『 親心 』 どこから迷い込んだのか曇りガラスの向こう、庭先で仔実装がテチテチ騒いでいる。 はて? 深々と雪が降りしきる最中にしては服に少し粉雪が付着しているだけだ。 寝床が雪の重みでツブれたか何かして転がり出たばかりなのだろうか? 脇を見ると半ば雪に埋もれかけた緑の何かが見える。既に冷たくなり紫色に変色した親実装だ。 「成る程。親が今まで懸命にその身で我が子を暖めていたのか…」 その母の深い愛情を目の当たりにし、不憫に思えて庭先に小さなカマクラを造ってやった。 「済まないな。ウチには猫がいてね。お前を飼ってはやれないんだよ」 此方の意図が伝わったとは思えないが、カチカチ歯を鳴らす仔実装が微笑んだように見えた。 「そうだ。そのままじゃ濡れて寒いだろう。せめてこれを…」 スキーウェアに吹き付ける防水スプレーを、満遍なく仔実装に吹きかけてやる。 「テヒャ…!? テヒ! テヘッ!」 「ゴメンゴメン。でもすぐに治まるさ。じゃあな」 正直火の気もないあの状況では明日の朝にはカマクラごと雪に埋もれ、 春先まで冷凍状態だろうな、と予想はしてはいた。 だが眠るように逝けるなら実装にしてはいい最期じゃないか? きっと親も喜んでくれるさ。 けれど次の日庭先を見てみると、どういう訳か仔実装はカマクラから転げだし、 まるで溺れたように大口を開け、玄関ドアを掻きむしりながら凍り付いていた。 「どうしてコイツは寒い外へ転がり出てきたんだろう…?」 ※防水スプレー使用の際は、注意書きを良くお読みになってご使用下さい。
