タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話05
ファイル:「実装産業の世界編」5.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:284 レス数:0
初投稿日時:2014/10/08-20:17:03修正日時:2014/10/08-20:17:03
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた「実装産業の世界」は、実装石を産業資源としている超未来都市だった。
 指名手配されている海藤ひろあきの兄にして、実装管理委員会の次官・海藤やおあきは、
としあき達に、ひろあきとデスゥタンガンの捜索を依頼する。

 一方、ミドリは、中実装化したひろあきと共に、「アビス・ゲーム」に参加させられていた。
 廃アパートを舞台に繰り広げられる、実装石同士の醜い殺し合い。
 しかし、その中にはそれぞれの目的を持って行動する、キイロチームやアオチームといった
知性派グループもいた。

 しかしアパート内には、運営者である海藤やおあきすら想定していなかった怪異が発生して
いた。
 何処からともなく突如現れる、謎の実装石や、実装燈、実装雛——

 その怪異は、アパート内だけではなく、各地でも発生していた。
 
 


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 謎の店で、怪しい男達と密談を交わすが……


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、ひろあきと共に「アビス・ゲーム」参加中。
 首下のリボンの色は、緑。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、としあきと共に、ミドリとは別行動中。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 現在、何故か中実装の姿になっており、「アビス・ゲーム」でミドリと共に行動中。
 首下のリボンの色は、緑。


・アオママ:
 本作ACT-3から登場。
 「アビス・ゲーム」に参加する、アオ組唯一の成体実装。
 非常に賢く、異世界移動の経験と知識を持っている謎の存在。
 首下のリボンは青色。


・キイロチーム(成体実装×2、仔実装×2、蛆実装×1):
 「アビス・ゲーム」のプレイヤーで、103号室を陣取る黄色いリボンを着けた実装石達。
 非常に心優しく協力的で、アオママとの協力体制を約束するが……?
 実は、蛆実装がチームリーダー格。


・クロチーム(成体実装×1、中実装×2)
 「アビス・ゲーム」のプレイヤーで、202号室から現れた黒いリボンを着けた実装石達。
 全員共食い嗜好で、シロチームを襲撃し食い殺し、仲間割れしたミドリチームの死体を
食い漁る。
 成体実装の一匹はアオママに殺され、仔実装はそれを見て自壊。


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを
引くと、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。

 
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     じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-5 【 巨大な破壊者 】

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 6月12日午後6時——
 としあき達がこの世界に到着して、既に32時間が経過した。
 滞在可能時間は、残りあと88時間(3日と16時間)。



 としあきとぷちは、自動床で白い廊下を移動し、やがてエレベーターに辿りついた。
 エレベーターは、まるで待ち構えていたかのように、二人が前に立つとドアが開き、そして勝手に動き出す。
 昇降ボタンもなければ、開閉ボタンも、緊急時の連絡機能らしきものも、何もない。
 昇降時の軽い浮遊感すら感じず、自分達が上がっているのか、下がっているのかすらわからない。
 感覚時間で1分ほど経った後、ドアが再び開いた。

 そこは、ビルの屋上。
 夕暮れの空のあちこちに、無数の光が散らばっており、見惚れるほどの幻想的なイルミネーションを形作って
いる。
 その様子は、まるで元居た世界の東京に戻って来たかのようだ。
 屋上は、数メートル間隔で配置された小型のスポットにより照らされ、明暗のコントラストがくっきりと
際立っている。
 大理石風の床石が奥の方へと続いており、まるで招くようにぼんやりと点灯した。

「クソドレイサン、な、なんか怖いテチ!」

「ここまで来たら行くしかないだろ。
 ひろあきの手掛かりが、何かつかめるかもしれねぇんだし」

「う、うん」

 ぷちの手が、ゆっくりととしあきの手を握る。
 いつもなら嬉しいところだが、独特の緊張感に包まれたこの空間では、そんなものを感じているゆとりもない。
 息を大きく吸い込み、としあきは、光る床石を踏み締めた。


 十数メートルほど進んだ所で、突然、左手側の暗がりが明るくなった。
 そこには、五人ほどの屈強な体格の男性を背後に立たせ、黒いテーブルのような物にに直接腰掛けている、
美しい女性の姿が浮かび上がっていた。
 細くてメリハリのある身体を包み込む、赤紫色のラメが入ったチャイナドレス。
 左右のスリットは腰まで深く入り、そこから綺麗で肉感的な脚が伸びる。
 足先には、金のアンクレットと真っ赤なヒールが輝いている。
 桃色の花をあしらった長い黒髪には軽いウェーブがかかり、風に煽られてしなやかにたなびき、銀色のピアス
と共に無数の光を反射して煌く。
 そして、その美貌は、まるで獲物を射すくめられるように鋭く、甘く、そして官能的だ。

 ともすれば、派手すぎて下品になりそうな要素ばかりだが、不思議とその女性が身に纏っていると、違和感が
ない。
 としあきは、思わずぷちの存在を忘れてしまうほど、そのチャイナドレスの女性に見入った。

 前垂れを横に逃がして、わざと見せ付けるように、大胆に脚を組む。
 大きく露出した美脚の動きに目を奪われ、としあきは思わずグビリを喉を鳴らした。

「もぅっ! どこを見てるテチ?!」

「あ? あ、イテテ! つねるな!」

「弐羽としあき、だね?
 待っていたよ」

 チャイナドレスの女性は、そう呟きながら指をくねらせ、招き寄せる。

「そこの娘も、そう……ここへおいで。
 私と話をしようじゃないか」

「は、はぁ」

「テェェ……なんか怖いテチ」

 目を見張るほどの美女と、明らかに普通ではない屈強な黒服の男達。
 迂闊なことをしたら、瞬時に屠られてしまいそうな緊張感に包まれながら、としあきとぷちは美女の招きに
応じた。

「初めてお目にかかる。
 私は、志川蘭子——メイデン社の会長を務めている」

「は、初めまし——って、会長?」

「信じられないか? 私のような若輩者が会長職なんて」

「い、いや……」

 志川蘭子と名乗る女性は、どう見ても自分とほぼ同じくらい……せいぜいまだ二十代前半か半ばくらいだ。
 とてもじゃないが、会社の会長というイメージではない。

「メイデン社って、何テチ?」

 呆気に取られるとしあきをよそに、ぷちが切り出す。
 蘭子は「いい質問だな」と呟いた。

「ローゼン社のことは、知っているだろう?
 DEJA(実装管理委員会)の後ろ盾ともいえる、超巨大規模の実装産業会社だ」

「それって、もしかして、大ロ……もが?!」

 としあきが、ぷちの口を手で塞いだ。
 余計なことを言うなと、目で合図する。

「あの海藤やおあきが次官をやってる、警察みたいな組織の裏ボスって感じなのかな?」

「まぁ、その表現でだいたい正解だ。
 我々メイデン社は、かつてはそのローゼン社と、世界を二分する勢いで活動していた、巨大コングロマリット
 ——だった」
  
「だった、とは?」

 としあきの質問に、蘭子は不敵な微笑みを浮かべる。
 不意に脚を組み替え、としあきを翻弄するような仕草を含めて。

「もぉっ! おねーちゃんの前に立ったらダメテチ! ぷんぷん!!」

「イデデ! だから、耳を引っ張るな!」

「ははは、君達は仲が良いのだな。
 ——そう、残念ながらメイデン社は、ローゼン社に大敗してしまってね。
 表向きは、業務縮小を繰り返し、消滅したことになっている」

 そこまで説明したところで、蘭子は急に立ち上がり、白く長い指でとしあきの頬を軽く撫でて来た。
 突然の行為に、心臓が跳ねる。

「そ、そ、そ、それで、そのメイデン社のお偉いさんが、俺なんかに何の用なんだよ?!」

 不思議な誘惑の気配を断ち切るように、わざと大きめの声で呼びかける。
 踵を返してテーブルまで戻った蘭子は、軽く指を鳴らした。
 背後に立っている黒服の一人が、足元にあったアタッシュケースを持ち上げ、こちらに歩み寄ってきた。

「それでは、本題に入ろう。
 君は、こいつを知っているんだってね?」

 黒服が、ケースの蓋を開く。
 その中には、とても見慣れたものが入っていた。
 青黒く輝く、金属製の——銃。

「デスゥタンガン?!」

 としあきは、思わず声を上げてしまった。
 その態度に、蘭子がヒュゥと口笛を鳴らす。

「どうやら、情報は本物のようだね。
 実は、これについて君の力を借りたいのだが」

 そう言うと、蘭子はケースからデスゥタンガンを取り上げ、銃身をとしあきに向けてきた。
 だが、としあきもぷちも、表情を変えず、微動だにしない。

「これが殺傷目的の道具ではない事も、理解済みか。結構だ」

「何なんだよ、それ。
 そいつは、海藤の……海藤ひろあきの物だろ?
 なんであんたが持っているんだよ?」

 としあきの言葉に、蘭子は銃口の硝煙を吹く真似をしてから、応える。

「なんで、と言われてもね。
 これは、元々我々の物だったんだよ」

「な?!」
「テチ?!」

 蘭子の意外な言葉に、としあきとぷちの周囲の空気が、一瞬凍りつく。
 再び脚を組みかえると、蘭子は上目遣いに見つめながら、さらに続けた。

「とは言っても、開発製造元はローゼン社だがね。
 海藤ひろあきは、ローゼン社からこれを盗み出して、我々に売りつけたのさ」

「もしかして、それであいつは……」

「ご明察。
 彼が産業スパイとして指名手配されたのは、それが原因さ」

 蘭子は、手の中で器用にデスゥタンガンを回し、グリップを向けて突き出してきた。

「実は、この銃が起動出来なくなって困っているのさ。
 これを使ったことのある君なら、セキュリティ解除の方法を知ってるんじゃないかと思ってね」

「えぇっ?」

 咄嗟に記憶を遡ってみたが、そのような設定をした記憶は、全くない。
 それどころか、それらしき操作を行った覚えすらなかった。

「さて、ここからはビジネスで行こう。
 君が、このロックを解除してくれたなら、望み通りの報酬を与えよう」

「げぇ?!」
「テェッ?!」

 蘭子の申し出に、驚きの声が上がる。

「ハッタリではない」

 そう言うと、蘭子はいきなりチャイナドレスの左胸ボタンを外し出す。
 大きく開かれた胸元からは、予想以上に大きく膨らんだ乳房の上部分が露出する。
 蘭子は、胸の谷間から一枚の紙を取り出し指に挟むと、ピラピラとたなびかせた。

「良くあるじゃないか。
 好きな額を書き込みたまえという、アレだ」

「は、はぁ」

「クソドレイサン! もう! おっぱいばっかり見ちゃダメダメテチ!」

「それとも、君の望む報酬は——私自身か?」

 フフ、と意地悪そうに微笑む仕草に、としあきは我に返る。
 ぷちとは異質の色香を容赦なく叩きつけられ、としあきは一瞬、自分が何のためにここに来たのかを失念
しかけてしまった。
 頭をぶんぶん振り、としあきは、表情を引き締めた。

「報酬はいらないよ。その代わり、ひろあきと逢わせて欲しい」

「ん?」

 予想外、といった顔つきで、蘭子がとしあきを見つめる。

「ひろあきに逢わせてくれたら、協力するよ。
 あんたら、ひろあきに一度会ってるんだろ? だったら簡単なことじゃないか」

「……」

 蘭子が、顎先に指を当て、黙り込む。
 だがその沈黙は、ある程度としあきの読み通りの反応だった。
 デスゥタンガンが、かつて本当に彼女達のものだったなら、解析によってロックの解除など何とでもなった筈だ。
 そうでないにしても、ひろあきと接触しているのなら、彼から何かしらの情報を得られるだろうし、わざわざ
としあきの手を借りる必要はないのだ。

 自分をここへ呼び出し、会長自ら赴いてくるということは、ひろあきから充分な情報を獲得出来なかった事情
が、彼女達にある筈だ。
 としあきは、その「事情」が、ひろあきの消息と深く関わっているのではないかと思い、鎌をかけてみたつもり
だった。

 だが……

「いいだろう、約束しよう」

 蘭子の反応は、予想外にあっさりしたものだった。

「?」
「ひろあきさんに会えるテチ? 嬉しいテチ!」

「だが、海藤ひろあきは今、少し特殊な場所にいる。
 今すぐに会わせるということは、残念ながら出来ない」

 再びデスゥタンガンの銃口を向け、蘭子は小声で「バン!」と呟き、微笑む。
 その表情が、何故か一瞬とても可愛らしく思え、としあきは自分に呆れた。

「このまま我々に同行してもらい、明日の朝、彼のいる場所に向かって貰う。
 それでいいかな?」

「ああ、わかった」
「私も了解テチ!」

「よし、商談成立だ」

 そう呟くと、蘭子は袖の奥から、金属製の棒を取り出す。
 キャップみたいなものを外し、先端をとしあき達に向けると、

「おやすみ」

 と囁いた。
 同時に、金属棒の先端から、真っ白いガスが猛烈に噴射された。

「んな?! ——ゲホ、ゲホ! ……げ……」
「テチャァ!! ——テ? テェ……」

 あっという間に深い眠りに落ちたとしあきとぷちは、その場に崩れ落ちた。

「デスゥタンガンのグリップには、指紋認証システムが施されている。
 弐羽としあきに、デスゥタンガンを握らせろ」

 蘭子の命令で、黒服の一人がデスゥタンガンをとしあきの右手に握らせる。
 その後、本体側面に収納されている液晶パネルを操作するが……

「駄目です、認証しません」

「どういうことだ?」

 蘭子は、男の横からデスゥタンガンの液晶を覗き込む。


 PERSONAL-SECURITY-MODE 
 TYPE HIGH

 Lock release failure!!

 Attestation went wrong. 
 A system can't be started. 
 Please attest once again. 
 Attestation can be performed twice more. 


 青い画面に浮かぶ白い英字の羅列を見て、蘭子の眉間に皺が寄る。

「弐羽としあきの指紋ではないのか? では、その娘ではどうだ?」

 黒服は、今度はぷちの手にデスゥタンガンを握らせるが、やはり同じ結果になった。

「海藤ひろあきでも、弐羽としあきでも、この娘でもないとなると、一体誰がセキュリティをかけたんだ?」

「わかりません。
 我々が気付いていない別なセキュリティ設定があるのか、或いは海藤ひろあきが、我々の知らない別な誰かに
協力させたのでは?」

「可能性は否定できんな。
 だとしたら、少し早まったかもしれん」

「いかがいたしましょう?」

 黒服の問いかけに、蘭子はしばし顎に指を添え、考える。

「まあいい……どのみち、ロックを解除出来ない以上、この男にはもう用はない。
 予定通り、弐羽としあきとその娘を“DLC”にかけろ。
 その後、例の場所へ送り込む。
 潜入方法は、明日私が指示を出す」

「かしこまりました」


 黒服の一人が、深く頭を下げる。

 いつしか、蘭子の口元には笑みが浮かんでいた。
 テーブルに置いていたショールをはおると、蘭子は黒服達に左右をガードされながら、屋上のエレベーターに
向かう。
 だがほんの数歩進んだところで、蘭子のヒール音が、はたと止んだ。

「——またか」


 テチィ?


 蘭子の足下には、身長10センチくらいの仔実装が一匹、佇んでいた。
 不思議そうにこちらを見上げ、小首を傾げている。
 辺りには、他に誰もいない。

 何故、こんな所に? と、脇の黒服が呟いた。

「行くぞ」

 蘭子は、つかつかと先へ進む。
 真っ赤なヒールが、仔実装の頭に食い込み、そのまま貫通した。

 ヂッ

「原因はまだわからないのか?」

「はっ、残念ながら、いまだ……」

「早くしろ、もう時間がないぞ」

 蘭子がエレベーターエリアに辿り着いたとほぼ同時に、チンという音が鳴り響いた。


          ※          ※          ※


 6月13日午前0時。
 としあき達がこの世界に辿りついてから、38時間が経過した。
 残る滞在時間は、あと82時間(3日と10時間)。

 
★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。



 ここは、203号室。

「ミドリ君酷いよ、体中に痕が付いちゃうじゃないか」

「デェ……デェ……た、助けてもらっといて、ゼータク抜かすんじゃねぇデスぅ……ぐへぇ」

「まあとにかく、君のおかげで助かったよ。ご苦労様」

「デ、デデ……つ、疲れ切ってもう何も言う気力が出ねぇデス〜!」


 ミドリの協力で、キッチンシンク内から解放されたひろあきは、身体に巻きついたビニール紐をうっとおし
そうに解きながら、ため息を吐いた。

「しかし、だんだん訳がわからなくなってきたね。
 実装燈が、このアパートの中に……にわかには信じがたいけれど」

 ひろあきを渾身の力で引っ張り上げ、精魂尽き果てたミドリは、床の上に大の字になりながら話す。

「でも、念の為さっきも見てきたけど、向こうに死体が転がってるデス。
 嘘でも見間違いでもないデス。
 この世界にも、他実装いるデス?」

「まさか、普通の実装石しかいないよ。
 他実装はおろか、繭を作る実装石もいない」

「じゃあ、ありゃあ何なんデス?
 お前やワタシと同じく、別世界から来たデス?」

「さあ……でも、以前にもこれと似たような状況を、見たことがあったね」

「他実装の世界のことデス?」

「そうそう。ミドリ君、キミは最近鋭いね」

「デェ? 褒めてもオナラしか出ないデス♪」プリ

「あっ、臭ぁっ」

 二人は、かつて「他実装の世界(※第7話)」で体験した出来事を回想してみた。
 他実装の世界では、元々他実装や実装石がいたのだが、それ以外にも、繭を張る人化実装や実装人と思われる、
明らかにその世界に居ない生物がどんどん湧いてきていた。
 しかも、彼らが居た町は、とある事情で外部から封鎖されていたにも関わらず……である。
 あげくには、まるでバケモノのような実装石が現れ、としあきやひろあき達が拠点にしていた家が全焼すると
いう事態に発展してしまった。

「——そう考えると、この事態は、あの時ととても良く似てるな」

 ようやくビニール紐から解放されたひろあきは、どっかと座り込む。

「まあ、悩んだって今のワタシ達には分からんデス。
 それより、今日はここで夜明かしデス?
 一階は、なんか怖くて帰る気が起こらないデス」

「クロチームも戻ってくる様子がないね。
 それもいいけど、お腹が減ったよ、ミドリ君。
 実装フードを取って来てくれないか?」

「デェェ? お前、今回妙に態度デカくないデス?
 自分を何様だと思ってやがるデス?」

「まあまあ、君がなんだかんだで面倒見のいい実装石だってことは、もう分かってるから。 
 というか君、前に比べて随分変わったよね。
 昔は、生粋の野良実装って感じだったのに」

「デ? い、いきなり何を言い出すデス?」

 ひろあきの言葉に、何故か顔を赤らめたミドリは、両腕を無意味にぶんぶん振り回した。
 と同時に、腹がぐぅぅ〜と、可愛らしい音を立てた。
 ひろあきと相談した結果、一階に降りて物置(隠し部屋)から実装フードを回収し、腹ごしらえ。
 その後、風呂場を使って身体の汚れを落とし、再び203号室に戻って就寝というプランを立てた。
 だんだん眠気が強まって来たこともあり、二人は早速行動に移ることにした。

 203号室を出て、205号室の前を通りかかると、部屋の中から実装石達のうめき声が聞こえてきた。
 中の様子を覗こうとするミドリを、ひろあきが制する。
 それよりも、とにかく目的を果たすことが先決だった。


          ※          ※          ※


■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



 廊下は、いつの間にか常夜灯のような薄暗い照明に切り替わっていた。
 ロープを伝い、見え辛い足場に気をつけながら一階に下りると、二人は即座に階段の真下にある物置へと入り
込んだ。
 だが——

「デェェ?! 実装フードがないデス!」

「しまった、誰かにバレたんだ」

 物置——隠し部屋にぎっしりと積まれていた実装フードは、綺麗さっぱり消滅していた。
 ご丁寧に、包装してあったビニール袋だけは、残されていた。
 良く見ると、ペットボトルの飲料水も、タオル類も、綺麗になくなっていた。
 
「一体誰が、あの物量を運び出したんだ?」

「さぁ……それよりどうするデス?
 腹が減って、だんだん思考能力があやふやになってきたデス〜」

「まず先に風呂場に行こう。そこで水分補給だ。
 出来ることからやっていこうじゃないか」

「デェ、じゃあワタシは先にトイレ行ってくるデス。
 なんか、ここ来てからお通じが鈍くなった気がするデス」

「すまないけど、一人で行ってくれたまえ。
 さすがに、他人の排泄場面を直視する趣味はないからね」

「じゃあ、そこで待ってろデス」

 そう言うと、ミドリそそくさと部屋を出て、すぐ近くにあるトイレに入り込んだ。
 ミドリが入ると、自動的に室内灯が明るくなる。
 妙に凝った仕掛けに感動しながら、ミドリは和式便器に剥き出しにした尻を寄せ、ふんぬと力んだ。

 ブリ……ブリブリブリ……

「はぁぁ〜♪ この瞬間だけは、至福デス〜」

 ほんわかした表情を浮かべ、体内の汚物を次々に落とし込んでいると……


 ミシ、ミシ……

 妙に重量感を覚えさせる足音が、扉の向こうから響いてきた。

「デ?! ま、まさかクロチームの連中デス? ヤバイデス!」

 出すものを出したミドリは、尻も拭かずにパンツを引き上げると、排水コックを捻ろうとして、ハタと動きを
止めた。

(待てよ、今水を流したら……ここに居ることが、バレてしまうデス!!)
(いや、でもそれ以前に、明かりが漏れてるから既にバレバレデス!)
(どうせバレバレなら、このまま臭いまんまにするのはゴメンデス! 流すデス!)

 クイッ——ドバジャアァァァ!

 トイレを流したと同時に、足音が止まった。

「デ!」

 キキ……キィィ……イィィィ

 何者かが、トイレのドアを開けていく。
 このドアは、内側から鍵をかけることが出来ない。
 否、鍵はあるのだが実装石では手が届かない位置にあるため、意味をなさないのだ。
 ミドリはこの瞬間、トイレは下手に使うと命取りになるんだということを、学習した。
 と同時に、学習は対応が求められる瞬間にしても、無意味だということも、思い知った。

「デ……デ……!」

 ギィィィ——

 トイレのドアが、ゆっくりと開かれる。



 デ、デギャアァァァァァァァァ!!!


 深夜のアパート1階に、ミドリの大きな悲鳴が響き渡った。


「ミドリ君?!」

 慌てて物置から飛び出したひろあきは、すぐに異変に気付き、足を止めた。

 開かれたトイレのドア、煌々と廊下を照らす明かり。
 そして、背を向けて玄関の方向へ歩いていく、巨体の影——
 それは、あまりにも大きく、まるで山が動いているかのような迫力を感じさせる。


 コ-ホ-、コ-ホ-……


 暗闇の奥から聞こえてくる、独特の呼吸音。
 それが、ひろあきの疑問を確信に変えた。

(——ついに来たか!!)

 ミシ、ミシ……

 巨大な影は、どんどん遠ざかっていく。
 ひろあきは、入れ替わるようにトイレの中を覗き込んだ。

「! ミドリ君!! なんてことだ!」

 ミドリは、後頭部を便器の中に落とし、入り口付近に向けて大量に脱糞していた。
 目玉はグルグル回転しており、痙攣した舌は硬直してまっすぐ天に伸びている。

「デデ……オバケデタ、オバケデタテチュ……デデデ」

「あ〜あ、こりゃあこのトイレは使い物にならないなあ」


          ※          ※          ※


 ここは、アパートの玄関。

 そこでは、以前ミドリが階段下の物置前で遭遇した、実装石が居た。
 厳重に閉ざされた玄関の引き戸に背を預け、何もせずただ身を縮めているだけだった。
 左袖は、その後クロチームに襲われ食い千切られた名残だったが、彼女達のお気に召さなかったようで、それ
以上食われることはなかったようだ。

 ミシ……ミシ……

 思い足音が、近づいてくる。
 実装石が頭を上げると、見上げるほど巨大な影が、廊下への路を塞ぐように立ち尽くしていた。

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……

       コ-ホ-、コ-ホ-……


 それが、実装石の見た最期の光景だった。


 血に染まった玄関には、ごろりと転がる実装石の生首と、ずるずると崩れ落ちる胴体が、静かに闇に溶け
込んでいた。


 102号室。
 アオチームの部屋のドアが、開かれていく。

 ギィィィ……

 鈍い音を立てて開かれたドアをくぐり、巨大な影が室内に入り込む。
 部屋の西側、窓の真下辺りには、先ほど大暴れした実装雛が縛られて放置されている。
 室内には、他に誰もいない。
 ぐ〜スカと呑気にいびきを掻いて眠っている実装雛、その傍に立った巨大な影は、躊躇うことなく「それ」
を振り下ろした。


 ザクッ!

 ごろん……

 どくっ、どくっ……

 
 深い眠りに落ちたまま、首を瞬時に切断された実装雛は、安らかな笑顔を崩すことなく事切れた。


 
 コ-ホ-、コ-ホ-……

       コ-ホ-、コ-ホ-……


 その様子を、窺っている者がいた。
 クロチームのもう一匹の成体実装……新しいリーダーが、廊下から室内を見つめていたのだ。
 脚はガクガクと震え、腰は完全に抜け、それでも、顔を背けることは出来なかった。
 廊下の常夜灯の光に照らされ、振り返った「影」の全貌が、目の当たりにされる。


「デ……デ、デギィィィ……」


 それは、あまりにもおぞましい、醜悪な姿だった。

 全身にはぼろぼろに朽ちた実装服をまとい、所々に汚れた包帯が巻かれている。
 顔面にも包帯が巻かれており、表情はおろか、目も、鼻も、口も見えない。
 包帯の隙間からは不気味な呼吸音だけが響き、それが生理的嫌悪感を更に煽り立てる。
 後ろに伸びた髪は亜麻色ではなく灰色で、まるで木の皮の表面を思わせるほどにがさがさになっている。
 左腕は、黒くて錆の浮いている鉄板のようなものがめり込み、盛り上がった肉の一部が腐って、赤黒く
固まっている。

 そして、何より特徴的なのは、右腕から伸びている巨大な「刃」だ。

 刃渡り30センチくらいはありそうな、片刃の鉄塊——それは根元が右前腕に完全に食い込んでおり、きつく
縛られた包帯で固定されている。
 包帯に滲んだ血は既に黒く乾いており、ブレードの付け根辺りを若干錆付かせている。
 刃には血が滴り、所々にこびりついた黒い塊が、これまで吸ってきた血の量を物語る。
 成体である二代目クロリーダーよりも、一回り以上大きい巨体は、とてつもない存在感と威圧感を漂わせて
いる。
 それは、百戦錬磨のクロリーダーを、完璧なまでに圧倒していた。

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……


「ひ……や、やめて……こ、殺さないで……デ……デェ……」

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……


「ひ、ぃぃ……!」

 ブリブリブリブリ

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……

 ミシ、ミシ、ミシ……

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……
 
 コ-ホ-、コ-ホ-……


「ひ、ひひ、ヒヒヒ、ひゃは、ヒャハハハ♪」

 
 コ-ホ-、コ-ホ-……

「デシャシャシャシャシャ! デギャアッハハハハハ!!」

 巨大な影は、クロリーダーには何もせず、ただその横を通り抜けた。
 再び、風呂場の方向にゆっくりと歩いていく。
 それを見つめながら、クロリーダーは、脱糞しながら狂ったように笑い出した。

「おい、一体どうしたんテス?!」

 101号室のドアを開け、クロ中実装の一匹がクロリーダーに駆け寄っていく。

「デギャハハハハハ♪ デ、デヒヒヒヒヒ♪」

「何があったテス? 気を確かに持てテス! 一体何g——」

 ガブリ……

 ヂ

 プチュッ♪

 クロリーダーは、歩み寄ったクロ中実装の顔面を、瞬時に食い千切った。
 血の泡を顔のあった場所から吹き出しながら、クロ中実装は突然廊下を走り出した。

 パキン

 そして、玄関に激突して、それっきり動かなくなってしまった。

「クチャ……クチャ、ゴクン。
 ——デシャシャシャシャシャ! デギャアッハハハハハ!!」

 クロ中実装の顔を咀嚼し飲み込んだクロリーダーは、正気を失った虚ろな目をしたまま、ふらふらと廊下を
徘徊し始めた。

「テ……テ、テェェ……とんでもないことになったテス……」

 一部始終を101号室のドアから見つめていた、もう一匹のクロ中実装は、愕然とした表情でドアを閉じた。

「あっという間に、ワタシ一人になっちゃったテス……
 どうすれば、どうすればいいテス? どこか逃げ場所はないテス?!」

 クロ中実装は、慌てて押入れの襖を開け、奥に潜り込んだ。
 だが、中実装の力でも問題なく開いてしまう襖など、彼女を守る盾には到底なりえない。
 無数の段ボールが敷かれた床を這い、クロ中実装は、どこかに身を隠す場所がないか、必死で模索し始めた。

「——テ?」

 その時、積み重ねられた段ボールの真下から、細い光の筋が立ち上った。
 良く見ると、床板の一部が若干ずれており、そこから光が漏れているのだ。
 床板に手をかけて引いてみると、ズリッ、と音がして、動かすことが出来た。
 床下からの光は、更に押し入れの中を明るく照らし出す。

「やった! ここならきっと、安全に隠れられるテス!
 カミサマのお助けに違いないテス!」

 何故、無人だった部屋の、しかも押し入れの真下から光が出ているのか。
 そんな疑問を抱くよりも早く、クロ中実装は床板を思い切り引きずらした。
 光が、更に強まっていく。
 床の穴が、中実装の通過が適うほどに広がった時、不意に、光が何かに遮られた。

「テ?」



 ——ドスッ!!



「…!! ……!!」

 ヒィ〜、ヒィ〜……

 ボタ、ボタ……

 床下から突然突き出た、銀色のフォーク。
 その先端が、クロ中実装の喉を的確に貫いていた。
 ひ弱な呼吸音が、押し入れの中に響く。

  ヒィ……、ヒィ……

「……」
 
 ゴボッ

 床下からフォークを突き立てたのは、クロ中実装と同じくらいの体格の、まだ子供の実装石だった。
 フォークを更に押し込み、クロ中実装の動きが完全に止まったのを確認すると、謎の中実装は床下の穴から
這い出した。

 ズル、ズル……

 悶死したクロ中実装の死体をフォークで引き摺り、101号室の外に捨てる。
 と同時に、もう一匹の中実装が押入れから飛び出し、クロ中実装の血をタオルで拭き始めた。

「オネーチャ、あまり血を広げないで欲しいテス!
 これじゃあ、ワタシ達のことがばれちゃうテス」

「すまないテス、あまりにも急だったから、つい」

「フォークもちゃんと抜いておくテス。ママに怒られちゃうテス」

「了解テス」

 クロ中実装を殺した方の中実装は、タオルを首元に当てながらフォークを引き抜く。
 返り血がタオルに吸収され、赤と緑に濁っていく。

「こいつはきっと、ライトの光に気付いたテス。
 ママには、もっと光が漏れない工夫を考えてもらうテス」

「オネーチャの言う通りテス。段ボールだけじゃ遮光性に不安があるテス」

 それだけ呟くと、二匹の中実装は、押入れに戻って行った。

 彼女達の首下には、真っ赤なリボンが揺れていた。



「……やっぱり、101号室は無人ではなかったデス」

 103号室を出た直後、咄嗟に玄関側に身を隠したキイロパパは、閉じられた101号室のドアと、惨状の玄関を
交互に見つめ、想いため息を吐き出した。


          ※          ※          ※


・BL02  STATUS:FEAR
・BLT03 STATUS:DEAD
・BLT04 STATUS:DEAD

・R01  STATUS:OK
・RT02 STATUS:OK
・RT03 STATUS:OK
・RK04 STATUS:OK
・RK05 STATUS:OK


 新しいステイタスが、モニターに表示される。
 それを見たにじあきが、不思議そうな顔をした。

「なあ、この場合、クロチームの扱いはどうなるんだ?
 成体の方は一応生きてるし、他の実装石への攻撃も出来そうだけど」

「クロはまだ全滅ではないよ、この状態ならまだOKさ。
 だけど、もしこの後半日以上何も行動を起こさなくなったら、伐採対象だな」

「そうかぁ。
 いやぁ、発狂状態になるなんて、52回目にして初めての出来事だしなあ」

「だからこそだよ。
 もしここでリタイア扱いにしたら、BL02に賭けてる連中やブリーダーは絶対反発するぞ」

「だなぁ、こちらの派遣した伐採石が原因だしな」

「そういうことさ。この件はデリケートに扱おう。
 でも、伐採対象になりかけてることは、きっちりアナウンスすといてくれよ」

「うい」

 やおあきの指示を受け、にじあきは敬礼の真似事をする。
 R01以下のプレイヤーステイタスを指でなぞり、やおあきは軽くため息を吐いた。

「それにしても、不動のアカチームがついに動いたな」

「ああ、まさかこういう戦法で来るとは思わなかったよ」

 やおあきは、満足そうな笑みを浮かべながら、モニターの視点を切り替える。
 −101 UNDER− と記された画面の中では、床下にこもっているアカチームの様子が映っている。

「なんでもこいつらのブリーダーは、実装石の一家を買ってわざわざヨーロッパの森林に放して、サバイバル
 生活を仕込んだらしいぜ。
 それで、生き残りの中でも最高の能力を持ってる奴らを投入したって、自慢してたけど——これはマジで期待
 大だなあ」

「気合入ってるなぁ、でもこういうブリーダーが居てくれてこそ、俺達も楽しめるってもんだ」

 にじあきがアカチームの支持率を検索するが、思ったほど賭けている者がいないようだ。

「初期ステイタスも低かったし、何よりオッズも低めだったからなあ。
 こりゃあおいしい展開になりそうだ!」

「ああ、このまま何も出なければな」

 そう言って、やおあきは一枚の写真を取り出し、にじあきに見せ付けた。

「これは? なんか、子供が——うげぇ、これ人間なのか?
 首切り落とされてるじゃん! この死体!」

「子供じゃない、それもどうやら、新種の実装石みたいなんだ」

「え? これがかよ!」

 にじあきは、改めて写真を見つめた。
 そこには、青い服とシルクハットのような物を被り、手には大きな鋏のような武器を持っている子供のような
者と、首を切断された警官の死体が映っていた。
 青い服の子供は、全身を撃たれているようで、無数の銃痕が全身に確認出来る。
 かなり生々しい写真だが、良く見ると、子供の表情がまるで作り物のように見える。

「この写真の奴を解剖してみたんだが、構造が実装石と殆ど同じだったんだ。
 ご丁寧に偽石までありやがるし」

「へぇー、でもさぁ、これ人殺してるのか?
 だとしたらかなりやばい生き物じゃね?」

「ああ、そうなんだ——おっと、電話だ」

 やおあきは、懐から携帯を取り出し、画面を見て眉をしかめる。
 部屋を出て、廊下でしばらく会話した後、うんざりした顔で戻って来た。

「表の仕事に戻らなきゃならなくなった……クソ」

「何かあったのか?」

「ああ、今度は人間型の実装石だってよ。
 ハイウェイに飛び出して、人身事故が多発してるらしい。
 いったい、この世界に何が起きてるんだ、畜生……」

「まあ、お前は仮にもDEJAの次官なんだから、表面だけはしっかり演じて来いよ。
 アビス・ゲームは俺がしっかり観ておいてやるからさ」

 そういうと、にじあきはとっとと背を向け、やおあきの特定席にどっかと腰掛けた。
 早速、何かをむさぼるボリボリという咀嚼音が聞こえてくる。

「……じゃあ、頼む。何か起きたら連絡と対処頼むぞ」

 それだけ言うと、やおあきはやや早足気味に部屋を退出した。


          ※          ※          ※


 6月12日午後2時。

 非管理下にある実装石が街中に多数出現するという事態は、一部の街だけでなく、都心部各所で発生していた。
 道路の真ん中を移動する実装石を轢いてしまい、DEJAに検挙されるドライバーが居たかと思えば、車内に実装石
を乗せていたということで、運営責任を問われた鉄道会社やバス会社も出てきた。
 更に、様々な公共施設、社屋ビルなどにも実装石が多数見つかり、中には異常事態に気付いた者達が自主的に
これらを捕獲、DEJAに状況報告を行うというケースも多発した。

 このような事例は、この二日間辺りで突如発生したため、DEJAも充分情報を集められておらず、事態を把握し
切れていなかった。
 海藤やおあきも、当然この問題の報告を受けてはいたが、調査チームを組織しそちらに事態解明を押し付けた
上、アビス・ゲームの開催に力を注いだため、適切な対応が出来ていなかった。

 DEJAのバックアップ企業ローゼン社も、当然この事態を問題視していた。
 世界各地で用いられる、あらゆる資材・資源・工業部材・一般生活用品などを取り仕切っているローゼン社に
とって、「原材料」が他の者達の手に渡る状況を野放しにすることは出来ない。
 しかし、彼らにとって調査の手足となるDEJAは、先の混乱に加え、中心人物が「アビス・ゲーム」に高じて
しまっていたため、動きが鈍化していた。

 そこに加え、本来この世界にいない筈の生命体「他実装」の存在まで確認されたため、ローゼン社は更に事態
を重く見て、DEJAに喝を入れようとしていた。

 しかし、ローゼン社からの喝は、当の海藤やおあきにとって別な効果を発揮する要員となり始めていた。


 その一方で。
 ローゼン社やDEJAよりも、この事態を把握している者達が存在していた。


 ここは、海岸沿いに広がる、大規模な工業地帯。
 無数のパイプが走る巨大なモニュメントが、広大な敷地内に連なっている。
 鋼鉄の施設のずっと奥、複雑に絡み合った専用通路の影にひっそりと、隠れるように設置された出入り口がある。
 そこから続く地下通路を抜けた先に、突如大きなホール状の空間が広がっている。
 直径100メートルほどのドーム型ホールを中心に、放射状に広がる通路は、それぞれいかつい男達によって警護
されている。

 そのうち、一番大きな通路の奥——まるで大病院の手術室のような佇まいの大部屋。
 室内の各所には、無数の機器が設置されており、まるでSFの世界を再現したかのような雰囲気だ。
 その中央にある、高さ3メートルほどの筒状パーツが並べられたタワー型の部位……半透明のカプセルの中
には、としあきとぷちの姿があった。

 全身に無数のケーブルを接続されたとしあきとぷちは、全裸の状態で深い眠りについている。
 機械室の上方約4メートルほどの位置にある出窓からは、何人かの研究者風の者達が顔を覗かせている。
 そしてその後方には、数名の黒服と共に、チャイナドレスの美女——志川蘭子の姿があった。


          ※          ※          ※


『——聞こえるか、弐羽としあき』

 ——ん、んん……誰だ、俺を呼ぶのは?

『約束通り、これから君を、海藤ひろあきの許に行かせよう』

 え? 海藤の奴に……会えるのか?

『そして、彼に伝えるのだ。
 デスゥタンガンのロックを解除する方法を教えるなら、すぐに元に戻してやるとな』

 元に戻す? どういうことだ?

『では頼むぞ。
 君達の力を合わせて、頑張ってくれたまえ!』

 おい、ちょっと待て! いったいどういうことだ……!!

 !!……

 …


          ※          ※          ※



 ——ここは、どこだ?

 ——俺は、何処にいるんだ?


 ——って、これ、二度目じゃね? 俺


 朦朧とする意識の中、としあきは、現状を確認する。
 体感する空気が、雰囲気が、いつもとまるで違う。
 かび臭く埃っぽい空間、どこが壁でどこが天井か、まるで見当が付かない。
 薄暗く、うっすらと差し込む光だけが頼りの部屋の中、「今」を明確に示す情報は視界内にはない。

「今……何時だ?」

 ぼやけた目をこすり、ポケットの中の携帯を探ろうとして——はたと、手を止める。

 手が、届かない。
 目がこすれない。
 ポケットがない。
 着ている服の手触りが、いつもと違う。

「あれ? まさか、落としたのか?!」

 慌てて起き上がろうと、前腕を床につけて力を込める。
 だが、なぜか力は分散してしまい、どんなに突っ張っても上体が持ち上がらない。

「な?!」

 何かが、おかしい。
 身体が、変だ。
 四肢の長さも、身体のバランスも、力の加わり方も全く異質だ。
 それに、酷く頭が重くてフラフラする。
 目をパチパチさせながらあらためて周囲を見回すと、すぐ近くに何かがあった。
 それは薄暗がりにも関わらず、異様に光り輝いていた。
 赤と、緑に——

「んぐわっ?!」

「テチー」

「へ? じ、実装石?」

「テチー! アナタはドナタテチ?」

「あれ? 携帯……ないのに、なんで?」

「ケータイ?!
 ひょっとして、クソドレイサンテチ?」

「えっ?」

 と突然、正体不明の物体が、抱きついてきた。
 だが、その腕が肩に届くより先に、おでこが激突する。
 目の奥に星が飛び散り、としあきはコロンと後方に転がった。

「て、てめぇ、ぷちかっ?! 何しやがんだこのぉ!!」

「テェェェン! 良かったテチ、クソドレイサンが居て嬉しいテチ!
 テェェェン、テェェェン!」 

「何があったんだ、ここは何処だ? 説明してくれ」

「グスングスン、全然検討もつかないテチィ」

 鼻をすすりながら、ぷちと同じような口調の「物体」が応える。

「あれ? お前、ぷち……なのか?
 なんで実装石の姿なんだ?」

「わかんないテチィ! テェェン、元に戻っちゃったテチィ?」

「なんだあ? 寝ぼけてまた繭化でもしたのか?」

 そこまで呟いた時、としあきはようやく、近くに他者の呼吸音が響いていることに気付いた。
 自分とぷちだけではない……まだ、何匹かいる!
 暗闇の中に浮かぶ赤と緑の輝きは、全部で三つ。

『目が覚めたようデス』
『デスデス』
『デスー』

「どわあっ?! な、なんだぁお前ら!
 巨大な実装石?!」

「クソドレイサン、この方達は……」

「んな?!」

 異様な迫力に圧され、としあきはずりずりと後退しようとする。
 だがその時、としあきは自分の手に指がないことに気付いた。

「テ、テェェ?! お、俺まさか——じ、実装石になってるのか?!」

「私とおんなじテチィ☆」

「ち、ちょっと待てぇぇぇぇい?! な、なんでこうなるんだあぁぁぁっ?!」

 としあきは、思わず立ち上がり天に向かって叫ぶ。 
 だがその声は、ハッキリと自覚出来るほど完璧な「中実装の鳴き声」だった。

『静かにしろデス』

 うろたえるとしあき——否、ただのひ弱な仔実装は、遥か頭上から浴びせられる成体実装の声に、ビクリと
背筋を震わせた。
 
 どうやら、この部屋? と思しき空間には、自分達を含めて5匹の実装石がいるようだった。
 だが、その外観は闇に慣れない眼では、はっきりわからない。

『我々は、これからある所に行くデス。
 それまでは、大人しく待つデス』

「はぁ?!」

「テェ?」

『そうしないと、我々が殺されるデス。
 お前達も、死にたくなければ決まりに従うデス』

「なんだよそれ、そもそも俺達、今どこにいるんだよ!
 第一、なんで実装石になってんだよ! ふざけんな!!」

「テェェ、クソドレイサン落ち着いてテチィ!!」

「落ち着いてられっかよ! 俺、人間じゃなくなってんだぞ?!
 どういうことなのか説明しろよ、誰か!!」

『……』

 ゴツッ!!

「て……?!」

 成体実装のハンマーパンチを頭に食らい、としあきは、再び意識を失ってしまった……




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