タイトル:【観察】 そっくり実装展覧会
ファイル:Insanit omnis homo.txt
作者:レマン湖 総投稿数:17 総ダウンロード数:1837 レス数:12
初投稿日時:2015/10/25-23:06:17修正日時:2015/10/27-08:10:24
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 駅からも遠く、治安がわるい地域のアパート。
隣は野良実装石のダンボールハウスが立ち並ぶ臭い公園。
老朽化が進みボロボロの建物。

 それが私の住まいだ。

 それなのに家賃は普通のアパート並。敷金礼金は三ヶ月分、2年毎更新。
かなりの悪条件だと思う。

 それでも部屋は満室だ。
だってここはペット可。それも実装石可なのだから。

 もちろん条件はある。

 飼って良い実装石は1石だけ。子供が増えたら容赦なく処分しなければいけない。
2日以上の実装石を置いての外泊も不可。
糞尿の臭い、騒音などで問題がでたら即刻立ち退かなければいけない。

 この前も101号室の住人が、多頭飼いをしていたのを理由に立ち退きになった。
ネズミ算式に仔が生まれて全部で42石もいたそうだ。
部屋は糞尿でベタベタ。床まで腐っていたらしい。道理で今年の夏はコバエが多かったわけだ。
前科がある実装石飼いをうけいれてくれる賃貸物件などそうそうあるものではない。
経済的理由で持ち家も買えない101号室の人は、泣く泣く全頭を手放すことになったらしい。
愛護派団体がサルベージを試みたものの、糞蟲病が蔓延していて全頭処分になったそうだ。

 避妊用眼球摘出手術もしない。糞蟲病が発生しても矯正施設にあずけない。
増えても里親を募集するでなく、しつけをするでなく、ただ甘やかす。
せめて部屋をこまめに掃除消毒すればいいものを、衛生状態を保持する努力さえ怠る。
そのあげくに全頭処分。ひどい。ひどすぎる。無責任すぎる。
これは愛護じゃない。愛誤だ。いやむしろ虐待だ。
こんなのは本当のやさしさじゃない。ただの自己満足だ。

 わたしは少し涙目になりながら、ピンクの服を着た上品な実装石をつれて
引っ越しの挨拶に来た101号室の人を思い出していた。

「この仔はモモちゃんっていいます。どうぞよろしくお願いします。」

 あの時は好青年だと思っていたのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 たぶんモモちゃんが仔実装7石を出産したあたりからだと思う。
散歩にでかける姿を見かけるたびに
モモちゃんの服は仔実装の「やんちゃ」で汚れていった。
モモちゃんのピンク色の服は糞尿にまみれて緑色に染まり
そのへんの実装石と区別がつかなくなっていった。
やがて生まれた仔実装が成体実装になった頃には
モモちゃんはモモちゃんという名前すら失っていた。
「モモちゃん、こっち来なさい。」
という優しいよびかけは
「おーいおまえたち、さっさとこっちに来いよ。いいかげんにしろ。たのむからさぁ。」
という苛立ちに満ちた怒号に変わっていた。

 『モモちゃん』はもう『モモちゃん』という名前でよびかけられる「個体」ではなかった。
その他大勢の中にもみくちゃにされ埋もれていった。

 どんどん糞尿の悪臭と鳴き声の騒音がひどくなっていった。
おなじ実装石飼いの連帯感で、多頭飼いを見て見ぬふりをしていた私達住人も
ついに堪忍袋の緒が切れて不動産会社に報告することになってしまった。



 実装石は猫や犬のような見た目の個体差はあまりない。どの仔もそっくりだ。
だから多頭飼いをしている人は名前をよく間違える。
それでも深い愛情と鋭い観察眼があれば、性格や行動からどれがどの仔かわかるものだ。

 でもそんなのは普通は無理。ぜったい無理。

 認めたくないけれども、個体の判別は虐待派のほうがうまい。
愛護派は個体の判別が苦手だ。みんな「かわいい実装ちゃん」にみえるからだ。

 うちのアパートでそれが一番ひどいのは102号室の奥さんだ。

 悪さをした飼い実装の『理央菜ちゃん』が
しょっちゅう庭に放り出されては、
必死でペチペチとガラス戸を叩いている姿をみかける。

「躾はね、ちゃとしないとね。やっぱりね。
 でもね、叩くなんてかわいそうなのね。
 だからね、お庭にね、ちょっとだけね、出しておくのね。
 むくれてね、前よりもね、態度が悪くなったりする事もあるけどね
 何度かね、お庭にね、出しておけばね、
 ほらね、いつの間にかね、イイコになっているのね。
 100円コーナーでね、売っているコンペイトウなんてね、
 もうね、ぜんぜんね、見向きもしなかったあの仔がね
 こんなにね、こんなにね、嬉しそうにね
 コンペイトウをね、頬張ってね、私にね、感謝しているのね。」

 102号室の奥さんは、話し方もその目も少し怖い。いっちゃっている感じがする。

 庭に出された飼い実装は、すぐに隣にある公園のノラになりかわられる。
あっという間に貪り食われる『理央菜ちゃん』
窓をペシペシと叩くなりかわった『野良実装』
しばらくするとサッシ窓を開けて野良実装を抱きかかえる102号室の奥さん。
あの仔が新しい『理央菜ちゃん』になったのだ。

 それにしてもアレを深夜にもやるのだから、たまったものではない。

 ポフポフポフポフポフポフ
 ベチベチベチベチベチベチ
 ドフドフ、ドフドフ、ポキッ!グチャ!

 次第に激しくなっていく窓を叩く音。

「デスーデスゥー、デデデデデデ!デッスゥゥゥ!
 デデデデデ?デッシャーーー!
 デヒッ!デヒッ!デギャアアアアアア!」

 次第に大きくなっていく悲鳴。
 正直夜中の三時にこんな騒々しい事をされては迷惑だ。

 一度怒鳴りこんだ事があるが。奥さんは出てこなかった。
代わりに旦那さんがでてきた。

「申し訳ない。妻がご迷惑をおかけいたしました。
 むかし軽い折檻のつもりで外にしめ出した娘が
 あんな事になってしまって以来妻は…。」

 ちらりと見えた部屋は愛護用品が所狭しと並べられていた。
きっとここで野良実装はあっという間にアガリ切ってしまうのだろう。
そしてそのあとは…。

 102号室の奥さんにとっては実装石はみんな同じに見えるのかもしれない。
いやむしろ実装石にすらみえていないのかもしれない。


 みんな『理央菜ちゃん』に見えるのかもしれない。


 私は色々と怖くなって、もううるさいのは諦め傍観に徹することにした。



 201号室の人はいつも仔実装を一石つれている。
そしてよく隣の公園にエサをばらまきにいく。
無責任なエサやりのせいで公園の実装石密度は高まる。
エサをばらまくだけで後片付けもなにもしない。
残飯を求めてやってきたカラスに弱い仔からつつかれて食われていく。
無責任度マックスなので悪天候の日、気が向かない日、
暑い日と寒い日はエサやりもしない。

 そのせいで仔実装がボロボロと生まれては死んでゆく。

 みかねた近所のおばちゃんが声をかけた時、201号室の人はこう答えた。

「え?なんでなの?なにが悪いの?いいじゃないの。
 毎年フレッシュでかわいい仔実装ちゃんが登場して楽しいじゃないの。」

 201号室の人はいつも仔実装を一石つれている。
フレッシュで可愛い小さな小さな仔実装をつれている。

 いつも、いつも。いつまでも。フレッシュなままだ。




 ちなみに202号室に私は住んでいる。

 こんなアレな人ばかりのアパートだが、実のところ私は動じていない。
自分の母親がもっとアレな人間だったから、免疫があるのだ。

 母は愛護派だった。いや、愛誤派というべきか。
あたたかいマイホームとなるはずだった我が家。
狭いペンシルハウスには、実装石が次々と増えてゆき、
父と私のスペースは圧迫されていった。

 『実装ちゃん』の緑色に汚れた『思い出の玩具』を収納するために
私の教科書とアルバムが入った本棚を中身ごと破棄した事がきっかけで
とうとう父親がキレて離婚が成立した。

 一度は愛した女性だから、という父の情けだろう。母には家が譲渡された。

 いよいよ離婚という日、私は母に聞いた。
「ママは私と実装石、どっちが大切なの?」
母は即答した。
「そりゃぁ実装ちゃんよ。だって実装ちゃんは私がいなかったらダメなんだもの。」
 私は実装石は嫌いではなかった。母も愛していた。
でもこの言葉で私はすっぱりと母を見捨てることにした。

 嘘でも「おまえだよ」と言って欲しかった。
せめて少しは迷うふりをしてほしかった。



 そんな母は去年死んだ。

 母はメディアにたびたび登場していた。おもに実装石愛護誌に。
傷ついた実装石を積極的に保護し続ける女神のような女性として。
  
 働いたことのない母はメディアに出ては多額の寄付金をあつめるも
『実装ちゃん』のために次々と浪費をくりかえして
とうとう資金繰りに行き詰まってしまった。

 そしてとうとう首をつって死んでしまった。
母は最後まで自分勝手な人だった。
 
 母の残した多額の借金を背負わないように、私は相続放棄をした。

 私は財産処分の確認をするために、一度だけあの家に戻った。
 かつての我が家。意外なことに中はあまりひどい腐敗臭はなかった。
もうその段階は通りすぎてしまったらしい。
アミノ酸に分解されきったビーフジャーキーのようなにおい。

 母の言う『私がいないとダメな実装ちゃんたち』は
腐敗を繰り返し、乾燥し、その骨格はぎっしりと積み重なり層になっていた。
 さながらズジスワフ・ベクシンスキーの絵みたいだった。

 よくみると『私がいないとダメな実装ちゃんたち』の死体は変だった。
故意に焼き切られたり拘束されていたようにみえる。

 「あ、ママは『代理ミュンヒハウゼン症候群』だったんだ。」

 その時は私は母親の本当の姿を知った。

 思えば私も子供の頃はしょっちゅう入院をしていた。
洗剤や漂白剤、泥水、汚水、腐った食べ物。子供の頃の私は、
どうして母はそんなものばかり私に食べさせるのか不思議だった。
どうして私を突き落としてニヤニヤと笑っているのか不思議だった。
そのくせ病院で嘆き、やさしくし、甲斐甲斐しく世話をするのか不思議だった。

 母は最後まで身勝手な人だった。

『私がいないとダメな何かを世話する自分』
 
 そんな自分が好きで好きでたまらなくてしかたなかったんだ。

 ペリペリと剥がれ落ちそうな層になった実装石のミイラ。
ともすればこれは私自身、そして生まれてきてしまったかもしれない
弟や妹の姿だったのかもしれない。

 昔は実装石に母親を取られたとばかり思っていた。
違ったんだ。本当は実装石は身代わりになってくれたんだ。


 思えばそれが私が実装石を飼うキッカケになったのかもしれない。
いとしい実装石。私の身代わりになってくれた実装石。

 その実装石を愛でている時、私は不思議と
母に愛されているような気持ちになった。
 

 そうは言っても私は母とは違う。
個体を把握できないほどの多頭飼いなんて無責任なこともしない。
私は一石ひとすじに、ちゃんと生涯きっちりと飼いきる。


------------------------------------------- 

「デッデッヒー
 デッデッヒー デッヒン!」

 公衆トイレで出産をするノラ実装。

「テッテレー!ママよろしくおねがいしますレチ!」
「テッテレー!コンペイトウはドコレチ?」
「テッテレー!レフッレフッレフッ!レッフーン!」

 次々と産みおとされる粘膜に包まれたかわいい仔たち。
やさしく粘膜を舐めとると、みるみる手足が伸びてフサフサの髪の毛がはえてくる。

 突然そこにニンゲンが乱入してきた。

「この仔、この丸々と太った蛆ちゃんをいただくね。」
 ニンゲンは粘膜でベタベタの蛆実装を掴みあげた。

「レヒィン!ナメナメまだレフ!このままだと蛆ちゃんのままレフ!」

 そんな蛆実装の嘆きもリンガルを持たないニンゲンには通じない。

「デシャー!なにをするんですニンゲン!私の仔を返すデス!」
「ニンゲンサン、イモウトチャかわいそうレチ!せめてナメナメだけさせてほちいレチ」
「おいニンゲン、そんなクソ蛆より、可愛いワタチを飼うレチ。」

そんな家族の抗議もスルーして、ニンゲンは金属製の小鍋に蛆実装を投入した。
鍋には煮えたぎったサラダ油が満たされていた。

「レッピィィィィィィ!アツイレフアツイレフ!このフロはあつすぎレフ!」

 蛆実装はのたうちながら泣き叫んだ。
こんな小さな身体からよくこんな声が出るものだ。
だがその声もだんだんと小さくなっていった。

「レヒッレヒッレヒッ」

 声がか細く囁くようにしか聞こえなくなった頃合いをみはからって、
ニンゲンは蛆実装を栄養ドリンクでみたされたタッパにうつした。

 たのしくうれしい出産に突然おこったあんまりなでき事。
みんな仲良くパンコンする実装家族。パキンする仔までいた。

-------------------------------------------------------------------------

 私はペットショップで実装石を買わない。
その舞台裏で行われている虐待といえるしつけ。
売れなかった仔達の残酷な処分、虐待派への販売を知っているからだ。

 私は普通の実装石を飼わない。
実装石をしつけるには虐待とも言える
しつけをくり返さなければいけない。
そのしつけを怠れば実装石はすぐにダメになる。
実装石は優しくすればするだけアガる。
アガりきった実装石は何をもってしても満足できなくなる。
その精神的苦悩はミジメなノラ実装よりも深いという。
 
 だから私は蛆実装を飼う。
公衆トイレで産み落とされたノラ蛆だ。
ノラ蛆は食べられてしまう運命だという。
それを救ってあげるのだ。

 生まれてすぐに油であげる。
ノラはどんなバイキンを持っているかわからない。
内部まであつくなるので消毒殺菌になる。
出産時、仔の苦痛を和らげると言われる粘膜に包まれた状態ならパキンもしずらい。
それに油であげると、唐揚げの衣のように、みるみる粘膜はがっちりと固着し、
成長しないいつまでもウジちゃんのままの仔ができあがる。
その上近所迷惑なかん高い声は、かわいらしい小さな囁き声になっているのだ。

ペットに最適ではないか。

万が一を考えてちゃんと避妊手術もする。両目を焼いたスプーンでくり抜くだけだ。
コンペイトウの麻酔、コーティングした偽石、栄養ドリンクのプール。
そんな処置をしても、ウジちゃんはあまりの痛みにピクピクと痙攣する。
か細い声で
「レピィィィィィィ」
と泣き叫ぶ。
 私だってくるしい。
でも私は可哀想だからって避妊手術もしないで
ドンドン増やしてしまうような無責任な飼い主とはちがうのだ。

 これをのりこえれば一安心。
ウジちゃんならプニプニとコンペイトウがあれば満足してくれる。
寿命も長くないので、死ぬまで責任をもってしっかり飼うことができる。

 チリチリの前髪、小麦色の肌、唐揚げのような美味しそうなおくるみ。
そして永遠の暗闇の中、私だけを求め続けパタパタする小さな手足。

 
 個体識別もバッチリ。
 

 私のウジちゃん。私だけのウジちゃんだ。



 そうそう、新しく入った101号室の人はジックス派みたいだ。
いつも喘ぎ声が聞こえる。365日、一日8時間くらいはあえいでいる。
えー、いったいなんの仕事をしている人なんだろう(;・∀・)

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1 Re: Name:匿名石 2015/10/26-20:36:26 No:00001847[申告]
このアパート、住人もろとも焼却処分したほうがいいのではなかろうか
勿論両種もろともに
2 Re: Name:匿名石 2015/10/27-01:38:24 No:00001848[申告]
淡々とした基地外観察日記っぽい語り口が妙なリアリティを感じさせる
3 Re: Name:匿名石 2015/10/27-06:10:15 No:00001849[申告]
何よりも一番恐ろしいのは人の心に潜む闇ですね…
4 Re: Name:匿名石 2015/10/27-19:04:30 No:00001850[申告]
>えー、いったいなんの仕事をしている人なんだろう(;・∀・)
ジックスが仕事なんじゃね?
5 Re: Name:匿名石 2015/10/28-00:33:05 No:00001851[申告]
きが くるっとる
6 Re: Name:匿名石 2015/11/03-02:16:47 No:00001852[申告]
実闇深
7 Re: Name:匿名石 2015/11/07-20:58:39 No:00001856[申告]
他もだいたい酷いけど奥さんが子供死なせちゃってるのが……
実装がいる世界ではおちおち子供の折檻もできないのか
やっぱり実装は絶滅させなきゃ
8 Re: Name:匿名石 2015/11/13-19:07:49 No:00001861[申告]
実装石が原因なら旦那は実装石を飼うのをそもそも許さないだろうから
娘さんの死因に実装石は関わっていなさそうではある
9 Re: Name:匿名石 2016/02/29-11:05:23 No:00001903[申告]
頭おかしい(褒め言葉)
闇が深くて実装より気持ち悪い人間ばかりなのが良い
10 Re: Name:匿名石 2016/02/29-22:28:43 No:00001904[申告]
※7
駆除派の気持ちだけは分からんわ
絶滅させたら楽しめねえじゃん
11 Re: Name:匿名石 2016/03/02-23:07:27 No:00001910[申告]
楽しむより人間様の方が大事だ
だいたい実装なんてデタラメ生物なんだから駆除したっていなくなりゃしねえ
12 Re: Name:匿名石 2017/10/10-22:44:21 No:00004961[申告]
愛護派視点の観察SSって、意外と珍しいね。
度を過ぎた虐待派や虐殺派も大概だけど、愛誤派も業が深いなぁ…
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