タイトル:【観察】 スクに投下したネタをこちらにも
ファイル:良薬.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2689 レス数:0
初投稿日時:2012/05/26-02:59:09修正日時:2012/05/26-02:59:09
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良薬は口に甘し

予期せぬ病にかかり通院しだした春先の事。
病院帰りに公園で一休みしていると、なにやら木立の奥がデスデスと騒がしい。
別段、実装に何の敵意も関心も持たぬ私は、新緑を吹き抜けてくる風に頬を撫でられるまま、
しばし木漏れ日の中ベンチで缶ジュースを片手にまどろんでいた。

「……ん?」

風向きが変わったのか、不意に生臭い匂いが漂ってくる。
どうやら先程からの騒ぎは、餌の生ゴミを取り合って複数の実装が争っていたようだ。

「うへ! なんて臭いだ…よくあんなモノを喰えるな、奴等は…」

一度、冬だからと油断してキッチンに数日放置していたスープを口にした時の、
あの苦味と異臭を思い起こし、口端が歪む。
もし冬にこの病気にかかっていたら、今頃腹を下してとんでもない目にあっていただろう。

「待てよ。ひょっとして、奴等も…」

どうしてそんな事をしようと思ったのかよく分からない。
単なる暇つぶしだったのか、安っぽい同情心か、好奇心でか。
ともかく私は病院で貰ってきたばかりの真新しい錠剤を幾粒か取り出し、
同じく粉薬と一緒に飲みかけの缶ジュースへ放り込んでよくシェイクした。

「よし。こんなもんだろう」

その日から病院帰りに公園へ立ち寄り、実装に薬入りの缶ジュースを与えるのが習慣になった。
実装の方も毎度私が与える甘味を待ち望むようになって、公園に私が足を踏み入れると、
どこからともなく現れ何事かひとしきり騒いだ後、缶を抱えて木立の奥へ姿を消すという、
そんなたわいない交流の日々が続いた。

ところが初夏も間近なこの頃、どうにも実装達の様子がおかしいのだ。

「どうしたんだ、お前等? みんながみんな、妙に痩せコケてるじゃないか?」
「デ…デェェ…」

弱肉強食の実装世界で、弱い個体が喰うに困り餓死するのはよく耳にする話だが、
この公園の実装はどういう事か、見かける実装が全て痩せ細っていた。
何かの病気だろうか? だが実装の知識の乏しい私にはどうする事も出来ない。
それに病状も回復したし、通院も後は経過報告へ出向くだけなのだ。

「すまないな。お前達とも、お別れなんだよ…そうだ。私にはもう用もない薬だし、
 今日は選別代りにちょっと多目に入れておいてやろう」

手近で買い込んできたコンペイトウ、それに甘いお菓子などなど…
そして、交流の切っ掛けとなった甘い甘いジュースを幾本か、実装に与えてやる。
先刻までしょげていた実装だが、この大盤振る舞いで一気に興奮が昂ぶったのか、
我先にとお菓子やコンペイトウにダイブして食い散らかし出した。

「はは。それじゃあ達者でな。少しはマトモなものを喰えよ」

去りつつ、鞄から飲み残しの薬剤の入った袋を丸め、公園のゴミ箱へ放り込む。
味覚障害なんて珍しい病気にならなければ、実装なんて生き物と自分が関わるなど一切無かったと思うと、
この出会いも意外に楽しいものだった。

出会った頃とは様変わりした、暑い陽気を孕んだ風が一陣、吹き抜けていく。
もう私の心からは、完全に実装の姿は消えていた。


去りゆく彼は知らない。
近年の研究で、実装が生ゴミや糞を喰らうのは、生まれつき極度のビタミンやミネラル、
そして亜鉛不足により神経系の疾患や味蕾の異常をきたし、味覚消失等の味覚障害を引き起こしている為だ、
という興味深い報告がなされた事を。

つまり実装は味覚障害だからこそ、粗食でも生きていけるのだ。
飼い実装でもない過酷な状況で生き延びる事を科せられた野良実装が、
本能的、必然的に身につけた防衛行動なのだろうか、興味は尽きない。
引き続き、詳しい報告が待たれている。



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