『大宇宙、それは夢 大宇宙、それは憧れ… 無限に広がる大宇宙には無限に夢が広がっている…と、ワシは思っておる』 『それはちょっと置いておいて、道具を準備するとワシは近くの公園に行ってみた その格好は、爆発したような白髪頭に瓶底メガネ、薄汚れた白衣を着ている まるで出来の悪いコントのようだが、ワシはわざとやっておる それは”博士”という記号を無知蒙昧な人々が一目見てわかるようするためじゃ』 さて、博士が着いたのは人目につかない小さな公園で、この時間帯はあまり普通の人間は来ない だが、今日は先客がいた、いわゆる虐待派おぼしき人間が2〜3人… 虐待派たちは突如現れた異様な風体の男に動揺を隠せない もっとも、虐待派たちも帽子にマスクで手にはバールのようなものと、不審者度合いでは負けてはいないのだが… 「あれ?あいつ隣町の変態博士じゃね?」「や、やべえ、あのきちがい、ついにこの町に来たぞ、逃げろ」 『だが、そんな彼らもワシの威光に恐れをなしたか、はやばやと公園から逃げて行った ワシはその様子を伺うとその電子機械のような頭脳をフル回転させた 変態博士じゃと?失礼な…ワシの脳内の”将来の粛清リスト”に実装石虐待派が加わり 彼らの発言は今後シャットダウンされることが脳内裁判所で丁重に事務処理されたじゃい』 噴水広場へ行って見ると早速、野良実装に囲まれる 『よしよし、あまり大勢に集まられても困るから親実装が餌集めに出かけているであろう時間に来たが ちゃんと読みは当たっていたようで、集まってきたのは仔実装から親指実装がほとんどじゃわい』 「テチュ!テチュ!」「レチュレチュ!」「テチューン♪」 『何を言っているかよくわからないが、ワシを見て虐待派が逃げ出したため、いい人間だと思っておるようだ あんな連中でも何かの役にはたつものじゃのう、と考えると 脳内の”将来の粛清リスト”から実装石虐待派を”将来の奴隷リスト”に格上げする』 『さて、ワシは手に持った宇宙雑誌を筒状にすると、集まってきた実装石に向かって声をかけるたじゃい』 「みんなー!宇宙に行きたいかー?」 「テチュ?」「レチィ?」「テチュテチュ?」 『反応はいまひとつ、ほとんどが首をかしいでいるか媚を売ろうとしている、わかっておらんようだ その目を見つめているうちにふつふつと怒りが湧き出してくる、憎悪だ、憤怒が白髪頭を駆け巡るのがわかる くそっ、凡愚どもめ、やはりこいつらはヤツらと一緒だ…ワシの研究を認めなかったヤツらと…』 途端に彼の頭に、彼が憎悪するかつての友人や同僚たちが思い浮かぶと目の前の実装石に重なっていく 彼の心から迷いが消える、危険な実験で実装石たちの生命に危険を及ぼす危惧への良心、その迷いが… 即座に野良実装は彼の中で”非常食”から”実験動物”にカテゴリーが移される 『迷いをなくしたワシはもう冷酷な研究者そのものだ 実験動物相手に理想を説いても仕方あるまい、と説得を放棄じゃい』 「みんなー!お洒落な服を着たいかー?」 「テチュー!!」「レチュチュ!」「テチュー!!」 『一斉に野良実装たちが色めき立つ、うんうん、いい反応だな』 「みんなー!コンペイトウ食べたいかー?」 「テチュー!!チュー!!」「レッチュッチュ!」「テチュー!!テチューン!!」 『よしよし、興奮状態だわい、うまくひっかかったな』 『ワシは心の中で舌を出す、物に釣られる蒙昧な凡愚どもめが、科学の礎として尊い犠牲になってもらうぞい』 「よしよし、みんないい子ちゃんだ、ちゃんと全員にコンペイトウを上げるからね 大きい子が先だから順番に、順番に並んでね」 『ここで脱落者を出すわけにいかないし、そもそも放っておけば こいつら大きい子しか残らないもんじゃし、主に暴力で』 一見賢そうな仔実装がおずおずと尋ねる 「テチュ?テチュチュー?」 博士は歯を見せてにっこりと笑うと、仔実装をあやすように語り掛ける 「うんうん、ちゃんと並べば、全員コンペイトウをあげるからね そのあと、お洒落にな服についたお飾りをつかってみんなで遊ぼうね だから、みんなの迷惑にならないよう、ちゃーんと順番に並ぶのじゃよ?」 「テチュ♪テチュー♪」 仔実装は満足そうにうなずくと、列に並ぶ 一見会話が成立しているように見えるので博士は実装石の言葉がわかるようだが もちろんそんなことは全く無いのだ 彼は凡愚ごときと会話する必要はない、と考えており、会話相手の言うことをまともに聞いた試しがない 相手に何かを言われても、雰囲気と表情だけ読み取って自分の要求に沿った相槌を返すだけなのだ これはある意味、実装石と比べてもはるかにタチが悪い習慣である だがそれは、彼の脳内で粛清や奴隷対象に選ばれた人間のみに限らず、友人や同僚にしても同じことである これこそが彼が異端と見なされ、実力に見合わない評価を受け、社会から排除された原因なのだが 本人は全くそんなことは考えたことも無い、なぜなら彼は天才だから! 「さあさ順番だよ、順番だからね お洒落な服とコンペイトウを一緒をプレゼントだよー!すぐにその場で食べてねー!」 そう言って大きい仔実装から順番に特製の金具を取り付けると 同じく特性の超強力下剤、ドドンパを食べさせる こいつは一見コンペイトウだが、飲めばすぐに爆発的に腸の中身を噴出する はてさて、全員が食べるのを注意深く時計を見ながら確認する このために徹底的にリハーサルしたのだ、ドドンパ起動のタイミングは少しもずれてはならない さいわい、実装石たちはドドンパを渡された途端に他の仲間に奪われないようにがっつくため 時間調整の手間は最小限で済んだ そう、しかけはタイミングが重要なのだ、タイミングを逃すのは愚か者のすること 男は天才なのだ、決してタイミングを逃すような愚かなことはしない、と本人は思っている さて、先ほど実装石たちにつけたこの金具は上に引っ張れば簡単に外れるが、下側には外れない仕掛けになっている そして金具をつけさせた大きな仔実装の背中の金具に普通サイズの仔実装の胸の金具をつなげ 普通サイズの仔実装の背中の金具に小柄な仔実装の胸の金具をつなげ… といった具合に金具をひとつづつジョイントさせていく その姿は電車ごっこをする子供か、あるいはムカデのようだった 『1…2…3…全部で10匹、一番小さな親指実装はまだ3センチほどの未熟児だ 威力に期待は持てないが、まあ、まだ実験段階だし、いいか』 グルグルグルグル 「テ、テチュ?」「レチュチュー?」「テチュ!?」 さっそく実装石たちの腹の具合が悪くなったようだ、が、羞恥心があるためかみんな必死の形相で堪える 金具を外して欲しそうに必死で訴えるもの、その場でもじもじするもの 『むう…我慢されては困るわい… 絶妙なタイミングで調整しているので、少しでもずれてしまっては困る 何かを使って気をそらさねばならないが、生憎そういう道具は何も…』 さて先ほど逃げた虐待派の連中が遠巻きにこちらの様子を伺っている 博士はそれを見て手招きをしながら血走った目を向ける 「そこで見ておる凡人ども!もっとよって見るが良い! 貴様らは歴史の生き証人となるのじゃ、その目にしっかと焼き付けるがええわい!」 恐る恐る、虐待派たちが近づいてくると、何事かを尋ねてきた 「・・・・、・・・・・・・・?・・・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・!・・・・、・・・・・・?」 もちろん、声は聞こえるがその内容は彼の耳には届かない、なぜなら既に虐待派は彼の中で凡愚にカテゴライズされているから! 「手出しは無用じゃ、眺める分には好きにしていいぞ!これは崇高な、科学の実験じゃ!」 「・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・」 虐待派たちの姿を捉えた実装石たちは凍りついた 泣き喚くもの、媚を売ろうとするもの、逃げようとするものもいたが、 金具で縦につながっているため、歩くも転ぶもままならない 緊張が限界に達し、トイレを我慢することなど頭から抜けてしまったようだ そう、博士は天才だった、虐待派を点火スイッチに利用したのだ! 「テス、テステスゥ…」 一番最初にドドンパを飲ませた仔実装がついに耐え切れなくなり 苦しそうに短く何事かをつぶやくと… ボーン!モリモリモリモリ!! ものすごい勢いで糞をフン出しながら打ち上げられる 2メートルほど舞い上がったところで、頂点に達したか少し落下しはじめる すると、次の仔実装が耐えられなくなり ボーン!モリモリモリモリ!! 勢いよく糞をフン出する! 金具が外れ、一番最初に噴出した仔実装が切り離されると 切り離された仔実装は上から降り注ぐフン圧をまともに受けて 糞まみれになりながら猛スピードで地面に激突して四散する 「・・・・・・・・・・・・・??」「・・・・・・・・・・・・!!」「・・・・・・・・・・・・・・・!?」 あまりのことに点火スイッチ達がざわめくが、ワシは気にも留めず成り行きを見守る さらに同様に、次の仔実装が切り離されて落ちて来る また次の仔実装が勢いよく天に舞い上がっていく 「やったっ!大成功だ!多段ロケット、大成功じゃわい!」 博士は狂ったように叫ぶと、その狂った頭脳にフル回転で夢想を走らせた 『これだ、多段ロケット!人類の夢… ワシは腕組をするとかのフォン・ブラウン博士に思いをはせる 月に人類を送りこむ…その夢、同じように実装石で叶えられる日が来るやもしれない』 そして、夢に想いを馳せる 『素晴らしいアイデアだ、新発見だ、ワシが発見したんだ! はたから見ればワシは完璧に狂っているように見えるじゃろう』 『だが、もし、もしもの話ではあるが 実装石の数を増やし、ドドンパの分量も調節していけば その内、高価な設備や資材も必要なしに宇宙に実装石を打ち上げることもできるだろう そうすれば、いつか俺の名前は歴史に残る、教科書にだって載るかもしれない 和製フォン・ブラウン、もとい糞(フン)・ブラウンの誕生だ! 天才とは常に孤独なものなのだ!だが、ワシは勝った!勝利者だ!これからも勝利し続けるじゃい!』 そんな夢から現実に引き戻されるのは一瞬のことだった 「レチィィィィィィ!」 べし! 頭に何かが当たり、鈍い痛みがこめかみを襲う ものすごい勢いで頭に何か金属片をぶつけられたようだ ぶつかって頭から落ちた物が目に入る、切り離された瀕死の仔実装 どうやら俺の頭がクッションになって一命は取り留めたらしい 『仔実装の背中の金具に人間の白髪が絡みついている、これは、恐らくワシの毛だ』 点火スイッチたちのざわめきが聞こえる さらに、追い討ちをかけるように緑色の…糞便のしぶきが顔にかかる もしやと思い、恐る恐る頭上を見上げると… 上から撒き散らされるようにふりそそぐ大量の糞シャワー もちろん、博士だけを狙っているわけではない、周囲一帯に降り注いでいる そして切り離された勢いで猛スピードで次々に落下する仔実装達 「や、やばい」 思わず開いてしまった口に糞が飛び込む たまらずのけぞると喉元には切り離された親指実装が飛び込んで弾ける かなりの勢いがついているのか、エアガンで撃たれたような衝撃が喉に走る たまらなくなり逃げるのもかなわずに倒れこむと、上から降り注ぐ糞が体に積み上がり、 近くに落下して弾けた実装達の破片が雹のように身体に打ち込まれてくる ワシは、あまりの悪臭に気が遠くなった… 十分後 公園は赤緑のしぶきと悪臭に包まれ、観客だった虐待派たちも倒れこんで動けなくなっている 遠くからサイレンの音が聞こえる…もうすぐ警察が来るだろう、最低でも地方条例違反の罰金は免れまい 博士は薄れ行く意識の中で、ぼんやりする頭で考え込んでいた 『そうか、きっといままで、誰も思いつかなかったわけじゃない、ただ、やらなかっただけだったんじゃ…』 完 『』は博士の独り言です。ナレーションと混ざってわかりにくそうなのでこういう処理にしました かえってわかりにくくならないかなーとは少し不安です そういうのってどうなんでしょうか 基本的にはみんな不幸になる路線です 過去作 汚部屋託児 賞金首 流れ者
