タイトル:【食】 実装料理 藩献亭『ジソイクラ丼と親茶漬け』(追加:餓鬼ジソの救いガキ)
ファイル:実装料理 藩献亭『ジソイクラ丼と親茶漬け』.txt
作者:ムツジソウ 総投稿数:23 総ダウンロード数:3055 レス数:5
初投稿日時:2013/11/30-08:23:28修正日時:2013/11/30-08:23:28
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赤い提灯がならび、裏路地にひっそりと佇む、食通のあいだではそれなりに名が知れた店。

『実装料理 藩献亭(ぱんこんてい)』

今日も仕事帰りのサラリーマンに、ご近所の常連さん。
そして珍しい実装料理を求めて、県外からも客は集まってくる。

どこか懐かしい演歌が流れる店内で、
店員はオヤジさん一人きり。

今日はどんな料理が出されるだろう。



『ジソイクラ丼と親茶漬け』



大きな檜の一枚板を贅沢に使ったカウンター。
ケースの中では、今日も元気にテチテチレフレフと仔実装や蛆実装が泣いている。
そんな声に混じって、デッゲーデッゲーと変わった声。
凧のように竹組と糸で括りつけられた、餓鬼ジソが吊るされていた。

もうそんな時期が来たんだなと、期待の集まる冬の珍味だ。

天日でよく干された餓鬼ジソは、吊るし餓鬼とは少し違う。
体の大きさは中実装程度で、しっかり生かされつつ、両目が緑に染まっている。
カサカサに乾いて干物みたいになってはいるが、お腹だけはポッコリと膨らんでいた。

カッカと、オヤジが外出しの看板に、チョークで書きこんだ文字。

【餓鬼ジソあります】

それをウマミちゃんに手渡し。
「デッスデース」
チャンチャンコ姿のウマミチャンは、デッデッデと店先に置きにいった。

外からは冬の気配。

そろそろ鍋も用意しないといけないなと、短く剃った髭をジョリジョリこすりながら、
オヤジは手元のジソエビちゃんを指先で撫ぜた。


17時の開店からしばらく。1人のお客さんが暖簾をくぐった。
入るのに躊躇したのだろうか、店先から中をチラ見して、覚悟を決めるように入ってきた男性客。
知った顔ではないから、初顔の…しかも実装料理の初心者のよう。

「らっしゃい」
「デスデー(らっしゃいデース)」

いつものようにオヤジとウマミちゃんの一言。

どこに座ろうかアタフタする男性の前に、お手拭きとお茶をさし出し、
ホッとするように席につく男性。
目の前で泣いているジソエビちゃんやジソっ仔に、おっかなびっくり目を通す。
客席のリンガルに出された。

『お客さんテチ〜♪ アテチどんな料理になれるテチュ?』(※料理モード翻訳)
というジソっ仔の声に、ほうと、驚いた様子だった。

「……えっと………オススメは?」
「……………………へえ、今日はいい餓鬼ジソが入ってやす」

そっと、オヤジが凧にされた餓鬼ジソを見せた。

「うわっ……いやぁ…うーん……じゃあ…それで……」

一見すると、干からびた餓鬼ジソは怖い。
だけれどその味は逸品で…。
注文はされたが細かい指示はない、ならばアレがいいだろう。
思い出しただけで顔がにやけてしまうオヤジに、初心者客は身震いした。


ケースの上。餓鬼ジソを梁に吊るし、その下に…

出汁・生醤油・酒・香辛料とハーブを入れた袋・ジソ油…それと適量の活性剤。
それらを混ぜた液体をボールに満たし。そこに実装服を縫いつけたザルを入れる。
そして、手元のIHヒーターで温度を人肌程度にしたら準備は完了だ。

「デッゲー…デッゲー…デ…デギャ!?」

緑だった両目を、食用紅で染めて強制出産モードへ。
驚いた餓鬼ジソは暴れるが、磔にされているので動けない。

「テッテレー♪」
「テッテレー♪」
「テッテレー♪」
「テッテレー♪」
……………
………

産まれはじめたジソっ仔、その中から2匹をつまみ出し、別の容器に入れてやる。

残りは全部、調味液を満たしたザルの中。
最初は小さくとも元気のある仔が産まれたが、しばらくすると出てくるのはほぼ胎児のそれ。
普通なら産まれた途端に死んでしまうが、そこは活性剤の力か、調味液の中で目をパチクリさせている。
そして、カラカラに乾いた親から産まれた仔だ。
どうにか栄養を得ようと、調味液をどんどん飲みこんでゆく。

その間に、仔を産み続け、死にかけた餓鬼ジソの目を赤緑に戻し、
その体を、同じように用意した活性剤入り出汁に漬けてやる。

産まれた仔は、その頃にはタップリと調味液を飲み、プックリと体をふくらませていた。
さあジソイクラの完成だ。

*************************

私の前に出された料理は、一見すると不揃いなイクラ丼だった。
ただ一つ違うこと。それはまだこの仔達が生きているということで…。
「レァ-」
「レフィ…」
と、小さく声が聞こえる。

職場の先輩に紹介されたが、これはすごいゲテモノ料理だな…。

手元には丼と小皿とお吸い物。
小皿には茶けた粘膜をまとった親指ほどの仔がワサビ和えにされ、
お吸い物には丸々一匹仔実装がヒラキになって浮いていた。

正直、エグい。

とりあえず手を合わせ、おっかなびっくりワサビ和えからいただく。
粘膜の残った仔はエグいが、舌触りが良い。
チュルリと舌を滑り、噛みしめると本ワサビだろう青く清々しい香り、そして肉感の歯ざわりが素晴らしい!

「おお!」

つい声に出してしまった。
なんだこれ、美味いぞ!?

次いで、お吸い物。
味噌は赤味噌で、なんだろう、独特の旨味が舌に残る。

「………ジソミソ、脳味噌でさ」

オヤジさんがボソリと言う。
そうか、これは赤味噌に脳味噌…ジソミソを混ぜた物。
独特な風味だが奥深い旨味があとをひく。
脳味噌と言われるとアレだが、カニ味噌を少し甘くしたようなこれはなかなかに珍味だ。

思った以上にどれも美味い、さて、今日のメインディッシュはどうか。
あくまで先の二つは前座だ。
少し生きているというのに抵抗があるが、これは食べずにはいられない。

一掬い、レンゲで酢飯といっしょに掬う。
まだレフレフと小さな声がするが、たまらず一口に頬張った。
「レ”ッ」
プチリと噛み締めた歯の間から、溢れ出る汁。
複雑に絡みあった調味液と仔の肉汁が、口の中で踊った。

なんという旨味か!

歯ごたえはイクラと違い弾力があり、その一噛みごとに、仔の生きる力が溢れ出るかのようだ。
頬張り、噛むごとに、弾けていく仔の命。
そして出汁と肉汁と酢飯のハーモニーが私を包む。

ああ、これは止まらないぞ!

いつの間にか半分を残して、まだ頬張ろうとレンゲを伸ばしたとき。

「失礼しやす」

ドンと、私の横に何かが置かれた。

「……………デゲー………」

そこには餓鬼ジソが、大きめの鍋に入れられており、カチリとコンロに火がともされた。


「………こいつの出汁茶漬けで、〆でやす…」

鍋が煮立ちはじめてしばらく。
パキンと、ゲージの上に置かれたコップの中から音がした。
どうやら取り出した偽石が割れたのだろう、それと同時にオヤジさんが餓鬼ジソの死体を鍋から上げる。

そして、いい匂いが立ち昇る鍋から、そのスープを一掬い。
さっと丼に流しこんだ。

色が仄かに白味掛かり、ふわりと舞うジソイクラの香り。
喉が鳴った。

さっと、きざみ海苔と青ネギが振りかけられ…

『ジソイクラの親茶漬け』の完成だ。

イクラだけであれだけ美味かったのに、まだ先があるとは…。
三種のハーモニーに親から滲み出た出汁の香り、そしてさっぱりとしたスープの味が絡みあい、
昇華というべき変化が起きた。

全て同一のものから産まれた味だ、合わないわけがない。

それはもう掻っ込んだ。
美味い、旨い、本当に美味しい。
いつの間にか、私の目の前には空の器だけになっていた。

最後に、残った出汁で割った日本酒を煽り、幸福に包まれる。

先輩の言ったことに間違いはなかった。
これほどに美味いものだとは。
犠牲になった餓鬼ジソに合唱して、ごちそうさまでした!

カウンターの向こうでニヤリと笑うオヤジさん。
足元で、いつの間にかウマミちゃんが手に器を載せて踊っていた。







ふと、器の上に2匹の仔実装が座っているのに気がついた。

「テチャ?」
「テッチュー?」

ふわふわの布の上に、首を傾げてこちらを見ている仔実装。
この仔達はあの時、最初に取り出された仔ではなかったか。
柔らかい布の上から、私と、横に置かれた母親の死体を交互に見ている。

「デスデッスゥ(この仔はオヤマにかえすデスゥ)」

ウマミちゃんはそういうと、2匹を親の横に置いてやる。
器からヨチヨチと這い出た仔実装は、母親の胸に吸い付き、
出ない乳にチィチィ鳴くと、そこで安心したかのように眠りについた。

最近では山実装の数が減っているという。
実装料理店としては苦慮する事態なのだろう。

これだけ美味いのだ、みてくれはアレだが、確かにまた食べたくなる料理だった。

お前も美味しい仔を産んでくれよと、入る前には考えもしなかったことを思い。
私は眠る仔実装達の頭を撫でた。


*************************(おまけ)

『餓鬼ジソの救いガキ』

餓鬼ジソが入ったと聞きつけ、ひと月ぶりに訪れた藩献亭。
暖簾をくぐると、中からは常連の喧噪とともに、オヤジさんとウマミちゃんの声が聞こえてきた。
うんうん、いつもと変わらない。
それがいい。

温かい店内にホッとしながら、目に入る餓鬼ジソ。
今日はまだ残っていた。
嬉しさに頬が緩む。

カウンターが一席空いていて、さっとお通しが置かれた。
私の大好きなジソっ仔の佃煮。
オヤジさんわかってるなと頷きながら、さて、注文をしよう。

「今日はなんにしやしょう」

ううん、せっかくの餓鬼ジソだ。
イクラ丼も捨てがたいが、やはりオーソドックスなアレでいこう。

「救いガキ、鍋でお願い」
「……………承知しやした」
「デッスデー(承知デース)」

パタパタと足元を通り過ぎたウマミちゃん、裏からコンロを持ちだすと私の手渡してくる。

「ありがとうウマミちゃん」
「デーデェー(ありがとうデスー)」

人の言葉を真似るのが好きらしいけど、変な実装石もいたものだ。
彼女の手からコンロを受け取り、カウンターの上に載せる。

そこにドンと、餓鬼ジソの入った土鍋が置かれ準備万端。
カチリと火を入れて、スゥと鼻にとびこむ鳥出汁スープのいいにおい。
さてここで、説明といこう。


救いガキとは、餓鬼ジソの最もポピュラーな食べ方の一つだ。
鍋のスープはなんでもいい、和でも中華でも豚骨だっていい。
クリーム系は若干癖に合わないかもしれないが、稀に食べる人もいる。
と、まぁそこに入れるのが磔にされたこの餓鬼ジソ。
天日に干された体からは良い出汁が出る。
こいつを火にかけてしばらく、沸騰するかしないかの瀬戸際で火力調節しながら、
すぐにパキン死しないよう注意する。
ここで手を抜くと旨い出汁が出ない。

スープが沸騰してくると胎内の仔が熱さに暴れはじめ、
生命の危機からか両目が赤化。出産がはじまるのだが…。

「デッゲーァァァ! デギャァァァァァッッッ!」

磔にされた餓鬼ジソは、鍋にだされる直前に総排泄口を縫われているので出産できない。
このままでは死んでしまう!助けて! というところで、鍋から腹の部分をだしてやり、プチッと切ってやるのだ。
イゴイゴとのたうつ餓鬼ジソの腹から、仔が粘膜に包まれたまま飛び。

『餓鬼ジソの救いガキ』の完成だ。

腹から飛び出た仔は、産まれた喜びと生き残ったという希望でにっこり笑って産まれてくる。

「レッテレー♪」
「テッテレー♪」
「テュッテレー♪」

そこを箸でつまみ、粘膜で包まれた後ろ髪を指でつまみ出して、口に放りこむ。
その際、髪をプチプチと抜きながら食べるのが通だ。
エビの尾っぽを残す要領でプチモシャコリッと頂いて…いやぁ旨い。

数匹楽しんだら、鍋のスープに浸して頂く。

「テジャーーーッテヒャーーーーッ!」

突然の熱湯に身体を火照らせたら、同じ容量でパクっと一口。

「テチ”ャッ!」

コリッと頭を噛み潰し、飛び出るジソミソの美味いこと。
手が汚れる食べ方だが、この旨さの前では些事なことだ。

ここで、胎内に仔がいなくなったら手早く次へ。
手元に置かれた食紅で、瀕死の餓鬼ジソに強制出産させる。
身を震わせて泡を吹いている餓鬼ジソの腹から、プツプツと音がしてしばらく。
パキンと偽石の割れる音がしたら頃合いだ。

餓鬼ジソの腹をプチリとひらき、その中には茹だった胎児がお目見え。
これがまた珍味なのだ。

ハフハフとスプーンで掬い、頬張ったときの旨さは他に比べようもない。
出汁に絡めるもよし、ご飯にのせて食べるもよし。
ああ旨い、プチプチという食感に鼻を抜ける滋味の風味。
命をいただく感謝の気持がわくというものだ。

残ったスープには、ご飯と卵で雑炊にして頂いて…。
今日も美味い実装料理に合掌。ごちそうさまでした!


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1 Re: Name:匿名石 2014/09/11-02:26:05 No:00001317[申告]
これ普通に読んでて美味そうに思えてくるから困る
2 Re: Name:匿名石 2014/09/11-12:16:56 No:00001322[申告]
食い方の描写が細かくていい
情景が目にうかぶようだ
3 Re: Name:匿名石 2014/09/12-02:01:54 No:00001324[申告]
深夜に読んではいけない類の空腹を刺激するスク
4 Re: Name:匿名石 2014/09/12-06:43:29 No:00001325[申告]
ああくそっ、美味そう!
現実にない食べ物だから余計に想像かきたてられて、食べれないのが悔しい
5 Re: Name:匿名石 2014/10/28-12:13:09 No:00001516[申告]
パラレルワールドとチャネリングでもしてるんじゃないかってくらいリアリティのある料理描写だわ、読んでて想像力が刺激される!
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