タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第11話04(完)
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初投稿日時:2013/07/13-01:12:23修正日時:2013/07/13-01:12:23
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため強引に
異世界を旅させられる羽目になった。
 「実装石」という人型生命体が存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイムリミット
の中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 11番目に訪れた世界では、「山実装」と呼ばれる者達が人間の生活圏を荒らしていた。
 実遊会と名乗る山実装駆除隊、そして彼らが追い求める山実装のコミュニティと知り合った
としあき一行は、やがて山実装達に肩入れしていく。
 しかし、大自然の中で野生の生活を行っていたと思われた山実装達は、実は「実装牧畜産業株式会社」
という組織が生み出した人造環境で生かされている存在だった。
 それが露呈したのとほぼ同時に、次々と姿を消し始める山実装達。
 としあきは、危険を感じ、山実装コミュニティを避難させることを考え付くが、そんな彼らの下に、
実遊会が迫っていた。
 そして、実遊会の中には、デスゥタンガンを取り戻した海藤ひろあきが居た。

 デスゥタンガンの力で身動きが出来なくなった、山実装の仲間・獣装石達は、人間達の手によって
、無残に解体されていく。
 実遊会を名乗る者達の正体は、山実装を食い尽くしに来た、元・実装牧畜産業株式会社の社員達だった!




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 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第11話 ACT-4 【 嵐! 大ローゼン来襲 】

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 空が、青みを帯びた光に照らされ始める。

 としあきは、ミドリ達の先導で先に管理棟へと向かった山実装達を追い、暗い山道を必死で駆け上っていた。


「……!!」

 デギャアデギャア!!

「……!!」

 デシャアァァ!!

 ものの数分も進まないうちに、何やら人間と実装石の口論のようなものが聞こえてきた。
 慌てて先に進むと、そこでは、海藤ひろあきとミドリが激しいやりとりを繰り返している。
 何事だと近づこうとすると、足音に気付いたのか、ひろあきはいきなり走り出し、山道の先へと行って
しまった。

“クソドレイ〜!! おま、なんつうタイミングできやがったデシャア!!”

「なんだよ! やっと辿りついたのに文句いうな!
 こっちも大変だったんだぞ!」

 としあきは、ひろあきと何を話していたのかと尋ねる。
 するとミドリは、としあきの脇に転がっている山実装達を、顎で指し示した。
 山実装達は、まるで凍りついたように動かない。

“あいつ、あのヘンテコガンで、山実装のみんなを動けなくしやがったデス!”

「なにぃ?! あの野郎ぉ!!」

“あいつ、この先にいるニンゲン達に、山実装を食わせるつもりなんデス!
 そうやって、そいつらに取り入ろうとしてやがるデス!
 それに!!”

「まだあるのか?!」

 ミドリは、管理棟の中にぷちが捕らえられてる事を伝える。
 間髪入れず、としあきの鉄拳オーラギャラクシー(ただのチョップ)が、脳天を貫いた。

「またお前だけ逃げてきたのか! この薄情者!!」

“な、な、何言ってるデスこのボンクラ!
 ワタシ一人が助けに入って、どうにかなるわけないデス?!
 それなら、いち早く皆に危険を知らせに戻った方が賢明デス!!”

 珍しく正論を吐くミドリに、としあきは思わず言葉に詰まる。

「う……た、確かに」

“第一、状況も見てない奴にとやかく言われる筋合いはないデス!
 オラァ、とっととぷちを助けて、山実装も解き放ってやるデス!!”

「それ、俺の役目なの?!」

“そうデス!”

「うがぁ! やる事増えたし!!」

 珍しくミドリに論破されたとしあきは、凍りつく山実装達の中から、リーダーを探そうとする。
 しかし、それらしき姿はどこにもない。

「そういえば、リーダーは無事なのか? 何処にいる?」

“そ、それが……”

 ミドリは、先ほどの状況をとしあきに説明する。
 突然現れた初期実装にさらわれた事、今回はこちらに何の関心も示さなかった事……

「あの野郎、また俺達の妨害かよ。
 いったい何を考えてるのか、ホントわかんねぇな」

“それに、ボケが回ったのか、あいつワタシのことまで忘れてやがったデス”

「今度遭ったら、引っぱたいておくぜ」

 としあきがそう言って、抱えていた獣装石を横たえようとした瞬間、急に周囲の雰囲気が変化した。


 誰がボケたデスゥ?
 誰が、妨害したデスゥ?


 としあきとミドリの脳内に、何者かの声が響く。
 と同時に、彼らの頭上に何か光輝くものが現れた。

「初期実装?!」

“噂をすればナントヤラデス?!”

 空間が歪み、まるでテントの入り口から出てくるかのように、緑色の物体が姿を現す。
 怪しい「6」模様の頭巾、血走った赤と緑の目、無機質な顔。
 その声は、耳でなく直接頭の中に響いてくる。

『何だか知らんけど、言いがかりは止めろデスゥ。
 この世界でお前らの前に現れたのは、これが初めてデスゥ〜』

 ふわふわと空中に浮かぶ初期実装は、そういうと近くの岩の上に降り、座り込む。
 器用にも、足まで組み出した。

“ふざけんなデス! リーダーをどこ連れて行きやがったデス!”

「おいおい、一応俺達は、お前の子供捜してやってるんだからさ。
 妨害工作は困るぜ」

『なんと! 全く信用されてないなんて、初期ちゃん大ショックデスゥ』

“まさか、ここまで堂々とトボけられるとは思わなかったデス”

「こいつは、こういう奴だよ。もう諦めろ」

『ムキー、知らないと言ってるデスゥ。
 少しはワタシの話も聞けデスゥ』

 初期実装は、両手をパタパタ震わせて抗議する。
 不覚にもとしあきは、その仕草が可愛らしいと思ってしまった。

『ふぅ、でも、事情はだいたいわかったデスゥ。
 仕方ない、代わりに、お前達をちょっとだけ助けてやるデスゥ。
 ありがたく思えデスゥ』

「代わりに?」

『深く追求すんなデスゥ〜』

 そう言うと、初期実装はまるでパラパラでも踊るかのように、複雑に腕を振るい出した。
 しばらくすると、初期実装の手前の空間に、何かが現れる。
 具現化したそれを見て、としあきは感嘆の声を上げた。

「デスゥタンガン?!」

“デェ?!”

 それは間違いなく、ひろあきが持っている筈の実装操作機デスゥタンガンだ。
 独特の金属感が、月明かりに照らされて妖しく輝いている。

『あの男から引っぺがしてきたデスゥ。
 ホレ、その光ってる部分を押してから、Cのボタンを使うデスゥ』

「光ってる……? ああ、これか」

 デスゥタンガンを受け取ったとしあきは、側面の液晶モニタ画面内で点滅しているポイントを確認し、
指で押してみた。
 ピーという小さな音が鳴り、「Done!」という文字が表示される。

「なんだこれ? こんな機能使ったことないけど」

『いいから、それで山実装達を解放してやれデスゥ。
 さもないと——』

“さもないと?”

 眉をしかめる二人に、初期実装はギョロリとした目を向けて、ゆっくり話し出す。

『こっちに向かって動き始めたニンゲン達に、捕まってしまうデスゥ〜』

“「な、なにいぃぃぃ?!(デス?!)」”

『じゃあ、後は頑張るデスゥ。
 残りあと30時間、遅れるなデスゥ〜〜。イヒヒヒヒ〜♪』

 それだけ言うと、初期実装はあっさりと消えてしまう。
 残された二人は、真っ青になりながら互いの顔を見つめ合った。

“デギャア! は、早くしろデス、クソドレイ!”

「わ、わかった、わかったから急かすな!」

 久々に手にするデスゥタンガンだが、他実装の世界で何度か使ったので、使用方法はわかっている。
 グリップ底部から、マガジンを抜くようにしてスイッチボックスを引き出すと、羅列するアルファベット
の中から「C」を選ぶ。
 再び装填すると、銃口を山実装達に向けて、トリガーを引く。


  —— Accept Command. ——


  —— Clear! ——


 電子音声が鳴り、同時に、山実装達がもぞもぞと動き出す。
 獣装石も、もっさりとした動作ではあるが、どうやら回復したようだ。

「やっぱり、こいつのせいだったのか。
 それにしてもおかしいな、ひろあきの奴、確か効果は30分で切れるって言ってた筈なんだけど」

 そう呟きながら液晶画面を開くと、どうやら設定画面モードと思われる状態になっていた。
 様々な項目があるが、その中の「Fixate」のコマンド持続時間だけが「Infinity」にセッティングされていた。

「これか……戻しておいてやる」

 としあきは、設定を30分に戻し、設定画面を閉じる。
 その瞬間、画面に「Personal Security-Mode Performs.」という文字が一瞬だけ表示された。

“おい、お前ら、大丈夫デス?!”

 ミドリは、山実装達に呼びかけると、事情を説明して更なる退避を呼びかける。
 ひろあきが、この場所を実装牧産の社員達に伝えただろうことは、想像に難くない。
 空も白み始めており、もはや一刻の猶予もなかった。

「俺は、ぷちを助けに行って来る。
 お前は、山実装達と一緒に逃げろ」

“クソドレイ一人では心配デス!”

「ばかやろ、こんな時に何を」

“お前に何かあったら、今までの膨大な貸しが全部パーになっちまうデス”

「俺がいつ、お前に借りを作ったよ?!」

“お前の人生は、常に誰かに貸しを造り続けるデス”

「馬鹿言ってんじゃねぇよ! 行って来る!」

“ちゃんと生きて帰って来いデス!”

 そんな会話を交わすと、二人は手を叩き合って別れる。
 ようやくまともに動き出せるようになった山実装達は、彼らのやりとりを不思議そうに見つめていた。

「どうしてあなたは、ニンゲンとあんなに仲良くしていられるんデス?」
「そうデス、信頼関係すら感じるデス」

 尋ねてくる山実装達に、ミドリは、頬を赤らめて応える。

「な、何言ってやがるデス!
 あいつはクソドレイデス、ワタシがしっかり管理してやらないと何も出来ない奴デス!
 だからであって、決してそんな、特別な事はなーい! デス!!」


          ※          ※          ※


 一方、その頃、管理棟では、ちょっとした騒動が起きていた。
 別働部隊の実装牧産社員達と合流したひろあきは、山実装の居場所を彼らに報告した。
 早速捕獲準備に移った彼らだったが、その時点で、ひろあきはデスゥタンガンがなくなっていることに
気付いた。
 慌てて探しまくるひろあきをよそに、社員達は管理棟を出て行こうとする。
 だが、デスゥタンガンがないと正確な位置が判定できないと知ると、男達は突然怒り出した。

「なんだと! じゃあとっとと探せよ!」
「どこで落としたんだよ、このボンクラ野郎が!!」
「俺たちゃ、まだ山実装にありつけてねぇんだぞ!」
「もし見つけられなかったら、ここの全員でてめぇボコるからな!!」

「そ、そんなぁ!!」

 蹴り出されるように管理棟に出されたひろあきは、情けない仕草で周囲の地面を探し始める。
 そんなどたばたのおかげか、捕らわれたぷちは、幸いにもいまだにこれといった酷いことはされていなかった。

「テェェン! こんな薄暗い所に放置ってだけでも、充分酷いことテチィィ!!」

 ぷちの泣き声が、倉庫内に響き渡った。


          ※          ※          ※


 時計が午前7時半を指す。
 周囲は、すっかり明るくなった。
 20人はいるだろうと思われる、屈強な男達は、それぞれの得物を持って山道へと向かっていく。
 その少し前に、管理棟の敷地内に入り込めたとしあきは、幸いにも、鉢合わせすることはなかった。
 デスゥタンガンの偽石サーチモードを使って、ぷちの居所を探ろうとするが……

「おや?」

 奇妙なことに、偽石反応が複数存在している。
 しかも、そのうちの一つは、としあきのすぐ近くにあった。

「えっ? どこだ? 何処にいる?」

 辺りをきょろきょろ見回しても、それらしき姿は見られない。
 首を傾げながら再度確認すると、今度は反応が一つに減っていた。

「おっかしいなぁ、寝てないから頭ボケてんのかな?」

 状況が理解できず頭をボリボリ掻き毟りながら、としあきは管理棟の中を目指そうとする。
 敷地内に入り込んだ瞬間、少し離れた場所で、ひろあきが地面に這いつくばって何かを探してる様子が伺える。
 あえて声をかけずに中に入り込んだとしあきは、センサーの反応頼りとはいえ、意外に早くぷちを発見出来た。

「テェェン! クソドレイさぁん!! 助けに来たテチ?」

「よぉ、お待たせ。
 無事みたいで何よりだな、てっきりもう一巡くらいしてるかと思ったぜ」

「一巡? 何がテチ?」

「いやなんでもない、それより大丈夫か?」

「クスンクスン、寂しかったテチィ!!」

「あ〜、よしよし」

 外の明るさに関係なく薄暗い倉庫は、コンクリート剥き出しの冷たい空間だった。

 そんなところに、ぷちをいつまでも置いておくことは出来なかった。
 すると、急に階下が騒がしくなった気がした。

「やべ、もう戻ってきたのか?!」

「テェ! ど、どどど、どうしようテチ?!」

「隠れて様子を見よう」

 状況的にかなり無理があるのは承知だったが、としあきはぷちを誘導し、館内倉庫のようなブロックに
入り込んだ。
 入り口の隙間を開け、外の様子を伺っていると、やはり外から何人かの人間が入り込んできた。
 だが、良く見るとなんだか奇妙な感じだ。
 4〜5人程度の人間達は、妙に素早い動きで各部屋に散って行く。
 誰一人、言葉を発することはなく、その様子はまるで映画に出てくる工作員のようですらある。
 ものの数分もしないうちに、散らばったメンバーが再集結し、リーダーらしき人物に何か報告しているよう
だが、さすがにここまでは聞こえない。
 だが、そのうちの一人が何か携帯モニタのようなものを取り出した瞬間、全員の意識が明らかにこちらに
向けられた。

(げ?! ば、ばれた?!)

(な、なんでテチ? 私何もしてないテチ)

(隠れよう!)

 ぷちの手を引っ張り、倉庫の更に奥に移動する。
 すると、急にぷちが足を止めた。

「クソドレイサン、これ、何テチ?」

 ぷちは、積み重なった木箱やプラスチックのボックス、パレットの列の隙間にある、不自然なレバーを発見
した。
 それは、ともすれば見落としてしまいそうなほど黒く汚れており、二本のアームをまたぐグリップを掴んで
一気に下に引き下ろすタイプだ。
 だが、そのレバーを使った結果、動き出しそうなものが何処にも見当たらない。
 
「よくわからんものはそのままにしとけよ」

「えっ? ——もう、動かしちゃったテチ」

「だはぁっ?!」

 ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……

 鈍い轟音を立て、奥の壁がスライドしていく。
 その向こうから、地下に降りる階段が露出した。

「これは……?」

「降りていくしかないテチ?」

「でも、降りて誰かに閉められたら、閉じ込められちゃうぞ?」

「あー!」

 階段の前でまごついていると、先の工作員風の者達が、足早に入り込んでくる音が聞こえた。
 慌てて階段を下りようとした途端、背後から、鋭い女性の声が響いた。

「FREEZE!」

「「?!」」

「動かないで……そう、そのままゆっくり、こちらを向きなさい」

 凛とした女性の声が、倉庫内に響く。
 仲間と思われる連中も、倉庫の中にやって来た。
 出口は塞がれ、完全に手詰まりだ。
 だがとしあきは、その連中の格好を見て目を剥いた。
 銃らしきものを構えている女性は、黒い服をまとい、ごついサングラスのようなものをかけている。
 良く見ると、黒い服は身体にぴったり貼りつくようなスーツで、表面には細かな電光表示のような模様が
走っており、時折その形が変化している。
 そのスラリとしたスタイル、長い脚、凹凸のはっきりしたボディラインは、なかなか目を惹く。
 その背後に立つ男性達も似たような格好で、それぞれ複雑な形状のベルトを装着しており、その周辺には、
赤と青の細かな文字が空間投影されている。
 どう贔屓目に見ても、それはこの時代・この世界に即したスタイルではない。
 まるで、未来人のコスプレでもしているかのようだ。

「! 貴方は、弐羽としあき様?!」

 銃? を構えていた女性が、突然ハッとして声をかける。

「なんで、俺の名前を知ってる?」

「先ほど、一度だけお会いしております」

「? あ、もしかして!」

 良く見たら、それは先ほど網の中から解放してくれた謎の女性だ。
 女性は、銃をしまうと跪き、深く頭を下げる。
 背後の男達も、それに続いた。

「え? え? と、突然何テチ?」

「さぁ、俺にもわからない」

 再び立ち上がると、女性は、どこからか取り出したネームプレートを掲げた。

「私共は、“偉大なる大ローゼン”特殊工作班・コードネーム“Deceive”」

「で、でぃしー……ぶ? テチ?」
 
「偉大なるだいろーぜ……大ローゼン?!」

 その名前には、明確な覚えがあった。
 高杉が言っていた、実装牧産を事実上廃業に追い込んだ、愛護派集団。
 だが、ただの愛護集団がこんな連中を囲っているようには、到底思えなかった。

「ご安心ください、私共は、貴方がたの味方です。
 今、この施設内には我々しかいないことを確認済みですので、ひとまずご安心を」

 リーダーらしき女性は、軽く息を吐いた後、静かに説明を始めた。

「私共の使命は、この実装牧産・山実装養殖技術開発部管理棟施設の調査と、山実装密猟の現場を押さえること。
 同時に、貴方がたをはじめ、生き残った山実装達を、実装牧産の社員の手から保護することです」

「よくわからんが、つまり、今はお仲間ってこと?」

「厳密には、直接ご協力することは禁じられております」

「誰に命令されてんだよ? あんたら」

 としあきの質問には答えず、女性はサッと手を挙げる。
 すると、男達はその合図に合わせ、素早く階段を駆け下りていった。
 
「行くテチ?」

「そうだな、俺達も行ってみるテチ」

「真似しちゃダメテチ!」

 ぷちを連れ、としあきは大ローゼンの使者達の後を追った。
 階段は思っていたよりも短く、すぐに階下にたどり着いた。
 横向きに付けられた重たい鉄製のドアの向こうには、黒い壁に覆われた空間が広がっている。
 そのあちこちに、様々な大型調理器具が接地されていた。
 膨大な面積を誇るキッチンスペース、バーベキューのコンロ、回転式のグリル、そして業務用のオーブンや
真空調理器。
 キッチンの近くには、様々なサイズや形状の包丁や鍋、その他見たこともない調理器具が飾られている。
 お世辞にも手入れが行き届いてるとは言い難かったが、それは明らかに、大規模な食品加工コーナーだった。
 としあきは、そのあまりに場違いな様子に絶句した。
 室内に漂う、かび臭と生臭さが入り混じったような空気は、非常に居心地が悪い。
 ぷちはすぐに気分を害し、部屋の外に飛び出たが、それは正解だった。

「こりゃあなんだ? 酷いなぁ」

「これは、山実装を解体調理するための設備ですね」

「そうか、やっぱ……ってアレ? なんかおかしいな?
 ここ山実装の養殖実験場でしょ?
 養殖の現場で山実装を調理するもんかぁ?」

 としあきの疑問に、女性が答える。

「三重県の鳥羽にある牡蠣養殖場のような例もありますから、それ自体は不自然ではありません。
 ただこれは、無許可で山実装料理を振舞うか、もしくは販売しようと目論んで作られた設備でしょう」

「ああ……」

「具体的な調査が必要ですが、実装牧産はどうやら、山実装加工業にも着手する目論見があったようです。
 それは何処にも公開されていない、秘密裏な……すなわち違法なものです。
 としあき様のおかげで、ようやくその証拠を押さえられました」

「あ、さいですか」

「ありがとうございます、弐羽としあき様」

「い、いや」

 女性は軽く礼を述べると、右手の指をおかしな形に曲げ、せわしなく色んな方向を向き始めた。
 見ると、他の者達も同じようなことをしている。
 あらかた室内を見終えた頃、ぷちが室内に戻って来た。

「誰か来るテチ! 上から足音するテチ!!」

「撤収します、としあき様も」

「え? ああ、うん」

 女性に促され、共に階段を上っていく。
 上り切ったところで、としあき達は、ある人物と鉢合わせしてしまった。
 海藤ひろあきだ。
 ひろあきは、としあきの懐にあるデスゥタンガンを見て、いきなり奇声を上げた。

「デスゥタンガン! 弐羽君、酷いじゃないか! 返したまえ!!」

「待てよ! か、返すけど、この世界じゃダメだ!」

「何を言う! 僕はもうこの世界から移動しないぞ!!
 デスゥタンガンがないと、僕はこの世界には——!!」

 そう言いながら、ひろあきはとしあきに掴みかかろうとする。
 だが、割って入った女性の胸倉掴みと足払いを受けて、見事にすっ転んでしまった。

「お、おい海藤! 大丈夫か?」

「あたた……こ、この人達は?」

「大ローゼンの人達なんだけど——」

「だ、大ローゼ……ひぃっ!」

 ひろあきは素早く立ち上がると、踵を返して出口に走ろうとする。
 だが、男達にあっさり捕らわれ、当身を受けて気絶した。
 この間、ほんの5秒程度。

「おい、何するんだよ」

「要注意人物・海藤ひろあきの身柄を拘束。
 ——としあき様、この者にデスゥタンガンを返してはいけません」

 そう言いながら、としあきの懐を指差す。

「どういう事だよ?」

「それはいずれ判ります。
 とにかく、デスゥタンガンは、この世界のどこかに廃棄された方がよろしいでしょう」

 女性は、事務的な口調でそう説明する。
 だがとしあきは、ある部分に過敏に反応した。

「ちょっと待てよ、“この世界”って、どういう意味だ?」

「……」

「まるであんたら、俺達の事情まで全部知ってるかのような態度だな?
 第一、デスゥタンガンのことなんて、一体どこから聞いたんだよ」

「……」

「教えてくれよ、あんたら、本当は何者なんだ?」

「私達は“偉大なる大ローゼン”のエージェント、それだけです」

「質問には、お答え出来ませんってことかよ」

 としあきからわざとらしく顔を背けると、女性は男達に何か指示し、倉庫から退出しようとする。

「クソドレイサン、これからどうするテチ?」

「山実装やミドリ達と合流しよう。
 後は、この山から脱出して終わりだ」

「テチ!」

 としあきとぷちは、互いに大きく頷いて、Deceive達の後を追う。
 外に出たとしあきは、管理棟の敷地入り口付近に、トラックが止められていることに気付いた。
 それは、明らかに最近乗り付けられたもので、ドアの鍵も開いている。

「おっ、これはラッキーですねぇ」

「クソドレイサン、早く行かないとテチ」

「おぅ、今行く」

 キーシリンダーからキーを抜き取ると、としあきは、そっとポケットの中にしまいこんだ。


          ※          ※          ※


 その頃、山実装達は、遠くから聞こえる沢山の足音に反応していた。

「まずい、もうニンゲン達が来たデス!」

「早く、林の中へ隠れるデス!」

 ミドリは、山実装達を山道から外れた林の中に押しやると、一人だけ山道に戻り、様子を伺う。
 しばらくすると、ライトを翳した男達が、かなりの人数やって来た。
 微かに聞こえる声の感じや口調から、あまりまともな人種ではなさそうだった。
 ガヤガヤ、という声が大きくなり、徐々に距離が縮まっていく。

 やがて一行は林を抜け、少し開けた森に出る。
 そこは、背の高い広葉樹に上空を覆われ、太陽光もあまり差し込まない、とても落ち着いた場所だった。
 細いながらも河が静かに流れており、緑苔も豊富に生し、何より程よく漂う植物の香りと優しい空気が
素晴らしい。
 やや湿り気を帯びた地面、淀みない水の流れ。
 山実装達は、追われてることも忘れ、その余りに素晴らしい光景に目を奪われた。
“こんな場所があったなんて、知らなかったデス”
“少しジメッとしてるけど、静かで悪くない所デス”
“こんな落ち着いたところに、住みたいデスゥ♪”

 山実装達は気持ちの転換が早すぎるのか、足を止め、呑気に周囲を見回している。
 中には、あそこを住処にしようなどと、どうでもいい談義を始めている者まで居る。
 さすがのミドリも、その緊張感のなさには、呆れるしかない。
 
“おいお前ら、グズグズしてるとニンゲン達が追いつくデス!
 もっと先に行くデス”

“で、でもぉ”

“お前達、こんなところで全滅するつもりデス?”

 ミドリに代わり、獣装石が説得を始める。
  
“この地域は、同じ山の中でも我々が良く知らない所デス。
 ここでグズグズしてると、ニンゲンがすぐに捕まえてしまうデス。
 ニンゲンの方が、この地域に詳しいっていうことを、忘れるなデス!”

 獣装石の言葉は、静かではあるもののとても説得力がある。
 リーダーのような子供っぽい感じはなく、成熟した大人の風格すら感じられた。
 
“でもでも、ニンゲンが来たら、獣装石の皆さんが——”

“獣装石は、ワタシを残してみんな殺されたデス。
 それにワタシも、恐らく、身体のお石が割れかけてるみたいデス”

“デェ……”

 ツメが再生しない手を翳し、獣装石は、更に続ける。

“リーダーは、おかしな奴に連れていかれたデス。
 獣装石も、もうみんなを守ってあげられないデス。
 だからこそ、ワタシは、せめて生き残ったみんなを導きたいんデス!”

 山実装達は、おぉ、と顔を上げ獣装石を見つめ始める。
 横で聞いてたミドリも、無意識に頷きを返す。
 そんなことをしていると、にわかに背後の茂みが騒がしくなってきた。

“よし、じゃあこれからどうするんデス? リーダー!”

“り、リーダー?! ワタシのことデス?”

“他に誰もいねぇデス! おら、リーダーの初仕事頑張れデス”

 ミドリにハッパをかけられた獣装石は、一瞬戸惑いはしたものの、すぐに行動を開始する。
 山実装達を河沿いに移動させ、背が高い木の多く生えている方面へ向かわせた。

 数分後、何者かが大きな音を立てて茂みから飛び出して来た。
 実装牧産の社員達だ。

「あ、居た! あそこだ!!」

 山実装と男達の距離は、僅か十数メートル程度。
 人間なら、一気に詰められる距離だ。
 だが不思議なことに、彼らは誰も走り寄って来ない。
 山実装達は、状況が理解出来ないものの、これはチャンスだとばかりに、更に距離を開こうと逃げ続けた。  


 パー……ン !

 ボンッ!        パシャァッ!!


 何かが破裂したような音が聞こえた次の瞬間、突然、最後尾に居た親実装の頭が、ざくろのように割れ爆ぜた。
 音もなく倒れる、山実装だった「物」。
 続けて第二、第三の犠牲者が出る。

 パー……ン !
 パー……ン !

 ボシュ!
 バンッ!!


“デ、デエェェェェッ?!”

 実装牧産の社員達は、こちらに向かって何かを構えていた。
 それは、狩猟用のライフル。
 彼らが追いかけてこない理由は、これがあったからだ。

 デギャアァァァァ!!

 次々と銃撃が襲い掛かり、恐怖に凍りつく山実装達の命を奪っていく。
 さすがに全弾ダイレクトに命中はしなかったが、外れた弾も、山実装達をその場に拘束し続ける効果はある。
 もはや、絶体絶命の状態だ。

“許せないデス! あんなものまで使って! どうしてワタシ達をそこまで殺したがるデス!!”

 怒りに任せて飛び掛ろうとする獣装石を止め、ミドリは、ひとまず皆に伏せるよう指示した。

 パー……ン !
 パー……ン !

 デギャ……!!

 パー……ン !
 パー……ン !

 ボハッ!

 人間達の弾は、当面尽きそうにない。
 伏せた後も、何匹かの山実装は銃撃に倒れていく。
 また、親を殺され、あまりの恐怖に自壊する仔実装も出始めていた。
 この短時間で、生き残った山実装は、ほんの十数匹にまで激減してしまった。
 十数メートルの距離なら、一気に皆殺しにすることが可能だということは、獣装石やミドリにも理解出来る。
 だが、そうしないということは、あえてこの状況を楽しんでいる。—-そうとしか思えなかった。

“どうすればいいデス? このままじゃあ全滅するのを待つだけデス!”

“待つデス、クソドレイが何とかしてくれるデス! 多分だけど”

“そんなの信用できないデス! やはり、ここはワタシが……”

 そう言って起き上がった獣装石の右腕が、バン! という音と共に消え去った。
 肩口から、どくどくと大量の血が流れる。
 物凄い「熱さ」を感じ、獣装石は自らの肩口を、信じられない物を見るような目で眺めた。

 デ、デギャアァァァァ!!

“お、おい、獣装石!!”
“獣装石さぁん!!”
“リーダー!”

“ばか! 立ち上がるな……!!”

 ボン!
 バスッ!!

 撃たれた獣装石を看ようと立ち上がった二体が、更なる銃撃で頭部を破壊され、沈む。
 しばらくして、銃撃が止まった。
 男達が、ようやく、山実装達の方に向かって歩き出したのだ。

“や、や、や、や、やばいデス! これは今までの中でも指折りのピンチデス!”

 かろうじて助かっていたミドリは、迫り来る緊張感を脱糞で紛らわそうとしたが、僅かなガスが漏れるだけ
だった。

「へへへ、手こずらせやがって」
「さすがに、もう抵抗はしねぇみてえだな」
「心配するな、お前らみんな、美味しく食ってやるからよ!」
「お、俺、仔実装を生きたまま食ってみてぇ!!」

 デ、デ、デ、デ、デデ……

 両者の距離は、僅か5メートルほど。
 命運は、もはや完全に尽きた。
 激痛と、軋む偽石のダメージで、獣装石は立ち上がることも出来ない。
 今、かろうじて動けるのは、なんとミドリただ一匹だった。

“デ……マジデス?”

 生き残った山実装達の視線が、おのずとミドリに集中する。
 前面の人間、背面の山実装に押されたミドリは、覚悟を決めて立ち上がった。
 というより、そうせざるを得ない状況に立たされてしまった。

“デェェ! なんでワタシがこんな事する羽目になるんデス?!
 こういうのは、クソドレイの役割デス! 選択が間違ってるデシャア!!”


「なんだこのデブ、盾にでもなるつもりかぁ?」
「面白ぇ! だったらその頭、吹き飛ばしてやるぜ!」

 猟銃を持った男が、いきり立って銃口を向ける。
 狙いは、ミドリの眉間に向けられる。
 たった5メートル、外れる筈がない距離だ。

“デ、デ、デ、デ……ひ、ひいいいい! 死にたくないデスゥゥ!!
 ここで奇跡の逆転劇に期待! 期待! 期待いぃぃぃ!!”

 デヒャアァァァァ?!

「おらぁ、脳漿ぶちまけやがれぇ!!」

“マジで撃つなぁ———っ!!”



 パー……ン !
 
 銃の引き金は、無常に引かれた。




 その時、奥の方に立っていた男達が、突然悲鳴を上げ出した。
 続く打撃音、短い悲鳴、倒れる音。
 湿った地面を叩く靴音が紛れ込み、周囲は途端に大騒ぎとなる。

「な、なんだぁ?!」
 ガズッ!
「げ……!!」

 猟銃を持った男は、事態を把握するより前に、延髄に強い打撃を受けて昏倒した。
 乱入してきたのは、Deceiveを名乗っていた例の工作員達だった。
 ブラックジャックのような打撃武器と警棒のようなものを駆使して、容赦なく男達をねじ伏せていく。
 中には腕を折られた者、額を割られた者もいるようだが、容赦は一切ない。
 十数人居た男達は、あっという間に鎮圧され、武装解除されてしまった。

「“偉大なる大ローゼン”の名の下に、あなた方を逮捕する」
「実装牧畜産業株式会社の元社員達、これは現行犯に相当する」
「山実装保護条令及び、実装石保護法違反。更に無許可での実装加工業務の運営。
 相当な重罪になるだろうが、覚悟するがいい」

「な……ほ、保護条令?! そんなの聞いたことないぞ?!」

「問答は無用だ。捕縛!」
「はっ!」

 女性リーダーの命令で、黒スーツの男達は、無駄のない動きで社員達を拘束していく。
 その様子を、離れたところでぼんやり眺めていたとしあきとぷち、そして後ろ手に縛られたひろあきは、
山実装達の許に急いで駆けつけた。

「大丈夫か、お前ら?!」

 デ……

「血がいっぱい出てるテチ! クソドレイサン!!」

「あーしょうがねぇ! これ使え! 傷口縛って」

「ちょっと! それは僕のハンカチ!」

「緊急事態なんだから! 我慢!」

「と、とほほほ……」

 実装牧産の男達の処理はDeceiveに任せ、としあき達は山実装の保護に全力を尽くす。
 それは、Deceiveのメンバーとの打ち合わせによるものだった。
 生き残った山実装達は、非常に怯えていたが、ぷちの実装語による会話で少しずつ警戒心を解き始める。
 またとしあきは、傷ついた獣装石を丁寧な応急処置を施した。
 最終的に、無事に生き残った個体は、獣装石を含めてたったの7匹。
 成体は3匹で、残りは仔実装ばかりだ。
 だがむしろ、仔実装に生き残りが居ることが奇跡的ですらある。
 そして、身を張って山実装達を庇ったミドリは……


“くぉのクソドレイ共があぁぁぁぁぁ!!!
 来るのが遅い! 遅すぎるデスこの役立たずぅ!!
 もはや許せん! ウンコ浸けの刑に処してやるデギャアァァ!!”

 傷一つなく、元気だった。

 資金距離から銃で狙われたにも関わらず、銃弾はミドリに掠ってすらいなかった。
 ありえないほどの幸運に感謝しつつも、そもそもこんな状況に立たされる羽目になった不幸をも同時に実感し、
ミドリは若干困惑状態にあった。

「それにしてもミドリ、よく無事だったなぁお前だけ」

“日頃の行いが良いからデス! デッヘン!!”

「ははは、それはねぇよ」

“うるせぇデス!” ペチャ

「あっ! この野郎! 変なもん投げるなぁっ!!」

「テェェン! こんな時にケンカしちゃダメテチィ!!」

 一応の決着が着いたため安心しきっているのか、としあき達はいつものノリでお馬鹿な会話を始めている。
 それをよそに、保護された山実装の一匹が、ミドリの足元に落ちているキラキラしたものに気付き、
取り上げた。

“これは何デス? とても固くて綺麗デス?”

「それは銃の弾だよ」

 デェッ?!

 突然ひろあきに話しかけられた山実装の成体は、驚いて獣装石の影に隠れてしまった。
 手から転げ落ち、湿った土の上に落下した銃弾は、先端が潰れておらず、尖ったままの形状を保っていた——。

 “……”

 だがそれも、獣装石の足に踏まれ、土の中深く埋もれてしまった。


          ※          ※          ※


 11月17日、土曜日午後5時6分。

 この世界に来て、既に101時間が経過。
 残りの滞在時間は、あと19時間弱。
 空は、既に夜の帳が降り始めていた。

 としあき達は、ようやく山を降りることが出来た。
 もはや疲労困憊の局地だったが、まだ終わりではない。
 としあき達は、Deceiveが呼んだ応援部隊と警察によって、実装牧産の社員達が捕らわれる場に立ち会った。
 否、半ば無理やり立ち会わされたともいえる。
 この山は、「大ローゼン」が実装牧産を買収した時点から立ち入り禁止区域となっており、これを破った者
には厳重な処罰が課せられることになっていた。
 当然、としあきやぷちも例外ではなく、結果、警察官による事情聴取を受けさせられた。
 Deceiveの女リーダーが、としあき達の身分証明と身の潔白を証明してくれたため、大事には至らなかったもの
の、たっぷりと時間が取られた。
 懐のデスゥタンガンも、玩具だということで無理やり押し切ってしまった。

 全てが終わり、実装牧産の男達が大型の護送車に乗せられていく光景を眺めていたとしあきは、がっくりと
肩を落とす高杉を見止めた。

「君を誘ったのが、そもそもの間違いだったようだ」

「それはどうも。ああ、美味い飯食わせてくれてありがとうございました。
 全然感謝してねぇですけど、一応礼いっときます」

 嫌みたっぷりに返答すると、高杉は軽く舌打ちを返す。
 それにムッと来たとしあきは、もう一度声をかけた。

「それで、獣装石はどうでしたか?」

「おぅ、とても美味かったんだよぉ。
 とろけるような肉と脂のコントラスト、ほのかな草の香り、火を通した時の香ばしさ……
 それに、モツの深いコクとミルキーさすら感じる風味、力強い味わい!
 下手な調味料など要らない! 最極上の肉質を、堪能させてもらったよ!!」

「さいですか。だ、そうですよ、警察の皆さん!」

「!!」

「俺、別に味のことなんか聞いてなかったんスけどねぇ」

「き、き、き、貴様ぁ———!!」

 この世界では、ごく最近ではあるものの獣装石の狩猟は完全に禁止となり、保護指定動物に加えられたという。
 当然、それを無許可で捕まえて殺して食べたとあっては、ばれたら大変なことになる。
 そのため、警察からの質問では、社員の誰も“食った”とは言えなかった。
 としあきは、これできっと取調べがスムーズになるだろうと、心の中で微笑んだ。
「ねぇねぇ、クソドレイサン」

 突然、ぷちが不思議そうに尋ねてきた。

「あの黒いオベベの人達、どこにもいないテチ。
 もう、お家に帰っちゃったテチ?」

「あれれ? なんだよ、色々聞きたいことがあったのに」

 別れの挨拶など、何もない。
 Deceiveの女性リーダーも、その後ろに付いていた男達も、完全に姿を消していた。
 としあきの頭の中には、あの時女性リーダーと交わした会話がリピートしていた。

『私共は、“偉大なる大ローゼン”』
『私共は、貴方がたの味方です』

 だが、何をどう考えても、自分達と彼女達を結ぶ接点が思い当たらない。

「なんなんだろうな、あいつら」

「まるで、あの人達も別世界から来たみたいテチ」

“あいつらといい、初期実装といい、消えてしまったリーダーといい。
 今回は、何がなんだかよくわからんことがありすぎて困るわロンリーサンセットデス”

「彼女達は、恐らく僕達と同じような存在かもね」

「!?」

 いつの間にか、としあきの真横に海藤ひろあきがいた。
 
「お前! てっきり警察に引っ張られていったかと思ったぞ!」

「そんなヘマはしないよ。
 それより、そろそろ返してくれないかな」

 そういうと、としあきの懐からデスゥタンガンをひったくる。
 手の中でクルクルと回転させ、フフン♪ と鼻で笑う。

「おい、生き残った山実装達に悪さするなよ?」

「そんなことはしないよ。
 雇い主がいなくなったのに、そんなことをする必要はない」

“クソドレイ2号、お前、本当にこの世界に残るデス?”

 ミドリの言葉に、ひろあきは強く頷く。

「ああそうだよ。僕は、これ以上世界移動をする必要がなくなったんだ。
 それじゃあ、弐羽君、メイド君、ミドリ君。
 長い付き合いだったけど、これでお別れだ。
 これからもせいぜい、色んな実装世界を旅してくれたまえ」

「あ、おい! 待てよ」

 としあきの引き止めも聞かず、ひろあきは、何処へともなく歩き去ってしまった。
 その場に残ったのは、三人と、茂みに隠れ続けている山実装達だけだ。

「これから、どうするテチ?」

「それなんだが、さっき獣装石と相談してな」

 そう言いながら、としあきは車のキーを取り出し、指で回して見せた。


          ※          ※          ※


 実装牧産管理棟前からトラックを拝借したとしあきは、山実装達を荷台に乗せ、どこへともなく走り出した。
 運転席に乗せた獣装石は、次に住む山を探す役割だ。
 ゆっくりと休憩を挟みながら、三人と七匹は、様々な山間の道路をひた走る。
 
 11月18日、日曜日午前8時32分。

 この世界に来て、既に116時間が経過。
 残りの滞在時間は、あと3時間半弱。

「まさにここデス! ここがいいと思うデス!!」

 獣装石の一言で決まった場所は、以前住んでいた山から車で3時間ほど走ったところにある、それまでとは
全く別な山だった。
 そこにも、大きく流れの緩やかな河が流れていて、人工物は何もない。
 前に住んでいた場所とも、非常に良く似た環境のように感じられた。
 残り6匹の山実装達も、特に異存はないようだ。

「そうか、良かったな。
 じゃあ、これでお別れだ、お前ら元気でやれよ」

「獣装石さん、お身体を労って、少しでも長生きしてくださいテチ」

“ちゃんと、リーダー務め切ってから死ねデス!”

“ニンゲン、お前には本当に感謝するデス。
 ミドリとぷちにも、同じくらい世話になったデス。
 でも、我々はもう二度と、ニンゲンと接触しないで生きていくデス。
 だから、お前達とも、ここでお別れデス……”

 ようやく皮膚が張り始めた手を振り、獣装石……否、今や山実装の新しいリーダーとなった彼女は、緑の
地の向こう歩き出した。
 山実装達も、頭を下げてから後を追う。
 としあき達は、彼女達の姿が見えなくなるまで、じっと見守っていた。

「あの山実装達が、ここで沢山増えてくれれば、嬉しいテチね」

「いや、そうは簡単にはいかないよ」

「テェ? どうして、そんな事いうんテチ? 意地悪テチ?」

 不満そうなぷちに補足するのは、意外にもミドリだった。

“この山は、あいつらにとって未知の場所デス。
 どんな危険な動物がいるかわからないし、前の住処みたいに餌も豊富かどうかわからんデス。
 下手をしたら、すぐに全滅してもおかしくないデス”

「テェェ……」

「ミドリの言う通りだよな。
 だから俺達は、あいつらの栄えある未来を祈ることしか出来ないんだよ」

“ここでクソドレイが手を貸したら、あいつらは二度と野生には戻れないデス”

「全くその通りだ。冴えてるな、今回のミドリは」

“ワタシはいつでも冴えサエデッスン!”

 そういうと、三人はトラックに戻り、最初に辿りついたアパートを目指すことにした。
 残り時間は、あと僅かしかない。
 路は殆ど人影も、他の車の姿もなく、スムーズに移動出来る。
 だがかなり遠出したため、アパートへの最短ルートがわからない。
 右往左往しながらも、としあき達の乗るトラックは、かろうじて最初の山に近づこうとしていた。
 そんな時、突然、ぷちが奇声を上げる。

「二人とも、アレ見てテチ!」

 ぷちが指差したのは、山道の脇に立つ大きな看板だった。
 所謂「○○まで何キロ」などと書かれている奴だが、そこにあるものは、内容が奇抜すぎた。

 真っ赤に塗られた看板には、黄色い文字で「偉大なる大ローゼン」とだけ記されている。
 それ以外は、一切何もない。

「あっ、あっちにも」

“あそこにもあるデス! いったい何なんデス?”

「な、なんだか気味悪いな」

 大ローゼンの看板は、トラックから見回せる範囲だけで三枚も立てられていた。
 それだけではない。
 街に続く国道沿いには、大ローゼンの名称が入ったレストランやパチンコ屋、大型ショッピングセンターなど
があり、有視界内だけでも無数のロゴが見られる。
 それはまるで、この街が……いや、世界が全て大ローゼンに支配されているかのように思える程だ。
 としあきは、そのあまりの異様さに、むしろ好奇心が刺激されていたが、今はそれどころではなかった。

“結局、大ローゼンて何だったデス?”

「さぁな。だが、気になることが結構残ったな。
 あいつら、まるで俺達が世界移動してることを知ってるような物言いだったし」

『とにかく、デスゥタンガンは、この世界のどこかに廃棄された方がよろしいでしょう』

 女性リーダーの声が、また脳内で響く。
 重たいハンドルを握りながら、としあきは、この先に続くだろう新たな旅について考えていた。

(俺の旅は、果たしていつまで続くんだろう?
 仮に、元の世界に戻れたとしても、ミドリやぷちはどうなる?
 それに、俺は本当に、初期実装の子供を捕まえられるのか——?)

 助手席に座るぷちとミドリを斜め目に見て、としあきは、季節の割に強い日差しを避けるため、バイザーを
下ろした。

“おっ! なんか見覚えのある景色になったデス!”

「あー、ここテチ! 私が置いてけぼりにされた所テチ。
 クスンクスン」

「よっし、じゃあもうすぐアパートだな!
 お前ら、お疲れ! 次行くぞー」

「テチィ!」
“デッスン!!”

 時計は、午前11時32分を指している。





→ To Be Continue NEXT WORLD





次回 【 実装産業の世界 】





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




このスクは、

★実装石虐待保管庫
sc1862「じゃに☆じそ!」第一話(公園実装の世界編)
sc1863
sc1865
sc1891「じゃに☆じそ!」第二話(虐待正義の世界編)
sc1892
sc1893
sc1897「じゃに☆じそ!」第三話(人化実装の世界編)
sc1899
sc1900
sc1948「じゃに☆じそ!」第四話(実装愛護の世界編)
sc1949
sc1951
sc1956「じゃに☆じそ!」第五話(実装石のいなくなった世界編)
sc1975「じゃに☆じそ!」第六話(実装人形の世界編)
sc1978
sc2042「じゃに☆じそ!」第七話(他実装の世界編)
sc2044
sc2052
sc2055
sc2165「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第十話(大分の世界編)


★実装人保管庫
up0210.txt「無謀なる天使達3」(実装人荘編)
up0211.txt
up0212.txt
up0213.txt「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第八話(実装人の世界編)
up0214.txt 
up0215.txt
up0216.txt 
up0217.txt「じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜」第九話(ネガ実装人の世界編)
up0218.txt 
up0219.txt
up0220.txt 

の続きです。
ただし、前のエピソードを特に読まなくてもだいたいわかります。
全3〜4回で1エピソード完結という構成です。


●訂正:
 今回のスクは、当初別な形でお目にかける予定で作成していましたが、
 前回の投下から間が開き過ぎた都合、設定をもう一度辿れるようにと
 加筆し、投下予定順を変更してアップしました。
 そのため、第十話ラストの予告と違うタイトルになっていますが、
 どうかご容赦ください。




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