冬の朝 毎朝通りがかる公園で、野良実装がガタガタ震えながら弱い冬の朝日で暖を取っていた。 只でさえ人目につく行為は危険を伴うのに、冬の朝の冷え込みはその恐怖に勝ったのか。 親子で弱々しく鳴きながら、冬山の野ザルよろしく身を寄せ合って震えてる姿が、 なんだか妙に不憫に思えて少しだけ寒さを和らげてやろうという気になった。 まぁ、年の暮れも近い事だし少しだけ早いクリスマスプレゼントってヤツだ。 「オイ、そんな風に湿気の多い便所の壁に張り付いてたってちっとも暖かくないぞ?」 「テッ、テヒャッ!?」 急に話しかけられ驚いたのか、逃げようにも全身凍えてまともに走れず転げ回る始末。 その間抜けな姿に大笑いしつつも、手近の側溝で朽ちていた楕円型の鉄屑を拾って差し出す。 持ち手が取れて歪んだ錆び付いた鉄板、フライパンだった頃の原型がわずかに見て取れる。 虐殺されるものと怯えていた親子が顔を見合わせ、怪訝そうに俺を見返してきた。 「なぁにちょっとした工夫ってヤツだ。多分フライパンかなんかだろうが…」 「コイツの黒い部分。ここに陽が当たると暖かくなる。使いな」 「デェ…?」 懸命に子供を背後に隠しつつ、差し出された錆び付いた鉄屑と俺の顔へ何度も視線を走らす。 害は無い、そして親切な施しか何かと納得したのか、親実装がオズオズと近寄ってきた。 それ以上の説明も面倒だし関わり合いを持つ気も無いので、適当に朝日が当たり、 それでいて通りがかる人目につきにくい植え込みの陰に鉄屑を斜めに立てかけてやる。 これで鉄板部分に背をあずければ、風も受けずに野良実装共が日向ぼっこ出来るはずだ。 「じゃあな。せいぜい、ソイツで寒さを凌いでくれ」 実装相手とはいえ親切をした事で少しだけ心が温かくなった俺は足早にその場を後にした。 ◆◆◆ 数日後、たまたま公園を通りがかった際、あの実装親子達の事を思い出した。 寒さに震えていたあの親子が、少しは暖かさを味わっているだろうか? 「お…?」 鉄屑は同じ場所にあった。 ただし、植え込みに立てかけていたのが今は地面に置かれている。 大方、実装がはしゃいだかどうかして植え込みからズレて倒れてしまったのだろう。 「仕方が無いな」 植え込みに建てかけ直してやろうと鉄屑を覗き込むと、 何か黒いゴミ屑のようなものがフライパンの内に張り付いている。 「なん…だこりゃ…?」 彼は知らない。 親切で設置したフライパンの場所には確かに弱々しい朝日しか当たらない。 だが、向かいの建物の窓ガラスの反射が、昼頃にその場所を直射していた事を。 冬の弱い日差しとはいえ、反射日光でかなりの高温になる。 まして、陽が当たっていたのは黒い鉄屑だ。 不幸は重なる。 冬の朝日に喜んでいた実装親子は、前日に生ゴミを漁って油まみれだったのだ。 哀れ、暖かさに有頂天だった実装親子は鉄屑に張り付き、灼熱地獄で親子仲良く昇天したのだった。
