1匹の仔実装が目覚めたのは、闇が満ちた『どこか』であった。 「テチ? テチィ?」 一瞬目を開けていないとでも思ったのだろう、顔に力を入れて目を見開いてみるが、 やはり何も見えない。 次第に不安になったのか、ペタペタと顔を触ってみる仔実装。 「ヂャ!」 真っ暗な中で、顔を触って目を擦ってしまい、小さく叫んでしまった。 そのままたぶん涙目で、ペタペタと胸やお腹、足に手と触っていく。 どうやら大事な服も、髪も問題なくそこにある。 少しホッとして、仔実装はペタンとその場に座り込んだ。 真っ暗な穴の中。 先日までいた公園で何が起きたのだろう。 チィと首を傾げて考えるが、ダンボールでママや姉妹と眠った他の記憶はない。 そして気がつけばここにいた。 真っ暗なそこは少し暖かかった。 公園だったら冬の雨に降られていたから、雨漏りしたダンボールの中で寒さに身を縮めているはずだ。 そのくらいは考えられるくらいには、仔実装は頭が良かった。 チィチィとママを呼んでみる。 だが、何度呼んでもママが来る様子はない。 仔実装はしばらく鳴いてから、諦めたのか、闇の中立ち上がった。 慎重に辺りを調べはじめる。 手を伸ばしてみるが、壁には当たらない。 そのままクルリとその場で、手を伸ばしたまま回ってみるが、手に当たるものはない。 「チィ!」 しゃがんでから、思い切りジャンプしてみる。 頭上へ伸ばした手に何か当たることはなかった。 その場で四つん這いになり、少しずつ少しずつ、一歩進むごとに硬い床を叩いた。 どうやらここは地面ではないらしい。 砂や砂利に当たることもなく、床は冷たく硬い何かだ。 ときより小さな穴がポコポコと空いているが、仔実装の手が入るほどは大きくなく。 その下も、真っ暗で何かが見えるわけでもない。 そのまま少しずつ辺りを手探りで探ると、ペタリと何かにぶつかった。 スゥと、立ち上がりそれを触ってみる。 地面と同じ感触の冷たい壁は、緩やかに上へ向かって坂のようにカーブしているようであった。 少しカーブを登ってみる仔実装。 だがすぐに坂は登れないほどの角度になって、コロコロと転がり落ちてしまう。 「テチャァァァァァァァァァ!?」 思いのほか勢いがあったのか、コロコロ転がる仔実装。 すると少々転がったところで反対の坂まで来てしまったようで、 チィーチィーと息を切らせて起き上がり、今度は坂の境目を四つん這いで周り始めた。 「……テチァ……テチ……」 (ウンチ、したいテチ……) お腹はすいたし、ウンチもしたい。 でもママはウンチを食べてはいけないと仔実装に教えていたし、パンツは汚してはいけないとも言っていた。 元飼だった親実装の過去をしらない仔実装は、パンツを下ろして境目にウンチを出した。 ブリュリュリュリュッ どこに溜まっていたのかわからないくらいに、ひり出された緑のウンチは当然だが故実装には見えない。 そして生ゴミばかり食べていた仔実装のそれはとても臭かった。 「テチィ…」 (くさいテチィ…) そのまま、パンツをはき直し、くさいウンチから逃げるように坂の境目を這いだす仔実装。 だがその冒険はすぐに終わった。 それほど立たずにとても臭いウンチに出くわしたからだ。 「テッチャァ!」 (これアテチのウンチテチャ!) ここはそれほど広くない、円形のなにかだと、 ちょっと頭の良い程度の仔実装は気づけない。 ただ、抜け出せない無限回廊に閉じ込められたと、さめざめと泣くしかなかった。 それからしばらく、ポツンと仔実装は坂に座り込んでいた。 嗅覚はいいのか、とても臭いウンチから一番遠い場所に座り、 目を閉じている。 だがしかし、仔実装は気がついていなかった。 少しずつウンチが床の穴から抜けてなくなっていることに。 「……テ テチィ………」 (お腹すいたテチィ……) どれだけ時間が過ぎたのかもわからない、クゥクゥと鳴くお腹の音だけが闇に響いている。 それ以外の音は………『カコッ』……した。 テチッチーーチーー!と、意味のない叫びをあげる仔実装。 なんでもよかった、ただ暗くて、寂しくて、とても臭いここから出られるかもと、 立ち上がり叫び暴れる。 すると、上から一筋の光が射した。 あまりの眩しさに目を閉じて手で覆い、イヤイヤと首を振る仔実装。 どうにかがんばって見上げた光の穴から、一粒の緑色をした塊が落ちてきた。 そしてすぐに、パタンという音とともに光の穴は消えてしまう。 「デジャァァァァア"ァ"ァァァァ"ァァァァァッッッ!!!」 叫ぶ。 でも、開いたどこかは再び開くことなく、狂ったように鳴く仔実装の声は、闇に呑まれていった。 「デジャ! デジャァァ"ァァァ! ア"ァ"ァァァァァァッッ!!!」 再び訪れた暗闇に地団駄を踏み、何色かもわからない粘着質な涙を流す。 そして、暴れる仔実装の足に何かが当たった。 「ジャァ!?」 驚いて飛びのいた仔実装。 それは光るどこかから転がり落ちた何か。 「レフ?」 その塊は、とても美味しそうな匂いがした。 混乱し懇願し、混沌とした頭に、それから聞こえた声は届かない。 涙を流して、思い切りかじりつく仔実装。 「レピィァ!?」 おいしいおいしいおいしいおいしい、暗いけどおいしい! モゾモゾと動くそれを押さえつけ、仔実装は嬉しくてデチャァと鳴いた。 「レピャ……レ………ピ……………(パキン)」 カチリと仔実装の歯に硬い何かがあたり、 パリンと砕けた何かを呑み込んだ。 とってもおいしい硬い何かは噂に聞く金平糖か、喜ぶ仔実装の体が熱く火照る。 闇の中、仔実装はちょっとだけ大きくなった。 そしてそれからそのままで。 仔実装はいまだに闇の中にいる。 時より開く、光るどこか。 いつかそこに行くんだと、狂いそうな頭で願い。 早く大きくなれアテチと、恐怖と混乱で歪んでしまった顔を上へ向ける。 光るそこへ行くことが、いつしか仔実装の願いになっていた。 入ってくる何かはしっかり食べる。 美味しいこれがアテチを大きくしてくれると、本能でわかったのか、 暴れるそれを足で踏みつけ、レフレフ流れる臭い何かをすすり。 暴れるなにかの喉笛を噛みちぎり、美味しい金平糖を貪る。 そして、だんだんと、上への光に近づいていく自分の目線に歓喜した。 どれだけ時間が流れたかわからない。 ある日、中実装になっていたその実装石は、頭に天井が当たる日が来た。 「テッステッステッステッステッステッステッステッステッステッス………」 (ひらけひらけひらけひらけひらけひらけひらけひらけ………) ついに、この孤独などこかから、アテシは外に出るんだ。 血走った目は、闇の中、虚ろに上だけを睨んでいる。 そしてまた、『ゆっくりと持ち上がる床板』に気が付かぬまま。 その瞬間は訪れた。 『カコッ』 そして開いた光の世界。 「テシャァァァァァァァァァ!!!」 大きく兎口を開き、叫びと唾を飛ばしながら、光る穴へ頭をねじ込んだ。 中実装には少し狭い穴へ、痛みなんてどうでもいいとガキゴキ音をさせて強引に突っ込み、 引っ掛かった髪や頭巾が千切れて落ちる。 ズボッと音がして、仔実装だったその実装石は念願の光の世界へ到達したのだ。 「店長〜、一体完成したみたいですよ〜」 「お、今回は結構早かったっすねー」 「テスァァァァァァァッ!」 ここは実装専門ショップ『ロック』 その育成室で、一匹の実装商品がまた一つ、完成の産声を上げた。 三ヶ月前から発売を開始したこの商品、今では品切れが続くほどの大ヒット製品だ。 その名も『鉢実装ちゃん』 その姿は、名前のまま。 茶色い鉢から、頭だけを生やした実装石だ。 主な使用目的は農家の案山子替わり。 竹の棒にでも吊るしておけば、実装石は虐待派が居ると警戒し近寄らず。 定期的に餌をやれば鉢のしたにある穴から、糞という堆肥を勝手に出してくれる。 実装石の天敵である実装金や鴉除けの、光る傘付き。 うるさいのでギャグボールを噛ませているが、夜に外しておけば野良実装や野菜泥棒、 不審者に吠えまくるので夜の撃退用にも便利だ。 なんせずっと暗い場所に閉じ込めていたのだ、夜目が利く。 中には家に野良実装を近寄らせないために買って行く人もいるくらいだ。 糞はどうするかしらないが… だが実のところ、一番買っていくのは虐待派だった。 頭だけで嗜虐心がくすぐられるのか、面白半分に買っていく。 家に並べて的にして遊んだり、別途買っていった仔実装などの上げに重宝するらしい。 餌はわざと廃棄品の蛆実装を食わせ、凶暴そうに歪んだ顔は迫力満点。 家や畑に侵入した実装石は、頭の上に置いておけば勝手に食ってくれるからとっても便利。 ここ最近、ロックではこの鉢実装ちゃんを作ることが急務となっていた。 「テッシャァァァァァァァァ! デシャア"ァァァ"ァァァッッ!!」 首から下が出ないからか、首を振り回しながら叫ぶその実装石の目は、 ギョロギョロとあらぬ方向を見つめていた。 眩しさに目が慣れず、首の痛みと目の痛み、完全に自由が効かない自身に嘆きの声をあげながら、 製品棚へと運ばれて行く。 とっくのむかしに偽石は外されているから、仮に頭が潰されてもまた勝手に生えてくるこの商品は、 長く愛用されることだろう。 「じゃあ、そろそろ追加取って来るっす。 廃棄品適当に放りこんでおいてっすー」 「は〜い」 夜の街へ出かけて行く店長は、手にネムリスプレーを持って駆け出した。 元が鉢代だけで安く作れるこの商品。 中身は公園にいけばいくらでも手に入る。 とてもいい商品だと、今日も店長は満面の笑みで仔をさらう。 そしてその頃、新たに完成の産声を上げた鉢が… 「テズァ テズァア"ァァァァァァァァッッッ!!!」 (アテシは、自由テズァァァァア"ァ"ァァァッッッ!!!」 ////////////////////////////// あとがき: トマックじゃないかとツッコまれたので検索してみたら、まんまでした。 実際にそういうものを見ると怖いですね。 店長は拝金主義者です。実装石を金銭価値のあるものとしか見ていません。 この仔は500円 この仔は…10円っすかねー といった感じ。 そのため商品価値のある個体は非常に大切に扱います。 良いか悪いかは別として。
