タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話01
ファイル:「実装産業の世界編」1短縮版.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:765 レス数:0
初投稿日時:2014/10/05-21:42:29修正日時:2014/10/05-21:45:29
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 Journey Through The Jissouseki Act-12




【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅行させられる羽目になった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体がいる世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という
タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。
 これまで11もの世界を巡ったとしあき達は、「山実装の世界」で“偉大なる大ローゼン”の
Deceiveという一団に、窮地を救われた。
 そして海藤ひろあきは、山実装の世界に残ると宣言したが……

 次の世界は、果たしてどんなところなのだろうか——?


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。


・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。


・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。


・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 実装石を操れる銃「デスゥタンガン」を持っており、としあき達とは別ルートで世界移動
を行っている。
 彼の目的は、初期実装の抹殺というが……



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    じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第12話 ACT-1 【 Crash × Trash and Geeks 】

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 ——ここは、どこだ?

 ——俺は、何処にいるんだ?


 朦朧とする意識の中、としあきは、現状を確認する。
 僅かに降りそそぐ冷たい滴が、容赦なく身体を濡らしていく。

「今……何時だ?」

 ぼやけた目をこすり、ポケットの中の携帯を探ろうとして——はたと、手を止める。

「そうだ——ぷちは、ミドリはどうしたんだ?!」

 雨の冷たさが、急激に意識を回復させていく。
 としあきが居るのは、見覚えの全くない、大きな公園のど真ん中。
 空はもう完全に真っ暗で、所々で煌めく街灯の明かりが、ボンヤリと周囲を照らしている。
 鉄性の冷たいベンチの上に寝かされていたとしあきは、周囲を見回しながら、これまでの出来事を振り返った。

 時刻は、6月11日午後10時34分。
 この世界に来て、既に半日以上が経過していた。


          ※          ※          ※


 時間を、多少遡る。
 2020年6月11日、午前10時30分。

 としあきとぷち、ミドリの三人は、目を見張るような超近代都市のマンションに出現していた。
 としあきの世界から10年以上未来の日付だったが、その文明は明らかに数十年は進んでいるように感じられる。
 建物はどれも背が高く、道路や敷地は、綿密かつ高度な区画整理が成されている。
 行き交う人々の服装や持ち物こそ馴染みのある物に思えたが、手にしている携帯端末の形状が透明アクリル板
のように簡略化されていたり、無人の自動車が路面を走っている。
 遊歩道には半透明の板状の物体が敷き詰められ、それに乗るとオートで移動出来たりと、目を見張る近未来的
な設備が各所に散りばめられていた。
 ショッピングモールに立ち並ぶショーウインドウは全てモニターになっており、一定時間で展示物が入れ替わる
が、どの角度から見ても展示物が映像には思えない。
 としあきも、ぷちもミドリも、常識を遥かに越えた様相にただ呆然とするしかなかった。

「すげぇ世界に来ちゃったなぁ」

“デデェ、この前の宇宙船の街よりもSFっぽいデスー”

「素敵テチィ♪ こんな綺麗で素敵な世界、初めてテチィ☆」

 ふと見上げると、遥か頭上にも同様の自動歩道や道路が設置されているようで、一見何もない空間を多くの人々
・車両が行き来している。
 推定百メートル以上もの高さに設置された看板を見つけたとしあきは、最初は何の意味があるのかと疑問だった
が、すぐに効果を理解した。

 交差点に差し掛かり、空間投影式の信号機に見とれていると、どこからかザワザワと囁き声が聞こえてきた。

「なんだ? 騒がしいな」

「周りの人達が、みんなこっちを見てるテチ」

“またどこかの世界みたいに、実装石連れてると変態扱いされるデス?
 そぉれクソドレイ、お前の変態ぶりを、皆様に披露して差し上げろデスー♪”

「前を開いてホーラ見てごらん♪ でもやれってか」

 異文化の街を歩き、奇異な目で見られることにいつしか慣れてしまったとしあき達は、ケラケラ笑いながら信号
待ちを続ける。
 スクランブル交差点の上空にふと目を向けると、不意に大きな画面が出現した。
 空間投影モニターと思われる画面に、割と可愛い顔つきのアナウンサーが映し出され、何かを読み上げ始めた。 
 

『ここで緊急ニュースをお知らせいたします。
 産業スパイとして重要指名手配され、現在逃走中の 海 藤 ひ ろ あ き について、本日午前8時、実装管理
委員会は新たな発表を行いました。
 実装管理委員会の発表によりますと——』


 画面が切り替わり、とても見覚えのある顔がアップで映し出される。
 いつもの「フフン♪」と鼻を鳴らす時の、あのどこか嫌味な表情は、間違いようがない。

「な……なぁぁ?!
 指名手配だぁ?」

“クソドレイ2号デス?! あいつ、何しでかしやがったんデス?”

「さんぎょーすぱいって何テチ?」

「人様が作った大事な秘密を盗んで、他人に売りつける奴さ」

「まぁっ! なんて酷いテチ!
 けど、ひろあきさんがそんな事するなんて、信じられないテチ」

 信号が青になり、スクランブル交差点を大勢の人々が行き来しあう。
 だがとしあき達はその場から動けず、画面に釘付けになっていた。

“元々アヤシイ奴だとは思ってたデス。
 ワタシの勘がズバリ当たったデス”

「よ、よくわかんねーけど、冤罪じゃねぇの?」

「これは何かの間違いテチ!
 クソドレイサン、ひろあきさんの身のケッペキを証明するテチ!」

「潔癖じゃなくて“潔白”。
 うん——そうだ、な。
 なんだかんだで、あいつには結構助けられたもんな」

 としあきは、早速“実装管理委員会”というものを探してみることにした。
 数分後、妙にハデな派出所を見つけたとしあき達は、早速警官に問い合わせてみることにした。

「すみませーん、ちょっとお尋ねしたいんですけど」

「はいはい、なんでしょう?」

 どこか呑気そうな声で、小太りの警官が顔を覗かせる。
 だがその瞬間、穏やかそうな顔がみるみる強張っていく。

「あのー、実装管理いいん……」

「き、君いっ?! そ、そ、それは何かね?!」

「は?」

 警官は、額に冷や汗を浮かべながら、としあきの肩を指差す。
 そこには、後頭部に抱きついているミドリがいるだけだ。

 デスゥ?

「あ、これは俺の飼い実装で——」

「生きてるね、それは生きてるんだね?!」

 デスデス、デッスン!

 としあきの頭の上に昇り、ミドリは尻を向けてポンと叩いてみせる。
 何故か笑顔で拍手するぷちも、すぐにおかしな気配を察して手を止めた。

「あ、ああ、なんてこった! DEJA、DEJAへ通報だーっ!」

「デジャ? お、おい一体なんのことだよ?!」

「テチ! デジャっていうのは、昔のパソゲーで考古学がテーマの——」

「あれ、PCEのロムロムじゃなかったっけ?」

“ぷちは最近、余計な知識を増やしすぎデス”

 警官は、例の透明アクリルのような携帯端末を取り出すと、慌ててどこかに連絡しだす。
 だんだん気味悪くなってきたとしあきは、これ以上刺激しないよう、派出所を出て行くことにした。
 だが——いつの間にか、派出所が大勢の野次馬に取り囲まれていた!!

「な、なんだあ?!」

「テチ!? た、沢山人が集まってるテチ!」

“デププ♪ こいつらみんなワタシの魅力にメロメロテッチュンに……なったわけじゃなさそうデス?!”

 野次馬達は、としあき達を奇異な目で見つめ、指差しながら何かをしきりに呟いている。

「実装石連れてる、何だあいつは? ——ってみんな言ってるテチ」

「聞こえるのか?」

 大きな耳をピクピク動かしながら、ぷちが頷く。
 やがて、人ごみが掻き分けられ、向こうから黒い制服を着た背の高く逞しい男達が数名やって来た。
 としあき達を取り囲み、サングラス越しに睨みつける。

「な、なんだよ?! 俺が何したっていうんだよ?」

「実装石管理所有承認ナンバーを」

 黒服の男の一人が、ボソリと呟く。

「は?」

「実装石管理所有承認ナンバーを」

“こいつら、何ほざいてるデス?”

「テェェ、な、なんかすごく変な雰囲気テチィ」

「実装石管理所有承認ナンバーを」

 何度も念を押すように、男が迫ってくる。
 意味不明な状況にいい加減いらつき始めたとしあきは、正面に立つ男に向かって、吐き捨てるように応えた。

「んなもん知らないよ! あんたらは何だ?!
 俺達は何も悪いことはしてねーぞ!!」

「未認可、不法所持者だ。拘束」

「了解、拘束」

「拘束」

「拘束」

 男達は復唱し、手の中から小さな銀色の拳銃を出現させた。
 としあき達が驚きの声を上げるよりも早く、男達の構えた銃口が、まばゆい光を放つ。
 と同時に、三人の視界が真っ白なものに覆われた。

「うわあぁっ?! な、なんだぁ?!」

「テ、テチィィッ?!」

 デギャアァ——ッ!!

 三人は、瞬時に意識を失ってしまった。


 それから、どれくらいの時間が経っただろう。
 三人が目覚めたのは、見覚えのない応接室のような場所だった。
 広くはないがとても豪華な造りで、高価そうな調度品が壁沿いにいくつも飾られている。
 としあきとぷちは、ふかふかした座り心地のよいソファーに座らされていたが、ミドリだけは床に直置きされて
いる。
 しかし、絨毯がとても柔らかなためか、ミドリは特に不満を抱いてはいないようだ。
 しばらく周囲を眺めていたとしあきとぷちが、互いに声をかけようとした瞬間、誰かが室内に入ってきた。

「申し訳ありません、このような狭い部屋で」

 高価そうな黒のスーツに身を包んだ細身の男性が一人、とても丁寧な口調で話しかけてくる。
 としあきとぷちは、ついつられて「どうも」とつぶやき会釈を返した。

「どうぞ、おくつろぎください。
 先程は、乱暴な対応で大変失礼いたしました」

「ここは、どこなんです?
 俺達は一体……」

 男は、としあき達に改めて着席を促すと、自身も対面に座る。
 なかなか引き締まったいい顔立ちの青年で、としあきよりも少し歳上のように思える。
 だが、その顔立ちには、どこか見覚えがある気がしてならなかった。

「申し遅れました。
 私は、実装管理委員会次官・海藤やおあきと申します。
 どうぞよろしくお願いします」

 名刺を差し出しながら、男は人なつっこそうな笑顔で会釈する。
 受け取ったとしあきは、改めてその名前に目を剥き、驚愕した。

「海藤って、まさか?」

「はい、海藤ひろあきは私の弟です」

「オニイチャテチ?」

“デェッ! 言われてみたら、なんとなく目元とかそっくりデス”

「どうぞおかけください。
 粗茶など用意させますので」

「え?! あ、ああ、おかまいなく」

 ひろあきの兄と名乗った男・やおあきは、としあき達にソファを勧めると、向かい合うように腰掛ける。
 完璧な身だしなみ、漂う清潔感、そしてとても頼りがいのありそうな風貌が、三人に安堵感を覚えさせる。
 しばらくの間を置いて、としあきはようやく疑問を思い出した。

「あの、俺達なんでここに連れてこられたんですか!?」

「はい、それは貴方が、無許可で実装石を連れているからです」

「テチ? この世界だと、実装石と一緒に歩くのはダメなんテチ?」

 としあきとぷちの疑問に、やおあきは静かに頷く。
 やがて室内にメイドが訪れ、銀色のカートに乗せたティーセットをテーブルに並べ始めた。
 温かそうな紅茶とおいしそうな茶菓子が配られ、ミドリにはご丁寧にストロー付きホットミルクと金平糖が配膳
された。

“おいクソドレイ、この紳士に無礼のないよう、誠実丁寧に対応するデス。
 おバカな事をしたら、お前が寝ている最中に顔面パンコンするデス”

「それは御免被るぜ。
 ——あ、それでやおあきさん。
 ここでは、実装石と一緒にいるのが厳禁なんですか?」

「そうです。
 この国をはじめ、実装石は全世界で人類の共有財産として活用されています。
 言い換えれば、許可のない特定個人が実装石を所有・飼育する事は重罪で、厳罰を課せられるのが、一般的な
概念です」

 笑顔を絶やさず、妙に丁寧な口調で呟くやおあきに、としあきは一瞬寒気を覚える。
 しかしやおあきは、そんな彼に手を向け、静かに首を振った。

「どうやら、貴方がたはご存じないようですね。
 簡単にご説明いたしましょう」

 やおあきは、三人にリラックスして聴くように促すと、静かに語り出した。

 この世界では、実装石の生態能力が非常に高く評価されており、これを活かした様々な産業が活動していると
いう。
 それは牛や豚、鶏や海産物よりも重要なもので、食料に止まらず建築資材、工業素材、果ては科学や宇宙開発
事業にまで用いられており、なくてはならない存在になっている。
 特に、世界各国で普及しているシステム管理用のスーパーコンピューターには、実装石の偽石を基にしたバイオ
チップが組み込まれており、これにより非実装素材使用のCPUの数千倍以上の演算処理能力を発揮出来るそうだ。
 今ではどの国でも、様々な用途の実装石育成工場が存在し、日々多数の実装石を生産している。
 このような背景があるため、実装石は厳重管理される重要資源動物であり、個人の好き勝手には出来ないのだ。

「たとえば、貴方が今持っているそのティーカップも、実装石を用いたものです。
 実装石の体表分泌物を精製し、高い圧力と熱を加えた上で粘土と混ぜ合わせ焼き上げると、従来の陶器の数十倍
もの耐久性と耐熱性を発揮するのです」

「へえぇぇ! 知らなかった!!」

「そのくらいのカップなら、10メートルの高さから、コンクリートの上に落としても割れません。
 微妙な弾力性が発揮されて、衝撃を吸収してしまうのです」

「すげ!」

「テェェ、そんなの今まで見てきた世界にはなかったテチ!」

“さすがのワタシも驚きデッスン”

「そうでしょう。
 ですから、本来であれば尋問担当官の下へお送りする筈だった貴方がたを、急遽こちらにご案内させた次第です」

 一瞬、やおあきの目に鋭い光が宿ったような気がして、としあきは身をすくめる。

「え? ちょっと待って。
 もしかしてやおあきさんは、俺達の事情を——」

「失礼ながら、先ほど貴方がたの身体検査を行わせて頂きました。
 その結果、そちらのお嬢さんの体内に偽石の存在を確認しまして」

「テェッ?!」

 咄嗟に胸元を隠すぷちを見て、やおあきがクスクスと微笑む。
 優しげな笑顔こそ崩していないが、どことなく不穏な空気が漂い始めた気がして、としあきとミドリはグッと
息を呑んだ。

「貴方がたは、私共の知らない、何か特殊なご事情をお持ちとお見受けしましたが」

 まっすぐに目を覗き込み、やおあきが尋ねた。
 としあきは、無言で頷くしかない。

「やはりそうでしたか。
 人間の身体を持つ実装石など、普通は存在しませんからね、相当特殊な存在だろうと思ったんですよ」

 不思議そうな顔つきの三人に向かって、やおあきは軽く頷き、更に話を進める。
 少しずつ高まってくる異様な緊張感に気圧され、ミドリはコンペイトウに手を伸ばす事すら忘れていた。

「貴方がたが、この世界にない特殊な存在だという事はよく解りました。
 それを見込んで、実は、折り入ってお願いがあるのです」

「お願いテチ?」

 紅茶をひとすすりして、ぷちが尋ねる。
 その横では、気を取り直したミドリが再び金平糖に手を伸ばしていた。

「愚弟ひろあきを見つけ出す為、ご助力を頂きたいのです。
 実兄として苦痛ではありますが、彼は、この世界では重犯罪者です。
 なんとしても、罪を償わせなければなりません」

 そこまで話した途端、やおあきの雰囲気が微妙に変化したような気配にとらわれる。
 心なしか、としあきは軽い目眩のようなものを覚えた。

「そ、そうだ、ひろあきの奴は一体何をしたんですか?
 産業スパイとか言われてたようですが」

 “ひろあきの奴”という部分で、一瞬、やおあきの眉がピクリと動いた。

「としあきさんは——“デスゥタンガン”というものを、ご覧になった事がありますか?」

「え? ああ、実装石を操る銃ですよね。
 俺も使わせてもらった事があるから、知ってますよ」

 再び、やおあきの眉がピクリと反応する。
 目眩が、再び訪れる。

「そうですか、使用したことが——
 実はあの銃は、この国のある大企業が研究開発した極秘ツールなんですよ。
 当然、外部流出厳禁なのですが、ひろあきはそれを持ち出して逃亡したのです」

「あ、そういう事だった……ん、ですか……」

「テェ……? なんか、ネムネムテッチュン…」

 目眩が更に激しさを増し、猛烈な睡魔が突如襲いかかる。
 ふと見ると、ぷちも半分瞼を閉じながら、頭をフラフラさせている。

 デェェ…

 ミドリも、だらしなくヨダレを垂らしながらボウッと宙空を見つめている。

「なん……変……な」

「どうされました?
 皆様、お疲れでしょうか?」

「テ……?」

 クスクス、と含み笑いが、遙か遠くから響いてくるような気がする。
 抗し難いほどの眠気に負け、としあきは遂に瞼を閉じてしまう。
 飛び飛びになる意識の中、やおあきの言葉が途切れ途切れで聞こえてくる。

「デスゥタンガン——在処を……」

「——そうですか」

「では——も一緒に」

「運と縁があったら、また——」

 いつしかソファの背もたれに寄りかかっていたとしあきは、自分の意志とは関係なく唇が動いている事に
かろうじて気付く。
 だが、何故そうなっているのか理解出来ない。
 朦朧とする意識の中、懸命にデスゥタンガンの事を思い出している自分に気付くが、もう遅い。
 突如、黒い濁流に呑み込まれるような感覚を覚え、としあきは深い眠りへと落ちていった。

 最後に耳に届いたのは、とても嫌らしい含み笑いだった。


          ※          ※          ※


 だんだん降りが強くなり始めた雨の中、としあきは二人の名前を呼びながら公園を彷徨う。
 しかし、どこからも返事はない。
 大きな木の下に退避したとしあきは、携帯の力でなんとかならないものかと、ポケットから取り出した。

「ん?」

 珍しく、メールの着信を伝えるシグナルが点滅している。
 携帯を開くと、液晶画面には、見覚えのないメールアドレスが送信者名として記されていた。

 ——宛名は、「Domestic Extra Judicial Authority」となっている。

「なんだこれ? こんな世界でスパムか?」

 眉をしかめながらも、としあきはメールを開くことにした。



“弐羽としあき殿

 海藤やおあきです、先程は、大変失礼をいたしました。
 直接お伝え出来ませんでしたが、実は貴方に、どうしてもお願いしたい事があります。

 愚弟ひろあきが持ち去った「デスゥタンガン」を、是非取り返して頂きたいのです。
 同時に、ひろあきの居場所もお伝えください。

 これは、貴方でなければ頼めない事なので、よろしくお願いします。
 大変恐縮ですが、依頼放棄予防のため、貴方の大事な飼い実装はこちらで預からせて頂きます。

 それから、貴方が実装石を無断で連れていた罪につきまして、決して見逃された訳ではない事も、同時にご理解
ください。

 万が一こちらに不利益をもたらすような行動を貴方が取られた場合、大変不本意ではありますが、当DEJAの
担当官が即座に拘束連行させて頂く事になります。

 当座の活動資金は、既にお渡ししましたので、ご自由にお使い下さい。

 以上の事、何卒ご理解ご協力をお願い致します。

 「実装管理委員会」
 Domestic Extra Judicial Authority
 次官 海藤やおあき ” 


 携帯を持つ手が、ブルブルと震え出す。

「なんだこれ?! これじゃ完璧に脅迫じゃねぇか?!」

 さっき突然眠気が襲ったのも、一服盛られたせいだと理解し、としあきは怒りに身震いする。
 だが、改めてメールの内容を確認し、今度は首を捻った。

「『貴方の大事な飼い実装はこちらで預からせて頂きます』……って、ミドリのことか?
 まさか、ぷちも捕まってるなんてことは——」

 別に、ミドリは大事という程のもんじゃないんだけどなぁ、と思いつつ、としあきは更にメールを読み込む。
 
「当座の活動資金……? もしかして、これのこと?」

 ポケットを探り、財布を取りして中を確認すると、見覚えの全くない黒のカードが入っていた。
 そこには、白いラメ文字で「DEJA」と記され、何桁かのナンバーが浮き彫りになっている。
 若干厚めな感じがしたが、これまでクレジットカードを利用したことのないとしあきは、特に問題視しなかった。

「これがあれば、ここでは金の心配はないってか?
 どこかで試してみるか」

 雨が若干弱まったのを確認すると、としあきは木の下から出て、出口のありそうな所を目指して歩き出そうと
した。
 と、その時、どこかから泣き声が響いてきた。

 テェェェン、テェェェン!

「ん? あれ……ぷち?」

 良く見ると、遙か彼方のベンチで、誰かがうずくまるように座っている。
 慌てて駆け寄ってみると、それは全身をびしゃびしゃに濡らして泣くぷちだった。

「テェェン! クソドレイサン、何処に行ってたテチィ?!」

「悪い、俺も眠らされてたんだ。
 お前、ここでずっと泣いてたのか?」

「グスグス、今おっきしたテチィ……」

「じゃあ、さっきまであの雨の中で寝てたのかよ」

 ぷちの髪はすっかりボリュームを失い、身体に張り付いている。
 メイド服も完全にずぶ濡れで、胸先を包む白いフリルが大きな乳房に密着している。
 としあきは一瞬生唾を飲み込んだが、ぷちの小さなくしゃみで我に返った。

「と、とりあえず、着替えしなきゃ風邪引くぞ?
 公園を出よう」

「ぐすん、そうするテチィ」

 ぷちの肩を抱きながら、としあきは公園の出口を目指す。
 不思議と、ぷちが抵抗する様子がない。
 時たま濡れた胸元をチラ見しながら、これからどうするべきかを考える。
 としあきは、これまでに判明した事情を、すべてぷちに話して聞かせた。
 ミドリが囚われの身という事に始めは戸惑ったものの、「少なくともその間は安全が保証されるだろう」と
いうとしあきの言葉に、少しだけ安堵する。

「オネーチャを助けて欲しいテチ、クソドレイサン」

「ああ、わかってる。
 だがそのためには、ひろあきを売らなきゃならないんだよなぁ」

「私達は、どうすればいいテチ?」

「今はとりあえず、休める場所を探そう。
 えーと、どっかいい所ないか……な」

 ようやく出口が見え始めた頃、としあきの目線は、道路の向こう側に伸びる細い路地にロックされた。
 路地から覗く派手な看板と、それを照らす控えめなライト、半端に大きな字で書かれた価格表示。
 そして、妙に角張った書体で記された「HOTEL」の文字。

「クソドレイサン、どうしたんテチ?」

「え、あ、いやその」

「早くお風呂入りたいテチ!
 あのお店に入るテチ?」

 ぷちは、路地から見える看板を指差して尋ねる。
 再び、グビッと喉が鳴った。

「い、いいい、いいのか? ぷち、あそこで」

「うん、いいテチ」

「あそこが、どーいうところか解ってるのか?」

「知ってるテチ、ラブホテルテチ?」

 ぷちが、少し身を寄せながら囁く。
 としあきの手が、ぶるぶると震え出す。

「お、おお、俺はいいけど、お前も、いいのか?」

「いいテチ。だって……」

 ぷちが、頬を赤らめながら呟いた。
 恥ずかしそうに俯いた後、上目遣いでとしあきを見つめてくる。

「う、うん」

「だって、クソドレイサンは、私の……」

 心臓が、破裂寸前といわんがばかりに激しく脈打つ。
 としあきは、その場に硬直しながら次の言葉を待った。

「私の家族テチ! 信用してるから大丈夫テチ!!」

 ニカッ! と満面の笑みを浮かべ、ぷちは無邪気に呟いた。

「あ? あ、あぁ……あぁぁ、そ、そうね、うん」

「クシュン! は、早く行くテチ!」

「あ、ああ、そうだね。ショボン……」

「ん? クソドレイサンどうしたんテチ?」


          ※          ※          ※


 ホテルに入り、ぷちにバスルームを使わせたとしあきは、複雑な思いを抱きながらベッドに横たわっていた。
 携帯のメールを何度も読み返しながら、今後の事を考えようとするが、どうしてもぷちの肢体が気になって
しまう。
 気を抜くと、ミドリの身の安全すら、頭から飛ばしてしまいそうだった。

『ああクソ……頭の中がわやくちゃだ!
 しょうがない、ぷちが戻る前に手早く——ん?』

 枕元のティッシュボックスに手を伸ばそうとしたその時、携帯の画面が、突然真っ暗になった。
 
「あれ? おかしいな」

 ふと、微かな光の線が、部屋を横切ったように思えた。
 目で追うと、部屋の入り口に何かが佇んでいる。
 それは、とても小さな実装石だった。
 おかしな模様の浮かんだ頭巾を被り、血走った眼でコチラを見つめている。

「——初期実装の、子供?!」

 それは、としあきが捜し求めている旅の目的そのもの“初期実装の子供”だった。
 これを捕まえ、初期実装に渡せば、実装世界を巡る旅は終わり、元の世界に戻れる。
 しかしとしあきは、なぜか初期実装の子供に飛びかかろうという気にはならなかった。
 伸ばした手が、宙で止まる。

 しばらくにらめっこを続けていると、初期実装の子供は踵を返し、としあきに背を向ける。
 と同時に、ドアに溶け込むように消えてしまった。
 それは、まるで誘っているようにも見えた。

「なんだ? どういう事だ?」

 ドアを開けて廊下に顔を出すと、初期実装の子供が数メートル向こうでこちらを見つめている。
 歩き出そうとすると、スタタとさらに先へ進む。
 明らかに、どこかへ誘い出そうとしている態度だ。

「またこのパターンかよ。
 こいつに付いていくと、ろくな事にならねぇんだよな。
 けど……」

 一旦部屋に戻ったとしあきは、ドア越しにぷちに外出の旨を伝えると、返事も待たずに初期実装の子供の後を
追いかけた。


          ※          ※          ※


 初期実装の子供は、ホテルを飛び出し、どんどん遠くへ進んでいく。
 小さいのになかなか追いつけないのは、短距離のテレポートを繰り返してるためだ。
 携帯の画面は相変わらずブラックアウトで、何も表示される様子がない。
 やがてとしあきの足は、ホテルのある裏道を通り抜け、商店街の裏通りのような所に来た。
 いくつかの怪しそうな店からは、大勢の人の声が響いてくる。
 そのうちの一つ、いかにもボッタクリっぽい雰囲気バリバリのバーの階段ホールに、初期実装の子供は飛び
込んでいった。

「あ、おい、待てよ!」

 地下に降りる階段を覗くと、もう初期実装の子供の姿はなかった。
 階段の一番下には、「槐−ENJU−」と書かれた、小さな看板がある。
 としあきは、その建物や周辺の様子が、昭和時代のような古臭さを漂わせている事に気付いた。
 日中に見た近未来的な光景とは、まさに正反対だ。

「この世界にも、こういうところがあったんだな」

 何となく階段を下りていくと、もう少しで最下段に辿り着くというところで、突然ドアが開いた。
 中から出て来たのは、いかにもこういう所にたむろしていそうな中年男性が一人。
 相当酔っているようで、安酒の臭いがたちまち周囲に充満する。
 男達は、驚いた目で見つめるとしあきをジロリと睨み、じわじわと接近する。

「おい兄ちゃん」

「は、はい?」

「急げよ。もう時間ねぇぞ?」

「え?」

「おら、遠慮しねぇで入れよ!」

「わっ?!」

 中年男性に腕を引かれ、としあきは薄暗い店内に無理矢理引き込まれた。
 むせかえるような煙草とアルコールの臭気、そしてざわついた声、声。
 その中では、予想外に大勢の人が身を寄せ合い、小さなカウンターに注目している。
 としあきが入り込んでも、誰も目を向けない。
 明らかに店の許容量を超えているが、客は誰もその場を動こうとしない。
 良く見ると、彼等は皆、店の各部に置かれた小さなモニターに見入っているようだ。

「あと10分しかないぞ? どいつに賭けるんだ?」

「え?」

「早くしろって」

「は、はぁ」

 中年男性は、手近な店員に何かを言付け、一枚の紙を持ってきた。
 としあきの前にそれを翳し、なにやら説明を続けるが、酔っているためか要領を得ない。
 要するにこれは何かのギャンブルで、オッズ表を参照しながら投票券に記入し、掛け金を支払えば参加出来る
システムのようだ。
 としあきは、オッズ表と記された小型タブレットを借り、その中に表示される“プレイヤー”の情報を参照した。

 画面には、薄暗い建物の中でうずくまっている、沢山の実装石が映っている。

「え? 実装石? え?」

 画面の横には、1から35までナンバーが振られた実装石の名前一覧と、チェックボックスが並んでいる。
 名前といっても、ミドリやエメラルドなどというものではなく、G01とかBT03、WK05といったコードナンバーの
ようなものだ。
 良く見ると、個体は成体、中実装、仔実装、親指と4段階に分かれているようで、小さいほどオッズが高めに
なっているようだ。
 
『なるほど、面白いなこれ。実装石で何かレースでもするのかな?』

 投票券を見ると、どうやら競馬などと同じく、連勝単式(1位と2位を当てる)や連勝複式(複数の個体を指定
し順不同で当てる)といった選択が可能のようだ。
 先の中年男性に促され、としあきは、適当な個体を選び、連勝単式で申し込んでみることにした。

「掛け金は?」

 中年男性を介して投票券を受け取ったバーテン風の男が、ぶっきらぼうに尋ねてくる。
 としあきは、ポケットの中にある例のカードを確かめた。

「カードしかないんだけど、大丈夫?」

 バーテン風の男は、軽く舌打ちをすると、カードを受け取った。

「んで、いくら賭け——」

 そこまで言ったところで、男は突然眉間に皺を寄せ、顔色を変える。
 としあきの腕を強く引っ張ると、問答無用でカウンターの奥へ連れ込んだ。

「い、痛てぇ! 何すんだよ!?」

「おい! お前、何モンだ?!」

「はぁ? いきなりなんだよ! カード返せ」

「手入れか? 手入れのつもりか?!」

「手入れ? 何のことだよ」

「大変だ、手入れだ、DEJAだ——っ!!」

 バーテン風の男は、としあきを突き飛ばすと、大声で叫び始めた。
 と同時に、店内に異様な緊張感が漲り始める。
 先程まで大騒ぎしていた連中は、一斉に声を止め、カウンターを睨みつける。
 次の瞬間、まるで何かが爆発でもしたかのような勢いで、怒声が響き渡った。

「逃げろー!! DEJAにバレた!」
「捕まったら殺されるぞー!」
「誰だよ、チクりやがった野郎はぁ?!」

 渦巻くような悲鳴と怒声の中、訳がわからず困惑するとしあきは、突然何物かに顔面を殴りつけられた。

「?!」

「こいつだ、こいつが!」
「殺せ! 殺して捨ててこい!」
「DEJAの手先はぶっ殺せぇ!!」

「な、な、なんだぁ?!」

 鼻を押さえながら、としあきは必死で逃げ出す。
 だが、何者かに肩を捕まれ、強引に引き戻されてしまう。
 ぼたぼたと流れ落ちる鼻血が、上着を容赦なく汚していた。
 不意に、死の恐怖が脳裏をよぎる。

「ま、待ってくれ! 俺は関係ない!!」

「じゃあこのカードは何だ!?」

「?! そ、それは……」

 としあきは、男がかざすカードに浮かぶ“DEJA”というラメ文字に見入った。

(そうか! ここは非合法の賭場なんだ! だから!)

 だが、気づくのが余りにも遅かった。
 店から逃げ出す大勢の客達の足音にかき消され、よく聞き取れなかったが、男の一人が「殺すか?」と呟いた
気がした。
 咄嗟に逃げ出そうとするが、再び肩を捕まれ、としあきは床に叩き伏せられてしまった。

「待て! 俺はDEJAとかいうのとは関係ねぇ! 誤解だ!!」

 必死で弁明するが、店の喧騒のため男達の耳には届いていない。
 押さえつける男の後ろで、さらに別な男が何か鈍器のようなものを持ち出して来たのが見え、としあきの背筋
に冷たいものが迸った。

「この野郎、店を滅茶苦茶にしやがって!」

「ぶっ殺してやる!」

「待てってば! 俺は知らねぇ、関係ないんだってば!!」

「じゃあなんだ、このカードはよ?!」

「だからそれは——」

 そこまで言った途端、としあきの頭に電球が浮かび、パリンと割れた。

「そのカード、本当は俺のじゃないんだよ!!」

「この野郎、この期に及んで……」

「マジだって! その証拠に、俺の後に誰も突入してこないだろ?!」

 そう言いながら、としあきは店の入り口辺りを指し示す。
 あらかたの客が飛び出ていった後、誰も入ってくる様子はない。
 男達は、僅かに動揺の色を見せながら、店内をきょろきょろと見回し始めた。

「本当だ、誰も来ねぇ」

「イテテ……」

「じゃあなんで、てめぇはこんなカードを持ってたんだよ!!」

 肩をさすりながら立ち上がると、としあきは、ここまでの事情を素直に男達に話すことにした。
 下手に隠し立てうると、命が危ないと踏んだからだが、無論そのまま話しても信じて貰える筈もない。
 そのため、としあきはいささか危険な情報を提示することで、この場を切り抜けることにしたのだ。
 勿論、それは賭けでもあったが。

 としあきは、自分が遠いところからやって来た事、DEJAの海藤やおあきと会った事、ひろあきの事、そして
デスゥタンガンの名前を伏せつつ、それを探す指示を受けている事を男達に伝えた。
 話している最中、スキンヘッドの男が、ひろあきの名前を聞いて眉をぴくりと動かしたが、としあきはそれを
見逃さなかった。

「なぁあんた、もしかしてひろあきを知ってるのか?」

「え? あ、い、いや」

「知ってるなら教えてくれ、どうしてもアイツに伝えなきゃならないことがあるんだ」

「……」

「頼むよ、アイツに会っても、DEJAの連中に引き渡したりはしねぇからさ!」

「……ちょっと、待ってろ」

 としあきの呼びかけで、男達の反応が明らかに変わった。
 彼らはひそひそと声を潜めながら、何か相談をし始める。
 ちらちらととしあきの方を見ながら、小声で何やら意見を出し合っていたが、数分後、スキンヘッドの男が
前に出た。

「お前、もしかして知ってるのか? デスゥタンガンのことを」

「デスゥタンガン?
 知ってるも何も、アイツから使わせてもらった事もあるよ」

「何だと!! おい、それは本当か?!」

 スキンヘッドの男が、急に声を明るくして、としあきの両肩をガッシと掴んできた。

「イテテ! な、何だよ突然?!」

「本当だな、デスゥタンガンに触ったことがあるんだな?」

「ああ、そうだよ」

 としあきは、証拠に操作方法と用途を、男達に説明してみせた。
 場の空気が、先ほどまでの殺伐としたものから徐々に変化していくのを感じる。
 男達は、としあきの説明を聞き終えると、「やった!」「とんだ掘り出し物だ!」などと喜びの声を上げ始めた。

「そうか、いやさっきは悪かった。
 お前、名前はなんていうんだ?」

「俺は、弐羽としあきだよ」

「そうか、としあきか。
 俺は海坊主ってんだ、よろしく頼むぜ。
 実はな、海藤ひろあきの事について、お前に是非協力して欲しいことがあるんだ」

 海坊主と名乗ったスキンヘッドの男は、申し訳なさそうに頭を掻き、近くのカウンターから高そうな酒瓶を
掴み取った。

「まぁ、仲直りの印に一杯やってくれ。
 これは奢りだ」

 そう言いながら、スコッチウィスキーをタンブラーにドバドバ注いで突き出す。
 きついアルコール臭とピート香が、としあきの鼻腔に飛び込んでくる。
 他の男達は、店の入り口や裏口を入念に閉じ、店の明かりを一部残して消し始めた。

「ここからの話は、絶対に外に漏らさないでくれるか?」

「え? あ、ああ。いいけど」

 海坊主は強く念を押すと、ウイスキーをそのままぐいっと飲み干し、カーッ! と熱い息を吐き出す。

「実はな、俺達のボスがな、デスゥタンガンの使い方を知ってる奴を捜してるんだ」

「そうなの?」

「ああ、だが知っての通り、ひろあきは行方不明だ。
 ——だが、どうやらひろあきは、見つからなくても良くなりそうだ」

「へ?」

「まぁ、飲めよ」

「あ、ああ」

 海坊主に薦められ、としあきは、ウィスキーをストレートで一気に飲み干した。
 焼け付くような液体が口腔と喉を加熱し、あまりにも高貴過ぎる香りを叩きつけながら、胃の中に流れていく。
 溶けた鉄を飲み込んだかのような気分を味わい、としあきは、目を白黒させた。

「で、な、なんでひろあきが、見つからなくてもいいのさ?」

 カーッ、と熱い息を吐いて、としあきは海坊主に尋ねる。
 空いたグラスに、何故か嬉しそうにウィスキーを注ぎながら、海坊主は呟く。

「お前、デスゥタンガンを起動させられるんだろ?」

「起動? まぁ、そりゃ」

「明日、俺達のボスに会ってくれねぇか?
 そうしたら、多分すげぇ報酬がもらえるぜ、お前」

「ボスに? 明日? ……はぁ」

「な、な、頼むよ。
 そうしたら、店の客追い出しちまった事も目を瞑るぜ。
 このままじゃ、掛け金取り損なってこっちも大損害だからな」

 海坊主の声に、少しずつドスが聞き始める。
 予想外の展開になったが、少なくとも命を取り留めるのに成功したとしあきは、並々と注がれたウィスキーに
戸惑いつつ、海坊主の申し出を、あえて受けてみることにした。

(なんだかよくわからないけど、このままやおあきの野郎の言いなりになってるのも癪に障るしな。
 そのボスって人に話を聞いてみるのも、選択肢としては悪くないか。
 それに、俺も色々聞きたいことがあるからな)

「わかった、じゃあ、明日ボスって人に会うよ」

「そうか、ありがとうな兄弟。まぁ飲んでくれ」

「ち、ちょっと待って。連れがホテルに……」

「まぁまぁ、いいからいいから。
 こう見えても上等な酒が揃ってるんだぜ、この店は」

「ひ、ひいぃぃぃ!!」

 その晩、としあきは、とうとうホテルに戻ることが出来なかった。



          ※          ※          ※


 6月11日 午後11時55分——


 ミドリは、暗闇の中で目を覚ました。
 朦朧とする意識の中、必死で現状を確認する。
 体感する空気が、雰囲気が、いつもとまるで違う。
 かび臭く埃っぽい空間、どこが壁でどこが天井か、まるで見当が付かない。
 薄暗く、うっすらと差し込む光だけが頼りの部屋の中、「今」を明確に示す情報は視界内にはない。
 これは、どの世界に移動した時にも感じたことのない、なんとも言い難い気味悪い感覚だ。

「デ……? ここは、いったい何処デス?」

 そこまで呟いた時、ミドリは、室内に他者の呼吸音が響いていることに気付いた。
 暗闇の中に浮かぶ赤と緑の輝きは、全部で四匹分。
 それらは、ジッとこちらを見つめているようだ。

「デデッ?! お、お前らは何デス?!」

 デスデス、デスデス……

  デスデス、デスデス……

 デスデス、デスデス……

  デスデス、デスデス……

「わ、ワタシに何をするつもりなんデス?!
 おいクソドレイ! クソドレイーッ!! どこにいやがるデスーっ?!」

 暗闇の中、ミドリの叫びが響き渡る。
 そして、実装石達の囁き声も……
 だんだん不気味に思えてきたミドリの元に、小柄な実装石が一匹近づいて来た。

「君——もしかして、ミドリ君?」

 中実装程度と思われる実装石が、不意に尋ねてきた。

「デ? 何デス? なれなれしい奴デス」

「クソドレイって、弐羽君の事だよね?」

「デェ?! お前なんで、あのボンクラ役立たずの若年性インポテンツ野郎の名前を知ってるデス?!」

「相変わらず、酷い言われようだな、弐羽君は」

 薄暗がりの中、ぼんやりと浮かぶシルエットは、やれやれといった感じで両手を挙げる。

「僕だよ、ミドリ君。ひろあきだ」

 小柄な実装石……中実装は、くぃっと顔を上げ、ハッキリと告げる。

「はぁ?! 何言ってるデスこのガキ?
 クソドレイ2号は、ニンゲンのことデス。
 ふざけてると食っちまうデス?!」

「ははは、君がそんな事をしない実装石だってことは知ってるよ」

「デェ?」

「信じられないだろうが、本当だ。
 僕は海藤ひろあきだよ、ミドリ君」

「デェ? だってお前、どう見ても実装石デス?」

「ああ、気が付いたら、何故かこんな姿にされてしまってね。
 どうしようか悩んでたんだが、ミドリ君がいるなら、少し気が楽になったよ」

「何が何だか、全然わかんねぇデス〜」

 ひろあきを自称する中実装は、他の実装石達から離れるように促すと、ミドリに改めて語りかけてきた。

「とりあえず、何故僕がこんな姿なのかは置いておくとして。
 実は、君に頼みがある。
 僕と一緒に、この建物の中で生き延びて欲しいんだ」

「生き延びる? どういう意味デス?」

「もうまもなく、ここで実装同士の殺し合いが始まる。
 弐羽君達と会う為には、僕も君も、最後まで生き残らなければならない、ということさ」

 フフン♪ と、中実装は鼻を鳴らす。
 その仕草に、ミドリはようやく納得した。

「……何が起きてるのか全然解ってないデスが、とりあえず、お前が本当にクソドレイ2号だってことは今解ったデス。
 それで、クソドレイ1号とぷちはどうなったデス?」

「それはわからない。
 僕のように、実装石にされてこの中に紛れているかも知れないが、確認のしようがない」

「デェッ?! だってお前、さっき殺し合いって……」

「そう、だからこそ、僕らが協力しないと大変なことになるんだ。
 わかってくれたかい? ミドリ君」

 ひろあきを名乗る……否、もはや彼自身であるとしか思えない中実装の言葉に、ミドリは力無く頷くしかなかった。
 
「おい2号、お前は、今がどういう状況なのか解ってるんデス?」

 ひそひそ声で話しかけると、ひろあき実装は、ハッキリと頷きを返す。

「もうすぐ、明かりが点く。
 それと同時に、この建物内に閉じこめられた実装石達のサバイバルゲームが始まるんだ。
 僕らは、その参加者(プレイヤー)ってわけさ」

「鯖威張る? 意味がわかんねーデス」

 首を傾げるミドリにため息を吐くと、ひろあき実装は、まだ動かぬ他の実装石達のいる方向を見据えた。

「とにかく、現状は僕達以外全て敵だ。
 幸い、まだ他の連中は状況を理解していない。
 手を打つなら、今しかない。
 ——ミドリ君、今のうちに、この部屋の中にいる実装石を皆殺しにするんだ」

「デェッ?! な、なんて事を言い出すデス?!
 そんな事出来る訳がないデス!」

「だが、殺らなければ死ぬのは僕らだ。
 いいのかい? こんな所で死んでも?
 もう、牛丼も金平糖も食べられなくなってしまうよ?」

「そ、それは困るデスゥ」

「じゃあ殺るんだ」

「……お前、本当に、クソドレイ2号デス?
 なんか、いつもと雰囲気が違うデス」

「そりゃあ、今は実装石の姿だからね」

 ミドリの足をポフと叩くと、ひろあき実装はミドリの脇に回り、実装服の裾を軽く引っ張った。

「僕は、仔実装以下の個体を殺る。
 だから君は——」

 ひろあき実装がそう言いかけた瞬間、突然、明かりが灯った。

「デ! ま、眩しいデス!!」

「まずいな、思ったより早かったか。
 作戦変更だ、ミドリ君」

「デェ?!」

 ひろあき実装は、ミドリの手を取った。



          ※          ※          ※


 さぁて、お待たせいたしました皆様!
 今回で52回を数える「アビス・ゲーム」、本日0時にスタートしました!
 今回エントリーした“プレイヤー”は、なんと過去最大の25匹!
 さぁ、果たしてどのプレイヤーが生き残るでしょうか?

 オッズは、会員制WEBサイトの方にまとめられておりますので、“ギャンブラー”として
ご参加される方は、ログインまたは会員登録をお済ましの上、本日午前1時の締め切りまでに
お申し込みください!
 ほらほら、ぼやぼやしてると、どんどんプレイヤーが減っちゃいますよ〜?

 くれぐれも、DEJAに知られないように、こっそりお楽しみくださーい♪





→NEXT


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このスクは、

★実装石虐待保管庫
sc1862「じゃに☆じそ!」第一話(公園実装の世界編)
sc1863
sc1865
sc1891「じゃに☆じそ!」第二話(虐待正義の世界編)
sc1892
sc1893
sc1897「じゃに☆じそ!」第三話(人化実装の世界編)
sc1899
sc1900
sc1948「じゃに☆じそ!」第四話(実装愛護の世界編)
sc1949
sc1951
sc1956「じゃに☆じそ!」第五話(実装石のいなくなった世界編)
sc1975「じゃに☆じそ!」第六話(実装人形の世界編)
sc1978
sc2042「じゃに☆じそ!」第七話(他実装の世界編)
sc2044
sc2052
sc2055
sc2165「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第十話(大分の世界編)
sc2373「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第十一話(山実装の世界編)
sc2374
sc2375
sc2376


★実装人保管庫
up0210.txt「無謀なる天使達3」(実装人荘編)
up0211.txt
up0212.txt
up0213.txt「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第八話(実装人の世界編)
up0214.txt 
up0215.txt
up0216.txt 
up0217.txt「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第九話(ネガ実装人の世界編)
up0218.txt 
up0219.txt
up0220.txt 

の続きです。
ただし、前のエピソードを特に読まなくてもだいたいわかります。




尚、今回は全10編構成となります。(本文完成済み)

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