タイトル:【食】 実装料理 藩献亭『スモーク蛆の枝豆豆腐、緑ソース和え』
ファイル:実装料理 藩献亭『スモーク蛆の枝豆豆腐、緑ソース和え』.txt
作者:ムツジソウ 総投稿数:23 総ダウンロード数:2388 レス数:0
初投稿日時:2013/11/14-13:14:21修正日時:2013/11/14-13:14:21
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赤い提灯がならび、裏路地にひっそりと佇む、食通のあいだではそれなりに名が知れた店。

『実装料理 藩献亭(ぱんこんてい)』

今日も仕事帰りのサラリーマンに、ご近所の常連さん。
そして珍しい実装料理を求めて、県外からも客は集まってくる。

どこか懐かしい演歌が流れる店内で、
店員はオヤジさん一人きり。

今日はどんな料理が出されるだろう。



『スモーク蛆の枝豆豆腐、緑ソース和え』



大きな檜の一枚板を贅沢に使ったカウンター。
今日も元気に、下拵えされた仔実装や蛆実装がレチレチレフレフと泣いている。

カウンターの先には、一組きりの畳席が用意されているが、今は誰もおらず。
看板実装の出産石、ウマミちゃんがデー…デーと、並べられた座布団の上でゴロンゴロンと転がっていた。

外は雨。

今日は客が少ないかもしれない。
オヤジがケース内の蛆実装をあやしていると、一人の客が飛び込んできた。

バサバサと折り畳み傘から水滴を外に飛ばし、雨に濡れたコートを脱いだ男は、一人でもいいですかとオヤジに声をかける。

「らっしゃい」

この客との定型文だ。
オヤジは男のお気に入りの酒をお猪口に注ぎ、カウンターに座る男の前におく。

「今日はなんにしやしょう」




皿の上には、薄緑がかった乳白色の豆腐が鎮座する。
それ以外は何もない。
塩すらもかかっていない。
これが常連である男のお気に入りだった。

そして、ここは実装料理店。

出されるものは実装料理と決まっている。


その横にそっと置かれたのは、禿裸に剥かれた蛆チャン、ジソエビだった。
 
「レプッ…ケプッ……レフゥ…」
 
少し茶色に煤けた蛆チャンは、どうやらスモークされているらしく、少しだけ桜チップの香りがする。
ケフケフと干からびた喉を鳴らすと、状況がわからないのか辺りを見回す蛆チャン。
すると、目の前にプルンと置かれた枝豆豆腐に気がついた。
目を輝かせ、レフーと喜びの一声をあげる。

そのままカサカサと皿の上を這い、豆腐にかぶりつく。
蛆チャンより大きいはずの枝豆豆腐。
だけれど、乾ききった蛆の身は、スポンジが水を吸うように、どんどんお腹に収めてゆく。

美味しそうに尻尾をフリフリさせながら、蛆チャンは気がつかない。
お腹にうっすらと包丁が入れられていたことに。


「やっぱり、いい仕事しますね」

「…………………どうも」

「デスー(どうもデスー)」


何故か、オヤジさんの真似をするウマミちゃんが横に立っていた。
両目をキラキラとさせ、まばたきをすると、また畳席へ戻っていく。
変わった性格のウマミちゃんはこの店の名物だが、いまはそれよりも食い気だ。
男は皿に目を戻した。

気がつけば、皿にあった枝豆豆腐は綺麗に消えていた。
カケラも残っていない皿の上には、プックリと二回り大きくなった蛆チャンが一匹だけ。


お腹が満たされ、レップと鳴いた蛆チャンは、グルリと辺りを見回すと、目の前でじっと自分を見つめる男を発見した。

「蛆チャお腹いっぱいレフ〜 オネムの前にプニプニして欲しいレフン… プニフー!プニフー!」

大きいニンゲンサンはやさしい生き物。嬉しいプニプニをたくさんしてくれる。
そう偽石に生まれた時から記憶されている蛆ちゃんは、何のためらいもなくコロリとお腹を向けた。
 
お腹いっぱい、幸せいっぱい、もうすぐオネムの時間だと、お腹をさしだしたその瞬間。
切れ目が入れられたお腹が、パンと開いた。

「レピィ!?」
 
ショックで大きく目を見開き、口から舌を突き出す蛆チャン。
そしておいしくなってくれてありがとうと、箸を揃える男。


『スモーク蛆の枝豆豆腐、緑ソース和え』の完成だ。

 
はち切れた蛆チャンのお腹から溢れた豆腐は、肉と地味溢れるジソエビ汁に混ざり、
あんかけ状になっていた。
 
ホロホロと崩れそうなそれを口に運び、一口。


旨い!

 
体を揺すって逃げようとする蛆チャンを指で押さえ、豆腐をただただ口に運ぶ。
枝豆豆腐に桜チップの香りが移り、ジソエビのプリッとした肉がいいアクセントになっている。

最後に、レピィーレビャーと鳴く蛆チャンを豆腐ごと口に頬張り、日本酒で流しこむ。
 
レピャッと最後の一声が聞こえ、満足感が押し寄せる。
 
うんうんと、オヤジさんが頷きながら、皿を引き上げた。


週に一度のこの瞬間を、男は自分へのご褒美にしていた。
疲れきった体と心を、蛆チャンと枝豆豆腐はスッキリ癒してくれる。

もう何杯か酒を頂き、男は席を立った。

「………………またどうぞ」

「デスデー(またどうぞデース)」

お目々をキラキラさせて、またウマミちゃんが横に居た。
少しだけ頭を撫でてやり、雨の降る外へと踊り出る。

入れ違いに別の客が、団体で入っていくのが見えた。

なんだ、今日も忙しそうじゃないか。

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