キン!ぷるんぷるん…ぽてん。 「ふう、またつまらぬものを斬ってしまったデ…」 ぺちん! 「セリフは最後まで言わせてほしいデス!」 「いちいちポーズ取ってないで次だ、次。はい。」 「デー…調子狂うんデスよ!ふぅ…」 実装石が腕を腰に留める。 「デェヤッ!」 キン!ぷるんぷるん…ぽてぽてぽて。 一閃の後に人参がきれいに輪切りになった。 「またまたつまらぬもの…」 「飯抜きでいいか?」 「いやいやいやいや!それだけは勘弁デス!。ハイサイハイサイ!次は何デスか!?」 「はぁ…なんでこう…はい次これな。」 「うーむ……はい、行くデス。…デェヤッ! キン!ぷるんぷるんぷるん…ぽてててて。 本当、なんでこうなったんだ? 男は目の前の実装石を眺めてそう思う。 実装石の腕には一振りのこんにゃくが一つ。 『斬鉄剣』 事の発端は某怪盗に出てくる侍が悪い。 もっと言えばテレビをつけっぱなしにして眠っちまった俺も悪い。 とにかく呪いたい。もうなんだこれ?わけわからん。 なんの因果か、テレビで斬鉄剣がコンニャクを斬れないシーンをやっていたらしく 当時仔実装で幼かったコイツの脳と偽石は奇妙なアップデートを果たしたらしい。 曰く「コンニャクって、鉄よりも強いテチ?」 曰く「なら、技を究めればコンニャクでなんでも斬れるようになるテチ!」 どうしてそうなった。どうしてそうなった。どうしてこうなったぁ!糞テレビめ!絶対に許さない。 そして安易にコンニャクを与えてしまった当時の俺を全力で30発くらいぶん殴りたい。 それからが俺の受難の日々だった。 最初のうちは檻にぺちぺちこんにゃくをたたきつけるだけだったので笑って見て居られたのだが 気がつけば、檻にカンカン、檻にガンガン…実装石の成長とともにあきらかにコンニャクが出して良い音じゃ無くなっていった。 いやいや、コンニャクですよ!?気のせいだと思っていたら…とうとう檻がキン!という甲高い音とともに、崩れた。 「テスー…ひとまずここまで来たテス…でも、まだ極めれてないテス。」 「もっと…もっと堅い物が斬りたいテス!」 「ちょ、待て馬鹿!?」 まぁ…おバカな実装石の変な盲目の集中力、なめたらいかんですわな。 その日のうちに我が家は酷い有様となりました… 「テェヤ!」キン!カコォン! 電気スタンドのパイプは叩き斬る。 「テェヤッ!」キン!バリャンッ! 瓶を叩き砕く…叩き砕いたと思えば満足がいかなかったらしく… 「斬るじゃ無く砕けたテス…修行足らんテス!もっと!もっと修行するテス!」 と、言いベランダのガラスを砕こうとする始末。 またある日は…もうなんともいえない 「デェヤァッ!」キン!ガンゴロンガンゴロンドガラララ… どこまで行くのこの仔? 自動車を斬りたいとか言いだして、近所の駐車場に行きかけたのをあわてて止めてスクラップ工場に忍び込んだは良いけど… 「…一山丸ゴト縦切りデスカ。」 3つ山を斬り崩したところで近所の人が通報したらしく、パトカーのサイレンが聞こえてきたところで逃げ出した。 実装石はまだ満足していなかったらしく、うちの旧テレビ(地デジ非対応・ブラウン管)が真っ二つになった。 ブラウン管ってさ、実は鉄バットがへこむ位硬いんだよね…。 もう手に負えない。と思った頃に 「デェ…硬いのはそろそろいいデス。次は正確さに磨きをかけるデス!」 と、言いだしたのが救いだった。 …いま思えば正確さに磨きをかける前に違法BB銃で撃ち殺せばよかったんじゃなかろうか。 「デス?デス!デス!…おーい?人間さん?何ぼぉっとしてるデス?」 「ああ、すまん、少し気が遠のいてた。」 「人間さん、風邪デスか?それとも恋患いデスか?」 「いや、どっちも無い。本当にただぼっとしてただけだ。ほれ、次ゴボウ。」 「むー…長いデスね。人間さん。私にそれ放り投げてほしいデス」 「じゃ、1・2・3で。」 「デス!来るが良いデス!」 「俺は斬るなよ?1・2・3、ほい。」 「デェヤァァァッ!」 空中でゴボウが端から端まできれいに輪切りになった。 「デぇィ!ふぅ…もう二・三本くらいならまとめていけそうデス。」 「人間さん、もっと無いデス?」 正確さも育ってしまった今では、空中のBB弾をたたき落とすくらいは簡単にやってのける。 ある日に「そろそろやってみるデスか。」の一言の後に自分を電動BB銃で撃て、と言いだして 実際に撃ったらBB弾すべてを真っ二つに斬り捨ててのけたのには戦慄を覚えた。 …てか、そもそもこんにゃくでどうやって正確に真っ二つに斬ってやがんだ。 おもむろに実装石が地面にしゃがみ込んで、何かを見ているなぁ、と思っていたら 「…何発か砕けてしまったデス。修行がまだ足りんかったデスか。人間さん!もう一度頼むデス!」 などと言い出す始末。限度を知らない。 ちょっとした虐待派ならバールごと真っ二つになるんじゃなかろうか…。 もうあとは火攻めにするくらいしかこいつの潰し方思いつかないよ…。 「人間さん?ちょっと?人間さん?…あのぉ?」 「あー…?あ、すまん。」 「本当に大丈夫デス?」 「大丈夫よー?ちょっとツかれてるだけだから。」 「これ終わったらゆっくり寝たほうが良いデスよ?」 …人間、実装石にすら心配されたらなんか終わった気がするの。 「あー…とりあえず残りは…」 「なんか最近人間さん元気無いデスね?」 誰のせいだと。 こんな超人実装石にも弱点はいくつかあるにはあったりする。 「残りはこれだけなんだが、いけるか?」 俺の手にはコンニャクが一丁。ぷるんぷるんと波打っている。 「デゲェ…それがあったデスか。」 すぅぅぅ…ふぅぅぅぅぅ〜〜…… 実装石は一息深呼吸を入れると 「良し!来るが良いデス!」 気合いは十分、ヤる気もまんまん。 「んじゃ、1・2・3で行くなー。」 ちと意地悪く気合いを乱すように気の抜けた声をかけて 「1・2・3…ほい。」 ワンテンポずらして投げてやった。 「ちぇぇりゃぁぁぁぁ!」 掛け声はもう実装石ですら無ぇ。 ガキン!バァン!べちゃべちゃべちゃ… 「デェ…どうにもコンニャクだけは斬れんデス。」 実装石の手に持つコンニャクは腹のあたりが無くなって、斬ろうとしたコンニャクは空中で破裂した。 「おふぅ…」 地味に痛い。破片が当たると地味に痛い。 どんな力でぶっ叩いてるのかゾッとする。 こんな塩梅で、こいつはコンニャクに関しては斬ることができない。 つっても、斬る事が出来ないだけで、さっき放り投げた一丁のコンニャクは空中で爆発するがごとく破裂しているので弱点と言えるのかどうか…。 「デェ…スマンデス。コンニャク台無しになっちまったデスゥ。」 「とりあえず、お前の今使ってる奴で代用するから没収な?」 「デゲェ…仕方ねぇデス。ドウゾ。」 実装石がうやうやしく、両手で腹の吹き飛んだコンニャクを掲げる。 「ん。」 腹の無いコンニャクを受け取る。ぷるんぷるん。ぺちぺちぺちぺち…。 自分の手を受け取ったコンニャクで叩いてみる。 手は斬れるはずもなく、コンニャク自体も何の変哲もないただのコンニャクでしかない。 ぺちぺちぺちぺち…斬れるはずもない。のに、こいつはどうやって斬ってるんだろう? そもそも刃もついて無いのにどうやってきれいに…ぺちぺちぺちぺちぺちぺち… 「あのー、人間さん?私のお毛ケまみれのこんにゃくでも食いたいデス?」ぺちぺちぺちぺち… …いかん、無意識に実装石の頭をコンニャクでぺちぺちしてたらしい。 「いや、なんとなく?」 じゃーっと水でいろいろ洗い流す。 包丁を入れる。ストン、と簡単にこんにゃくは切れた。 …………普通のコンニャクのはずなのになぁ。 一口サイズに切ったコンニャクを鍋に入れる。 先に切ってもらった具材とあわせて調味料を適度に入れて…しばらく煮込む。 あとは出来るのを待つだけだ。 ぐつぐつと、鍋からコンニャク含めた具の煮えていく音がしていた。 「デッスー♪昼飯デェッスー♪」 こういうところはこいつも実装石然としている。 その腰にはどこから用意したのか、新しいコンニャクが存在していた。 俺はもうつっこまない。 今日の昼飯は、竹田煮に白米と大根とにんじんの味噌汁。 実装石にも量少なめで同じものを出してやる。 …この甘さがこの現状を招いた気がしないでもない。 「そういえば。」 「なんデス人間さん?」 「いやさ、少し気になったんだけど、この竹田煮の具のコンニャクじゃお前の芸当って出来ないのかな?と思って。」 「あと、田楽とかでも行けないもんなん?」 そうなのだ。ふと思えばこいつが振るうコンニャクはすべて未調理のものばかりなのだ。 「ああ、それは区分の問題デス。」 さも当たり前である、といった気配で実装石は言う。 「すまん、どういう意味だ?」 いまいち理解ができない。 「たとえばです。そのお椀の中のコンニャクの切れっぱし見て、人間さんは何と認識するデス?」 「何って、コンニャクはコンニャクだろ。」 「その前デス。今はコンニャクに意識が行ってると思うですけど、『竹田煮』というカテゴリの中の『竹田煮の具のこんにゃく』という風に認識してなかったデス?」 「なにその七面倒くさいの…、今一つまだ理解できないんだが。」 「単純な話です。調理されちまったら、それは調理されたものになっちまう、て話デスよ。」 「『コンニャク』の枠の外に『竹田煮』の枠が被さって、『コンニャク』って認識が薄れるのデス。」 「たとえば、『無職童貞の』とか、『商社のエリート』とか、枕ことばが付いちまうと同じ人間さんでも見え方違うです?」 「どんなものも、そんな感じでイメージ一つで在り方ががらりと変わるモノなのデス。」 「あー…とりあえず、調理された物は武器として使えなくなるってイメージで良いのか?」 話半分話半分。実装石の話なんかまともに取り合っちゃいけない。 俺にとって重要なのは家具が壊されるか壊されないかだけなんだ。 ハァ、と実装石はため息一つ。 「まぁそんな認識で良いデス。人間さん、本格的に休んだほうが良さそうデス?目の下とかもとんでもない事になってるデス。」 誰のせいだと…あーもう、なんでおれこいつ生かしてるんだっけ? いやまぁこいつがどこまで行くか、面白そうだからまだ興味は尽きないのだけれどもさ。 「ご飯食べたらゆっくりお布団でぬくぬくして寝ちまった方が良いデス。」 「あーそうだね、そうするよ。」 「じゃぁとりあえず」 「デス。」 「「いただきまーす。」」 がつがつもぐもぐ。 ガリッ。…ぺっ。 「…お前さ、これで何斬ったの?」 「デェ…?いや、頑丈って噂の銀行の扉を…」 俺に心休まる日は来るのだろうか。 どっとわらい。
