タイトル:【愛】 マイちゃんの愛護日誌 ~迷子の飼い実装・前編~
ファイル:愛護日誌2.txt
作者:みぃ 総投稿数:41 総ダウンロード数:1521 レス数:1
初投稿日時:2016/04/07-01:33:45修正日時:2016/04/07-01:53:31
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 親愛なる愛護派同志のみなさん、Здравствуйте(こんにちわ)。
 +聖妖天使MAI+こと桐野妹(きりの・まい)です。
 実装ちゃんを愛する同志の方は気軽にマイって呼んでくださいね。

 虐待派諸氏も私たちの活動に触れて愛護派に目覚めて暮れたら嬉しいです。
 ほら、今回は【愛】タグがついてますよ! 【愛】タグが!
 後編? みえません。話題を変えましょう。

 突然ですが、皆さんは幼い頃に迷子になったことがありますか?
 私はあります。

 あれって本当に心細くて不安になるんですよね。
 今でこそスマホの地図アプリさえあれば知らない土地だろうと地球の裏側だろうと迷うことないけど、
 小さい頃って自分の手の届く小さな範囲が世界のすべてじゃないですか。
 家と近所の公園、それと幼稚園とその間の道くらいしかわからないんです。

 歩いて十五分程度の距離にある近所の駅前だって子どもには異境の地ですよ。
 自分を守ってくれる保護者と離れるだけで、まるで異世界に迷い込んだような気分です。
 思い切って自宅まで歩いてみよう……なんて気にはなりませんでしたね。こわくて。

 もしかしたら私は一生お家に帰れないんじゃないか。
 ううん。それだけじゃなく、このまま一生ごはんも食べれず死んじゃうんじゃないか。
 大げさかもしれないけど、子ども心にそんなことを思ったことを覚えています。

 まあ、世間には意外と良い人がいるもので、
 泣き叫んでたら親切なおばさんに交番に連れて行ってもらって、無事に親と再会できたんですけどね。
 そして無事に保護者と再会できたときの喜びっていったらもう……

「かみさま、ありがとうございます。お礼に私は一生いい子でいます」

 泣きながら親に抱きついてそんな風なことを思った気がしますよ。
 まあ翌日にはそんな誓いも忘れるんですけど。
 なんにせよ、解決手段をいくつも知ってる今じゃ絶対に味わえない感覚ですよ。

 さて、実装ちゃんです。
 野良実装ちゃんでも精々が公園とその周りの餌場くらい。
 飼い実装ちゃんに至っては飼い主の家と非常に小さな散歩コースがすべてですよ。
 場合によっては公園までは籠に入って輸送されるので、本当に自宅と行きつけの公園だけが世界の全部だったりします。

 うちの歴代コミドリはほとんどがそのタイプですよ。
 うかつにひとりで歩かせて車に轢かれちゃったらもったいな……かなしいですもんね。

 なんだかんだで周囲の大人たちから優しくしてもらえる人間の子ども(最近は変態さんも多いので絶対安全とは言いませんが)と違って、
 か弱い実装ちゃんは周りすべてが危険で溢れてるじゃないですか。
 よそ見して歩いていた人間に気付かないだけで踏み殺されるような生き物です。
 ひとりで知らない場所に取り残された時の恐怖と不安は人間の比じゃないと思いますよ。

 その時の気持ちを想像するだけで……くふふ♪

 愛護派ですよ?
 実装ちゃんを愛してるからこそ、その命を精一杯輝かせてもらいたいんです。
 
 というわけで、今回は私と愛実装コミドリ37世とのさよならのお話です。
 仕様上、私とコミドリの交代一人称で話が進むので、わかりづらかったらごめんなさい。
 私(マイ)パートは『私』、コミドリパートは『わたし』(セリフ内は『ワタシ』)と言うふうに区別してくださいね。

 なお、愛護派である私の一人称作品なので文中に虐待派をディスるような発言がありますが、
 作品を通して虐待派さんたちの有り様を否定するような意図はありません。
 新シリーズは短編でと決めたくせに、またしてもやたら長くなっちゃったのも仕様です。
 作者に短く面白くまとめる力が無いのです。

 前置きが長くなりましたが、作品の趣旨を理解していただける愛護派の方、
 私と一緒にコミドリ37世の最期の輝きを思いっきり愛でてあげましょう!
 
 それでは本編をどうぞ〜

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   【マイ】

 朝起きてリビングに降りると、我が家の愛実装コミドリの元気いい挨拶が聞こえます。

「テチ! テチテチ!」

 リンガルを起動させなくてもわかります。
「おはようございますご主人様」って言っているのです。

「コミドリ〜おはよ〜」

 身長一〇センチ弱のコミドリをパジャマの胸に抱きしめると、嬉しそうにテチャテチャと鳴きました。
 すぐにスピーカー式リンガルを起動させてちゃんと会話をします。

「今日もしっかり起きて準備できてえらいね〜」
「テチ! ご主人様に迷惑をかけないのは『飼いジッソウのつとめ』テチ!」

 なんていい仔なんでしょう!
 凜とした顔で(無表情ですが)敬礼のポーズまで取って(手は頬までしか届きませんが)立派なことを言います。

 コミドリの寝室はリビングの片隅にあります。
 大きめの水槽を改造した実装ちゃんでも開けられる双方向押し式のドアがついた小部屋。
 中にはふわふわの毛布が二枚と、喉が渇いた時のための給水器もついています。
 その横には別の小さなケースがあって、こっちはトイレの砂場です。

 朝になるとコミドリは誰にも言われなくても勝手に起きます。
 折りたたみテーブルを自分で組み立てて水槽の横に置き、小さなお皿にフードを盛って自分で朝食の準備をします。
 そして私がリビングに降りてくる三○分くらい前から食べずに待っているのです。

 朝一番でお腹が空いていても、勝手にフードに手をつけることはありません。
 もっと小さい頃はお仕置きがこわくて従っているだけでしたが、今ではそれが飼い実装として当たり前だと頭で理解しています。
 私は毎朝コミドリのそんな姿を自室の監視カメラ映像で三〇分くらいニヤニヤと眺めてから降りて来るのです。

 自分の分の朝食(トーストとハム)を用意し、コミドリと彼女用の小テーブルを食卓の上に置きます。

「いただきます」
「いただきますテチ!」

 食事中は黙って食べます。テレビを見たりスマホを弄ったりもしません。
 コミドリにとって見本となるような飼い主であることを心がけているからです。
 というかテレビより一生懸命ごはんを食べてるコミドリを眺めてるほうが癒やされます。
 躾の甲斐あって、コミドリは指のない不器用な手でもフードをこぼすことなく食べています。
 あまり味のない安物のフードですが、コミドリはとても美味しそうに食べてくれます。

「ごちそうさまテチ!」

 綺麗に食べ終わると、手を合わせてごちそうさまの挨拶をします。
 そして私の方を見上げて両手を挙げます。下ろしてくださいの合図です。
 私はコミドリとテーブル&お皿を食卓から床へと移動させてあげました。

 するとコミドリは空いたお皿をテチテチと台所の方へと運んで行きます。
 シンクの下にあるコミドリ用の小さな台。
 その上にお皿を置いて戻ってきます。お片付けです。
 台から拾い上げて洗うのは私なのですが、コミドリは少しでも私の手間を減らす役に立ちたいのです。

「お手伝いありがとうね〜♪」
「テチャテチャ!」

 頭を撫でてあげると頬を染めて喜びます。
 ああ、本当にコミドリはかわいいなあ……♪

 飼い主のひいき目を抜きとしても、コミドリはよく調教されたいい実装ちゃんです。
 元はショップでワンコイン、私に買われなければ翌日には処分されてたような投げ売り実装ちゃんだったとは思えないでしょう?
 しかもまだ産まれてから二ヶ月ちょっとです。家に来てからは二ヶ月程度しか経ってないのです。

 あり得ないと思いますか?
 それは自慢じゃないですが、私の躾が上手いからです!
 だって、このコミドリで37匹めの飼い実装ちゃんですしね。
 流石にプロの調教師には及びませんが、私が躾けた仔実装ちゃんなら無責任に愛でたいだけの愛誤派さんも満足するでしょう。あげませんけど。
 そういえば『前の』コミドリとお別れしてからもう二ヶ月なんですね。

 コミドリはじーっと黙ったまま私が朝食を食べ終わるのを見上げて待っています。
 早く遊んで欲しいのでしょう。躾は行き届いていても遊び盛りの仔実装ちゃんなのです。
 実装ちゃんはいつでもかわいいですが、その中でも今が飛び抜けて一番かわいい時期です。

 ……くふふ♪

「ねえ、コミドリ」
「はいテチ!」
「私、今日は学校お休みだからたまには一緒にお外に遊びに行こうか」
「テェッ!?」

 コミドリは驚きに目を輝かせています。
 家に来てからコミドリはまだ一度しか外出したことがありません。
 以前に行ったのは近所の公園でしたが、その時はコミドリが疲れるまで思いっきり遊んであげました。
 コミドリにとって『外』は特別な、とっても楽しくてたまらない思い出なのです。

「嬉しいテチ! お外大好きテチ!」

 ああ、もう、かわいいなあ♪
 ちなみに、いま思いついたみたいに言いましたが、今日のことは一週間くらい前から計画済みです。
 週末の二連休。『今回の』コミドリの命を輝かせるために……ね♪



   【コミドリ】

 うれしい! ご主人様とお外に遊びに行ける!
 
 わたしのご主人様は、とっても優しくていいニンゲンさん。
 もっと小さい頃は『シツケ』で痛いこともされたけど、それはわたしが飼いジッソウとしての立場をわかってなかったわるい仔だったからなの。

 きちんと行儀良くしていればご主人様はぜったいにわたしに痛い事をしない。
 いい仔にしていれば毎日美味しいごはんが食べられるし、ご主人様も遊んでくれる。
 だからわたしはご主人様にとっても感謝してるの!

「お外に行く前におめかししましょうね〜」

 ご主人様はそう言ってわたしを『せんめんじょ』に運んだ。
 お服を脱いで渡すと、あわあわの石けんでわたしのお服を洗ってくれる。

 このお服はわたしのママがくれた大切なモノ。
 小さい頃にご主人様に引き取られる前、わたしは『ショップ』っていう仲間がいっぱいいるところにいた。
 そこでは同じママから産まれた仔たちがいっぱいいたけど、ママの顔は覚えてない。

 でもご主人様は『このお服がコミドリとママの絆だよ』って言ってくれた。
 だから「新しいピンクの服が欲しい?」って聞かれたときも、わたしはいまのお服がいいって断ったの。
 その代わり、お服の耳にはピンクのリボンがついてる。
 これはご主人様がくれた大切なリボン。
 ママのお服と、ご主人様のリボン。これがわたしの宝物なの。

 洗ったお服を乾かしている間、ご主人様はわたしの身体を洗ってくれる。

「コミドリ、石けんが目に入らないよう気をつけてね〜」
「テ、テ……」

 あわあわの石けんで洗われると気持ちよくてつい声が出ちゃう。
 ご主人様の手とお湯の温かさで、とっても幸せな気分。

 身体を洗ってもらった後は、鏡を見ながらお櫛で髪をとかしてもらう。

「コミドリの髪は綺麗だねー」
「テチュ~ン♪」

 自慢の髪をご主人様に褒めてもらえた! 嬉しい!
 ご主人様に褒めてもらえるとわたしはとっても幸せ。
 だから大変だけど早く起きるし、お手伝いもがんばるの。

「テチー、テチー!」
 
 どらいやーっていうあったかい風のでるキカイでお服ごとわたしの身体を乾かしてもらう。
 これもとってもきもちいいし、風が面白くてつい楽しくなっちゃう。
 しっかり乾いたお服を着て、髪を結ってもらって、鏡の前でポーズ!

「うんうん、コミドリは今日もかわいいよ〜」
「テチャテチャ!」

 またご主人様が褒めてくれた!
 優しい言葉をいっぱいくれるご主人様は大好き!

「さあ、行こっか♪」
「テチ!」

 しかも今日はお外で遊んでくれる!
 前に行ったコウエンはとっても広くて、ご主人様にもいっぱい遊んでもらって楽しかった!
 お昼ごはんの入ったカバンを肩から下げたら、準備かんりょう!

 今日もとっても楽しいといいな!



   【マイ】

 二ヶ月ほど続いたお兄ちゃんとの冷戦は、お古の原付バイク(HONDA・TODAY)を譲ってくれるのを条件にマルタ会談を迎えました。
 今日はその原付に乗って遠くの公園まで行きます。

「ちょっと私も出かけるから」
「おう、事故んなよー」

 お兄ちゃんは買ったばかりの中型バイク(CB400スーパーフォア初期型・保険込みで16万円弱)に跨がってエンジンを吹かしています。
 後部座席にメットが吊してあるのを見るに、これから麗華さんを迎えに行くようです。

「オニイチャンサマ、行ってらっしゃいテチ!」

 私の手の中でコミドリが手を振っています。もう以前に蹴られたことは許したみたいです。
 お兄ちゃんも虐待派の割には分別があるので、うちのコミドリに手を出すことはありません。
 まあ万が一コミドリを傷つけたらそっくりそのまま同じ目に遭わすつもりですけど。

 さて、この日のために私の原付にはコミドリ専用の座席が取り付けてあります。
 メーターの上に斜めに切って水平になるようにしたプラケース。
 中にはふんだんに綿を詰めて衝撃を吸収するようにしてあります。

 用意ができたらその中にコミドリを入れてあげます。
 高さは十分にあるので段差で跳ねても飛び出してしまうことはないでしょう。

「テッ!?」

 エンジンをかけると足下から伝わる振動にコミドリが少し怯えた声をあげます。
 くふふ。かわいいなあ。走り出したらどんな反応をするかな?
 さあ、出ッ発(でっぱつ)すんぞ!

「テェェェェッ!? ……テ? テェェ……テチューッ! テッチューッ!」

 最初こそビックリしていたコミドリですが、(実装ちゃんにしては)もの凄いスピードで流れていく景色にすっかり興奮状態です。
 以前に近所の公園に連れいていった時は籠に入れたままだったので、景色を楽しむ余裕はありませんでした。
 今回、コミドリは初めて外の世界の本当の広さに触れているのです。

「すごいテチ! 速いテチ!」
「コミドリ、楽しい?」
「とっても楽しいテチュゥッ!」

 うふふ、喜んでくれてるみたいで良かった♪

「公園につくまでけっこう時間かかるからね。
 よそ見してたら事故っちゃうからあまりお話できないけど、大人しくしててね」
「はいテチ! ご主人様、運転お気をつけてテチ!」

 コミドリは飽きることなく周りの景色を堪能しています。
 カーブを曲がる旅にテチテチはしゃぎ、高いビルを見上げては感嘆の声を上げ、大きなトラックに並ばれるとビックリしたように身を縮こまらせます。
 何かを新しいものを見つけるたびに嬉しそうに声を上げます。
 瞳をキラキラと輝かせていて、とてもかわいいです。

 実装ちゃんは人間ならすぐに飽るようなことでも夢中になって楽しんでくれます。
 ただボールを転がし合うだけの毎日の遊びも飽きることを知りません。
 前に公園に行ったときは一時間くらいひたすら滑り台を往復してました。

 実装ちゃんという生き物は、とっても純粋なんです♪
 さて、そうして三〇分くらいかけて、ようやく目当ての公園に辿り着きました。
 三つ隣の区にある大きめの県立公園です。
 もちろん、コミドリがこんな遠くにやってくるのは初めてす。



   【コミドリ】

 すごかった! 『ばいく』とっても速くて楽しかった!
 コウエンについてもまだ興奮が冷めないよ!
 ……おっと。

「大丈夫、疲れてない? 歩ける?」
「大丈夫テチ!」

 地面に下ろされてついふらつくわたしをご主人様が心配してくれる。
 わたしたちがやって来たのはこの前とは違うコウエンだった。
 木がいっぱいあって、すっごく広い!

「テチー、テチー!」
「私から離れちゃダメだよ。他の人間さんに気をつけてね」
「わかりましたテチ!」

 広場に着くと、ご主人様にカバンを預かってもらって、ボール遊び。
 すーぱーぼーるっていう柔らかいボールを投げ合いっこする。

「いくよ、コミドリ−!」
「テチッ!」

 ご主人様が転がしたボールを取り損なうと、どこまでもころころと転がっていく。
 お外はとっても広いから、それを追いかけるだけでもすごく楽しい。

「行くテチ、ご主人様!」
「そっからじゃ届かないかなあ」
「がんばるテチ! テチャッ!」

 勢いをつけてボールを投げるけど、ご主人様につく前に止まっちゃう。
 わたしはもう一度それを追いかけて、今度こそ届かせようとがんばって投げる。
 三回繰り返してようやくご主人様に届いた。

「すごいすごい、コミドリがんばった!」
「テチャテチャ!」

 ボール遊びの次は滑り台。
 前にお家の近くのコウエンで遊んだときは夢中になって何回も遊んじゃった。
 でもここのコウエンの滑り台は大きくて危ないから、ご主人様と一緒。
 ご主人様の足の間に座って、ふたりでスイーッ。 
 ばいくほど速くないけど、身体がすーっと落っこちていくのがとっても楽しい!

「テチーッ! テチャッ!」
「おっと」

 勢い余って砂場に投げ出されそうになったわたしをご主人様が受け止めてくれる。

「ありがとうテチ、ご主人様!」
「ううん、大丈夫だった?」
「大丈夫テチ! だから、あの、ご主人様……」
「もう一回滑る?」
「はいテチ!」

 わたしの考えてることをわかってくれるご主人様。とっても優しい。
 ご主人様と一緒だと、こんなにも心があったかくて楽しいよ!



   【マイ】

 ああ、コミドリは本当にかわいいなあ♪
 ボール遊びも滑り台も、とっても一生懸命。
 こんな小さな身体で疲れも知らずに何度も同じ事を繰り返して、そのたびに本気で目を輝かせて喜んでますよ。
 私のことを心から信頼してくれてるから、知らない場所でも思いっきり楽しめるんですね。

 きっと今のコミドリにはこの公園が楽園のように思えてるんだと思います。
 ……くふふ、さてと♪

「コミドリ、私そろそろ疲れちゃったから休憩したいな。コミドリもごはんにしようよ」
「はいテチ!」

 そして私はコミドリを抱えて公園の奥へと向かいました。

 この県立公園はとても広いけど、最近の市ぐるみの駆除活動のせいもあって野良実装ちゃんは一匹もいません。
 それでなくてもYH市には元から野良実装ちゃんの数は少ないんですけどね。
 いつか実装ちゃんのメッカって言われる双葉市に行ってみたいなあ。

 まあ、おかげでコミドリにとっても過ごしやすい公園なのは間違いないです。
 危ない野生動物なんかもいないし、私が他の人間さえ近づけないよう気をつけていれば危険は何もありません。
 万が一の時のためにコミドリの服につけたリボンにはGPSとリンガル翻訳機能付き盗聴器もつけてあります。

 ベンチに座ってお昼にします。
 私のごはんは家で作ってきたおにぎり。
 そしてコミドリは……

「テェッ!?」

 預かっていたカバンを渡してあげると、それを開けたコミドリは驚きの声を上げます。
 以前に近所の公園に出かけたときにはフードを三粒入れてありました。
 けど、今回の中身はコンペイトウです。

「ご主人様、ほんとにいいんテチ……?」

 コンペイトウを抱きしめてコミドリが私を見上げます。かわいいなあ。
 甘いお菓子の日は一週間に一度だけと決められていて、今日はその日ではありません。
 あまり甘い物を食べ過ぎるとわるい仔になっちゃうと言い聞かせてあるので、コミドリも贅沢を言うことはないのです。

「今日は特別だよ。お外の日だしね」
「テチャア! ご主人様、ありがとうございますテチ!」

 ぺこりと頭を下げてお礼を言い、コミドリは幸せそうにコンペイトウを舐めます。

「テッチュ〜ン、美味しいテチュゥ〜♪」

 こんな砂糖の塊でここまで喜べるなんて、本当に実装ちゃんはかわいいです!
 まあ、絶望の前の最後の贅沢ですしね。

 虐待派じゃないですよ? アゲ落としじゃないですよ? 
 私はコミドリを愛してますよ。これからも、最期の時までね。

「さて、そろそろ行こうかコミドリ」
「はいテチュ!」

 幸せ絶頂のコミドリを地面に下ろしてあげます。
 すると。

「フワァ……ァ……」

 コミドリがとってもかわいらしいあくびをしました。

「ん、どうしたの? 眠いの? 疲れた? お家帰る?」

 途中で反論させないよう一息で言うと、コミドリは必死に頭を振って否定します。

「眠くないテチュ! もっともっと遊びたいテチュ!」

 せっかく久しぶりのお外なのに、終わりになってしまうのが嫌なのでしょう。
 それを思うと眠気も耐えられるみたいです。遅効性ですしね。

「それっ!」

 ちょっと強めにボールを投げると、バウンドしてコミドリの頭上を越え後ろへ転がっていきます。
 コミドリが私に背を向けてテッチテッチと駆けだした隙にスマホを取り出し、履歴からとある人に電話をかけます。

「私だ。場所は把握しているな? 礼のものを頼んだぞ……」

 ワンコールで繋がり用件だけ伝えてすぐにスマホをしまいます。
 ボールを抱えて戻ってきたコミドリが不思議そうに首をかしげています。かわいい。

「? ご主人様、どうしたテチ?」
「ううん、なんでもないよ……ふわああ、なんか私、眠くなってきちゃったなあ」
「テェェ……ご主人様がおねむテチ?」

 これ見よがしにあくびをしてみせます。
 まだ遊び足りないのでしょう、ちょっと寂しそうな反応を見せるコミドリです。
 すると近くの茂みががさがさと音を立て、テッチテッチテッチテッチと二匹の仔実装ちゃんが駆け寄ってきました。



   【コミドリ】

「テェッ!?」

 わたしの近くにふたりのジッソウがやってきた。
 だ、誰?

「こんにちはテチ!」
「こんにちはテチ!」
「テ、テェ」

 丁寧に挨拶をしてくれるふたり。
 でも他のジッソウに会うのはショップにいたとき以来だから、ちょっとこわい。

「あらあ。野良のジッソウちゃんかなあ?
 ほらコミドリ、挨拶してくれたんだからこっちも自己紹介しなきゃ」

 ご主人様が優しい笑顔で言います。
 そうだ、ご主人様がいるからこわいことなんて何もない!
 挨拶できないのはわるいジッソウだから、ちゃんとしなきゃ。

「こ、こんにちはテチ。ワタシはコミドリテチ」

 ぺこり。丁寧に頭を下げて挨拶するよ。

「ワタシは『ファン』テチ! よろしくテチ!」
「ワタシは『ネル』テチ! あなたはここで何をしてたテチ?」
「ご、ご主人様とボール遊びしてたテチ」
「楽しそうテチ! ワタシタチも仲間に入れて欲しいテチ!」

 わたしはご主人様の方を見上げる。どうしよう?

「それじゃみんなで遊ぼうよ!」」

 ご主人様が大丈夫なら、わたしもいいよ。
 なので、わたしたちはよにんでボール遊びをした。

「いくテチ!」
「テチャア!」
「ナイスボールテチ!」

 ファンさんとネルさんの大きさはわたしと同じくらい。
 ふたりとする投げ合いっこは、ご主人様とするのとは違って面白い。

「ボール遊びもいいけど、みんなで探検ごっこしないテチ?」

 だんだん楽しくなってきた頃、ファンさんがボールを止めて言った。
 探検ごっこ?
 なんか楽しそうな響きだけど……

「あらあ、コミドリお友達ができてよかったねえ。
 それじゃ私はそこのベンチで休憩してるから、さんにんで遊んで来なよ」
「え……」

 ご主人様は嬉しそうに言うけど、ちょっとだけ不安になる。

「わかったテチ、コミドリさんのご主人様!」
「みんなで仲良く遊んでるテチ!」
「うんうん、うちのコミドリをよろしくね」
「ご主人様……」
「大丈夫だよコミドリ。ふたりともすごくいい仔たちじゃない」

 ファンさんとネルさんはとってもいいひと。
 そうだね。せっかく一緒に遊んでくれてるんだから、嫌がったらわるいよね。

「わかりましたテチ、ワタシタチだけで遊んでるテチ!」
「人間に踏まれないように気をつけてね。あと、念のため……」

 ご主人様はわたしにご主人様がいつも使ってる『すまほ』の小さくなったみたいなものを渡してくれる。

「これ、なんテチ?」
「実装フォンだよ。もし遠くに行っちゃっても、これがあれば私とお話できるからね。
 使い方は、ここをこうやって、こうして、こうで、こうなって……」
「テェェ、難しいテチ……」

 遠くにいてもご主人様を呼べるキカイなのはわかるけど、わたしの頭じゃちょっと難しい。
 けれど使い方を教わるわたしを後ろで見ていたネルさんが元気よく言った。

「わかったテチ! もし何かあったらワタシがコミドリさんのご主人様を呼ぶテチ!」

 ネルさんは使い方がわかったみたい。頭いいんだなあ。
 それじゃ、任せちゃって大丈夫かな?

「えっと、それじゃよろしくお願いするテチ」
「畏まらなくて言いテチ。ワタシタチはもう友だちテチ」
「ワタシタチはこの公園のことならなんでも知ってるテチ。危ない事なんてなにもないテチ」

 優しくて頼りになるふたり。
 初めてできたお友達に、わたしはとっても嬉しい気持ちになった。

「ご主人様、言ってきますテチ! ご主人様はゆっくり休んでてくださいテチ!」
「うん。気をつけてね!」

 そしてわたしたちはさんにんでご主人様に手を振ってタンケンを開始する。
 
 広場を抜けて、草がいっぱいの中へ入る。
 煉瓦の一本道を渡ってお花がたくさんある所へ。
 ちょっと高くなったオカに登ると、向こうには大きな池も見える。

「すごいテチ! コウエンは広いテチ!」

 すっごくたくさん歩いて……
 ふたりともいっぱいお喋りして……
 とてもとても楽しくて……
 なんだか夢を見てるみたいな気持ちで……

「ムニャ、テチ……」

 気付いたら、吸い込まれそうなほど眠くなってた。



   【マイ】

 三匹の後をこっそり追っていた私は、コミドリがいきなり意識を失ったのを見て思わず「よし!」って叫んじゃいました。
 そして手をたたき合うファンちゃんとネルちゃんの元へ向かいます。

「ごくろうさま、ふたりとも。これ気持ち程度だけどコンペイトウ一袋」
「こんなもんでよかったテチ? 遊ぶだけの楽な仕事だったテチ」
「ニンゲンサン、ご利用ありがとうございましたテチ」

 ファンちゃんはコンペイトウの袋を受け取りますが、いきなりがっつくことはありません。
 この二匹、実は近所の大型ショップで貸し出してるレンタル仔実装ちゃんたちです。
 厳しい選別をくぐり抜けた上、超一流の調教師に躾けられたため、とっても頭が良く命令通りの演技すらしてくれます。
 一匹当たりが三〇分2000円というかなり高価なレンタル代を取られますが、それだけの価値ある仕事はやってくれました。
 コミドリは気付かなかったでしょうが、そもそも野良に名前があるわけありません。
 
「あ、もしもしー。終わりました、引き取りお願いしますー」

 ちなみに破損、トラウマ植え付け、死亡など程度に応じて超高額な賠償金を取られます。
 なのですばやく近くで待機していた店員さんを呼び出して二匹を返します。

「ご利用ありあっしたー」

 ケースに入れられた二匹が店員さんに連れられて行きます。
 後に残ったのは私とすやすや寝息を立てるコミドリだけ。
 これで『コミドリが自分から私の元を離れ、つい眠ってしまった』っていう状況の完成です。
 遅効性実装スヤリの効果はかなり強力なので、夜までは目を覚まさないでしょう。

 ……くふふ♪

 さあ、三七匹目のコミドリちゃん。
 あなたの命、せいいっぱい輝かせようね♪

                                      つづく   

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1 Re: Name:匿名石 2016/04/07-03:18:01 No:00002137[申告]
>Здравствуйте(こんにちわ)
作者さん、さっきNHKでやってた「TVでロシア語」見てたじゃないのかと
思わずツッコミたくなるほど、個人的にタイムリーな挨拶w
ズドラーストヴィチェw

しかしこれだけキチンと躾けて上げると落としも楽しいだろうなあ
妹ちゃんに実装躾の師匠になって欲しいぐらいだわ
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