『お徳用豆実装!-美味しく食べテッチューン♪-』 そう書かれたパッケージを俺はビニール袋から取り出した。 パキパキと薄い箱が開かれ、中には真空パックのケースと味付き栄養剤のチューブが一つに同封されている。 説明書によると…ふむふむ、なんのことはないパックを開いて味付き栄養剤をかけるだけで勝手に復活するらしい。 俺は所謂鍋派と呼ばれる実食主義者だ。 愛護? 虐待? 食物を可愛がるのも痛めつけるのも味に変化をもたせる仕込みに他ならない。 なのにそれだけを楽しむなんてどうかしているだろ。 牛は大切に育ててこそ旨味がのる。 饂飩は踏みつけ叩くからコシが出る。 食い物にそれ以上の感情を持つこと自体おこがましいのだ。 それが俺のスタンス。 だからこの実装石も俺にはただの食材でしかない。 可愛いとか気持ち悪いとか以前に、食材以外の価値なんざないね。 さて、パックを開くと中には干涸びた丸く茶っけた物が沢山入っていた。 一見すると大きめのレーズンのような感じだが、 よく見ると丸まってしゃがんだ豆実装だとわかる。 どうやら加工はされていないようで… 説明書には 『付属の味付き栄養剤以外での"戻し"を行わないでください』 『食べ物を与えないでください』 『仮死から復活後30分以内に食べてください、栄養剤から糞を生成してしまいます』 『ペット用ではありません、飼いはオススメできません』 『服や髪までしっかり食べられます』 その他何項目も注意書きがされていた。 まぁ俺はすぐに食べるから問題ないな。 俺は付属のチューブを開き、パックの中に液を注入した。 軽くパックを揺すり、全体になじませると徐々に液体を取り込んでいるのか、 下に溜まった栄養剤がきれいになくなっていく。 最初カラカラと乾いた音がした豆実装は、しっとりと湿り気を得て、 しばらくすると小さくパックが揺れた。 「……………レリュゥ……………レェ………」 お、仮死から意識を取り戻した1匹がパックの中で体を起こした。 キョロキョロと不思議顏で周りを見回し、安全だとわかったのかひょっこりと起きあがる。 そして覗き込んでいる俺に気がついたのか、両手を上げて。 「レェッチェレー♪」 ニッコリと笑顔をのぞかせた。 うむうむ、元気があってよろしい、やはり食材は活きが良くないとな。 それに続いてどんどんと豆実装達が1匹2匹と起き上がり、 同じように俺に向かって両手を振りながら、喜びの声をあげた。 よしよし、それじゃあ早速頂こう。 ……でも待てよ、このまま食べたんじゃ色々味を楽しめないな。 よし、では壁になるようなものを用意してっと。 パックにいる豆実装は20匹前後。 俺はレチレチと騒がしい中から活きのいい1匹を箸でつまみ出す。 「レッチュァー♪」 箸でつままれた豆実装を手に乗せ、顔の前に持ってくると、 自分は選ばれたのだと勘違いしているのかチププと笑いながら俺にオアイソポーズ。 さてまずはこの甘っちょろいのを頂こう。 そっと頭を撫でてやるとレチューンと甘えた声を出す豆実装。 俺の指に甘えて、ペロペロと指先を舐めはじめた。 どうやらさっきの栄養剤が付いていたのか思いのほかに必死に舐めてくる。 「美味しいか?」 「チューン♪レェレチィ♪」 ま、なんて言ってるかなんてどうでもいいんだけどな! まずは1匹目、甘えさせてから口に放り込み素早く一噛み。 「ジュァッ!?」 うーん、口の中に飛び散るジソ風味と調味料の旨味は有るが、 やはり歯ごたえがないなぁ。 そもそも豆実装なので体が成熟してないのもあって柔らかすぎる。 その分甘めのジソ油なので舌触りはいいが……イマイチ。 やはりこのサイズともなると食感を楽しめないとダメなのかもしれない。 まあ、そもそも山実装とかと違って加工品みたいなもんだしな。 それに服と髪も問題だ。 説明書には食べられると書かれているが、やはり食感が悪くなる。 髪はショリショリと簡単に噛み千切れるが歯に引っかかるし、服は若干実装臭がする。 よし、次は剥いてしまおうか。 そして俺はパックから6匹取り出すことにした。 パックを覗き込むと、流石仔実装より蛆に近いだけのことはある、 半数以上が一箇所にまとまって抱き合いながらチィチィと寝息を立てていた。 残りは味付き栄養剤の匂いにつられたのか、パックの底をペロペロと舐めていて、 覗き込む俺に気がついたのか立ち上がりジャンプしはじめた。 遊んでくれとでも言っているのだろうか? 先に連れて行かれた豆実装の断末魔を聞いているだろうに、 察するほどにも脳みそが発達していないのかもしれない。 俺は起きている中から6匹を手のひらに乗せ、深めの皿に移す。 俺の手に頬擦りするのや抱きつくのを優しくおろしてやり…さてまず1匹目。 指に抱きついて離れない奴からにするか。 うにゅうにゅと体を擦り付ける豆実装から、そのまま実装服を引き千切った。 「レェッ!?」 何をするの?とでも言ったのか、ハラリと落ちた服と俺を交互に見て固まる豆実装。 それを見ていた皿の上の5匹も固まる。 バランスの悪い手のひらの上で、必死に服を掻き集めると、体につけようとイゴイゴ動くが、 当然着れるわけもなく、服だったそれは手のひらに落ちた。 鑑賞するのも悪くないが腹が減ってしょうがない。 俺はショックでへたりこむ豆実装の髪もプチプチと引っこ抜きゴミ箱へ投げた。 「レェェ!?………レエェェェェェェン! レェェェェェェェェェンッ!」 喧しく泣きはじめる豆実装が両目から色違いの本気涙を流しはじめ… さてといい頃合いかな。 そのままポイっと口に放り込む。 「レッポプァ!?」 「「「レェェ! レッチューーーーーーン!?」」」 皿の中でも別の豆実装どもが騒ぐが、どうせ逃げられないからいいか。 今度はすぐに噛まずに口の中を転がしてみる。 イゴイゴと俺の口から逃れようと暴れる豆実装だが、所詮豆は豆。 蛆と大差ない力で逃げられるわけもなく簡単に舌で押さえつけられる。 感覚で言えば動くマカロニと言った感じだろうか。 ふよふよと心もとない皮膚は、少し舌に力を入れれば簡単に裂けてしまいそうだ。 あっぷあっぷと俺の口の中で暴れる豆実装は滂沱と本気涙を流し、その塩っけがなかなかに丁度いいな。 よく口の中で涙と豆実装を絡めて… プチリと噛み砕いた。 おお、さっきより美味しいかも。 口の中であがる断末魔と一緒に、先ほどと違って少し塩っけの乗ったジソ風味がいい塩梅だ。 だが如何せん食感は大差ないな。 うーむ、お徳用だけあって値段もやすいからなぁ。 安かろう不味かろうなんだろうか? や、不味いってほど不味いわけじゃないんだが、 食用蛆の方がなんとなく味が濃い気がするんだよ。 あー、ふと思い出したが食用蛆は本来仔実装になる個体を、 あえて蛆のままにしたんだったか。 それなら納得が行く。 先天性の蛆は基本的に缶詰とか加工食材になるか、実装フードに使われる。 先天蛆は個体としても食材としても底辺の存在なのだ。 だからそれに準ずる豆実装も味に期待はできないのかもしれない。 だから安く売るしかないってことか…。 俺は試しに皿に乗せた豆実装を叩いたり痛めつけてから食べてみた。 確かに食感は多少良くなったが、やはり味はたいしたことがない。 何匹かまとめて頬張ってみてもダメ。 茹でてみてもダメ。 焼いても揚げても美味くない。 これはアカン…… そうして気がつけばパックの中は1匹しか残っていなかった。 なんというか、食べる気がこれほどまでに無くなるとは… パックの底でプルプルと震える豆実装。 このまま放置してもそう長いことなくパキン死しそうだが。 俺のポリシーとしてお残しは許されない。 だが、食いたくもないし… 「レ…レリューーーーン♪」 最後の最後で絶望にやられたのか、豆実装が俺におあいそを見せる。 豆実装からすれば殺されるかもしれない今、本能からの行為だったのだろう。 ただこいつの誤算は俺がその姿を見てあることを思いついてしまったことだ。 「こいつに仔を産ませれば鮮度がいいぶん美味いんじゃね?」 果たして豆実装が仔を産めるのか。 などということはこの際どうでもいい、ともかく食材としても食べ切らなきゃ俺のプライドが許さんのだ。 冷蔵庫からタバスコを取り出し、豆実装をパックからつまみ出す。 イヤイヤと暴れるが頭を指でキュッとつまむと、レジィと一鳴きし泣きながら硬直した。 そこにサッとタバスコを目に点眼してやる。 「ジャァァァァァァァァァァァッッ!!!!???」 摘ままれた顔を歪ませて、兎口を裂けんばかりに開く大絶叫。 ボコボコと一気に腹が膨らんで。 ピキリと怪しい音が…… ポボンッ! あ。 摘まんだ豆実装の頭から下、体が丸ごと爆発した。 降り注ぐ赤と緑の飛沫と胎児。 そして……えもいわれぬ不快な臭いが鼻を突く。 「げええええっ! くっせーーーーーっ!」 そう、俺は忘れていたのだ。 豆実装を蘇生してから既に40分。 説明書には… 『仮死から復活後30分以内に食べてください、栄養剤から糞を生成してしまいます』 の文字。 とっくに栄養剤は糞化して、出産の膨張と一緒に部屋と俺にばら撒かれたわけだ… うげえ、買ったばかりのカーペットが…緑の飛沫でまだら模様になってやがる。 その日、俺の嘆きがこだました… ………掃除、はじめよう…… ……………合掌。 しばらくして床に落ちている豆実装の顔が、ザマアミロと嗤っているようにみえたとかどうとか。
