涼 母親の小言がうるさい。 ただでさえ通年にも増して猛暑厳しい日々が続いてダレているのに。 だが無視すれば余計にうるさくなるので適当に相づちを打つ。 お気に入りの植え込みに野良実装がクソを垂れたとヒスりまくりだが、 なんの事はない、いつもの夏の闖入者じゃないか。 夏の暑い盛り、決まって隣の公園から室外機が排出する水を実装共が啜りに来るのだ。 いい加減相手をしていられなくなり、霧吹きとコンビニ袋一杯のペットボトルを受け取る。 このクソ暑い中、外など出歩きたくない。 それが野良実装共の相手なら尚更だ。 だがこのままじゃ、母親のお小言は止みそうにない。 自分で行けばいいのに、などと言おうものならどうなるかは明らかなので素直に従だけだ。 「やれやれ……公園はヤブ蚊がいるから嫌なんだよなぁ〜」 公園で遊ぶ子供達がいれば駄賃をくれてやり面倒を肩代わりさせる所だが、 こうも暑くては親が熱中症を心配してか、最近はそうそう子供の姿も見当たらぬ。 と言う訳で、仕方なしに公園へ出向く事になった。 「テ…テチィ…!?」 適当に植え込み周りを探すと、呆気なく野良実装の段ボールハウスを発見。 巣には仔実装が一匹、寝転がっていた。 人間に見つかったというのに脱水症状でか弱々しい反応しか示さない。 流石にこの猛暑は実装でも堪えるのか、蒸した段ボールの中でグッタリしている。 辺りを見回しても親実装の姿は見当たらぬ。 「見捨てられた仔実装か? それとも留守番か?」 やはりあった。 薄汚れたペットボトルが巣の中で幾つも散乱している。 貯め込んでいた水を飲み尽くし、親姉妹は水と涼を求め出かけているのだろう。 「マズった。もっと早めに出向くべきだったか」 「テェ……?」 虐待派の襲撃でないと察したのか、それとも弱り切って抗う事も出来ぬのか、 怪訝そうに仔実装はオレを見上げるだけだ。 そんな仔実装に構うことなく、たっぷりと水の満たされたペットボトルを放り込む。 「テ…テェエェ…エ…」 「ん? 水が欲しいのか? 好きに飲んでいいぞ」 「テ…テチィ…」 「なんだ? ああ、もう弱り切ってフタを開けられないのか」 水の満たされたペットボトルへ這いずりにじり寄る仔実装に霧吹きを吹きかけてやる。 「テェ…? …テ!? テ…テチィっ!?」 「どうだ、スーッとして涼しくなったろう?」 乾いた大地に恵みの雨が降ったかのように、干涸らびていた仔実装の肌に艶が戻る。 「テチュ〜〜〜ン♪」 「そうか。そうか。じゃあ、後はよろしくやってくれ」 テチテチと騒ぐ仔実装の声を背に、他の実装ハウスへペットボトルを放り込む。 あらかた公園の植え込みを探り終えた頃、脚から鈍い痒みが駆け上ってきた。 「くそ! やっぱり刺されたか。急いで戻って薬塗らなきゃ」 家路へ急ぐ最中、もうオレの脳裏からは実装の事は綺麗さっぱり消え失せていた。 どの道、明日までには害獣共は、残らず息絶えているのだから。 ペットボトルの水にはハッカ水と駆除薬が入っていた。 ゴキブリ並に駆除薬に対抗出来る特異な個体がいたとしても、 ハッカ水の効果で自身が熱中症へ陥ったと気づかぬまま干涸らびて死ぬのだ。 「帰ったらハッカ水風呂にでも入るか〜」 青空に浮かぶ白い入道雲を見上げ、家路を急ぐのだった。
