タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話06
ファイル:「実装産業の世界編」6.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:278 レス数:0
初投稿日時:2014/10/09-19:27:10修正日時:2014/10/09-19:27:10
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた「実装産業の世界」は、実装石を産業資源としている超未来都市だった。
 そこでは、なんと海藤ひろあきが指名手配されていた。
 彼の兄にして、実装管理委員会の次官を勤める海藤やおあきは、としあき達に、ひろあきと
彼の持つデスゥタンガンの捜索を依頼する。
 そしてとしあきは、実装賭博「アビス・ゲーム」に嵩じる謎の店に入り込んだことをきっかけに、
メイデン社の会長を名乗る謎の美女・志川蘭子と出会った。
 デスゥタンガンにかけられたロックを外すことを依頼されたとしあきは、ひろあきと会わせる
ことを条件に話に乗るが——

 一方、ミドリは、中実装化したひろあきと共に、「アビス・ゲーム」に参加させられていた。
 廃アパートを舞台に繰り広げられる、実装石同士の醜い殺し合い。
 しかし、その中にはそれぞれの目的を持って行動する、キイロチームやアオチームといった
知性派グループもいた。

 しかし、アパートの中では実装石同士の闘い以外にも、様々なトラブルが発生し始めていた。

 そして、異形の実装石の姿も——
 


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 現在、実装化している。


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、ひろあきと共に「アビス・ゲーム」参加中。
 首下のリボンの色は、緑。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、実装に戻ってしまっている。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 現在、何故か中実装の姿になっており、「アビス・ゲーム」でミドリと共に行動中。
 首下のリボンの色は、緑。


・ママ(アオママ):
 「アビス・ゲーム」に参加する、アオ組唯一の成体実装。
 非常に賢く、異世界移動の経験と知識を持っている謎の存在。
 首下のリボンは青色。


・キイロチーム(成体実装×2、仔実装×2、蛆実装×1):
 「アビス・ゲーム」のプレイヤーで、103号室を陣取る黄色いリボンを着けた実装石達。
 非常に心優しく協力的で、アオママとの協力体制を約束するが……?
 実は、蛆実装がチームリーダー格。


・クロチーム(成体実装×1)
 「アビス・ゲーム」のプレイヤーで、202号室から現れた黒いリボンを着けた実装石達。
 全員共食い嗜好で、シロチームを襲撃し食い殺し、仲間割れしたミドリチームの死体を
食い漁る。
 唯一生き残った成体実装は、発狂中。


・志川蘭子:
 チャイナドレスをまとった色っぽい美女で、メイデン社の若き会長。
 デスゥタンガンの現在の所有者で、本体のシステムに施されたロック解除を、としあきに
依頼するが……


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを
引くと、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。

 
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    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-6 【 8番目のチーム、乱入! 】

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■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



 6月13日 午前2時——

 苦労してミドリを介抱したひろあきは、彼女を風呂場に連れて行き、全身を洗浄させた。
 汚れた服も石鹸で洗い、物置にあった壁かけの棚に干させる。
 一段落した頃には、二人ともすっかり睡魔に襲われていた。

「デェェ、ハダカのまま一晩過ごすなんて、すごく不安デス〜」

「しょうがないじゃないか、君がパンコンした上に寝転がるのが悪い」

「寝転んだんじゃねぇ! ただ転んだだけデス!!
 でも、ま〜、ここしばらく全然お洗濯してなかったし、いい機会かもしれんデス」

「うう、不潔だなあ実装石は」

 かくいうひろあきも、ミドリを介抱している最中にウンコを踏んで転んでしまったため、ハダカ状態だった。
 二人は背中合わせに座ると、今夜もここを宿にすることにした。
 実装フード等がなくなった分、広くなった代わりに、誰かに狙われる不安も発生していた。
 だが、唯一の侵入経路を塞いだまま眠れるため、一番安全なのもまた確かだった。
 寝る前に、もう一度物置の周辺を確認するが、いつの間にか巨大なバケモノ実装の姿はなくなっていた。

「あいつ、どこへ消えたんデス?
 あんなにでっかいのに、忽然と消えやがったデス」

「伐採石、だよ」

「デ? バッサイセキ?」

「あのバケモノみたいな実装石のことさ。
 あいつは……いわば処刑人と言ったところかな」

 ひろあきは、ミドリに伐採石のことを話し始めた。
 
 伐採石とは、アビス・ゲームの審判代行のような存在で、DEJA側のコントロールで行動する、非プレイヤーの
実装石だ。
 アビス・ゲーム開始後に発覚した不正や、何かしらの理由で生きながらもリタイア状態となってしまった個体
を「処分(伐採)」するために投入される存在で、ステージ内でこれが出現した場合は、必ず誰かが殺されるのだ。

 ただし、ルールに従い真っ当に参加している個体が、これにより殺害されることはない。
 普段はステージ外で待機しており、ディーラー側からの指示があった場合のみ介入し、役割を果たすとすぐに
居なくなるという。

「元々はそんな奴居なかったんだけど、十数回もゲームをやってるうちに伐採石みたいな存在が必要になって
きてね。
 最初は、ただ体格の良いだけの普通の実装石だったんだけど、プレイヤーからの反撃を受けたりしてね。
 今じゃ、あんなおぞましい姿になってしまったんだ」

「あんなのがうろついていたら、たいがいの奴はビビるデス!」

「そういう目的意識もあるみたいだよ。
 あいつのおかげで、プレイヤーに仕掛けを施して参加させる奴は減ったしね」

「仕掛けって、どんなのデス?」

「例えば、偽石を取り出して割れにくく加工してるとか」

「デ! そ、そそそ、それはマジデス?!」

 ミドリの顔色が、さーっと青ざめていく。

「実際、それで伐採された奴はかなり居るよ。
 後は、体内に機械を埋め込んでいたりね」

「それはまだ判るけど、ワタシの偽石はクソドレイが持ってるデス!
 どうしようデス、じゃあ今度あいつに会ったら、ワタシは殺されるデスゥ?!」

 ジタバタと床を蹴り始めたミドリを制し、ひろあきは続ける。

「落ち着きたまえ。恐らく君は、兄さんによって投入されたプレイヤーだ。
 恐らく、第三者が見ても明確な違反をしない限り、伐採されることはない」

「デェェ……」

「それに、弐羽君と離れていたら、君は瀕死になる筈だろ?」

「デ? あ、そうか。じゃあ偽石は戻ってるんデス?」

 ミドリは、お腹をポンポンと叩いて、ようやく安堵の息を吐いた。

「全く、クソドレイの奴がワタシの偽石を取り出したりするから、こんな事になるんデス!
 あいつ、一体何を考えてるんデス! ググググ」

 実は、ミドリから偽石を取り出した張本人はすぐ傍にいるのだが、当の本人はお口にチャックを決め込み、
そっぽを向いた。

「まあ、今夜はもう寝よう。
 明日は本格的に食料を探さないとならないね」

「うぐ、そうだったデス。思い出したら益々腹が減ってきたデス。
 寝るデス。おやすみー」

 そう言うと、ミドリは放置されていたビニールを布団のように纏い、ゴロンと横になった。
 ……と思った次の瞬間、凄いスピードで起き上がった。

「ん? どうしたんだい?」

「何か変デス! 床下が光ってるデス!」

「え? 何だって?」

「見てみろデス、ここから光が漏れてるんデス」

 ミドリは、そう言うと自分の頭が置かれた位置の、床板の隙間を指した。
 彼女の言う通り、真下ではないが、少し離れた位置から弱い光が差し込んでいる。
 しかも、良く見ると光は移動しているようで、徐々に輝きが強まってくる。
 ひろあきはミドリに「シーッ」と呟くと、音を立てないようにそっと物置を退出した。

 数分後、誰もいない筈の物置から、ゴソゴソ……という音が、微かに聞こえてきた。

(誰か物置に入って来たデス?)
(いや、それにしては音が小さい。多分床下にいるんだ)
(誰が、何のためにデス?)
(さぁ……)

 やがて、物音が聞こえなくなった。
 ひろあきとミドリは素早く物置に戻り、床穴を確認する。
 もう、光は漏れては来なかった。

「誰かが、床下を移動していたのか。
 しかも、ライトのような物まで持っているらしいね」

「ン? ということは……。
 おいクソドレイ2号、この部屋の床を調べろデス!」

「何故だい?」

 小首を傾げるひろあきに、ミドリは鼻の穴をピスピス言わせながら答える。

「多分、ここから床下に入れるようになってる筈デス!
 あいつら、そこからここに入り込んで、フードを盗んでいったに違いないデス」

「ああ、なるほどね。
 よしわかった!」

 ひろあきは、早速床に這い蹲り仕掛けを探したが、ものの数分もしないうちに、床下式収納庫を見つけた。
 蓋の上にはビニールカバーが何重にも置かれていて、ぱっと見た限りではわからないようになっている。
 床下収納はタオルの束の真下に位置していたようで、ミドリ達が初見で発見出来なかったのも頷けた。

「すごいな、今回冴えまくりじゃないか、ミドリ君」

「デヘヘ、褒めてm」
「そのネタはもういいから!」

 収納は、後付で設置された物のようで、蓋部分こそ床板を利用しているが、中は結構広く、ミドリでも余裕で
中に入れる容積がある。
 しかも、それを見越したように、壁部分には実装石に丁度いいサイズの手すりと足場まで設置されていた。

 収納の中身は空っぽで、更に側面の壁が外側から破壊されている。
 その穴は、ミドリの体格でも、身を屈めればなんとか入り込めそうだった。

「なんだ、意外と脆い造りなんだな中身は。
 これ、相当劣化してるプラスチックみたいだ」

「これ、ワタシでも強く押したらメキッと行きそうなくらい、えー加減な造りっぽいデス。
 さて、ここまで来たら行ってみるデス?」

「ああ、気をつけて」

「お前は行かないつもりかよデギャ!」

 ブツブツ文句を言いながら、ミドリは仄暗い穴倉へと身を進めた。
 だがその直後、何かが左足にぶつかった。
 ミドリは、それを手に取り振ってみると、中からザラザラと、聞き覚えのある音が聞こえた。

「これは、実装フードデス!
 なるほど、誰かが地下に隠して、こっそり独り占めしようとしてたデス?
 ククク、だがバレたからには、そうはいかんとデス」

 そう呟くと、ミドリは実装フードの包みを、物置に戻そうとした。
 だが——

「デ? あ、あれ? なんで閉まってるデス?
 おーい、2号! なんでココ閉めちゃったデスー?!」

 ドンドン! ドンドン!

 床下収納の蓋は、何故かどんなに押しても叩いても、開く兆しがなかった。

「おかしいデス! 2号が乗ってたとしても、ワタシなら押し切れるデス。
 一体、上で何が起きたンデス?」

 もう一度強く押してもるが、やはりうんともスンとも言わない。
 まるで、上にとんでもない重量物が乗っかっているような気すらする。

「デェェ〜、どうしろっていうデス! 服だってないのに……
 ええい嘆いても仕方ない、ワタシは図太く生きるんデス!!」

 そう言うと、ミドリは実装フードの袋を開き、暗闇の中でボリボリと貪り始めた。



「……み、水……グルジ……
 喉が詰ま……デヘ」

 僅か2分後のことだった。


          ※          ※          ※


 ミドリが床下に潜った直後、物置ではちょっとした事件が発生していた。

 時間を、若干遡る……



 バタン!

「え?」

 ミドリの姿が消えたほぼ直後、ひろあきが見ている目の前で、床下収納の蓋が勝手に閉じてしまった。
 しかも、どんなに力を入れても開きそうにないくらい、固く閉ざされている。
 先ほどまでは、中実装のひろあきの力ですら開けられそうなほど軽快だったのだが。
 中に閉じ込められたミドリに呼びかけようとした途端、ひろあきは、背後からとてつもない冷気を感じ、
慌てて振り返った。

 何もない空間に、赤と緑の目が浮かんでいる——

「初期実装!」

 空間に浮かぶ目を中心に、だんだん全身の輪郭が具現化する。
 やがて完全に実体化した初期実装は、宙に浮いたままひろあきを見下ろした。

『おやおや、ずいぶんと可愛らしい姿になっちまったデスゥ〜♪』

「初期実装! 何しに来た!
 この前の嘘の復讐か?」

『この前の嘘? はて、なんのことやらデスゥ』

 初期実装は、小首を傾げて「?」を浮かべる。
 そして、その「?」を手に取ると、ポリポリと食べ始めてしまった。

『ゲップ、ごっそさん!
 あ〜さて、海藤ひろあき君』

「な、なんだ?」

『何の力も発揮できない、矮小な存在に堕した気分はどうデスゥ?
 今日は、お前に素敵な報告をしに来たデスゥ。
 おめでとう、お前のこの世界の滞在時間は、120時間を越えたデスゥ♪』

 パンパカパーン☆ と、どこからともなくファンファーレが鳴り、初期実装が紙吹雪を散らす。
 
「それが一体どうしたっていうんだ!
 僕は今度こそこの世界を脱出して、もう一度——」

『残念ながら、それは未来永劫不可能デスゥ』

 そう冷たく言い放ち、初期実装はクルクル回りながら、床の上に降り立った。

『お前も、そろそろ勘付いていたんじゃないんデスゥ?
 お前がこの世界に辿りついてから、他の世界の実装生物達が、どんどん湧いて出るようになったデスゥ。
 これは、お前自身が原因なんデスゥ』

「ぼ、僕自身が原因だと?
 それは、どういう意味なんだ?」

『まぁ、お前との付き合いも結構長かったデスゥ。
 冥土の土産に、教えてやるとするかデスゥ〜』

「冥土の……土産だと?!」

 ぎょっと目を剥くひろあきに向かって、初期実装はいつものような、どこかふざけた口調で語り出した。

『実蒼石のアクアは覚えているデスゥ?
 あいつは、他実装の世界から他の世界に旅立って、いくつもの実装世界を巡ってきたデスゥ。
 そして、元の世界に戻って来たら、アラ不思議!
 今までアクアが他の世界で出会ってきた実装生物が、次々に他実装の世界にも現れちゃったデスゥ☆』

「それは、お前の仕業だろう! お前がおかしな力で——」

『それは酷い言いがかりデスゥ〜。
 他実装の世界を、実装生物だらけにしてしまったのは、ワタシではなく、アクア自身デスゥ』

「な、なんだって?!」

『特別に、面白いものを見せてやるデスゥ』

 そう言うと、初期実装はスカートの中から大きなブラウン管TVを取り出した。
 よたよたしながらTVを床の上に置くと、コンセントを探してうろうろし始める。
 何か聞きたげな顔つきで振り返る初期実装に、ひろあきは無言で首を振った。

『しょうがないデスゥ、じゃあこのまま点けるデスゥ』

「最初からやりたまえ!」

 電源もリモコンもないのに、TVがパッと点いた。
 そこには、広大な街が映し出されている。
 だが、良く見ると——人も、実装と思われる生物も、動こうとはせず地に伏して沈黙している。
 背後に写る街並みは、どの建物もボロボロに崩壊しており、明らかにゴーストタウン化しているのがわかる。
 人の死体も、実装生物達の死体も、もはや数えることなど不可能なほど、大量に散らばっている。
 それは、まさに地獄絵図——生者など皆無の、恐るべき死の世界だった。

『これが、お前達が訪れた10年後の、他実装の世界デスゥ〜』

「こ、これが?」

『この世界の住人は、無尽蔵に増え続ける実装生物への対処を怠ったデスゥ。
 その結果が、この有様デスゥ☆
 ——そして、この世界も、いずれこうなるデスゥ♪』

「な……?!」

 ボン! と音を立て、巨大なブラウン管TVが消滅する。
 初期実装は、再び空中にフワリと浮かび上がった。

『海藤ひろあき。
 お前は、“因子”としての役割を、充分に果たしたデスゥ。
 これまで巡った実装世界の“因果”を紡ぎ、この世界に紐付けたデスゥ。
 お前が望む望まないに関わらず、この世界には、“因果”を伝って、今後も無数の実装生物が押し寄せてくる
 デスゥ〜!』

「ど、どういうことなんだ?
 どうして、どうして僕が?!」

『長い旅路、実にご苦労だったデスゥ。
 お前はこのままこの世界で死に、他の実装世界の“因果”を、この世界に永久に紐付ける礎となるが良い
 デスゥ〜』

 初期実装の身体が、だんだん透明になる。
 ひろあきは、ぴょんぴょん飛び跳ねて、初期実装を捕まえようとしたが、それは徒労に終わった。

「待て! 初期実装!!
 なんで、何でお前は、そんなことをするんだ!
 この世界を滅ぼして、お前に何の得になる?!」

 ひろあきの必死の叫びに、初期実装は、満面の笑顔を返した。


『ただ面白いからデスゥ〜!
 ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ♪』

 初期実装は、突然狂ったように高笑いし始めた。
 そのけたたましい笑い声は、頭に響く程大きく、室内の明り取りのガラスや、木の壁が微振動を起こしている。
 そのあまりの不快さに、ひろあきは頭に手を当て、床に蹲ってしまった。

『ケケケケ……け?』

 突然、初期実装の笑い声が止まった。
 殆ど消えかけていた身体は元に戻り、壁掛け式の棚に干してある実装服を眺めている。
 初期実装は、ミドリの頭巾を手に取ると、今まで見た事もないような険しい表情を浮かべた。

『——そうか、あいつが原因だったのか!』

 いつもと違う、初期実装の声。
 まるで、地の底から響いてくるような迫力を湛えた声は、ひろあきを瞬時に恐怖に陥れた。

『これは、予想外に面白い事になってきたデスゥ』

 と思うと、再びいつもの調子に戻り、まるでスキップでもするように飛び跳ね、そのまま消えてしまった。
 室内には、ハダカで蹲るひろあきが、ただ一匹残されていた。

(どういうことなんだ、僕が……原因?
 因果とか因子とか、どういうことなんだ?
 わからない……僕やアクアに、一体何が起きたというんだ?!)

 初期実装が言い残していった言葉と、先ほど見せられた彼女の恐ろしい一面に翻弄され、ひろあきは呻き声を
上げながら、ただのたうち回るしかなかった。
 

          ※          ※          ※


 同じ頃、風呂場付近に、二体の成体実装がやって来ていた。

「うわ! トイレが……」

「これは酷い、誰がこんなことをしたんデス?」

「二階にもトイレがあるからまだいいデス。
 けど……ウンチが廊下にまで流れてるデス」

「誰か転んだ形跡もあるデス、危険デス」

「はぁ……仕方ない、お掃除するデス?」

「ワタシも手伝わせて頂きますデス」


 トイレの手前に立ち、ミドリのしでかした惨状を見つめているのは、アオママとキイロママだった。
 その時、どこからともなく聞こえてくる呻き声に、二人は気付いた。

キ成2「ここから聞こえるデス!」

アオ成「ここ扉になっているデス、中に誰か閉じ込められているデス?」

 アオママとキイロママは、顔を見合わせ頷くと、扉を開けて中の様子を窺った。
 その途端、鋭い悲鳴が響いた。

キ成2「ハダカの仔デス?!」

アオ成「どこのチームの仔デス?」

「わ、わ、わ、く、来るな! 来るなぁ!!
 み、ミドリ君! ミドリくぅーん!! た、助けてぇ!!」

キ成2「ちょっと、落ち着きなさいデス!」 

アオ成「ミドリ……?」

 しばらくすると、急に床板の一部が「バン!」と音を立て、そこからハダカの成体実装が飛び出してきた。

「おどりゃあ〜!!
 偉大にして高貴なる世界の至宝、ミドリ様!
 お呼びにより今ここに来迅デスゥ!!
 ——って、ありゃりゃ?」

 アオママとキイロママの視線に気付いたミドリは、顔を赤らめながら、そのままスローモーションで床下へ
消えていった。

ミ「さよぉなら〜」

キ成2「ちょ、ちょっと待ってくださいデス!」

 キイロママが中に入り、ミドリを掴んで引っ張り上げた。

ミ「ギャアア! 敵チームの成体実装怖いデスー!
 殺されて食われるデスー!」

アオ成「ワタシ達はそんな真似はしませんデス!」

ミ「デ? ほ、ホントデス?」

キ成2「本当デス。
 それより、お話が出来そうな方がまだ残っていて、心強いデス。
 貴方がたは、あの恐ろしい姿の実装石を見ませんでしたかデス?」

 聞けば、二人は伐採石の後を追って来たのだが、この辺りで姿を見失ったのだという。

キ成2「何かご存知なら、教えてくださいませんデス?」

ミ「デェ?」

 ミドリは、訝しそうな目でアオママとキイロママを見つめ、続けてひろあきを見た。
 ひろあきはまだ恐慌状態のようで、部屋の隅で身を縮めているようで、話に加えるのは無理そうだった。 

ミ「ワタシも、さっきチラ見しただけで、詳しいことはわからんデス」

アオ成「そうデスか。まだお風呂場を確認していないのデスが、良かったら一緒に来てもらえませんデス?」

キ成2「一人より二人がいい、二人より三人がいいという、古い格言もあるデス」

ミ「空に消えるあいつ、海に沈むあいつ、大地に埋まるあいつと続くデス?」

 ミドリも、実際あのバケモノがどこへ消えたのか、興味が尽きなかった。
 複数チームの混同で、というのが気にはなったが、下手に一人で探るよりは安全かもと思い、彼女達の誘いに
あえて乗ることにした。

ミ「じゃあ、ワタシも付き合うデ……」

 ぐぅぅぅ〜 ×3

 その時、ミドリを覗く三人のお腹が、同時に鳴った。

アオ成「そういえば、ご飯を全然食べてなかったデス」

キ成2「ワタシの所も、もうご飯が尽きてしまったデス。
 ミドリさんは平気なのデス?」

ミ「え、え〜と」

 ミドリは、開きっ放しの床下収納をチラ見した。


          ※          ※          ※


 その後、何者かが地下に仕舞った実装フードとタオル、飲料水などを引き上げたミドリ・アオママ・キイロママ
は、ひろあきを伴い、ひとまず風呂場を確認することにした。
 先ほどミドリとひろあきが使った時のままで、特段異常は見当たらなそうだ。
 だが良く見ると、小さな血の跡が点々と、廊下から脱衣場を横切り、風呂場に続いているのがわかった。
 血の跡は風呂場の床にも続いているようだったが、既に流されていたため、これ以上のことは分からない。
 キイロママは、室内にある洗面器に注目した。

 洗面器は黄色いプラスチック製の丈夫なもので、内側底面部には「ケロリン」と赤字で記されている。
 成体実装の体格なら、これを足場にすれば、浴槽の蓋の上に乗る事が可能だった。
 しかし、蓋の上を見ても異常は確認出来ず、また厚さ5センチの木の板複数枚で構成された蓋はかなりの重さ
のため、持ち上げて中を覗くことは出来なさそうだった。
 
アオ成「ミドリさん、さっきここに来られた時、洗面器はどうなっていたデス?」

ミ「デェ? それは覚えてないデス。
 入った早々にお湯入れて、身体を洗っちゃったデス」

アオ成「そうデスか」

キ成2「あんな大きな者が隠れられそうな所と言ったら、この浴槽しか考えられないデス。
 けど、とてもじゃないけど、実装石の力では中に入れないデス」

ミ「でもあいつ、滅茶苦茶デカかったし、パワーもあるデス?」

キ成2「うちのパパから聞きましたデス。そいつの片腕は、刃物になっているデス。
 とてもこんな重いものを、持ち上げられそうにないデス」

アオ成「不思議デス……念の為、階段の方も確認するデス」

ミ「デ、デェ」

 肝心な証拠に繋がるものを流してしまったことを反省しているのか、ミドリはいつもよりおとなしい態度で
調査に参加していた。

 その後、階段を確認したが、伐採石が登ったような痕跡は発見出来なかった。


          ※          ※          ※



 調査に行き詰った面々は、相談の末、キイロチームの本拠地である103号室に移動することにした。
 他のキイロチームも参加するため、103号室はかなりの実装石が集まる形となった。

 アオチームは一匹、キイロチームは五匹、そこにミドリとひろあきが加わって、計八匹。
 ひとしきり自己紹介が終わったところで、アオママが口火を切った。

アオ成「皆さん、この場所はニンゲンがワタシ達に殺し合いをさせるために作った舞台デス。
 ニンゲンは、ワタシ達の様子を観察して楽しんでいるのデス。
 ワタシ達に出来ることは、何としてもここから脱出して、決して殺し合いなどしないで済ませることデス」

 その発言に、驚く者は誰もいない。
 アオママは、「結構デス」と呟いて、話を進めようとする。
 だが、そこに別の者が割って入った。

キ蛆「ニンゲンサンは、本当に恐ろしいことを、簡単に考え付くレフ〜」

アオ成「う、蛆ちゃん?」

ミ「デ? なんだこいつデス?」

キ仔1「この仔は、ワタチ達のリーダーなんテチ」

キ仔2「こう見えても、ワタチ達や皆チャンより、ずっとずっと年上なんテチ!」

アオ成・ミ「「 エ、エエエエ〜〜!! 」」

 声を上げて驚く二人に、キイロ蛆はエッヘンと言わんがばかりに、顔を上げた。

キ蛆「蛆チャンは、齢7歳になるレフ!
 まあそれよりも、今のここの状況を確認したいレフ。
 皆さん、知っている限りの情報を提供し合いませんレフ?」

ミ「な、7歳の蛆ちゃんなんて、初めて見たデス!」

ひ「なるほど、成長抑制剤を投与されてるのか。
 しかし、まさか蛆実装で副作用もなしに、ここまでの長寿とは驚きだ」

 ようやく冷静さを取り戻したひろあきが、ミドリの背後で語る。

キ蛆「貴方は、なんだかすごく詳しそうレフ。
 良かったら何か教えてくださいレフ」

ミ「実はこいつ、このゲームを考えた奴の元仲間なんデス。
 クソドレイ2号という、元ニンゲンなんデス!」

ひ「おい、ミドリ君!!」

皆「「「「 元・ニンゲン!? 」」」」

 アオチームと、キイロチームの声がハモる。
 ミドリと、観念したひろあきは、分かる範囲で自分達のこれまでの状況を説明した。

 このサバイバルゲームは「アビス・ゲーム」というもので、最後まで生き残った一匹を当てて大金を稼ぐと
いう人間の娯楽であること。
 各チームのブリーダー(オーナー)は、手持ちの実装石が生き残れば莫大な賞金が手に入ること。
 そのために、アビス・ゲームには普通ではない実装石が投入されること。
 ディーラー(主催者)が決めたルールを逸脱するものは、伐採石によって抹殺されること。
 このアパートの中には、実装石を直接傷付けたり殺したりする仕掛けはないが、応用次第で殺傷が可能になる
道具は、あちこちに隠されていること。

 そして、普通の方法では、中からの脱出は不可能なこと。

 ひろあきは、実装石に分かるようにと、出来るだけ簡潔に説明した。
 103号室の雰囲気が、一気に暗くなった。

ミ(おい、そんな所まで話して良かったんデス?)

ひ(仕方ないさ。彼女達の持つ情報を得るためには、こちらもそれなりのカードを出さないと駄目だ)

ミ(どうなっても知らないデス。
 って、ところでお前、さっきは何があったデス?)

ひ(後で話すよ……)

 ひろあきの情報提供の後、今度は各チームからの報告が行われた。

 もっとも協力的なキイロチームは、自分達の部屋に置かれていた各種アイテムからその使い方、隠され方まで
教えてくれたが、このアパート内で起きている出来事に関しては、意外に理解がなかった。
 ただ、二階にはまだもう1チーム存在しており、他者との接触を絶っていることを付け加えた。

 アオママは、自分達のチームの事情……オルカの事には触れず、アパート内部で見て来た事を説明した。
 クロチームの成体実装の一匹を倒したこと、実装雛が現れ、伐採石に駆除されたこと。
 そして、101号室のことも——

アオ成「101号室は、何度か確認をしたデスが、誰もいなかったデス」

ミ「空室だったデス?」

アオ成「でも、時々話し声はしたんデス。
 途中から、あそこはクロチームが占拠したので、その後は分からないデスが。
 さっき101号室の前で、クロチームの中実装が、何者かに首を刺されて死んでいたデス」

キ成1「それは、アカチームデス」

 キイロパパの発言に、皆がぎょっと目を剥いた。

ひ「アカチーム? もう1チーム隠れているというのか?」

キ成1「そうデス。彼女達は何かの方法で、上手く身を隠し続けているようデス」

アオ成「やはり……にわかには信じ難い話ですが、それなら納得する点もあるデス」

キ仔2「でも、五匹もどこに隠れてるテチュ? 押入れの中テチュ?」

アオ成「押入れの中は確認したデス。上にも下にも、誰もいなかったデス」

キ蛆「それはとても不思議レフ」

ひ「あれ? 待てよ?」

 突然、ひろあきが眉間に皺を寄せ考え込む。

ひ「ミドリ君、あの地下の収納庫」

ミ「あーそうだ。ヤイ、お前らに聞くデス!
 階段の下に隠しておいた、ワタシの実装フード、盗もうとしたのはどなたデス?!」

ひ「なんで一部だけ敬語なんだよ?」

 ミドリの呼びかけに、室内の実装石はポカーンとした顔を向けるだけだ。
 アオママの要望で、どういう状況だったかを説明する。
 その途端、キイロ蛆が声を上げた。

キ蛆「迂闊だったレフ! 床下、充分隠れられるスペースがあるレフ!」

キ成1「じゃあ、アカチームは普段ずっと床下に?」

キ成2「でも、床下は真っ暗だし、とっても不便デス」

ひ「いや、奴らはライトを持っている。だからどこでも自由に動けるんだ。
 もしかしたら、今もこの下に潜って、我々の話を聞いているかもしれない」

「「「「「 !! 」」」」」

 全員の表情が、同時に強張った。

アオ成「今、他のチームがどこに何匹、どういう状態でいるのかを確かめる必要があるデス……」

 アオママの提案に、全員が同意を示す。
 更なる相談の結果、明日の朝、二階の空室に本拠地を移し、そこでアオ・キ・ミドリ混合チームで捜索と探索
を行うことになった。
 子供達が眠気を訴え始めたこともあり、これ以上続けるのは無謀だと判断されたのだ。
 ミドリとひろあきは、二階の203号室に移動し、他の者はそれぞれの部屋に戻ることとなった。


          ※          ※          ※


『いかがでしたか? 他のチームの様子は』

 押入れの奥、小箱の中に隠れていたアオ親指が、人間の声で話し出す。
 それは、オルカの声——

 脇に座るアオ仔実装は、押し入れの中で無言で虚空を見つめている。

「おおよそ予想通りの結果だったデス。
 今集まれる連中は、比較的協力的な者達だと判断して良さそうデス。
 それより——この仔は何をしているデス?」

『建造物内のスキャン中です。
 ママのご指摘の通り、アパート内に出てきた他実装達は、ワームホールを通じてこの世界に現れた“異分子”
 の一部です』

「ユナイト現象と言ったデス? これも、その影響なんデス?」

 アオママの質問に、アオ親指——オルカは、コックリと頷いた。

『この世界は、まもなく圧倒的な数の実装石によって埋没します。
 それを阻止する手段は、この世界の科学力でも不可能です。
 現在、実装燈、実蒼石、実装雛、実装紅、実装金、ドールタイプ、繭化タイプ、実装人の出現が確認されて
 います』

「めぼしい実装生物は、一通り出たわけデス?」

 アオママの言葉に、アルカは首を横に振る。

『いえ、まだ——カオスが残っています』

 その言葉に、アオママの顔色が露骨に濁る。

「カオス……もしかして、それが出現した例があるのデス?」

『はい、私共が直接確認しただけで、6例あります。
 いずれも、カオスの出現が致命的になったようです』

「なんということデス……」

 がっくりとうなだれるアオママに、オルカは慰めるような口調で更に話しかける。

『仕方ありません、この世界は、もう救う事は不可能です。
 ——明日の正午、外部より、ママをここから救出するための作戦を決行します。
 ママは、そのチャンスにここを出て、他の世界へ移動なさってください』

 オルカは、あまり感情のこもらない口調で、淡々と告げる。
 横にいるアオ仔実装は、いつしかアオママの顔を見つめ、無言で頷いていた。 
「外部って、一体何をしようというのデス?
 何故、貴方達はそこまでのことを?
 ワタシは、ただの実装石デス! それなのに——」

 アオママは、オルカに迫った。
 納得の行かない表情の彼女に向かい、オルカは、小さな手をすっと突き出し、制する。

『今の貴方は、確かにそうかもしれません。
 ですが、未来の貴方は……私共の世界にとって、なくてはならない存在になられるのです。
 私は、この世界で貴方を、なんとしても護るようにと厳命を受けて活動しております』

「そんな命令、誰がしたのデス?」

 アオママの質問に、オルカは一呼吸置いて、静かに答えた。



『貴方ご自身ですよ』


          ※          ※          ※



★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。


「睡眠前の運動は堪えるデス〜!
 おいクソドレイ2号、さっき、何があったんデス?」

 服を回収し、二階205号室に戻ったミドリは、先ほどから少し様子がおかしいひろあきを、横目で見つめた。
 壁際に座り、焦点の合わない目で見つめるひろあきは、まるで魂の抜け殻のようにも見える。
 そのあまりの元気のなさに、ミドリはだんだん彼のことが心配になり始めていた。

「初期実装に会ったんだ」

 突然、ひろあきが沈黙を破った。

「初期実装? 一体何を言われたデス、アイツに?」
 
 ひろあきは、どことなく気の抜けた口調で、先ほど物置の中であった事を説明した。
 だが、初期実装の消え際の行動と発言は、あえて触れなかった。
 話を聞いて、ミドリは「なんじゃそりゃ」と呟いた。

「気にするなデス、それはお前を脅かしただけデス!
 お前は、ちゃんとこの世界から脱出出来るデス。
 前にも言ったけど、今度からワタシ達と一緒に移動すりゃいいデス」

 デッヘン! と胸を張りながら、何故か自信満々に応える。
 だがひろあきには、彼女のそんな空威張りが、妙に頼り甲斐ありそうに感じられた。

「ありがとう、ミドリ君。
 君は、本当はすごく優しいんだな」

「デェ? 褒めるとそろそろミが出るデス、やめるデス♪」

 デヘヘと照れ顔になりながら、ミドリは適当な段ボールをかき集めて、寝床を作り始めた。
 とその時、どこからか金属音がした。

「あ、忘れてた。これ、鍵を見つけたんだ」

 ひろあきは、後で渡すつもりだったと言いながら、真鍮製の小さな鍵をミドリに掲げる。

「こんなの、どこで使うデス?」

「それはわからないけど、わざわざ実装石の死角になる場所に置かれてたんだ。
 きっと、何か意味があるんだと思う」

「ふ〜む……とりあえず、預かっておくデス」

 そう言うと、ミドリはまた、後ろ髪の中に鍵を隠した。
 カッターと鍵がぶつかり、カチンと音がする。

「さぁ、そろそろ寝るデス。明日も早いデス」

「なあ、ミドリ君」

 目を閉じようとした時、ひろあきが静かに話しかけて来た。

「なんデス?」

「僕、なんだか君のことが好きになってきたよ。ありがとう」

「?! ……?!?! ?!」

「おやすみ」

 困惑するミドリをよそに、ひろあきはとっとと目を閉じた。
 さほどの時間を置かず、軽やかな寝息が聞こえ始める。
 ミドリは、ゆっくりと起き上がると、ひろあきの寝顔を見下ろした。

(いきなり、何を言い出すデス、クソドレイの分際で……ビックリするデス)

 ミドリは、先ほど取り戻したタオルを引っ張り出すと、それをひろあきの身体にかけた。




「…………ね、眠れんデス……
 おのれぇ、クソドレイ2号めぇ……」


 先ほどの言葉が頭の中をループしているためか、薄暗がりの中、ミドリの眼は爛々と輝き続けていた。


 だが更に一時間後には、室内に豪快ないびきが響いていた。


          ※          ※          ※


 それから、しばらく後のこと。
 二階205では、異変が発生していた。


「ヒ、ヒギィィィィ?!?!」

 午前6時頃。
 すっかり衰弱し、動くことすらままならなくなったムラサキチームの仔実装の一匹が、突然叫び声を上げて
のた打ち回り始めた。
 驚いて起き上がったムラサキ成体実装と他の子供達は、狂ったように暴れる子供を前に、呆然としていた。
 ゲームが始まって以来、何も口にしていないため、もはやリアクションを起こす気力も体力も残ってないのだ。

「ゲイィィィィィ?!」

 と、今度はもう一匹の仔実装まで、苦しみ始めた。

「ど、どうしたんデス……」
「ママァ……」

 三匹目の仔実装と、親指実装は、事態の把握もままならず、成体実装に助けを求める。
 しかし、成体実装も、何が起き、何をすべきなのかが、全く分からない。

 二匹の仔実装は、十数分ほどジタバタと苦しんだ後、舌をまっすぐ伸ばし、激しく痙攣し……

 ゲ、ゲエエェェェェェ〜〜!!

 激しく嘔吐して、動かなくなった。
 二匹の口からは、妙にネバネバした黄色い粘液が吐き出されている。

「……何が……起きたんデス?」

「死んじゃったテチ? オネーチャ、死んじゃったんテチ?」

 悶死した姉二人の死体を見て、三女にあたる最後の仔実装が、ベロリと舌なめずりをする。
 それを見た成体実装は、背筋に悪寒を走らせた。

「ここに居てはダメデス……やはり、外に出ないとダメデス……
 ……このままでは、この仔達は……」

 成体実装は、仔実装の顔を手で覆い、這いずりながら出口を目指して動き始めた。

「うぐ……!」

 突然、胸元が痛くなり、動きが止まる。
 成体実装は、先日、羽根の生えた空飛ぶ生物に突き刺された傷痕を、そっと撫でた。


 ゲボ……

 親指実装が嘔吐したのは、その直後だった。


          ※          ※          ※


・P01 STATUS:DAMAGED LV.4
・PK02 STATUS:DEAD
・PK03 STATUS:DEAD
・PK04 STATUS:DAMAGED LV.5
・PO05 STATUS:DEAD


 6月13日午前6時半。
 プレイヤー17体、死亡。

 残りプレイヤー、18体。



「おっ、おっ♪ 来ましたよ! ついに!」

 黒浦にじあきは、他に誰もいないモニタールームで、一人歓喜の声を上げた。

「よし、恒例のイベント開始だ! 早速準備班に連絡だな!」

 そう呟くと、にじあきは空間投影端末に向かって、何やらメールのようなものを書き込み始めた。


          ※          ※          ※


 6月13日午前9時——
 

 ここは、次官専用の個人オフィスルーム。

 実装管理委員会次官・海藤やおあきは、デスク上に置かれたタブレットを手に取ると、弐羽としあきの居場所
を表示するアプリを立ち上げ、現在位置を確認した。
 シグナルは、湾岸埋立地の付近の海の中で光っていた。

(——海?)

 しばらく考え込んだやおあきは、即座に別なアプリを立ち上げ、そこからファイルを読み込む。
 それは、古いタイムスタンプの資料——報告書だった。
 中には、湾岸の埋立地に広がる工業地帯に関する報告がまとめられていた。
 その権利者の変遷経緯に目を通したやおあきの眉が、ピクリと反応する。

 続けて、としあきのカードから発信されているシグナルの履歴を参照した。

 ・ラブホテル「kiyagar-Eskevie-Domo」北区〜
 ・バー「槐」北区〜
 ・ラブホテル「kiyagar-Eskevie-Domo」北区〜
 ・バー「槐」北区〜
 ・「第一ホワイトビル」屋上 中央区〜


 やおあきは履歴の詳細を展開し、としあきが「第一ホワイトビル」に滞在した時間を確認した。

(6月12日午後6時——?
 一般人が入れない大型オフィスビルの屋上に、何をしに?)

 続けてやおあきは、バーからホワイトビルまでの移動時間と経路を参照する。
 広大な路面マップが表示され、としあきのシグナルが、人間の歩行速度では絶対にありえない速さで首都高速
上や一般道を何回も周回し、わざわざ二時間もかけて移動していることがわかった。

「小細工か。なるほど」

 フフン♪ と鼻を鳴らし、やおあきはデスク上の内線電話を手に取った。

「——ああ私だ。
 すまないが、中央区にある第一ホワイトビルの……そうそう、あそこだ。
 あれの所有者の詳細と経歴を洗ってくれ。
 ……ああ、それと、かつて入っていたテナントの内訳や、物件自体の経歴も全部だ。頼んだぞ」

 電話を切ると、携帯にメール着信があることに気付く。
 それは、にじあきからの「イベント開始条件クリア」の報告だった。

「そうか、ついに開始かぁ。
 だが……今回はスタートに立ち会えそうに無いな」

 軽く舌打ちすると、やおあきは上着を羽織り、個室を出て行った。


          ※          ※          ※


 さぁ〜、皆さんお待ちかね!

 第52回「アビス・ゲーム」も、ようやく後半戦!
 35匹の実装石が、残り18体にまで減りましたので、本日午前10時より「イベント」を開始いたします!!

 イベントの内容は、いつもの通り!
 特別ゲストが、ステージ内に登場!! ゲームをより面白く盛り上げてくれますよぉ〜!!

 前回は、このイベントで残り4匹まで一気に減ってしまったプレイヤー、果たして今回は何匹残るのか?!

 それでは、ド〜ンと行ってみましょう! ——Here We Go!!


          ※          ※          ※


 6月13日午前10時——



■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。


 105号室のドアが、静かに開く。
 溢れる死臭と共に現れたのは、二代目クロリーダーだった。
 実装服はドス黒く汚れ、もはや黒いリボンの位置すらわからない。
 あれから更に死体を貪ったのか、顔全体に黒く変色した血がこびりつき、うつろな眼は亡者のような不気味さ
を感じさせる。
 先日までの活気に溢れた動きはもはやなく、まるでゾンビの如き緩慢な動きで、クロリーダーは廊下に出た。
 

 ガン、ガン、ガン……バキッ!! メキメキ……


 突然、玄関の方から、何かを壊すような大きな音が響いた。
 クロリーダーは、その音に引き寄せられるように、玄関へと歩いていく。
 少し遅れて、103号室からキイロパパが姿を現した。

キ成1「いったい何の音……デェ?!」

 キイロパパは、目の前を横切るクロリーダーのおぞましい姿にまず驚愕し、彼女の向かっている玄関の様子を
窺い、再び驚いた。

 玄関の扉は、外側から一旦破壊され、無理矢理こじ開けられたようで、周囲に細かな木片が散らばっている。
 玄関のスペースからは、首を斬られた実装石の死体が排除され、代わりに巨大な箱が置かれていた。
 その箱は、一片がキイロパパの身長とほぼ同じで、薄地の段ボールのような素材で作られている。
 キイロパパが玄関の様子に気付いた時には、扉の穴が塞がれようとしているところだった。

キ成1「ああ! 今なら!!」

 まだ完全に覚醒し切れてない身体を無理矢理動かし、キイロパパは玄関の扉に向かって走り出す。
 しかし、扉の穴にあてがわれた鉄板はあまりにも丈夫で、キイロパパの力ではどうすることも出来ない。
 扉の外から、ドリルの回転音が聞こえ、鉄板は更に扉に密着した。

キ成1「しまったデス、最大のチャンスだったかもしれないのに……」

 悔し紛れに鉄板をバンと叩くと、いつの間にか置かれていた箱が、突然もぞもぞと動き始める。 
 キイロパパは不気味なものを感じ、玄関から離れたが、入れ替わるようにクロリーダーがその箱に近づいた。

 その途端——

 バリッ!! バリバリッ!

 箱の側面が破れ、中から、見たこともない実装石達が五匹飛び出して来た。

黒「デェェ?!」

?「オラァッ!!」

 バキッ!

 箱から飛び出した実装石は、成体が三匹、中実装が二匹。
 そのうち、成体の三匹は一番近くにいたクロリーダーに襲い掛かった。

黒「デ、デギャアァァァァァッ?!」

?「殺せ殺せデスー!!」
?「この薄汚い奴から、血祭りに上げるデス!」
?「散々苦しめてから、地獄に落としてやるデジャア!」

 ぶち、ぶちぶちぶち……

黒「デ、デ、デ、デヒィィィ〜〜!!」

 キイロパパの目の前で、クロリーダーが集団リンチを食らう。
 押し倒し、一匹は馬乗りになり顔面にパンチ連打、もう一匹は前髪を引き抜き、もう一匹は頭巾ごと耳を齧り
取ろうとしている。
 その猛烈な勢いに気圧され、キイロパパは、無言で後ずさりし始めた。

?「一匹でも多くぶっ殺せデス!
 チビ達は、ちっこい奴らだけでいいから、殺って来いデス!」

?「ち、チビってもしかして、俺達のことかよ?!」
?「テ、テチィ! いやぁぁ、乱暴は嫌テチ、もう許してあげてテチィ!!」

?「選択の余地はないデス、殺らなきゃ自分が殺されるデス!」

?「んな?! な、何だよそれは?!」
?「テ、テェェン! 元のエロメイドサンに戻りたいテチィ!!」


キ成1「???」

クロ「ゲフ……!!」ゴボォッ

 新しく乱入した成体実装三匹の猛攻を受け、クロリーダーは、全身をボコボコになるほど痛めつけられ、血を
吐いて息絶えた。
 キイロパパは、この間に103号室に戻り、固くドアを押さえた。
 だが——


 ドンドン、ドンドン!!

?「オラァ! そこに隠れてるのは、わかってるデズァ!!」

?「出て来いやぁ! デス!!」

?「全員で体当たりするデス、ドアを破るデス!」

 ドォーン、ドォーン!!

キ成1「ぐ……!! デ、デェ!!」

 ドガァッ!! 

 乱入成体実装三体の同時体当たりには、さすがのキイロパパも敵わない。
 ドアはあっさり開かれ、三匹はそのまま103号室の中へ進入した。


          ※          ※          ※


「くそ、一体どうなってんだ、この世界は?!
 どこまでが夢で、どこから現実なんだよ!」

 アパートの廊下を走りながら、中実装——の姿になったとしあきは、もう一匹の中実装・ぷちの手を引き、
必死に走っていた。
 身長約30センチの高さから見上げる人間の住居設備は、異様な迫力を感じさせる。
 走っても走っても、前に進んでいる気がせず、まるでその場で延々と足踏みを繰り返しているようだ。
 103号室から105号室に向かい、もうすぐドア前を通り過ぎるというところで、突然恐ろしい程の腐臭が漂って
きた。

「ぐあ!! な、なんだこれ、くっさぁ!」

「テェェン! ゲホ、ゲホッ!!」

「ぷち、我慢しろ! すぐ走り抜けて……って、あれ?」

 105号室の向こうには、大きく扉が開かれているトイレが見える。
 中実装の移動力で、呼吸を止めながらトイレの向こうまで走り抜けることは、困難そうだった。

「仕方ない、おいぷち、こっちだ来い!」

「テ、テェェ?!」

 としあきは、105号室の向かい・102号室のドアを開いて中に飛び込んだ。

「ふえぇ、一体何なんだここは?」

「ここ、多分、アビス・ゲームの中テチ!」

「え? あの実装の殺し合いがどうとかって奴か?」

「そうとしか思えないテチ。
 ネットで調べた情報とか、動画サイトに、このアパートみたいな所が映ってたんテチ」

「じゃあなんだ、俺達も、実装の殺し合いに巻き込まれたってことか?
 じ、冗談じゃねぇ!」

「テェェ……私達、これからどうすればいいんテチィ?」

「そういや俺は、ひろあきに会わせるって約束をしたらこうなったんだよな?
 どういうことなんだ?」

 としあきは、こめかみに拳を当てて悩もうとして……バランスを崩して倒れそうになった。
 
「もしかして、ひろあきさんも、実装石になってこの中にいるんテチ?」

 ぷちの言葉に、としあきはハッとして顔を上げる。

「おいおい……もしそうなら、ひろあきがもう殺されてる可能性もあるじゃねぇか!」

「テチ?!」

「くっそぉ、あの女、デスゥタンガンの事を知ってる俺やひろあきを、はじめから処分するつもりだったんだろ!」

 怒りがこみ上げて来たとしあきは、ひとまず気を落ち着かせるため、室内を観察することにした。
 ごく普通の、昭和時代からありそうな古いアパートの一室……その押入れがゆっくりと開き、中から誰かが顔
を覗かせた。
 それは、アオママだった。
 としあきとぷち……の中実装の姿を見て、アオママは不思議そうな顔をした。

アオ成「貴方達は、何処から来たのデス?」

「げ、実装石が居た?!」

「か、勝手に入ってごめんなさいテチ!
 私達は、怪しい者ではないんテチ!」

アオ成「……リボンが、ない?」

「「 えっ? 」」

 アオママに言われて初めて、二人は自分達の首にリボンが付いてないことに気付いた。

『アビス・ゲームでは、途中で新しい実装石チームが投入され、状況をかき乱すイベントが毎回行われます。
 恐らくこの者達は、それで投入された、いわば“刺客”でしょう』

 どこからともなく、人間の女性の声がする。
 アオママの背後から出てきた仔実装の手の中、小さな親指実装から発せられているようだ。
 アオママの表情が一瞬険しくなるが、その時、部屋の外から大きな激突音が響いた。

アオ成「今のは何デス?!」

「あ、ああそうだ、俺達と一緒にここへ来た実装石達だ!
 はす向かいの部屋で暴れてる!」

アオ成「はす向かいって……キイロさん?!」

 アオママは、押入れに引き返し、割り箸の槍を取り出そうとするが、その行く手をアオ仔実装と親指が遮る。

『お待ちください、あと少し、あと少し待てば、状況が変わります!
 それまでのご辛抱を!』

アオ成「でも、急がないと、キイロさんが——」

『ここはどうか、お凌ぎください!』

 焦って出て行こうとするアオママを、としあきが止める。 

「そうだぜ、それに奴らは三匹だ! あんた一人じゃ危ないよ!!」

 そう言った途端、また外から大きな音が響く。
 ぷちが、頭を押さえてへたり込んだ。

「テェェ! お外で誰か暴れてるテチィ! 怖いテチィ!!
 クソドレイサーン!!」

アオ成「クソ……ドレイ……サン?」

 としあきは、ぷちの口の端をつまんで引っ張る。

「こんなとこに来てまで、それを言うなぁー!!」

「ひぇひぃぃぃ! ひゃめれれひぃぃ〜」

アオ成「……」

 アオママは、中実装達のマヌケなやり取りを、何故か呆然と見つめていた。


          ※          ※          ※


「ASJ-04とASJ-05、アビス・ゲームステージ内に進入確認しました。
 GT-04との直線距離約8メートル」

「よし、すり替えは見事に果たせたようだな。
 工作班には、私がねぎらいの言葉をかけていたと伝えろ」

「はっ」

 蘭子は、赤ワインに唇を寄せると、不敵な微笑みを浮かべた。

「本番は、ここからだな——楽しみだな」


          ※          ※          ※


 午前11時——

 職務を終え、一旦個室に戻ったやおあきの許に、丁度良く内線電話が入った。

「私だ——うむ、ホワイトビルの……そうか、わかったか。
 資料は——ああ、これだな、ありがとう」

 電話を切り、タブレットを確認すると、メーラーに資料が転送されていた。
 そこには、先ほど頼んだ「第一ホワイトビル」にまつわる、これまでの歴史と所有者の変遷経緯が記されている。

 第一ホワイトビルは、かつて「株式会社オーベルテューレ」というところが所有していた物件となっている。
 その会社名についても追記があり、今はもう存在しない会社だが、健在時はメイデン社の関連会社だったこと
が記されていた。

 やおあきは、としあきの巡った経緯について検索した情報をもう一度呼び出し、北区のバー「槐」の情報を
調べた。
 バーの店主に関する情報を、DEJAのデータベースで更に検索する。


 バー「槐」店主:石阪重諭樹 50歳 
 実装石管理所有承認ナンバー所有「2056998405」

 No.2056998405:
 石阪重諭樹(イシサカ シゲユキ) 取得年月日:1989年9月20日
 略歴:
 1999年 実装石資材運搬会社「株式会社トロイメント」資材調達課次長職就任
 2001年 上記会社 倒産のため退社
 2001年以降の更新届出なし

 「実装石管理承認ナンバー」とは、DEJAが管理発行している実装石取扱業者向けの許可番号で、いわば免許
のようなものだ。
 それを照合することで、バー「槐」のマスター“海坊主”の正体は、あっさり割れた。
 
 実装石資材運搬会社「株式会社トロイメント」も、元々はホワイトビルにテナントを持っていた会社で、やはり
メイデン社の子会社だった。

 弐羽としあきの発信シグナルが発見された海底は、元・メイデン社所有の工場施設のすぐ近くだった。
 やおあきは、そこに注目し、としあきの移動経路上に浮上したポイントを全部調べたのだ。

「なるほど、全て繋がったな——予想通りか」

 口許を大きく歪ませると、やおあきは、背後の本棚に偽装した隠し扉を開き、にじあきの待つ「秘密の部屋」
へと急いだ。


「おお、お帰り。
 早速凄いことになってるぞ、乱入組の奴ら——」

「ああ、こちらも面白い情報が手に入った。
 そろそろ、表立って動く時が来たようだな」

「へ? 一体何が——」

 不思議そうな顔をするにじあきに向かって「シー」と指を立てると、やおあきは携帯を操作し始めた。

「もしもし——私だ。
 いよいよ、君達に動いてもらう時が来た。
 青い服の実装生物の確保は——そうか、充分だ。
 では君達は、港区の湾岸埋立地PCBE-60091に向かってくれ。
 そう、すぐにだ。——指示は到着後に私から告げる。以上だ」

 それだけ伝えると、やおあきは電話を切り、いつもの席に座った。

「おいおいやおあき、一体何を始める気なんだ?」

 どこか不安げなにじあきに、やおあきは、フフン♪ と鼻を鳴らして応える。

「デスゥタンガンの件、どうやらメイデン社が絡んでいたようだ。
 弐羽としあきも、そして恐らくひろあきも、奴らの手に落ちてる」

「じゃあ、それを助けるのか?」

「いや」

 チチチ……と人差し指を振り、やおあきは自然な笑顔を浮かべる。

「奴らのアジトは特定した。
 これから、殲滅作戦を開始するのさ」

「ほほぉ♪ そうか、ついにか!
 やったなやおあき、ローゼン社の評価もますます上がるぞ!!」

 両手を挙げて喜ぶにじあきに、やおあきは更に付け足す。

「俺の勘が正しければ、デスゥタンガンはそのアジトにある。
 それも、一緒に回収してしまうさ」

「さすがやおあき! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ!
 そこにシビれる、憧れるぅ♪」

 興奮して四肢を振り回し始めるにじあきを無視し、やおあきは、独り言のようにそっと呟いた。


「さぁ、これで実装石同士の殺し合いと、人間同士の殺し合いを、同時に楽しめるぞ。
 ——ククク」



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