前作「再現を目指す:導入編」の続きになります。 先にそちらに目を通して頂ければと思います。 * * * * * * * * * * 再現を目指す:実験編 * * * * * * * * * * そこは閑静な住宅地の一画。 地図の場所は、その一画のとある小さな家屋を示していた。 その家屋はやや年代が経っている趣きを感じさせているが、 改築の気配が人為的に住まいを変化させているのが見て取れる。 特に玄関たる入口が正にそれであった。 「このテレカ突っ込めばいいのか?」 友人が不思議そうにカードの裏表を確認している。 通常、IDカード等ならばカードの中にチップが内臓されており、 その分カードに厚みが発生するのが常だ。 しかし僕らが受け取ったものは何処から見てもテレカのような薄さである。 そもそもテレカ自体あまりみられなくなっているのだが。 玄関たる入口の鍵部分は存在しておらず、代わりにやや高い位置にカードリーダーがある。 そのカードリーダー部分も、何故か縦に通す形ではなく、 明らかに公衆電話の様に奥に入れる様式だ。 少し詳しい人なら、簡単に複製できそうな印象がある。 「多分そうだと思うけど」 僕の返答に、友人は思いついたように何故か本物のテレカを取り出し、 「試してもいいか?」 と聞いてくる。 というか、何で本物持ってるんだ。 「試すのは構わないけど、それは君一人だけの時にしてね。 じゃあお先に」 「あ、うん」 父があっさり友人の悪戯を制し、カードをリーダーに通す。 カードは戻ってこないが、代わりにかちっと音がした。 扉を開け、入る父の後に続こうとすると、何故かピーと音が鳴る。 「どうやら一人ずつって意味みたいだね。順番に行こうか」 「うん」 僕は父が入った後にカードを入れた。 因みにその後友人は本当にテレカを入れたらしく、 「テレカ・・・返ってこなかった」 としょげていた。 何故入れたんだろうか。という突っ込みはする気にもならなかったが。 家屋の中は極々普通の様式である。 傍から見れば玄関の異常さが際立っているともいえる。 だが入って一番奥、窓のない室内に「それ」はあった。 「・・・地下室?」 下へ降りる階段だ。 部屋には父と、一人の女性が話をしていた。 「あれ。もう来たん?」 「久しぶりだね」 「久しぶりも何も、こないだ電話したばっかやろ? ちゅーか、おもろいもん思いついたもんだねぇ」 「思いついたのは息子だけどね」 「ああ、あの子? こんちは」 「こんにちは」 僕は独特の喋り方をする女性に挨拶をする。 「誰?」 「母の昔の仕事仲間の人だよ。一応この人も虐待派」 友人の質問に返答する。 とはいえここに集まるのは虐待派ばかりだと思うのだが。 「駆除寄りの虐待派やけどな。 後ろの子は? 見たとこ、面白半分虐待派って感じやけど」 「面白半分って・・・。いや、俺、こいつの友人です。よろしくお願いします」 あながち間違ってはいないので反論できないらしい。 「よろしゅ。下はもう出来とるで。 先、見させてもろたけどな、めっちゃ面白かったわ」 独特の喋りには関西の人かと思われる印象がなく、どちらかといえば柔らかい印象がある。 「・・・関西の人ですか?」 友人が気になったらしい。 「いや? 私関西ちゃうよ。あっちこっちに行ってたから方言うつっとるだけ。 まぁええから、見に行ってみ。面白いから」 「えーーーと・・・はい」 「んで、ちょっと話あるねんけど、ええ?」 僕に下へ促しながら、何故か父を呼びとめる。 「あ、あの件?」 「せや。実家行ったついでに済ませてきたけどな? アレどうやってやるん?」 「ああ、それなら・・・」 父と女性の会話を尻目に、僕らは下へと降りた。 「うっわ、すっげぇ!!」 友人が見るなり驚愕の声を漏らした。僕は逆に声をなくしていた。 そこには巨大な箱庭が出来ていた。 言い換えるならば、昔ながらの日本家屋での、屋敷内の中庭の印象である。 それも僕が提供した映像ほぼそっくりに再現されている。 唯一の違いは、人間の目線に合わせた高さに作られた事か。 まるで博物館等にあるオブジェのようである。 「ああ、来たね。こんにちは」 僕らに気付いた男性が声をかけてくる。僕らより少し年上といった印象だ。 「こんにちは。すみません、僕の悪戯に付き合って頂いて」 「いやいや。寧ろ感謝したいくらいだよ。 俺もアレ、やったことあるから結構詳しくてね。 懐かしくて話を聞いた瞬間名乗り出てしまったくらいだし。 しかも実装石でだろう? どうなるか楽しみじゃないか。 ま、とにかく、こっち来てくれ」 男性に促され、僕らは箱庭の隣の部屋に続く扉に案内される。 そこは箱庭とは一転した世界だった。 壁の一面のモニターが箱庭の各場所の映像を映し出している。 「俺の提案で、カメラは多少動かせるように設定してある。 今はテスト段階だが、もう使っても大丈夫だと思うよ。 あとは実装石を放り込んで見てみるだけだけど・・・」 「何か問題でもあるんですか?」 「まだ本格的なテストしていないんだ。奴らにこの箱庭の摂理がわかるんかなと。 で、俺の手持ちから賢い奴を数匹テストで連れてきたんで、 君らにデバック兼ねて見てもらおうと思って待ってたんだ。 あのマッドサイエンストから電話貰って、一足先に来ただけだけどね」 「テストって・・・。 アレ、つけてるんですよね?」 「無論。アレの最終テストはこいつらが受けたからな」 と、10センチほどの深さのあるタッパーを取り出した。 「まだ寝てるが、俺がきつく言い聞かせてるから摂理は覚えてる。 問題は他の連中が来た時の手本になるかどうかだけどな」 軽く笑って見せる。 「んじゃ、こいつら放り込むから、君らはモニターから自由に見てくれ。 ああ、因みにあの庭からこの部屋やあの部屋の周囲は見えない設計でね。 上は蓋が嵌め込まれてるから、一部からじゃないと中には手が出せないから注意して。 マジックミラーみたいなもんかな。 因みに箱庭周辺で声出しても大丈夫。気になったら近くに来ても大丈夫だよ。 叩いたりするのはダメだけど」 彼はそう言って、箱庭に向かう。 箱庭の上部のとある個所から蓋を開き、タッパーを開ける。 モニターにまだ寝ている指サイズの仔が寝かされるのが映しだされた。 男性が寝ている一匹にデコピンを打った。 『テチャッ!!』 衝撃に起きる。パンコンしない点、確かに賢そうだ。 『テチ・・・。起きるテチ』 モニターの部屋に音声が入った。 「すっげぇ。音声つきリンガルか」 友人が感嘆の声を上げる。 「はっきり聞こえる音声を拾ってるだけだけど。 数が増えたら、切るか一匹に焦点縛って翻訳したほうがいいかも」 男性がモニター室に戻り、椅子に座って言う。 『おはようテチ。ここがニンゲンママの話してたとこテチ?』 起こされた一匹が無理矢理起こされた一匹に問いかける。 『多分そうテチ。さぁ、頑張るテチ。ゴハン探すテチ』 『頭がふよふよするテチ』 『仕方ないテチ。それがないとワタチタチは戦えないテチ』 『取れたらどうなるテチ?』 『忘れたテチ? 死んじゃうテチ。この葉っぱはワタチタチのお石に繋がってるテチ』 『!! そうだったテチ・・・』 『さぁ行くテチ。ワタチタチはここで頑張るテチ』 お互いを励まし合うように、仔たちは周囲の探索を始める。 「すっげぇ、後ろ姿めちゃくちゃそっくりなんだけど!!」 モニターの映像に友人がゲラゲラ笑い転げている。 確かに僕自身、ここまでそっくりになるとは思いもしなかった。 『あったテチ! ここがおうちテチ』 一匹が違うモニターに映った。 「ほう。偽石の力って奴なんかな。思った以上に見つけるの早かったな」 そこは仔らにはおおきな石がくり抜かれた設置物のある場所だ。 そのすぐそこに、人工的な物体が”乗って”いた。 その人工的な物体は箱庭のケースからはみ出ており、そこが回収場所となっているようだ。 その丸い物体は箱庭の蓋だろう天井ギリギリの位置で設置され、 その物体から箱庭の外へ通じてマジックミラーらしきスペースが設けられている。 あのスペースで実験体の仔らが生活することになるのだろう。 だがその空間内には何もない。まっさらの水槽のようだった。 「さすがにあの回収地はそっくりには作れなかったんで、 それっぽいもんを作ってもらった。 見た目、どっからどう見ても緑のタコだけどな」 「確かに」 色まで揃えるとは思わなかった。 「因みに糞蟲対策で、あれの回収モードの時に獲物にくっついて行った奴は、 葉が投入口に引っ掛かってミンチになる仕掛けがしてある。 ま、あの葉っぱがある地点でそれなりの行動出来なきゃ、 普通に偽石食われていくんだがな」 「あの箱庭にも仕掛けしてあるんですか?」 「ああ、あの箱庭そのものが仕掛けになってるよ。行動によっても変わる設計らしい。 その辺りは詳しくないんで説明できないけど、糞蟲みたいに動かない奴は、 例え待機スペースに居たとしても仕掛けが発動するようになってるらしい」 「へぇー。すっげぇな。なんでそんな事ができるんだろうな?」 「さぁ? 聞いてもちんぷんかんぷんだったから何とも。 ひとつ分かる事は、あの植物が出す特定の電子を帯びた物質を利用してるみたいだよ」 「そういえばそんな事言ってました。特定の物質を応用したとかなんとか」 「多分それの事だと思うよ。聞いた話だと実装音叉にも関係してるらしいし、 実験派はやっぱ虐待派以上に何してるかわからないね」 彼はそういって笑って見せた。 「ところで、貴方がこの場所の提供者なんですか?」 「ん? いや、俺が提供したのはこの箱庭のデザインと観察様式だよ。 箱庭の裏設計と寄生植物担当はあの変人。 場所を提供してくれたのはまた違う人」 「おおお、獲物見っけたぞ!」 会話の途中で友人が興奮気味に呼び出してくる。 『テッチ、テッチ、テッチ、テッチ』 見れば、一匹がラムネを、残りでクッキーをせっせと運んでいる姿。 「その場で食うような事があれば、あの寄生植物が反応するのは理解しているみたいだな」 「おー、なんかあのタコまで運ぶってのも理解してんだな」 「例の映像見せながら説明したからな。 わざわざ音声思いっきり上げてわざとあっちを食わせたらいい反応したよ。 意味はわからんが音の調子は似ているんかもしれない」 「ってプレイしながら見せてたんですか!?」 「その方が確実に分かりやすいと思ってね。 他の連中が仔らを手放すの嫌がったが、ま、そんなの関係ないからね」 タコ(失礼)の元へ到着すれば、タコの回収モードが発動し、吸いこまれていく。 「あの吸引は掃除機みたいなもんだけど、威力は低め。 獲物の大きさに合わせて威力が変化するようにセンサーもついてるから、 吸いこまれた獲物が粉々になって食べやすくなるって訳」 「おおおおおおおおお。すっげええええええええ」 感心する友人を横目に、僕は気になった質問を投げかける。 「これら一連の作業を覚えるのにどれくらいかかりました?」 「うーん? まぁ、こいつら賢い奴らは2、3日ってとこだったね。 何で?」 「教える側になる仔らを少しでも多く確保できたほうが、よりらしくできると思うんです。 なので、こちらで理解力の高そうなのを先に教育できる環境を取りたいと思うんですけど」 「成程。じゃあ先にあの変人に分別してもらわないと」 と、携帯を取り出し、施設から仲介する形で連絡を取り始める。 「・・・ってわけ。うん、そう。よろしく。 間違っても蛆で遊んで失敗とかはしないでよ? ん? ああ、それは確認しとくよ。じゃあね」 携帯を切り、彼は僕に問いかける。 「何か一組親仔がいるみたいだけど、それはどうするのかって聞いてきたよ」 「あ、あいつはですね・・・」 * * * * * * * * * * 唐突な光に全員が一斉に悲鳴を上げた。 無理もない。さっきまでの薄暗闇の世界から一気に閃光に近い光は目を潰す。 「はーーい、仔ども、お目覚めかなぁ?」 光の向こうから声がする。 「これからお前らにはちょーーっと痛い目に遭ってもらうからねぇ。 我慢するんだよぉ?」 『テチャァァァァァァァァ!?』 さくっ。 一匹の仔がうつ伏せに固定され、服を捲りあげて背中からメスを入れられる。 偽石を探すセンサーを使わないのがこの男の特徴だ。 弄る場所は豪快に限定的に、且つ、死なない程度に。そして見えないように。 視覚刺激が死に至るケースも知っているためだ。 「テギャアアアアアアア!!!」 ぐりぐり 鉗子を使って開き、偽石を探すため内臓を念入りに弄られる。 「テチャアアアアア!! ジギュアアアアアアア!!」 カリカリカリ 見つかった偽石に何やら接着させられ、偽石が軽く削られる。 「チベベベベベベギュチチチチチ」 終了し、背中をテープで接着され終わる。 コロコロコロ 「チュ・・・・・チュアァァァァ」 強制的な身体改造に、改造を受けた仔らはとある光のケースへ転がされる。 放り投げたりしないのが優しさなのかもしれないが、どっちにしろ拷問だった。 改造を受けた仔がケースに転がされて数分後。 『痛い痛い痛い痛いテチュウゥゥゥゥゥゥ!!!!!!』 一番最初に改造を受けた仔を筆頭に、ケース内でイゴイゴともがき始める。 痛みは頭部からだ。どんなに手を伸ばそうと、短すぎる手は頭頂部には届かない。 ずりゅっ。 頭巾が盛り上がる。 直後。 ズボアァッ! 頭巾を突き抜けて一本の草が生えた。 「テ・・・・・テチ・・・・」 直後、そのまま気絶する。 ひくひくと辛うじて意識を持っている個体もいたが、 自分の身に何が起きているのか全く理解できずに放心している。 ケース内の光は寄生した植物を発芽させる装置だった。 急激な発芽で偽石へのダメージも懸念されたが、それは先のテスト仔らで実験済み。 男は黙々と作業を続ける。無論、テンションは低い。 「蛆ちゃん弄りたいなぁ・・・。蛆ちゃん虐めたいなぁ・・・」 根っからの蛆虐待中毒だったようだ。 ふと、捕獲用ケースの隅っこで大きな影に気付く。 「あれ? 何で成体がいるんだ?」 それは公園で対話し、仕事をさせるために回収した親仔だった。 「デ・・・デスゥ・・・」 親は仔らの惨状に、自分の仔はさせまいと自分の影に必死に押し込んでいた。 とはいえ、回収した仔の方が数は断然多いのだ。男は気にせず逃げ惑う仔を掴んでいく。 と、そこに内線のコールが入る。相手は場所に既に入っていた男性からだった。 「はいはい、賢い奴分別すればいいんだね? 了解。 ところで、成体が一匹いるんだけど、何に使うの、こいつ? うん、聞いといて。じゃねー」 受話器を置き、男は一度休憩する事にした。 捕獲ケースには震えている奴や威嚇する奴、様々だ。 糞蟲専用は先に改造済みのため、違う意味で身動きが出来ていない。 「ちょっと試すかなー」 糞蟲を数匹取り出し、装置を組み込んだケースに入れて違う机に移動する。 案の定、糞蟲爆発の反応と装置発動によってパンコンし、ぴくぴくと痙攣する。 「・・・・面白くないや」 そのままぽいっと元の光装置入りケースに放り込んだ。 * * * * * * * * * * あとがき。 年末に間に合うとか奇跡すぎた。 否。データ最初から作り直しだから記憶曖昧。 もう前のと同じような中身にはなかなかならないので諦めた。 続きは年明けになります。 恐らく、題材が何であるかは皆さん予想がついているかと思われます。 題材の詳細は次くらいで明らかになりますが、引っ張りすぎて申し訳ありません。 色々な方に見て頂いているようで、本当にありがとうございます。 このような文面に目を通して頂き、誠にありがとうございました。
