タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第11話01
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初投稿日時:2013/07/13-01:09:34修正日時:2013/07/13-09:26:24
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 Journey Through The Jissouseki Act-11




【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の子供を捜すため
強引に異世界を旅させられる羽目になった。
 「実装石」という人型生命体が存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間という
タイムリミットの中で、“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。
 これまで10もの世界を巡ったとしあき達は、「大分の世界」で初期実装と再会し、
更なる世界巡りを続けることになった。
 次の世界は、果たしてどんなところなのだろうか——?


【 Character 】

・弐羽としあき:人間
「実装石のいない世界」出身の主人公。
 実装石と会話が出来る不思議な携帯を持っている。

・ミドリ:野良実装
「公園実装の世界」出身の同行者。
 成体実装で糞蟲的性格だが、としあきやぷちとトリオを組みよくも悪くも活躍。

・ぷち:人化(仔)実装
「人化実装の世界」からの同行者。
 見た目は巨乳ネコミミメイドだが、実は人間の姿を得てしまった稀少な仔実装。

・海藤ひろあき:人間
「実装愛護の世界」から登場した“もう一人の旅人”。
 としあき達とは別ルートで世界移動を行っている。
 彼の目的は、初期実装の抹殺というが……






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 じゃに☆じそ!〜実装世界あばれ旅〜 第11話 ACT-1 【 推参実遊部隊 】

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 1997年11月13日、木曜日——


 としあき達がやってきたのは、周囲を高い山に囲まれた小さな町だった。
 西側には大きな河が流れ、東は山肌、その僅かな隙間を縫うように、幅の狭い舗装道路が通っている。
 そんな道を走る車や自転車の姿は殆どなく、昼間にも関わらず人の気配すら感じない。
 道行く人の影はおろか、点々と建てられている民家のいずれにも、人が住んでいる様子が見られなかった。
 うち寂れた材木置き場の横に佇む自動販売機は、とっくにその役割を終えており、割れたウィンドウには
レトロなデザインの缶が横向きに置かれていた。

 そんな町外れに出現したとしあき達は、約一時間の散策を終え、無意識に顔を見合わせた。

「なぁミドリ、まさかこの町も」

“言うなデス、それ以上言うなデス!!”

「ひょっとしたら、他実装の世界みたいに、この町の人達もみんな死んじゃったテチ?」

“だあぁ、ぷち……”

「え? えぇ? わ、私なんかいけないこと言っちゃったテチ?」

 携帯を確認すると、今は午後一時。
 未だに、人と出会えそうな気配がない。
 だんだん増してくる空腹感に耐えながら、三人はかつて経験した絶望感に苛まれないよう、懸命に希望を
抱こうと努力する。
 だが、道路脇に建物が全く見られなくなってきた時、遂にミドリが音を上げた。

“グギャアァ!! いい加減にしろデス!
 いったいどうなってやがるデス!?
 家があるのに、なんで人が全然いやがらねぇデスゥ!?”

「テエェ、私もお腹の虫が鳴きそうテチィ」

「確かに、このままじゃ辛いなぁ。
 仕方ない、こうなったら」

“考えることは同じデス? デププ♪”

 としあきとミドリは、顔を見合せニヤリと笑うと、一番手近な民家をジロリと睨み付けた。

「お、オネーチャ? クソドレイサン!?
 いったい何をするつもりテチ?」

「緊急事態だからな。
 ここはあえてモラルを度外視して——」

“食べ物を探すために、あの家に潜入するデス〜♪”

 というが早いか、二人は摺り足ダッシュで今来た道を戻り始めた。

「て、テチャアァ!
 そんなことしちゃダメダメテチィ〜!!」

 さっきまでの疲れなど忘れたかのように、二人は猛スピードで駆けていく。

「テエェ!?
 なんで突然元気になっちゃうテチィ!?」

 あっというまに見えなくなった二人の後を必死で追いかけるぷちだったが、ふと、あることに気付いて
足を止めた。

「あれれ? 今……」

 視界の端に何か動くものを見た気がした。
 だがそこには、ただ背の高い草が密集しているだけで、異状はない。

「うーん、キツネさんか、タヌキさんテチ?」

 小首を傾げながら、ぷちはしばしボーッと周囲を見回していたが、二人のことを思い出して再び走り出した。


          ※          ※          ※


 ぷちの到着を待たず、手近な民家の敷地に入り込んだとしあきとミドリは、その家がかなりの期間放置されて
いる事を悟り、途方に暮れていた。
 開け放たれたままの玄関、窓から見えるボロボロのカーテン、赤錆にまみれた農具と古い型の自転車。
 老朽化して穴が開きまくったトタン屋根を乗せた納屋、枯れ草まみれの小さな菜園付きの庭。
室内から漂うカビ臭い匂いは、二人の期待を打ち崩すのに充分過ぎるものがあった。

“いったいどうなってやがるデス!?”

「こりゃ本当に、実装に滅ぼされた町だったりしてな」

“つーかここは既に町ですらねーデス!
 ただの廃墟デシャア!!”

「まいったなあ、このまま食い物が見つからなかったら、ここは他実装の世界よりも酷いかもしれねーぜ」

 舌打ちをして空を見上げたとしあきは、どこからか視線を感じた気がした。
 しばらくすると、息を切らしたぷちがやって来る。

「なんだ、ぷちか」

「ぜぇ、ぜぇ……ど、どうしたんテチ?」

「ああ、いや。なんでもないよ」

「そ、それより、オネーチャはどこに行ったんテチ?」

「ん? 奴ならそこに……れっ?」

 振り返った先には、誰の姿もなかった。


          ※          ※          ※


“待ちやがれぇぇデシャア!!”

 鬼のような形相で、ミドリは懸命に何かを追いかけていた。
 いち早く“視線の正体”に気付いた彼女は、そいつと偶然目線が合ったのだ。
 その大きさ、体型、視線の高さから、それが実装生物だということはすぐにわかった。
 しかし——

“デ、デエェェ!?
 な、なんちゅう速さデス!?”

 追われている実装生物はミドリと大差ない体格にも関わらず、信じられないほど軽快な身のこなしで、
どんどん距離を離していく。
 なんと、としあきの身長程もある木の柵すら容易に飛び越え、実にあっさりと巻いてしまった。

“な、な、なんなんデス!?
 あれはバケモノか何かデス?”

 気がつくと、ミドリはさっきの場所からかなり離れてしまった。
 振り返っても、全く見覚えのない光景が広がっている。
 としあきやぷちの声も聴こえず、ただ風の音だけが微かに耳に届くだけだ。
 ミドリは、かつて餌取りを教わっている最中に母親の許を離れてしまい、酷い目に遭った経験を思い出した。

“そうだったデス、あの時ママは言ったデス。
 保護者に気づかれないで離ればなれになってしまったら、死を覚悟しろって。
 それに、もう二度目はないって……”

 当時、奇跡的に救助されたミドリは、母親にごっつり尻を叩かれながらそう言われた。
 河川に近付き過ぎ、母親の発見があと一瞬遅れていたら、流されてしまっていたかもしれなかったのだ。
 それ以来、ミドリは自分の子供達にも同じことを教え込んで来たが、それにも関わらず何匹かは二度と
戻らない冒険へと旅立ってしまった。

“だあぁ、子供に教えといて自分が実践出来なきゃ全然意味ねーデス!!
 デエェェェン!!”

 泣きべそをかきながら今来た道を戻ろうとしたミドリは、ふとあることに気付き、足を止める。

“いや待てよ?
 なんでワタシが、親にはぐれた雛鳥気分にならなきゃいかんデス?
 ぷちはいわずともかな、ワタシが主つまり保護する側、クソドレイが保護される側の筈デス!
 あいつが泣きわめくならともかく、ワタシが泣く理由がないデス!”

 グズッと鼻をすすり上げ、ミドリは眉間に皺を寄せると再び歩き出す。
 結局としあきを捜す行為に変わりないのだが、本人は画期的な発想転換をしたつもりになっていた。

“お〜いクソドレイ、ぷちぃ〜!!
 ワタシに黙って勝手に離れたら危ないデスゥ。
 とっとと出てくるデスゥ〜!”

 大声を上げながら、トボトボと寂しい道を歩いていくミドリだったが、いつの間にかさっきとは全然違う
方向に歩き出していることに気付いていない。
 やがて舗装路も途切れ、歩きづらい砂利道に出てしまい、ようやく道を誤ったことを自覚した。

“ヤバイデス、どんどんあいつらから遠ざかっている気がしてきたデス”

 うろたえながらも歩みを止めないミドリは、いつしか山道へと入り込んでいた。
 辺りは遥かに背の高い木々に覆われ、薄暗がりからは不気味な鳥の鳴き声が響いてくる。
 空も次第に暗くなり始め、益々気味悪さが増してくる。
 遂に道が途切れ、周囲の見通しが全く利かなくなってしまい、ミドリはとうとう音を上げた。

“デエェェェン、疲れたデスゥ!
 もうこれ以上一歩たりとも歩きたくないデスー!
 クソドレー! ぷちー! とっとと迎えに来やがれデシャア——!!”

 ふてくされて地面にのたうち、ジタバタ手足を奮わせていると、にわかに周囲が騒がしくなったような
気がした。
 地面を伝って、大勢の足音が響いてくる。
 幻聴ではない。

“デ、デエェ?!
 クレドレイとぷちが分身したデス?!”

 やがて、暗闇の一部が明るくなり、ミドリを照らし出した。
 それが懐中電灯の光だと気付くのに、若干の時間が必要だった。

「実装石だぞ? 随分大きい!」

「マジか?!」

 聞き覚えのない声が、ガヤガヤと響き、ミドリを包囲する。
 何者かが、ミドリの襟首を乱暴に掴み上げた。

“デギィッ?! な、何をしやがるデス?!”

「こいつ、ブクブクに太ってんな」

 声の主は、としあきより年上の男達のようだ。
 ミドリは乱暴に地面に投げ捨てられ、何者かに軽く蹴りを入れられ、ゴロゴロと転がった。

“何しやがるデシャアッ!!
 この、世界にまばゆく煌めく至高の存在・ミドリ様を足蹴に——”

 と、そこまで言った時点で、辺りが少しずつ明るくなりはじめた。
 見回すと、どこから持ってきたのか沢山の野外照明が設置され、周囲を照らし出している。
 いつの間にか仮設テントのようなものまで張られ、予想より遙かに多くの人間が集まってきた。
 更に、続々と自動車がやってくる。
 ミドリが居たところは未舗装の広場になっており、相当の広さがあるようだったが、どこからともなく
集まった人間達によって占有されていた。

“な、何が起きてるデス?”

「おい、この実装石どうする?
 どう見てもあいつらの仲間には見えないけど」

「そうだなあ、とりあえずそこらに転がしてる檻にでも……」

 誰かが、どこからともなく巨大な鉄製の檻を引きずってくる。
 だが、その扉を開けようとした時、反対側の方でどよめきが起きた。

「すみませーん、この辺でうちのじっそ……あ、いた!」

「オネーチャ! テェェン!! やっと見つかったテチィ!」

「なんだ? こいつ、あんたらのか?」

「ええ、そうなんですよ。
 すみませんお世話かけちゃって」

「へぇ、実装石を飼ってるのか?」

「ま、まぁ、そんなところで」

“クソドレエェェェェイ!!
 来るのが遅すぎデジャアァァァッッ!!”

 頭を掻きながらやって来たとしあきは、ヒョイとミドリを持ち上げると、定位置であるぷちの腕の中に
ポイと放り込んだ。

「わりぃ、ぷち、ちょっとそいつ頼む」
 
「オネーチャ、無事で良かったテチ。
 ところで、この集まりは何テチ?」

“そんなの、ワタシが知るわけないデス!”

 頭からプシーと蒸気を噴きながら、ミドリが睨み付ける。
 困惑した表情を浮かべながら、ぷちは、謎の集団と離すとしあきの後ろ姿を見つめた。

 結局、としあきとぷちはその後も住人を見つけることが出来なかった。
 しかし、突如やって来た沢山の自動車が気になり、行き先を確かめようと考えた。
 ざっと見る限り、大人の男性ばかりで人数は20人ほど居るように思える。
 大きな野外照明と発電機、テント、そして各々が持つ大型のザック、それから様々な登山用具のようなもの、
大きな網、長い棒など、様々なアイテムが手順良く並べられていく。
 その中には、バーベキュー用のコンロまである。
 賑やかに談笑する人々の目は、もはや輪郭すらまともに見えなくなった山の方を見つめている。

「んで、皆さんは一体なんなんですか?」

 としあきの質問に、年の近そうな青年が返答する。

「ああ、これは山実装の——」

「我々はね、実遊会だよ」

「じ、ジツユウカイ?」

 青年の言葉を遮るように、年輩の男性が説明を加える。
 話によると、この“双葉山”には「山実装」と呼ばれる、山林にしか生息しない実装石が多く住み着いて
おり、彼らはそれを狩猟するために集まったのだという。

「山実装? なんでそんな連中を狩るんですか?」

「君らは、山実装のことを知らんのかね?」

 年輩の男性は、不思議そうに尋ねてくる。
 無言で頷くとしあき達を見た男性は、青年と何か小声で話してから、説明を始めた。

「山実装は、山の中に住んでる野生の実装石だ。
 作物を荒らしたり民家に侵入して食料を奪ったり、時には家畜や人間を攻撃する性質があるんだ」

「え、えーっ?! 山実装が?」

「そうさ、だから我々みたいな者達が集まり、実装石を狩らなきゃならないわけだ。
 ホラ、そこの町も全然人がいなかっただろ?
 あれもみんな、山実装のせいさ」

「うげ」

 実装石程度でそんな大規模な被害が出せるとはとても思えなかったが、としあきは、この世界の実装石には
それが可能なのかもしれないと考え、少しだけ身体を奮わせた。


 結局、この辺りにはバスなどの交通手段が全くないことがわかり、としあき達は実遊会のメンバーに助けを
求めなければならなくなった。
 幸い、彼らはとても気の良い連中で、食料と水も気軽に分けてくれた。
 話を聞くと、彼らは山実装のテリトリーを探してこの周辺をさ迷っているという。
 今回これで外れだと、今シーズンは難しくなってしまうらしい。
 彼らからすれば、ここが正念場でもあるため、絶対に外せないのだという。

「大変なんですね。でも実装石を狩るってことは、猟銃とか使うんですか?」

 としあきの他愛ない質問に、年配のメンバーが答える。

「そういう連中もいるけど、我々は基本的には使わないね。
 山の中に潜んでるし、何より奴らは小さいから、あまり有効にならない」

「それに、一匹撃ったらそれに反応して、仲間がみんな逃げちゃうからね」

 青年が、そう言って大きな投網が吊るされた木の板を指差す。

“本物の実装石がいる目の前で、物騒な話をせんで欲しいもんデス”

「テチュン……乱暴なお話は聞きたくないテチ」

「そこの娘さんは、君の彼女なのかい?」

 年配のメンバーが、としあきの背後に立つぷちに注目する。
 目を見張るような美人で身長165センチのスラリとした身体と、110センチを越えるバスト、その上半分を
大きく露出させたメイド服はとても目を引く。
 実遊会の面々の視線に気づくと、としあきはわざとらしく咳払いをした。

「こいつは実……いや、まあ、そうですね、そんなもんです」

「ほう、若い連中はうらやましいねぇ」

「あはは、ども」

「テェ? クソドレイサン何を言ってるテチ?」

“あいつはお前の魅力にメロメロテッチュン状態デス。
 好きに言わせておけデス”

「しかし、ここはカップルが来るような所じゃないぞ?
 ……あ、そうだ。ちょっと君」

 年配のメンバーは、ふと何かを思い付いたような態度で、ぷちに手招きする。

「その実装石を、ちょっと借りることはできないかなぁ?」

「オネーチャをテチ?」

“デェ?”

「山実装は警戒心が強くてね、人間の姿を見ると近寄ろうとしないんだ。
 でも、もしその子がいれば油断するんじゃないかなと思ってさ」

 そう言いながら、年配のメンバーは暗闇にそびえる山を見つめる。
 ぷちとミドリは、黙って顔を見合わせた。

“害獣とはいえ、同じ実装石を騙そうってのは気が引けるデス!
 他をあたれデス”

 ぷちは、ミドリが反対の意を唱えている事を伝える。
 それを聞いた年配のメンバーは、目を剥いて驚いた。

「君、まさか実装の言葉がわかるのかね?」

「はいテチ。
 オネーチャは、この近くに別な実装石がいるからその子に頼めばいいって言ってるテチ」

「おいミドリ、お前以外に実装石がいたのかよ」

“さっき会ったから、間違いないデス。
 物凄い速さで走って逃げたけど、あれは実装石の気配がしたデス”

 今度は、としあきがミドリの言葉を伝える。
 それを聞いたメンバー達は、しばらく何かを話し込むと、突然歓喜の雄叫びを上げた。

「獣装石だ!」
「間違いねえ! 大当たりじゃねぇか!」
「粘った甲斐がありましたね!!」

 実遊会の面々が、異様な盛り上がりを見せ始める。
 としあき達は、流れが読めず呆然とするしかない。
 同時に、初めて耳にする単語が妙に気にかかる。

「あのう、ジュウソーセキって、なんですか?」

「おぅ、知らないのか」

 ごつい体つきの若い男が、脇から説明を加える。
 獣装石というのは、実装石の突然変異体で、大変凶暴かつ俊敏で、捕獲が難しい種類だという。
 これが加わった山実装のコミュニティは大変やっかいで、被害規模も大きくなり早急な対処が必要になる。
 当然、人間や犬にも積極的に攻撃を加えてくるため、気を付けないと大きな負傷を伴い、一歩間違えれば
死に至ることもあるようだ。

「げぇ、なんだそりゃ?
 そんな奴ら、今までの世界に居なかったぞ?」

“まるで実蒼石みたいな連中デス”

「テェェン、そんな方達と関わりたくないテチィ!」

「君達のおかげで、獣装石がいるとわかった。
 本当にありがとう!」

 年配のメンバーは、としあきとぷちの手を取り嬉しそうに揺さぶると、改まって名刺を差し出して来る。
 実遊会○○支部長・高杉と名乗るその男は、としあき達に、一時的に行動を共にしないかと呼び掛けてきた。


          ※          ※          ※


 その晩、としあき達は実遊会から手厚い歓迎を受けた。
 美味いバーベキューや冷えたビールにありつけ、空腹感は充分満たされた。
 彼等は、マイクロバスやキャンピングカーを何台も持ち込んでおり、そのためかなり快適な環境にありつけた。
 唯一の女性のぷちも、優先的にシャワーを使わせてもらえた上、空調の利いたベッドルームを貸してもらえる
ことになり、大変上機嫌だ。
 としあきとミドリはマイクロバスの奥で雑魚寝だったが、それでも野宿や廃墟での宿泊よりは遥かにましに
思えたし、何より疲れは充分取れる。
 当初、待遇の違いに文句を唱えていたミドリも、大振りのバーベキュー串を五本もたいらげたら、すっかり
反応が変化してしまった。

 翌朝、メンバーと共に朝食を摂ったとしあき達は、再度高杉からの依頼を受ける事になった。
 高杉の依頼内容は、山実装のコミュニティが集う集落を発見し、それを報告することだった。
 昨日の時点で、としあきの“実装リンガル機能を持つ謎携帯”の事は報告済みで、メンバーの期待もかなり
高まっていた。

「頼むよとしあき君。
 山実装を一網打尽にするためだからね、よろしく!」

「まぁ……害獣じゃしょうがないですね、わかりました」

 朝食後、早速としあき達の準備が始まる。
 山の中を歩く必要があるため、としあきとぷちは首下から足首までを包み込む丈夫なツナギと、安全靴を
貸し与えられた。
 それと、鉈やロープ、携帯食と飲料水などを詰めたザックが一つ。
 その格好は、まるでどこぞのレンジャーみたいだ。
 ぷちは、ミドリを背負うためのおんぶ紐を適当に作って貰い、装備する。
 準備が整ったのは、もう昼に近い時間帯だった。

“クソドレイ、お前、なんでワタシの仲間を売るような行為に加担しやがるデス?
 バーベキューに釣られやがって、全く、見損なったデス” 

「お前、明らかに俺より食ってただろうが!」

“差し出されたから食べただけデス!
 スウェーデン食わぬは実装の恥と申しましてな”

「たまに、お前が何言ってるのかわかんなくなる時があるよ俺」

「こんな時に、喧嘩なんかしないでテチ!」

「じゃあとしあき君、よろしく頼むよ。
 位置がわかったらレシーバーで連絡くれたまえ」

「ういっす、じゃあ行ってきます」

 メンバーに見送られながら、としあき達は山道へと入っていく。
 途中までは、山沿いの未舗装道路を登坂していくが、十分も進まないうちに道が途切れ、そこからは林の中
に割り入っていく。
 その道は、昨日ミドリが見たという獣装石の行き先と考えられるルートだった。

 林の中に入り込んでしばらく後、としあきは、ぷちとミドリに向き直った。

「ここまで来れば大丈夫かな。
 ——ミドリ、心配するな。
 俺は別に、山実装の駆除に協力するつもりはないよ」

“デ?”

「どういう事テチ?」

 不思議そうな顔をする二人に、としあきはニヤリと微笑みながら語る。

「昨日彼等に聞いたんだけど、どうやらこの世界の実装石は、殆ど人里に降りてこないんだ。
 つまり、街中に実装石は全然いない。
 山実装しか存在しないから、昨日みんなはお前を見て驚いたって事らしい」

「飼い実装もいないテチ?」

「そういう事なんだろうな。
 つまり、この世界で実装石と接触するためには、必然的に山に入らなきゃならない」

“接触してどうするデス?”

 ミドリの疑問に、としあきは呆れた溜め息を吐く。

「おいおい、忘れたのか? 俺達の目的?」

 としあきの質問に、二人はしばし眉間にシワを寄せ考える。

「あ! 初期実装の子供テチ!」 

“おおー、すっかり忘れてたデス”

「最後に見てから随分とご無沙汰だからなぁ、まあ仕方ないか」

 初期実装の子供とは、としあきが自分のいた世界でつい踏みつけてしまった存在である。
 踏まれたショックで異世界へ飛んでしまった子供を追うため、としあきは母親である初期実装から異世界巡り
を強要される羽目になった。
 初期実装の子供を捕まえれば、異世界巡りの旅は終わるのだが、としあきはいつもあとちょっとの所で捕獲に
失敗している。
 実装石が居る場所に紛れて出現するケースが多かったため、三人は必然的に実装石が多く住む場所を
目指さなければならない。
 既に11もの世界を巡っており、体感時間も80日に達しようとしているため、としあきはそろそろ決着を
着けたいと考えていた。

“じゃあ、もし山実装と会えて、そこで初期実装が捕まえられたら?”

「そこで終わりだから、後の事は知らんよ」

「もし、初期実装の子供を見つけられなかったら?」

「……その時は、その時考える」

“さては、なんも考えていなかったデス”

「クソドレイサンは、思慮深いように見えて全然そんなことないテチ。
 私、だんだんわかってきたテチ」

「う、うるせぇ!! オラ、早く行くぞ!」

 顔を真っ赤にしながら、としあきはどんどん先に進んでいく。
 しかし、林に入ってから早や十数分。
 木々は深まるばかりで、一向に実装石の手がかりらしきものは見当たらない。
 
“林が森になったデス。
 クソドレイ、ちゃんと元の道に戻れるようにしてるデス?”

「あ、いやごめん。
 そうだな、ロープあったから目印を結ぼう」

「もう、もっと早くやれば良かったテチ!」

「まあ、そういうなよ」

 としあきは、ロープを手近な木に結び、切断する。
 ずっと引き伸ばしたいところだったが、そこまでの長さがないためだ。

「これをたくさん結んで目印にすれば、帰れるよ」

「さすがクソドレイサンテチ!」

“暗くならないうちに、早く集落を見つけるデス”

 ミドリの言葉に頷き、としあき達は更に奥地へ進む。
 相変わらず、景色に大きな変化がない。
 その途中、としあきはふとある疑問を口にした。

「なぁ、前から気になってたんだけどさ。
 お前らって、最近妙に賢くなってきてないか?」

“何をいうデス?
 ワタシは元々賢くて美しいデス”

「それはきっと、いろんな経験をしたからテチ」

「そうだよなぁ、もういい加減、長い旅して来てるもんなあ、お前らとも」

 としあきは、二人を見つめて小首を傾げると、再び先を目指そうとする。
 だがその時、ミドリが小さな悲鳴を上げた。

「どうしたテチ?」

“い、今なんか、後ろから物音がしたデス!”

「えっ?」

 ミドリの声に反応するのとほぼ同時に、としあきの横を、何かが猛スピードで横切った。
 同時に、ガサガサと草木の擦れる音が重なり合う。
 音の大きさから、相当なサイズの動物と思えたが、三人には影すら見止められない。
 慌てて周囲を見回そうとした途端、としあきの頭上から、何か黒い影が落ちてきた。

「クソドレイサン、あぶなーい!」

「どわあっ?!」
“デギャアッ?!”

 異変に気付いたぷちが、反射的にとしあきにタックルをかます。
 勢いよく倒れ込んだ三人の後に、何者かが降り立ち、地面に何かを突き立てた。
 ザクリッ、という鋭い音が、耳に飛び込んでくる。

「うえ?!」

 デギャッ!!

 としあきの立っていた場所に「爪」を突き立てた「それ」は、毛むくじゃらの体躯を晒し、鋭い眼光で
三人を睨み付けていた。
 それは、今まで見たこともない生命体だった。
 緑と赤の眼を持ち、三つ口、丸っこい頭とボディ、そして棒状に伸びた四肢を持ち、背の高さは目測40センチ
くらい。
 特徴は実装石と良く似ているが、全身に分厚い体毛が生えている。
 その手足には大きな爪が生えており、特に手の方は長さが7センチはあるのではないかというくらい大きい。
 小型ではあるものの、それは未知の怪物と表現せざるをえないほど、奇怪な外観をしていた。

「うわああぁ?! な、なんだこいつはぁっ?!」

“逃げろデス、クソドレイ、ぷちーっ!”

「て、テチャアッ?!」

 デギャア——ッッ!!

 激しい咆吼を上げ、怪物は再びとしあき達に飛びかかろうとする。
 だが、ぷちの背にいるミドリの姿を見た途端、爪の動きを止めた。

 デ……デェ?!

“ヒイィィ! く、クソドレイなら好きにしても構わないから、ワタシだけは命を救命するデスーッ!”

「何言ってやがる、この糞蟲があっ!!」

「二人とも、ケンカしてる場合じゃないテチ!」

 デ、デェ

 はいずるように逃げる三人をよそに、未知の怪物は、腕を振り上げたままのポーズで硬直している。
 腰が抜けてうまく立ち上がれないぷちの傍に近寄ると、怪物は、クンクンと鼻を鳴らし始める。
 怪物とミドリの目が合う。

“お前——ニンゲンに飼われてるデス?”

 怪物の言葉が、としあきの脳裏に響いてくる。
 咄嗟に携帯を開くと、液晶画面には、ぷちやミドリとは異なる色の翻訳文字が表示されていた。
 
「じ、じ、実装石なのか、こいつ?!」

“質問に答えるデス。
 お前——このニンゲンに飼われてるデス?”

 怪物が自分に呼びかけていることをようやく理解したミドリは、真っ青になった顔を向ける。

“か、か、飼われてるというわけでは……デ、デデ”

“ニンゲンのエサに釣られて、山を下りたデス?”

“な、何を言ってるのか、わからんデス”

“……”

 ミドリと話した怪物は、ぷちを一睨みすると、続けてとしあきの傍に寄ってくる。
 鋭い爪を喉元に突きつけると、怪物は、脅すような口調で呟いた。

“ニンゲン——お前、ワタシの言葉がわかるデス?”

「あ? ああ。まぁな」

“だったら話が早いデス。
 とっとと山を下りろデス”

「なに?」

“今すぐ、消え去れと言ってるデス。
 ここは、お前らニンゲンが来るような所ではないデス”

「そ、そう言われても困るぜ。
 俺には、山実装と会わなきゃならん理由があるんだからな」

“?”

 怯えながらも退こうとしないとしあきに、怪物はいぶかしげな目線を向けると、やがてすっと身を引く。

“とにかく、警告はしたデス。
 これ以上進むと、お前達はきっと後悔するデス!”

 ザザザ、と木の葉が激しく揺れる音が響いたと思った瞬間、怪物はいつの間にかその場から姿を消していた。
 あまりの素早い動きに、三人とも全く付いていく事が出来なかった。

“な、なんなんデス、今のは?!”

「テェ……今まで全然見たことのない実装石テチ」

「すげぇ早さだったな、ありゃ実蒼石より素早いかもしれないぞ?」

 ようやく起き上がったとしあきは、ぷちを立たせると服の埃を払う。
 周囲は、まるで何事もなかったかのように静まりかえっている。
 あれほど耳障りだった木の葉の音すら、今はもう全くしない。

“か、帰る……デス?”

 ミドリの怯えた声に、としあきは首を横に振った。

「冗談じゃない、ここまで来て何もせずに帰れるかっての」

「そ、そうテチ!
 それに、山実装さん達に会って、もう麓の皆さんを襲わないようにお願いしなきゃならないテチ!」

“デェェ……そんな事、本当に出来るデスゥ?”

「行くしかないだろ。
 ぷち、歩けるか?」

「だ、大丈夫テチ!」

 ぷちの手を取り、としあきは改めて山道を進み始めた。
 ミドリは後方に注意を払いつつ、またあの怪物がやってくることのないようにと、必死で祈り続けるしか
なかった。


          ※          ※          ※


 としあき達が森を抜け、清水流れる河川を発見したのは、周囲が暗くなり始めた頃だった。
 河川とは言っても河幅はさほど広くなく、場所によってはとしあきなら容易に飛び越えられる程度だ。
 ただし、一部小さな滝壺のようになっている場所があり、そこからは河幅も広がり、橋なしには渡れない。
 河の深さはこの暗さでは判別出来ないが、流れる水量はかなりのものに思えた。
 耳に心地よい水流の音に惹かれた三人は、ようやく開けた視界に安堵すると同時に、これからの帰還を
どうするべきかと途方に暮れた。

“まあ、なっちまったもんはしょうがないデス。
 それよりぷち、ワタシをいい加減下ろすデス”

「はいテチ、オネーチャ」

「しっかし、これからどうするかなぁ。
 こんだけ暗いと実装石を捜すのもおっくうだぞ?
 ミドリ、なんかいい案ねーか?」

“そういう難しい事はニンゲンが考えろデス”

「そうか、じゃあ俺の提案は無条件で呑むという事だな?」

“デ?”

 としあきは、ぷちにミドリを下ろすように指示すると、ミドリに先導させ河原を歩くことにした。

“ちょっと待てデス! なんでワタシが先に出なきゃならないデス?!”

 怒りながら抗議するミドリの頭をぽむぽむ叩き、としあきは咳払いをする。

「いいか、よく考えろ。
 この辺が山実装のテリトリーなら、最初に俺達が姿を見せるより、お前が先に歩いた方が警戒されにくい
かもしれないじゃないか。
 それに、お前ら実装石は夜目が利くだろ?
 俺なんかより、早く山実装を見つけられるじゃねーか」

“だからって、ワタシが危険だとかは考えないデス?!”

「ばっかだなあ、これは、お前の優秀さを見込んでの頼みじゃあないか」

 その言葉に、ミドリは顔を赤らめた。

“ゆ、優秀?!
 お前、ワタシの実力がだんだん理解出来るようになって来たデス?”

「だろ? だからここは、優秀で完璧で何より優れるミドリの力を、是非貸して欲しいんだよ!」

 ニヤリと怪しく微笑むとしあきの態度に、ミドリは気付かない。

“そ、そこまで言われて引き下がっては、実装石の名が廃れるというもんデス!
 まかせろデス、山実装はワタシが一網打尽にしてみせるデスーッ!”

 ベフーッ、と荒々しい鼻息を吹き出し、ミドリが奮い立つ。
 ニヤニヤと微笑むとしあきの後ろでは、ぷちが不安げに見つめていた。

「オネーチャ、別に山実装さん達を捕まえるために来たわけじゃないテチィ」

 上手く丸め込まれたミドリを先頭に、としあきとぷちが十メートルほど間を取り後に続く。
 そんな編成で、三人は河沿いに歩いてみることにした。
 足下は、岩と小石と苔がまばらに広がっており、気を抜くと滑ってしまいそうだったが、ここで借りてきた
安全靴が成果を見せる。
 遅れて歩くぷちの手を引きながら、としあきは、なぜか軽快に歩いていくミドリを見失わないように注意を
払う。
 山実装の警戒を恐れ、迂闊にLEDライトを点ける訳にもいかなかった。

 清涼な水音の中、三人は息を殺すように先へ進むが、特にこれといった変化は見られない。
 更に十数分ほど歩いた時点で、ミドリが早速音を上げた。

“クソドレーイ! 歩き疲れたデスーッ!
 ぷちにおんぶするデスーッ!”

「っておめぇ、まだ大して歩いてねーじゃん」

“こんなにゴツゴツヌルヌルした所を、実装石の足で歩いたらすぐくたびれるに決まってるデス!
 そんな事もわからないデス?
 このグズ、ノロマ、オタンコナス、中折れ役立たず!”

「ちょっと待て、最後のは何だよ!」

「私知ってるテチ!
 三十代半ば過ぎの男性には深刻な問題なんテチ」

「ぷち、そんな無駄知識は、今すぐフォーマットしちめーなさい」

「テ、テェッ?!」

“デジャァァ——!! もうこれ以上歩きたくないデスーッ!
 腹も減ったデス、眠気も出て来たデス!
 熱い風呂と湯上がりの一杯が恋しいデスーッ!”

 感極まったミドリが、ついに本格的にダダをこね始めた。
 だがそれと同時に、微妙に周囲の空気が変化した。
 ザワザワと木々が音を立て始め、どこからか鋭い視線を感じる。
 ばふっ、という空気を切り裂くような音が聞こえたと感じた次の瞬間、ミドリととしあき達の間に、何か
黒い物体が舞い降りてきた。
 しかも、それは一つではない。
 次々に、無数にやってくる。
 猛獣のようなうなり声が聞こえ、としあきとぷちは、ようやく事態の深刻さを意識した。

「こ、こいつらまさか……?」

「さ、さっきの変な実装石さんテチ?!」

“デ、デェェッ?!”

 デズゥゥゥ……!!

 シャキン、シャキン!

 硬そうな爪が擦れ合う音が、背筋に冷たいものをほと走らせる。
 圧倒されそうなほど強烈な殺気を向けてくる影達に向かって、としあきは携帯を翳しつつ呼びかけた。

「お前達、ひょっとして獣装石って奴等か?」

 徐々にとしあきとぷちを包囲しようとする影達は、その声にピタリと動きを止める。

「私達のお話を聞いて欲しいテチ!」

 続くぷちの言葉に、影達が動揺を始める。
 人化実装であるぷちは、本当は人間の言葉を話す事が出来ない。
 彼女が今話している言葉は、首に着けられたチョーカー型実装リンガルを通じて発せられている音声で、
口からは普通の実装語が出ている。
 それを聞いたためか、影達の殺気が幾分和らいだ気がする。

“お前達は、何をしに、ここにやって来たデス?”

 影のうちの一体が、実装語で呼びかけてくる。
 返答しようとするぷちを抑え、あえてとしあきが返した。

「俺達は、ある実装石を捜しにやって来たんだ。
 お前らに危害を加えるつもりはない」

“ワタシ達の言葉が通じるデス…”
“こいつらはニンゲンではないデス…?”
“ザワザワ……ザワザワ” 

 影達の動揺が、伝わってくる。
 話しかけてきた影は、他の者達に爪を収めるように指示すると、としあきの前に一歩踏み出す。
 薄ぼんやりと暗闇に浮かぶその輪郭は、先ほど山道で出会った個体と同じ姿のように思える。
 この個体だけは、まだ爪を収めていない。
 それは、ヘタな動きをしたらいつでも斬り掛かれるという意志表明のように感じられた。

“お前達は、麓のニンゲン達とは違うデス?”

「ああ、違うね。
 だから、その物騒なものをなんとかしてくれ。
 こちらは武器も何も持っちゃいないんだ」

“……”

“おーい、いつまでワタシを無視して話を進めるつもりデジャア?!”

「あ、オネーチャのことすっかり忘れてたテチ!」

 ぷちは、自分が実装石である事と、ミドリととしあきの事を簡単に説明した。
 そして、自分達がこことは違う別な世界からやって来た事についても。
 「別な世界」という概念はさすがに意味が通じなかったが、としあきの前に出た個体は、ひとまず爪を
引いてはくれた。
 しかし、いまだに警戒は解いていない。
 緊迫した空気が、なおも漂い続ける。

“よくわからんが、特殊なニンゲンだという事はわかったデス。
 だが、これ以上ワタシ達の住処に近づく事は許さないデス。
 命が惜しければ、今すぐ山を降り——”


“待ちなさいテス”


 その時、全く別な方向から声が響いてきた。
 影達の反応は、一斉にそちらに向けられる。
 としあき達の右手、僅かに起伏した形状の岩の上に、小さな何かが佇んでいるようだ。

“その人達を、ワタシ達のコミュニティに案内しなさいテス”

“ほ、本気デス?! リーダー?”

 リーダーと呼ばれた者は、無言で頷くとすぐに岩の向こうに降りてしまう。
 チッ、と短く舌打ちすると、影はとしあき達に腕を振って見せた。

“ついてこいデス!”

 と言うが早いか、影達が一斉にその場から離脱した。
 素早い動きで、暗闇の中に溶け込むように走り去っていくが、これでは後を追う事すら出来ない。
 ミドリを抱き上げたぷちの手を引くと、としあきは、おおよその方向へ向かって歩き出す。
 再び、リーダーの声がどこからか聞こえた。

“あの子達の事は、どうか許してあげて欲しいテス。
 ——ようこそ、山実装のテリトリーへ。
 貴方達を歓迎するテス”

「あ? あ、ああ……どうも」

「テチュウ……」

“何がどうなってるのか、さっぱりわからんデス!”

 思い出したようにライトを点けると、としあきの足下には、身長40センチ強くらいの体格の実装石が
佇んでいた。
 ミドリよりはかなり小柄で、成体にはとても見えない。
 どことなく幼さの感じられる鳴き声も、それを裏付けているようだ。

「君は……」

“この山の実装石コミュニティの、リーダーテス。
 よろしくテス、としあきさん”

「え、あ、よ、よろしく」

 としあきは、足を滑らせないよう注意しながら、リーダー実装の案内に従って河を遡っていく。

“……?”

 一方、ミドリはいぶかしげな表情で、リーダーの後ろ姿を見つめ続けていた。


          ※          ※          ※


 森は、夜の闇にすっかり覆い尽くされたが、河川の周囲だけは冴える月明かりにぼんやりと照らされている。
 としあき達が招かれたのは、そんな河辺の一角だった。
 そこは平坦な地形になっており、乾いた土に草が適度に生え、先ほどの場所みたいに滑りやすくはない。
 その各所に、小さな物体が蠢いている。
 森に通じている辺りは闇に覆われ、全体の様子はよく分からないが、とても静かで住みやすそうな環境だ。
 天から降りそそぐ青白い光に照らされ、数十体ほどの実装石達が、一斉にとしあき達の方を向いた。
 短い悲鳴がいくつか聞こえ、中には泣き出す者もいる。
 だが、一斉に逃げ出したりパニックに陥るようなことはなく、全体的には割と落ち着いている印象だ。
 としあきは、てっきりすり寄ってくるか、蜘蛛の子を散らすように逃走するだろうと思っていたため、
いささか面食らう。
 ぷちやミドリも同じ考えだったようで、ポカンとした顔で硬直していた。 

“みんな、心配しないで欲しいテス。
 このニンゲンサンは、お客様テス”

 山実装達の動揺が広まるより早く、リーダーが呼びかける。
 ザワザワという話し声が響く中、無数の生き物達が、一定の距離を置いてとしあき達の方を見つめてきた。
 赤と緑のボンヤリとした輝きが、所々に浮かび上がる。
 その様子は、お世辞にも気味の良いものではない。

 デスデス、デスデス……
 テチテチ、テチテチ……

 山実装達の囁きが、風に乗って耳に届く。

「怖がられてるテチ」

「そりゃま、そうだろうな」

“ここのみんなは積極性に欠けるデス。
 コミュニケーションスキル不足って奴デス”

「お前って、たまによくわからん単語をいきなり口にするよな」

 リーダーは、大きな声で皆に呼びかける。

“このニンゲンサン達は、ワタシ達の理解者テス。
 怖がらないで、仲良くしてあげて欲しいテス”

 山実装達の緊張感が若干和らいだようで、張りつめたような空気が少しだけ和らぐ。
 だが、一匹が前に出て、リーダーに尋ねてきた。

“リーダー、どうしてそのニンゲン達が理解者だってわかるデス?”

“それは、この方を見れば解るテス”

 そういうと、リーダーはミドリの手を取り、皆の前に誘導した。
 いきなりの事に驚くミドリだったが、彼女の姿を見た山実装達はもっと驚いているようだ。

“ニンゲンと一緒に居るデス!”
“全然怖がっていないデス!”
“本当に、実装石のお友達なんデス?”

 山実装達の反応に、ミドリは何故か頬を赤らめた。

“な、なんかスゲー注目されてるデス!”

「オネーチャ、皆さんにご挨拶するテチ」

“おっと、そうだったデス———あ〜、テスっ、テスっ”

 コホン、と咳払いをすると、ミドリはどこで覚えたのか、まるで選挙演説でもするかのような大仰な身振り
手振りで、山実装達に呼びかけ始めた。

“山実装の皆さん、こんばんはデス!
 ワタシの名前はミドリ、そしてこれがワタシのイモウトチャのぷちデス!
 背後に控えしは、ワタシ達の奴隷ニンゲンこと、クソドレイというデス!
 ワタシ達はニンゲンの奴隷化に成功し、色んな世界を股にかけて活躍している実装石なのデス!
 わからない事があれば、何でもワタシに相談するがよろしかろデス! Year!!”

「ヤッター! 素敵なご挨拶テチ♪」

「おいコラ! ちょっと待てぇい!」

“ニンゲンをドレイにするなんて、すごい実装石もいるものデス…”
“これなら信用出来るかもしれないデス…”
“それにしてもあのニンゲン女、果てしなく乳がデカいデス…”

 ザワザワ、ザワザワ……

 ミドリの挨拶は、山実装達にそのまま受け止められてしまったようだ。
 馬鹿げた内容だったが、ミドリ自己紹介はそれなりに効果があったようだ。
 どよめきこそ途切れないものの、明らかに山実装達の警戒心が薄まった。
 ミドリの頭を鷲掴みにして持ち上げようとしたとしあきだったが、

“クソドレイ! ここでワタシに手を出すと、奴等に警戒されるデス!”

 と囁かれたため、歯ぎしりしつつ解放するしかなかった。

「ぐぅ……ミドリぃ〜、てめぇ、後で覚えてろ」

“細かい事をいちいち気にするから、お前は禿げるんデス”

「俺、禿げてねぇよ!」 

「二人とも、みんなが見てる前で、ケンカは良くないテチ!」

 二人を諫めるぷちの後ろから、リーダーが覗き込む。
 ライトに照らされた彼女の首下には、前掛けが付いてない。
 としあきはふと、マルのことを思い出した。

“今夜はもう遅いテス、皆さんはワタシ達の住処で休んで行くと良いテス”

「ああ、リーダーさん、ありがとう。
 けど実は俺達、皆さんにお願いがあるんだ。
 良かったら、力を貸してくれないかな?」

“ワタシ達に出来ることでしたら、何なりとおっしゃってくださいテス”

「ホント? そりゃあ嬉しい!」

「ありがとうテチ!」

 リーダーの案内で、としあき達は山実装達が集まる場に降りていくことになった。
 慣れない相手、しかもニンゲンが傍に寄ってくるとなると、さすがに山実装達は警戒心をあらわにするが、
どの個体も、なぜかリーダーの「安心するテス」という呼びかけには無条件で対応する。
 山実装達は、近づいてみるといずれもかなり小柄で、目測だが40センチを越えるサイズの者は殆ど
見当たらない。
 そのため、ミドリは相当な巨漢という事になり、その迫力に驚く者達も何匹か居るようだ。
 だがさすがというか、ぷちだけは自らしゃがんで山実装達の頭を撫でたり手を取ったりして、スキンシップを
図っている。
 やがてリーダーは、としあき達を取り囲むような配置で皆を座らせると、「歓迎の歌」なるものを唄う準備
を整えた。
 
 デ〜デデデ〜デデデ〜デデ〜デ〜♪

 デデデ〜デデ〜デデ〜デ〜デ〜デ〜♪

 山実装達の「歓迎の歌」は、お世辞にも歌とは言い難いものだった。
 しかし、皆とても楽しそうに肩を並べ、大きく口を開けて唄っている。
 その様子が妙に微笑ましくて、としあきは聴き入ってしまう。
 「歓迎の歌」は、山実装達にとって最高の接待とのことで、三人は、なんだか照れくさくなってきた。

「クソドレイサン、ねぇねぇ」

 と、突然、ぷちがとしあきの袖を引いてきた。

「どうした?」

「獣装石さん達が見当たらないテチ。
 どこに居るテチ?」

「アレ? そういえば」

 ぷちのいう通り、先ほどの獣装石と思しき者達は、有視界内のどこにも見当たらない。

「うーん、もうすっかり暗くなったし、俺達から見えないだけだろ?」

「でもぉ……本当にどこにもいないテチよ?」

「え? あ、そうかお前、見えるのか」

「クソドレイサン、私も実装石だってこと、たまーに忘れちゃってるテチ」

 イレギュラーな経緯で人間の姿をしてはいるものの、ぷちは純粋な実装石である。
 としあきなど比較にならない暗視能力を持ってはいるが、それでも、獣装石達の姿を見止められなかった
のだという。
 やがて歌が終わり、山実装達は一匹ずつ、三人の傍にやって来て挨拶をする。
 とても礼儀正しく、おとなしいその態度に、としあきは親近感を覚えると共に、僅かな違和感も実感していた。

『ホントにこいつら、麓の人達に迷惑をかける害獣なのかなぁ?』


 としあきとぷちが持ち込んだライトの光に照らされ、山実装達の歓迎会はなおも続く。
 だが、そこから十数メートル離れた林の中には、彼女達とはまた違う赤と緑の輝きが集まっていた。
  
 ——やっぱり、ニンゲンを信用するのは無理デス!

 警戒を怠るなデス。あいつら、きっと何かをしでかすに違いないデス……

 場合によっては、麓に帰らせないで、ここで——

 鋭い金属音が、林の中で微かに鳴り響く。
 獣装石達は、僅かな隙すらも見逃さないといった雰囲気で、山実装達と戯れるとしあきとぷちを睨み付けて
いた。


          ※          ※          ※


 山実装達の宴は、思いの外楽しいものだった。
 としあきだけでなく、ぷちもミドリも、山実装達と触れ合い語り合い、とても有意義な時間を堪能した。
 山実装は様々な木の実を沢山提供してくれたので、空腹感もある程度補えた。
 ミツバアケビや栗、ヤマボウシやエゾユズリハ、アキグミなど、種類も豊富だ。
 あまり馴染みのないものについては、山実装のリーダーが、人間が食べても全く支障のないものだと丁寧に
説明してくれた。
 山実装の食料の中には、他にも果実を貯蔵・発酵させたものや、熟成させた木の汁を塗り干した魚なども
あるとの事だが、それらは味が独特なため、人間が食べるには厳しいものがあるという。
 ミドリは、エビガライチゴやクマイチゴの実を合わせて発酵熟成させた黒いペースト状の「調味料」を味見
させてもらっていたが、思い切り顔をしかめていた。

 リーダーが積極的にとしあきに接している様子を見たせいか、山実装達も徐々に警戒心を解き始める。
 仔実装達はぷちの手や胸の上に乗りじゃれはしゃぎ、成体山実装の一部はミドリに「ニンゲンとの付き合い方」
を尋ねている。
 そして、何匹かの山実装達は、リーダーの背後から、恐る恐るとしあきに尋ねてくる。

“ニンゲンサンは、ワタシ達にイヤナコトしないデス?”

「しないよ、こんなに一杯ご馳走してもらったのに、するわけないじゃん」

“ニンゲンサン、コワイ人ばっかだと思ったけど、優しい人もいるデス!”
“リーダーの言ってた事はホントだったデス!”

 山実装達は、尊敬の眼差しでリーダーを見つめる。
 だがリーダーは軽く頷くだけで、照れる仕草を見せず、キリッとした態度を維持し続けている。
 としあきは、リーダー個体だけあってちゃんとしっかりした奴なんだなと、改めて彼女を評価した。

「俺、君達山実装のことにすごく興味が出て来た。
 良かったら、もっと色んなことを教えてくれよ」

“わかったデス!”
“ニンゲンサンに、ワタシ達をことをもっと知って貰うデス!”
“もっと知って貰って、ワタシ達をイジメないようになって欲しいデス”

 山実装達は、やや興奮気味にとしあきに語りかける。
 その物言いに若干奇妙なニュアンスを感じはしたが、としあきはあえて表情には出さなかった。
 それから、山実装達は自分達の生活の知恵や工夫、苦労などを語り出した。
 食料確保や貯蔵、季節の変わり目、皆で共同で行う作業、物作りなど。
 それらは、としあきが過去見て知ってきた事とは、全く異質の内容だった。
 興奮しているためか、話がよくまとまらず要点が絞れていなかったが、としあきは必死に耳を傾ける。

 歓迎の宴も程なく終了し、就寝の時がやってくる。
 としあき達は、山実装達と共に河辺で眠るものだとばかり思っていたが、そうではなかった。
 彼らが案内されたのは、河辺の更に奥にある、林沿いの暗いエリア。
 木の陰でよく見えないが、何か大きな遮蔽物があるように見える。
 リーダーと数匹の山実装は、ここが秘密のねぐらだと説明してくれた。

“ここは、ワタシの住居兼倉庫テス。
 使ってない「部屋」があるので、遠慮なくお休みくださいテス”

「は? はぁ……ありがと」

“「部屋」って何のことデ——デェッ?”

「テチャ!」

 突然、ミドリとぷちが驚きの声を立てる。
 何かを暗闇の奥に見止めたようだが、夜目の利かないとしあきにはわからない。

「おいぷち、何だよ? どうしたんだ?」

「なんでこんなものが、ここにあるテチ?」

“ぶったまげたデス! 山実装なのに、こんな物を使ってるなんてゼータクデス!”

「?!」

“ご案内しますテス。さぁ”

 リーダーは、としあきを更に導き、暗闇の中へ進んでいく。
 としあきは、小首を傾げながら、安全確認のためLEDライトを点灯させる。
 と同時に、信じられないものが眼前に現れた。

「——うぇっ?!」

 ライトの光に照らし出されたのは、一軒の建造物だった。
 それは、アパート……プレハブで組み立てられた、二階建ての小さなアパートだった。
 三区間六部屋という構成のようで、河辺に向けて窓が設置されている。
 山肌に沿うように、ひっそりと佇んでいる白い壁のそれは、としあきに凄まじいほどの違和感を覚えさせた。
 河辺からアパートまでは、10メートルほどしか離れていない。
 恐らく、日中であっても現場に来ない限り建造物があるなんて誰も思わないだろう。
 そう感じられるほど、このアパートはひっそりと、まるで人目を避けるかのように建てられていた。
 慌てて周囲にライトを向けると、頭上には何本かの電線が張られている事に気付く。
 よく見ると、更に奥にもう一軒同様の建造物があり、その合間に入り口があるようだった。

 無論、どちらのアパートにも人の気配は全くない。
 かなり昔に放置された「廃墟」のようで、木々の生み出す暗闇に包まれていることもあり、まるで幽霊屋敷の
ようですらある。

「なんでこんなところに、こんなものが?」

“良くはわからないテス。
 ワタシがここに来た時には、もうとっくにこの状態だったテス”

「なんだろうなあ……こんな所に建てたって誰も住まないだろうに」

「ナントカ……寮って書いてあるテチ」

 ぷちの指し示す部分を照らしてみると、そこには薄汚れたプレートがある。
 こびりついた汚れと土埃の隙間から、かろうじて“第四社員寮”とだけ読み取れた。

「こんな所に寮かよ! ひでぇなあ」

“随分傷んでるデス。今回はホント、廃墟に縁があるデスー”

「全くだ。けど、吹きッ晒しよりはマシかな?」

“こちらにどうぞテス”

 先にアパート内に入り込んだリーダーが、仲間の山実装と共に三人を導く。
 このアパートはメゾネット構造で、一つの物件に対し部屋が二つ縦に重なっている形になっていた。
 中に入ると、思っていた以上に綺麗に整えられており、一部にはまだ家具らしきものが残留している。
 一階の窓はどこも破損が激しいようだが、二階は殆ど傷みがなく、床面の埃もあまり見られない。
 山実装達は、一階の各部屋を使用しているようで、二階は全くの未使用だという。
 全体を見て回り、としあき達は一番綺麗そうな部屋を選び、貸してもらうことにした。

「リーダーさん、色々と気遣ってくれてありがとう」

“お気になさらないでくださいテス、当然の事テス”

「でも俺達は、本来は招かざる客なんだし」

“貴方達に悪意がない事は、わかっているテス。
 だから、何にも気兼ねする必要はないテス”

「……?」

“おいリーダーさん、あんた、どこかでワタシ達と逢った事があるデス?”

「オネーチャ、そんな訳ないテチ!
 私達はまだこの世界に来て、一日しか経ってないテチよ」

“そういやそうだったデス”

“おやすみなさいテス、明日の朝起こしに来るので、ごゆっくりお休みくださいテス”

「うん、ありがとう」

 リーダーとお付きの山実装達は、深々と頭を下げて退室する。
 LEDライトで室内各部を照らしながら、としあきはミドリとぷちに向き直った。

「それにしても、なんか変な感じだな。
 俺達は歓迎されてるのか? されてないのか? どっちだ?」

“獣装石の連中は、明らかにワタシ達を嫌ってたデス。
 山実装は、ワタシ達を歓迎しているようデスけど……”

「それより、本当にあんな大人しい山実装さん達が、麓を襲ってるテチ?
 私には信じられないテチ」

「う〜ん、実は俺も、それが引っかかってたんだ」

“なんだか、今回はよくわからん事ばかりデス”

 色々腑に落ちない事もあったが、三人はとりあえず休むために、二階へ向かうことにした。
 とその時、突然電子音が鳴り響く。
 実遊会の高杉から預かったトランシーバーが、反応しているようだ。
 としあきは、ぷちと目配せをして、応答した。

『もしもしー、こちら実遊会の高杉です。
 としあき君? 連絡なかったけどそっちはどうなの?』

「あー、すみません、こちらは問題なしです。
 でも、まだ……山実装見つかってないんですよ」

 とりあえず、嘘の報告をしておく。
 だが、高杉はすぐに『おかしいなー』と返してきた。

『獣装石がいるんなら、必ず君達にアプローチしてくる筈なんだけどな。
 あいつら、人間を襲……ゲフンゲフン』

「はあ?」

『まぁいいや、もう夜も遅いが、君達はどうするかね?
 今からだと山道も大変だろうし……』

「なんとか野宿してみますよ、安心してください」

『そうか、獣装石にはくれぐれも気を付けるんだよ』

「ええ、わかりました」

 通信を切ると、先に上に昇ったぷちが声をかけてくる。
 二階は、粗末な造りの空っぽな本棚と、古びたベッドが一つずつ置かれているだけで、生活感は殆ど
感じられない。
 しかし、廃墟の割には綺麗で、その気になれば掃除するだけで住めそうに思えた。
 ぷちは窓を開け、ベッドのシーツをバンバンはたいて埃を落としていた。

「テェェン、埃っぽいテチィ!
 けど、このベッドは思ってたより綺麗テチ、それに柔らかくて案外気持ちいいテチ」

“ここはワタシとぷちで使うから、クソドレイはそこの床に転がって寝るがいいデス!”

 そう言いながら、ミドリは尻を向けてプゥと一発吹き出した。
 としあきはやれやれと呟くと、握り拳を掲げて二人に近づく。

“な、何をするデス?! ワタシを殴るつもりデス?!”

「クソドレイサン! 暴力はいけないテチ!!」

「ちげーよ、ここは一発勝負で決めようぜ」

“デ?”

 ニヤリと微笑むと、としあきは拳を突き出し、軽く振ってみせた。

「いくぞー! おそっこナシよ!! ジャーンケーン……」

“?!”

「ポイッ!」

「テチッ?!」

 合図と同時に降り出される、三人の手。
 としあきとぷちはパー、ミドリは当然グーだ。

「よしミドリ、お前負け」

“デ、デエェェェ——ッッ?!”

「クソドレイサン、オネーチャ可哀想テチ!
 私が代わりに——」

「いーや、ダメだ。
 勝負は厳しいのだよぷち。
 さぁミドリ、正々堂々と勝負して負けたんだ、文句はあるまい?」

“デ……デェェ、なんか納得いかない気がするデス”

 自分の手を見つめながら、何度も首を傾げるミドリをよそに、としあきは寝床の準備を整えることにした。




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