タイトル:【観・哀】教授が実装石に興味を持ったようです②『野良』
ファイル:教授が実装石に興味を持ったようです②.txt
作者:ムツジソウ 総投稿数:23 総ダウンロード数:1249 レス数:0
初投稿日時:2013/12/10-20:31:47修正日時:2013/12/11-13:09:41
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H大、経済学部特別講師、米沢典明(よねざわのりあき)の朝は早い。
 
まだ空も暗い午前05:29。
一分後に目覚ましがなる前に、むくりと起き上がると、
彼は実装紅型の時計、その頭を押した。
 
娘が押しつけてきたこの時計。
頭を押すとダワッと声が出るかわった時計だ。
 
目覚ましを切り、ベッドから立ちあがる。
秋も半場にもなれば、H道は気温が氷点下になることも珍しくはない。
だが、米沢は暖房をつけずに、ベットを整え、シャワーを浴び、髪を整え、パリッとしたシャツにスーツとコートを着込むと、
朝食も取らずに家を出ようとした、が。
 
 「おっと、忘れていました」
 
ベランダにある小さな墓に両手を合わせ。
うむと頷くと、靴を履き外に出た。
 
 
 
創成川近くにあるマンションから川沿いに北へ。
しばらく進むと見えてくる大通公園と大きな鉄塔。
革靴をカツカツと鳴らしながら、米沢は公園を訪れた。
 
道すがらデーソンで固形栄養食と金平糖を買ってきた。
あまりこの栄養食は好きではないが、食事を取らねば頭が動かない。
 
Sテレビ塔の横を通り、広場をクルリと眺めるが、いない。
 
もそもそと口に含んだ栄養食を嚥下し、公園をしばらく進む。
すると、米沢の求める件の生物、実装石がチラリと先に見えた。
 
 
 
昨夜は氷点下を下回ったS市である。
野良であろう成体の実装石は、体を震わせながら、公園を横切っていく。
手には破れそうなビニール袋をさげ、公園から道路を渡り、建物裏のゴミ集積所へと走っていく。

 「デッデッデッデッデッ」
 
今まで気にもしなかった実装石。
走る時に勝手に声が出るようで、本石?は人に隠れて移動しているつもりのようだが、
灰色の街の中に映えるその緑色は、まったく隠れきれていなかった。
 
後ろを普通について行く米沢にも気づいていない有様の実装石は、
ゴミ集積所まで来ると、網で覆われたゴミをあさりはじめる。
 
 「デー……デスゥ、デッス………デスァー…………」

手元のリンガルを見ると。
どうやら燃えないゴミしかないと落胆しているらしい。
 
トボトボと家路につこうというのか、振り返った先には当然の如く米沢が立っていた。
 
 「デッ!?」
 
ここは建物裏の集積場。
実装石に退路はなく、こんなところにゴミも持たずに来た米沢を虐待派とでも思ったのか。
 
 「デシャァァァァァァァァッ! デシャッ! デシャァァァァァァァァッ!」
 
四つん這いになり、威嚇を放った。
 
その様子を見て米沢は。
普段二本足で行動するのに、何故威嚇は四つん這いなのだろう?
等とまったく関係ないことを考えていたわけだが。
 
服はボロボロ、顔にはアカギレと目やにがこぼれ、お世辞にも綺麗とはいえない姿の実装石。
据えた臭いがするが、糞は漏らしていないのかネットで見聞きしたよりは臭いもキツくはない。
 
ふむと、その威嚇にも全く動じず、米沢は袋に手を伸ばす。
 
そこにあるのは、実装石が最も好むらしいお菓子、金平糖だ。
そもそもポルトガルのお菓子なのだが、どの個体も総じて好きということは、
実装石とはポルトガル産なのであろうか?
と、また意識が思考に飛ぶのを抑え、一粒、目の前に取り出した。
 

 「デデッ!? デシャァァァァァァァァッ!」
 
一瞬驚いた顔を見せる実装石。
だが、すぐに再び威嚇をはじめる。
思った以上に警戒心が強い、野良は金平糖を見ると自分から近寄ってくると書いてあったのだが…。
 
リンガルには。
 
 『そんな偽物には騙されないデシャァ!』
 
と書かれている。
 
ネットで調べたところの、頭の良い個体なのだろう。
厳しいH道の冬を前に、こんな朝早くから、他の実装石より先にゴミ漁りに出たのも頷ける。
米沢は慌てずに、その金平糖を自分の口に放り込んだ。
 
威嚇を続ける実装石に、大丈夫だよと2粒3粒と口に入れカリコリ食べて見せる。
そして膝を落としながら、そっと目の前に転がしてやった。
 
 「おはよう実装石、ちゃん?でいいかな。
  わたくしは君たちに興味があるのです。
  話が聞きたいのですが。私の言っている言葉がわかりますか?」
 
リンガル越しのその言葉に、顔をしかめ睨みつつも、とりあえず威嚇を解く実装石。
 
四つん這いのままフンスと金平糖の匂いを嗅ぎ、ペロリと一舐めすると、
問題ないとわかったのか一粒を口に含み、残りをビニール袋に突っ込んだ。
 
 「デスー? デーデッス デスデスデース(ニンゲンサンが何の用デス? ワタシ達は迷惑かけないように生きてるデース)」
 
ヒョコリと立ち上がり、袋に入れた3粒の金平糖を落ちないよう包むと、
未だ警戒はしているのかジッとにらみつつ、米沢の横を素通りし、公園へ歩きだした。

 
この時、米沢は気がついていなかったが、この実装石は野良化したばかりの里実装だった。
厳しい極寒の地でほそぼそと暮らす山実装達。
そこから間引きを恐れて里に下った、この実装石の親は、人間の世界に触れ、
次第に普通の野良として街の公園に根付いていった。
 
最初から野良として人間に媚びる実装石と違い、
山実装の習性をいまだ持つこの実装石は、他の野良とは違う価値観を持っていたのだ。

人間には、意思疎通を図るためのリンガルが必要であるが、思った以上に人間的な思考を持っている生物のようだ。
ただネットで見た実装石と違い、本物は思ったよりツンケンしているのだなとひとりごち、
米沢は実装石の後ろを追った。



 
公園の端にあるベンチ。
その後ろ、通りとの間にある生垣の下に、ひっそりとそのダンボールは置かれていた。
入口はしっかりと木の板で塞がれ、一見するとただの打ち捨てられたベニヤ板にしか見えない。
中からはテチテチと、仔実装と思われる鳴き声がしていた。

母親が戻ったことに気がついたのだろうか。
木の板がズレると、中からは10cmほどのプックリとした仔実装が飛び出し、テッチー♪と親の胸に飛び込んだ。

 (嬉しげに母に甘える子供というのは、どんな生物でも可愛いものなのですね)

米沢は優しげに目を引きつらせ(微笑んでいるつもり)見守る。
 
 「デスデーデス! デー?(危ないから出てきてはダメデス!  みんないい子にしてたデス?」
 「テチィー♪(ママおかえりテチィ♪)」
 「テチテチャー♪(ママ! ママー♪)」

後からもう2匹、テチテチと走り寄り、ポスンと親実装の胸に飛び込んだ。

 「デーデスー(もう、しょうがない子たちデス)」

胸に収まった3匹の仔実装を、やさしく撫でる親実装。

ふと、親の胸に抱きついていた仔実装の1匹が米沢に気がついた。
親と違い、あまり警戒心がないのだろうか。
親から離れ、こちらを見上げると、右手を顎の下辺りに添えて、首を少し傾げるポーズをとる。

 「テチュン?(ニンゲンサン?)」

ほう、これが噂に聞く『おあいそ』ですかと、米沢はにこやかに(口元をひきつらせながら)笑った。
人によっては非常に気に障るポーズらしく、ペットショップなどでは禁止している場所もあるそうだ。
米沢自身はそういうポーズなのだろう程度なもので、別段イラつくこともない。

 「はい、おはようございます。仔実装ちゃん」

しゃがみながら手を伸ばす米沢に、親実装は睨みをきかせながらも、多少は信用してくれたのか手出しをすることなく見守っている。
仔実装とはいえやはり野良は野良なのか、手に触る髪の感触は固く、油にベトついていた。
テチーと、暖かな米沢の手に目を細めてうっとりとした表情を見せる仔実装。
その様子を見ていたもう二匹も、米沢のもとにテチテチと歩みより、期待するように頭をさしだしてきた。

 「君たちは野良の実装石だそうですが、私や他の人間がいるこんな街中では危険なのではないですか?
  虐待派も少なくはないでしょう。私自身見たことはないのですが…ね」

頭を撫でられ、気持ち良さげに頬を緩ませる仔実装。
1匹は喉を米沢の足にのせ、遊んで欲しいと期待の目で見上げている。

 「デースー。デデッスデーデーッスン…(危険デス。でもこの寒い土地じゃ仔もまともに育てられないんデッスン…)
  デスー、デッスデス…デスンデーデスン(ワタシのママはもっとお山の近くにいたデス、
  でもみんな寒さと飢えで動けなくなって…生き残る事ができたのはワタシと次女ネエチャだけだったデス)」

親実装は寂しげにそういい、米沢の足元で甘えていた仔実装1匹を抱き上げ胸に強く抱きしめた。
テチー…と苦しげに鳴き、イヤイヤと首を振る仔実装。
他の二匹もそれに気がついたのか、米沢から名残惜しそうに離れ、親のもとに寄っていった。

確かに、米沢でさえ防寒に固めた姿でないと厳しいH道だ。
見るからに寒そうな薄っぺらい緑の服で、実装石達はここにいる。
里山の野生実装は更に過酷な環境だろうことは想像に難くない。

 「君は飼い実装になろうと思ったことはないのですか?
  それと、君のお姉さんも生き残ったということですが、今はどこに?」

 「デスー、デッスデデッスン(ワタシはあまりニンゲンを信用出来ないデス、でもこの仔達は飼いにできるならしてやりたいデッスン)
  デー…、デスデーッスデス…(次女ネエチャは…、たぶんこの公園の西の方に居ると思うデス、死んでなければ…)」

野良実装は群れない。
山実装の場合は過酷な環境に適応するために群れで生活するというが、野良は基本一家族単位で生活をする。
愛情を家族に注ぎ、それ以外の他実装石にはむしろ厳しい対応を取ることのほうが多いと聞く。
つまり姉と別れたのも巣立ちと同じようなもので、彼女たちからすれば当然のことなのだろう。

ふむと、米沢は仔を抱きしめる親実装を見た。
できることならば私が飼ってあげたいが…、どうやらこの家族は愛情深い家族のようで、
仔実装3匹もずっと寄り添って近くから離れようとしない。

 (飼えても1匹が限度。どうしたものでしょうか…)

それに、色々調べたことから初心者は野良を飼うことは推奨されていない。
個体ごとに個性の強い実装石は、野良ならば野良の、どこか歪んだ欲求をほぼ必ず発症させ、糞蟲と呼ばれる害獣になりやすいらしい。
それが多頭飼いであるならばなおのこと、一匹が糞蟲化するとなし崩し的に苦労も乗算されていくという。

 「そうですか…」

今答えを出すべきではない、そう判断した米沢は立ちあがり、手に持った金平糖を親実装に手渡す。
ついでにスーツに忍ばせたホッカイロを持たせてやり、親実装の頭を撫でた。

 「また来ます、これからもっと寒くなりますから気をつけてくださいね」

 「デスー…デッス。(本当はこの仔を飼ってあげてほしいデス…、でも無理にとは言わないデス)
  デッス、デスデェース、デスデーデッスン(あと、他の野良には気をつけるデッス、ワタシはまだ山里の血が残ってるデスが、
  本当の野良はもっと頭の悪い糞虫ばかりデス、こんなふうに金平糖を渡したらつけあがるだけデスー)」

立ちあがり、後ろを振り向こうとした米沢の足に、小さい抵抗を感じた。

 「テチ…?(どこかいっちゃうテチ?)」

米沢のかかとに抱きついた仔実装をやさしく持ち上げてやり、頬を撫でてから親実装に手渡した。
テチーンと寂しそうに鳴く仔実装に後ろ髪をひかれながら、米沢は大学へ…。



 「ヒャッハー!!!」
 「デギョアッ!」



次の瞬間、雄叫びと叫びが混ざり、スローモーションのように公園を飛ぶ…『実装石の頭部』
赤黒いヌメリが頬に跳ね、ピシャリとコートに染みをつけた。

米沢はなにが起きたのかわからず、飛んで行く親実装だったモノを目で追って…。
ただただ、呆けるように口を開くことしかできなかった。




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難産でした。
はじめの方の文章は結構前に書いたので若干バランス悪いです…。

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