一週間前まで、うちには実装石が居た。 大体二カ月前位に公園でなんとなく拾った奴だ。 なんとなく拾った理由はどうにもそいつが変な奴だったからだ。 どう変だったかって? 最初、そいつは穴をひたすら掘ってたんだ。 暇つぶしに邪魔してやろうと思って、そいつが這い出た時に穴を埋め戻してみた。 他の奴ならこの辺で逃げるか力の差も顧みずに怒って足元でぽこぽこと間抜けな音を立てるかするかなんだけど 僕自身はその向かってくる奴と適当にじゃれるのが好きでさ、よく逆ドドンパ撒いてから弄ってた。 話がずれたね。 あいつが変だったのはそこ。 あいつは逃げるでなく殴ってくるでなく、一瞬こっちの目を見た後に、何事も無かったかのように再び穴を掘り始めたんだ。 まるで僕なんか居ないとでも言いそうな気配だったよ。 その様子があんまりに変だったもんで、なんとなく持ち帰ってしまったんだ。 持ち上げても全然暴れ無かったよ。 ぷらーんと、まるでクレーンゲームの景品みたいだったな。 うちに持ち帰ってからだいたい1月半かな? その間じっくり観察してみたけど、やっぱりあいつは普通の実装石と何か違ってた。 見た目的には基本的にはあまり動かないってだけの仔実装だったけどね。 あー、そういえばまったく鳴かなかったな?よく思い返してみれば僕はあいつの鳴き声を知らないのか。 最初に気づいた変な点は飯に関してかな。 市販の固形餌は全然喰わなかった、そのくせ生ごみの類をゴミ箱を倒してでも喰おうとしたり 市販の餌が気に入らないのかな?と、調理した物を適当に出してみたけど塩気のあるものには絶対に手を出さなかったりで…… あいつの好き嫌いの判断基準に関しては僕も理解できなかったね。 飯に関しては最終的にあいつのスペースに専用のゴミ箱作って、そこに野菜くずやら何やらを放り込んでたよ。 あいつも、物を食ったら当然出すものは出してた。 ただ妙なことにあんまり臭く無かったんだよ。色はあいつが喰った生ごみで変わってたかな? 一度試しに人参のスライスだけ食わせた日があったんだけど、その日と次の日くらいは糞が赤くて人参そのものの臭いを放ってた。 消化とかせずに細かく砕いて出しただけ。そんな感じだったのかな? 一か所に固めて出す癖があるみたいだったけど糞が一定以上溜まったらなぜかそこに潜り込もうとするもんだから 掃除と、あいつの洗浄の手間だけは正直簡便してほしかったね。 一定以上溜まってなくても、あいつなぜか自分の後ろ髪を自分で出した糞に埋めようとするからなおさら変だったよ。 実装石にとっちゃ髪とか服って自分の命の次か同等位に大事なはずなのに、それに自分から糞を塗りたくるんだよ? それも壊れたような感じじゃなくて、さも当然とばかりに真顔でやるもんだから…流石にちょっと薄気味悪く感じたな。 あいつに関しては変なところを上げると切りが無い。 眠るところを見た記憶が無いし、水皿に水を入れてやるとそこでずっと座ってたりするし。 流石に本当に実装石かちょっと不安になって、目を赤く染めて蛆実装とかを出すか調べてみたら 緑色のままの目の周りが血管の形に赤くくっきり浮かぶだけで何も出てこないしで… まぁ、最初から変な奴だったからこそ拾っちゃったわけだけどさ。 あいつが普通に見えたのって言ったら、窓際に座って日向ぼっこしてた時くらいかな? その時はあいつの体が異様に冷たかったのもあって、変温動物的なあれかな?と思ってたんだけどね。 なんでことごとく過去形で話しているかって? ああ、そりゃあれだ。観察するつもりで拾った癖に情けない話なんだけどさ…… 最近、この暑さでよく窓を開けて寝てるんだけど、朝出かける時にうっかり閉め忘れてさ? 家に帰ってきたら部屋の中の物が倒れたりして、緑色の布の切れ端が散らばってた。 一緒になにか動物の毛が散らばってたから、多分猫あたりにやられたんだろうね。 たまにうちの庭に喰いさしのトカゲとか落ちてるし。 それが一週間前。流石にがっくりきたよ。 でさ。 ん?さっきのでその変な実装石の話は終わったんじゃないのかって? いや、うん。実装石の話は終わりなんだ。多分。 あれがあいつと関連があるのか、それともそうじゃないのか… 多分関連があると踏んで話すんだけど、ほら、実装石って何やらかすかわからないし? ぐだぐだと鬱陶しい?あー…まぁね、自分でもそう思う。 ……現物を見せた方が早いかな? そう言って彼は庭に下りて、そこにある奇妙なブルーシートに包まれた物体の横に立った。 正直、対処に困ってるんだよ。 困ったような、笑ったような顔で彼がブルーシートをばさ、と剥いだ。 …形容しがたいものがにょきにょきと生えていた、数は2本、いや、よく見れば4本。 気づいたのは5日前で、その時はもっと小さかったんだけどね? 蚊が妙にこの辺で固まって飛んでたからなんだろうな?と思って調べて見たら、なんか生えてた。 なんというか、映像とかだとギャグだけど、こうして目の当たりにすると気味が悪いよね。 そこには女性の下半身と思しきモノと、その左右から手のようなものが生えていた。 へばり付いたまま死んでいる無数の蚊やトカゲやらが異様さを醸し出している。 多分、これがあいつのなれの果てなんだと思う。 見つけた時、これがもっと小さかった段階だと、これの周りにあいつの体格くらいの掘り返した後があったし? 今はもうこれの方が大きくなっちゃったから穴があったなんてわからないけどね。 生えている脚の根元にぼろぼろになった毛皮が散らばっている。 彼も私の視線に気づいたみたいだ。 あ、やっぱり気づいちゃうか。言っとくけど、僕がやったことじゃないよ? 一昨日にようやく確認できたことなんだ。 どうやらこいつ、食虫植物みたいに肉を喰う、というか、そのまま取り込めるみたいなんだ。 だからこんなに早く大きくなったみたいだね? 一昨日の晩にさ、ぎゃーお、ぎゃーおって、赤ん坊みたいな猫の悲鳴が聞こえたから庭に出たらさ、猫が文字通りこれにへばり付いてた。 しばらくふぎふぎうるさかったけど2時間もしない内にぐったりと死んじゃったよ。 そのうちに猫のお腹が破れて、中から内臓じゃなくて、どろどろに溶けたナニカが漏れ出してたから… …これは多分、獲物を溶かして食ってるんだろうね。 私も庭に下りて、まじまじと脚を見る。 張り付いたトカゲが気になるから剥がそうとした。 触らない方がいいよ?これがどこまで生き物を取り込めるかわからないし。 それに、大きくなるにつれて取り込む獲物がどんどん大きくなってるみたいだし。 羽虫が脚に止まる。羽虫は脚に止まったまま動かなくなった。 昨日あたりから、時折記憶があいまいになってるんだ。 気が付いたら、これに向かって歩いてる自分が居るんだよ。 君は、これに何か感じる物はあるかい? そう言う彼の瞳はどこか焦点が合っていなかった。 そうか、何も感じないなら良いんだ。それで良い。 どうやらこれは何かフェロモンでも出しているらしいんだ。 それはこれが大きくなるにつれて、どんどん大きな生き物を惹き寄せられるようになっていってるのは観察しててわかっているんだ。 最終的には、これはどうなるんだろうね? 「何が言いたいのかよくわからないよ?あなたは何が言いたいの?」 彼の様子は見るからにおかしい。錯乱してしまっている。 ああ、単純な話だよ。 これが成長しきったらどうなるのかってことと 僕がそれまでに自分を保っていられる自信が無くなってきたってことさ。 これにとってはもう人間を一人取り込めばきっと完全に成長しきれるところまで来ているように見えるから、なおさらさ? 僕はこれをどうしたらいいんだろうね? そう言う彼の表情は怯えるように笑っていた。 ぴくぴくと脚が震えて、へばり付いていた虫の残骸が地面に堕ちた。 「そんなに怖いなら、その脚を壊してしまえば良いのに。」
