タイトル:【R-18G】 とある末路。
ファイル:とある一つ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3459 レス数:3
初投稿日時:2013/02/03-00:41:15修正日時:2013/02/03-00:41:15
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しゅる…


男が木に輪の付いたビニール紐をくくりつけている。
ここは樹海、準備も無しにうかつに迷いこめば下手をすれば死を招く場所。
だというのに男の荷物はひどく軽装である。

かばんにはいくらかの食糧と薬、そしてビニール紐とそれを断ち切るためのハサミが入った筆記用具入れ。
そのくらいしか、男は荷物を持ってきていない。


…否、あと一つだけある。


男は木にくくりつけた紐が簡単に外れないことを確認すると、ふと思い出したかのようにポケットをまさぐる。
ポケットの中にはハンカチが一枚入っていた。

男はおもむろにそのハンカチを近くの細木にくくりつける。





風が吹く。
くくりつけたハンカチがふわふわと頼りなく風に揺れる。
男は風に揺れるハンカチを見ながら震えている。


…風が凪ぐ。
男の震えはもう止まっていた。
ふら、ふら、と男はたよりない足取りで輪の付いた紐へと近づく。

紐の高さは調度足が地面に届かないくらい。
男は木に少しだけ登り、輪を首にかけた。



ズルッ



そんな間抜けな音とともに、男は半分予期しない形で全体重を頼りないビニール紐に預けることになった。

バタッ、バタタッザリッ
森の中に何かが暴れる音が響く。


バタッバタッバタッ

バタッザリッ

タッ…

ぎしッ…ぎッ…

音は、しばらく続いた後弱まるように止まった。

もう森に響く音は小動物達が蠢く音だけとなり、不気味なまでの静寂があたりを包む。





はたはたと、主を失ったハンカチが風にさみしく揺れていた。









「とある一つ。」










…風が吹く。

ぎし…ぎし…

風が吹くとともに縄の付いた枝がきしむ。
木の下には約60Kgの肉の実がひとつぶら下がっている。
腐乱すさまじく、鳥がついばみ蟲が蠢き、木より落ちる前から原型はすでにとどめていない。

彼がこの森に持ち込んだ荷物も当然すでに荒らされそのほとんどが持ち去られている。
食糧、ペットボトルの容器はおろか、それらが入っていたカバンまでもが持ち去られている。

普通の獣ならば、合成繊維の喰えない人工物など持ち去りはしない。
固いばかりで中に何が入ってるか理解できない重たいペットボトルなど持ち去りはしない。





デスー?デスデス。デスー。





犯人は、今はもう物言わぬ彼の足元でデスデスとざわめく実装石だ。
ぎょろぎょろ、きょろきょろ、何匹も、何匹も、彼の足元に集まっている。
彼女らこそが、木の枝にぶら下がる彼の、その木の根元にあった彼が居た痕跡を消した犯人である。

基本的に当たり前の話ではあるが、平常、ほとんどの野生動物にとって、人類が作りだした物の大半は野生動物にとってなんら価値は無い物である。
が、彼女ら実装石にとっては違う。

彼女らにとっては人類の作りだした道具は彼女らが平時使っている道具よりも頑丈さも、使い勝手も数段上の
少々サイズの大きいというだけの、純粋な上位互換の道具たりえるのである。

故に、彼女らにとってこれから自殺する人間は、そのまま宝の山を残す後腐れの無い運び人であり


また、その人間の死体そのものも彼女らにとっては至極有用な資源なのである。


風が吹き、彼が揺れる度に彼女らはざわつく。

彼の足元で、彼のためにいくつもの準備を彼女らは重ねている。
それは、小動物の骨や、彼女らの先石の遺服で作られたかごや
彼より以前にこの森に来ていた人間の遺したウェストポーチや、筆記用具の中に混じっていたカッターナイフの破片などである。

彼女らは彼を発見してからの約2週間、ずっと、彼のためだけに、彼の足元で準備を続けてきた。










風が吹く。彼の体が揺れ、彼とつながっている輪の付いたビニール紐が枝にぎしぎしと音を立てさせる。
じりじり、ギラギラ。彼女らの目が、枝がきしむ度に血走る。


ブツッ。


そんな間抜けな音を立てて死体の首が抜ける。
ごろりと首がころがり、胴体はどしゃりと崩れて落ちる。

一瞬、実装石達は静かになる。


デスー。


大きな肉の落ちた音で外敵が来ないか、そして来ないとわかって、彼女らのリーダーらしきモノが一声鳴くと
彼女らはきわめて落ち付いて作業に入り始めた。


手始めに、黒くへばり付いている布を丁寧に剥がし(既に相当痛んでいるが、それでも彼女らの生まれた時から持つ布よりもかなり丈夫だ)
そしてそこから

ある大柄な実装石は石を持ち、骨の継ぎと継ぎを叩き骨格を分解し
ある獣装石はその爪と牙でまだ骨に残っている肉を削ぎ
それらの大きな塊を手先が器用な実装石達が人間の道具を使い、ばらされた塊をより運びやすく小さくしてゆく。

つなぎの壊れたハサミで、カッターの破片で、錆びたペーパーナイフで。
つまりは、人間の残した道具で、人間を加工してゆく。
彼女らが手を入れないのは肋骨と頭蓋骨の顎から上くらいしかない。

そして、その他大勢の普通の実装石達が解体され小さくなった肉を、骨を、彼女らの集落へとぞろぞろと運んでいく。



それはさも蟻が他の虫を解体し運ぶがごとく、ぞろぞろと、緑の頭巾が屍と彼女らの集落の間に長い道を作る。
形を保っている背骨の付いた肋骨が、獣装石数匹にゆらゆらと間抜けに運ばれるのがひときわ目立つ。










そして彼女らの集落に物資が届く。

運び込まれる物資は用途によって集落のあちらことらへと運ばれる。



肉は食糧として。

肉の量は大漁といって良いが、日が経ちすぎている。
集落よりも手前にある獲物の集積場で、食える部分と喰えない部分を仕分ける。
仕分け終わってなお、肉はたっぷりとある。
集落にいる実装石達の腹を満たすには十分な量が残る。



そして骨は堅牢な建材として。

骨は集落から少し離れた場所に運ばれる。
肉を削いだばかりの骨は肉の臭いが濃く残り、実装石の身には危険な他の野生動物を招きかねない。
故に、その臭いが雨や土と同じになるまでそこで野ざらしにされる。

集落にある住居は基本的に似通った物はなく、雑多でごちゃごちゃとした光景が広がっている。
が、ぽつぽつと、全く同じ構造をしている物も見受けられる。

それは、動物の肋骨である。それもここにあるのは主立っては人の肋骨である。
集落には約100いくつかの住居があるが、その内、20ばかりある肋骨ハウスは集落のあちこちにアクセントとして目立っている。



それだけの人数が、この森に自殺者として来訪したということである。



骨を運び込む実装石達に肋骨ハウスから仔実装が飛びつく。どうやら親仔であるようだ。
テチテチと騒がしく親と語らう。

実装石程度の小動物といえど、流石に成体実装では人の肋骨程度の容量では寝そべる程度のスペースしかない。
肋骨ハウスはその頑強さから、基本的に仔実装用の対野生動物シェルターとして使われているようだ。
親たちが狩りなどで集落が手薄な時に、なるべく仔実装達が他の野生動物に襲われないようにするための、その集落での生活の知恵である。

そして、仔と再会した親達は各々の住居へと帰って行く。

それはテントのような物であったり、カバンそのままの物であったり
また、枝を組み合わせたような歪な物であったりした。



そして、そこにも骨は使われている。



天蓋を支える尺骨・脛骨。
カバンを補強する肩甲骨に腰骨の器。
枝の塊の中には白い物がちらほらと混じっている。


とある親仔、この集落のリーダーの家。
一日の仕事を終え、その入り口から親仔は帰る。

リーダーの家はさまざまな物で飾られている。
例えば、小さな物ではキャッシュカードや硬貨、ベルトのバックル、銀色をした薬の台紙。
大きなものでは炊事に使ったと思われる鍋やらカセットコンロやら。
そんな人間の痕跡がリーダーの家の周りにごろごろと転がっている。

そして、野ざらしでほとんどのものが最初に持っていた輝きをくすぶらせ錆び朽ちゆく中で、ひときわ輝きを保つ物がリーダーの家の入口の上に飾られている。

家の入口には人の下顎の骨が掲げられていた。
治療痕のある人間の顎部、その治療に使われた金属。
それがはめ込まれた歯のある顎の骨はこの集落の中で権力の象徴として認識されているようだ。










彼女らの一日が終わる。
今日は、彼女らの集落全員の腹を満たすだけの肉を手に入れ、そして住居群のさらなる頑強さをもたらす多くの骨を手に入れた。
そして、また明日に備え眠りにつく。

集落の周囲では比較的強い力を持った実装石、獣装石が、集落の壁を飾る動物の頭蓋骨達と共に見張りに付く。
その頭蓋骨達は同じものがひとつとて無い、ヒト、イノシシ、トリ、イヌ、シカ、etcetc…

頭骨を集めたのは彼女らよりもかなり前の世代である
それも、数からして一代程度では集められぬ数である。

…今代に代わるまでには死骸の頭、とりわけ重い脳がつまった頭蓋を持ってくることは既になくなってしまっている。
何せわざわざ割らねば中の肉にありつけぬし、物によっては割ることすらできないからである。
得られる物に対して、労力が見合わないのだ。


されど、今代の彼女らにとって、集落の周囲にある頭蓋骨達は先代との確かなつながりを感じさせ
夜の闇への恐怖をいくばくかうち消す代物であるのも確かである。





実装石の身には大変な野生生活ではあるが、彼女らは割と充実した生を送っている。






























……

…風が吹く。
カサ、カサ、と枝につながった輪のついたビニール紐が風に揺られ音を鳴らす。

木にはそこに人がぶら下がっていたという痕跡はもうほとんど残っていない。
残っているのは、枝に付いた擦れた跡に、風に揺れる輪の付いたビニール紐。



そして、下顎のない頭蓋骨。



頭蓋骨には幾匹もの蟻が這っている。
その、中の肉を巣へと運ぶために蟻は長い列を作る。


森を月明かりが照らす。
少し離れたところでゆらゆらと白いものが風に揺れる。
主を失ったハンカチが、寂しそうに主の頭蓋骨を見守っていた。





そして、それとていずれ朽ちる。
そうして、一人の人間の痕跡は消えていくのだ。



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1 Re: Name:匿名石 2014/10/08-20:01:38 No:00001446[申告]
原始人並に頭が良い実装石が食物連鎖に組み込まれると、確かにまあこんな感じなのかもなあと思った
2 Re: Name:匿名石 2014/10/10-02:10:59 No:00001453[申告]
この手の賢く逞しい野生生物(セイブツ)としての実装モノって好きだなあ
3 Re: Name:匿名石 2014/10/10-13:10:15 No:00001454[申告]
中央アジア辺りでマンモスの骨でできた家とかが出土するのを連想する
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