昼下がり。 先日越してきたばかりの横濱の新居で、僕は緩やかな時間を過ごしていた。 隣には僕の小さな友人。 実装紅のルビイだ。 「ダワ」 ルビイは小さく欠伸をすると、僕の腕を求めて手を伸ばした。 「おやすみ」 僕はルビイを抱え上げ、鉄の函の中に座らせ、蓋を落とす。 それは函の外壁を滑るようにゆっくりと収まり、やがて止まった。 函をステージに乗せ、留め金でしっかり固定したあと、把手を回して突棒を下げる。 三度ほど回ったころ、函の中からくぐもった呻き声が漏れてきた。 僕はそこで一度手を止め、函の側面を棒で叩いた。 ガインと音が響く。 外ですらこれだけの音だ。中では相当響いていることだろう。 中から苦悶の声と弱弱しく壁を叩く音がする。 僕はまたほんの少しだけ把手を回す。 ……何度も繰り返すうちに、壁を叩く音が消え、呻き声だけになった。 ようやく体を動かすだけの隙間も消えたらしい。 ひとまずそのままにして、七輪に火を起こし薬缶で湯を沸かすとともに石を焼く。 沸いたら、函の上から湯を注ぐ。 蓋を底に湯が溜まるが、蓋はぴったりに設えてあるから、ルビイの方に湯が落ちることはない。 それから焼石を投げ入れる。 こうして湯が熱を介させることによって、不用意に焼いてしまうことを防ぐのだ。 しばらくあって、突棒がわずかに軋んだ。 ようやく熱が蓋を抜けたらしい。 そのうちかすかにぱきりと音がして、続いて再び中から壁を叩く音がし始めた。 どうやら熱に苛まされている間に耐え切れなくなって、ルビイのどこかが砕けたのだろう。 つっかえている部分がなくなれば、多少なりとも抗う隙間ができる。 再び把手に手をかけ、右手と左手を互い逆に握る。 みしりという感触を掌に感じながら、一寸一寸出来得る限り緩慢にその隙間を埋めてゆく。 ——あの人は紅茶が好きなのだ。 実装石は苦しめれば苦しめるほど美味しくなると云う。 ならば君も同じに違いない。 唯でさへ極上の紅茶と言われる実装紅のジュウスは、こうして恐怖と苦痛と絶望に晒すなら、更に風味を増すだろう。 ああ、愛しきルビイ。 僕の素敵で我儘な女神の為に。 苦しんで。 苦しんで苦しんで。 この上なく甘美な紅茶になっておくれ。 (fin) [あとがき] 実装石じゃないうえ、気分の悪い話とは存じますが、このところ投稿が無いようなので投稿してみました。 【過去スク】 【虐】【紅】 化粧 【あっさり虐紅】 風呂 【託】 奇跡の価値は 【託】 一部成功 【観察】 幸運の無駄遣い 【観察】 禍福は糾える縄の如し 【狂】 月下の詩 【託愛】 特上寿司 【謎】 幻のエメラルド(1) 【謎】 幻のエメラルド(2) (未完) 【託狂】 私の子供 【観察】 糞虫達(1) 【愛】 糞虫達(2) 【愛】 糞虫達(3) 【虐】 糞虫達(4) 【蒼/人虐】 危険な実験 【雛エ】 桃雛 【雛食】 桃雛末路 【虐】 温暖化対策
