「小さな光り」
『何だ・・・生みやがったのか』
傍らで親である実装石が、申し訳なさそうな顔をしている。
「デスゥ・・」
『実装石はリンゴ1匹でたくさんだ!』
『「」1匹だけって言う約束おぼえてるよな』
『うん・・父さん』
『でも・・生まれたのは、1匹だけだから、お願い父さん』
『僕が面倒を見て、父さんには迷惑を掛けないよ・・』
『お願いだから・・・』
「私もお願いするデス」
「生まれたばかりで、捨てたら死んじゃうデス」
「躾もするデス」
母実装は両目から、赤緑の涙を流して土下座をした。
まったく実装石なんぞ冗談じゃない、ぽんぽん子供を生みやがって。
犬や猫より手間が掛かる、しかしいきなり捨てるのも、大事な時期の「」には可哀相か。
よし、後でこっそり捨ててくるか・・
『まー、暫くの間だぞ』
『うちも実装石、2匹飼えるほど裕福じゃないんだけどな』
『うん分かったよ、お父さん』
「ありがとうデス、厳しく躾けて良い子にするデス」
「よかったデス、お前もお礼を言うデス」
「テ・・テチ・・」
仔実装は生まれたばかりで右も左も分からず、ただうろたえるばかりだった。
あれから1週間がたち、仔実装も親実装の元で、のびのびと暮らしている。
ご主人である、「」にも良くなつき、ミミと言う名前を付けてもらう。
仔実装は素直な仔だが、賢さは普通より少し劣っていた、
いつもご主人である「」の後を追いかけて回った。
『はははミミ、ほらボールを取って来い』
「テチ、テチ、テチ」
「取ったテチ、取ったテチ」」
『よーし偉いぞ、こっちへ来い』
テチテチとミミはボールを抱えて、としあきにボールを持ってくる。
としあきはミミを抱きかかえると、自分の膝の上において頭を撫でた。
「テチィ・・うれしいテチ」
横で見守る親実装も、安心した顔で眺めている。
「この仔は本当にご主人様が、大好きデス」
少し恥ずかしそうにミミは、うつむいた。
「テチ・・ママは意地悪テチ」
「ご主人様の勉強の時間デス」
「ミミ、こっちへ来るデス」
「・・・テチィ」
「ご主人様、おやすみデス」
仔実装は「」の方へ走って行き、おやすみの挨拶をした。
「また遊んで欲しいテチ」
『ああミミまた明日な』
『早くリンゴと一緒におやすみ』
「おやすみテチ」
仔実装はペコリと小さな頭を下げて、親実装の元へ走っていった。
「ママー、明日も遊ぶテチ」
「約束してくれたテチ」
「待ち遠しいテチ」
そんな幸せな日が続いたある日、ミミは家の庭で遊んでいた。
ミミが蟻を突付いて遊んでいると、背後からいきなり麻袋が被せられた。
麻袋に入れたのは父親だった、父親はいつかミミを捨ててしまおうと、
ミミが1匹だけになるのを待っていた。
父親はミミの入った麻袋を車に積むと、隣町の駅まで来た。
この駅は通勤時間以外は、あまり人が来ない小さな駅だった。
父親はスチール製の、年季が入った有料ロッカーを開くと、
ミミの入った麻袋を突っ込んだ。
その場で袋の口を開け、ミミを引っ張り出すと父親が告げた。
『すまんなミミ・・・お前を飼う訳には行かないんだ』
『誰か優しい飼い主に、拾って貰えよ』
『ここなら駅員が回ってくるから、すぐ開けてくれる』
話を聞いているミミは、何の事だか分からず、
目の前の父親に媚びてみた。
「テッチューン・・」
父親は何の反応もしなかったが、話を勝手に続けた。
『一応、水と餌は置いておく』
『達者でな・・・ミミ』
そう言うと父親はロッカーのドアを閉め、お金を入れて鍵をした。
ガッチャン!
いきなり捨てられたミミは、何で自分はここにいるのか、今だ理解出来ていない。
すぐにご主人様が迎えに来て、家に帰るんだと思っている。
家に帰る車中で、父親も少しは罪の意識があったが、どうせ実装石だ・・・それより。
家に帰ってからの事を考えながら、手に持ったロッカーの鍵を車から投げ捨てた。
家に帰るとリンゴと、「」がミミを捜していたが、父親は何も無かったように振舞った。
父親も聞かれたが、外にでも逃げたんだろうと適当に答えておいた。
暫くして「」もリンゴもミミをあきらめた、父親もその様子見てをほっとしている。
結局ミミは外で迷子になって帰れなくなったと、捜した者も結論付けてしまった。
ロッカーの鍵を閉められて、真っ暗な中ミミは眠っていた。
夢の中ではご主人様に甘え、傍らではママが微笑んでいた。
外が騒がしい?ミミは目を擦って起きた・・・暗くて狭い・・ここは一体・・
良く見ると周りの様子が確認できた、目が慣れたのと隙間からの明かりで、
暗くはあるが、少しは見える様になっていた。
麻袋はそのまま布団代わりになっていた、封の開いていない実装フードの入った箱と、
ペットボトルを利用した安価なペット用水飲み器が置いてある。
ミミは起き上がると、手探りでロッカーの中を見て回った。
奥に歩いて行くと、すぐに行き止まりだ・・・奥行きに比べて左右の壁は狭く、
依然住んでいた人間の家とは違い、周りを壁が圧迫してくる。
「ママどこテチ」
「ご主人様どこテチ・・・」
いつも起きるとママがいた・・・でも今日はいない。
真っ暗なロッカーで、ミミは心細くなってくる。
「ゴハンどこテチ」
「お腹へったテチ・・・」
ミミは誰もいない空間に話し掛けたが、しんと静まり返り何も返って来なかった。
誰もいない、ここにはミミが一人だけだ、
ミミは怖くなり、くるまって寝ていた麻袋に潜り込んだ。
麻袋の中でミミはなぜ、自分がここにいるのかを考えた。
昨日までママやご主人様と一緒にいた、いきなり暗くなったかと思うと、
ご主人様のパパがミミに話しかけてきた。
「・・・なんでテチ」
「ミミ、いい仔にしてたテチ」
でもご主人様のパパが何かを言っていた・・・・
これはミミに対する躾だ、ミミには分からない悪さをしたんでパパが怒ったんだ。
ここで良い仔にしていれば、迎えに来てくれる筈・・・
ミミは自分なりの結論を出して、迎えに来る時まで、良い仔にしていようと思った。
良い仔にしていれば、ご主人様のパパも許してくれる、
ママやご主人様も良く頑張ったねって、褒めてくれるに違いない。
「ミミ、頑張るテチ」
「良い仔になるテチ」
ミミは普段から母実装に、人間さんは良い仔が大好きだから、
いつもいい仔にしていなさいと、教えられてきた。
「ここは暗い・・・テチ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ンンン!!」
いきなり便意が襲ってきた、ミミは麻袋から飛び起きトイレを探した。
捜した所でロッカーの中にトイレがある筈が無い。
母実装は賢くないミミに、最低限の躾はきつく教えてきた。
糞を漏らそう物なら、容赦の無い折檻が待っていた。
何度も粗相をして、何度も殴られ漏らした糞を舐めさせられた。
その甲斐あってミミも、トイレの躾だけはちゃんと憶えた。
ロッカーの壁を叩き、麻袋をめくりトイレを必死に探した。
実装石の胃袋は肛門から直結されている為、人間のように長時間我慢が出来ない。
頭に糞をしたいと命令が来れば、人間にとってはギリギリのサインだ。
ミミは手で総排泄口を押さえ、顔に脂汗をたらし、口を閉じ頬を膨らませ、我慢をした
良い仔でいると言った矢先に、粗相は出来ない。
「ウンコ出そうテチ!」
「出ちゃう・・・テチィ」
ロッカーの奥に、捜していない所があるかも知れない。
ミミは慌てて奥の壁を探し回った・・・無い!どこにも・・・
漏らしたらママに殴られる、ご主人様にも悪い仔だと思われる。
悪い仔は迎えに来てくれない・・・
「ど・・どこテチ」
「トイレどこテチィ!」
「何で見つからないテチ」
ミミの頭は糞をしたいという実装石の本能と戦っていた。
やがて形勢は糞をしたい欲求側に、傾いて来る。
ミミはしゃがみこんで、トイレを手探りに捜したが我慢の限界に来ていた。
急に立ち上がったかと思うと、奇声を上げた。
「テッチャァァァア!」
「ウンコが・・・ウンコォォォ!」
「ウンコ出すテチィ」
「ブリブリしたいテチィ!」
ブリッ・・ブリッブバババッ!
結局ミミは本能に勝てなかった、パンツを履いたまま大量の糞をひり出した。
立ち尽くしてひりだされる糞は、ミミのパンツにこんもりと山を作った。
ブババ・・ビピィッ
「テチィィ〜」
「気持ち良いテチィ〜♪」
極限まで我慢した反動か、いつもの脱糞より余韻が長く響いた。
ホワンとした顔も、パンツに溜まった糞の感触がすぐに打ち消した。
歩くたびに糞が総排泄口や、足の付け根に纏わりつき。
グチャグチャと音を立てながら歩いた。
「やっちゃたテチ・・」
「・・・ママにぶたれるレチ」
ミミは少し考えた後、パンツを脱ぐ事にした。
パンツを脱ぐと一緒に糞が落ちて来る。
「気持ち悪いテチィ」
「パンツどうするテチ」
ミミは糞をパンツで集め、一番奥に置いて来た。
暗いから見られないかも・・・隠しておこう。
少しすーすーするが、糞まみれよりは良いだろう。
そしてまた麻袋に入り、お腹を減らして周りを見ていると、
突然、真っ暗になってしまう、今までも暗かったが、何も見えない完全な闇となった。
駅の電源が落とされたからだ、ここの駅は12時になると全ての電気が消され、
ミミの入っているロッカーは完全に、光が無くなる
ミミは完全な闇を経験した事が無いので、麻袋で震えていた。
手を出して見れば見える筈の手が見えない、自分がどう動いているのかも、確認できなかった。
「まっくらテチィィ」
「何も見えないテチ」
「お腹へったテチ」
駅の外で野良犬が吼えた、ミミはすぐそばにいるんじゃないかと、身を屈める。
暫くすると、野良犬の声どころか、一切の音が聴こえなくなってしまう。
「もう行ったテチか」
「何も聴こえないテチ」
「怖いテチ・・・怖いテチ」
「ミミに何か話しテチ」
完全な闇、音は自分の立てる音だけ、一人だけの自分、空腹、喉も渇いている、
糞を漏らしても誰も構ってくれない、麻袋だけが心のより所になっていた。
「すぐに迎えに来るテチ・・・」
「ご主人様・・・会いたいテチ」
麻袋に抱きつき、ウトウトとしていると、夢と現実が一緒になってしまう。
「ご主人様テチ・・・ミミを抱いてテチ」
「もう安心テチィ・・」
ミミは麻袋をご主人様だと思って、抱きしめていた。
ガヤガヤ・・・ガチャン!
ミミは音がして飛び起きた、あれから幸せの中で眠っていたが、現実に引き戻される。
音は朝の通勤客が、ロッカーを閉める音だった。
音がする、僅かだが明かりもある、昨日よりも慣れてきたので良く見える。
あの音はここを開けてくれる音だ、ミミはドキドキしながら待っていた。
来ない・・・・来ない・・・いつまで待っても誰も開けてくれない。
正座になって待っていたが、扉が開く気配が無い。
痺れを切らし、ロッカーの扉を叩いた・・・何の返事も無い。
何度も叩いて、呼びかける。
「テチィィィ」
「開けテチィ・・ドン!ドン!・・ここは嫌テチ」
「早く帰してぇぇぇ!」
ドン!ドン!ドン!
「良い仔になるテチィ」
ズルズルと扉に持たれかかり、泣いてみたが何の返事も無かった。
ふと横を見ると鍵穴になっている所から、小さな光りが漏れている。
小さな光りはドアの隙間より大きく、外の様子が覗けそうだ。
ミミは片目をつぶり、覗いてみる。
自分のロッカーより左側の、扉の取っ手が見える。
駅を行きかう通勤客が見えた。
「人間さんテチ・・」
「いっぱいいるテチ」
「ここで見てるテチ・・・ご主人様が来てくれるテチ」
その日からミミはいつも、覗き穴から外を見るようになった。
ご主人様や、ママが迎えに来てくれるかも知れない。
それに暗闇で麻袋に入って、じっとしているよりずっと面白い。
ロッカーの中とは違って、外は明るくて楽しそうだ。
ロッカーの暗闇から、明るく楽しい場所に自分も、いるような気がした。
小さな光りはミミにとって、一番大切な場所になった。
