タイトル:【愛・哀】教授が実装石に興味を持ったようです① 『食用蛆』
ファイル:教授が実装石に興味を持ったようです①.txt
作者:ムツジソウ 総投稿数:23 総ダウンロード数:1079 レス数:0
初投稿日時:2013/11/12-20:35:09修正日時:2013/11/14-19:25:25
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北の地方都市、H道・S市。
重厚なマホガニー製の机で、一人の男がスラスラとペンを走らせていた。

「所変われば人も変わるのですね。やはりこちらに来てよかった」

普段無表情な鉄面皮を口元だけ釣り上げ(これでも随分ご機嫌である)
本日受け取った学生の論文を、丁重にファイルに挟んだ。



彼、米沢典明(よねざわのりあき)は、首都のとある大学、そこで教鞭を執る経済学教授であった。
たまたま、都心で論文を発表するという恩師に酒に誘われ、
自分の今いるH大学で、特別講師として教鞭を執ってくれないかと頼まれたのだ。
何事もキッチリとしないと気の済まない米沢は、教え子を放っては行けないと一度断ったものの、
代わりの講師を同じ期間派遣するからと押し切られたのである。

不満がなかったわけではない。ただ、中高一貫校であった私立高校で師に受けた恩は大きい。
米沢はしかたなくも首を縦に振るしかなかった。

都内の自宅に、妻と二人の娘を残し。
短い間だからと一路向かったH道は、秋半ばにもかかわらず、若干の雪を路面に見せていた。
こうして彼の短い単身赴任は始まった。


********************


実装石という生物がいる。
成体の背丈は50〜60cm程だろうか。
両生体と思われが、一見すると雌だと思わせる人為的な外見を持つ。
不出来な人形のようなこの生物は、驚くことに服をまとっている。
さらに驚くことに、生まれた状態から服をまとっているというのだ。
生物学的見地から、服をまとう生物は人間をおいて他にいない。
しかもそれを生まれた時から来ているというのだから、驚天動地の極みである。

だが、米沢はあまり興味がなかった。

たまに妻が庭先に侵入され、菜園の野菜が食われたやら、
娘が糞を投げつけられたなど、怒りの表情で訴えてくるが、いつも米沢はまあまあと、諭す程度である。

所詮動物であるのだから、放っておけばいいのだ。
猪だって農家の畑を荒らすし、猿だって人間に糞を投げつける。

米沢にとって実装石とは動物の一種でしかなかったのだ。




ひと通り仕事を片付け、そろそろ夕餉の準備をしようかと机を立った時。
ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
インターホンに映るのはクロネコな宅急便の配達員。
今開けますと声をかけ、オートロック玄関を開いた。

「ありがとうございましたー!」

そして手渡されたダンボール。
発送元は都内の自宅近くにあるコンビニ。
妻が単身赴任の米沢に、あれこれと必需品や食料を送ってきてくれたのだろう。
感謝しつつ、米沢はダンボールを開いた。

ゴソゴソと中身を検分する、すると普段見かけないものが入っていた。

「これは…?」

味噌や醤油、砂糖に農園でとれたのだろう野菜が沢山。
洗剤類に何故か下呂温泉の入浴剤。
それらの底に置いてあった緑色のパッケージ。
あまり見たことのないそのパッケージの上には。

『生食用蛆実装! 新鮮真空パック(服付き)』

と、書いてあった。

米沢は戸惑った。
実装食なる文化があることは知っていた。
だが、あの見た目にまかりなりにも人間についで知恵のある生物である。

一度見たドキュメント影像で、必死に食べないでくれと懇願している禿裸の実装石を、さも美味しそうに食べる出演者。
噛みちぎられ絶叫を上げる実装石(小さいので仔実装という幼体らしい)

その様子に、米沢は出演者への嫌悪感しかもてなかった。

なにを間違ってこんなものを入れたのだろう……。

若干心配になったが、ただ捨てるというのもなんなので開いて逃してやろうと思い立った。




実のところあまり実装石に興味のなかった米沢は、その生態や扱い方についてほとんどなにも知らなかった。
インドア派であり、公園に散歩という習慣もなかった彼は、野良実装すらあまり知らなかったのだ。

パソコンを起動し、軽く実装石関連のHPを眺めていく(速読ができるのである程度覚えつつ)
ペットショップに個人ブログ、虐待派や愛護派のHPなどを軽く流し見、実装石が大変飼育に難しい生物だと知った。
だからといって、米沢の中にある所詮動物という基準に揺らぎはない。

「これは、面白いかもしれません」

だが、興味は湧いた。

動物にしては非常に高い知性。高慢で自己中心的な性。脅威というべき再生力。
久々に研究意欲が湧いてくるのを彼は感じていた。




机の上に置かれた緑のパッケージ。
裏面には注意事項が書かれ、必ず一週間以内にご賞味ください、目が灰色に濁っている場合は食べないように、等と書かれている。
米沢は手元に鋏と安い百円均一のタオル、ティッシュを置き、パッケージを開いた。

中には真空処理の施された、蛆実装が三匹入っていた。
パックはミシン目が入っており、一匹ずつ使い分けできるようにされているらしい。

米沢は、実物の蛆実装を見るのは初めてであった。
とても死にやすく、ちょっとしたショックでも死んでしまうらしい。
また、腹部を軽くさすったり押してもらうのがとても好きで、あまりに無視されたりすると、それだけでショック死するという。
これは注意せねばと、米沢は覚悟を決めた。

そして米沢はミシン目を切り、一匹目を真空パックから取り出した。


ポロンとパックから転がり出る蛆実装。
仮死しているのか、全く動かない蛆実装を、両手で優しく持ち、タオルの上に置いてやる。

大きさは5cm程だろうか、生まれ持った緑色の服がうっすらと身体を包んでいる。
顔は人と同じ肌色で、ふっくらとした頬にウサギのような兎唇、ゴマより小さい…鼻であろうか、2つの穴が開いていた。
目はまだ閉じられているが、仮死からとけつつあるのか、まぶたがピクピクと動き始めている。

手足はない…かと思ったが、胴体部に退化したような前足、後ろ足が申し訳程度に動いていた。

「…………………レフゥー…」

「おお、生き返りましたか」

スウと、胸元が空気を吸い込み、蛆実装は小さく声を出した。
真空チルドされた生物がなにもせずに息を吹き返したのだ。これは驚嘆に値する。
もちろん他の生物でこんなことはありえない。
ロシアの冷凍人間だって、生き返ることなど絶対にないだろうに。
それをこの小さな生物は単独でこなしてしまうのだ。

米沢はあらかじめ携帯にDLしておいた実装リンガルソフトを起動する。

「あーあー、わたくしの言葉がわかりますか?」

イゴイゴと身体を動かし始めた蛆実装に、米沢は声をかけた。

「…レフー?」

リンガルには『ママ?』と映しだされる。
どうやら、仮死から目覚め、初めて見えた米沢を母親と勘違いしたらしい。

「鳥と同じ刷り込みの性質を持つ、ということでしょうか?」

サラサラとメモ帳にペンを走らせる。
どうやら蛆実装は、完全に意識を取り戻したらしく、タオルの上でヨチヨチと歩き出した。
首を持ち上げ、ママ、ママと米沢の方にとてもゆっくりとだが寄ってくる。

その様子に、米沢は少しだけ可愛らしいと無表情の顔をひきつらせた(本人は笑っているつもり)

そっと手を伸ばし、指先からよじ登ってくる蛆実装を待ち、手のひらに乗ったところで持ち上げ、顔に近づけた。
臭いはまったくない。
掲示板などに書かれていたことから、野良やペットの実装石には独特の臭いがするらしい。
特に野良はそのままでは近くによりたくないような、生ゴミをさらに放置したような刺激臭がするという。
例外に山実装という野生種がおり、極めて美味しく、高級食材になる種もいるそうだが、まぁこれは例外としていいだろう。

この蛆実装は食用だ。
当然の事だが、そんな臭いがしたら食用などにはできないだろう。
なんらかの処理が施されているのかもしれない。

持ち上げられて米沢の顔を確認できたからだろうか。
蛆実装はうれしそうにレフーンと鳴き、ニッコリと笑うと、米沢の手に頬をすり寄せてきた。
そして、コロンと手のひらに転がると甘えた声で鳴く。

「レフレフ〜、レッフンレッフー♪」
(ママー、ウジチャお腹すいたレフ〜、なにか食べたいレッフ♪)

そう言われ、米沢本人もなにも食べていないことを思い出した。
健康な生活は健全な食事から。

規則正しい生活が基本である米沢は、食事を用意することにした。


自分は買ってきた惣菜屋の弁当を。
蛆実装には、金平糖はないので卵黄と野菜をミキサーに掛け、蜂蜜はちょっぴり混ぜた練り物を用意した。

そして小皿に乗せて蛆実装に食べさせてやる。

嬉しそうにレフレフ鳴くと、蛆実装はペチャクチャと食べ始めた。
お世辞にもその様子は綺麗ではないが、犬と同じだと思えばいい。

だが、変化は突然訪れた。

空になった弁当箱を捨てようと、席をたとうとした時。

「レピィ!」

と、一声鳴いたあと、蛆実装が倒れた。

「ど、どうしましたか!?」

リンガルで話しかけるが、ただただ苦しそうにもがくだけで、どんどん顔色が青くなっていく。

「レピゥ…レフレフゥ……レ………レピ…………………(パキン)…」
(痛いレフ…ママ助けてレフゥ………イタィ………ピィ…)

パキンと、小さな音がした。

そしてそのまま、蛆実装は目を白濁させて、口から食べかけの餌を吐きながら死んだ。

「そんな…なにか悪いものでも入れてしまったのでしょうか……私は…………」

ママと呼んでくれた蛆実装に、少しだけ愛着を持ちつつあった米沢はショックを受けていた。
基本雑食な実装石に食べられないものはない。
正確には人間が食べても問題ないものは、実装石にも問題ないはずなのだ。

手のひらで死んだ蛆実装をやさしく包んでやる。
そのままベランダに出て、前の住人が放置していった鉢植えの土の中に、蛆実装を埋め、小さなお墓を作ってあげた。




無気力感につつまれたままであったが、米沢はパソコンに向かった。
何故死んだのか特定せねばならない。

とはいえ、その原因はすぐに見つかった。

【食用蛆めちゃくちゃ美味くね?スレ】
ネットスラングにまみれたその掲示板の一角に、息子と書きこんだ自身の実体験が書かれていた。


>うちのガキが生食用の蛆が可哀想って食べねえんだよ。
>いや、あの旨さがガキにはまだわかんねえとは思ったんだけどさ。
>で、俺が買ってきた蛆を、手でかばって絶対に食べないっていうから、そのままにしておいたんだよ。
>そしたら夜になって泣きながら俺んとこに来るわけw
>なんだって言ったら、蛆ちゃんに餌やったら死んじゃったっつーんだよ。
>ったりめーだろ?www 中身ねえんだから、消化もなんもできやしないんだよな。
>しかも、野菜とか固いもの、食物繊維系って消化できないで体内流れるから、蛆蟲の中身はズタズタ。
>そうでなくてもチリィ蛆なのに、消化できないんじゃ詰まらせて死ぬに決まってるぜ。


つまり、食用の蛆実装石は人間に食べられるためだけに生かされている存在だったのだ。

愕然とする米沢は、残り二つの真空パックを見つめた。
彼等には既に、生きる権利さえ有りはしないのだ。

出してやった一匹は、せめて米沢にやさしくされて死ねただけ幸せだったのかもしれない。

米沢は、まだ二匹入っているパッケージを、そのままゴミに捨てた。
彼にはもう出してやろうとは思えなかったのだ。
せめて、なんの痛みもなくゴミとして燃やされたほうがいいだろうと。

興味のなかった実装石。
だが、手元に偶然届いた蛆実装は、思いのほか愛着の持てる生き物だった。

折角の単身赴任。
ペットの一匹でも飼ってみようか、米沢はベランダの墓を見ながらそう思いはじめていた。



続く



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