タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話03
ファイル:「実装産業の世界編」3.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:275 レス数:0
初投稿日時:2014/10/06-19:33:56修正日時:2014/10/06-19:33:56
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた「実装産業の世界」は、実装石を産業資源としている超未来都市だった。
 そこでは、なんと海藤ひろあきが指名手配されていた。
 彼の兄にして、実装管理委員会の次官を勤める海藤やおあきは、としあき達に、ひろあきと彼の
持つデスゥタンガンの捜索を依頼する。
 そしてとしあきは、実装賭博「アビス・ゲーム」に嵩じる謎の店に入り込み、そこで予想外の事態
に巻き込まれてしまう。

 一方、ミドリは、中実装化したひろあきと共に、「アビス・ゲーム」に参加させられていた。
 そこは実装石同士が殺し合い、最後に生き残った者だけが脱出出来るサバイバルゲーム。
 ミドリとひろあき実装は、協力しあう相談をするが——
 


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 謎の店で、怪しい男達と密談を交わすが……


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、としあき達とは別行動中。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、としあきと共に、ミドリとは別行動中。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 現在、何故か中実装の姿になっており、ミドリと共に行動中。


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを
引くと、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。


 
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     じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-3 【 黒くてドSで惨い奴  】

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



 時間は多少前後する。

 ここは、102号室。
 一階西側の、玄関から2番目の部屋である。

 ここにも、他の部屋同様、五匹の実装石が入り込んでいた。
 首下に付けられているリボンは、いずれも青色。
 内訳は、成体実装一体に、中実装が二体、仔実装が一体、そして親指実装。
 明かりがついても尚薄暗い部屋の中で、五匹はずっと沈黙し続けていた。
 ドアの向こうから、別の実装石の声や足音が聞こえるが、五匹は一切動じることなく、ただ部屋の中心辺りを
見つめている。

 否、正しくは——成体実装とそれ以外の者達が、部屋の中央辺りに輪状に座り、互いを見つめ合っているよう
だった。

 廊下の足音が遠ざかったのを見計らい、成体実装が沈黙を破る。

「——どうやら、行ったみたいデス。
 先ほどのお話の続きを、聞かせてもらえるデス?」

『わかりました』

 穏やかな口調で、成体実装に応える。
 それが、四匹のうちの誰かは、わからない。
 成体実装は、こんな異様な場所にいながらも騒ぎもせず、泣く事もなく、ただじっと座っている子供達の態度
に、戦慄を覚えていた。

『我々は、こことは違う世界から参りました。
 目的は、貴女の保護と救出です』

「違う世界?
 まさか貴方達も、ワタシと同じ“因子”なんデス?」

『いえ、違います。
 我々は、“ディメンジョンドライバー”の力で、この世界へやって来ました』

「ディメ……?
 異世界間移動の技術は、この世界ですら、まだ確立されていない筈デス!
 貴方達は、一体何者なのデス?」

 目を剥く成体実装の態度をよそに、おだやかな、それでいて感情の篭らない声は説明を続ける。

『故あって、今、我々の素性を明かすことは出来ません。
 ただ、“偉大なる大ローゼン”の関係者とだけ、ここでは申し上げておきます』

「大ローゼン?
 ワタシはこれでもう、5つもの世界で、その名前を聞いてきたデス。
 いったい、大ローゼンとは、何なのデス?」

『不思議にお感じになるお気持ちも、理解しております。
 ただとにかく、我々は貴女の味方であるということだけは、どうか信じてください』

「そもそも、何故貴方達は、ワタシなんかを守ろうとするのデス?」

『それは——それも、今はお話することは出来ません』

 「その声」が、どう聞いても実装石のそれでないことは、成体実装には良く判っていた。
 通常の実装石とは明らかに違う者が味方と自称しても、鵜呑みには出来ない。
 しかし、今は出来るだけ情報が欲しいのも事実だ。
 その程度の判断なら容易に行えるだけの知識と経験を、成体実装は持っている。
 膨れ上がる疑問と好奇心を抑えつつ、彼女は、最小限の質問だけを述べることにした。

「わかったデス。
 それで、これからワタシは、どうすればいいのデス?」

 冷や汗を流しながら尋ねる成体実装に、穏やかな声はなおも静かに語りかける。

『アビス・ゲームの概要については、先ほど説明させて頂いた通りです。
 ひとまず今は、食料の確保などの生命線維持が必須課題です』

 その言葉と共に、仔実装がすっくと立ち上がる。
 無言で成体実装の前に出ると、軽く会釈をした。
  
『この者が、この仔実装の身体を中心に周囲をスキャンします。
 これの指示に従って行動頂ければ、的確に目的を果たせるでしょう』

「スキャン……?
 貴方達は、実装石ではないんデス?」

『私達は、“偉大なる大ローゼン”。
 それ以外の何者でもございません』

「……」

 成体実装は、ひとまず謎の声に従うことにして、立ち上がった。
 仔実装を連れ、102号室を出ようとする。

「ところで、これから貴女のことを、どう呼べばいいデス?
 まさか、大ローゼンとは呼べないデス?」

 成体実装の問いに、謎の声はしばしの間を置いて答える。

『私は……オルカ。
 そうお呼びください』

「オルカ、デス? 判ったです。
 ワタシの名前は……」

『存知あげております、マ——』
「ママ、と呼ぶデス」

『ママ、ですか?』

 オルカと名乗る声の言葉を遮るように、やや強めに告げる。
 四匹の実装石達は、無言で頷いた。


『最後に、もう一つだけお伝えしなければなりません』

 オルカが、ドアに手をかけた成体実装——ママを引き止めるように、声をかける。

『我々は、最大72時間……残りあと36時間程度しか、この世界に滞在出来ません。
 それ以上の時間が経ってしまった場合は、私達は貴女をフォロー出来なくなってしまいます』

「36時間?
 次元間移動を行うくらいの技術力があるのなら、アストラル体の定着問題も解決しているのではないのデス?」

『生憎、まだそこまで技術が確立しておりません。
 初期実装のような無制限の移動は、夢のまた夢です』

 オルカの言葉に、ママは少しがっかりした表情を浮かべる。

「そうデスか、わかりましたデス。
 貴方達も、どうかご無理をなさらないよう」

『総ては、偉大なる大ローゼンのために——』

 四匹の実装石達が、一斉に右腕を胸元に添え、起立する。
 それを横目に、ママはゆっくりとドアを開いた。

“何にしても、協力者が居るのは心強いデス。
 ワタシは、何としても、ここから脱出しなければならないんデス。
 今度こそ、ご主人様に会う為に……!!”

 ふぅ、と一息吐き出すと、ママは一気にドアを開き、仔実装と共に廊下へ身を躍らせた。
 

「——チカちゃん、どうか、ワタシを護って」

 小さく呟いた後、ママは、まず玄関の方向へと歩き始めた。


          ※          ※          ※


■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



 ドタドタドタドタ!!

 ここは、アパート一階奥の階段の手前。
 階上を見上げたミドリとひろあきは、突然聞こえてきた大きな物音に、驚いていた。
 それが、実装石達の足音だということはすぐ気付いたが、あまりのけたたましさに恐怖心と好奇心が同時に
発生し、ミドリの足を止めてしまっていた。

「何をしてるんだ、ミドリ君! 逃げろ!!」

「デ? デ、デェェ!!」

 ひろあきにペチペチをお腹を叩かれ、ようやく我に返った……頃には、もう遅かった。
 階段は、途中踊り場を挟んで二階に上る構造のため、直接上の階の様子は見えない。
 その踊り場に、複数の実装石達がゴロゴロと転がるように姿を現したのだ。

 成体実装が二匹、中実装が二匹、仔実装が一匹。
 それぞれ、首下には黒いリボンを結んでいる。
 いずれもかなり身体が大きく、また人相? も悪く、とても強そうだ。
 黒リボン実装達は、階下で硬直しているミドリとひろあきに気付くと、興味深そうに見つめてきた。

「おいお前」

 突然、黒の成体実装の一匹が、話しかけた。

「デ? は、はい! なんでございましょうデス?!」

「この下にも実装石が居るデス? 何匹くらいいるデス?」

「え、え〜と、それは……デデデ」
 
「答えないなら、お前も食ってしまうデス」

「デ!?」

 黒実装は、上から何かを放り投げてきた。
 それは何度か段差部分でバウンドした後、ミドリの足元に落下した。

 ——引き千切られた、中実装の腕と思われるものが……

「デ、デギャアァァァァ!!」
「!!」

 ペタンを座り込んで震えているミドリを見て、黒実装達はグフフと笑う。

「そうなりたくなかったら、素直に質問に答えろデス」

 黒の成体実装が、ゆっくりと階段を下りてくる……かと思ったが、段差の方が足より長かったため、そのまま
豪快にでんぐり返った。

 ドズンドズンドスン!!
「デギャッ! 痛たたたた!!」

 その余りの滑稽な落っこち方に、ミドリはつい吹き出してしまった。

「デギャハハハ! どんなのが来るかと思ったら、とんだドジっ子が落ちてきやがったデス〜!!」

「何がおかしいデス! このブクブク太った中年オバサンが」

「ムカ! いきなり何言うデス!?
 こう見えてもワタシはまだまだ若いピッチピチの年頃デッス〜ン♪」

 黒の成体実装は、クンクンと鼻を鳴らし、ミドリの体臭を嗅ぐと、オゥエッ! と嘔吐する真似をした。

「こんなくっさいの、とてもじゃないけど食えねぇデス〜。
 おいお前、別な実装石共の居場所を教えるデス」

「デェ? 礼儀を知らん奴デス。
 教えて欲しいなら、それなりの代価を——」

「そこの部屋だよ、三体居る」

 ミドリの言葉を遮り、ひろあきが黒の成体実装に呼びかけた。

「ほぉ? こいつはなかなか協力的デス」

「デ、デェ?」

「あと、黄色いリボンを着けた実装石も居たよ。
 どこに居るかはわからないけど、向こうのどれかの部屋には居るはずだ」

「おおぅ、それは良いことを教えてくれたデス。
 お前は話がわかる良い子デス〜」

 そういうと、黒の成体実装はひろあきの頭を撫でた。

「お前は、一番最後に食ってやるデス。グヘヘ♪」

「!!」

 ベロリと大きく舌なめずりをすると、黒い成体実装は仲間達に合図を送る。
 すると、踊り場から白いロープを垂らし、それに捕まりながら成体実装と中実装が降りてきた。
 仔実装は、成体実装の一匹に捕まっているようだ。

「どけデス」

「デギャッ!! な、何するデス!」

 別な黒の成体実装が、ミドリとひろあきを突き飛ばした。
 頭上に捕まっている仔実装が、酷く下品な笑いを浮かべて見下ろしている。

「よぉし、新しい餌場デス! お前ら、下の階もとっとと攻略するデス!」

「「「「 オーッ!! 」」」」

 気合を入れて、黒実装達はどんどん玄関の方向へ歩いていく。
 ミドリはひろあきと共に、階段脇のくぼんだエリアに身を潜めた。

「な、な、な、何なんデス、アレは!?」

「とんでもないのが来たな。
 アレは間違いなく、共食いを仕込まれた実装石のグループだ」

「と、と、共食い!!」

 驚愕の表情を浮かべるミドリに対して、ひろあきは不気味なほど冷静だった。

「いや、今までもあったんだよ。共食い実装チームの投入ってのは。
 生まれてからずっと同属を殺して食らうことを強要されてきた連中さ。
 このゲームのために、わざわざそういう個体を調教するブリーダーが居るんだ」

「な、な、な、何デスとぉー?!
 じゃあもう、あいつらが勝ち残るに決まったようなもんじゃないデスかー!!」

 プスプスプスー、と気の抜けるオナラを吹き出しながら、ミドリはじたばたと足を振るわせた。

「いや、そうとも限らない。
 今までのゲームの結果だけ見ると、意外に共食い個体は生き残らない傾向が強い」

「デ? 何でデス?」

 ミドリの質問に、ひろあきはいつものフフン♪ で返す。

「このゲームは結局、チームじゃなくてどの個体が最後まで残るかが重要だからね。
 あの連中が最後まで残っても、仲間同士で殺し合って共倒れしたり……」

「ああ、なるほどデス」

「それと、警戒した他の実装石から、真っ先に命を狙われたりね」

「デェ……」

「とはいえ、今のところは、あの連中が最強クラスと思って良いだろうね」

「デェ……先が思いやられるデス」

 がっくりうなだれるミドリに対し、ひろあきは何故か明るい表情を浮かべている。

「ミドリ君、物は考えようだ。
 あの連中が二階から降りて来たってことは、今は二階は比較的安全ということじゃないかな。
 さあミドリ君、二階へ行くぞ」

「デェェェ!! こんな階段上ったら、疲れてへばるのが関の山デスゥ!!
 つうか、いい加減腹が減ったデス! どこかに食い物はないんデ……デェ?」

 ドン!

 カポン

 ジタバタしたミドリの腕が、階段の真下の壁を偶然叩いた。
 返って来た音は、あまりにも軽い……中身が詰まっていない感じがするものだ。
 ひろあきは、口に手を当て「シッ」と呟くと、階段真下の壁を調べ始めた。
 やがて——


 キィィ…… 

 僅かな軋み音を立て、壁が開いた。
 
「隠し扉だ!」

「こ、ここにも部屋があるデス?」

「いや、部屋というより、どうやら“物置”みたいだな」

「モノオキ? いいから調べてみるデス」

「だね、もしかしたら安全地帯になるかもしれないからね」

 意気投合した二人は、まず先にこの隠し部屋を調べることにした。
 薄い木板で作られた扉は、下手に動かしたら大きな音を立てて割れそうで、実装の力でも注意が求められる
ようだ。
 苦労してなんとか出入りが出来るくらい扉を開けた途端、いきなり、中から何かが飛び出してきた。

「デェッ?!」
「うわっ!!」

 それは、一匹の実装石だった。
 やや細身ではあるが、成体くらいの大きさはある。
 ミドリとひろあきの合間をすり抜けたその個体は、一瞬だけ振り返り二人を見ると、すぐに玄関方面へ
向かって走り出した。
 鳴き声一つ立てずに。

「あ〜びっくりしたデス〜。
 なんだ、先に気がついた奴がいたデス?」

「いや、ちょっと待ってミドリ君」

「デェ? どうしたデス? クソドレイ2号」

「これを見てくれよ」

 一足先に中に入り込んだひろあきが、室内を指差す。
 その中には、薄いビニールで包まれた物資が、ぎっしりと詰め込まれていた。 袋の外からざっと眺めただけ
で、実装フードや新しい実装服、タオルやトイレットペーパー、飲料水の詰まったペットボトルが見て取れる。
 しかも、ビニールは実装石の力でもたやすく破れそうだ。

「ヤッター! お宝の山発見デス!!!
 見ろデス、これだけあれば、当分食うのに困らないデス!
 ここをワタシ達の本拠地にするデス!!」

「いや、それより……なんか不思議に思わない?」

「デ?」

 ひろあきに言われて、改めて室内を見回す。
 そこは、向かって右手側へと天井(階段)が降りている三角形の部屋なので、中はさほど広くはない。
 物資が詰め込まれていることもあり、ミドリが中に入ったら、せいぜい寝転がることくらいしか出来ない。
 物資を取り出して中身を物色するためには、一度部屋から出なければならないほど、奥行きもない。
 
「さっきの実装石、こんな所に閉じこもって、何をしてたんだろう?」

「餌を取りに来たデス?」

「いや、見た感じ、何か持ち出したような形跡はないよ」

「デェ? じゃあ、あいつは一体?」

「わからない、何か罠が仕掛けられてるのかもしれないけど。
 そんな感じもしないね」

「恐ろしいデスゥ!
 でもあいつ、黒リボンの連中の居た方へ行ったデス?
 どうなっちまうンデス?」

「さぁ?」

 ひろあきとミドリは、ひとまず室内をざっと調べてから、実装フードで腹ごしらえをすることにした。
 初めて実装フードを口にするためか、ひろあきは最初かなり戸惑った様子だったが、半練状の粒を一齧りした
途端、目をひん剥いた。

「美味い! なんだこれ、すごく美味いじゃないか!!」

「デェ? そうデス?
 まあ確かに、安物の実装フードよりはいい物デスけど……」

「へぇ、実装石が実装フードを食べると、こんな感覚なのか。
 これは興味深い」

 満足そうに実装フードをはむひろあきを見つめながら、ミドリは自分の分を口に含んだ。
 もし、こんな上等なフードがここにたんまり隠されていると知られたら、アパート内は大騒ぎになるだろう事
は、ミドリにも容易に想像出来た。

「そりゃそうと、お前、なんで実装石の姿になったんデス?
 魔法使いのお婆さんに魔法でもかけてもらったデス?
 それとも、玉手箱でも開けたデス?」

「人を人魚姫や浦島太郎みたいに言わないでくれよ。
 ——この姿になったのはね、実は……ある組織のせいなんだよ」

「組織?」

「うん、ミドリ君にはわからないだろうけど。
 この世界には、ローゼン社とメイデン社という、大きな企業が二つあったんだ」
 食べかけの実装フードもそのままに、ひろあきは、遠い目で語り出した。

「色々あって、僕はこの世界に帰ってきてしまってね。
 すぐDEJAに捕まったんだけど、メイデン社の連中に助けられたのさ」

「モグモグ……それでそれで?」

「でも、そいつらにデスゥタンガンを奪われて、おかしな機械にかけられて……
 気が付いたら、この姿でこのアパートに居たわけさ」

「へー、不思議な話もあるもんデス〜」

 あまり興味なさそうに、ミドリが相槌を打つ。
 むしろ、実装フードの方にどうしても関心が向いてしまう。
 食べ進めるほど、これはかなりの高級品だとわかってくる。
 味も良く、少ない量で満腹感が得られるようだ。
 大食漢のミドリでも、10粒も食べればもう充分な腹具合になりそうに思えた。

「これは、非常食として少し持っていこう」

「それがいいデス。
 ——それでクソドレイ2号、お前はどうやったら、元の姿に戻れるデス?」

「僕の肉体は、こことは別な場所にあるんだと思う。
 この実装の身体は、恐らく仮のものなんだ。
 だから、何かしらの手段で、あの機械を操作できれば或いは……」

「つまり、絶望的ってことじゃないデス?
 誰がそんなことやってくれるんデス?」

「うぐっ……」

「あ、クソドレイの分際で落ち込みやがったデス」

 背中に立て線引いて塞ぎ込むひろあきの背をポンポンと叩くと、ミドリは大きなゲップをした。
 戸を少し開いて外の様子を窺うが、特に物音は聞こえてこない。

「行くなら今デス。どうするデス、クソドレイ2号?」

「そうだね、そろそろ行こ——いや、待った」

「デ? どうしたデス?」

 ひろあきは、眠たそうに目を擦りながら呟くように話しかける。

「この体が子供のせいなのか、もう眠気が出始めてるようだ。
 すまないけど、ミドリ君——ここで休んで行きたいんだが、いいかい?」

「デ? こんな狭いところで寝るデス?」

「しかし、今の我々にとって、安全圏はここしかないよ。
 それとも、死体と同じ部屋で眠るかい?」

「じ、冗談じゃねぇデス!」

「じゃあ、選択肢はないね。
 眠れるうちに寝ておかないと、今後、他の実装と争うことになった時に辛いよ?」

「デ……でも、さっき目覚めたばっかだから、眠くないデス」

「じゃあ、眠くなるまで番をしてくれたまえよ。
 それじゃあね、おやすみ〜」

 それだけ言うと、ひろあきはコロンと横になり、軽い寝息を立て始めた。

「な、な、なんつー勝手な奴デス!
 あの青蟲野郎も、こんな感じで振り回されてやがったデス?!
 とんでもねー奴です! このクソドレイ2号め!」

 思いため息を吐くと、ミドリは、実装フードをくるんでいてビニールを束ね、布団のようにしてひろあきの
身体にかけてやった。
 自分は、ドアに背をもたれ、外から押されてもすぐには開かないようにする。

『全く、この世界は一体、どうなってやがるデス?
 これって、もしかして今までで一番のピンチじゃないデス?!
 ここから出られなかったら、間違いなく死ぬじゃないデス?
 次の世界に、ちゃんと移動出来るか、心配になってくるデス』

 壁の隙間から、細くて弱い光が差し込んでくる。
 ミドリは、薄目を開けて光に照らし出されたひろあきの寝姿を見て、目を細めた。
 としあきと出会う前、まだ公園のダンボールハウスで暮らしていた頃の記憶が、少しだけフィードバック
される。

『そういえば、ワタシの仔達も、こんな風にすぐ寝付いてたもんデス。
 オウチに入った月明かりで、良くあの仔達の寝顔を見ていたもんデス。
 聞き分けのない仔達だったけど、寝つきの良さだけは助かったもんデス』

 ミドリは、手を伸ばし、ひろあきの頭を優しく一撫でする。
 もうすっかり熟睡しているようで、目覚める気配はない。

 昔の思い出に浸りながら、ミドリは、そっと目を閉じた。


『しかし……あの時、クソドレイがワタシの仔をぶっ殺しさえしなければ、ワタシがこんな目に遭うことも
なかったデス。
 ……あ〜畜生! 思い出したら、だんだん腹が立って来たデス!!
 この世界を脱出したあかつきには、クソドレイ1号にウンコたらふく食わせてやるデスゥ!!』

 閉じられた目は再び開かれ、血走った怒りの眼は、暗闇の中で爛々と輝いた。

          ※          ※          ※


 ミドリとひろあきが隠し部屋に入り込んだ頃。
 アパートの一階では、恐るべき展開が発生していた。

 ここは、ミドリ達が居た105号室。
 青リボンチームの成体実装・ママは、仔実装を頭に乗せながら、ドアの前を通りかかった。


 クチャ……クチャ……

 グチャ……ピチャ……


「?」

 僅かに開いているドアの隙間から、異様な音が聞こえている。
 中を覗こうと顔を近づけた途端、生臭さと鉄臭さが入り混じったような不快な臭気が、鼻に飛び込んできた。

「!! こ、コレは……?!」

 ママの視界には、おぞましすぎる光景が広がっていた。
 複数の実装石が、横たわっている実装石の身体を貪っている。

 実装服をまくり上げ、腹を食い破っている者。
 頭巾を剥がし、耳から噛り付いている者。
 顔面に乗り、顔を食い千切っている仔実装。

 倒れている実装石は他にもいるようだが、そこは完全に、同属食い実装の餌場と化していた。
 良く見ると、周囲には排泄物も撒き散らされているようだ。
 ママは、必死で冷静さの維持に努め、気付かれないようにその場を立ち去ろうとした。

『ここは、想像以上に危険デス、なんとか安全圏を確保しないと……』

「おや? こんな所でどうしましたデス?」

「ヒィッ?!」

 ママは、不意に後ろから声をかけられ、思わず悲鳴を上げてしまった。

「あ、ごめんなさいデス、驚かせてしまって……」

 背後から声をかけた実装石が、詫びの言葉を述べるが、もう遅かった。
 ママの悲鳴に気付いた105号室の実装石達は、黒いリボンを揺らし、ゆっくりとこちらを向いた。
 赤と緑の入り混じった、おぞましい化粧を施した者達の顔が、ママの姿を捉え、ニタリと歪む。

「逃げるデス!」

「え? え?」

 ママは、頭上の仔実装を振り落とさないように慎重に、かつ素早く、背後の実装石の脇をすり抜けるように
走り出した。
 何事か自体を把握していない、背後の実装石も、ママにつられて踵を返す。
 と同時に、背後でバン! という激しい音が響いた。

「生きてる餌が居やがるデス!」

「こいつは適度に締まっていて、美味そうデス!!」

「掴まえてブチ殺せテチ!!」

 黒リボンの実装石達は、そういうと、ママともう一体の実装石に踊りかかった。

「デギャ!?」

 彼女達の動きは素早く、三体の成体実装のうち二体が手前の者に飛びつき、その間をすり抜けてもう一体が、
先に逃げたママを追跡する。
 二人は、背後から襲いかかられる形になり、そのまま前のめりに倒れてしまった。

「あっ!」

 ママの頭上にいた仔実装が、振り落とされて廊下に激突する。
 しかし、何故か悲鳴一つ上げることはない。
 必至で首筋に噛み付こうと迫ってくる黒実装に抗い、ママは懸命に身体の向きを変えようをするが、当然
上手くいかない。

「く……!! この、やめろデ……!!」

「グヘヘヘ、おとなしくしろデス!
 一瞬で殺してやるデス、デギャハハハ!!」

「デ、デギャ……!
 こ、こんなところで、ワタシはぁ!!」

 声を上げ、精一杯の力を振り絞って抵抗を試みるが、黒実装は相手を抵抗させない押さえ方を心得ている
のか、力が分散して上手く行かない。
 血の匂い漂う口腔が、歯と共に首筋に近づく。
 ママは血涙を流して、せめて横目で黒実装を睨むしかなかった……



「いい加減にしなさいデス」
「デ?」

 ゴンッ!

「グ……?!」

 何か鈍器のようなものが振り下ろされ、黒実装の脳天を直撃した。
 凄まじい振動が伝わり、ママは一瞬、自分も殴られたのかと思ったが、傷みはない。
 「一撃」は黒実装を失神させたようで、何者かが、その身体を引き剥がしてくれた。

「さあ、お立ちなさいデス。
 お怪我はありませんデス?」

「デ……これは、あなたが?」

「まあ、細かいことはいいじゃないデス」

 ママの眼前には、照れ顔で頭を掻く成体実装と、その足元、そして背後で倒れている、合計三体の成体実装
がいた。
 そして、105号室のドアの向こうでは、小さな実装石達がガタガタと身を震わせていた。
 黒実装を殴打したと思われる凶器は、どこにもない……

 ママを助けてくれた実装石は、首下に黄色いリボンを着けていた。

「ありがとうございますデス、助かったデス」

「こいつらは、死んだわけじゃないデス。
 青のリボンの貴方は、どのお部屋の方デス?」

「ワタシはそこの……いや、その前に、貴方は何者デス?」

 黄色いリボンの実装石は、ママの質問にあっさりと回答する。

「すぐそこの103号室デス。
 ワタシ達は、このアパートの中で協力者を探しているデス。
 もし良かったら、貴方も是非、力を貸して欲しいデス」

 それだけ言うと、黄色リボンの実装石は、先ほど廊下に放り出された青リボンの仔実装を救い上げた。

「頭と首にダメージを受けているデス、このままじゃ危険デス!
 ワタシ達のお部屋に運ぶデス」

「ちょっと待つデス、その子をどうするつもりデス?!」

 ママが引きとめようとすると、黄色リボンの実装石は、にっこり微笑んで落ち着いた声で返す。

「貴方もいらしてくださいデス。
 ワタシ達のお部屋で、とても便利なオクスリを見つけているんデス」

「薬?」

「さぁ、こいつらが起き上がる前に、早くデス」

「デ? デェ……」

 黄色リボン実装の勢いに呑まれ、ママはつい、彼女の後をついて103号室へ向かってしまった。
 ママは頭の中で、先ほど仔実装が述べた「南側に食料と思われる物が大量にある」という情報を思い返し、
それの回収をいつどうやって行うべきかを、考えていた。



 黄色いリボンの実装石に招かれた103号室は、もっとも玄関に近い東寄りの部屋で、ここから先に部屋はない。
 ドアは105号室と同じような造りで、やはりノブが上下に二つ付いている。

「さあ、どうぞデス」

 開かれたドアの向こうには、複数の実装石の姿があった。
 全員の視線が、中空で絡みあう。
 室内にいたのは、

 成体実装石が一体
 仔実装が二体
 良く見ると、仔実装の一体が、蛆実装を抱えている。

 計五体の実装石の視線が、ママに向けられてた。
 室内に元々いた、もう一体の成体実装が話しかける。

キ成2「ようこそ、もっとこちらへいらっしゃいデス」

 もう一体の成体実装の一体が、優しい口調でママに話しかける。
 彼女は、仔実装の一匹に命じ、近くにあるビニール袋を取りに行かせた。

キ成2「こんなものしかないデスが、ここに、その子を寝かせるデス」

 成体実装は、背後に置いていた濃い茶色の瓶を手に取ると、仔実装が二匹がかりで転がして来たペットボトル
を開ける。
 傍にあった少深めのプラスチック製の皿に水を器用に注ぐと、そこに、茶色い瓶の中身を少し注ぎ込んだ。
 ドロリとした濃茶色の液体が、皿の中に落ちる。

キ成2「手でかき回すことは、お許しデス。道具がないので」
「……」

キ成2「さぁ、これくらい溶けば大丈夫です。はい、パパ!」

キ成1「わかったデス」

「……パパ?」

 “パパ”と呼ばれた黄色いリボンの実装石は、どこからかガーゼタオルを持ってきて、それを謎の溶液に浸す。
 ある程度水分を吸ったところで引き上げると、それを青仔実装の傷口に向け、軽く絞る。
 傷口に、薄茶色の液体がぽたぽたと垂れていく。
 ママは、その一連の流れを、あえてじっと見つめていた。

「もしかして、それは——実装活性剤デス?」

キ成1「よくご存知デス。これを使えば、すぐ元気になりますデス」

 黄色いリボンの実装石は、どこか嬉しそうに応える。
 室内に元々居た成体実装も、どこか嬉しそうだ。
 ふと見ると、黄色いリボンの仔実装達は、先ほどから一切無駄口を叩かない。
 それどころか、蛆実装ですら何も鳴き声を発しない。
 その態度に感心し、ママは安堵の息を吐いた。

キ成1「これでもう大丈夫デス、貴方のお子さんも、じきに意識を取り戻すデス」

「——はいデス。ありがとうございますデス」

キ成2「そうそう、回復されたら、これを食べさせてあげてくださいデス」

 そう言いながら、もう一体の成体実装が、実装フードの袋を持ってくる。
 新しい袋にフードの中身を注ぐと、それをママに差し出した。

キ成2「さあ、どうぞお持ちくださいデス」

「そんな! これは、貴方がたの貴重な食料じゃないデス?!」

キ成2「何をおっしゃるデス。
 困った時はお互い様というデス」

「デェ……でも、大丈夫デス。
 お気持ちだけ頂いておきますデス」

 差し出された実装フードをそっと差し戻し、ママはペコリと頭を下げる。
 ママの態度に、黄色いリボンの実装石達全員が驚きの声を上げる。

キ成1「貴方のような出来た方がいるなんて、それだけでもありがたい事デス」

キ成2「宜しければ、是非今後も仲良くお付き合いさせて頂きたいデス」

 黄色リボンの実装石達は、ママに向かって丁寧に頭を下げて来る。
 一瞬驚いたママも、再度頭を下げた。
 黄色リボンの実装は、コホンと咳払いして、このアパートの状況を尋ねて来た。

 助けてもらった恩義もあり、ママは、黄色い実装石達に事情を説明することにした。
 ママは、ここが人間の手によって作られた特殊な環境で、実装石達は非常に厳しい条件下で生き残る事を
強いられていることを告げる。
 だが、殺し合いによって最後まで生き残らなければならないという事までは、教えない。
 しばらく無言で聞き入っていた黄色いリボンの実装石達は、話が終わると、揃って重いため息を吐き出した。
 
キ成1「なるほど、お話は理解しましたデス。
 とても判りやすかったデス」

キ成2「それにしても、困ったことになりましたデス……
 どうすれば、ここから出られるんデス?」

 二匹の成体実装は、顔を見合わせる。
 しかし、子供達も含め、誰一人として取り乱したりはしない。
 それは、仔実装の一匹に抱かれている蛆実装も同様だった。
 感銘を受けたママは、改まって、黄色いリボンの実装石達に礼を述べる。

「ご理解頂けて感謝するデス。
 貴方達はとても賢くて理性的デス。
 ワタシも是非、ご協力をお願いしたいと思うデス」

キ成1「勿論デス、こちらからも是非にデス」

 まるで人間同士の挨拶のように、双方床に頭を付けるくらい深く礼を交わした。
 ママは、自分達が102号室に居ることを告げ、それ以外の部屋のことは知らないことも伝える。
 そして黄色の成体実装達は、風呂場とトイレがあること、そしてもう一体の成体実装と中実装が徘徊している
ことを伝えて来た。

キ成1「その方達は、緑色のリボンを着けてらっしゃったデス。
 普段どこにおられるかまでは、わからないのデスが……」 

「それで思いついたんデスけど。
 これから、皆さんをどうお呼びすればよろしいデス?」

 ママは、黄色いリボンのメンバーを見渡して話すが、彼女達は特別な名前を持っていないようだった。
 その時、“パパ”と呼ばれた黄色いリボンの実装石が、「そういえば」と呟いた。

キ成1「その、中実装ちゃんと一緒にいた方は、ミドリさんと名乗られたデス」

「ミドリ——?」

 ママの眉間が、ピクリと反応する。

キ成1「その方は、緑色のおリボンを着けていて、お名前がミドリさんデス。
 ワタシ達も、このリボンの色で名乗るのはいかがデス?」

 黄色い成体実装は、そう言いながら自分のリボンを、誇らしげに引っ張った。
 もう一方の成体実装も、仔実装達も納得しているようで、しきりにウンウン頷いている。
 いかがデス? と返答を迫られ、ママは、

「じゃあ、貴方がたをこれから“キイロ組”とお呼びしていいデス?」

キ成2「キイロ組デス? じゃあ、貴方がたはアオ組デス?」

「そうなるデス。これからもよろしくデス」

 首下のリボンを手で弄びながら、ママが返答する。
 双方同意で、互いをリボンの色で呼び合うことを決めた実装石達は、協力体制を結んだところで解散すること
にした。

キ成2「ああ、ちょっと待つデス、これを」

 キイロ組の成体実装……恐らくママ格と思われる個体が、実装フードの入った袋を手渡す。

「え、でもこれは……」

キ成2「念のため持ってお行きなさいデス。
 不要なら、保存しておけばいいだけデス」

「ありがとうございますデス。
 ええと……キイロママさん?」

 ママと呼ばれた成体実装は、ニッコリと微笑んだ。

キ成2「はいデス、アオママさん」

 頂き物を大事に抱えると、ママは、早々に部屋を出て行くことにした。
 餌が手に入った以上、少しでも早く戻らなければならなかった。


 ドアが閉じられ、ママの足音が遠ざかった頃、突然、何者かの声が室内に響いた。

?「あのオバチャン、何か大事な事を隠してるレフ」

?「やっぱりそう思ったテチ?」
?「ワタチも、そんな気がしたテチュ」

 それは、今までずっと黙っていた仔実装達と、蛆実装の会話だった。
 床に下ろされた蛆実装 —キイロ蛆— は、キイロ組全員の顔を見回して、改めて呟く。

キ蛆「とにかくこれで、アオ・ミドリ・クロ・シロの4チームの存在が判明したレフ。
 あと、パパが確認しきれてない二階の二部屋に、多分あと2チーム。
 まだ動きがない101号室に、あと1チーム。
 我々を入れると、全8チームかける5体で、40体……相当な数になるレフ」

キ成2「死んでいるのは、このうち何体デス?」

キ成1「シロの五匹が全滅、ミドリが三体デス。
 205号室は、ドアを叩いたら中から複数の悲鳴が聞こえたデス。
 だから今は、全員生きてると考えていいと思うデス」

キ仔1「パパ、クロの連中はなんで生かしておいたテチ?」

キ仔2「オネーチャ、その時は、アオママさんが傍に居たテチュ。
 目の前で殺しちゃったら、アオママさんに警戒されちゃうだけテチュ」

キ仔1「あ、そうだったテチ。テヘヘ」

 キイロ組全員が、円陣を組むように座り、会話を進めていく。
 驚いたことに、その司会を、蛆実装が務めているのだ。
 蛆実装らしからぬ知性の光を秘めた目は、他の四匹を順番に、そして少し睨むように見つめていく。

キ蛆「いいレフ?
 今はとにかく、一体でも多くの協力者を募るレフ。
 味方を増やせば、それだけ脱出方法が見つけやすくなる筈レフ。
 非協力的な要素を少しでも感じさせた者は、見殺しにしても構わないレフ。
 我々の最重要目的は、ここからの脱出——それだけレフ。
 皆には、くれぐれも絶対に忘れないで欲しいレフ」

 蛆実装にはとても相応しくない表現だが、キイロ蛆は、凛とした態度ではっきりと言い放つ。
 その言葉に、他の四匹がしゃんと背筋を伸ばす。

キ蛆「オーナーの所に、必ず、全員で帰るレフ!」

「「「「 了解、デス(テチ)!! 」」」」

 四匹の声が揃い、皆の表情が引き締まる。
 キイロ蛆は、それを見て満足そうに頷いて……顎をぶつけた。

キ蛆「あ痛タタ……みんな、とってもいい仔レフ。
 こんなに大きく、立派で賢く育って、蛆チャンはとっても幸福レフ」

 そう言いながら、キイロ蛆は一粒の涙を流した。


キ成1「さあ、今は身体を休めるデス。
 みんな押入れに入るデス」

 パパと呼ばれた黄色いリボンの実装石は、そういうと押入れを開け、下の段から段ボールの箱を取り出した。
 それを器用に積み、階段のように並べると、キイロ仔達とキイロ蛆を抱き、上の段に乗せた。
 子供達は更に奥へと進み、何かの空き箱の中へと潜り込む。
 続いて、ママと呼ばれた成体実装が、キイロパパの補助を得て、押入れ上段へ上がった。
 段ボールの土台も上段に引き上げ、奥に重ねてある毛布を取ると、その上に横になる。
 床板をトントンと叩く合図を受け、キイロパパは押し入れの襖を閉めた。

 奥の壁に背をもたれて毛布を被ると、キイロパパは静かに目を閉じた。


          ※          ※          ※


 ——翌朝。

 窓から、朝日が差し込んで来て、薄暗かったアパート内を明るく照らし出す。
 階段下の隠し部屋(物置)も、外壁の上の方に明り取りがあるため、例外ではなかった。


「ミドリ君、起きたまえ」

 ぺちぺち、と何者かが頬を叩く。
 いつしか身体を横倒しにして寝ていたミドリは、目の前に立つ中実装を見て、一瞬驚いた。

「あ、ああもう朝デス?
 朝ごはんは何デス、クソドレイ〜フワワ」

「寝ぼけてる場合じゃないぞ、ミドリ君。
 さあ、朝食を食べて、二階へ探索に行こう」

「デエェ……デ? あ、アレ?
 あ、ワタシは……ああそうか、ここは」

「寝起きで記憶が混乱しているね」

 ひろあきは、ミドリをよそに実装フードを食べて腹を満たす。
 遅れてフードを頬張ったミドリは、喉がつかえそうになって、慌てて風呂場へと向かおうとした。

「待った、ミドリ君。
 ここのペットボトルの水を飲もう」

「デェ、わ、わかったデ……うぐ」

 ペットボトルの蓋は、特殊な構造になっているのか、ミドリがさほど力を込めなくても簡単に開いた。
 ひろあきは、このボトルキャップも実装石の骨から生成した物質が使われているのだと説明したが、ミドリの
耳には届いていない。
 苦労してペットボトルの水を飲み、喉のつかえをクリアしたミドリは、キャップをひろあきに渡し、彼にも
水を飲ませた。

「ぷぅ、ありがとう。
 さて、とっとと二階に向かおうか」

「しゃあない、目も覚めたし、行くしかないデス」

 周囲の様子を入念に窺いながら、ミドリとひろあきは、階段の様子を見るため、隠し部屋を出てみた。
 階段に下がっているロープは、そのまま残されている。
 どうやら、これは昨日の黒実装達が用意したものではないらしく、かなりがっちり固定されているようで、
ミドリが体重をかけて引いても問題はないようだ。

「おいクソドレイ2号、お前を抱えたままここを登るのは無理デス。
 お前は自力で上がってくるデス、いいデス?!」

「それなら心配ないよ、こうすればいい」

 ひろあきは、さっき実装フードを包んでいたビニールを引っ張ってきた。
 もう一つの実装フードの包みをミドリに開封させると、中身を部屋に戻し、ビニールを紐状に束ね出した。

「これをどうするデス?」

「この、輪っか状にしたビニールを、ミドリ君の肩に、一つずつ……そうそう」 
「デェ? おお! これはなかなかのアイデアデス?」

 ミドリの両肩のビニール紐を、ひろあきが背中合わせの体勢で掴む。
 余った部分で、ミドリの腰辺りで両方の輪を結べば、紐が回転することもないし、足場にもなる。
 簡易おんぶ紐を作り出したひろあきは、満足そうにミドリの背にくっついた。

「さぁ、ミドリ君出発だ!」

「デェ?! なんでご主人様のワタシが、ドレイのお前を背負わなきゃならないデス?
 主従関係がおかしいデス!」

「ホラホラ、早くしないと、あの実装石達が戻ってくるぞぉ」

「デ? デデデ!!」

 扱い方がわかってきたのか、ひろあきは巧みにミドリを誘導する。
 ミドリはやむなく、ひろあきをおぶった状態で、階段に垂れ下がる実装サイズのロープに手をかけた。
 良く見ると、階段の段差の脇に幅30センチほどの足場が施されているためか、昇りはさほど難しくはなかった。
 ご丁寧に、足場には若干の段差と滑り止めシートが施されているので、実装石の短い脚でも快適に昇降が出来
そうだ。
 ミドリは、これなら頑張れば中実装でも上れるじゃん! と一瞬考えたが、それを言うとまたひろあきに論破
されそうだったので、口に出すのを止めた。


「さぁ、急いでミドリ君。
 何をのんびりしているんだ、ミドリ君。
 急がないと、大変なことになるかもしれないよ、ミドリ君!」

「じゃかぁしい!! 振り落としたろかデズァ!!


          ※          ※          ※


「う〜ん、なんか変だなぁ」

 「アビス・ゲーム」の監視モニタールーム内で、黒裏にじあきは首を捻って唸っていた。
 コーヒーを取りに行っていた海藤やおあきが、肩越しに彼の見ているモニターを覗き込む。

「どうしたんだい? 何か問題が?」

「いやぁな、電波測定装置に微弱な反応があるんだよ」

 そう言いながら、にじあきは折れ線グラフのような画面を指差す。
 線は、ゼロよりやや上の辺りを腹ばい状に伸びており、時折下限に抵触している。

「アパートの中から、何か電波が発信されているってことか?」

「それにしては、あまりに微弱すぎるんだ。
 こりゃあ、実装石の偽石から出てるものより、ちょっとだけ大きい程度だ。
 通常は使いものにならないレベルだけど、なんか気になってなあ」

「発信源は特定出来る?」

「今解析してるけど、弱すぎて良くわからないね。
 発信源が測定器の近くにあれば、はっきりするのかもしれんけど」
 
「わかった、一応入念に監視しよう。
 三回前だったっけ? あんな風にはしたくないからなあ」

「あいつは馬鹿だったなぁ」

 三回前というのは、四ヶ月前に開催された第49回アビス・ゲームのことだ。
 この時、実装石の体内に遠隔マイクを埋め込み、ゲーム内の実装石の声を録音しようとしたブリーダーが居た
のだ。
 このブリーダーは即座に失格とされ、問題の実装石は処分された。

 アビス・ゲームに参加しているプレイヤー(実装石)達が、ステージ内でどのようなやりとりを交わしている
のかは、ブリーダーやギャンブラーにとって非常に興味深い所ではあるのだが、やおあきは、誰であれステージ
内の音声配信及び傍受・録音を行うことは、厳しく禁じている。

 その理由は、アビス・ゲームの内情を知ったブリーダーやギャンブラーによる、攻略対策施し済みプレイヤー
(実装石)を投入させないためだ。

 実装石の視点でないと気付けない問題点・難点をブリーダーらが理解し、その対策に特化した個体を投入される
と、ゲームバランスが著しく狂ってしまい、ギャンブル性が低下するという危険が生じかねない。
 何も知らない実装石達が、よくわからない場所に閉じ込められているからこその面白みを重視しているわけだが、
いわばこれは「イカサマ対策」と云っても良い。
 
 しかし、それでも、ゲーム内の情報をなんとか収集し、ディーラーに気付かれないように対策済みプレイヤー
を投入しようとするブリーダーは多い。
 ブリーダーは、一度でも失格になると二度とアビス・ゲームに参加出来ない上に、その内容によってはDEJAと
しての強権を振るわれ、社会的に抹殺される危険もあるのだが、それでもルール違反を試みる者は後を絶たない。

 それだけ、アビス・ゲーム優勝時の賞金は魅力的なのだ。

 ちなみに、やおあき側から音声情報を拾おうと思えばいつでも拾えるが、緊急事態が発生しない限りは、
なるべくギャンブラー達と同じ視点でゲームを監視している。
 なんだかんだ言って、彼らも実装石の観察が好きなのだ。
 好きだからこそ、アビス・ゲームを考案したとも云えるのだが。

「ところで、今回“アレ”はどこに待機させてるの?」

 にじあきが、右手首を猫のようにくねらせながら、質問する。

「“アレ”は、ちゃんと所定の位置にいるよ。何かあればいつでも出せる」

「いつもどこにいるのかわからねぇんだよなあ、“アレ”。
 本当に、やおあきの隠し方の上手さには脱帽するよ」

「まあそろそろ、“アレ”の出番も近いかもね。そんな予感がするよ」

 そう言うと、やおあきは持ってきたコーヒーをずずっと一啜りした。

「——あ、しまった。砂糖入れ忘れた」

「俺の持ってる金平糖でも溶かしてみるか?」

 ニタリと笑うにじあきに、やおあきは苦笑いを返した。

「やめとく、肥満が感染りそうだから」

 やおあきの皮肉に額の血管をピキピキさせたにじあきは、「あ、そうだった」と呟き、向き直った。

「そういえば今日、南東36番エリアの巡回員からの報告があったんだよ。
 今日は3匹捕獲だって」

 その報告にやおあきの表情が一変し、まるで苦虫を噛み潰したような顔つきになった。

「一体どういうことなんだ?
 飼育施設から脱走したというには、あまりにも頻度が高すぎるぞ?」

「あと未確認だが、北12番エリアの公園でも、親子と思われる個体2匹が目撃されたらしい。
 こっちはどうする? アビス・ゲームばかりに集中してられそうにないぞ?」

「わかってる……わかってるよ。
 だからこそ、デスゥタンガンが必要なんだ」

 拳をぐっと握り、先ほどまでのヘラヘラした笑顔を打ち消したやおあきは、タブレットを手に取り、画面に
見入った。
 街と思われるマップの中に、マークが表示されている。

「奴に持たせたカードには、発信器機能付きのIDチップが仕込んである。
 アビス・ゲームばかりに熱中してないで、たまにはこれで弐羽としあきの足跡を確認しないとならないんだ
よなぁ」

 端末を受け取り、画面を覗き込んだにじあきは、大きく頷きを返した。

「確かにな、もしかしたらひろあきに迫れる唯一の存在かもしれないしな。
 でもここ——ラブホじゃないのか?」

 やおあきの脳内に、以前見たぷちの巨大なバストが浮かび上がる。

「やっぱり殺そうか、あいつ」

 やおあきは、笑顔で額に血管を浮かべていた。





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