よりも下の奴隷とみなして好き勝手なことを要求し
聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせかけたりもするのだ。

男はコンペイトウを袋から取り出すと、仔実装姉妹の口に一粒ずつ運んでやった。
姉妹は生まれて初めて味わう甘露の味に満足中枢を刺激され、あっさりと目の前の男を実の母親以上の保護者として認識しはじめる。
そこで男がもう一度言う。

「美味しいかい? じゃあこちらの糞袋のほうも食べようか。これを食べ終わったら、デザートにプリンもあげよう」

プリンというものを見たこともない仔実装たちではあったが、かつて母親が飼い実装の生活について話してくれたときに聞かされた、コンペイトウ以上の贅沢品であるということだけは知っている。
そのプリンを味わうことができるという誘惑に、姉妹たちの理性はあっという間に崩壊した。

「テチャァァァァ! プリン! プリン食べるテチィィ!」

「さっさとこのマズそうなおニクを片付けるテチャァァ!」

「オネチャ、イモウトチャ、早く食べるテチィィ!」

先を争って母親の体内から取り出された糞袋に喰らいつく。
その浅ましい姿に、まだ動けない母親の目から絶望の涙が流れ落ちた。

「ブェッペッペ! なんデチ? このクッソマズいおニクは? コンペイトウとは比べ物にならないテチィ!」

「マズいなんてもんじゃないテチィ! こんなもん食べられるかテチャァァ!」

「これ、ウンチが詰まってるテチ! こんなもの、高貴でカワイイワタチが食べるもんじゃないテチ! さっさとプリンを持ってくるテチィィ!」

同じように食べるのを嫌がってはいるが、その理由がさっきまでとは天と地ほども違う。
男はそれを見て満足そうな笑みを浮かべると、鞄から取り出したペンチで、まず三女の左足を挟み潰し、ブチブチと捻じ切った。

「テ……テッヂャァァァァァァァ!!!!!」

三女はいきなり与えられた痛み、そして他の二匹は三女の悲鳴によって、急速に夢の世界から現実へと引き戻される。
さらに男は次女の右足、長女にいたっては両腕を挟み潰し、捻じ切るという虐待を加えてから三姉妹に言った。

「わがままを言っちゃいけないなあ……ちゃんと全部食べないと、もっと痛いことをするよ。それどころか、さっき君たちのママにしたことよりも、もっと恐ろしい目に遭わせて君たちを殺す
 君たち全員、一匹残らず地獄のような苦しみを味わわせてから殺す。嫌なら早く全部食べるんだ」

男の言葉と体の痛みに恐怖し、姉妹は慌てて残った糞袋に喰らいつくのを再開する。
表面は臓器なので何とか食べられるが、中身の糞の臭さとマズさに何度も吐き戻しそうになりながらも、姉妹は何とか糞袋を全て平らげた。

これでご褒美のプリンがもらえるはず。
そう思って三姉妹は男の顔を見上げるが、男は冷めた目で姉妹を見下ろしているだけだ。
そしてその隣には、体の傷みから何とか回復した親実装が立ち上がり、すっかり糞蟲と化したわが仔たちを怒りの表情で見つめていた。



実装石という生物に唯一情愛というものが存在するとすれば、それは親仔愛、家族愛である。
だが、それですらコンペウトウという飴と、自らの死を予感させる虐待という鞭の前では容易く崩れ去る。

どんなに躾の行き届いたように見える仔実装であっても、糞蟲化させるのは簡単だ。
コンペイトウだけ、もしくは殺すという脅しだけでは堕ちない仔であっても、両方を同時にチラつかせれば一発で堕ちる。
男が親実装の前で証明しようとしたのはそれである。
実装石に唯一存在する情愛である親仔愛や家族愛、それすらも偽物であるという事実を突きつけようとしたのだ。

「どうかね? たかが一粒のコンペイトウと、ありもしないプリンの誘惑、そして体の痛みに負けて、あっさりと親の体の一部を食らう浅ましいわが仔、いや……糞蟲の姿を見た気分は」

「デェェ……ワタシの仔育ては間違っていたデスゥ。こんな糞蟲ども、さっさと間引いてしまえばよかったデスゥ……!」

親実装が憤怒の表情で姉妹に歩み寄る。
その形相を見た三姉妹は必死に逃げ惑い、手のひらを返したように命乞いをする。
親実装のほうも慢心相違ではあるのだが、元々体格差が大きいうえ、仔実装たちのほうは手足を破壊されているので逃げ切ることも抵抗することもできない。
三分とかからず、仔実装の三姉妹は親実装に頭からばりばりと食われた。

怒りに任せて全ての仔らを食い尽くした後、デフーデフーと荒い息を吐く親実装。
男はそれをしばらく眺めていたが、数分後、親実装が腹を押さえて苦しみはじめた。

「デゥッ……グ………グゲェェ……く、苦しいデスゥ………」

「そりゃそうだ。君には理解できなかったのかもしれないが、さっき君の体から取り出して、君の仔らが食らったものが何だったと思う?」

「デ、デェェ……?」

「食べたものを消化するために必要な胃袋、そして腐った糞の毒素や雑菌から他の臓器を守るために必要な腸、それらを兼ねる“糞袋”だよ。それがないのに、自分の糞が詰まった仔の体を食べたりしたら苦しいのは当然だ」

「デェェッ!?」

「ちなみに、その糞袋は君たちが仔を産むために必要な子宮も兼ねている。君はさっき怒りに任せて全ての仔を食い殺したね。また産めばいいと考えていたのかもしれないが、君はもう二度と仔を産むことはできないのだよ」

「デ、デデッ? デ……デェェ………デギャアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーァァア!!!!!!!!!!!!!!!」

残酷な事実を突きつけられた親実装の、腹の中の胎児を失ったとき以上の慟哭がトイレの個室に響き渡る。

「とりあえず、今の苦しみからは救ってあげよう。私としても、君たちをいたずらに苦しめたいわけではないのでね」

男は親実装を仰向けに寝かせ、大きく膨らんだ腹部を靴の底で軽く踏みつけた。

「デブァ!!!」

それと同時に、親実装の総排泄孔から緑色の糞と、咀嚼されてバラバラになった未消化のままの仔実装たちの死体がごろごろと出てきた。
そのうちの、奇跡的に原型を留めたままの頭部が糞山の中から親実装を見つめ、驚くべきことに口を開いて言葉を発した。

「マ……マ……………ゴメンテチ……………ゴメンナサイ……テチャ………」

「ちょ、長女ぉぉぉぉっ!!!?」

首から上を丸ごと齧り取られた長女は、どうやら偽石が頭部にあったため、それが砕けることなく一命を取り留めたのだ。
とはいえ、栄養を摂ることもできない首だけの状態では、いずれにせよ回復は望めない。

長女の首はまだ何かを喋ろうと口をぱくぱくと動かすが、そもそも声として発するための空気を送り込む肺がもはや存在しない。
先ほどの謝罪の言葉が、喉の奥に残された最後の空気を振り絞っての今際の一言だったのだ。

両目が急速に灰色に濁ってゆき、長女はそのまま息絶えた。
親実装は再び絶望の叫びを上げようとするが、ショックのあまり過呼吸を起こしかけており、しゃっくりのような嗚咽しか出てこない。

もはやただの糞にまみれた肉塊と化した長女の生首を胸に抱いたまま、親実装はいつまでも咽び泣き続けた。
その背中に男が語りかける。

「だから言っただろう……君たちは糞蟲だと。自分の仔に食われ、自分の仔を食い、少しは自覚したかね?」

「な……何を言ってやがるデスゥゥ!!! オマエさえ……オマエさえ来なければワタシたちは幸せに暮らしていられたデスゥゥ! オマエがワタシの仔を殺したのが全て悪いデスァァァ!!!」

「いやいや、私は君たちを一匹だって殺したりはしていないよ?」

そうなのだ。
男はこの実装石の親仔を、一匹たりとも“自分の手では”殺していない。
親実装の目に糞を塗り込みはしたが、胎児が死んだ直接的な原因はあくまで親実装自身の消化力にすぎない。

この親仔に限らず、男は今まで一度たりとも実装石を“直接的に”殺したことはなかった。
男はあくまで自分自身の手は汚さず、実装石自身の生態や生理の結果として、もしくは実装石自身の手で実装石を殺させてきただけだ。

「私は君の出産を止めただけで、お腹の中の仔を消化して糞に変えてしまったのはあくまで君自身だ。君の中身を子供たちに食わせたのは私だが、それを怒って自分の仔を全て食ってしまったのは君自身だろう?」

「デ……デ……………デェェェェェッ??????????」

男の言い分はほとんど詭弁にすぎないのだが、知能の低い実装石はその論理に説き伏せられ、原因が全て自分にあったかのように錯覚してしまう。

「せいぜい絶望したまえ。そして仔を残さず、糞をひり出すこともなく、一刻も早く神の御許へと召されるがいい……」

男はそう言い残し、親実装を放置したまま何処へともなく立ち去った。

自分以外誰もいなくなった公園のトイレの個室で、親実装は両目から黒い涙を流しながら、自身の額を床のタイルに打ち付けていた。
何度も、何度も———



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「うへぇ……酷いなこりゃ」

一連の事件の捜査で公園のトイレを訪れた警察官が発見したものは、仔実装の生首を抱いたまま死んでいる禿裸の野良実装だった。
床にはぐちゃぐちゃになった糞とバラバラになった数匹分の仔実装の死体が散乱しており、それに蝿がたかって酷い有様であったが、親実装の死体には一連の事件と同じ縫合の痕が見られたため
実況検分が必要と判断された。

結論から言えば、親実装の死体に残された縫合痕は、一連の事件の犯人と同一人物によるものと判断された。
腹部の裂傷と、切除された糞袋の傷口を焼いた痕、そして腹の内部全体を焼き潰された痕から、それらの行為に使われた道具がそれまでの事件に使われたものと全く同じであると断定され
腹部の縫合痕も全く同じパターンだったことからそう結論付けられたのだ。

しかし仔実装のバラバラ死体を含め、野良実装の命そのものを奪ったのはそれらの傷によるものではないと判断された。

仔実装の死体には親実装のものと同一の歯型が残されており、仔実装たちを死に追いやったのは親実装であるとの結論が下された。
そして親実装自身の死因も、腹部とその内部に施された処置のダメージによるものではなく、何度も床に頭を叩き付けられたことによる出血多量、もしくは頬に黒い涙の跡が見られたことから
極度のストレスによって偽石が崩壊したことにあると考えられ、それが犯人の行為によるものかどうかの証明は不可能とされた。



 ——— コンコン ———

午後七時。
初老の警察官が教会のドアをノックする。

しばらくして立派な木製のドアが開くと、中から黒い服に身を包んだ老齢の神父が姿を現した。
顔の下半分にびっしりと白い髭を生やしたその神父は、優しげな瞳で来訪者を迎え入れる。

「やあ、お巡りさん。今日はこんな時間に一体何の御用ですかな?」

「いやあ神父さん。今日はクリスマスに予定されているミサのことについて少しお話があって来たんです」

「はて?」

「実は最近、この近辺で猟奇殺人……じゃないな。あのー、ほら、ご存知でしょう。実装石っていうあの生物」

「はい、何度かこの教会にも餌を恵んでもらおうとやって来た者がおりますが……あいにく公園以外での野良実装への餌付けはこの町の条例で禁止されておりますので、可哀想ですがお引取りを願っております」

「ええ、その実装石なんですがね。最近その実装石に猟奇的な行為といいますか、その……虐待じみたことを行なっている者がおるようでしてね」

「ほう……それは……」

「警察官として言い難いことではあるんですが、実は……その……実装石への虐待なんてものは、実装石を毛嫌いする人間の間では公然と行われていることでもありましてね
 普段なら捜査の対象になるようなことでもないんですが……今回の事件については少し事情が違うといいますか、人間が飼っている実装石にまで被害が及んでいることと
 その内容があまりにもイカレ……失礼、猟奇的なものであることもあって、この事件が解決するか、被害が少し落ち着くまで、しばらく夜間の外出を制限することになったんですよ」

「ああ、それで……」

「はい、残念ですが……クリスマスの夜にミサを行うのは自粛していただけると助かるのですが」

「それでは仕方がありません。確かに残念なことではありますが……」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

「いえいえ、ですが……実に嘆かわしいことではありますな。被害に遭った実装石たちにも、犯人の男にも、神のご慈悲があらんことを……」

そう言いながら胸の前で十字を切る神父を、中年の警察官は穏やかな顔で見つめていた。

「それでは、本官はこれで失礼いたします。神父さんも重々お気をつけて」

「お巡りさんも、日々の巡回お疲れ様です」

会釈した神父に敬礼し、警察官が教会を後にする。

教会のドアを閉め、閂をかけた神父は、奥にあるキリスト像の前に額ずき、懺悔の祈りを捧げた。

「主よ……許し給え……」



その後も、犯人は警察に捕まることなく、実装石への暴行を加え続けた。

飼い主が外に出さなかったため、飼い実装への被害はほぼゼロだったが、ストレスを感じて偽石を崩壊させるという間接的な被害に遭う者や、家を抜け出した挙句に別の被害に遭うものなども少なからずいた。
そしてそれによって、実装石を飼う人間そのものがこの町を出て行くことも多くなり、この町の実装石の数は一時激減することとなる。

余談だが、不思議なことにある教会の神父が配置転換によってこの町を去ってからというもの、野良実装への猟奇的な被害はピタリと止まった。
しかし、そのとき警察はすでに別の重大事件の解決に注力しており、実装石への暴行以外に被害がなかったうえ、実質野良実装の駆除に役立ったともいえるこの事件への捜査は
すでに打ち切られていたこともあり、その因果関係を深く探ろうとする者は誰もいなかった。

そして神父が次に落ち着いた町で———再び事件は起こる。



実装石は多産な生物である。
男がいくら神の御許へ送ろうとも、男が去った町で実装石はまたすぐに増え、以前の数を取り戻すだろう。
だが、男にとってそんなことは問題ではない。

これは、実装石にとっての救済なのだから。



-END-



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あとがき



今回はサイコホラー風のお話にしてみました。

最後の警察官との会話で、神父は『犯人の“男”』と致命的なボロを出しているのですが、それに警察官が気づかないのが
この事件に対する警察のやる気のなさと、神父がこの町でどれだけ信頼され、町に溶け込んでいるのかを表しているのですが
相手が古○任○郎だったら確実にアウトですね。

この作品の神父の元ネタというかモデルにしたのは、有名な『吸血鬼ドラ○ュラ』の続編的な作品ともいえる『ドラ○ュラ紀元』に登場した
「吸血鬼は病気だから、殺して神の許へ送ってやらなきゃ!」という使命感に駆られた、当時イギリスを騒がせた『切り裂きジャック』の正体という設定のドクターです。
作中では“ジャック”と実装石の“J”をかけてみました。

このように、自分の行為が相手にとっても良いことに違いないと思い込んだ道徳的な人間が一番怖いということで……

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1 Re: Name:匿名石 2016/04/11-20:36:44 No:00002234[申告]
親実装への濃厚な追い込みがステキ
金平糖を貰った途端に糞蟲化する実装の性を持ちつつも、最後の言葉に親への謝罪を選ぶ良蟲長女はねっとり時間をかけていたぶりたい良い素材だww
2 Re: Name:匿名石 2016/04/12-19:15:59 No:00002237[申告]
神父が殺生なんて悲惨だけど殺し方には新鮮みがあった
3 Re: Name:匿名石 2016/04/14-23:25:02 No:00002242[申告]
実際の切り裂きジャックも「売春婦を狙う」「子宮を抜いて持ち去る」って特徴があったらしいからね
実装石=糞蟲=売女という等式が成り立つので問題はないw
4 Re: Name:匿名石 2016/04/15-05:08:18 No:00002244[申告]
推理ものみたいで、とても面白かった!GJ!
5 Re: Name:匿名石 2016/11/06-01:16:20 No:00002711[申告]
普通に考えたらサイコ案件なんだが
実装石相手だと本当に救済になっちゃうから困る
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