実装息仔 3 第五区分実験用仔実装……「個体識別ID:M14381」は、実装石特殊研究所・三戸班 による実験を経て、人間と良く似た外観を持つ存在「人化実装」へと変態した。 M14381の姿は同研究班主任・ローザ三隅の外観を写し取ったもので、その上なぜか 男性器まで備えていた。 今や絶世の美少年となったM14381は、とても不思議な魅力で次々に男性を魅了し 、その精液を吸い取っていく。 「彼」にモカという愛称を付けた一般研究所員・稔明は、妖艶な「インキュバス」 となったモカの魅力に惹きつけられ、ついに—— ※ ※ ※ 稔明が自宅のアパートに帰り着いたのは、既に日付が変わった頃だった。 あと数分研究所を出るのが遅ければ、間違いなく終電を逃していただろう。 これまで感じたことのないような猛烈な疲労感に襲われながら、稔明はただぼんやり と、暗い室内に視線を漂わせている。 服を着替える気力も、ベッドまで移動する元気すらない。 それどころか、夕食を摂ることも、明日の朝食を買ってくることすら思いつかない ほど、稔明の肉体と精神の疲労は限界に達していた。 あれから更に数時間、稔明はモカと交わり続けた。 濃厚なフェラチオは、その後も何度も続けられ、覚えているだけでも五回は口内射精 させられた。 それだけでは収まらず、益々活気付いたモカは稔明の上にまたがり、中に彼自身を 導いていく。 めくるめく快楽と、地獄のような苦痛が交互に襲い掛かり、稔明は限界以上に 追い詰められた。 モカは、執拗に、丹念に、飽きる事なく性交に溺れていた。 まるで、いままでずっと稔明が来るのを待ち続けていたかのように。 それほど、モカの態度と雰囲気は異様だった。 今まで幾人もの男達と交わり、乱れて来た彼だが、ここまで熱中している様子は 初めて見た気がした。 体力、精力、精神力、気力とあらゆる物を吸い尽くしたモカは、ようやく満足して 自ら身体を洗浄しに行ったが、代わりに疲労困憊した稔明がベッドの上に残された。 胸元から下半身にかけて、大量の粘液を浴びながら。 それはまるで、先ほどまでのモカと立場が入れ替わったようだった。 ぼんやりと眺める暗闇の天井に、ふと、人の顔が浮かび上がった。 それは、先日まで完全に忘れ切っていた、稔明のかつての彼女の顔。 数年前までは、思い出す度に強烈な憎悪と殺意が湧き上がったものだが、今は 自分でも不気味なくらい平静でいられる。 彼女の幻影は、特徴的な上目遣いの含み笑いを浮かべて、闇にかき消えて行った。 深い眠りに落ちながら、稔明は昔のことを思い返していた。 大学時代に付き合い始めた、同じサークルに所属する「彼女」。 そこそこの美人で人当たりも良く、話題も豊富な上にとても気遣いが上手で、 一緒に居て飽きない性格だった。 玉砕覚悟で告白し、OKを貰った時は、もう死んでもいいと思うくらいに舞い上がった。 それから一年、二年、三年と交際は続き、稔明は「彼女」を常に大事にし続けてきた。 デート費用・各種交際費は苦労しながらも全額出し、誕生日や記念日には豪華な プレゼントと食事を提供し、旅行にも何度も行った。 稔明は「彼女」こそ最高の、人生のパートナーだと強く信じ、「彼女」もそれに 応えてくれた。 交際四年目、稔明はそろそろ真面目に結婚を考えるようになり、そのために新たに 仕事を探すことにした。 それまで続けてきたアルバイトと並行しながら求職活動を行なうのは至難を極めた ため、稔明は集中するためと、一時的に「彼女」と逢う機会を減らした。 ——だが、それが裏目に出た。 求職活動も最終段階に入り、第二面接の結果待ちまで進み胸を高鳴らせていた稔明 の前で、ある日「彼女」は、突然嘔吐した。 それが「つわり」だと知ったのは、「彼女」からの告白ではなく、後日、共通の 女友達から受けた報告だった。 女友達から激しい追及を受けた稔明だったが、彼自身は、何が起きたのかまったく 理解が及ばなかった。 「彼女」が孕んだのは、稔明の子ではない。 それどころか、「彼女」自身どこの誰とも知らない男の子供だった。 稔明は、「彼女」を大事にする余り、今まで一度たりとも手を出したことはなかった。 それどころか、キスはおろか、手を握ったことすらない。 「彼女」以外の女性と付き合ったことがなく、また必要以上に純真だった稔明は、 今のご時世には珍しい“結婚まで性交渉はしない主義”だったが、それが「彼女」 との間に深い溝を生み出していた事に気付いていなかった。 「彼女」は、稔明との長い付き合いの中、一度たりとも“自分が愛されていると いう実感”を得ていなかった。 稔明からの愛情表現を全く受けていないと思い込んでいた「彼女」は、次第に女性 としての自信を失い始めていた。 彼の優しさ・奉仕は、「彼女」の心に届いていなかったのだ。 そんな時、稔明とは違う男性に誘われ、燃える様なセックスに溺れた。 稔明と付き合う数年前に経験して以来、長年眠り続けていた女の情欲が、ここぞと ばかりに活性化し、「彼女」は稔明が必死で頑張っている間、自ら男を求めて各所を 巡り歩いていた。 不特定多数の男性と情事を重ね、一時は三人もの名も知らぬ男性と並行肉体関係を 築いていた「彼女」にとって、もはや稔明との関係を維持する必要性などなかった。 妊娠の発覚に驚き、泣きながら激しく責め立てる稔明に強烈な平手打ちを食らわせる と、「彼女」は長年積もりに積もった不平不満をまとめて叩き付けた。 「役立たず」「甲斐性なし」「男として失格」「自分さえ良ければいいのか」 「他人に気を遣えない男なんて価値なし」「死ね」「一生童貞」「性的不能者」—— それらの罵詈雑言は、稔明の純真な気持ちと心を、ズダズダに引き裂いた。 四年間ずっと抱き続けた愛情はドス黒い憎悪と化し、一時は「彼女」を殺して 自分も死のうとまで思ったが、その後「彼女」はどこかの会社の幹部の愛人となり、 日本を遠く離れてしまったと噂に聞いた。 別れ際の、まるで汚物を見つめるような冷たい眼差しが、なぜか、全く異質な筈の モカのビジョンとダブる。 ——“あいつ”もきっと、あんな風に、見知らぬ男達の上で悶えて、腰を振って いたに違いない あんな風に——淫らに、嫌らしく、おぞましく!! そんな奴は、最初から俺の人生には要らなかったんだ だから、俺は“あいつ”を遠ざけたんだ! ——セックスのことしか頭にないビッチめ!! 俺の知らない所でのたれ死ね! 相手のことを想っているつもりで、実はただ自己満足に没頭していただけ。 それが稔明の招いた悲劇の大元だったが、本人がそれを自覚することはない。 翌朝、稔明は全身汗だくになりながら目覚めた。 気が付くと、頬が大量の涙で濡れている。 なぜか猛烈に悲しく、せつなく、それでいて狂おしいほどの怒りが湧き上がって きたが、稔明にはそれを抑制する術は、まったくなかった。 ※ ※ ※ その日、再び研究所の持ち場に着こうとした稔明は、三戸班のエリアが妙に慌しい ことに気付いた。 良く見ると、以前見た時より実装繭を管理する機器が増えており、大勢の研究員が 走り回っている。 彼らの操る端末を覗き込むと、どうやら孵化直前の実装繭が多数発生しているようだ。 時折「うまくいくかも」「このままいけば多分」といった、意味深な声が聞こえて くる。 そんな流れを無視し、いつもの監視室にたどり着いた稔明は、監視モニターの 向こうにモカがいないことに気付いた。 「何かあったんですか?」 手近の所員を呼び止めて尋ねてみると、その人物は妙に困ったような表情を 浮かべた。 「何かあったも何もないよ。あのコロニーが全部、一度に最終段階に入ったんだよ」 「最終段階?」 「ああ、マラ実装共の人工人化がな…… って、あれ君、見かけない顔だけど、どこの担当?」 「え? あ、ども」 まずそうな気配を感じて慌ててその場を離れると、稔明は、所員の呟いた言葉を 反芻する。 “人工人化? それってモカを作った実験と同じだよな? なんで今更?” 色々考えながら、稔明は所長室へと足を向ける。 肝心のモカがいない限り仕事がないので、仕方なく今日の業務をもらいに行く事に したのだ。 ドアの前に立ち、ノックしようとした途端、中から誰かが喚いているような声が 響いてきた。 続けて、ドアが乱暴に開かれる。 中から出てきたのは、モカ———女物のスーツをビッチリ着こなした、モカだった。 ……微妙に、違和感があるが。 「モカ?! なんでこんなところにいるんだよ?」 咄嗟に声をかけ、腕を掴もうとするが、モカはそれをするりとかわした。 彼の表情はなぜか激しい怒りに満ちており、額には青筋すら浮かんでいる。 険しい表情、少し厚めの化粧、香水の香り、髪の色、瞳の色……稔明は、その人物 がモカではないことに、ようやく気付く。 背中に、冷たいものが迸った。 「あなたね……あんな淫獣を作り出した張本人は!!」 「あ、あんたは!!」 「ちょうど良かったわ、あなたを連れてくるつもりだったのよ。入りなさい」 「え? あ、ち、ちょっと!!」 襟首を掴まれた稔明は、そのままずるずると所長室に引きずりこまれる。 中では、いつもの大きな机の上で頭を抱えている四谷所長がいた。 「おお、君か…」 呼びかれる声に、力がない。 その様子から、彼女と相当やりあったらしいことが窺える。 モカの原型・ローザ三隅と。 「私がいない間に何があったのか、説明してもらうわ! いったい、どういう事なのよ?! 顔を合わせる連中が全員、私をいやらしい目で見るから変だと思ったら……」 久々に出勤した彼女は、どうやら連日行なわれていた「モカ輪姦」に気付いたようだ。 プライドの高いキャリア組の中でも、特に出世頭と評されている彼女にとって、 自分と同じ姿の者が好き勝手に弄ばれているという現実は、どうにも我慢ならない らしい。 また、その影響で周囲の者達が好奇な目で自分を見るようになり、更に限界に 達したようだ。 ローザ三隅は、モカに対する“実験”を即座に中止し、またモカを即刻処分する ことを提言しに来ていたのだ。 そこまで聞かされ、稔明はやっと、モカがいなくなった理由に気付く。 恐らく、所長の指示を受けた誰かが、ローザ来訪より先に彼をどこかへ移動させた のだろう。 横目で所長を見ると、目線で何か合図を送っているようなので、恐らくそう大きく 外れてはいないだろうと解釈する。 稔明は、再び所長に向き直ったローザを尻目に、こっそりと部屋を出て行こうとした。 だが、その時—— 「どうせ今の汚らわしい実験がうまくいけば、あのニセモノは用無しでしょう? だったら、私がこの手で直接始末します。いいですね?!」 憤怒するローザの声が、背中越しに稔明の耳に届いた。 ※ ※ ※ 稔明は、その後広い研究所内をくまなく移動し、モカの行方を追った。 だが、どこに行っても彼の居場所を知る者はなく、また見つけることも出来ない。 いくら稔明が三戸班に入ったとはいえ、未だ立ち入れない機密区域もあり、その中に 囲われていたらもうわからない。 頭の中では、ローザが口にした恐ろしい言葉が、何度も繰り返される。 稔明は、なんとしても彼女より先にモカを見つけなければと考えた。 気がつくと、既に午後二時を回っている。 昼飯を食わずに走り回っていた稔明は、軽く何か腹に入れようとして、食堂に向かう。 途中、遅い食事を摂ったらしい所員達のグループとすれ違った。 「——で、イケそうなんか? モカって」 「しらねぇよ。ただお偉いさんはえらくご執心らしくってさ——」 会話の一部が耳に届き、稔明は思わずその所員達の間に割り入った。 「すみません、その話、詳しく聞かせてください」 「誰だお前?」 「あっ、こいつ例の監視係じゃねぇか?」 「あ、いやその…」 「なんだ担当者なのに知らないのか? あのモカって人化実装、ここのスポンサーのお偉いさんに気に入られたのさ。 いきなりいなくなったから、ひょっとしてお持ち帰りされたんじゃないかって 噂してたんだよ」 「そうそう、なんせ昨日視察に来たばかりだしね、そのお偉いさん」 聞けば、そのお偉いさんなる人物は、モカを見るなりその美しさに惑わされ、 四谷所長に相当しつこく話を聞いていたようだ。 稔明は、そこまで話を聞くと軽く礼を述べ、再び所長室へ出向いた。 としあきを迎え入れた所長は、としあきの推測をあっさりと認めた。 やはり、お偉いさんの自宅に連れて行かれたのだという。 「どういう事なんですか、それは?」 「西島氏は、モカに魅入られたのと同時に、人化実装の将来的発展性にも着目された のさ。 一応、モカは研究の名目で研究所から連れ出されているが、多分……」 そこまで言って、所長は言葉を濁す。 西島氏というのが、スポンサーであるローゼン日本支社社長の事だというのは、 稔明にもすぐに判った。 「将来的発展性とは、なんのことですか?」 「そこから先は、説明する必要はない」 「しかし…!」 「さっきから気になるのだがね、どうして君はそこまでモカにこだわるのかね?」 「えっ」 「まさか君、本当に魅入られてしまったんじゃないだろうね?」 「……」 所長の質問に、稔明は明確な回答を示せない。 なぜかわからないが、彼の中で奇妙な執着心が生まれていたことは事実だった。 先ほど、ローザがモカを始末する、という話をしたその瞬間、爆発的に発生した ような感覚。 それは、稔明自身戸惑いを覚えるほどのものだ。 適当な挨拶をすると、稔明は所長室を飛び出し、なんとかモカの行方を追えない ものかと考えを巡らせた。 『俺、なんでこんなに必死になってるんだ?』 数時間後、研究所本棟地下二階・第四段階仔実装区分。 モカがいなくなり、今までの配属場所に居る意味を見失った稔明は、かつての 古巣に戻ってきていた。 以前のように、無数の仔実装達の世話を行い、記録を付けたり問題が起きていない かチェックをする。 だがその行動は、以前のような熱のこもったものではなく、まるでロボットのようだ。 定時になり、そろそろ退社しようと準備を始めた頃、突然来客が現れた。 ——ローザ三隅だ。 驚く稔明に、ローザは無表情で話しかける。 「ねぇ、貴方の力を貸して」 「は? な、なんでですか?」 「貴方、モカから強い関心を持たれているそうじゃない」 「は、はぁ、まあ」 「貴方に、モカを誘導して欲しいのよ。 あれは、今普通の人間では手の届かない所に居るわ。 だけど、貴方が力を貸してくれれば、きっとなんとかなると思うの」 「そ、そんな事言われても、どうすればいいのか……」 どぎまぎする稔明に業を煮やしたのか、ローザは突然彼の手を掴んだ。 そして、自身のふくよかな胸にそっと触れさせる。 「え゛…!!」 「力を貸してくれたら、いいのよ——私を好きにしても」 「え、ええっ?! ち、ちょ……それってどういう?」 顔を真っ赤にして戸惑う稔明に向かって、ローザは不敵な微笑みを向ける。 それはまるで、モカがいつも見せているような、あの淫靡な笑顔そのままだ。 「男なんかより、女の方がいいわよ。 ね、一時間後に地下駐車場に来て。 二人きりで、今後の相談をしましょう?」 「え、あ、あの…」 「待っているわ——」 稔明を抱きしめ、唇を奪う。 ためらうことなく舌をねじ込み、荒々しい程に口腔内を嘗め回す。 やがて、じっとりと絡み合う舌、交じり合う唾液。 ローザの手が稔明の股間をまさぐり始める。 なすがままにされる稔明は、限界ギリギリの興奮状態の中、僅かに残された冷静な 部分で、自身の置かれた状況を分析していた。 “あ——見た目だけじゃない。 攻め方の動きも、癖も……全部モカと同じだ” ※ ※ ※ 翌日、高級ホテルの一室で目覚めた稔明は、ローザの熱い口付けを受けた。 一糸まとわぬ姿のローザは、身体を隠そうともせず、稔明の上に乗ってくる。 昨晩、遅くまで愛欲を貪り合った両者は、どこか気だるそうに互いのぬくもりを 求めていく。 頬にキスをした直後、ローザは、耳元で静かに囁きかけた。 「今日、私はこれから、ローゼン日本支社社長宅に向かうわ。 あなたは、私の助手という事で付いてきて」 「あ、うん……」 「いい子ね。 そしたら、私の会談中にモカを探し出して欲しいの。 見つかったら、私の携帯にメールで伝えて」 「でも、どうすればいいんだよ? 社長の自宅って広いんだろ? どこにモカがいるかなんてわかんないよ」 「心配ないわ」 ベッドから起き上がると、ローザは大きな乳房を誇らしげに震わせ、クスクスと 微笑む。 隣室からハンドバッグを取ってくると、その中から、ipodくらいの大きさの小さな 機械を取り出した。 「これを持って行きなさい。偽石センサーよ」 「偽石センサー?」 「半径10メートル以内の偽石の位置を、正しく判別して教えてくれるわ。 しかも、個体差がある場合その特徴も教えてくれるの。 たとえ家の中に沢山実装石が居ても、モカみたいな個性的な個体なら、すぐ判別 出来る筈よ」 「なるほど」 「頼むわね——さて、アポまであと3時間あるわ。 ねぇ……もう一度……♪」 「……」 そう言うと、ローザは稔明に身体を預けて来た。 しっとりとした美肌が、自身の肌に吸着するような感覚を覚える。 だが稔明にとって、それはもはや不快感でしかない。 『なんだか、生臭い—— モカの時は、こんなことなかったのに……』 口にこそ出さなかったが、稔明は最悪の気分のまま、ローザに身を任せ続けた。 自分自身を口に含まれ、全身を舐め上げられ、顔の上に尻を乗せられ、最後は 犯されるように上に乗られる。 まるで狂った動物のように歓喜の声を上げつつ、激しく腰を振るローザの姿からは、 かつて感じられた美しさや華麗さは微塵も見て取れない。 稔明は、ただ目を瞑り、彼女が飽きるのをひたすら待ち続けた。 『あいつも、きっと、こんな風に——』 ※ ※ ※ 午前11時。 稔明はローザの運転する車の助手席に乗り、今後の打ち合わせをしながらローゼン 日本支社長・西島の自宅へ向かっていた。 車内の会話は、一方的にローザが話しまくるだけで、稔明はただ相槌を打つだけ だった。 それでも、打ち合わせは上手く行っていると解釈したようで、ローザはどこか満足 そうだ。 やがて郊外の大きな邸宅に辿り付き、敷地内の大型駐車場に入り込む。 車を降りた稔明達は、数人の使用人に導かれ、まるでちょっとしたマンションの ような屋敷内に入り込んだ。 でっぷりと太った中年男性と、大きなリビングで会見する。 それが、支社長西島だった。 いかにも趣味の悪そうなタイプで、おまけに成金趣味丸出しの醜悪さが漂っている。 ローザは、稔明に指示して車内から持ち込ませた書類ケースを受け取ると、中から 何枚かの資料を取り出し、早速話を始めた。 「——それでは例の件ですが、当研究所の実験は最終段階に入りました。 恐らく、本日夜半には最初の……」 「そこの男に、退室するよう言いなさい。 ここから先は、私達だけの話だからね」 ローザの話を遮り、西島がどこか嫌そうな口調で呟く。 多少カチンと来たものの、それはこれ以上ないほどのチャンスだった。 ローザは、稔明に退室を命じながら、西島に見えないようにウインクをしてみせた。 リビングを出た稔明は、使用人に頼んで待機用の部屋を用意してもらった。 ローザの話だと、恐らく二時間以上はかかるだろうという見込みだった。 今が、モカ捜索の絶好の機会だ。 ポケットの中の偽石センサーを確かめると、稔明は静かに待機室を抜け出す。 センサーのスイッチを入れると、まるでトイレを探して迷っているような態度を装い、 一階通路から調べ出した。 何人かの使用人に挨拶し、道に迷ったと嘘を言いながら、一階、二階と調べていく。 だが、偽石センサーには何の反応もなかった。 ローザと別れてから、既に一時間が経過している。 使用人達の目を盗み、三階へ通じる階段を上ったところで、液晶モニタに反応が 現れた。 だが…… 「えっ——ええっ?!」 としあきは、その反応結果に狼狽した。 モニタに映っている反応は、全部で三つ。 その全てが人間大のサイズを持つ個体で、しかも偽石が通常の実装石よりハイピッチ で稼動している事を示している。 ローザの話によると、人化したモカの偽石は以前より遥かに負荷がかかっている という。 その話が本当なら、ここにはモカと同等レベルの人化実装が、最低三匹はいる事に なってしまう。 『どういうことだ? これじゃあどれがモカかわからないぞ?』 稔明は、ローザに状況を伝えようと携帯を取り出したが、ふと思い止まる。 センサーの反応を確認しながら、三匹がいると思われる部屋を目指し、ゆっくりと 移動した。 三階の最も奥、大きな扉で遮られた空間に、反応がある。 恐る恐るドアに手をかけると、鍵がかかっていない。 予想に反し、扉は音も無く静かに開く。 隙間から覗く空間は漆黒で、中の様子はまるでわからない。 ただ、嗅ぎ慣れた独特の臭いが漂っているのはわかった。 どこからか、微かに呻き声が聞こえてくる。 うふふ……んふふふっ……♪ ぅお……おぉぉっ……で、でじゃ…… で……ひ、ひぃぃぃ…… ぴちゃり、ぴちゃりと響く淫靡な水音と、苦しそうな複数の呻き声。 遥か向こうで灯っている青色の弱い照明が、室内のシルエットを浮かび上がらせる。 天蓋付きの大きなベッドの上、複数の者が交わっている。 暗がりでもはっきりとわかる、女性的なシルエットと長い髪——一人は、間違いなく モカだ。 その傍には、モカと同じくらい華奢な体格の人間が突っ伏している様子が窺える。 稔明の気配に気付いたのか、モカのシルエットが静かに立ち上がった。 「てちゅう♪」 艶のこもった声、いやらしくくねったボディライン、射抜くように鋭く、それで いてとても優しい眼差し…… いつしか室内に入り込んでいた稔明は、瞬時に魅入られた。 そこにいるのは、それまで稔明が知っていたモカではない。 最後に逢った時よりも、遥かに色香を増し危険な領域に達した者。 当初の誓いも忘れ、稔明は、まるで操られるようにモカに近づいていく。 「んふふふっ♪」 モカのすぐ傍に近づき、ようやく事態を把握する。 ベッドの上で疲労困憊しているのは、モカと同じような人化実装だ。 十代の少年くらいの体格で、モカほど綺麗ではないがそれなりに色気のある身体つき。 モカに全てを吸い取られたのか、背中にしっとりと汗を浮かばせ、肩を震わせている。 稔明の来訪にも反応出来ないようだ。 彼らの様子を呆然を見つめる稔明の肩に、モカが両手をかける。 「てっちぃ……」 稔明の太股に、固いものが当たる。 じっとりと熱を帯びているそれは、ぐりぐりと押し付けられていく。 それに連動し、モカの吐息に熱がこもる。 「てっちゅう……んっ」 稔明の唇が、塞がれる。 舌がねじ込まれ、口腔内を支配するかのように荒々しく暴れ回る。 二人の身体は密着し、稔明の腕も、無意識にモカの背と腰を支える。 まるで、長い間離れ離れだった恋人達が再会したような、長く熱い口付けが続く。 やがて静かに唇を放したモカは、稔明の顔を見つめながら、腰を落としていく。 膨れ上がったズボンの前に手を這わせ、形と硬度を確かめ出した。 「んあぁ……っっ!!」 「うふふふっ♪」 ジッパーがゆっくりと下げられていく。 既に限界に達し、粘液を迸らせているペニスが引っ張り出された。 慣れた手つきでそれを包み込むと、先端部を掌に包み込み、クリクリと押し潰す ように撫ぜ上げる。 突然訪れる強い刺激に、稔明の膝が踊った。 「ぐぁ…! は、あ゛ぁぁっ!!」 「んふふふっ♪ てっちゅ〜ん」 「く……ぅあ……き、きつ……モカ、モカぁっ!!」 竿を左手で固定し、右掌と指の裏側を駆使し、亀頭だけを重点的に攻め立てる フィンガーテク。 最も敏感な部分を容赦なく虐められ、それでいて射精に至れないもどかしさに包まれ、 稔明は徐々に正常な判断力を失っていく。 大量のカウパー液がモカの手を濡らすと、今度は暖かな口に包まれ、強く 吸い取られる。 再び、膝と腰から力が抜けていく。 と突然、稔明はアヌスに違和感を覚えた。 誰かが、自分の尻に舌を這わせている。 気がつくと、さっきまでベッドに倒れ付していた人化実装の一人がいない。 「んっ……んんんっ……!!」 ぬるり、としたものが尻穴の奥深くにねじ込まれていく。 人化実装は、両手でとしあきの尻肉を開き、舌を根元まで差し込んで奉仕していた。 前では、相変わらず容赦の無い亀頭攻めと、カウパー吸いのコンボが繰り広げられて いる。 妖艶な眼差しで見上げてくるモカが、ふっと微笑む。 稔明は、それを見てようやく合点が行った。 (ああ、そうか—— モカ、お前は……あの女から、すべて写し取ったんだな。 外観だけじゃなくて……) ペニスを弄ぶモカの姿が、夕べのローザと重なる。 大きく息を吐いた瞬間、モカは、稔明のペニスを根元まで呑み込んだ。 同時に、尻を舐める人化実装の舌使いが激しくなる。 「ぐ……!! ぐ、くぁぁ!!」 喉の収縮が、亀頭とカリに強い刺激を加えていく。 熱いものが、どんどんこみ上げてきた。 ※ ※ ※ 四つんばいになった稔明のペニスを、下に潜り込んだモカが咥える。 高く掲げられた尻穴は、別な人化実装の舌で弄ばれ、玉袋は更にもう一匹の人化実装 に舐め回される。 性器周辺を、一度に三人の口と舌で攻められるというシチュに、いつしか稔明は 没頭していた。 ここに来た本来の目的すら忘れ—— 稔明の眼下では、互い違いの姿勢になったモカのペニスがぷるぷると震えている。 もう何度か射精したようで、先端はぬるぬるした輝きを放っている。 三人の攻めは全く統一性がなく、逆にそれが予想できない快楽を絶え間なく与え続ける。 やがて、何度目かの射精感がこみ上げ、モカの喉奥にすべてをぶちまける。 「ううぅっ……か、はぁぁっ……!」 ちゅぅぅぅ……ごく、ん 「んふふふっ♪」 嬉しそうな微笑を浮かべ、モカは再び稔明を攻め始める。 射精直後で敏感になった稔明は無意識に身をよじるが、下半身を三人に押さえ 込まれており脱出が出来ない。 肛門と陰嚢をしゃぶる二人は時折交代し、バリエーション溢れる攻めを繰り返す。 ものの数分もしないうちに、またも射精感が訪れてきた。 「も、もう無理……あっ、あああっ!!」 どくっ、どく…… 「んんっ…! んーっ」 搾り取られた回数のせいか、今回はかなり薄かったようでモカが不満の声を上げる。 なおもしつこく舌を使い、唇をすぼめるが、完全に限界に達し勃起力が失われた事を 悟ると、ようやく稔明を解放する。 他の人化実装達も、名残惜しそうに離れた。 「お、お前ら……」 ようやく冷静さをとり戻した稔明は、三人を見てぎょっとした。 既に見慣れたモカはいいが、その背後にいる二人の人化実装の形相に驚かされたのだ。 首から下はモカのようにとても美しい少年のものだったが、顔はとても人間とは 思えないものだ。 実装石と人間の顔を足して二で割り、多少人間寄りにしたような……高い鼻と唇 があるが眉毛はなく三つ口、輪郭は丸く額も広く禿げ上がっており、上の方に申し訳 程度の前髪が付いている。 後ろ髪はそこそこ長く量も豊富だが、明らかに人間としての美しさを損なっている。 稔明は、あらためてそれが人化「実装」なのだと思い知った。 稔明が出会ったのは、西島が極秘裏に飼っている性処理用の人化実装だった。 後に解ることだが、彼らはそれでも人化実装としてはまだ美しい部類であり、裏 では大変高値で取引されるほどだという。 だが、モカの美しさはそれを遥かに凌駕しており、それどころか同格に見る事すら 無理があるほどだ。 耳と目の色、言葉を除けば人間と全く見分けが付かず、人間を魅了し性欲の虜に してしまう。 モカが、いかに常軌を逸した「悪魔」であるか、稔明は心底思い知らされた。 携帯を取り出し、ローザに現在位置を伝えるメールを送信する。 後は、知らぬ顔で部屋を出て待機すればいい——計画ではそうなっていた。 モカについては、ローザが対処する事になっていたが、稔明は、何故か部屋から 退出する気にならなかった。 不思議そうな顔でモカが近づいてくるが、稔明はそれを払いのけた。 「てちゅ?」 「モカ、お前……本当に、どうしてそんな姿になっちまったんだよ?」 「……」 「俺が育ててた時は、こんなじゃなかっただろ? 可愛くて、素直で、いつも元気で、賢くて——こんな事をするような奴じゃなかった だろ?」 「……」 「あの頃のお前に戻ってくれ、そうじゃないと、俺——」 ぷちの肩を掴みながら、稔明は呼びかける。 白い指が手の上に重ねられ、優しく握られる。 モカは、いつものような淫靡なものではなく、少しだけ悲しそうな表情で稔明を 見つめてきた。 「俺、お前がこの手の中に入ってたくらいの頃が、一番好きだったよ」 「て……」 「今のお前は——嫌いだ」 「………ち、ぃ……」 目を大きく見開き、モカは、信じられない事を聞いたような態度を示した。 肩の力が弱まり、がっくりとうなだれる。 しばらくすると、太股の上に、ぽつり、ぽつりと雫が零れ落ち始めた。 「な、なんで泣くんだよ? 俺は——」 「なるほど、そういう事だったのね」 いつの間に入り込んだのか、部屋の入り口付近から女性の声が響く。 ビジネスウェアとは到底思えない、燃えるように赤いスーツを着た細身の女性 ——ローザ。 その手には、拳銃が握られていた。 「ひょっとしたら、と思ったのよ。 でも、これでようやくわかったわ」 「ど、どういう意味だよ?!」 気付くと、銃口はモカや人化実装ではなく、稔明に向けられている。 怒りの表情を浮かべたローザの顔は、モカと稔明の間を何度も行き来する。 「私が本当に知りたかったのは、どうしてこいつが私の姿と特徴を覚えたか、だった のよ。 こいつ、大好きだったあなたのリクエストに応えたのよ」 「リクエスト?」 「思い出しなさい。 ここにいる私達、以前にも一度こうして出会っていた筈よ」 ローザに言われ、稔明は必死で記憶を遡る。 ローザと初めて出会った場所は、実装石特殊研究所地下二階・第四段階仔実装区分 施設。 彼女が、実験用個体を受け取りに来た時だ。 「あの時、私を威嚇していた仔実装がこいつだったのね。 あの時の実験用個体はすべて人化実験に使われたけど、そこから生まれたこいつ だけが私の姿と特徴を知っていた。 疑いようはないわ」 「言っている意味が……」 稔明の言葉を遮るように、ローザがわざと足音を強く立て歩み寄る。 銃口を彼の額に当てると、ニヤリと笑いながらモカを睨む。 「あなた、この男が私に惚れたんだと気付いたんでしょう? だから、私の姿をコピーしてこの男を魅了しようとした。 だけど、お前の体はマラ実装——だから、私の顔を持つ男の体になった」 「……!!」 グリッ、と硬い銃口が皮膚にめり込む。 ローザは、先程からは考えられないほど冷ややかなまなざしで稔明を見つめる。 それは、明らかな侮蔑の目だ。 「あんたが私に迷惑な行為を寄せて、それに応えたあいつが更に迷惑をかけた。 嫌なものね、全く——」 「ど、どうする気なんだよ?!」 精一杯の勇気を振り絞り、稔明は呼びかける。 「そうね、さすがにここではまずいから——私の車に移動していただくわ。 その後、誰にも気付かれない所で始末してあげる」 「お、俺を?!」 稔明の言葉に、ローザはニッコリ微笑む。 「だけど、その前にモカ……このバケモノを始末しないと。 栄光に満ちてた私の将来を台無しにしたこいつをね!」 そう言うと、ローザは銃をモカに向け直した。 事態を把握していないのか、モカはただ呆然と座り込んでいるだけだ。 人差し指に力がこもり、引き金が少しだけきしむ。 その時、稔明がローザに飛び掛った。 バキュゥゥ——ン 弾丸が、あらぬ方向に飛んでいく。 稔明はローザの腕を殴打し、拳銃を奪い取った。 思ったよりあっさりと奪取は成功し、ローザは右腕を押さえながら床に転がっている。 稔明は、銃をしっかりと握ると——銃口をモカに向けた。 「?! あ、あなた?!」 「悪いが、モカは殺させない。 ——こいつは俺が殺す」 「て……」 今まで見せたことのないような憎悪の表情で、稔明はモカを睨みつけた。 「こいつは、俺を裏切ったんだ。 俺の事を好きで、そのためにこの姿になったのに——実際はどうだ?! 結局誰でもいいんじゃないか!! セックスが出来るんなら、誰にでも股を開くんじゃないか!」 稔明の呟きに感情がこもり、次第に叫びに変化していく。 ローザは抵抗せずその様子を見つめ、モカと人化実装達も硬直し続ける。 「てち……」 「モカ、俺はお前が憎かった! 他の男に抱かれた汚らわしい身体で、俺に迫るお前が許せなかった! お前は俺が好きだったんじゃない! ローザの姿で他の男共をたぶらかしたい、ただそれだけしか考えてなかったんだ!」 腕がぶるぶる震え、銃身がぶれる。 トリガーが引かれ弾丸が発射されるが、モカには当たらず背後に居た人化実装の 頭をぶち抜いた。 脳漿を顔面に受けたもう一方の人化実装が、悲鳴を上げる。 「デ、デギャアァァッ!!」 しかし、モカは微動だにしない。 両目を閉じ、まるで覚悟を決めたように静かにしている。 稔明は、二度と外さないようにと、モカに一歩近づいた。 「モカ、俺は、お前が実装石だったから…… 絶対に俺を裏切らないまま“死んでいく”から、愛したんだ!」 その言葉に、モカの目が、カッと見開かれる。 半開きの口も閉じられ、肩の力が抜けていく。 「だから……人化した時点で、俺はもうお前を愛せなくなったんだ。 わかるだろ? 俺……もう、あんな想いするのは嫌なんだよ!」 いつしか、稔明は泣いていた。 大粒の涙を流し、肩を震わせて泣いていた。 「稔明、あなた……」 「やかましい! しゃべるな!!」 ドガッ!! ローザの腹を蹴飛ばし悶絶させると、稔明は涙と怒りの入り混じる複雑な表情で、 再びモカへと向き直る。 だが、モカはもうそこにはいなかった。 「?! ど、どこへ行った?!」 辺りを見回すが、モカの姿はどこにもない。 ふと、耳元に呼吸を感じる。 ——ここよ—— 誰かが、背後から稔明を抱きしめ、首筋に優しくキスをした。 「も、モカ……?!」 ——僕、あなたのために……がんばって成長したのに……—— 耳に届く、優しげな響きを含んだ声——それは、間違いなくモカのものだった。 人間の言葉を、話している。 物凄く小さく、ともすれば掠れてしまいそうなほど拙かったが、モカは稔明の耳元で 自分の意思を囁いていた。 首筋に舌が這い、稔明の身体の奥で、何かがぞくぞくと這い上がる。 ——ずっと、あなたと一緒に居られるように、頑張って成長したのに—— 「や、やめ……!! やめ……ろ……っっ!!」 手の中から、拳銃がポロリと落ちる。 稔明は何故か一切の抵抗が叶わず、まるで金縛りにあったように固まっている。 ただ、怯えた視線で肩の向こう側を覗き込もうとしていた。 ローザは、二人の様子を見つめ、激しい恐怖感を覚えた。 「な、何……何よ、それ……?!」 恐怖の理由はわからない。 ただ、硬直する稔明の身体をまさぐるモカの姿が、まるで何かのバケモノのように 感じられたのだ。 自分と同じ顔、肌、髪、瞳、癖、性癖、テクニックを持った実装石…… それが、殺意を秘めた男を魅了し、二度と逃れられない虜へと変えていく。 正面に回りこんだモカが稔明の唇を奪った時、ローザは、部屋の壁に映った二人の影 を見て悲鳴を上げた。 稔明は床に押し倒され、モカがその上に馬乗りになる。 彼の身も凍るような視線を受け、ローザは、いつしか這うようにして部屋を 抜け出した。 稔明の声も、他の人化実装の声も聞こえず、ありえないほどの静寂が彼女の背を押す。 ローザがなんとか部屋の外に出られた瞬間、背後からモカの怪しい含み笑いが 聞こえた。 ※ ※ ※ それから十数分後、西島の寝室前に集まった家人は、なぜか固く閉ざされてしまった ドアを開けるために四苦八苦させられた。 二時間以上かけてようやく開かれたドアの向こうには、頭を撃たれた人化実装と 、床で大の字になっている稔明の姿があった。 もう一体の人化実装は、部屋の奥の壁にすがるようにして震えており、発見後 まもなく偽石自壊により死亡した。 そして稔明は——下半身を露出した状態で、衰弱死していた。 モカの行方は、判明していない。 寝室の窓が開かれており、そこから脱出したかに思われたが、地面まではかなりの 高さがあり落下したら無傷では済まない。 にも関わらず、モカの消息は様として知れなかった。 稔明の死因は後に脳卒中と診断されたが、実際は腹上死である事は明白だった。 彼の精嚢や前立腺からは精液や前立腺液がほぼ全て失われており、しかもごく短時間 で放出させられた痕跡も窺えた。 つまり、モカによって文字通り全てを吸い尽くされたのだろう。 その後、モカの消息は完全に途絶えてしまった。 西島邸での事件は闇に葬られ、表沙汰になる事はなく、また稔明の親族とも特別な 示談が成立し、事実上の口封じが成立していた。 また、西島氏が人化実装という存在を扱う特殊な性癖だった事も、またローザ及び 実装石特殊研究所との関わりも、モカの存在さえも、一切が表面化することはなかった。 しかし、実装石特殊研究所の四谷所長は、この後モカの消息を追い早急に捕獲・ 処分する事を決定。 ローザ三隅を「三戸研究班コロニー開発部」という架空部署の部門長に添え、 実質的にはモカの調査と捕獲を行う特殊チームの総責任者に任命した。 そして稔明の死体は、誰にも知られぬようにこっそりと、とある山奥に処分埋葬 された。 墓石一つ置かれることもなく。 ※ ※ ※ それから、二ヶ月ほど経った頃。 虹鳴町、深夜の公園。 とある用事でここを訪れていたある男は、見覚えの無いやせぎすの男に突然声を かけられた。 まるで幽霊のような白いシルエットに一瞬怯えたが、普通に生きている人間で ホッとする。 だが、その姿・顔・表情からは、とてもまともな筋の者とは思えない。 男は、そのまま無視して通り過ぎようとしたが、やせぎすの男の隣に佇むもう一人 の姿に、思わず足を止め見入ってしまった。 薄手のポンチョのようなものをまとった、すらりとした美しい姿。 それは、目を見張るような絶世の美少女だった。 やせぎすの男は、美少女を指差してから、薄気味悪い笑顔を浮かべて手招きする。 「なぁあんた、この子、どうだい?」 「……」 「可愛いだろ? いいオンナだと思わねぇか?」 「……まぁ……」 「あんた、この仔を抱いてみねぇ?」 「はぁ?」 「だからさ、ヤラせてやるって言ってるんだよ、こいつと」 やせぎすの男は、そう囁きながら腰を振る真似をしてみせる。 「こいつを好きに扱っても良いんだぜ。 触れるなり、犯すなり、汚すなり、思うままにさ。 ただし、乱暴にしたり傷つけたりだけはしないでやってくれよ。 そうすれば、こいつの意思なんか尊重する必要はねぇよ。 あんたの思うままに、めっちゃくちゃにしてやんな」 馬鹿馬鹿しいと思い先を急ごうと思ったが、男の足は不思議と一歩も前に 踏み出せない。 というより、暗闇に佇む少女から目が放せなくなっていた。 薄暗がりでもわかるほど、その肌は白く透き通るような美しさを誇っている。 男の意志に反して、身体の一部が激しく反応する。 「てちぃ?」 少女は、小首を傾げて男の方を見つめてくる。 その目に吸い寄せられるように、男は向きを変えた。 手に握ったコンビニ袋がガサッと揺れ、ふと我に返った時、男は少女のすぐ目の前 に立っていた。 「え、な、なんで…?」 「不思議だろ? そいつに気に入られると自然にそうなっちまうのさ。 さぁ、あそこで好きに楽しんで来な」 やせぎすの男は、そう言って近くにある公衆トイレを指差す。 男の手を優しく取りニッコリ微笑むと、少女は彼を導き出した。 「え? あ、あの、ちょっと待って」 「心配すんな、荷物はちゃんと預かっててやるから」 やせぎすの男が、そう言いながら荷物を奪い取る。 男は、ろくに抵抗も出来ぬまま公衆トイレへと引きずり込まれていった。 夜の公園をうろつくにはあまりにも不自然な大きな荷物に、やせぎすの男は首を 傾げる。 中から出てきたバールや鎌、棍棒や金平糖に似た薬品を見て、ようやく頷く。 「可愛そうになあ、あいつ——自分が虐待してる奴に、魅了されちまうんだからなぁ」 金平糖に似た薬品を一粒取り出し、遥か闇の彼方へと放り投げると、やせぎすの男 はニヤニヤ微笑みながらトイレから遠ざかっていった。 しばらく後、闇の向こうから何かを絞め殺すような悲鳴が微かに聞こえてきた。 切れかけた裸電球に照らされた、深夜の狭い個室。 その中に、少女と男は閉じこもっている。 すえた臭いが鼻を刺し、決して居心地が良い場所ではないが、男はその場から 離れられずにいた。 少女は、不敵に微笑むと、ゆっくりとポンチョをたくし上げる。 その下には、何も身に着けていない——全裸だ。 男の喉が、ぐびっと鳴った。 「んふふふ♪」 股間で、何か白く小さなものがピクピクと蠢いている。 男の視線は、「それ」に瞬時に釘付けとなった。 「えっ、ま、まさか……男の、娘……?!」 「てっちゅ〜ん♪」 やがて完全な全裸になった少年は、ポンチョを個室の外に放り出し、惜しげもなく その美しい肢体を男に晒す。 ぺろり、と小さな舌が唇を舐め、大きな目が男の股間に注がれる。 そのあまりにも色っぽく妖しい仕草に、男の中の何かが、大きく音を立てて弾けた。 実装息仔 完
