底冷えのする朝の食卓には、パンとサラダに、インスタントのスープが並び、 少し離れたテレビには、実装石専門メーカー…たしかメイデン社とかいったか…、 の新しい実装駆除製品の宣伝が流れていた。 私が着席する前に、娘はもう食事を平らげた後。 部活動の朝練に出るために、娘はいつも私より先に家を出る。 娘が席を立ったのは、私が席に着いたのと同じタイミングであった。 いつもの風景である。 「いただきます…」 「じゃ、いってくるねー」 「いってらっしゃい。あ、美幸! ちゃんとスプレーかけてきなさい! ほらまた公園のあいつらが…」 プシュっと、妻が美幸に実装忌避スプレーをふりかける。 あれも安くないんだよなと、毎度のことながら一般庶民に迷惑をかける野良実装にはイライラさせられるものだ。 嫌われて虐待や駆除もされるのに、何故かわざわざ人間にちかよってくる実装石達。 もう少し野生動物のように距離をおけば、人間と住み分けができるものを。 そういえばまた公園の野良が増えているのだったか。 先日回ってきた回覧板に、来週行われる『一斉駆除に協力のお願い』が添付されていたな。 私は仕事で参加できないが、年がら年中かりだされる近所の皆さんには苦労をかける。 「町内会長さんにお年賀は出したよなぁ」 「え、なんですか? もうお父さん、もうすぐ出る時間でしょ、早く食べて食べて!」 「あ、ああ…」 『デッスンデッスンデーッスン♪』 『テチィテチィテッチューンテーテチィ♪』 『ハーイ♪ 今日もおっはよーぅ! 朝のテチューンタイムはっじまるよー♪』 テレビには実装石向け番組が流れはじめ、妻がほらと指差した。 ちょうどこれがはじまる時間が家を出るタイミングで、急かされるようにスーツを羽織る。 プシュプシュと前後ろに実装忌避スプレーをふりかけ、 撥糞加工されたコートと靴を身につけ家を出た。 ################### 「チベッ!?」 家の玄関を開くと同時に、何かを跳ね飛ばした感触があった。 急いでいたとはいえ、またやってしまったか…。 ドアの外には緑の染みと親指だと思われる残滓。 このパターンはあれか… 「デギャーーー!デーデスー! オロロ?ンオロロ???ン!」 案の定、玄関先で待機していたらしき成体実装石がその染みに駆け寄り、 私を見ながら泣き声をあげた。 泣き声に涙が伴われてないのが浅ましいのだが。 「デスデッスデス! デッスデーッスン!!」 泣き真似をしながらこちらをチラチラと伺う親実装。 リンガルなどなくても、仔を殺したことを責め、 責任を取れと厚かましく要求しているのだろう。 まったく仕事に出る前にやめて欲しいものだ。 私は面倒になり、玄関先に置いてあるコロリスプレーを成体の顔面に問答無用で吹きかけた。 「デッ!? ゲゴォガッ?!」 「母さん行ってくる、いつもみたいに頼んだよ!」 「あーもうまた!? 臭いし恥ずかしいからやりたくないんですけど!」 家に押しかけた野良は禿裸にして玄関先に最低1日…もしくは死体が消えるまで…晒しておかないと、 成功したものだと思いすぐにまた別の野良がやってくる。 門を開けて道路に出た先でも、お隣さんが剥かれた実装石の死体を門前に投げているところだった。 「おはようございます、お宅もですか?」 「あ、虹野さんおはようございます。 そうなんですよぉ、この季節は嫌になりますねぇ」 「ウチも今しがた…出かける前にたまりませんよ」 「ええ本当に。それじゃいってらっしゃい」 「では」 私は軽く頭をさげ、駅に向かって歩き始めた。 その途中でも道沿いや、家の横をデスデステチテチと親子らしき実装石達が何匹か横切っていく。 気温が低く、食糧事情の悪くなる冬は、ある意味で実装石達が活発に動き回る季節だ。 特に住み着いている公園の周りが住宅地である場合は如実である。 コンビニ袋や自転車カゴへの託児は当然のこと。 各家庭に侵入を試みたり、ポストからの強引な託児、 先ほどのように仔をダシにした被害者演技などもよく見られる。 特に今年に入ってからは酷い。 愛誤派の無計画な餌のバラマキで増えてしまった仔をどうにか押しつけようとし、 どの家庭でも実装対策を余儀無くされている現状なのだ。 私は実装石には興味がないし関わりたくないので、 わざわざ自分から殺したりはしないが、最近は虐待派も増えてきているそうだ。 「デヒッ! デギャァァァァァッッッ!!!」 「テチューン♪………………チュチベッ!?」 「くせーしうっせーんだよ、勉強できねえだろうが糞蟲がぁ!」 センター試験も目前なのに、家が公園の前なのが災いしてノイローゼ気味? だと思われる学生が、公園で実装石親子を蹴り上げていた。 ごろりとこちらに転がってくる成体が、私に助けてくれと手を伸ばす。 もちろん臭いや汚れをうつされてはたまらないし、関わりたくないので放置だ。 「デェェ…デズゥゥゥ……………」 私の後ろからはいつまでも…助けてほしい、食べ物がほしい、飼ってもらいたいなど、 様々な感情をないまぜにした声が聞こえてくる。 だが、まったく後ろ髪を惹かれることもなく私は歩き去った。 これが日常だからだ。 今日も仕事が待っているというのに、町は実装石で溢れている。 住宅地で、公園で、道路で、橋で、コンビニで、駅で。 どこにでも奴らは居るし、どこででも人間に寄ってくる。 なぜこの世界はこうなのだろう、どこで間違ってしまったのだろう。 確実に庶民は実装石に手を焼き、時には駆除し、ごくごく稀には飼う人間もいるだろうが。 駅の階段で仔をつれた野良が、誰かも分からぬ足で踏み潰された。 途端にあがる悲鳴は、実装石の死であがったものではない。 汚れた服を嘆く悲鳴だ。 そんななか、踏み潰された仲間をその場で食べはじめる別の個体。 これで人に嫌われないはずがないのに、それでも実装石達は人間のそばで生きている。 だが、それも人間慣れてしまうもの。 これが実装石なのだ。 ほとんどの人間から忌避され、嫌われる実装石に、 私もどうでもいいかと、そう思えた。 さあ、早く仕事に向かわねば。 仲間を食べている仔実装を踏みつけ足を払い、 急いで電車に飛び乗った。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/09/02-21:15:50 No:00007929[申告] |
| 愛護でも虐待でもない普通の人はこんな感じなんだろうね
しかし毎朝これじゃ嫌になるわな… |