タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話09
ファイル:「実装産業の世界編」9.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1332 レス数:1
初投稿日時:2014/10/12-12:53:59修正日時:2014/10/13-06:07:26
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた「実装産業の世界」は、実装石を産業資源としている超未来都市だった。
 そこでは、なんと海藤ひろあきが指名手配されていた。
 彼の兄にして、実装管理委員会の次官を勤める海藤やおあきは、としあき達に、ひろあきと
彼の持つデスゥタンガンの捜索を依頼する。

 一方、ミドリは、中実装化したひろあきと共に、「アビス・ゲーム」に参加させられていた。
 そしてとしあきとぷちも、メイデン社の会長・志川蘭子と知り合った結果、実装化されて
「アビス・ゲーム」に刺客として参加させられてしまった。

 アパートの中では、残された最後の実装石達による“封印の間”201号室への侵入方法が模索
されていた。
 その一方で、“偉大なる大ローゼン”の特殊工作部隊「Deceive」の活動が開始され、アパート
の外でも様々な攻防が繰り広げられていた。
 また、DEJAとメイデン社の「デスゥタンガン」を巡る争いも、多大な犠牲者を出す結果と
なりつつあった。

 そしてその犠牲の中には、海藤ひろあきの肉体も、含まれていた——



【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 現在、実装化している。


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、ひろあきと共に「アビス・ゲーム」参加中。
 首下のリボンの色は、緑。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、実装に戻ってしまっている。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 現在、何故か中実装の姿になっており、「アビス・ゲーム」でミドリと共に行動中。
 首下のリボンの色は、緑。
 現在、重傷を負って行動不能の状態に。


・キイロチーム(成体実装×2、仔実装×2、蛆実装×1):
 「アビス・ゲーム」のプレイヤーで、103号室を陣取る黄色いリボンを着けた実装石達。
 実は、蛆実装がチームリーダー格。
 現状、一匹の欠けもなく全員が生き残っている唯一のチーム。


・伐採石:
 「アビス・ゲーム」に無関係な乱入者や、ルール違反とみなされたプレイヤーを伐採
(処刑)するための実装石で、どこからともなくアパート内に現れる。
 顔や腕、脚を包帯で覆い、右腕には巨大な刃を埋め込まれている。
 殺傷方法は主に首の切断で、一切の容赦はないが、伐採対象外の者には一切干渉しない。


・志川蘭子:
 チャイナドレスをまとった色っぽい美女で、メイデン社の若き会長。
 デスゥタンガンの現在の所有者で、本体のシステムに施されたロック解除を、としあきに
依頼するが、紆余曲折を経て、初期実装と取引を行うことに。


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを
引くと、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。

 
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    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜  第12話 ACT-9 【 偉大なる大ローゼン 】

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 6月13日午後3時58分——

 
★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。



 203号室。
 ミドリとひろあきは、アオ仔実装と親指(オルカ)を押入れから出し、耳を傾けた。

『大変申し訳ありませんが、我々Deceiveは、これよりこの世界から撤退します』

「テッタイ?」

「帰るってことだよ……ミドリ君」

「デェ? それって、どういう事デス?」

『ご説明している時間がありません。
 弐羽としあき様に直接お話出来ないのが残念ですが、何卒お伝え願います』

「え、ちょ……」

『いずれまた、別な世界でお会いできますことを——』

 そう言うと同時に、アオ仔実装と親指の身体が、ブレた映像のように乱れる。
 そして、空間に溶けるように、あっという間に消えてしまった。

「デ、デェェェェ?!」

「消えた……?」


 時同じくして、アパート敷地内に陣取っていたDeceive本体の姿も、消滅していた。
 彼らが居た辺りには、不思議そうな顔つきの工作員達が集まり始めていた。

「緊急連絡。アパート周辺に出現した正体不明の一団が、消滅しました。
 ——いえ、撤退ではありません! 我々の目の前で消えたのです!
 嘘じゃないんですってば!」


          ※          ※          ※


「馬鹿な、神隠しにでもあったというのか?!
 ……引き続き行方を追え!」

 海藤やおあきは、携帯を切ると、こみ上げる怒りをこらえるため、天井を見つめた。

「——話の続きをしても、宜しいでしょうか?
 海藤次官殿」

「失礼いたしました」

 ここは、巨大な会議室。
 黒い壁に覆われ、ブラウンのロングデスクと黒のシートが配置された室内には、神妙な面持ち
の男女が席についている。
 彼らの視線は、末端席にいるやおあきに注がれていた。

「アビス・ゲームについてですが。
 それでは先ほどのお話の通り、DEJAによって速やかに現場の封鎖、ならびに状況証拠確保の
ための調査を、行って頂きます」

 司会席に座る妙齢の女性が、事務的な口調で語る。 
 やおあきも、表面上は平静を装ってはいたが、先ほどの、現場スタッフからの連絡に対する
返答の通り、内面では不安と憤りが渦巻いていた。

 ここは、ローゼン社本社社屋内。
 呼び出しを受けたやおあきは、「アビス・ゲームの舞台となる物件発見」の報を受けていた。
 同時に、その現場及び関係者の取り押さえと検挙、アビス・ゲームに関連する各種情報網の
洗い出しと一斉取締りを命ぜられたのだ。
 無論、今までもアビス・ゲームに関するローゼン社からの捜査命令は何度も出ていたが、これ
ほどまでに大規模な指示はなかった。
 そのため、やおあきはこれまで「実に巧妙に暗躍する組織の可能性」を示唆し続けて来たの
だが、既にローゼン社側が有力な情報を握っているという前提で話が進められるということは、
やおあきにとってはかなりまずい状態にある事となる。
 それでも、やおあきは必死でポーカーフェイスを装い、いつものように冷静に話を拝聴する
態度を維持した。
 
「なるほど、了解いたしました。
 先ほどもお伝えしましたが、実はこちらでも特殊捜査員を派遣し、閉鎖区域を中心とした調査
を行い、有力情報を掴んでおります。
 早速本署に戻り、具体的な対策を——」

 そこまで言いかけた時、先ほどの女性の脇に腰掛けていた年配の男性が、禿げ上がった頭を
掻きながら、やや神経質そうな声で怒鳴った。

「いや、今だ。
 今ここで、指示を出しなさい!」

「と、申しますと?」

「捜査員を派遣済みなら、DEJAの本署に戻ってからでも、ここで今指示を出しても同じ事だろう?
 君が本署に戻って準備をするまでの間に、もし彼らが逃走を図ったらどうするね?」

 その指摘に、やおあきは心底ギクリとした。
 やおあきは、今回のローゼン社からの呼び出しを、謎の実装生物発生問題に関する話題と高を
くくっていたので、万が一の時の対応を、現場スタッフやにじあきに指示していなかったのだ。
 正直なところ、実装生物大量発生で世界的なパニックが起こりつつある現状に於いて、アビス・
ゲームの検挙などは、ローゼン社にとって優先度が低い問題だった筈だ。
 にも関わらず、こちらを持ち出してきたということは、かなり深くまで食い込んだ情報を押さえ
ている可能性が高い。
 そう読んだやおあきは、少しでも時間稼ぎを行い、自分とアビス・ゲームの関わりを悟らせない
ように工作しようとしたのだが、今まさにそれを止められたのだ。

(もしかして、こいつら……?)

「どうしたね海藤君?」

「わかりました、では今すぐ」

 口やかましい禿男に頭を下げ、やおあきは再び携帯を取り出した。

「もしもし、ああ私だ、海藤だよ。
 ——アビス・ゲームの捜査の件だが——」

 この呼びかけは、一種の暗号だった。
 万が一、公務の最中にアビス・ゲームに関する指示を出さなければならなくなった場合、
“名前を名乗る”ことで、通信相手は特殊な事態であることを察する段取りになっていた。

「うむ、うむ……そうだ、速やかに現場を封鎖し、蟻の子一匹出入りさせるな。
 同時に、科学班を動員、警察庁の鑑識課にも協力要請し、徹底的に現場を調べ上げてくれ。
 ああ、大至急、今すぐにだ」

 それだけ指示すると、やおあきはふぅと息を吐いた。
 無論、この指示は実際の命令ではなく、いずれそういう指示を行うことになるため、即応出来る
ように準備せよ、という意味を含んでいる。
 携帯をしまって室内を見ると、何人かの役員達が、やおあきを見て何やらひそひそと密談を
交わしていた。

「結構です、海藤次官。
 ところで、貴方に別途お伝えしなければならない、重要な報告事項があります」

「重要な? それはなんでしょう?」

 妙に改まった態度で、司会席の女性がコホンと咳払いをする。
 やおあきが席に着いたのを見計らい、テーブル上のリモコンを操作する。
 すると、女性の背後の大型スクリーンに、見慣れぬロゴのようなものが表示された。

「偉大なる……大、ローゼ……ン?」

 そこに表示されたものは、かつて「山実装の世界(※第11話)」にてとしあきが見た、謎の看板
の文字と全く同じ物だった。
 無論、やおあきは初めて目にするものだ。
 目をパチクリしながら向き直るやおあきに、司会の女性は穏やかな口調で、まるで子供に言い
聞かせるように語り出す。

「本日正午より、弊社ローゼン社は、“大ローゼン”と名称を変更いたします。
 名称だけではなく、組織形態、運営、企業理念など、全てを一新させていきます」

「……は?」

 突拍子もない展開に、全く付いていけないやおあきは、ただ目を見開くばかりだ。
 
「現在、この世界に起きている実装生物発生問題への対処をメインに、これまでローゼン社とDEJA
が行ってきた事も、今後はすべて弊社が……いえ、偉大なる大ローゼンが、一手に取り仕切ること
になります」

 女性の言葉に、やおあきは一瞬、耳を疑った。

「お待ちください、それでは、DEJAは——
 実装管理委員会は、今後どうなるのでしょうか?」

「だから君ぃ、察したまえよ」
「このアビス・ゲームの一斉検挙が、君達の最後の大仕事って事だよ」
「言わせないでくれたまえ、恥ずかしい……」

 やおあきの周囲から、ローゼン社の……否、もはや大ローゼンの役員達が、一斉に話しかけてくる。
 それは、やおあきにとって、ありえない——あまりにも予想を超えた衝撃だった。

「あ、あの!」

「お話は以上です。
 今後は、弊社の——大ローゼンの担当者が、そちらに連絡を行います。
 本件は、二日以内に片付けるように。
 頼みましたよ、海藤次官」

「ふ、ふつか?!」

「それでは、本日はこれにて。
 ——偉大なる、大ローゼンのために!」

「「「「「偉大なる、大ローゼンのために!」」」」」

 司会の女性に続き、他の役員達が一斉に立ち上がり、右腕を高く掲げて声を上げる。
 そのあまりに異様な光景に、それまでポーカーフェイスを貫いてきたやおあきも、ついに仮面が
崩壊した。

「一体……何が起きているんだ?!」

 役員が全員退室した後、やおあきは、大急ぎで帰還準備を始めた。


          ※          ※          ※


★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
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 ここは、201号室の床下。
 としあきとぷち、キイロチームの子供達は、上がってきたキイロママと再会した。
 キイロママは、当初は困惑した表情を浮かべたが、子供達が甘えて来たので、すぐにいつもの笑顔
に戻った。
 としあきは事情を説明し、天井の鍵穴らしき物を指し示した。

キ成2「なるほど、これが……では、鍵を貸してみるデス」

と「ああ、頼むよ」

 真鍮の鍵をキイロママに渡し、としあきは、ぷちや子供達を少し下がらせる。
 キイロママは、特に支障なく、鍵穴に鍵を差し込んだ。
 カチャリ、と音がする。

キ成2「あれ? か、鍵が……抜けなくなったデス!」

と「え? ど、どういうk——」

 ブブブブブブブブ……

 と突然、鍵穴のあった天井の一部が、おかしな電子音を立てて振動し始めた。
 キイロママが慌てて後ずさると、なんと、天井の一部がゆっくりと下に降りてきた。
 
ぷ「開いたテチ! すごいテチ!」

キ成2「でもこれ、どうすればいいデス?」

と「もしかしてこれ、超小型エレベーター?」

キ蛆「どういう事レフ?」

と「い、いや、とにかく、ここに上がってみよう」

 降りてきた天井の一部は、四つ角を頑丈な鋼鉄製のアームで支えた、小型昇降機のようだった。
 約60センチ四方程度の面積の丈夫な床で、カーペットのようなものが敷かれている。
 どうやら、この場にいる全員が一度に乗れるようなので、としあきはキイロの子供達を乗せてやり、
自分もぷちと一緒に搭乗した。
 すると、昇降機が徐々に上り始めた。

と「なんつー、無駄に凝った仕掛けなんだこれは?」

ぷ「テェ? なんか、すぐ止まっちゃったテチ」

キ仔1「アァ! ライトを置いてきちゃったテチ!!」

キ蛆「今は諦めるレフ、後で拾えばいいんレフ」

キ成2「これは、何かの下デス?」

 昇降機は、数十センチほど上がって、すぐに停止した。
 辿り着いた先は、どうやら真四角のテーブルの下のようだった。
 頭を少し下げて外に出てみると、そこは、間違いなくアパートの一室——201号室の中だった。

 しかし、その内装は、他の部屋とはあまりにも違っていた。

 薄桃色のカーテンが張られた窓、北側の壁に接するように配置された、柔らかそうな布団の敷かれた
ベッド、東側ドアのすぐ横に置かれた木机と椅子、南側の壁の押入れ脇には、小さな冷蔵庫とワード
ローブ。
 西側には、背の低い食器棚と本段、ごみ箱が置かれている。
 部屋の中央には正方形の木製テーブルがあり、この真下から入り込んだ形になる。
 更に、テーブルを挟むように、二枚のふかふかな座布団まである。
 その、妙に生活観溢れる内装に、一同は思わず驚きの声を漏らした。

ぷ「なんか、今にも部屋の住人さんが帰ってくるみたいテチ!」

キ成2「このベッド、子供達の寝床にいいデス!」

キ蛆「テーブルも広くていい感じレフ。ここは有効活用できそうレフ」

と「おい、押入れの中はどうなってるかな?」

キ成2「そうデス、確認するデス」

 押入れは、他の部屋と同じような構造になっており、特段不思議なものはない。
 下段には、お菓子の沢山詰められた段ボールが数個あり、更に甘そうなジュースのペットボトル
までたっぷり用意されている。
 更に、奥の方にはお菓子の備蓄がたっぷりあり、しかもかなりの期間持たせられそうな量があった。
 上段には布団がもう一組用意されており、ここも寝床に出来そうだった。
 押入れ上段へは、冷蔵庫の上に乗ってしまえば、中実装一匹だけでも余裕で登れるようになって
おり、冷蔵庫も、ゴミ箱をひっくり返して成体実装に手伝ってもらえば、問題はない。

 冷蔵庫の中も、冷えたジュースが沢山あり、しかも実装石が手に持って吸えるようなハンドグリップ
とストローまで付いていた。
 おまけにプリンやゼリー、金平糖までふんだんにストックされており、ご丁寧にスプーンまで
置かれている。
 としあきは、これでステーキがあったらやりすぎだろうと思ったが、さすがにそこまでは入って
いない。
 代わりにあるのは、ラップに包まれた分厚いベーコンの束だった。

と「なんてこった! こりゃあ実装石にとっては極楽みたいなもんじゃないか」

キ仔1「お部屋の温度も、暑くもなく寒くもなくで、丁度いいテチ」

キ蛆「多分、巧妙に隠された空調管理システムが作動してるレフ。
 これだけ締め切った部屋なのに、全然こもった匂いがしないものレフ」

ぷ「この蛆ちゃん、とってもお利口さんなんテチ?
 いい子いい子するテチ〜♪」

キ蛆「良かったら、お腹プニプニして欲しいレフ〜♪」

キ仔2「テェ? ママ、なんでそんなお顔してるテチュ?」

キ成2「え? いや、何でもないデス……
 ただ、パパのことが気になって」

 キイロママは、先ほど入り込んだテーブル下の昇降機を調べた。
 床は、ぴっちり閉じ切っており、一分の隙もない。
 本来段差か隙間があるべき四方の辺も、まるで最初からそんな仕掛けなどなかったかのように、
面一を保っている。

キ成2「これでは、パパはどうやって、ここに来ればいいのデス?」

と「そこのドアを、なんとかこっち側から開けられないかな?」

キ成2「調べてみるデス」

 キイロママは、としあきと協力して、入り口のドアを調べてみた。
 ドアは、強く押せば多少ガタガタ音をさせはするものの、開く様子はない。
 ごみ箱や段ボールを土台にして、ドアノブを回してもみたが、ただ空回りするだけだ。

と「もしかしてこのドア、本当にダミーなんじゃねぇの?」

キ成2「さっき気付いたデスが、蝶番が溶接してあるデス。
 ここからの出入りは、最初から無理だったんデス」

ぷ「じゃあ、元々床下から入るしかなかったテチ?」

キ蛆「そういうことになるレフ。
 でも、だとしたらパパが、床下に来れば——」

キ仔1「でも、鍵はくっついちゃったテチ。それでも、もう一回開くテチ?」

キ仔2「テ、テェ……」

と「おいおい、これじゃあ、ぶっ壊さなきゃ二度と出られないってことかい?」

キ成2「逃げ込んだつもりが、今度は閉じ込められたという事デス?」

と「だな……」

 そこで、実装石達の会話は止まってしまった。
 キイロママは、ひとまず食事を済ませて、気分転換を図ってから改めて考えようと、皆に持ちかけた。

 チョイチョイ

ぷ「ね、ねぇ、クソドレイサン……」

 その時、ぷちが顔を真っ赤にして、小さな声で話しかけてきた。

と「ん、なんだ?」

ぷ「あ、あのね……ここって……」

と「だから、何だい?」

ぷ「……オトイレ、アルテチ……?」

と「え? ——あぁっ!」

 としあきは、食事の準備を始めるキイロ達をかいくぐるように、室内を調べ回った。


          ※          ※          ※


 長い一日が、終わりを告げようとしている。

 アパートの中は、二階にいるミドリとひろあき、一階にいるキイロパパ、そして201号室に入り
込んだキイロチームととしあき、ぷち達に分かれ、それぞれの交流が途絶していた。

 ひろあきは、アオチームが消えた直後から昏睡状態に陥り、ミドリは懸命にその看護をしていた。
 ミドリにしては珍しく、二階と風呂場の間を行き来し、弱っていくひろあきの傷や嘔吐の汚れを
拭いたりしていた。
 勿論、本人はそれに対して文句を呟いてはいたが、その行為を止めようとはしなかった。
 そして、時たまひろあきが意識を取り戻す度、声をかけ励まし続けた。


 一方キイロパパは、独自で一階の再調査を行っていた。
 成体実装の身長では、単独で押入れの上段に登ることは困難なため、キイロママを押し上げた後は、
独り取り残されることになるのだ。
 伐採石が、自分の居る方へやって来る様子はない。
 死体を除けば、これで一階に居るのは自分だけであると理解したキイロパパは、脱出路確保のため、
もう一度玄関や窓、床下を調べてみることにした。

 その結果見つけたのは、101号室と103号室の合間の床下にある、隠し部屋の存在だった。
 ここは異常に丈夫な外装で造られた部屋であり、アパートの他の部屋よりも近代的な構造になって
いる。
 ここなら、家族全員が安心して避難出来そうではあったが、それはここからの脱出には繋がらない。
 続けて、玄関の扉に仕掛けがないか再確認しようとしたキイロパパは、下駄箱の中に何かがしまわれ
ていることにも気付いた。

「これはなんデス? 玩具?」

 それは、コンビニ袋に包まれた、青いプラスチック製の玩具の銃だった。
 しかも、駄菓子屋などで売られている安っぽい造りのもので、実装石でも軽々と持てる程度のもの
だ。
 水のようなものが入っているようで、振ると中からチャポチャポという音がする。
 コンビニ袋には、他には何も入っておらず、キイロパパは呆れたため息を吐き出した。

 銃の玩具を放り捨てると、次は脱衣場と風呂場に向かう。
 その途中、トイレの中で死んでいる、リボンのない実装石二匹の死体を発見した。
 恐らく、ここまで追い詰められ、逃げ場を失ってトドメを刺されたのだろう。
 更に、階段下の物置の前で、赤い実装服を着た金髪の実装生物も、首を切断されて事切れていた。
 無残な死体を一瞥すると、キイロパパはそのまま、脱衣場と風呂場に向かった。

 キイロパパは、以前から強い疑問を抱いていた。
 ——伐採石は、一体どこから来るのか? という点だ。

 伐採石がアパートに現れるのはいつも突然で、どこかに待機しているにしても、この狭い建物内
では、それに該当する場所がない。
 床下の隠し部屋が待機場所かとも思われたが、明らかに他の実装石達による生活の跡があったため、
ここではないのだろうと判断出来た。
 現在分かっている限りでは、伐採石の体格で、床下への出入りが難なく出来る場所があるようには
思えない。

 もしかして、伐採石は、外からアパート内に入っているのではないか?
 そして、そのための、まだ我々が気付いていない何かがあるのではないか?

 それが、キイロパパの立てた仮説だった。

 邪魔者が来る心配がない状況下で、キイロパパは、風呂場を徹底的に調べるつもりだった。
 蛇口、洗面器などには目もくれず、キイロパパは風呂場内の「あるもの」を見つめた。
 それから、十分程度の調査を行う——


 キィィ……

 「それ」は、いとも簡単に開いた。
 冷たい空気が、中から吹き出してくる。
 中には、点々と、血痕のようなものも残されている。

「見つけたデス! やはり、ここに仕掛けがあったデス!!
 なんで、もっと早くこれに気付かなかったデス……」

 「それ」を静かに閉じ、キイロパパは、満面の笑みを浮かべた。



 そして201号室内では、キイロチーム-1ととしあき・ぷちコンビが、比較的まったりとした生活を
営み始めていた。
 食料や飲料物の奪い合いなどは全く起こらず、全員がお菓子とジュースなどで腹を存分に満たして
いた。
 寝床も、それぞれが納得の上で使用箇所を決めていたため、争いは起こらない。
 としあき達は床に敷かれた座布団の上で眠り、キイロチームは全員ベッドを利用する。
 唯一問題視されたのはトイレで、こればかりは、部屋外に廃棄する方法がない。
 やむなく段ボールの一つにビニールを張り、そこに貯めておくことになった。
 初日の糞量は大したものではなかった上に、かなり高性能な空調が利いているため、厳重に蓋を
して凌げはするもののが、誰もが、いずれ無視できない問題に発展することを理解していた。
 だが、その話題を出すと室内で争いが起きるような気がして、誰も口に出せなかった。

 キイロの子供達は、ウンチの臭い問題より、離れ離れになっているキイロパパのことを心配して
いた。
 しかし、やはりキイロパパが201号室にコンタクトを仕掛けてくる様子はなかった。



 そんな状況のまま、アパート内では何事も起きることなく、静かに時は流れていく。


          ※          ※          ※


 6月14日正午——


 海藤やおあきは、DEJA本部に戻る暇もなく、アビス・ゲームの管理に関わる事も出来なくなって
いた。
 しかも、今はアビス・ゲームの首謀者を追及する側として、演技を続けなければならない立場に
追いやられている。

 しかし、そんな彼にも吉報があった。

 メイデン社アジトに潜入して特殊工作部隊は全滅し、生還者は一人も出ず、デスゥタンガンの所在
も不明という残念な知らせを受けてはいたのだが、代わりに、別働隊が海坊主こと石阪重諭樹の消息
を突き止めたのだ。
 その結果、彼はメイデン社の上層幹部と思われる人物と共に、とある場所へと向かっているよう
だった。
 またDEJAのカードも、これに連動して移動していることが確認された。

 行き先は、都心部から30キロほど離れた内陸の工業地帯。
 そこは、現在95%以上がローゼン社の下請けとして、実装石を加工して様々な工業原料や部材を
作り出しているエリアだ。
 その一角にある、比較的大規模な繊維機器工場内に、海坊主の乗る車が進入したという報告が入った
。

(石阪は、バー「槐」にてアビス・ゲームのギャンブラー受付窓口を行っていたという報告もある。
 ——よし、その線で行こう)

 やおあきは、移動中の車内で、電話をかけ始めた。

「もしもし——実装管理委員会の海藤と申します。
 ええ、突然で申し訳ありません。
 実は、アビス・ゲームの首謀者グループの所在を突き止めました。
 これより、関係者を一網打尽にするための作戦を実行いたします。
 ただ、ちょっとやっかいな所に隠れてしまっているもので——ええ。
 少々手間取りそうなので、今しばらくのご猶予を頂ければと思いましてね」

 窓から外を眺め、やおあきはニヤリと微笑んだ。

「アビス・ゲームの首謀者は、メイデン社の残党です。
 ——はい、間違いありません。
 私も……ええ、まさかまだ活動しているとは、思いませんでしたよ。
 近々、具体的なご報告をさせて頂きますので。
 ——はい、では」

 通話を切り、携帯を懐にしまうと、やおあきはフフン♪ と鼻を鳴らした。

(これで、奴らにアビス・ゲームの罪を全てなすりつけられる上に、ひろあきとデスゥタンガンの
行方も、全て解ることになるだろう。
 この活躍で、DEJA解体後も、私の地位は確約されることだろうな……
 さて、後は——アイツの口を封じるだけだ)

 やおあきは、再び携帯を取り出すと、どこかへ電話をかけ始めた。

「もしもし——ああ、私だ。
 どうだい? その後の展開は?
 ……ほぉ、201号室に……」


          ※          ※          ※


「ああ、後は201号室の“最大の試練”を、どう乗り切るかだね。
 特に賢い連中が集まったみたいだから、ここからが正念場だろうな。
 ……あ、ごめんちょっと待って。
 こら、おとなしくしろって!」

 カチラー!! カチラー!! ヒャァァ!!

「——え? 何の声だって?
 気のせいじゃないかぁ? ここには俺以外誰もいないもん。
 ……え、まだしばらく戻れない? マジかよ。
 うん——わかった! じゃあな!!」

 携帯を切った黒浦にじあきは、額に浮いた冷や汗を拭った。

 カチラー、カチラー!! テェェン

 テーブルの上では、身に着けているものを全て引き剥がされ、全身を白い粘液で汚された、身長
12センチ程度の仔実装金が横たえられている。
 にじあきの指に必死で抵抗していたが、既に力も弱まり、今はただ泣き喚くことしか出来なかった。
 膝まで下ろしていた下着とズボンを引き上げると、にじあきは仔実装金を逆さに持ち上げた。

 カチラー、カチラー……ヒ、ヒェェェ……

「じゃあな」

 カチラ……?

 ひゅん! ——ベチャ!!

 
 にじあきは、仔実装金を力一杯振り上げ、床に叩き付けた。
 放射状に飛び散った肉や内臓、血や脳漿を見て、にじあきは不気味に口元を歪ませた。

「おぉー……直接叩き潰すってのも、悪くないなぁ♪」

 にじあきは、仔実装金の死体を足でグリグリ踏み潰した。
 先ほどから、軽い尿意を催していたにじあきは、今のうちに用を足しておこうと、やおあきの個室
にあるトイレへ行くことにした。
 本棚に偽装された隠しドアを開け、にじあきはオフィスルームを横断する。
 
 だが彼がトイレに入り込んだ瞬間、デスクの下に隠れていた何者かが、素早く隠しドアをくぐり、
部屋に入り込んだ。

「ふ〜、すっきりした。
 どうも、出した後はしょんべんしたくなっていかんなぁ」

 ボテ腹をパンパン叩きながら、にじあきは再び隠し部屋に戻り、ドアを閉じた。
 
 テーブルの裏に、ボタン大の機器が貼り付けられている事になど、全く気付かずに。


          ※          ※          ※


 6月14日午後8時。
 としあき達がこの世界に到着して、既に82時間が経過した。
 滞在可能時間は、残りあと38時間(1日と14時間)。


 ここは201号室。
 入室して丸一日が経過し、さすがに糞の匂いが気になり始めた。
 最初は温和だったキイロチームも、漂う悪臭にストレスを感じ始めたか、まず子供達が騒ぎ始めた。

キ仔2「ママ〜、あのクチャイの、おんもに出してテチュ〜!」

キ成2「それが出来れば、とっくにやってるデス」

キ仔1「臭くて臭くて、頭が痛くなって来たテチ! テェェン……」

キ蛆「我慢するレフ。なんとか対策を考えるレフ」プリュ

キ仔2「テチャア!! そう言いながらウンチしちゃダメテチュ!!」

キ蛆「し、仕方ないレフ! 蛆実装は、括約筋が未発達だから……」

キ仔1「テェェェン! おんもに出たいテチィ! パパに会いたいテチィ!
 臭くないところでご飯食べたいテチィ!!」

キ成2「おやめなさいデス、みんな!」

 カリカリカリカリカリ……
  カリカリカリカリカリ……
   カリカリカリカリカリ……

キ仔2「煩いテチュ!! もう!」

 カリカリカリカリカリ……
  カリカリカリカリカリ……
   カリカリカリカリカリ……

キ仔1「テェェェン! アレも耳障りテチィィ!!」

 カリカリカリカリカリ……
  カリカリカリカリカリ……
   カリカリカリカリカリ……

キ成2「ニンゲンサン、悪いデスけど、もっと離れた場所でお願い出来ないデス?」

と「え? ああ俺のことだったのか。そりゃあ悪いことした」

キ成2「お願いするデス、子供達がイライラするみたいデス」

と「あんたも、ちょっとそうなりつつあるようだな」

キ成2「……」

ぷ「クソドレイサン、さっきから何をしてるんテチ?」

 苛立つキイロチームをよそに、としあきは、数時間前からお菓子の箱を次々に開けては中身を物色
し、クッキータイプの物を集めていた。
 そして、それをスプーンで砕き、更に腹で潰し、徹底的に細かくしていた。
 それらは、もはや微粒状になっており、食べるには困難な状態だ。

と「ぷち、ビニール袋をしっかり支えててくれ。こぼさないように」

ぷ「何するつもりテチ? なんでそのままお菓子食べないテチ?」

と「今はまだ内緒。
 ところで、冷蔵庫のコンセントって、どこに刺さってる?」

ぷ「確か、こっちに繋がってるテチ」

と「へぇ、押入れに近いんだな。
 俺でも手が届くし……よし、わかったOK」

ぷ「?」

 それだけ言うと、としあきは、お菓子の破片をすり潰し始める。

 削る作業でなければ、耳障りな音もしないということなのか、キイロチームは特に文句を唱えなく
なった。


          ※          ※          ※


 一方、201号室では——
 一つの命の灯火が、消えようとしていた。


「デ、デェェ……どうすればいいデスゥ?!」

「ハァ……ハァ……ヒ、ヒィィ……」

 ひろあきは、左即頭部から左肩にかけての部位が異常に膨らみ、既にかつての倍くらいの大きさに
なっていた。
 口も膨らんだ肉に圧迫され、もはやまともに会話も出来なくなっており、当然、食事も受け付けなく
なって久しい。
 その上、膨らんだ肉が内部で蠢き、凄まじい嫌悪感を覚えさせる。
 体内の実装燈が孵化直前になっているのは、もはや明白だった。

「く、クソドレイ……2号……
 許せデス、ワタシ、もうお前を、助けてやれないデス……
 デェェ、デェェェェン!!」

「ハァ……ハァ……」

 ふと、ミドリの手にぬくもりが触れる。
 もはや虫の息のひろあきの手が、そっと重ねられたのだ。

「な、何デス? 2号?」

「……アリガト……」

 もう話せない筈のひろあきの口から、微かに、声が聞こえた。
 掠れるような、今にも消え入りそうな。

「に、2号……?」

「……」

 それ以降、ひろあきは、二度と話さなくなった。
 口元に、僅かな笑みを浮かべたまま、動きを止める。

 ピシ……ピシッ……

「お、おい、おい!
 2号! クソドレイ2号ぉ!!」

 ——ピシッ

「何でデス?! 何でデスゥ?!
 お前、実装石じゃないデス?!
 ニンゲンの癖に、こんな所で死ぬなんて、マヌケ過ぎるデス?!」


  ピキッ


「ふざけんなデス! ゴラァ!!
 ウンコ食わすぞデス! ビンタ百連発食らわすぞデス!!
 それがイヤなら、目を覚ますデス——!!」


「頼むから、頼むから!
 目を開けてくれデジャアアア!!」





        ——パキン






 小さな石が、ひろあきの体内で、砕けた。
 その微かな音は、ミドリの耳にも、はっきりと届いた。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!
 ひろあき、ひろあきぃぃぃぃぃ!!
 死ぬな、死んじゃ駄目デス、駄目ナンデスゥゥゥ!!
 ここから生きて脱出するって、約束したデジャアアァァァァァ!!」

 大量の涙を流して、ひろあきの亡骸を揺さぶる。
 だが、もう彼の目が開くことは、なかった。

「………デェ……デェェェ……
 デェェェェェン、デェェェェェン!!」

 ミドリの鳴き声が、室内に悲しく響く。
 しかし、ひろあきの肉体は、なおも蠢き続けていた。
 やがて、ゆっくりと口が開き、体内の空気が漏れ始める。


 オォォォォ……オオオオォォォ……

 ゴボ、ゴボ……

「デェ……」

 宿主の肉体の死を悟った実装燈が、孵化しようとしている。
 顎が裂け、頭部が熟れたざくろのように裂けていく。
 その中から見える、血液と粘液に包まれた銀髪。
 ミドリは、それをただ、呆然と見つめていた。

 ルルル……ルルル……

 実装燈の囀りが、室内に反響する。
 中実装だった筈の肉体は、既に割れ砕け、ほぼ原型を留めていない。
 身体中にまとわり付く粘液を、広げた翼で振り払い、やや小振りな体格の実装燈が生誕した。

 ルトオォォォォォ!

 激しく荒らぶる、実装燈。
 未成熟で孵化しなければならなくなったせいか、見るからに不機嫌そうな態度と表情だ。
 深い紫色の双眼が、ギロリとミドリを睨みつける。
 その視線を真っ向から受けて尚、ミドリは、いまだ身動き一つしなかった。

 だが——


「この……」


 ルトオオオオオ!!


「——許さんぞ……貴様」


 ルゴオオオオオオオオ!!!



     「デ、デ……デ!
      デシャアアァァァァァァァァァァ!!!!」



 怒りの咆哮が、ミドリの口から放たれる。
 今にも飛び掛りそうな勢いだった実装燈は、その圧倒的な怒気に気圧された。
 ゆっくりと立ち上がったミドリは、今まで誰にも見せたことのないような恐ろしい形相で、実装燈
を睨みつける。

 その途端、実装燈の身体が、麻痺したように動かなくなった。

「デエエエェェェェェェェ!!!!」

 その時、ミドリの身体に変化が起こった。
 両目は激しく血走り、耳は鋭く尖り出し、垂直に立ち上がる。
 後ろ髪は乱れ、逆立ち、まるでオーラのように、背後でたなびき出す。

 そして、頭巾には——「6」に似た模様が、いくつも浮かび出した。



『貴様だけは、絶対に、生かしておかぬデジャアアア!!』



 ルドオォォ?!

 次の瞬間、ミドリの両腕がグワッと肥大化し、動けない実装燈に襲い掛かった。
 逃げることも適わず、実装燈の身体は、巨大な手に包み込まれた。
  

 ルギャ……?!


 メキッ

      メキメキッ        ゴリッ


                        ——ぐしゃっ


 実装燈の身体は、圧倒的な力によって、あっという間に押し潰されてしまった。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 ここは、203号室。
 そこには、もうミドリしかいない。

 ひろあきも、実装燈も、いつの間にか居なくなってしまった。
 
「デェ? あ、アレ?」

 我に返ったミドリが室内を見回すと、所々に肉片のようなものが散らばっているのが見えた。
 それは、まるでミキサーにかけて散らばらせたと思えるくらいに細かかった。

「デェェ……わ、ワタシ、一体どうしちまったンデス?!」

 ふと見ると、両手が紫色の液体で汚れている。
 部屋の奥、窓際辺りに転がっている実装燈の無残な死体を見た途端、それが彼女の血だと理解する。

「デ、デェェ!!」

 ミドリは、恐怖に駆られて廊下へ駆け出した。 
 ひろあきを失った悲しみや怒りすら既に忘れ、今はただ、手の汚れを洗い落としたいという欲求に
突き動かされていた。

「お! そういえば水場があったんデス! 助かったデス!」

 二階の廊下、階段の斜め向かい辺りには、二階住人用に設けられたと思われる洗面用の水道がある。
 ミドリは、迷わずその流し台に飛び乗り、蛇口を捻って手を流し始めた。

「あ〜、もう何がなんだかわかんなくなってきたデス!
 クソドレイとぷちは、一体どこへ行ったんデス?
 つうか、ワタシ以外誰もいなくなっちまったデス……グスン」

 一時的に頭から飛んでいた、ひろあきの事を思い出し、再び涙ぐむ。
 もう一度水を出し、ミドリは顔を洗った。

 だが、彼女は気付いていない。
 この水場の流し台は、高さ約80センチ。
 当然、成体実装でも相当な高さの土台がなければ、上に登ることなど出来ない。
 だからこそ、この水場の活用を意識した実装石は、誰も居なかったのだ。
 にも関わらず、ミドリは、何の違和感も抱かずに、その上で水を使ったのだ。

「デェ〜、少しさっぱりしたデス。
 どれ、ワタシも腹が減ったから、どこかで飯を——あれれ?」

 流し台からひょいと飛び降り、何事もなく着地したミドリは、ふと、階段の方に違和感を覚えた。


 踊り場のところに、何かが居る。

 それは、実装石だ。
 しかし、服を身に着けておらず、髪の毛もない。

 恐らく中実装くらいの体格に見えるが、仔実装にも、はたまた成体実装にも見える。
 その禿裸は、不思議そうな顔で、ミドリを見上げている。

「デェ? お前、どこのチームの奴デス?」

 テスゥ

「まったく、髪と服をどこにやって来たんデス?
 しょうがねぇ奴デス」

 テステス、テスゥ

「ワタシが誰かって?
 ワタシは、ミドリというデス。
 この世で最強かつ最も美しい、世界の秘宝デスゥン!
 わからない事があれば、何でも聞くがいいデスデス!!」

 テスゥ?

 小首を傾げ、禿裸はミドリの顔を見つめる。
 ミドリは、えっちらおっちら言いながら階段を降り、その禿裸のところに行って——その違和感の
正体に、ようやく気付いた。

 その禿裸は、恐らく中実装なのだろう。
 身の丈や体格は、としあきやひろあきと同じくらいある。
 しかし、こいつは禿裸なので、リボンを着けていない。

 リボンを着けていない者は、アビス・ゲームのプレイヤーとして認められない。
 そしてそれは、伐採石の殺戮対象であることを意味するのだ。

「おいお前、ここにはとんでもなくおっかないのが居るんデス!
 どこから入って来たのか知らんけど、すぐにここから逃げるデス!!」

 オッカナイノテス?

「そうそう、見つかったら殺されるデス!」

 そう言いながら、ミドリはグワッ! と怖い(つもりの)顔をして見せた。
 だが禿裸は、それが面白かったようで、ケラケラ笑い出した。

「あぁもう! だからー!
 つまりそれくらい怖い奴がいる——と……」

 その時、ミドリは気付いてしまった。
 このアパートは、階段部分に照明がない。
 明かりは、一階か二階の廊下天井にある、古臭い裸電球の黄色い光によって、間接的に照らされる。
 しかし、二階廊下の明かりは205号室横にあるトイレの壁でかなり遮られるため、夜の踊り場は相当

 にも関わらず、その禿裸の影だけは、異常にくっきりと、壁に投影されていた。
 しかも、光は斜め上から注がれる筈なのに、その影は踊り場の壁に、やたらと大きく映り込んで
いる。
 壁どころか、天井に届くほど、巨大に——

「デェェェ?!?! お、お前、い、い、一体何者デス?!」

 テスゥ? 

 影は、更に大きくなっていく。
 禿裸に対する恐怖心がピークに達したミドリは、逃げようとして何かに脚を取られた。

「デェッ?!」

 ゴロン、ドスンドスンドスンドスン!!

「ギャッ、ワギャッ! デギャッ! ヒギャッ?!」

 ミドリは、一階への階段を転げ落ち、廊下にしこたま後頭部をぶつけた。
 見上げると、踊り場では、シルエットだけの禿裸が、目だけを爛々と光らせ、こちらを見つめて
いた。

 みし……メキ……メキャ……

 突然、禿裸のシルエットが崩れた。
 頭が真っ二つに割れ、手足が付け根から千切れ、胴体から内臓のようなものがあふれ出る。
 そして、それらがまるで個別の「蛇」のようにうねり、鎌首をもたげ始めた。

 まるで、四つ首のバケモノのように変型した禿裸は、粘液を混ぜるような音を立て、徐々に階段を
下り始める。

「デ、デ、デ、デェェェ?!?!
 ば、バケモノは、お前ちゃんだったデスゥ?!」

 ミドリの悲鳴が、一階の廊下に木霊した。

 
ミ「出たでたでたでた、イデた、ギャア!!」

 物凄い速度で、一階の廊下をゴロゴロと転がっていたミドリは、102号室の前で、何者かに押し止め
られた。

キ成1「どうしたデス? ミドリさん?」

 それは、単独で活動していた、キイロパパだった。
 彼女? は、その後、伐採石の居場所を捜していた。
 ミドリは、先ほど階段の踊り場に現れた、化け物禿裸のことを説明する。

ミ「——というわけで、ここはやばいデス!
 早くなんとかしないと、ワタシ達は全員えらい目に遭っちまうデス!!」

キ成1「落ち着いでくださいデス。
 まず、その階段まで、もう一度行きましょうデス」

ミ「デェェ?!」

キ成1「本当にそいつが存在してるかどうかを、確認するだけデス。
 もしかしたら、何かの錯覚だったのかもしれないデス」

ミ「わ、ワタシにお前の冷静さを、100mgほど分けて欲しい気分デス」

 二匹は、伴って階段へと戻った。
 しかし、踊り場には既に禿裸の姿はない。
 「本当に居たんデス!」と騒ぐミドリを制し、キイロパパは、一人で階段を登って行った。

キ成1「信じるデス、ミドリさんのおっしゃったことを」

ミ「デェ?」

キ成1「ここに、何とも言いがたい、気味の悪い粘液みたいなものが散らばってるデス。
 さっきまで何かが居たのは、事実だと思うデス」

ミ「そ、それで! どこに向かってるか解るデス?」

キ成1「——粘液が、二階の階段に続いてるデス」

ミ「!!」

 ミドリは、大慌てで階段を駆け上った。
 キイロパパは一階の方を向くより早く登り切ったので、彼女は非常に驚いた。

キ成1「いつの間にそんなに素早くなったんデス?!」

ミ「日頃の鍛錬が物を言うデスたぶんきっと」

キ成1「二階には、今誰か居るデス?」

ミ「い、いないデス……でも、床下に誰か居るんじゃなかったデス?」

キ成1「そうデス——ワタシの家族が」

 二匹は、二階に上がる階段を、必死で登り始めた。


 同じ頃、階段下の物置の中から、何者かが姿を現した。


 コー、ホー……コー、ホー……

 それは、伐採石。
 少し切っ先が歪んだ刃を使い、器用に扉を開くと、ゆっくりと階段を登り始めた。


          ※          ※          ※


『海藤ひろあきが死んだデスゥ♪』

 突然、初期実装が、嬉しそうな声でしゃべり出す。

 ここは、郊外の工業エリア。
 その一角、ローゼン社が管理している繊維機器工場地下に偽装された、メイデン社の本社屋。
 その地下10階の最深部に設けられたDLC(Desu-life&mind-convertor)専用ルームには、としあきと
ぷちの肉体を搭載した、冷凍睡眠カプセルのような機器が置かれている。

 DLCとは、かつてメイデン社が極秘開発し、表舞台に戻るために社運をかけて製作したものだ。
 実装石の持つ偽石が、デジタル情報による影響を受ける情報媒体としても活用出来る特徴を利用し、
その表層領域に、デジタルデータ化した人間の人格や知識、運動能力などの様々な情報を上書きし、
まるで本当に実装石になったかのような感覚を与えることが出来る。

 これにより、被験者は実装石の視点と肉体で自由に活動できるという、画期的なシミュレーターで
ある。
 メイデン社は、これをアミューズメント方面への活用を考慮し、実用に足るほどの完成度まで漕ぎ
着けたが、実装石の状態で受けたダメージが、そのまま被験者の本体にまで影響を与えてしまう、
致命的な欠陥が露呈してしまった。

 例えば、実装石の姿で死んでしまうと、被験者の精神が死を受容れてしまい、実際に生命活動を停止
したり、もしくは植物人間状態に陥ってしまうのだ。
 更に、一度でも情報を上書きされた実装石は、もはや元の状態に戻ることは出来ず、また偽石が
バグ情報しか吐き出せなくなるため、あらゆる生命活動を行えなくなるというデメリットも発見
された。

 このため、DLCは表に出ることはなく、社内で封印されたシステムとなっていた。

 しかし、メイデン社が裏世界で活動を行い始めた際、反逆者やスパイなどをこれにかけ、実装石の
姿にした上で虐待や拷問を行い、肉体にダメージを与えることなく精神だけを破壊するいう、非人道的
な行為に用いるようになった。
 このシステムの存在は、完全に外部には漏れていないため、DEJAは勿論、ローゼン社も察知はして
いなかった。

 志川蘭子は、海藤ひろあきをこのシステムにかけ、中実装の肉体に精神を封入した状態でアビス・
ゲームに参加させたのだ。
 そうして、絶対脱出不可能な状況下で、しかも勝手を良く知るゲームのルールに裁かれて「公開
処刑」させるつもりだったのだ。
 志川蘭子の嗜好は、そういう方面のものだった。

『ひろあきが死んだデスゥ』

 初期実装の言葉に、蘭子は軽く鼻で笑う。

「弐羽としあきさえ復活すれば、それでいい。
 我々には、もはやどうでもいい情報だな」

『本当にそうデスゥ?
 もし、あいつが死んだことで、世界が犬ピンチになったらどうするデスゥ?』

「いぬぴんち?」

『あ、大ピンチデスゥ』

「面白いんじゃないのか? 世間は大きく動揺した方が楽しめるというものだ」

『……この世界にトドメを刺したのは、愚かにもニンゲン自身だったというオチデスゥ〜』

「何か言ったか?」

『……』


 メイデン社の面々が、勝利者的な気分を味わっている間、世界各地では、彼女達の想像を超える
事態が発生していた。

 太平洋のほぼ中心部に、直径約8キロにも及ぶ巨大な穴が突如開き、周辺の船舶はおろか、各島々、
加えて、その上空を飛んでいた飛行機までもが、これに吸収されて消滅した。
 同じようなものが南アフリカ大陸上空にも出現し、更にはヨーロッパ北部、カナダ、オーストラリア
と南極には、地表部にも出現した。
 他にも、直径が500キロ〜1キロ程度の小さな「穴」は、各地に無数に出現・発見されている。
 これらは、いずれも穴が開く瞬間を確認されたケースはなく、ある瞬間に突然、その場所に現れる
のだという。

 「穴」そのものによる被害は様々だが、これが出現したのと比例するかのように、世界各地で非登録
の野良実装石が大量に発生するという事態が起きていた。
 更に、これまで確認されたことのない新種も現れており、またその数も膨大なため、人類——地球
全体の生態系への影響は、計り知れないものとなりつつあった。

 科学技術庁は、本現象及びそれが要因と判断される実装生物大量発生の事例を基に、「穴」に対し
“ワームホール”という仮称を設けた。

 6月14日現在、世界で最も早く実装生物発生現象に関する調査を開始したアメリカ・ワシントン州
では、同地区の発生数を基準に計算した場合、10マイル平方の範囲内で、24時間3000〜4000匹のペース
で増殖する可能性があると発表した。

 それはもはや、どの企業でも、研究機関でも把握・制御が出来ないレベルの増殖である。
 人類史上、いまだかつてなかった、非常識極まりない生態系の瞬間的大変化に、世界のあらゆる
機関は、混乱を来し始めていた。

 だが、それらの異常事態の全てが、海藤ひろあきの死が関連している事に気付いた者は、世界の何処
にもいなかった——


          ※          ※          ※

 
★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。


 ミドリとキイロパパは、二階廊下にやって来た。
 階段側から見た限り、禿裸の姿はない。
 205号室、202号室を覗き、室内を確認しても、死体以外は何も発見出来ない。
 残るは、先ほどまでミドリの居た203号室だったが、そこも、飛び散った肉片以外に異常は見られ
なかった。
 203号室の中を見るなり、キイロパパは露骨に顔をしかめた。

キ成1「一体、何があったデス? この部屋で……」

ミ「そ、それが、ワタシにもよくわからないデス。
 ただ、クソドレイ2号の身体に寄生していた実装燈が——」

キ成1「……あの、黒い羽のついた死体の事デス?
 これ、あなたが殺したデス?」

ミ「い、いやいやいやいやいやいや!」

キ成1「じゃあこれも、そのバケモノの仕業デス?」

ミ「そ、そ、そうじゃないかな〜? と思うデスデス」

キ成1「?」

 廊下からドアを開き、頭だけ室内に入れるような形で、キイロパパは中を眺めている。
 ミドリは、先ほどの良くわからない記憶の混乱が恐ろしくて、もう室内を見る事はできなかった。
 廊下で割れた窓から夜空を眺めていると、突然、背後から「ゴトン」という、何かが落ちるような音が
聞こえた。

「デ? 今のは何の音デス?」

 振り返ったミドリは、キイロパパが廊下に倒れる瞬間を、まるでスローモーションのように眺めた。
 本来首のあった場所からは、大量の血が吹き出し、空間と床を染めていく。

 長いような、短いような、不思議な一瞬の後、ドサッ! という音を立てて、首のないキイロパパが
廊下に倒れた。

「デ? これは、一体どういうネタデス?
 おーい、キイロさん? 頭どこ隠したデス?
 身体張りすぎにも、程があるデッスン」

 あまりに唐突な出来事のため、脳が事態を把握し切れない。
 しかし、激しく噴出す血と体液に、廊下が染まっていく光景を見ているうちに、だんだん状況が飲み
込めてくる。

 背後……203号室の中から、

 クスクスクス♪

 という、軽やかな微笑みが聞こえてきた。

 そして、それがミドリの恐怖心を、一気にマックスまで引き上げた。

「デ、デギャアァァァァ?!」

 廊下を震わせるほどのすさまじい大音響で、ミドリは叫ぶ。
 必死で逃げようとするが、キイロパパの腕に脚を引っ掛けてしまい、豪快にスッ転んでしまった。

「あでででで……ちっきしょう、今日はなんてツイてねぇデスゥ?」

 転んだ痛みのせいか、一瞬だけ平静に戻ったミドリは、起き上がり間際に見てしまった。

 203号室から伸びる無数の触手が、キイロパパの死体に纏わり付いている。
 そして、先端部が、切断された首の切り口から、どんどん中へ入り込む。
 キイロパパの腕や胸、腹がボコボコと激しく波打ち、ウジュウジュと、不気味な音が響く。
 やがて、触手の大半がキイロパパの身体に飲み込まれ、その後を追うように現れた小型の頭蓋骨のよう
なものが、蓋でもするように傷口に納まる。
 その途端、なんと、キイロパパの身体が倍以上に膨れ上がった。

「な、な、な、なあぁ?!」

 それが、「奴」の捕食なんだと気付いた瞬間、ミドリは全力でその場から逃げ出していた。
 何処をどう走ったのかなど、覚えてはいない。
 ただ、手近にあった「盾代わりになりそうなもの」の向こう側に飛び込んだのだ。
 そこには、何の打算もなかった。

「デェ……デェ……デ? デ……く、くっせぇ!! なんだここはデッギャア?!」

 そこは、かつて実装燈に寄生されて悶死したムラサキチームの部屋・205号室だった。

「デヒャア! と、とんでもないところに入り込んでしま……ゲホ、ゲホ!!」

 腐敗の始まっている死体の数々は、目に滲みるほどの悪臭を放っている。
 しかも、通気が殆どないため、臭いがこもりまくっていた。
 さすがに、ここに長時間居ては健康を害すると判断し、ミドリは即効で別の部屋に逃げようとした。
 だが——

 ドンッ!!

 ドアに手をかけようとした途端、向こう側から、強い力で叩かれた。
 奴が、すぐ傍にいる!!

「デェェ! ど、どうすればいいんデス?!」

 廊下から、何か巨大なものが擦り寄ってくるような音が聞こえる。
 冷静さを失い、完全にパニックになったミドリは、窓を開けて逃げようと、走り出そうとした。

 だが、その時——


              「ミドリ君、こっちだ」

 どこからか、声が聞こえた。

 
「デ?」

 声が聞こえた方向を見ると、押入れが開いており、しかも下段の床板が跳ね上げられていた。

「デシャア! て、天の助けデスゥ!!」

 ミドリは、躊躇うことなく、床下に潜り込んだ。

「デェ! だ、誰だか知らないけど、助かったデス! あんがとデ——」

 床下に降り立ったミドリは、自分を助けた声の主を探した。
 しかし、そこはただ闇が広がっているだけの空間。
 誰一人として、そこには居なかった。

「……」

 その意味を理解したミドリは、顔を上げ、静かに呟いた。


「……バカ野郎、今更、貸しを作るなデス。
 どうやって、借りを返せばいいんデス……?」

 ミドリの頬に、一筋の涙が流れた。


 その後、205号室から廊下にかけて、何やら激しい打撃音が連発し始めたが、ミドリは構わず暗闇を
進んでいった。
 なぜか、ミドリには行くべき路が分かっているような気がしてならなかった。




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