その家に入った瞬間に嫌な臭いを感じた。 まれに道端に落ちている実装石の糞の匂いだ。 なるほど、この臭いなら駆除業者も呼ばずにすぐに引っ越してしまうのもうなづける。 俺の名は敏明。いわゆるフリーターだ。 大学卒業後も定職に就かずアルバイトばかりしていると、親から家を追い出されてしまった。 それから友人の家に転がり込んでしばらく生活していたのだが、あまり長居しすぎるのも申し訳ないので、あるていど貯金がたまってから新しい家を探した。 当然フリーターにまともな家に住む蓄えがあるはずがない。 そこで探したのがいわゆる曰く付きの物件というやつだ。 首つり自殺、治安の悪い場所、原発や墓地の近くなど。 不動産屋をいくつも回り、そういったいわくつきの物件を探したら、新築なのに住人が引っ越してしまった家賃格安の一軒家が見つかった。 さっそく家の鍵を借りて中に入ってみると、早速ひどい臭いが出迎えた、実装石の糞の匂い。 新築らしく、その匂いのほか不満は全くない・・・それほど臭いがひどいということだが。 前の住人、この家の家主である虹裏氏に話を聞くと、会社に近いこの場所にローンを組んで家を建てたが、引っ越しが済んで一週間ほどで野良実装に家宅侵入されてしまい、その時に大量の糞をされてしまったらしい。 家の中もそこいらじゅうに荒らされ、翌日会社を休んで一日がかりで大掃除をしたが、強烈な糞の匂いは取れず、さらに二日後また侵入されてしまったのだそうだ。 そして二度目も部屋は大荒れだった。 家主が実装リンガルで野良事情を聴くと、この家はこの家に最初に侵入した実装石によってマーキングされているといったのだそうだ。 マーキングというのは実装石が侵入しやすい家を判別するための目印で、一旦されると次から次へ野良が押し寄せてくるらしい。 糞とその匂いによるマーキングで、その匂いはあまり鼻が良くない自分でもひどいとわかる代物である。 さらに今嗅いでいるこの臭いは、掃除してだいぶ落ちた後の物なのだそうだ。 そういった事情により虹裏氏は引っ越すことにしたのだ。 新居を手放すのはあまりに惜しいが、駆除業者を呼ぶには十万から二十万近くかかり、、しかもその後二、三年は野良に襲撃されやすくなるのだそうだ。 人間には感じられない微かな匂いが長期間残りそれを頼りに野良が襲撃してくるためだ。 駆除費用が高いように感じるが、野良の襲撃そのものを止める方法がなく、あたり一帯の公園に住む野良を駆除してまわるせいらしい。 いざ実行しても、愛護団体からの苦情の恐れがある。 実装コロリを撒けばいいように思うが、そうすると死体が庭に残り、なかなか取れない上に下手をすれば嘔吐しかねない強烈な糞の臭いを嗅ぐことになる。 そういった事情により、虹裏氏は泣く泣く新居を手放した。 新築の家に侵入して家を荒らしまわった挙句、思わず泣きそうになるほど強烈な匂いの糞をされても、生き物を殺すのは嫌だったらしい。 単に糞の匂いを我慢するくらいなら、新居を手放すのがましだったか、姿を見るのもかかわるのも御免だったのかもしれないが。 家自体申し分ないし、どのみちフリーターの身では大して選択肢はない、俺はこの家に住むことにした。 とにかく俺は新しい家を格安で手に入れることができた、道端でたまに吐き気に襲われた糞の匂いとともに。 家自体には満足だが、さすがに糞の匂いには辟易した。 窓を開けて風化を待つしかないそうだが、今そんな事をすれば野良が集まってくるのは明白だ。 開けなくても寄ってくるらしいが。 俺は急いで原付に乗り、デパートへ急いだ、居ない間にいきなり侵入されたら困るからだ。 実装石についてはあまり詳しく知らない、コンビニや道端で時折野良や人間に飼われているのを見かけ、公園にいるのを見たくらいだ。 公園にはあまりいかなかったし、こちらによって来る野良が居たら即座に踵を返した。 近くにいるだけで悪臭がひどかったし、糞を投げられてはたまらない、邪魔だからと蹴り飛ばして靴が汚れるのも嫌だ。 学校に通っていたころ、実装石を飼っている友人から独特の匂いがしていた、実装石の体臭だ。 野良よりははるかにましだが、買い実装も独特の体臭がしている、本人は気づいていないらしいし、良いやつだったが自分にその匂いが付くのは嫌だった。 という訳でいままで碌に実装石とかかわってこなかったが、今はそうは言っていられない、何しろ向こうから襲撃してくるのだ。 幸いテレビ番組のCMなどで、金平糖の形をした実装石用殺虫剤コロリや、コロリスプレーなどは知っている。 特に興味がなくても、何度も流されるテレビのCMなどで覚えてしまうのだ。 ペットショップなどに行った方が安く済むかもそれないが、場所を知らない、今から買う分が尽きそうになったら調べてみよう。 デパートに着くと、さっそく殺虫剤などが売ってある棚へ向かい、コロリとスプレー、そして実装用の破れにくい専用ゴミ袋を買った。 実装リンガルはどうしようか一瞬迷ったが、俺の目的は殲滅である、会話は必要ない。 結局リンガルは買わず、家へ戻った。 「デスー」 恐るべきことに、すでに家の前に成体の実装石がいた。 玄関を横切り、窓のある方へ向かっている最中だ。 汚らしく、首輪を着けていないことを確認すると、買ってきたばかりのコロリスプレーを取り出し、野良の成体へ近づいた。 「デ、デッ!」 近づいてきたこちらに驚いて声を出したようだがかまわずスプレーを噴射した。 「デ、デズアアアアア!」 口から泡を吹き、痙攣し、糞を漏らしながら実装石は死んだ。 特徴的な赤と緑の目も灰色になっている。 思わず顔をしかめた。 今まで避けてきたからこんな至近距離で実装石の糞の匂いを嗅いだことはなかった、思わず後ずさるほどの悪臭だ。 まだ居るかもしれないと思い、家の周りをぐるりと一周してみる。 買い物に出かけている間に来たのは一匹だけらしく、他の野良実装の姿はない。 一周回った後、完全に息絶えた野良実装を見た。 さて、どうするか。 むろん死体はごみ袋に入れ、ゴミとしてゴミ捨て場に捨てるべきだが、手で触るのは嫌だ。 この家、鍵を開けて荷物を放り込んだだけで詳しくは見てないが、おそらくは何もない。 虹裏氏が引っ越しの際に家具など運び出したのだ、もぬけの殻といっていい。 リビングにソファがあったのは確認したし、クーラーもあった。 そして、野良実装に付けられたという臭い。 確認したのはそれだけだ。 実装石に関する注意ばかりに気が行って、これからの生活の事を考えていなかった。 そのおかげで野良の襲撃に間に合ったわけだが。 もしスプレーとコロリを買って急いで帰っていなければ、今頃家の中に侵入されていたかもしれない。 改めて目の前の死体を見る、漏らした糞のせいで酷い臭いだ。 野良なのでそれでなくとも汚らしいというのもあるが、死体に触る事への嫌悪もある。 考えてみてほしい、朝起きて玄関を出たところに猫の死体があったとして、それを素手でつかんでゴミ袋へ入れられるだろうか? かといって火バサミ(トング)はおそらくこの家にはない、ビニール手袋や軍手も。 欲しければ買いに行くしかない、現在は昼。 しばらくどうするか考えたが、結局買い物に行くことにした。 その前に、買ってきた分だけの実装コロリを庭に撒いておいた。 実装石はコロリを食べるのか?食べてもちゃんと効くのか不安だったが、とにかく出発した。 帰ってきたときにはもう夕日が沈みかけていた。 スクーターから降りて家の周りを見て回るが、 幸い買い物の間に侵入を試みた実装石はいないらしく、あたりに異常はなかった。 それほど大荷物にならないように気を付けたつもりだったが、スクーターには荷物の山が乗っている。 荷物を玄関に置き、その中から火バサミを取り出して、昼に始末した死体をゴミ袋に入れる、スコップで糞を掬いそれも袋の中に入れる。 後は口を縛っておいて、ゴミ回収の日に捨てることにする。 改めて部屋の中に入ると、相変わらず独特の異臭がしていた。 これから毎日この臭いと付き合うのかと思うと気が滅入る。 たまらず窓を全開にする、これから新居で初めての食事をしようというのにこの臭いはたまらない。 風が入ってくるようになると少しはましになった、それでもとても食事をする気分になるようなものじゃなかったが、初めて手に入った自分の家である、初日の今日、夕食くらいはこの家で食べたかった。 糞の匂いは中々取れないだろうし、その間外で食べて回るわけにもいかないだろう、俺は腹をくくることにした。 空腹のときの食事も糞の匂いの中ではあまりおいしくない。 やはり外で食っておけばよかったかと後悔したが、今さらだ、俺は新しい家で初めての食事にしてはあまりおいしくない食事を終えた。 残念ながらこの家にはテレビもない、よって暇を潰す手段がない。 携帯はあるから暇つぶしにそれを使ってもよかったが、せっかくなので家の中を見て回ることにした。 一応一通りは見ているのだが、何と言っても新しい我が家である、糞の匂いは気になるが、見て回るだけでもいい気晴らしになる。 子供の用に何度も家の中を見て回る。 口元に笑みを浮かべながら家の中を見ていると 「デギャアアアアアア!」 という悲鳴が聞こえた。 庭に向かってみると、口から白い泡を吹き、両目が白くなった実装石がいた。 成体で周りには仔実装もいる、親子だったのだろう、親と同じように口から泡を吐きながら死んでいた。 汚い恰好からして野良のようだ、庭に撒いておいたコロリを食べて死んだのだろう。 今は夕方、餌をとった帰るかあるいは渡りか、実装石の親が子を連れて歩くことは滅多にないので、餌の取り方を教えたか、託児を試みた帰りかもしれない。 この家に侵入した実装石がした『マーキング』の匂いにつられてやってきて、庭に撒かれた金平糖を見て思わず食いついたのだろう。 『マーキング』というのは家に侵入し、冷蔵庫などから餌を得て、なおかつ即座に撃退されなかったときに実装石がする、普段より臭いのきつい糞の匂いである。 『マーキング』があるということは、少なくとも実装石が家の中に侵入し、十分な食糧にありついてから、侵入した実装石が周囲に危険がなく安全と判断したということである。 人間の家の中に入れば餌がある、飼い実装になれるなどと思い込んで時折家の中に侵入する実装石である、比較的安全な場所があるとなれば、集まってくるのも当然かもしれない。 勿論人間に見つかれば、ほとんどの場合無事ではすまないのだが。 色々と問題のある『マーキング』だが、全くの無意味でもない。 一人暮らしの男性が、一か月から半年ほど家を空けるとしたら、その間段ボールなどよりもはるかに快適に過ごせる家が手に入るのである。 むろん帰ってきた人間に見つかればただでは済まないが、一か月といえば、実装石なら条件が良ければ子が成体になる時間である、半年ならほぼ確実に成体になるのだし、それだけの時間があれば数十匹から、下手をすれば数百匹の集団ができる。 しかも他人の敷地となれば、人間はおいそれとは入ってこれない、下手すれば飼い実装かも知れないのだし、それでなくても不法侵入である。 家の中に入らずとも、空き家の軒下でも公園の段ボールや野宿に比べたらはるかに過ごしやすい空間である。 加えて軒下の場合、人間が住んでいてもそれに気づかずにいる事もある、生まれつき鼻の鈍い人や老人などである。 可愛そうだから、あるいは面倒だからと放置してくれる人もいるかもしれない。 非常にまれな例だが、ゴミ屋敷などに住む人の場合、糞の匂いに文句を言いながらも家に住むことを許してくれるかもしれない。 実装石がいくら糞蟲、不快生物、不潔などどいっても、ゴミ屋敷などだと下手をすれば実装が住んだところで大して違いがないかもしれないのだ。 もし、人間の家に住む事ができ、直接糞を投げつける以外人間が容認し、時に餌をくれ、しかも自分を潰そうとした人間に文句を言ってくれるとすれば。 その生活は実装石にとってまさに楽園である。 敏明は新しいごみ袋の中に一家を入れた。 金平糖型コロリが効果のあることを確認して一先ず敏明は安心した。 安心したが、コロリさえ置いておけばそれでいいと思うほど、この敏明は甘くなかった。 とにかく実装石に侵入され、糞を家の中にまき散らされたり、割れた窓ガラスの掃除をしたりするのは嫌だった。 敏明は庭に転がっていた親子の死体を新しいゴミ袋の中へ入れると、店からもらってきたダンボールを窓の大きさに切り、外側の窓に張り付けた。 ガムテープで、戸を閉めた時に端が外に出ないように一周させる。 きちんと貼り付けておけば、実装石の手では剥がせないだろうし、ダンボールでガラスの部分を覆っておけば、ガラスを割られることも無い。 実装石に手が届きそうな家じゅうのガラス部分にダンボールを張り付け置けた時、また庭から実装石の声が聞こえた、今度は子供の声も。 ゴミ袋を持って外に出ると、また成体実装が死んでいた、が、今度は仔が生きていた。 「テエエエ〜ン、テエエン!」 親実装の周りで座り込んでるのが二匹、縋り付いて泣いているのが二匹、何もわかって無いようで、「レフー?」と不思議そうに泣いている蛆実装が一匹。 実装石に詳しくない敏明は、蛆実装の事を緑色の虫と思った。 しかしどこかで見覚えがある、しばらく首をひねっていると、ようやく実装コロリスプレーのCMを思い出した。 成体や仔がスプレーを吹きかけた瞬間死ぬCMである、その中に出てきたのだ。 そもそも大して興味がなく、街中で見かけるのもほとんど成体なので蛆実装の事がとっさに出てこなかったのだ。 敏明が考え込んでいる間、あまりにショックだったのか、実装たちは敏明に気づかなかった。 敏明はコロリスプレーを取りに家に戻った、踏みつぶすこともできたが、靴が汚れるのが嫌だったのだ。 敏明が戻ってきたときも、仔実装たちは相変わらず泣いていたが、スプレーを吹きかけるために敏明が近づいていくと、座り込んでいた二匹は敏明の方を向き、親に縋り付いていた方は、一匹が敏明の方を向き、もう一匹は右手を頬に充て、首を傾けて鳴いた。 「テチュ〜ン」 「媚」「おあいそ」と一般的に言われている動作である。 お愛想をした仔実装が、急いで敏明に話しかける、敏明はスプレーを取り出した。 「タチャ、テチュテチュ!テチュ!」 ニンゲンさん、ママが死んじゃったテチュ!ワタチ達このままじゃ生きられないテチュ! 仔実装は懸命に話しかける、親を失った仔実装が野良で生きられる可能性はほとんどない、近づいてきた人間にほとんど反射的に助けを求めるのも無理ないことだった、敏明はスプレーを向ける。 「テッチュウ、テ」 オネガイテチュ、ワタシタチを、か。 敏明はスプレーを噴射した、その瞬間仔実装は背中から倒れ込み、口から泡を吹き始める。 「テ・・・テェ」 縋るような、あるいは恨むような目で敏明を見た、どちらであろうと大して意味はなかった、倒れたのを確認した瞬間、敏明は親に縋っていた一匹を、それが倒れるとすぐに地面に座って呆然とこちらを見ている方を見た、当然視線と一緒にスプレーも向ける。 最後の一匹が倒れると、のた打ち回る姿を見ることも無く、火バサミを取りに行った。 敏明が戻ってきて話しかけてきた実装を再び見た時には、仔実装は両目を白濁させて完全に死んでいた。 敏明はその一家をゴミ袋に詰めると、食後、窓をダンボールで補強する作業前にコロリを食べた一家の入ったごみ袋の隣に置いた、その隣には一匹の成体が入った袋がある、同じ袋に入れようかと一瞬考えたが、面倒なのでそのままにしておく。 窓を開けてから立て続けに実装石がやってきたのは窓を開けたせいだ。 『マーキング』による糞の匂いが外に漏れたせいで周りにいる野良がやってきたのである。 時刻は夕暮れから夜にかけてであり、公園の外に出て餌を探していた野良実装が公園に帰る時間だったのも関係あるかもしれない。 、 暗くなったこともあり、敏明は戸を閉めて家の中に入った。 実家や友人の家ではほとんど目にすることの無かった実装石が初日にいきなり何度もやってきたので、敏明は疲れていた。 もともと野良の猫や犬などより臭い野良実装にはあまり近づかないようにしていたのだ。 近寄って来て餌を貰おうとする実装石を、靴が汚れるからと踏むこともせずに急いで通り過ぎていたのだ。 コロリを撒いておけばたいてい引っ掛かるようだし、効果も間違いない。 とは言え、すべてでは無い、さっきゴミ袋に入れた一家は親は死んだが仔は生きていた。 警戒心の強い個体なら引っ掛からないかもしれないし、頭のいい個体なら罠だと気付くかもしれない。 警戒して近よやらないならそれでいいが、コロリをまいて安心している人間の家ならかえって他より侵入しやすいと考える賢いのや、野生の感、で毒餌を避けるのもいるかもしれない。 それでなくとも、親や、同族が落ちている餌を食べて死ぬのを目にしたら警戒するかもしれない。 家を空けた時、親が死んでも子は警戒してそれを食べず、固まって生き残ることもあるかもしれない。 仔実装では大したことはできないだろうが、その時に窓を開けておけば、家の中に侵入するかもしれない。 つまり、出かけている間は窓を開けられない、匂いがひどいからとコロリを撒いて外で時間を潰すということはできないのだ。 これから先の事を考えると、正直気が重くなった。 格安のわけあり物件をわざわざ選んだのだ、この位はしょうがないことだった。 あまりの安さにここ以外選ぶ気はなかったのだし、気が重いとはいっても、手放す気はなかった。 臭いが染みついていても、窓を開けて換気すればそのうちなくなるだろうし、そのうち慣れるだろうと思ったのだ。 考えてみれば当然だが、換気をすれば実装石が寄ってくる、家にいる間しか窓は開けられない。 そして慣れるまでは近づくことも嫌だった臭いと暮らすことになる。 窓を閉め切ってしまえば家の中に残った臭いが、嫌でも鼻を突く。 日が落ちて暗くなったからと窓を閉めたが、じきに耐えがたくなる。 結局、窓を閉めてから一時間後、俺は窓を開けた。 碌に暇つぶしの道具も無いため、匂いが気になって気になってしょうがないのである。 窓を開けれ当然野良実装がやってくる。 とは言え、開けなければ、夜ならば来ないとも言い切れない、どうせ疲れて眠くなったら閉めるつもりなのだ、朝になれば、あるいは寝ている俺が起きるほどの声で実装石が喚き散らせば起きるだろうし、窓が割れない用に対策はした。 臭いには耐えられなかったし、起きてる間に来たやつは自分で始末すればいい。 窓を開けると臭いが少しはましになる、それと同時に窓から冷たい風が入ってきた。 まだそれほど寒くなってはいないが今は秋である、俺は家の中でジャンパーを羽織った。 家の中の匂いが少し良くなっただけで、大分気分が楽になった。 眠るときにはまた閉めなければならないが、その時臭いに耐えて眠ることができるだろうか?不安に思ったが今は感がないで置く、自分の寝つきの良さを信じるしかなかった。 やる事がなくて暇といえば暇だが、大分気分が良くなったおかげでのんびりと携帯をいじる余裕ができた。 暫く嗅いでいれば慣れるだろう、どうせ消えるのには時間がかかるのだ、などと考えて無理をしたが無理だった、人間無理はするもんじゃない。 締め切ってから三十分くらいでイライラが止まらなくなった、それからは我慢と嫌悪感の戦いだった、たかが実装石の糞のために我慢するのもあほらしくなり、結局開けることになった。 こんな事なら三十分あたりでさっさと開けておけばよかった。 ほっとしながらのんびりと携帯を見る、携帯だけでの暇つぶしは限界があるから、テレビとゲームを買うか、漫画を買うかする必要がある。 のんびりしながらも、窓の外を時折見るのは忘れない、今現在野良実装の糞で苦労しているのだ、部屋の中に糞を投げつけられたり、汚い野良に侵入されてはたまらない、侵入されてまた糞をされるなど絶対に許せない。 一息ついたとはいえ、この臭いのせいでコーヒーを飲みながらくつろごうという気にもならないのである。 もっとも、飲みたくとも今この家にはコーヒーも紅茶もないのだが。 薄くはなったが相変わらず顔をしかめたくなるような糞の匂いをできるだけ気にしないようにしつつ、寛いでいると。 「デギャア!」 という声が聞こえた。 思わず顔をしかめつつ庭へ急いだ。 案の定、野良実装が庭で倒れていた。 俺は火バサミでそいつをつかむ、他のの奴もそうだが、実装石の体は柔らかい、思わずスポンジを連想するほどだ。 実装石の成体は、身長六十㎝、重さにして五キロになる、中型犬位の大きさがあり、実は最初、ヒバサミで上手くつかめるか不安だった。 やってみるとやけにやわらかい、まるで人形のようで、楽に掴むことができた。 俺はヒバサミでつまんだ野良を、成体一匹が入ったごみ袋の中に入れた、昼間スプレーで直接始末した奴だ。 実装用ごみ袋は、大きめの奴を買っておいたのだ、面倒だからやらないが、今まで始末した奴らは全員一つのごみ袋にまとめて入る。 成体は流石に大きいが、仔は小さい、実装一家が二組いるが、成体は今ので四匹、一つのごみ袋に余裕を持って入る。 まとめて入れたりはしない、面倒というだけでなく、それをやるとさすがに重くなるのだ、一匹五キロ×四匹で二十キロ、持てなくはないが楽にもてるほど軽くはない。 死体の運搬作業を思うとまた気が重くなった。 もう来ないで大人しくしていてくれ、今は夜だ、頼むから巣で大人しくしていてくれ。 俺は祈るような気持ちで天を仰いだ。 窓を開け放した状態で侵入がないのなら、虹裏氏がわざわざ新築の家を手放すわけがなかった。 たとえ夜といえども、すべての実装石が眠るわけではない。 夜になると目が見えなくなる鳥目ということも無い、夜のコンビニで託児を試みる野良は珍しくない。 特別に夜目が効くわけでもないので、やはり昼間に活動する者の方が多いが。 実装石をゴミ袋に入れた後、敏明は家の中に戻った、先ほどのようにのんびりとはしていない。 一仕事終わって気が抜けていたのだ、夜ならば来ないのではとも思ったが、甘かった、昼の方が活動が活発になるのは間違いないが、夜にも来るのだ、コンビニで託児した子供を追いかけに、夜実装が公園から家に移動するのは割とよくあることだった、実装石に詳しくない敏明は知らなかった、なにしろ実装石がいるコンビニはたとえようがあろうと避けるようにしていたのだ、コンビニ袋に仔をを放り込まれる被害を受けた事がなかった、夜に出歩く実装を見ないわけでもなかったが、昼間より数が少ないし、何しろ夜は人間でも視界が聞かない。 窓を開ける気にならず、実装が室内に侵入してくる可能性があるとなればのんびりとはしていられない。 敏明は窓の外を気にしながら明日の事を考えた。 一方そのころ公園では。 「デスデス、デス〜ウ?」 「デスデスデス」 「デス、デププププ」 「デエデ、デエデ!」 「デスデスゥ、デッスン!」 普段よりわずかにデスデスうるさかった。 夜になれば公園から実装石の声が聞こえなくなるということも無く、夜中に実装たちが何事か騒ぐこともあったので、人間たちは気にしない、本よりたいていの人にとって実装とはどうでもいい存在であった。 普段より少しだけ騒がしい公園内では、実装石たちが『マーキング』について話していた。 侵入しやすい場所があるらしい、今は夜だが行ってみるか? 今は夜だ、人間が家に帰っている可能性がある。 侵入された挙句に糞をされた間抜けな人間、どうせ攻撃してこないだろう。 侵入するなら今の内だ、急がなければ他の野良にとられてしまう! 朝になってからでも遅くはない、あわてて行って死んだら意味がない! 野良たちはそんなことを話していた。 好き勝手に行動し、仲間内で協力し合うことの少ないように思える野良実装石たちだが、強力なリーダーが居たり、こうした問題が起こった時には話し合うこともある。 話をしたら協力し合うかというとそんなことも無く、それぞれの思惑で動いてゆくことになる。 危険だから、夜は視界が聞かないから、明日にすればいいと考えて家に帰るものもいれば。 早くしなければ家を取られてしまう、久々に思う存分聞食べられる、これで自分も買い実装に、などと思って『マーキング』のある家に向かうものもいる。 中にはそこに行けば人間に飼ってもらえる、そこに楽園があるなどと、実装石特有の楽観をする者もいた。 そうした者たちはもしいるなら家族連れで『マーキング』のある家に向かうことになる。 碌に食料が手に入らなかった一家、公園でこのまま生きていてもどうせ碌なことにならない禿裸や奴隷階級、親が死んだ、あるいは親に捨てられた仔実装、食われそうになって親から逃げ出した仔実装など、僅かな希望に縋り付きたい実装石は多い。 そのすべてが公園彼出るわけではなく、出たところですべてがたどりつくことも無いのだが、わずかな可能性に掛けて、視界の悪い夜を『マーキング』の地点目指して進んでゆく。 敏明の新しい家の近くには、実装石が多く住む公園が、距離は違うが三つあり、臭いが風化するまでの間、それぞれの実装たちが、様々な理由で敏明の家を目指していくことになる。 敏明と野良実装との戦いは始まったばかりだった。 「デギャアアア!」 と、もはや聞きなれた実装石の悲鳴が外から聞こえてきた。 外に出ると成体が一匹死んでいた。 これで間違いない、ほとんどの野良実装はコロリに引っかかって死ぬようである、長い時間家を空けるのは危険だろうが、一先ずは安心して出かけられる。 新しく持ってきたゴミ袋の中に死体を入れる。 このペースでゴミ袋を使い続ければ、昼に買ってきた分は無くなってしまうかもしれない、明日はゴミ袋を置かってこよう。 そんな事を考えていると 「テチュウ?」「テッチイ!」 という声が聞こえた。 見れば死体のすぐ傍に仔実装が二匹いた、親子だったのだろう。 仔実装たちは 「ニンゲンさん、ママどうしたテチュ?」「ママが死んじゃったテチィ!」 などと言っていたが、敏明は聞いていない。 この姿を見るや否や家の中に駆け戻り、スプレーを持って戻ってきた。 「テチィ?」 いきなり走っていなくなり、戻ってきた人間を仔実装たちは不思議そうに見つめた。 二匹のうち一匹は、『おあいそ』に近いポーズをとっており、もう少し待てば 「テチュ〜ン」 と鳴いただろうが、敏明は駆け寄るなりコロリスプレーを噴射したのでそんな間は無い。 「テチャアアアア!」 と悲鳴を上げてのたうち、仔実装は死んだ。 親のいなくなった仔実装が野良で生きられる可能性は限りなく低い。 親の死を悲しむ暇もなくあの世へ旅立ったのはあるいは幸せだったかもしれない。 敏明にとってはヒバサムで仔実装をつかんでゴミ袋の中に入れた。 まだほかにも居はしないかと辺りを見回すが、見つからない。 昼間ならそれで安心だが、今は夜である、周囲は暗く、そのせいでさっきは親の陰になっていた子を見つけ損ねた。 わざわざ声を上げてくれたから見つけることができたが、もし仔実装たちが黙って身を伏せていたらもしかしたら見落としていたかもしれない。 改めて敏明は周りを見渡す、実装石の姿は見えない。 懐中電灯で照らそうにも、それもない、それも明日買ってこなければならないだろう。 ごみ袋をそのままにして敏明は家の中に戻った、この調子では一晩中野良実装はやってくるだろう、雨も降っていないしまた来た時のために置いておけないい。 家に戻ったが、窓の外が気になって仕方がない、敏明は次第に苛立ち始めた。 このまま窓を気にするくらいならコンビニにでも行って漫画でも買ってこようか、しかしまた窓を閉めるのも面倒だ、それに帰ってきたらまた窓を開ける羽目になる。 敏明が迷っている間にまた悲鳴が聞こえた。 「「テシャアアアアアア!」」 二重に重なっているからどうやらどうやら二匹まとめてかかったらしい。 敏明は急がず、ゆっくりとスプレーを持って玄関に向かった。 倒れていたのは禿裸の中実装二体だった、奴隷身分として使われていた公園から、わずかな希望に縋ってやってきたのだ。 勿論敏明には何の関係もない、普段緑色の服を着ている実装石が、なぜか裸でいるなと不思議に思っただけだ。 朝の明るいうちなら、普通の野良より汚らしい恰好をしていたのもわかっただろうが、玄関先の明かりがあっても夜ではよくは見えない。 見たところで結果は変わらなかっただろう、ゴミ袋に放り込むだけだ。 明るければ、成体より少し小さいのにも気づいただろう、やはり放り込むだけだが。 今まで野良実装は庭にばかり出現していて、玄関にはこれが初めてだった。 手に持っているのはスプレーだけ。 敏明は玄関にもゴミ袋を常備しようと決めた。 禿裸の中実装をゴミ袋に入れてから、敏明へやの明かりを消した、眠るわけではなく、耳を澄ませば実装石の足音が聞こえるかもしれないと思ったのだ。 普段ならまずやらなかっただろうが、暇を持て余し、しかも実装の襲撃が多いとあって、ためしにやってみることにしたのだ。 耳を澄ませば聞こえてくるのは、風の音と時折通る車の音位だ。 そんな事をしていると 「デッスッ、デッスッ!」 という音が聞こえた。 しかも庭の方にシルエットが見える。 蛆実装なら「レフ、レフ」親指なら「レッチ、レッチ」仔実装なら「テッチ、テッチ」中実装なら「テッス、テッス」成体実装石なら「デッス、デッス」と 実装石は走るときに鳴き声を発する、気を付ければ声を出さないようにすることも出来るらしいのだが、全力で走れば走るほど鳴き声を上げることが多くなる。 個体差が激しいので一概には言えないが、外敵に気付かれないように注意して声を出さないようにするらしい。 少なくとも、ペットショップなどで売られている実装は、野良よりも走った時に鳴き声を上げることが多い。 今回やってきた成体は、楽園を夢見てやってきた個体で『マーキング』のあるリビング、つまり敏明のいる方へまっすぐ走ってきた。 本気で走っているので例の鳴き声を上げている。 毎度のごとく、話しかけようが鳴き声を上げようが敏明には関係ない。 急いで灯りをつけ、コロリスプレーを持ち、網戸を開けて庭に出る。 「デッス〜ン♪」 自分の信じる楽園から人間が出てきたため、自分を歓迎していると勘違いした野良実装は、思わず歓声を上げる。 媚びているわけではない証拠に、首を傾けて口元に手を当てる例のポーズでなく、両手を上げてピョンピョン飛び回っていた。 勿論そんな野良を迎えるのは歓待の宴でなくコロリスプレーである。 敏明が買ったスプレーは、一番安い品物で、実装を仕留める効果に間違いはないが、噴射された実装石に、しばし悲鳴を上げてのた打ち回る猶予を与える。 金平糖型コロリも効果の同じ安物で、摂取してから死ぬまでに若干のタイムラグがある。 吹き掛けた瞬間、即座に死ぬものや、その際、実装が品糞をまき散らすのを抑制するものもあるが、敏明は安さでこれを選んだ。 メイデン社製、この会社は実装石に対する殺意が透けて見えるような商品をよく開発する。 一般人でも大量に購入できる業界再安価のコロリスプレーはこの会社の物である。 再安価だけあって声を上げさせず、糞を漏らさせずに即死させるといったことはできないが、殺傷力は十分で何より安いため、時折コンビニで見かけるくらいには普及している。 敏明はスプレーを噴射した。 「デギャアア!」 楽園を夢見てここにやってきた野良実装は死んだ、実装石用の殺虫スプレーは殺傷力に優れており、わざわざ死なない程度い弱らせるように作ったものでないほぼ限り間違いなく死ぬ。 一般に広く普及しているローゼン社製のスプレーだったら苦しむ暇もなかったが、人家に侵入を試みた楽園を求める野良実装の最後にしては幸せな方である。 庭の真ん中あたりに置いたゴミ袋の中に実装石を入れて、敏明はあたりを見渡しながら考えた。 何故この実装はコロリに引っかからなかったのか? 暫く考えていたが、リビングから庭の方を照らす灯りを見て気が付いた。 コロリが見えなかったのだ。 よく目を凝らせば見えたかもしれないが、脳内の妄想に取りつかれた実装は庭からリビングを見た瞬間まっすぐ走ってきたので気が付かなかったのだ。 実装石の妄想のことなど知る由もない敏明だが、灯りを付けていないと実装石は夜コロリに引っかからない。 敏明は家に上がると今度は電気をつけたままにした。 今のところ一度も投げられていないが、実装石の投糞を受ける確率を少しでも下げようと思ったのだ。 自分が声のした方に向かった時にはすでに死んでいてくれた方が、近寄ってスプレーを噴射するより楽だろうと思ったのだ。 敏明の考えはそれなりに正しい、人間に向かって糞を投げるような個体はあまり賢くない。 人間が嫌がって逃げるからと多用する実装石もいるが、賢い個体は人間の脅威を知っているため、他にどうしようもない場合を除いて、人間に糞を投げるようなことはしない。 相手によってはその場で踏みつぶされ、あるいはそれ以上の目に合わないとも限らないからだ。 そういった事を考え無い個体は、庭に落ちているコロリを何の疑いもなく食べ、死に至る。 多少賢くても金平糖の誘惑にあらがえる実装石はもともと少なく、殺傷力は高い。 賢ければ、まわりに実装石の死体があったり、それを食べた同族が死んだ場合は警戒位はするからまれに生き残るものもいる。 敏明の撒いたコロリの場合、悲鳴を上げる間があるのでその声を聴いて実装石が警戒する可能性がわずかに上がり、その悲鳴のせいで家でのんびりしていてもいきなり実装石の声に呼ばれることになる。 敏明は家の中に入った。 もう何度も出入りしている敏明は、実装石の悲鳴に呼ばれ、すぐにまた外に出ることになる。 一旦実装石に『マーキング』をされると、たとえ家中の窓を強化ガラスに替えて侵入そのものを阻止したとしても、その窓に腹立ちまぎれの実装石たちが糞を投げつけたり、家に帰った時には家の庭に数匹の、時には大量の野良がうろついていたりする。 当然近寄ってきて媚びる、時には糞を投げてくる。 コロリを撒いて置けばそういった煩わしさからは解放されるが、今度は死体の処理がある。 夏場など、朝出かけて帰ってきたときには、微かに腐敗臭さえ漂わせていたり、大量のからすが死体を貪ってあちこち死骸が散乱していたりする、洗濯物も外には干せない。 敏明は家の中で割と真剣にこれからの実装石対策を考えていた。 今までかかわらないようにしていたが、これからのできるだけそうしたかったが、そんな事は言っていられない。 暇だったからよかったようなものの、これではゲームをするのも漫画を読むのものんびりとはできない、せっかく夢中になっても悲鳴で呼ばれてしまう。 深夜近くになり、家の中もだいぶ冷え込んできた。 敏明は、これだけ寒ければ野良たちももう来ないかもしれないなどと考え始めたが 「テチャアア!」「チュアアアア!」 「デ、デスウ!」 「デ?」 「デ、デス?」 「テチュ?」 庭の方から声が聞こえた、しかもどうやら今までで一番うるさい。 思わずため息をつくと、敏明は新しいごみ袋とスプレーを持って庭に出た。 庭には実装石の群れがいた。 まず、親子が一つ。 親一匹、仔実装六匹、蛆二匹。 仔が二匹死んでおり、親がその子をゆすっていた。 その周りに不思議そうに仔実装の死体を見てる仔が三匹、そのうち一匹は蛆実装を抱えている。 蛆実装を抱えた仔実装もう一匹、こちらを見ている。 その親このほか、庭に 禿裸の成体二匹、仔が一匹、 成体が二匹、 庭と道路の間辺りに成体一匹、こちらを警戒するように見ている。 合計 成体が六匹 仔が七匹(二匹死亡) 蛆が二匹 リーダーに統制された野良が商店街を襲う場合や、託児を試みる野良の集まったコンビニなどでない限り、街中ではまず見ない大人数である。 商店街への襲撃もまずないため、でこれだけの集団を街中で見るのは公園だけである。 この家の庭はいつから野良の住む公園になってしまったんだと、敏明は思わず天を仰いだ。 「デスゥ?デスデス!」 「デスデスデス」 「デェ〜?」 「テチ?」 「テチュチュ?」 すぐに視線を実装達に戻した。 下手に目を離せば、絶対に避けたいと思っている、投糞によるズボンの汚れや、自宅への侵入などされかねないと思ったのだ。 実装たちは、すぐに襲ってこない、大声を出したりもしない人間をみて、危険がないと判断したのか、「デスデス」「テチュテチュ」と話し始めた。 暗闇から覗く赤と緑の目に不気味なものを感じつつ、素早く行動に移ることにした。 出来れば逃げ出したいと思ったが、そんな事をすれば庭を荒らされ自宅へ侵入されてしまう。 まず、一番近くにいる親の傍を通り抜け、早歩きで庭と道路の間からこちらを見ていた注意深い実装に近づいた。 「デ!」 それを見て、威嚇するでもなく、即座に逃げようとしたのはこの個体が賢かったからだ。 実装石の足は遅く、全力で走っても精々人間の歩く速さ。 人間の歩く速さを遅いといっていいのかどうかはともかく、人間が早歩きで追いかければすぐに追いつく。 それでも追い付いた時には庭から完全に離れた道路の向こう側にいた。 もし他の実装石を始末してゴミ袋に入れていたらまず見失っただろう。 「デッス、デッス」という走るときにあげる声も上げていない。 「デギャアア!」 賢く注意深い個体だったが、背中からスプレーを噴射されて死んだ。 急いで庭に戻る、今のスピードで走られたら家の中への侵入を許してしまいかねない。 庭に戻ると、親子と、野良と禿裸の成体と仔実装が一匹ずつこちらを見ていたが、成体と禿裸が走ってリビングへ侵入しようとしていた。 寒いから部屋の中に入ろう、人間の部屋の中なら暖かいはず、と思った成体、人間のいない内に中に入って我が家にしてしまおうとした禿裸。 「「デギャアア!」」 走ってきた敏明にスプレーをかけられ、仲よく同時に悲鳴を上げて死んだ。 「デ、デエエエ!?」 「テ、テチャアア!」 それを見てどうやら敏明が安全な人間ではないらしいと気づいた親実装が声を上げた、仔も気づいたのか一匹だけ悲鳴を上げた。 仔で気づいたのは一匹だけで、他は 「テチテチ」「レフレフ」 と、のんきにしていた。 暗闇でよく見えなかったせいもあり、何が起こったのかわかってないのだ。 「デズウウウ!」 野良は腰を抜かして糞を漏らしていた『パンコン』と呼ばれる動作で、糞を漏らした拍子に下着状の白い布のようなものがこんもりとすることからこう呼ばれる。 禿裸の成体は分かってないのか 「デスゥ?」と首をかしげている。 が、禿裸の子は 「テチャアアアア!」 と悲鳴を上げながら逃げようとする。 一匹も生かして返すつもりのない敏明は、早歩きで追いかけた。 成体の全力疾走で人間の歩行速度と同じ、仔実装はその半分である、わざわざ走らなくても逃がす心配はなかった。 踏むと靴が汚れるのでやはりスプレーをかける、近くにいたよくわかっていないらしい禿裸にも。 「テギャアアアア!」 「デギャア!」 仔は元気にのた打ち回り、成体はもがいて死んだ。 禿裸はこれで全てである。 次は成体野良実装 「デシャアアアア!」 と威嚇の声を上げ、パンツから糞を取り出して手にかまえている。 思わず敏明の顔が引きつる。 ここが家の庭でなければ、敏明は威嚇の声を上げて糞を構える野良実装に近づかなかっただろう。 もし、実装石の糞が服についてしまえば、たとえ洗濯してもその匂いは取れず、服は捨てるしかなくなる。 犬や猫の糞も、府についてしまえば落とすのには苦労する、色は取れないだろうし、二、三度洗濯する必要があるかもしれない。 だがそこまですれば大抵は臭いが取れる。 実装石の糞は駄目である、どうしても取れない。 無理して臭いを無くしても、実装石にはわかるらしく、一度糞のついた服を着て歩けば、野良がやってくるのだ。 実装石にとって糞の匂いのついた服を着て歩くことは、奴隷であるという証拠である。 野良では、格下の相手に自分の糞を擦り付けるのはよくあることである、実装石にとって数少ない貴重品である服に臭いを付けられるというのは、それだけ衝撃的なものであり、大抵は怒るか意気消沈する。 取れないその匂いは奴隷の証であり、それだけで他の野良に攻撃される理由になってしまう。 人間がこの臭いをさせていると、実装石達は、その人間は自分たちより弱いと決めつけ、そうでない他の人間より実装石による被害を受けやすくなる。 賢い個体も、その人間が実装石を飼っていると勘違いして寄ってくるようになる、託児の被害も被害を受ける確率が高くなる。 勿論そうした実装が生き延びられる確率は低い。 何匹か犠牲になるとしても、人間が実装石の糞を恐れて近寄ってこなくなれば、生物の生存にとって有利になる。 実装石という種が生物として獲得した、ある種の対抗手段としての行動かも知れない。 この習性は、実装石にかかわるものは皆不幸になるというジンクスの裏付けになるかも知れない。 おかげでこの野良は何もしないよりは長く生きられた、糞を構えていなければ即座にスプレーをかけられて死んでいただろう。 敏明は最大限の注意を払いながら、野良に近づいていく。 「デシャアアアアアア!」 野良が威嚇の声を上げる、声そのものは敏明に大した効果を及ぼしてはいないが。 敏明がスプレーを突きつけると、野良は思い切り糞を投げた。 敏明は思い切り後ろに飛び下がり、難を逃れた。 「デッ!」 外すと思っていなかった野良は一瞬驚いたが、またすぐ糞を構えようとパンツに手を伸ばす。 敏明がその間待っている訳がなく、すぐにスプレーを噴射した。 「デギャアアア!」 パンツに手を突っ込んだ姿のまま身じろぎして死んだ。 実装石の腕力は大したことがなく、投げても精々三十センチ程度、見てから飛びのいても十分間に合う。、 バールのようなものを持っていれば、わざわざ後ろに下がらなくても手を引っ込めるだけで何とかなる、その位の射程だった。 最後は親子である、敏明にとって厄介なことに、親は糞を手にかまえて投擲体制をとっていた。 「デシャアアアア!」 さっき聞いたのとおなじ威嚇の声である。 さっきと違うのは、仔の方を向いて何か言っていることだ。 何を言っているのか敏明にはわからないが 「テチャアアア!」 と、仔の一匹が威嚇しており 「テェェェェン!テェェェン!」 と蛆を抱えた仔が母親を引っ張りながら泣いていた。 仔実装と蛆を抱えたた仔実装は 「テチ?」 などと不思議そうにしていた。 「レフレフ」言っている蛆はもちろん何もわかっていない。 面倒になった敏明は、親が構えた糞の投擲距離三十㎝からぎりぎりのあたりでスプレーを向けて噴射した、噴射したままスプレーを仔の方へ向ける。 「デギャアアアア!」「テチャアア!」「チュアアア!」「チャアアアア!」「テジャアアア!」 今日一日ですっかり聞きなれてしまった断末魔である。 数が多いせいでやかましいが、もはや敏明は何も感じなかったが、そのなかには 「レピィィィ!」「レェェェェ!」 という今日初めて聞く悲鳴も混ざっていた。 敏明の買ったスプレーは死ぬまでの間にタイムラグがあるが、それは成体や仔の話で、蛆実装にかければ普通は即死する。 なぜ今蛆実装の悲鳴が聞こえたかというと、敏明が射程ぎりぎりで吹きかけたせいで、毒が回りきらず、普通なら即死する蛆実装も悲鳴を上げる間が出来たのである。 悲鳴を上げることができたというだけで死ぬのに違いはないが。 悲鳴を上げて倒れた親子を見て安心した敏明に べちょり という嫌な感触がした、見るとズボンに糞が付いていた。 視線を地面に向けると、親が笑っていた。 「デプププ」 そして死んだ、最後に一矢報いて満足したのか、晴れやかな死に顔だった。 敏明には違いなど全く分からなかったが。 実装石に糞など付けられたら、普通の人間は少なくとも嫌悪派になり、下手すれば虐待派になる。 敏明はどちらでもなかった。 最初からそういう生き物だと思っていたから、大して腹も立たなかった。 この敏明が虐待派にならなかったのが実装石達にとって幸せなことだったかどうかは分からない。 今日一日の実装石との攻防により、敏明は無関心派兼虐殺派になったのだ。 つまり実装石達をいじめたり痛めつけたりはしない。 ただ殺すだけである。 敏明はあたりに人気がないことを確認してから、庭でズボンを脱ぎ、家の中に入った。 季節は秋で、時刻は深夜でありかなり寒かったが、実装石の糞を家に持ち込むのはどうしても嫌だったのだ。 予備のズボンに履き替えた後、庭のヒバサミでズボンをゴミ袋へ入れ、散らばった死体を実装石用のゴミ袋へ入れたあと、窓を閉めて敏明は寝室へ向かった。 『マーキング』をされたのはリビングであり、寝室は無事だった。 それでも臭いは入って来るが、リビングに比べればだいぶ楽だ。 やはり気にはなるが、疲れていたためか、実装石達の相手をして居るうちになれてしまったのか、敏明は眠ることができた。 起きている間さんざん悩まされた 「デギャアアアア!」 という声に起きなかったのだから、ぐっすりと眠れたのだろう。 今日一日で敏明が撃破した実装石の数は 成体11 中2 仔14 蛆3 成体一匹が約五キロ、すべて合わせれば約六十キロ。 朝、漂う糞の匂いに顔をしかめながら敏明は起きた。 それからすぐに庭に向かう。 「テチャアアアアア!」 という仔実装の悲鳴のせいである。 外に出ると、親が一匹玄関の方で、仔実装が窓に近い庭の方で死んでいた。 「テエェェェェン、テエェェェン!」 仔実装の死体に仔実装が縋り付いて泣いていた。 この親子、敏明が寝てから家に到着し、玄関先の明かりで金平糖気が付いて親がそれを口にした。 この親子は愛情深い個体で、毒見のつもりで親が先に食べたのだ。 食べる前に仔に自分に異常があった場合は食べないよう言い含めておいた。 そのおかげで仔たちは死なずに済んだ。 そのおかげで一晩寒さに震えることになるのだが。 親が死んでから賢い長女は泣いている次女を連れて庭の方へ移動した。 親が死ぬ間際に逃げろと言ったからだ。 だから長女は身を隠せそうな場所に移動した。 暗くてわからなかったのだが長女が移動したのは実装用ごみ袋の裏、敏明が死体を詰めた袋の裏である。 寒さに震えて寝むることもできなかった姉妹。 空が明るくなると、地面の金平糖が見える。 それを食べた母が死んだのは分かっていたのだが、寒さに震えていたストレスと空腹感から、次女が金平糖を食べる。 勿論その金平糖はコロリである。次女は死んだ。 次女は悲鳴を上げ、長女はその死体に縋り付いた。 「テェェェェ!」 長女が敏明に気が付いたのは、敏明がスプレーを噴射し、自分が地面に倒れてからだった。 敏明の実装石総撃破数 成体12 中2 仔16 蛆3 総重量六十キロオーバー。 ゴミ捨て場は敏明の家からやや遠いところにあり、敏明はその重さに何度も家を往復することになった。 この経験から、敏明はホームセンターで押し車を購入する事になるのだった。

| 1 Re: Name:匿名石 2015/02/26-15:36:47 No:00001655[申告] |
| 誤字脱字、くどい言い回し、同じような描写の繰り返しと
なかなかに疲れさせてくれるスクをありがとうwwww |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/09/16-00:40:42 No:00002532[申告] |
| せっかくの怒りなく実益を求めての虐殺という面白そうなテーマなのに
文章が台無しにしてるもったいないスク リメイク版みたいなのがあればぜひ読んでみたい |