1245789 公園に一匹の実装石が捨てられた。 やむ負えぬ事情であったらしく、飼い主の表情は悲しそうだ。 朝、まだ眠っている実装石を段ボールに入れ、家から遠く離れた公園へ連れてきた。 連れてきた公園は人間の基準でも遠い。 移動は車だったが実装石は眠ったままでいたのでもしも途中で起きた時のために用意した実装ネムリスプレーは使う事がなかった。 実装フード、タオルやペットボトルなど野良生活に必要なものは揃えていた。 もっとも、それで過酷な野良生活を乗り切れる可能性は低い。 早朝の公園に段ボールを置くと、飼い主は公開しきった顔でつぶやいた。 「ごめん、本当に・・・俺のせいで・・・」 それから一時間ほどして、捨て実装グリーングリーンは目を覚ました。 目を開けてすぐに見える青空。 「デス?」 空の青さに驚くグリーングリ−ン、昨日自分は部屋で寝ていたはずなのに・・・。 空は青いが四方を囲む段ボールは普段自分が使っているものに間違いなかった。 一体何があったんだろうと辺りを見渡すと、治りかけてはいたが傷ついた自分の見て、昨日のことを思い出した。 夜、寝ぼけて部屋をさまよっているときに見た大きな『犬』の姿。 ブルリと体を震わせる。 グリーングリーンは考えないようと思ったが、段ボールの中。 それも見知らぬ公園となればおいそれと出るわけにもいあかなかった。 「デスゥ・・・とにかく今はご飯にするデス」 とにかく食事にすることにした、袋の中身を半分入れたような量なので遠慮なく食べる。 しかし食べ終わってしまえばほかにすることも無い。 結局段ボールの中であれこれ考え込むことになってしまった。 しばらくして公園の野良たちが活動を始める、食料を集めるためだ。 そこに捨てられた段ボールを見つける。 「デププ、コイツ捨てられてるデス」 「みじめデス、ニンゲンに捨てられたんデス」 「デスゥ・・・・・・・・・」 グリーングリーンは反応しなかった。 馬鹿にされて怒らなかったわけでは無いが、自分でも今の状況が分からなかったのだ。 「オマエ、何とか言ったらどうなんデス?・・・デデ!」 反応のないグリーングリ-ンにつまらなさそうにしていた野良たちだが、段ボールの中の実装フードを見て目の色を変えた。 「そいつはワタシの物デス!さっさとよこすデス!」 「デデ、食べ物がたくさんあるデッス〜ン」 おとなしかったグリーングリーンも食糧を奪われそうになっては流石に抵抗した。 「それは私のデス、とっちゃダメデス!」 ダンボールの中に入ろうとした野良に掴みかかったが。 「うるさいデス、とっととどっかいくデス」 あっさり殴り飛ばされた。 「このダンボールは私たちの物デ〜ス♪お前はさっさと消えろデス」 「デ!」 その先で他の野良に捕まり段ボールから引きずり出された。 引きずり出された先で他の野良が待ち構えていた。 「オマエはこれから私たちのドレイになるデス」 「ドレイには服も髪もいらんデス」 「デ、デエ!やめるデスはなすデス、禿裸は嫌デェェェェスゥゥゥゥゥギャアァァァァァァ!!」 三人がかりでグリーングリーンの服とか身をはぎ取った。 禿裸になったショックから、呆然とするグリーングリーン、見れば今まで自分が住んでいた段ボールは実装フードを取るために殺到した実装石たちによって破壊されていた。 さらに集まった野良たちは禿裸になったグリーングリーンに糞を塗り付けていく。 「デプププこれでお前はワタシタチのドレイデス!死ぬまで私たちのために働くがいいデス」 ショックで呆然としていたグリーングリーンも糞の匂いに驚いて抵抗した。 「何するデシャァァァァァァ!!ヤメルデシャァァァァァァァァァ!」 しかしあっさり殴られて抵抗できなくなる。 「ミジメナ捨て実装にはこっちの方がお似合いデス、感謝するデス」 「デスン・・・・・・デスンデスン」 涙を流しながら引きずられていくグリーングリーン。 引きずられ、数匹の糞にまみれた禿裸の実装石がいる穴の中に落とされた。 「デプププ・・・オマエは今日からここで私たちの糞を食べて暮らすデス、高貴な私たちの糞を食べて暮らせることを光栄に思うがいいデス!」 「デエェェェェン!デエェェェェン!」 みじめさのあまりグリーングリーンは泣いた。 そんなグリーングリーンの様子を、禿裸たちは虚ろな目で興味なさそうに見ていた。 穴の中で野良実装の糞を食べて暮らすことになった元飼い実装グリーングリーン。 最初の数日は飢えをこらえて上から降ってくる糞と罵倒や嘲笑にも耐えていたグリーングリーンだったが、空腹に耐えかねてとうとう食糞をすることになった。 泣きながら糞をすするグリーングリーンをあざ笑う野良実装たち。 「デプププ、アイツ等々糞を食ったデス、みじめデスゥ」 「テプププワタチの禿裸共!デチュ!」 成体だけでなく仔実装もやってきて糞を投げつけてくる。 ただひたすらに同族にバカにされ続ける境遇からか、まともな食糧にありつけず食糞を繰り返したためか。 周りにいる禿裸は皆元気がない、虚ろな目をしているか 「デーデー」 と、うめきながら穴をよじ登ろうとして上にいる野良に糞を塗りたくられたりしている。 時には石を投げつけられたりしていた。 「デプププ、禿裸デスゥ〜みじめデス〜ドレイにはお似合いデス〜デププ」 グリーングリーンは買い実装がいきなり捨てられ、禿裸にされ糞を食わされた割にはまだ元気だった。 このころグリーングリーンは夜、目がさえていることが多く、よく月を眺めていた。 「キレイデス、それになんだか不思議な感じデスゥ」 グリーングリーンは一晩中、月を見上げていた。 公園に捨てられて一週間、周りの状況にわずかな変化が現れた。 穴の中を覗いて禿裸を馬鹿にする野良の数が増えたのだ。 季節は秋、だが寒さは日増しに強くなって来ていた。 食糧が増え、過ごしやすくなる秋の季節に仔を生む親が増え、冬が近づくにつれて徐々に手に入る食糧も減リはじめて行った。 空腹になるものが増え、皆がいら立ち、ストレスのはけ口を求めていた。 もう一つの変化は内面の方だった。 今の自分の境遇に対して、ふつふつと怒りが込み上げてきたのだ。 糞を食わされ石を投げられるような生活では当然かもしれないが、普通の実装石ならこの状態では無気力になるか自分の境遇を嘆く。 「みじめな禿裸が今日もワタシタチの糞を食ってるデス、ザマミロデス」 「ワタチタチもろくに食べられないのに糞をお腹いっぱい食べられてよかったテチね、高貴なワタチはウンチなんか食べられないからお腹がすくテチュ」 「何でそんなこと言われなきゃいけないんデス!さっさとここたらだすデス!」 「デププ、禿裸が何を言ってもむなしいだけデス」 一週間過ぎたころにはまだ平和だったが、二週間を過ぎるころには寒さも本格的になり食糧の不足も深刻化し始めた。 何匹かの野良が穴に落とした禿裸を食料にしようと思うくらいに。 「おまえたち、ここから出たいデスゥ?出してやるからこっちにくるデス」 これを聞いて泣いてばかりいた一匹が、穴のふちにやってきた。 「本当デス?ここから出してくれるデス?」 ふちにどうした瞬間両手を捕まれ、引き上げられる。 「デエ、助かったデギャアアアアアアアア!」 そして腕をかじられた。 「やめるデズウゥゥゥゥゥ!助けるデズゥゥゥゥゥゥ!」 腕足頭、空腹から禿裸を食おうとやってきた三匹や、後から糞をするために来た実装石が次々食いついていく。 成体一匹を食った野良たちは満腹になった満足感からかそのまま帰っていく。 禿裸の悲鳴を聞いて、今度は飢えた他の実装石たちが集まってきた。 「さっさとお前もこっちにくるデス」 「食われるとわかっていて誰が行くかデス!」 言い返すグリーングリーン。 穴の中にいた他の禿裸は恐怖に震えていたり、呆然としたりしていた。 「うるさいデス、ドレイはおとなしく食われていればいいんデス!」 とはいえ穴の中にいる以上食おうとするなら自分から入っていくしかない。 他の実装石や中にいる禿裸自身がした糞の匂いから、野良でさえ躊躇うほどひどいにおいがしていた。 「さっさとこっちに来て食われるデス!」 「ドレイのくせに逆らうなデス、さっさといデス!」 言ってはみたが当然誰も来ない。 しばらく躊躇っていたが、一匹が空腹から穴の中に入った、それにつられて後二匹入ってくる。 穴の周りには他の野良もいたが、匂いに躊躇ったのと狭い穴の中で身動きが取れなくなることを警戒して中には入らなかった。 穴の中に入った三匹の野良実装は、二匹が呆然としていた一匹へ、もう一匹が近くにいたグリーングリーンへ。 呆然としていた禿裸はほとんど擬石が壊れかけていたのか、ほとんど反応もなく食われた。 「美味いデス美味いデス」 「こんなに食べたのは久しぶりデッス〜ン♪」 グリーングリーンに向かった方は、威嚇のためか叫んだ。 「デシャアアアアア!おとなしく死んで私に食われろデス!」 「ふざけるなデス、お前が死ねデス!」 牙をむき出しにして肩に食らいつく野良実装。 飼い実装や奴隷扱いの禿裸、戦闘経験のない野良はここで悲鳴を上げてろくに抵抗しないのだが、グリーングリーンは思い切り右手を野良の腹にたたき込んだ。 グリーングリーンの力は、本飼いで、戦闘経験がなく、食糞で生き延びてきたにしては強かった。 「デズゥ!」 思わず動きが止まる野良。 しかしグリーングリーンの動きは止まらなかった。 右、左、右、と間断なく殴り続けた。 人間にとっては大したことのない違いだったが、実装石の平均より力の強いグリーングリーンに連続で殴られ、思わず噛みつきをやめて離れる野良。 離れた瞬間顔面を殴って転倒させる。 転倒させた野良に馬乗りになり。 「デジャアアアアアア!ヤメルデスウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 ひたすら顔面を殴りつける。 頭をつぶして完全に息の根を止めると、あたりの様子を見まわした。 穴の中に入ってきたほかの二匹は反応の鈍い禿裸を殺して食っている最中である。 穴の外にいる野良たちは見ているだけで入ってくる様子がない。 頭をつぶした野良の服をはぎ取るとそれを着て、その死体を食べ始めた。 野良生活二週間目にしてようやく得たまともな食事で、グリーングリーンは大急ぎで手足を食べた。 残しておいた胴体を転がして穴の壁面へ運ぶと、それを踏み台にして外へ出た。 穴を見ると、新しくきた野良が穴の中へ入り、逃げ回る禿裸を食おうとしていた。 「デアアアアアア、タスケテデシャァァァァァァ!」 公園へ来て三週間がたった。 服は何とかなったが髪がないのは相変わらずで、そのことを他の野良にバカにされることもあったが、グリーングリーンはにらむだけで何もしなかった。 糞を塗り付けて奴隷にしようとしたもの、飢えて襲い掛かったものは公園のシミにした。 食糧は、公園から遠いところへ探し、あれば公園や道端の雑草を、なければ他の実装石を食った。 ダンボールの家も手に入れ、安定して生活できるようになった。 四週目が過ぎたあたりでグリーングリーンは夢を見た。月に向かって遠吠えをし、あたりを走り回るのだ。 水面に映った自分の姿は、大きな犬のようだった。 もしグリーングリーンの飼い主がこの場に居たら、それは犬ではなく狼なのだと教えてくれただろう。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 実装石グリーングリーンのもと飼い主、虹裏としあきがそれに出会ったのは高校生の時だった。 修学旅行先で星空を眺めているとき、突然大きな犬が襲い掛かってきたのだ。 気が付いた時には病院のベットの上だった。 他の誰も犬の姿を見たものはなく、悲鳴を聞いて駆け付けた時には、血を流して倒れている俺が倒れていたらしい。 sの時はただ運が悪かった、くらいにしか思わなかった、次の満月の日に妙な夢を見るまでは。 夢だと思った、3回目までは。 その日、夜遅くまで起きていると、突然夢の中にいるような奇妙な感覚に襲われた。 視点が下がり、四つん這いで移動し始めたのだからさっきまで起きていたのも忘れて夢なんだと思った。 窓から外に飛び出してあちこちを走り回り、遠吠えをした。 気が付けば朝、ベットの上に寝ていた。 手足についた奇妙な土は気になったけど。そんなこともある過渡期にしなかった。 しかしそれが毎回、決まって満月の日に起こるとなれば流石に気のせいとは言えない。 部屋に会ったパソコンで調べてみると、ライカンスロープというのが一番近そうだった。 獣の姿になり、満月の日に変身し、時には伝染することもあるという。 部屋に大きな鏡を置いて確認してみたが確かに犬、この姿をする者は狼人間というらしいから犬というより狼なのだろう。 自分の身に起こったことを認識するにつれ、強い不安に襲われた。 誰かに相談するわけにはいかないし、こんなことが知られれば下手をすれば身の破滅だ。 それ以来、俺はなるべく満月の夜には外に出るようにした、望遠鏡を買って天体観測に行くと言えば家族も納得してくれた。 おかげでごまかすのは楽になったが、不安は消えなかった。 高校を卒業すると遠方の大学へ通い、人付き合いもなるべく避けた。 万一自分の姿が見つかった時、知り合いだと一瞬でばれてしまいかねないからだ。 おかげで比較的さみしい大学居時代を送ることになり、社会人になってからもそれは変わらなかった。 その寂しさを紛らわせるため、実装石、というペットを飼ってみることにした。 人付き合いの乏しい一人暮らし、会社でも人付き合いを避けるとあっては流石に人恋しい。 実装リンガルを使えば会話もできるようだし、野良はともかくペットショップで売られているものは性格もよく飼いやすいらしい。 そういったわけで、ペットショップで実装石を買い、グリーングリーと名付けた。 二万円で、トイレの躾がされていて、食事の用意を自分でしてくれ、数日放置しても平気で、さらに会話ができる。 ペットとして考えればまさに理想的。 関係も良好で、1年ほど一緒だった。 満月の日、腕をかみちぎってしまうまでは。 実装石はリンガルを使えば話すことができる、部屋の中に大きな犬が入ったなど、誰かに知られれば妙な疑いをもたれかねない。 その可能性があるというだけで、捨てる理由には十分すぎる。 決して仲は悪くなかったし、グリーングリーンと名づけたこの実装石がほんの数年さみしさを紛らわせてくれたのは事実だ。 せめて少しでも長く生きられるよう、段ボールの中に残りの食糧をすべて入れ、車でかなり遠くの公園へ捨てることにした。 あれからひと月が経ち、ふと捨てた実装石のことを思い返した。 自分が噛まれてから、ちょうど一か月後の満月の日に変身したことを思い出したのだ。 「ァォーーーーーーン」 何処かで狼がほえるような声がした。
