余寒 //−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−// 久しく白銀が舞う事も無く、春の芽吹きが厳冬の終わりを告げる。 そんな住宅地外れの山地に接した公園。 通年ならばそこは長い冬籠もりを終えた野良実装達の歓喜で満ちている。 だが今年に限っては、どうにも様子が違っていた。 まるで一匹残らず実装達が消え失せたかのように、公園は静寂に包まれているのだ。 柔らかな陽光に満ちた昼下がりの公園は、さながら今し方大規模駆除でも行われたよう。 勿論、行政執行のせいでも、ましてや虐待派が派手にパーティしたせいでもない。 実は去年の秋頃からずっとこうした状況が続いていた。 山の麓にほど近いこの緑地公園は、 住宅地近くといえ山の実りに恵まれた野良実装達の天国と呼ばれていたのに、だ。 「マ…ママぁ…」 「シッ! 静かにするんデス…」 植え込みと落ち葉に隠された、樹木の根元にぽっかり口を開けた巣穴の奥から、 息も絶え絶えな実装親子の会話が漏れ聞こえてくる。 「テェエェ…でも…ママぁ、お腹スイタテチぃ…寒いテチぃ…」 「我慢するんデス! ママだってお腹が空いてるんデっス!」 「テェエェ…でも…でももう三日はウンチしか…食べてない…テチぃ…」 「……じきお外は真っ暗デス。止めないから好きに餌探しに行くといいデス」 「テヒっ!? そんなの無理テチぃ! ぴりぴり怖いテチぃ! ナイナイ怖いテチぃ!」 最初は、仔実装の不可解な失踪だった。 野良猫や野鳥、そして虐待派の人間と、仔実装が不意に消す理由など数え切れぬ。 だからこの公園に住み着いていた野良実装達は、その失踪にさして注意も払わなかった。 だが、それがカラスが居るはずの無い深夜に親の目の前でも頻繁に起こるとなると話は別だ。 黒猫が闇に紛れて仔実装をさらったのだと、親実装達はそう囁き合った。 けれどそんな実装達を嘲笑うように、野良猫も出歩かぬ雨の夜でさえ仔実装は姿を消す。 過酷を極める生存率である野良実装生活において、仔実装とは言え貴重な労働力だ。 ましてや冬籠もり前の食糧確保に忙しい秋となれば尚更だろう。 とは言え母実装の愛情は深い。 結局、冬籠もりの準備スピードが致命的に遅くなるのを承知で、 親達は仔実装達に外出禁止令を下すより他に術はなかった。 無論、失踪を覚悟で仔実装達にも食料確保へ奔走させる親もいたが、 決まってそんな仔実装達は食料共々に姿を消し、結局外出禁止令に従う他なかった。 こうなっては親実装しか巣の外へ出れず、てんてこ舞いになりながらも、 冬籠もりに向け食糧確保に奔走する他にない。 都心の野良達ならば、働き手が一人減るだけで餓死の運命から逃れられぬが、 この公園の実装達は環境に恵まれ、親の手だけでも辛うじて山の実りを蓄えられた。 こうして白いものがチラつく頃には仔実装の不可解な失踪事件は影を潜めたが、 今度は凍てつく公園で餌探しに奔走する親実装達の身に謎の現象が降りかかる。 不意に頭や手、背中に焼けるような激痛が走るのだ。 酷い時など、髪の毛がごっそりと切れ失せる事もあった。 勿論、周りを見渡しても野良猫も野鳥の姿もない。 まるで姿の見えぬ敵が、剥き出しの悪意を実装に滴らせたかのように、 注意深く物陰から周りを伺う実装達の手を、脚を、頭を、髪を、灼いた。 半狂乱になりながらも、それでも迫り来る冬の厳しさに向け、 食糧確保に野山を奔走するしかない親実装達。 唯一の救いは、一晩経てば謎の現象で出来た傷が癒えた事くらいだろう。 そんな実装達を嘲笑うように、謎の現象は昼夜時と場所を問わず襲いかかった。 ヒタヒタと迫り来る飢餓感に加え、目に見えぬ敵の与える恐怖とストレスは計り知れない。 冬籠もりの備えもままならず、迫り来る冬の到来を前に多くの実装達がこの現象に怯え、 恐れおののき、そして実装石を砕いた。 中には得体の知れぬ恐怖に耐えきれず、時期は外れの“渡り”を試みる家族もいた。 その一家の行方は杳として知れぬが、冬の“渡り”が何を意味するか、誰もが理解していた。 楽観的で低脳な実装個体でさえ、これでは厳しい冬を越せぬと思い至ったのか、 最早これまでと仔達を食い殺した挙げ句、実装石を崩壊させる親実装も出る始末で、 冬を前にして公園の野良実装はグン、とその数を減らしたのだった。 「天光を満ところに我はあり! 黄泉の門開くところに汝あり!」 「いでよ神の雷! これで最後だっ! インディグネイション!!」 「まぁーた中二臭いキメセリフはきやがって。あんま調子くれて無茶すんなよぉ?」 「この前の糞の後始末がメチャ大変だったってさ、くどい程言われたろーが?」 「分かってるって。こうでもしてモチベ上げてねぇと退屈でしょがねぇんだよ」 「確かにな。やっぱり俺達みたいなのは、直に奴等のもがき苦しむ声聞かねぇと……」 「ハハ! 見てみろよ、あの間抜けヅラ! 奴等、夜なら安全だってまーだ信じてんだな」 「逆に夜は奴等の方が断然不利で、こっちはメチャ有利になるってのにさぁ」 「……これって、どっかの先生の行動学だとかの実験も兼ねてんだろ? 意味あんのかねぇ」 「意味が有ろうが無かろうが構うもんか。金稼げて実装ブッ殺せんなら願ったりじゃん」 「まぁな。なんでも虐待派向けの求人なんて前代未聞だ、って上はゴタついたらしいけどよ」 「しっかし、こうして空から実装共の行動を抑制するだなんて時代も変わったよなぁ〜」 「おーっと、そんなトコに抜け道があったのか。ざぁーんねん♪ 逃げられねぇよー」 「そらー! 神の雷をその身に宿し、天空より自らを敵陣へと放つ!」 「星をも穿つ一筋の神槍となり、全てを灰燼に帰す! ギガデイン!!」 「ったく。よく飽きないねぇ、お前も……」 ******** 最近、安価になって巷に普及してきたドローン(遠隔操縦される無人の飛行体)。 そのドローンを駆使した実装駆除のテストプロジェクトが、このフタバ市で施行されていた。 その効果を最初疑問視する声があったものの、これまでのイタチゴッコ同然な駆除と違い、 継続的に実装の行動を抑制し、その数を徹底的に激減させられるというこのプロジェクトは、 予想外の雇用を生み出しただけでなく、当初の予想を遙かに上回る成果をあげていた。 ただ黒いボディなだけのドローンで仔実装を釣り針で連れ去ったり薬物を空中から垂らすだけで、 あのゴキブリ並の繁殖力と驚異の治癒力を持つ害獣の駆除がここまで劇的に進むとは、 発案したその人でさえ予想だにしなかっただろう。 まだ実験段階なので種々の課題が山積してはいるものの、 この実装駆除抑制方法は全国に広がっていくだろう事は想像に難くない。 そして、この公園の野良実装達に春が訪れる日は、もう永遠に来ない無いだろう。 了 //−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−//

| 1 Re: Name:匿名石 2015/03/09-21:32:15 No:00001670[申告] |
| >実装石を崩壊させる
「実装石」ではなくて、「偽石」だ! |
| 2 Re: Name:匿名石 2015/03/10-12:32:45 No:00001671[申告] |
| あの機械は騒音が酷くて野生動物がパニックを起こすくらいだと聞いた。
いくら実装石でも気が付かないわけはないと思うが。 ましてや閑静な公園ならばなおさら。 |
| 3 Re: Name:匿名石 2015/03/11-01:13:15 No:00001672[申告] |
| 実装スクにもドローンが取り入れられたか。
技術革新の波は速い |
| 4 Re: Name:匿名石 2015/03/22-21:11:36 No:00001683[申告] |
| こればっかりは実装が出てきた当時にはやれないネタだからなあ
技術革命はいいものだ 騒音が酷いっていうのは実装世界ではさらに技術が進んだか、実装石は思い込みが激しいから暗いときはないないされない大丈夫と思い込んだら音なんか気にならんってことで |
| 5 Re: Name:匿名石 2015/03/24-16:55:01 No:00001686[申告] |
| 実装石ブームは既に過ぎ去ったと思いきや、早速、流行り物を取り入れたスクが投稿されているとは…もっとやれ! |
| 6 Re: Name:匿名石 2015/03/27-22:16:26 No:00001688[申告] |
| ぶっちゃけリアルに考えたら一回一斉駆除するだけで全滅させられるし
手間もはるかに少なくて済むよなあ。何度駆除してもまたはびこるのは 虐待したい側のご都合主義なんで。 |
| 7 Re: Name:匿名石 2015/03/28-17:20:29 No:00001689[申告] |
| >実装世界ではさらに技術が進んだか
でも、ここの部分は前半の実装石が突然消えると言うミステリーに対しての種明かしで つまりは話のキモでしょ? そこをファンタジーにしてしまうとスクリプトとして成り立たないと思うのだが。 |
| 8 Re: Name:匿名石 2015/03/28-22:46:52 No:00001690[申告] |
| それを言い出したら実装なんて存在するという根本から成り立たなくなってしまう
俺ちゃまが納得いかない、気にかかるって個人的感性に帰着する部分でリアルとファンタジーの線引きをするのは不毛 |
| 9 Re: Name:匿名石 2015/04/04-18:03:29 No:00001701[申告] |
| >俺ちゃまが納得いかない
なんだ、煽りたいだけか。 もう少しまともな奴だと思っていたのに残念だ。 |
| 10 Re: Name:匿名石 2015/04/27-21:52:43 No:00001717[申告] |
| とうとう偽石という言葉さえも忘れられつつあるのか・・・ |
| 11 Re: Name:匿名石 2015/04/29-08:12:44 No:00001719[申告] |
| ドローン、タイムリーなネタを見に来たデス |
| 12 Re: Name:匿名石 2015/04/30-16:03:12 No:00001721[申告] |
| ドロローン |