タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話02
ファイル:「実装産業の世界編」2短縮版.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:316 レス数:0
初投稿日時:2014/10/05-21:46:49修正日時:2014/10/05-21:49:37
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイム
リミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 としあき達が訪れた次の世界は、実装石を産業資源としている超未来都市。
 そこでは、なんと海藤ひろあきが指名手配されていた。
 彼の兄にして、実装管理委員会(DE・JA)の次官を勤める海藤やおあきは、としあき達に、
ひろあきと彼の持つデスゥタンガンの捜索を依頼する。
 そしてとしあきは、実装賭博「アビス・ゲーム」に嵩じる謎の店に入り込み、そこで予想外の
事態に巻き込まれてしまう。

 一方、としあきと離れ、謎の空間で目覚めたミドリは、ひろあきを自称する中実装に巡り会う。
 ひろあき? によると、そこは実装石同士が殺し合い、最後に生き残った者だけが脱出出来る
サバイバルゲームの会場だという。
 ミドリとひろあき実装は、協力しあう相談をするが——
 


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。
 謎の店で、怪しい男達と密談を交わすが……


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。
 現在、としあき達とは別行動中。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。
 現在、ラブホに単独宿泊中。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 現在行方不明だが、彼の名を名乗る中実装が、ミドリに接近中。


・デスゥタンガン(アイテム):
 海藤ひろあきが持っていた、実装石を自由に操ることが出来る銃型の機器。
 グリップ内部にあるスイッチボックスを引き出し、任意のボタンを押してからトリガーを引く
と、特定範囲内の実装石がボタンに従った行動を(本人の意志とは無関係に)取り始める。
 また、電撃や火傷と同じ偽ダメージを与えたり、動きを強制的に止めることも可能。
 偽石の固有周波数を登録することで、特定の実装石を効果対象外に指定することも可。
 更に、本体側面部に内蔵されたモニターは偽石センサーのレーダー表示になり、広範囲に
散らばった実装石(偽石)をキャッチすることが出来る。
 ただし、元々は実装石ブリーダー用に開発されたものなので、殺傷能力はない。


 
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       じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-2 【 ミドリ、ミチヅレ 】

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 【アビス・ゲーム】

 実装管理委員会DEJAの次官・海藤やおあきが裏で運営しているもので、実装石を用いて行われるギャンブル
ゲームの名称である。
 運営者は「ディーラー」、参加者は「ブリーダー」と「ギャンブラー」に分けられ、ブリーダー・ギャンブラー
は賭けに勝つと、それぞれ別配当で賞金を手にすることが出来る。

 ゲーム内容は、参加費を支払った「ブリーダー」が、一定のルールに従って育成・選別した実装石を参加させ、
最後まで生き残れば勝利となるというもの。
 計35匹の実装石(プレイヤー)が参加し、ステージ内の活動が実況される。

 「ギャンブラー」は、「プレイヤー」単位で金を賭ける。
 実装石はDEJAの用意した舞台(ステージ)の中に収められ、互いに殺し合いをして最後の1匹になるまで続け
られるが、特定時間内に全滅してしまった場合は、「ディーラー」の総取りとなる。
 例外的なトラブルが発生した際を除き、基本的に人間(スタッフ)が途中介入することはない。


【ルール】

・ステージはDEJAスタッフにより厳重管理された環境下で行われ、外部介入による妨害はない。

・プレイヤーがステージに入れられた時点で、ディーラー・ブリーダーは一切介入不可能となる(問題発生時の
対応用に、スタッフが現地に駐在)。

・ゲーム中の各種審判は、ディーラーによって執り行われる。

・プレイヤーは全員、衣服・下着・毛髪を完備している状態での参加とする。
 例外なく完全な体内洗浄が行われるため、脱糞不可・空腹状態でのスタートとなる。

・プレイヤーは、チーム識別用に色の異なるリボンを与えられる。
 これを失うと、プレイヤーはその時点で身体状態に関係なく失格とされるが、たとえ禿裸になっても、リボン
さえ手放さなければ有効となる。

・最後に生き残ったプレイヤーが存在しないと判断された場合(同士討ちまたは残り二匹になって24時間以上
決着がつかない)、状況に応じて特別ルールが適応される。

・各プレイヤーは、ステージ内にある物をすべて自由かつ無制限に使用して良い。


          ※          ※          ※


 そこは、暗い暗い部屋。
 外からの光が一切差し込まない暗黒の空間に、一つ、また一つと青白い明かりが灯り始める。
 それは、無数に並べられたモニター。
 中央には一番大きな、大人が両腕を広げたくらいの幅がある巨大モニターが鎮座し、それを取り囲むように、
様々な角度がつけられた小型モニターが飾られている。
 それには、様々な映像が映し出されていた。

 無数のモニターの前に座り、薄笑いを浮かべているのは、海藤やおあきだ。
 とてつもなく多数のボタンが付いたマウス状の機器を片手で操作し、モニターの映像を次々に切り替えていく。
 小型のサブモニターの映像は、操作により大型のメインモニターに転送出来る仕組みのようだ。

 今現在、メインモニターの左上には、白い文字で「105号室」と表示されている。
 成体実装と中実装が、部屋の中を移動している。
 その周囲には、実装石達が四匹ほどうずくまっていた。
 やおあきは満足そうに画面を見つめ、部屋の出口方面を目指す成体実装にカーソルを合わせる。
 すると、右脇のサブモニター上に「G02 STATUS:?」という白い文字が表示された。

 しばらくすると、背後のドアが静かに開き、大柄な男性が入り込んでくる。
 タプンと音を立てそうな腹を揺らしながら、鼻息も荒々しく、その男はやおあきの背後に立った。

「どうだい、ゲームの調子は?」

「上等なスタートだよ、にじあき。
 これなら、今回も上手く運営出来そうだ」

「よしよし、準備万端ってとこだな!」

 どこから取り出したのか、にじあきと呼ばれた男はポテトチップスの袋を手に取り、徐にボリボリと食べ始める。
 そんな彼に目を向けようともせず、やおあきは、モニターの一部を指さして呟く。

「こいつだよ、としあきというヤツの飼い実装は」

「へえ、ちゃんと問題なく活動してる?」

「今のところはね。
 まぁ、そうでないと困るんだけど」

「こいつには、ある程度まで勝ち残ってもらわないとならんからなぁ。
 ——ところで、ブリーダー連中から文句が出てるぜ?
 なんで今回はこんなオンボロアパートなんだって。
 前回みたいな、廃墟ビルにすれば良かったのにってさ」

「そうはいうけどさぁ、ビルなんかもう十四回も使ってるんだぜ?
 いい加減つまんないよ、新しいステージの方が絶対盛り上がるって」

「まあ、どんな舞台でも、ちゃんとゲーム進行すればいいんだけどな」

 バリボリ、と音を立てながらにじあきが下品に笑う。
 そしてやおあきも、画面に見入ったまま薄ら笑いを浮かべていた。


「なんにしても、ゲームは開幕した。
 さて、今回はどのブリーダーのプレイヤーが勝ち残るか」

「前回は、三日で決着ついたんだっけ?
 今回はもう少し長持ちして欲しいもんだなぁ」

 ヒヒッ、とにじあきは冷たく笑う。
 そして、メインモニターに映し出される成体実装の映像を、そっと指で撫でつけた。

「それにしても、中実装なんか連れて何するつもりなんだ? こいつ。
 えーと、コードナンバーGT03……
 このチームのブリーダーは?」

「ちょっと待って——ええと、今回初参加だな。
 志川蘭子という名前の女性だ」

「ふぅん」

 興味なさそうに、にじあきは生返事を返す。
 画面の中では、ミドリと思しき成体実装の横に立つ中実装が、カメラ目線でこちらを指差していた。

「そういえば、あの弐羽としあきって奴、今はどこにいるんだ?」

 にじあきの質問に反応し、やおあきはテーブルの端に置いてあったタブレットを取る。
 アプリを立ち上げると、画面内に広がる地図と、その中に光るポインターを確認する。

 『店名:槐 住所 〒114-000……』

「北区の——飲み屋街だな。薄汚い連中の集まる、所謂“裏街道”って奴だ」

「北区といえば、そいつを捨ててきた公園もそこだっけ?」

「そうだな、だから殆ど移動してないらしいや」

「こりゃあ期待出来そうにないなあ」

 にじあきとやおあきは、苦笑しながらタブレットを共に見つめた。

(あのカードに発信器IDチップが搭載されてる事には、まだ気付いてないっぽいな)



          ※          ※          ※



■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
  ||
 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



「ミドリ君、アビス・ゲームが始まった!
 早く、安全圏を確保するんだ。ここは危ない!」

「デェ?!」

「彼女達は、まだ状況を把握してない。
 だから今のうちに!」

「よ、よく判らないけど、わかったデス!!」

 ミドリは、ひろあきと共に、一目散に駆け出した。

 彼女達が入れられている部屋は、古いアパートの一室のようだ。
 四畳半程度の広さで、個人住居用のもので造りは相当古い。
 かつてとしあきが住んでいたアパートよりも、更に輪をかけて古いようだ。
 家財道具などは一切なく、まるで次の入居者を待っているかの如くすっきり片付けられている。
 天井には、ごく普通の形状の蛍光灯がぶら下がっており、室内を照らしているが、少し光量が足りてない。
 床は畳敷きのようだが、厚手の透明シートでコーティングされており、仔実装がけつまずく心配がないように
工夫されている。
 また、これならお漏らしをしても容易に拭き取れそうに思えた。

 西側に木製フレームのガラス窓があり、これはねじり金具式の鍵がかけられており、ミドリ達には開ける事が
出来ない。
 ガラスが曇っているのか、それとも偏光処理がされているのか、外の様子は全く窺えない。

 窓と向かい合うように、東側には木製のドアがあり、実装石の身長に合わせた第二の取っ手が付けられている。
 ドアは軽い力で開けられるようで、中実装のひろあきですら余裕だが、さすがに仔実装以下の個体では、位置
的にも力的にも無理のようだ。
 ドアの蝶番は、押し引きどちらも可能なように作られているようだが、開閉時に僅かな軋み音が響く欠点が
ある。

 南側の壁には押入れがあり、襖はしっかり閉じている。
 変わった構造で、この押入れには天袋がなく、襖は上段と下段を隠す一組分しか存在していなかった。
 他の実装石達は、その押入れの前辺りを陣取って座っている。
 部屋の西側、出入り口のある側にはキッチンがあり、その辺りにも二匹ほどの実装石達がうずくまっている。

 キッチンは独身御用達のものでかなり古臭く、水道とガス湯沸かし器が一つ付いてるだけのシンプルなものだ。
 シンクの右横にはガスレンジを置ける空間があるが、そこには何も乗ってない。
 押入の中段と同じくらいの高さがあるため、今のままでは誰もシンクに昇ることは出来ない。
 ミドリ達は、その脇を通り抜けて出入り口を目指す。

「おいお前達、ここは何処だかわかるデス〜?」

 突然、キッチンの前に居る実装石の一匹が話しかける。
 咄嗟に返答しようとするミドリを、ひろあきが制した。

「他の奴らと話してはいけないよ」

「デェ? 何故デス?」

「殺す時に、ためらいが生まれるからね」

「デ……ち、ちょっと待てデス、クソドレイ2号!」

 扉を開け、廊下に出たところで、ミドリが声をかける。

「他の実装石を、本当に殺さないと駄目デス?
 もっと他に、良い手段があるんじゃないデス?」

「そんなものはないよ」

 ひろあきは、呆れたため息を吐くと、天井を差し示す。

「今の僕らには見えないけど、この建物は、監視カメラが各所に仕掛けられている」

「どういう意味デス?」

「つまりだ、僕達はゲームの管理者達に見張られながら、生き延びないとならない。
 これは、強制なんだよ」

「え、えと……」

「とにかく、我々だけになれる場所を探そう!」

「デェェ、わかったデス」

 やたら張り切るひろあきの後ろを追うように、ミドリはアパートの中を移動する。
 ふと振り返ると、今出た扉の脇には、「105」と記されたプレートが掛けられていた。

「まず、隣の部屋を確認しよう」

 ひろあきは、そう言うと「103」のプレートのかかった部屋の扉の前に立つ。
 だがその時、頭上から、激しい物音が響いてきた。
 

          ※          ※          ※


 ミドリとひろあきが一階で模索を開始した頃。
 アパートの二階では、また違った出来事が起きていた。


★2階  
 部屋番号は、左上→右下の順で、201、202、203、205(204はない)
____
□||□
□||□
■||▲
 | → 一階へ
‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は洗面所。


 ここは、203号室。
 二階の最北東部に位置するこの部屋は、ミドリ達のいた部屋と全く同じ構成だ。
 その中には、二匹の成体実装、中実装が二匹、仔実装が一匹。
 皆、首下のリボンは白色だ。

 実装石達は、覚醒後しばらく争っており、その際に仔実装が踏みつぶされ、これが本ゲーム最初の犠牲者と
なった。
 ゲームスタートから、僅か5分という最短記録である。

 残る四匹は、仔実装の死体には目もくれず、我先にと二階の廊下へ飛び出した。
 東側の一番北寄りのドアから出た四匹は、不気味に静まりかえる廊下を南に向かって進み、その先に何がある
のかを確認しようとした。
 しかし、仲が悪いのか移動中もデスデス、デスデスと、互いを罵倒し合っている。
 四匹が最初に興味を示したのは、自分達の部屋のすぐ隣、205号室のドアだ。
 最も体格の大きな成体実装が、後付けされた取っ手を握り、揺さぶる。
 ドアはあっけなく開き、ギシギシと軋み音を立てる。
 と同時に、ドアの向こうから複数の実装石の悲鳴が響いてきた。

 デスデス! デスデス♪

 デデーッ! デシャアッ!!

 悲鳴を上げたということは、ここに居る連中は自分達よりも弱い!
 だったら殴れ、蹴れ、いたぶれ!
 奴等の持っている物を奪い取り、何もなければ食べてしまえ!!

 初めて意識を共有した四匹は、舌なめずりをしながら下品に微笑む。
 そして、合図と共に一気に中へ飛び込み、襲いかかる算段を立て始めた。

 だが、次の瞬間、全く別な方向から、ドアが激しく開かれる音がした。

 ドンッ!!

 デギャアァァァァ———ッッッ!!!


 それは、完全な不意打ちだった。
 四匹の背後、202号室のドアの向こうから、突然、複数の実装石が飛びかかってきたのだ。
 迷うことなく二匹の成体実装に襲いかかり、一撃のもとにのど笛を噛み千切る。

 ゲボ……ゴボッ!

 不気味な呼吸音を立て、血をまき散らしながら身悶えする成体実装達。
 その横では、中実装の一匹が殴り殺され、もう片方は首を引き千切られようとしていた。
 足と頭を掴まれ、ゆっくりじわじわと引っ張られていく。
 中実装は悲鳴すら上げられず、ジタバタと手を振り回すしかない。
 やがて、ブチ……ブチッ、という耳障りな音がして、ブシャッと液体が飛び散る。
 脊髄もろとも首を引きちぎられた中実装は、しばらく手足をピクピクと蠢かせていたが、やがて静かになる。
 その頃には、成体実装達もすっかり力を失っており、目の色が変わり始めている。

 デス!

 四匹の実装達を瞬時に殺した連中は、死にかけている成体実装の目に血を振りかけ、両目を赤く染める。
 と同時に、凄まじいぜん動運動が始まり、パンツがもごもごと膨らんでいく。

 レフーレフーレフー……

 蛆実装のか細い鳴き声が聞こえ始めるまで、ものの数分。
 その頃には、もう成体実装達は完全にこと切れていた。
 その様子を満足そうに見つめていたリーダー格の実装石は、首下の「黒いリボン」を手で弄びながら、ニヤリ
と口元を歪めた。 

 デスデス、デス!

 デッスン!!

 四匹を襲った連中は、全員黒いリボンを身に着けている。
 リーダー格の命令に従い、残りの者達は205号室に死体を運び込んだ。
 強制出産させられた蛆実装は、全て仔実装の口の中に消えた。

 去り際、リーダー格が205号室のドアを開け、中を覗き込む。

 デ、デスーッ?!?!
 テ、テチャァァ——ッッ!!

 部屋の中心で身を固め、ブルブル震えながらこちらを見ている、紫色のリボンを着けた実装石達がいる。
 それを確認すると、リーダー格はあえて何もせず、そのままドアを閉めた。


 デスゥ〜〜、デヒッヒッヒッ♪

 黒いリボンのリーダーは、満足そうな笑みを浮かべ、202号室へと戻っていく。
 ドアが閉じられ、廊下に再び静寂が訪れるが、205号室入り口前に散らばった大量の血と肉片、そして千切れた
髪の一部は、そのまま残された。 


          ※          ※          ※



・W01  STATUS:DEAD
・W02  STATUS:DEAD
・WT03 STATUS:DEAD
・WT04 STATUS:DEAD
・WK05 STATUS:DEAD

 右脇のサブモニター上に、白い文字が5行表示される。

「はい、203号室のプレイヤー全滅!
 にじあき、悪いけどブリーダーに報告してよ」

「あい了解です、次官殿!
 もっとも、中継見てるだろうから、言うまでもないだろうけどな」

「まあそう言うな、これもルールのうちさ。
 しかしこれ、あのおっさんの出した連中だろ?
 ご期待通りに、毎回最短記録更新してくれるよなあ」

「前回が、確か1時間だっけ。今回が、え〜と……12分!
 すげぇ! これはすげぇよ!」

「ホント、いいカモだよなあのおっさん。
 ちゃんと学習して来いってんだ」

「しょうがねぇよ、ありゃ単なる実装ジャンキー、ギャンブルジャンキーだから。
 しかし、今回の注目株かな黒リボンチーム?
 のっけから飛ばすねぇ」

「ああ、まさか同族食い専門で編成するとはね。
 さすがは優勝候補ブリーダー、的確な調教だね〜」

「ああ、でもこいつらがこのまま優勝しちまうとしたら、ちょっとつまんねーかも」

「さぁ、どうかな。
 103号室チームのブリーダーも、えらく自信満々だったようだし。
 きっと状況打開するんじゃないかな?」

「そう願うよ。
 ——よし、じゃあちょっと行ってくるわ」

 そう言うと、豊満な腹肉を揺すりながら、にじあきが退室する。
 それを横目で見ると、やおあきは再びモニターに見入った。
 マウスを操作し、画面を切り替えると、また105号室の様子を窺う。

「としあき君、早くひろあきの居場所を突き止めてくれよ?
 そうしないと、ミドリが大変なことになってしまうからねぇ」

 独り言を呟きながら、やおあきは、クスクスと笑い出した。


          ※          ※          ※


「すごいテチ! 浴室乾燥機って、こんなに早く乾くんテチ?!」

 ここは、ラブホテルの中。
 としあきが外出し、暇を持て余したぷちは、雨に塗れたメイド服をざっと手洗いして浴室に干していたが、
予想以上の短時間で乾いてしまう設備に、声を上げて感心していた。

 メイド服を着直し、胸元を整えると、ぷちはベッドの上に腰掛けた。
 先ほど発見した、備え付けのタブレット端末は、既にめぼしいページを見尽くしている。
 先ほどまで眠らされていた影響なのか、なかなか眠気が訪れないぷちは、何気なく窓を開き、外の景色を
眺めてみた。

 既に午前2時だというのに、街は未だに昼間のように活気付いている。
 それは、これまで巡ってきたどの世界とも違う、まさしく「不夜城」の如き景観だ。
 調べたところによると、この世界では多くの街が24時間体制で稼動しているという。
 当然、ショッピングモールやビル、アトラクション・イベントホールや各種交通機関も同様で、行きかう人々
も、昼間の約75%程にも及んでいる。
 そのため、眼下に広がる街並みも、かなりの賑やかさを感じさせる様相となっている。
 ぷちの好奇心が、激しく揺さぶられる。

「クソドレイサンがおでかけしてる間に、私は街に出るテチ!
 こんな楽しそうな世界、滅多にな……いややや、オネーチャを捜しに行くチャンステチ!
 クソドレイサンにばっかり任せるわけにはいかないテチ!
 頑張って、絶対見つけ出すテチ!
 うん、立派な理由テチ! じゃあすぐお出かけするテチィ♪」

 ぷちはピスピスと鼻息を荒げ、部屋の鍵を持つと、躊躇うことなく部屋を飛び出した。

 意気揚々とホテルを出たぷちは、周囲の人々の好奇の目を気にせず、賑やかな街並みを目指して歩き出す。
 ぷちはついつい、ミドリやとしあきの事を頭から飛ばしかけていた。
 それを思い出させたのは、空間投影モニターによるニュースだった。
 もうすぐ大通りに出るというところで、薄暗いビルの壁面に、映像が突然表示される。

『次のニュースです。
 産業スパイとして重要指名手配され、現在逃走中の海藤ひろあきに対し、実装管理委員会は、報奨金一千万円
を設けることを発表しました。
 これは、海藤ひろあき逮捕に関する情報を提供した方を対象に送られるというもので、過去にないほど高額の
報奨金となります。
 また実装管理委員会は、専門の窓口を設け、一般の方々からの情報をより積極的に収集するとの意気込みを
見せており——』

 その内容は、思わずぷちの足を止めるほどの内容だった。

「テェ、ひろあきさん、もうすっかり悪い人扱いテチ!
 どうすればいいんテチ? このままじゃあ……」

 ようやく、この世界で最初に思い立った「為すべきこと」を思い出したぷちは、何か手がかりになるような
ものがないか、さらに街中を探ってみることにした。


 ——午前4時。

 しかし、所詮仔実装に過ぎないぷちには、有効そうな情報を単独で得ることは不可能だった。
 賑やかな街をどんなに彷徨っても、犯罪者とされた男の行方の手がかりを掴める筈もなく、また実装石一匹の
行方など、もっと見つかる訳が無い。

 大通りから大きく外れ、閑静な住宅街の辺りまでとぼとぼと歩いてきたぷちは、割と大きな公園に辿り着いた。
 ベンチに座り、夜空を眺める。
 街からの激しいライトに照らされ、夜空はどこか白く濁っているようだった。

「テェェ、私じゃ何をどうすればいいか、全然わかんないテチィ」

 そろそろ、としあきが戻っているかもしれない。
 そう思い立ったぷちは、ベンチから腰を上げる。
 少し離れた茂みからは、親子連れの実装石が不思議そうにこちらを見つめていた。
 よくある光景にほんのり心が和むが、ぷちは、何かちょっぴり違和感を覚えた。


「ねえお嬢さん、一人なの?」


 出口を目指して歩き出そうとした瞬間、背後から声をかけられる。
 振り返ると、いかにもガラの悪そうな若者が三人、いやらしい目つきでこちらを睨んでいた。
 公園の灯に照らし出された彼らの風貌は、まるで怪物のように見えた。

「テ、テチ?」

「こんな真夜中に一人って、待ち合わせじゃないよね?」
「もしかして、遊び相手探してたのぉ? そんな格好でさぁ〜」
「すごい胸だねぇ、それ本物?」

「テ……!」

 性欲をそのまま顔に表したような男達三人は、怯えるぷちとの距離をじわじわと詰めていく。
 いきなり予想もしてなかった展開に見舞われて、ぷちは完全にパニックになっていた。
 男の一人が、ぷちの右肩を、馴れ馴れしく掴んできた。

「テチャァッ?!」

「なんだこいつ、変な声出しやがって」
「いいじゃねぇか。ごめんなお嬢ちゃん、怖くないからねぇ〜」
「車すぐそこだからさ、な、ちょっとだけ……」

「イヤイヤテチ、怖いテチ、やめてテチィ!」

 男の一人が、ぷちの腕を強引に掴む。
 こうなっては、もう非力なぷちに抵抗の余地はない。
 男達の荒い息遣いが耳に届き、とてつもない恐怖心が、全身に駆け巡った。

「助けて、助けてテチィ! イヤーッ!!」

「おい、周り誰もいねぇだろうな?」
「このまま敏樹の車に引っ張っちまえよ」
「そうする……って、お、オイ!」

 不意に、男の一人が奇声を上げる。
 他の三人の視線は、彼が指差す方向に集中した。


 デス?


 そこには、先ほどの実装石親子がいた。
 野良だろうか、40センチ程度の大きさの個体が、仔実装を一匹連れている。
 いずれもこちらをじっと見つめ、小首を傾げている。
 特に何ともない光景の筈だったが、それを見た男達は、異常な程動揺し始めた。

「や、や、やべぇ、逃げろ!」
「じ、冗談じゃねぇ! なんでこんなところに?!」
「おい、そんな女どうでもいいから、行くぞ!!」

「テ、テチ?!」

 いきなりその場に放置されたぷちは、逃げていく男達の後姿を、ただ呆然と見つめるしかなかった。
 先の実装親子が、心配そうにぷちの顔を覗き込む。
 少し遅れて我に返ったぷちは、首のリンガルチョーカーを取り外し、実装親子に話しかけてみた。

「ありがとうございましたテチ。貴方達は、この公園に住んでいるんテチ?」

『デス? 知らないデス』

『このニンゲンサン、ワタチ達の言葉わかるテチュ?』

 親実装は、眉間に皺を寄せて答える。

「じゃあ、ニンゲンサンに飼われてるんテチ?」

『ワタシは飼われてないデス。
 けど、この子達は知らないデス』

 親実装? は、そういうと、脇に立つ仔実装の頭を軽く撫でた。

「テ? その子達は、貴方の子供じゃないんテチ?」

『さっきそこで、初めて会ったデス』
『ワタチはどこから来たテチュ? ママはどこテチュ?』

「テ……?」

 その時ぷちは、ようやく大事なことを思い出した。
 海藤やおあきの言葉が、脳内で再生される。

『この国をはじめ、実装石は全世界で人類の共有財産として活用されています。
 言い換えれば、許可のない特定個人が実装石を所有・飼育する事は重罪で、重罰を課せられるのが一般的な
概念です』


(そ、そうだったテチ!
 この世界は、普通の実装石と一緒に居ちゃ駄目なんテチ!
 あの人達が逃げた理由、やっとわかったテチ!!)

 ぷちは、実装石達に無言で一礼すると、足早にその場から逃げ出した。

 この世界で実装石と関わることは、大きな問題である。
 それは、仔実装であるぷちにもよく理解出来た。


          ※          ※          ※


■1階

 部屋番号は、左上→右下の順で、101、102、103、105(104はない)。

 (入り口)
   _
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 □||□
 □||□
 ■||▲
  | → 二階へ
 ‾‾‾‾
 □は各部屋、▲はトイレ、■は風呂場。
 廊下の奥、トイレの脇には、二階へ昇る階段がある。



 ガクガクブルブル
 がくがくぶるぶる

 103号室へ向かおうとしたミドリとひろあきは、先ほど天井から響いた大きな音と、鈍く伝わってきた断末魔
を耳にして、大慌てで105号室に逃げ戻った。
 
「な、な、なんなんデスゥ!! あ、あの悲鳴は?!」

「これが、アビスゲームなんだよ!
 二階では既に殺し合いが始まってるんだ!」

「デ、デェェ? それはおかしいデス!!
 なんで、いきなり殺し合いからスタートなんデス?
 普通は、まずここがどこかを確かめるところかr……」

「参加している実装石の中には、予め飼い主に殺し合いを命じられている奴もいるんだよ。
 酷いのになると、共食いを平然と行う奴がいたりするんだ」

「な、な、なにぃ?! そういう大事なこと、なんでもっと早く言わないんデス?!」

「言おうとしたじゃないか!
 とにかく、他の実装石が事態に気付く前に——」


 デ、デ、デギャアアァァァァァ!!


 その時、突然、室内で大きな悲鳴が響き渡った。
 先ほどまで、部屋の西側のキッチン付近にうずくまっていた実装石の一匹が、向かい合っていたもう一匹の
実装石を、殴り飛ばしたのだ。
 その目は爛々と輝き、息は乱れている。
 殴られた方の実装石は、プスプスと気の抜けるオナラを吹き出しながら、じりじりと後退し始めた。

「聞いてたデス! 誰か一人しか生き残れないデス?!
 だったら、ワタシが生き残るデスゥ!! 死ねェ!!」

「デ、デギャアァァァァァ!!!」

 殴った実装石は、声を荒げ、鬼の形相を浮かべて襲い掛かる。
 不意打ちを受けたらしきもう一方の実装石は、完全に怯え切っており、反撃など出来そうにない。
 興奮状態の実装石は、殴られた実装石に馬乗りになると、更に拳を振り上げた。

「や、やめろデス! なんでそんなことをするデス?!」

 思わず止めに入ろうとしたミドリは、馬乗りになっている実装石の鋭い眼光に、射すくめられた。

「お前らが言ったデス! 殺し合えって!」 

「デ、デェェ?!」

「ワタシは、絶対生きて帰るデス! 子供達が待ってるんデス!!
 邪魔するなら、お前から殺すデス!!」

 ボカッ、ボカッ

「デ、デヒェエェェェェエェ!!」

「何をしてるんだ、ミドリ君!」

 ひろあきが必死で裾を引くが、ミドリは、何故かその場から動かずにいた。

 実装石の手が、どんどん血にまみれていく。
 殴られている方の実装石は、目や鼻、口から大量の血を流し、もはや表情すら窺えない程になっていた。
 だが次の瞬間、突然、殴っていた方の実装石が引っくり返った。

「デェッ?!」

「いい加減にしろデス!」

 ミドリは、殴っていた方の実装石の後ろ髪を掴んで、力任せに引き倒していた。

「邪魔するなぁ!!」

 痛そうに身を起こす実装石に手を貸しつつ、ミドリは真剣な面持ちで話しかける。

「落ち着きやがれデス! 仲間同士で殺し合ってどうするデス?!」

「仲間同士ぃ?!」

「そうデス! 同じ部屋にいた者同士、協力しあわなきゃ……」

 そこまで言った途端、先程殴りかかった実装石が、再び引っくり返る。
 何者かに、また後ろ髪を引っ張られたようだった。

「デ!!」

 フシュ〜、フシュ〜……

 彼女を引き倒したのは、先程散々殴られ、顔面を血に染めた実装石だった。
 いつの間にか立ち上がっていた彼女が、反撃に転じたのだ。
 引き倒された実装石が起き上がるより先に、血まみれ実装石は、躊躇うことなく顔めがけて襲い掛かる。
 ぶっとい足が、顔面にめり込んだ。

 グシャ!!

 デギャアァァァァァ!!

 血まみれ実装の足先が、倒れている実装石の右目を潰した。
 プチュ、という妙に可愛らしくかつおぞましい音を立て、新たな血飛沫が飛び散る。
 目を押さえて、実装石が大きく身体をのたうち回らせる。
 室内の空気が、一瞬のうちに凍りついた。

「ぎ、ヒギィィィ!! い、痛い痛いイタイデズァ! アガアァァァァ!!
 目、目がぁぁ!! ワタジの、目が、あぁぁぁ!!!」 

 フシュ〜、フシュ〜……

「や、やめろデスゥ!!」

「も、もういい!
 限界だ、ミドリ君!! ここから出るぞ!!」

「で、でも、クソドレ……」

「早くここを出るんだぁ!!」

「デ、デギャアアァァ!!!」

 ひろあきがミドリの服の裾を、更に強く引く。
 それと同時に、血まみれ実装の足が、倒れた実装石のもう一方の目を踏み潰した。
 形勢逆転、もはや倒れた実装石は完全に戦意を失っている。
 だが、血まみれ実装の追撃は容赦なく、今度は両足揃えてジャンプして、更に顔面を踏み潰した。

 グシャッ!!

 ゲボ……!!

 濁った吐息が響き、倒れた実装石の四肢が異常な高速で痙攣し出す。
 と同時に、室内に充満する「鉄の匂い」。
 見ると、倒れた実装石の身体から、血まみれ実装を凌ぐほどの血が吹き出していた。

「な、なんでデス……なんで、こんなことに……」

「ミドリ君、早く行くんだ!
 次は僕達が狙われるぞ!!」

「デ、デェ?!」

 フシュ〜、フシュ〜……

 ひろあきの予告通り、血まみれ実装は、次にミドリの方へ顔と殺気を向けてきた。
 滴る大量の血の中では、もはや正常な思考を失った者の目が、爛々と輝いている。
 さすがのミドリも、今度ばかりは、明確な殺意を否定出来なかった。

「デェェェェェェェェ!!」

 ミドリは、ひろあきを掴み上げて小脇に抱えると、今まで見せたことのないような素早さで、部屋を飛び出した。

「わ、わかっただろミドリ君!!」

「狂ってるデス! あいつら、みんな狂ってるデス!!」

「今回は、完全に僕達が原因だ。あいつらに話を聞かせてしまったからね」

「と、と、とりあえず、これからどうすればいいのデス!?」

「出口だ、出口を探そう!!」

「出口ったって、閉じ込められてるから意味ないんじゃないデス?!」

「いいから、あっちだ!!」

「は、はいデス〜!!」

 ミドリは、ひろあきに命じられるまま、廊下を右折しまっすぐ走り出した。
 途中、誰かとすれ違った気がしたが、気にしているゆとりはなかった。

 二人が部屋を飛び出して間もなく、105号室の中から、凄絶な悲鳴が聴こえて来た。
 

          ※          ※          ※


・G01 STATUS:DEAD
・G02 STATUS:?
・G03 STATUS:DEAD
・GT04 STATUS:OK
・GK05 STATUS:DEAD

 No,105と記されたモニター上に、ステイタス一覧が表示される。
 それを眺めながら、やおあきは小さく唸った。

「お〜、またも犠牲者が出たか。
 今回は、前回にも増してスピーディだなぁ」

「このG02ってのが、あのとしあきという奴の飼い実装だっけ?
 まんまと逃げおおせたな」

「ああ見えて、どうやら色んな経験をして来ているらしいからね。
 それなりに我々を楽しませてくれると思うよ。
 しかし、何で中実装を助けてるのかね?」

「エサにするつもりなんじゃね?」

「さぁ、どうだろ……
 その前の行動を観てる限りだと、そういうタイプには見えないな」


 しばらくモニターを見ていたにじあきは、「ん?」と短く呻いた。

「なぁ、このG02、ステイタスおかしくね?
 なんでこいつだけハテナなんだ?」

「ああ、これは仕方ない。
 こいつは元々、偽石が抜かれていてね」

「へぇ、あのとしあきって奴、虐待派だったんだ」

「かなり強固なコーティングを施してるようでね、どうしても剥がせなかったから、やむなく偽石はそのままに
してある」

「じゃあ、一応中に偽石はあるのか。
 ルール違反じゃないんだな?」

 そう言いながら、にじあきの細い目がギラリと光る。
 それを横目に、やおあきは更に画面を切り替える。

「いいや、こいつの体内に偽石はないよ」

「だったら駄目じゃないか! そんな奴を参加させるわけにはいかん!」

 急に怒り出すにじあきに対し、軽く舌打ちすると、やおあきは更に続ける。

「勘違いするなよ、にじあき。
 こいつはあくまで人質……いや、石質なんだから。
 役目が終わってから、“アレ”に始末させればいいのさ。
 それに、仮にルール違反がギャンブラーにばれても、問題視されるのは俺達じゃない。
 こいつが所属してるチームのブリーダーなんだし」

「そういうことか、なるほどねぇ。
 ちなみに、すり返られた本物のG-02は、どうなったんだ?」

「今頃は、どこぞの工場でおいしくなってるだろうよ」

「さすがだ、やおあき!」

 納得がいった様子で、にじあきはビア樽のような腹の肉をボリボリと掻き毟った。

「それよりこのG02って奴、プレイヤー連中の人気も高まってるようだね」

 そう言うと、にじあきはまた何もない所で、指を動かす。
 空間に投影されたモニターには、プレイヤー毎のベットやギャンブラーの支持率が記載されたデータ一覧が
表示されていた。
 G02……ミドリを示すナンバーには、56778という数字が並んでいる。
これは、全プレイヤー中4位を意味しているようだ。

「参加7チーム、35体のうち、もう8体もマイナスかぁ。
 イベントは、あと何体減ったら開始だっけ?」

 にじあきの質問に、やおあきは顔を向けずに回答する。

「半分に減ったらスタートだから……今回は残り18体に減ったらだな。
 さすがにもうしばらくかかると思うよ」

「イベントって、毎度恒例のアレ?」

「そう、アレ。お約束だもんな」

「好きだなぁみんな。
 まあ、前半の一番の盛り上がりだからしょうがないか」

 そういうと、二人は不気味にクスクスと笑い出した。
 モニターの中には、アパートの玄関にたどり着こうとしている、ミドリとひろあきの姿があった。

「あれ? おいちょっと……」

 モニターを覗き込んだにじあきが、甲高い声を上げて驚いた。

「……?」

 やおあきは、眉間に皺を寄せ、画面に見入った。


          ※          ※          ※


 やおあきとにじあきの覗くモニター内では、新たな展開が起ころうとしていた。

 廊下には誰もおらず、ミドリの足音だけが、鴬張のようにミシミシと響き渡る。
 二人は、右折して北へ向かい、玄関を目指した。
 そこは、一度に複数の人間が靴を脱ぎ履き出来るほど幅の広いところで、脇には木製の古い下駄箱がある。
 スライド式の戸を開くと、中は二段式で靴などは一切入っておらず、カビ臭い匂いだけが立ち込める。
 戸は反対側が固まって開かないため、奥が見通せない。
 ひろあきは、ミドリに持ち上げてもらい、下駄箱の上段に上体を突っ込んだ。

「こんな汚い下駄箱覗いて、何をするつもりデス?」

「ああ、ちょっとね……
 お、奥に何かあるね」

「本当デス?」

「ああ、ビニールみたいのに包まれてて、がさがさ言ってる。
 なんだか引っかかってるみたいで、僕には引き出せないな」

「何かの役に立つかもしれないデス、ワタシが取ってみるデス」

 ひろあきを下に降ろし、ミドリは下駄箱に腕を押し込んでみた。
 だが、成体といえど実装石の短い腕では届く筈もない。
 数分粘ったが、ミドリはこれ以上は無理だと諦める事にした。

「たぶん、この反対側の戸が開けば取れる筈デス」

「そうすると、ここを開ける何かの道具がいるね。
 なんか、隙間に差し込んでこじ開けるようなものがあれば」

「よそを探してみるとするデス。
 それより、なんでいきなりここを調べたんデス?」

 埃をちょっと吸ったのか、軽く咳き込みつつ、ひろあきが話す。

「今までのアビス・ゲームでは、建物の出入り口付近に良い物があるケースが多かったんだ」

「デ? なんでそんなことを知ってるデス?」

「まぁ、それはどうでもいいじゃないか。
 でも、今回もその条件は当てはまるみたいだね」

「それが、この下駄箱の中にある何かデス?」

「恐らくね。
 けれど、さすがに簡単には取れないみたいだ」

「デェェ……それは確かに興味深いけど。
 それより、これからどうやって安全を確保するんデス?」

 そう言いながら、ミドリは、改めて玄関口に目を向ける。
 少し広い玄関は、下がコンクリートで固められており、成体実装が同時に数体立てる程の面積がある。
 所謂、昭和の古い木造共同住宅の玄関そのものだが、その向こうにある古い木製の引き戸には、分厚い木の
板がバツ字型に打ち付けられている。
 これは、たとえ人間であっても取り外すのは困難そうで、過剰なほどガッチリ閉ざされていた。

「さすがに、ここから脱出ってのは、安易すぎだよ」

「デェ……やっぱりデス?」

「ここからは、絶対脱出は出来ないよ。
 必ず、予想外のところに外部への連絡通路がある」

 自信ありげに、ひろあきが断言する。

「それは、お前だけが脱出出来る大きさとか、そういうオチじゃないデス?」

「いや、ミドリ君も絶対に脱出出来るよ。
 理由があるんだ」

「デェ……まぁ、それは落ち着いてからゆっくり聞くデス」

「そうだね」

 一旦会話を終わらせ、二人はざっと周囲を調べるが、玄関にはそれ以上目新しい発見はなかった。
 再び廊下に戻り、ミドリとひろあきは、今度は反対側に向かってみることにした。
 
  ミシ……ミシッ
  ミシッ……ミシッ

 廊下の軋む音が、不気味に響き渡る。
 ひろあきは、ミドリの脇で息を潜めながら、前方に全意識を集中していた。
 だが、廊下の真ん中辺りで、突然ミドリの歩みが止まった。

「どうしたんだい?」

「ここだけ、音がしないデス」

「え?」

 ミドリは、その場で何回か足踏みをしてみせる。
 確かに、そこだけ他と異なり、ミシミシという耳障りな音がしない。
 正確には、音はするが、他所に比べてかなり小さいのだ。
 その「足音低減ゾーン」は、103号室と105号室のドアの間に渡って存在している事がわかった。

「なんかあるのかな、この下に?」

「お前、なんか予想つかないデス?」

「ひとまず、ここの事は覚えておこう」

 二人は、やがて105号室を通り過ぎ、より奥のエリアへと到達した。
 一階の廊下を端々まで歩き、おおまかな概要を把握していた。
 廊下の末端・南東部に階段があり、その手前にトイレ、廊下を挟んだ向かいに脱衣場つきの風呂場がある。
 トイレは水洗式で、底の浅い和式便器が東に向いて接地されている。
 東の壁には、大型の押しボタンが一つ設置されており、これが排水スイッチのようだ。
 ここなら、和式便器の周囲に尻を下ろすことで、仔実装達も同時に用を足せそうに思えた。

 脱衣場の洗面台はとても高く、そのままではよじ登れそうになかったが、手前に土台が置かれている。
 高さはミドリの身長の半分くらいあり、これに乗れば器用な実装石なら水道を利用出来るかも知れない。
 脱衣場と風呂場には仕切がなく、自由に行き来可能。
 風呂場には二つの洗面器と椅子があり、いずれも新品のように綺麗なものだ。
 二つの蛇口が付いた水道も完備されており、奥には少し狭そうな浴槽もある。

「おお、ここなら水が飲み放題デス!」

「ん? でもここは……」

 ミドリは、早速洗面器を水道の下に置き、蛇口を捻ろうとした。
 蛇口は捻るタイプではなく、銭湯によくある上からぐっと押すタイプなので、ミドリでも容易に使いこなせる。
 ミドリは、赤いプラスチックが付いている方の蛇口を押し、水流を洗面器に受け止めようとした。
 白い湯気が、室内に充満する。

「デ? み、水にしては……なんか変デス?」

「ミドリ君、そっちはおy……」

「って、アッチャーィ!!」

「あ〜あ」

 つい叫び声を上げてしまう。
 咄嗟に口元を押さえ、周囲の様子を窺うが、幸い誰かがやって来るということはないようだ。
 洗面器に溜まったのは熱湯で、相当な温度。

「なんデス、なんデスこれは?!
 あっちっちデス!」

「赤い方はお湯が出るんだよ。
 水が欲しいなら、青い蛇口の方にしないと」

「う、うるさい!
 そ、それくらいわかってたデス! でも、ちょっと温度がどれくらいか試してみたかったんデス!!」

「あ、そ」

 ひろあきの呆れ顔をよそに、おっかなびっくり洗面器を覗き込むミドリは、次に青いプラスチックの付いた
蛇口を押してみた。
 今度は湯気は出てこない。

「ふ〜、驚いたデスゥ。
 ニンゲンの住処は意味不明な仕掛けが多いデス、まったくもう」

「あれ? わかってたんじゃなかったっけ?」

「や、やかましいデス!!」

 先の湯に水を加え、ようやく普通に触れる温度になる。
 なかなか気持ち良い温度になったので、ミドリは当初の目的を忘れ、つい手と足、顔を洗い始めてしまった。

「ぶえぇぇ〜、気持ちイイっ♪ デスゥン☆」

「どれどれ。
 ——おほぉ! なんか凄く気持ちいい!」

 ひろあきは、あまりの心地よさについ声を上げてしまった。
 スローモーションで頭を振り、水滴を飛び散らせる。
 ミドリは、ここを利用すれば風呂も水も取り放題だと理解した。

「デ?」

 続けてミドリが目を止めたのは、浴槽だった。
 所謂大昔の型のもので、どちらかというと「湯船」と言った方が正しいかもしれない年代物。
 周辺は青白いタイルで覆われており、30センチくらいの高さの縁で囲われている。
 その上に、分厚い木の板が数枚、隙間なく置かれているのだ。
 木の板の厚みは、おおよそ5センチ。
 ミドリには知識がなかったが、普通に考えて風呂のフタに使うには不必要なほど厚すぎる。

「なんだこれデス? 重くて持ち上がらないデス!
 いったい何が入ってるデス?」

「これは、さすがに僕達の手に余るんじゃないかな?」

「ちょっと試してみるデス」

 バスタブと板の隙間に手を差し入れようとしたが、とても開けられそうにない。
 諦めたミドリは、先のぬるま湯を捨てて新しく水を汲み、それをたっぷり飲み干すと、ようやく安堵の息を
吐いた。

「ふぅ〜、少し落ち着いたデス。
 それにしても、これからワタシらはどうすりゃいいデス?
 クソドレイやぷちともはぐれてしまったし……このまま二度と逢えなかったらどうするデス?」

「嫌な予感がするんだけど」

「デ?」

「もし、彼らまで僕と同じように、実装石にされてこのゲームに参加させられていたとしたら、どうしよう?」

 ひろあきの言葉に、ミドリの顔が露骨に強張った。

「ば、バババ、馬鹿な話をするなデス!
 あいつらに限って、きっと、そんなことは……」

 少しだけ寂しそうな顔をするが、すぐにハッとして、頬を叩く。

「デ、わ、ワタシのバカバカ!
 なんでこんな時にクソドレイの事なんか考えるデス?!
 馬鹿げてるにも程があるデスッ!」

「ミドリ君……」

 数回自己ビンタを繰り返すと、ミドリはひろあきを抱えて、ようやく風呂場を出ようとする。
 部屋の中にあったペットボトルを取って来て、ここで水を汲んでおけば後で楽だろうと考えたのだ。
 だがそんな彼女の歩みは、すぐに止まった。

「デ?」
「え?」

『デ?』

「デ…」
「えと…」

『デ…』

 目の前に、いつの間にか、もう一匹の実装石が居た。
 ミドリとほぼ同じ体格の、成体実装。
 三人は、キョトンとした表情で、しばし見つめ合った。

「お、お前は誰デス?」

『あなたこそ、何者デス?』

「そ、そんなの知ったこっちゃねぇデス!」
「……」

『ワタシも、ここについては何も知らないデス。
 あなたは、ここで暮らしてる飼い実装デス?』
 
 脱衣場と風呂場の境に立つ成体実装は、不思議そうに尋ねてくる。
 どうやら敵意はないらしい。
 よく見ると、首下のリボンが赤色ではなく、黄色いものになっている。
 ミドリは、それを指さしてケラケラと笑った。

「お前、そのリボン変な色デス!
 ゲラゲラ、美的センスを疑うデス〜!!」

 しかし、当の成体実装は、そんなミドリの態度に激昂することもなく、不思議そうに首を傾げている。

『それを言ったら、あなた達の緑色のリボンも、頭巾と見分けがつかなくてイマイチデス?』

「プゲラッチョ……ってエッ?」

『そこに鏡があるデス、見てみるといいデス』

「デッ」

 水道の付いた壁には、半分ほど曇って充分に機能を果たせていない鏡が付けられていた。
 僅かに曇っていない部分で自分を見ると、指摘の通り、自分のリボンが変色していた。

「デ、デェェェ〜?! な、なんデスコレ?!
 誰が勝手に取り替えやがったデズァ!!
 クソドレイ2号! お前のも、色変わってやがるデズァ!!」

「なんだ君、今頃気付いたのかい?
 これは、チーム区別のためのいわばゼッケンだよ」

「石鹸? セッケンならそこにあるデジャァ!!」

『まあまあ、おちつくデス』

 黄色いリボンの実装石は、笑顔でミドリの肩をポンポンと叩いた。

『あなた達も、このアパートに閉じこめられたデス?
 ワタシ達も事態が飲み込めなくて、困っているデス。
 良かったら、お互いに情報交換をしないデス?』

「デ? わ、ワタシはまだ何も知らないデス」
「……」

『じゃあ、一緒にここを調べるデス。
 何が起きているのか、知りたいデス』

「デ、デェェ…」
「…」

 ミドリは、狼狽していた。
 ひろあきが言ったことが本当なら、目の前にいる黄色いリボンの実装石は明らかに敵である。
 しかし、彼女は敵意を全く見せず、むしろ友好的のようだ。
 更に、かなり賢く理性的で、すぐに争い出す連中よりは、よほど頼りになりそうだった。
 しばらく悩んだミドリは、ひろあきと目配せし、一旦部屋に戻ることにした。

「というわけで! いずれまた会うデス!」

『わかったデス。
 私達は、103号室にいるデス、何かあったらいつでも声をかけて欲しいデス』

「わ、わかったデス。
 ワタシはミドリというデス、お前に名前はあるデス?」

『……すごい、名前をもらえているなんて素晴らしい方デス!
 そんな方とお近づきになれるなんて、とても光栄デス』

 そういうと、黄色いリボンの実装石は突然目を輝かせ、羨望の眼差しを向けてきた。

「デ? ま、まぁ〜、わかればいいデス、デッヘン!」

『じゃあミドリさん、後で是非また会いましょうデス』

 黄色い実装石は、これから風呂場を調べるため、その場に残ると言う。
 ミドリは、軽く手を振るとそそくさと自室へと戻った。
 廊下の軋みも、今回はあまり気にならない。
 ミドリの心は、驚きと動揺とちょっぴりの感動で激しくうずいていた。

「デ、デヘェ〜♪
 素晴らしいなんて言ってもらえるとは、思わなかったデスゥ〜☆」

 ルンルン気分で無意識にスキップしているミドリだったが、小脇に抱えた中実装の冷ややかな目線に気付き、
足を止める。

「騙されちゃいけないよ、ミドリ君。
 友好的な態度を装って、隙を見て襲いかかる作戦を取る者も、プレイヤーの中にはいるんだ。
 ここでは、僕と君以外の実装石は、全て敵と思わなくちゃダメだ」


「デ? デ……そんな風には見えなかったデス」

「もしまた会ったら、今度はこちらが友好的な態度を装って、相手の隙を見つけて攻撃するんだ。
 解ったかい? ミドリ君」

 脇に抱えられたまま、ひろあきはフフン♪ と鼻を鳴らす。
 ご機嫌状態にいきなり水を差されたミドリには、その態度が妙にカチンと来た。

「デェ? なんでいちいち、お前に指図されなきゃならんデス?
 ワタシだって、自分できちんと考えて行動出来るんデス!」

「君の判断を信用するだけの根拠がない。
 いいから、君は僕の指示に従いたまえ」

「あんまりふざけてると、お前をさっきの部屋に押し戻すデス!」

「え……ちょ、ちょっ!」

 そう言いつつ、ミドリは105号室——あの惨劇の部屋の前で足を止めた。
 ひろあきが、グビリと唾を飲みこむ音がする。
 105号室の中を少しだけ覗き込んだミドリは、すぐにドアを閉じ、真っ青の顔をぶんぶんと振った。

「ど、どうしたんだい、ミドリ君?」

「ぜ、全員……死んでるみたいデス。
 ピクリとも動かないで、静まり返っているデス……」

「そうか……やっぱりな」

「とてもじゃないけど、洒落でもここには戻りたくないデス。
 昔の、嫌な記憶が蘇っちまうデス」

「昔の記憶? 何があったんだい」

「昔、公園にいたt……そ、そんなことはどうでもいいデス!
 それより、まだ見てないところがあったから、そっちいくデス」

 105号室に戻される話が有耶無耶になり、ひろあきは安堵の息を漏らす。

 脱衣場と浴室を確認した二人は、まだ誰も開けていない、向かいのドアを開ける事にした。

「おぉ!」

 開いた空間には、純白の陶器の如き輝きを放っている……和式便器が鎮座していた。
 利用者はドア側に背を向ける形になる配置で、便器の周囲は思ったより空間が空いており、仔実装なら複数
同時に立てるくらいの余裕がある。
 ドアと向き合う位置に小さな窓があるが、それは木製のフレームと曇りガラスを組み合わせたもので、壁に
完全に嵌りこんでいる。
 僅かな光が入り込むだけで、窓はとても開閉出来そうにない。
 まして窓の高さはおおよそ1メートル半以上はあり、実装石の手が届くようなものではなかった。
 天井には黄色い電球が設置されレトロ感を醸し出しているが、ミドリが中に入った途端自動で点灯したため、
意外にもセンサー式であることが解る。
 自身との対比を別にすると、一見特に何の変哲もないトイレのように思えるが、ひろあきは、なんだか強烈
な違和感を覚えていた。

「なんだろう? ここには……何かが足りない。
 とても大切な、何かが……」

「紙が、ないデス」

「え? あ、本当だ」

 ミドリの言葉で、ひろあきは、この部屋にトイレットペーパーの類が一切置かれていない事に気づいた。
 
「じゃあ、ここで用足したらお尻も拭けないのかぁ」

「キレイ好きな実装石の場合、ここでハンデ食らっちゃうデス」

「その通りだね。面倒だなぁ」

「この向かいが風呂場だから、そこで洗えばいいデス」

「そうだね」

 そう返答したものの、ひろあきは、他にもまだ何か大事なものが欠けている気がしてならなかった。
 結局それが何か思いつかないまま、二人は一階奥にある階段をざっと目視確認しようとした。


 ドタドタ、ドタドタ……!!


「デ?」

「なんだ?! 何か降りてくる!」


 ドタドタドタドタ!


 階段を見上げたミドリとひろあきは、階上から響いてくる足音に、思わず身を強張らせた。




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