「フーンフフーンフーンフ〜〜ン♪」 鼻歌混じりにコンビニの駐輪場に自転車を止める。 「おっとっと…!」 サドルから降りようとしてバランスを崩した。危うく転ぶところだ。 うーん、だいぶ酔いが回っているなぁ。少々飲みすぎたか…。 倒れかけた自転車を直し、オレは日暮れのコンビニへ入店した。 「らっしゃいませ〜ぇ」 ひとりだけいた店員の気だるそうなアイサツを聞き流して店内を物色する。 とりあえず向かったのはビールコーナー。扉を開け、缶ビールを1本取り出す。 く〜、キンキンに冷えてやがる…! 初夏の夕闇のじんわりした空気の中、自転車 を漕いで火照った体に手の平からダイレクトに伝わってくる缶ビールの冷たさが堪 らない。 ビールを手にしたオレは続いてパック焼き鳥、スナック菓子などのツマミを腕に抱 いていく。 お、アイスコーナーにオレの好きなカップアイスが置いてあるじゃないか。コイツ も買っていこう。 いつもならそれなりに節制を心がけているオレだが今日は別だ。なぜなら今日は1 ヶ月我慢した特別な日、即ちバイトの給料日なのだ! しかも今夜は友人の奢りで晩飯代が浮いている。その分多少贅沢したって罰は当た るまい。 ひと通り欲しいものを抱え込んだオレは千鳥足でレジに向かい、ついでに6個入り の唐揚げをひとつ注文して清算を待った。 オレは今、友人宅での飲みの席の帰りである。 アパートに下宿しているオレとは違い、友人はメイデン社で実装石の研究をしてい る兄の家に居候中だ。もっともその兄さんは独身でしかもほとんど家に帰らず社に 泊り込んでいるため実質一人暮らしと変わらないらしい。 友人曰く留守を預かっている、のだそうだ。 そして時々オレと友人はその家でゲームをしたり雑談したりしながら酒を飲みあう ようなことをしていた。 ツマミはコンビニで買うこともあるが大抵は友人が自分で作ってしまうことが多い。 その方が安上がりだしオレと違ってしっかりと自炊をする友人は料理の腕もなかな かのものだ。 特に今回は珍しい高級食材が手に入ったのでご馳走したいと誘われたため、是も非 もなく応じて今に至った次第である。 「それにしても美味かったなぁ」 「…?」 購入した商品を店員が袋詰めするのを待つ間に思わずボソリと呟いてしまった。 一瞬店員が怪訝そうな顔をしたが独り言とわかるとすぐに関心をなくしたらしく、 再び袋詰めに戻る。 ちゃんと冷たいものとそうでないものを二つの袋に分けているな。チャラそうな外 見の割に気が利く店員だ。 「ありがとうございました〜」 店員の言葉を背で聞きながら俺は店を出て自転車へ戻った。 左右のハンドルにビール、アイス、焼き鳥(加熱前)の入った袋と唐揚げ、スナック 菓子の入った袋とを掛ける。 「…美味かったなぁ…」 夜空を見上げながらまたしても口から漏れる言葉。 友人宅で出された高級食材、それは1匹の仔実装だった。 確かに近年食用の実装肉はその辺のスーパーでも扱っているほど身近なものになり つつある。 だがまだまだ世間での認知度はそれほど高くなく、オレにとっても奇食家の珍味と いった位置付けだった。 しかし「すごく美味しいから試しに食べてみて欲しい」という友人の頼みを本日の 酒代奢りと引き換えに了承し、出された『高級食用仔実装の姿焼き』なる料理をひ と口齧った瞬間にオレの中でその認識は音を立てて崩壊することになった。 仔実装の肉とは思えないほど弾力のある砂肝のような歯応え。 それをひと噛みする度に何処にそんな量が詰まっていたのかと思うほどの濃厚な肉 汁が溢れ出してくる。タレのみのシンプルな味付けがその旨みをより引き立ててい た。 そして絶え間なく口内に広がる肉汁の香りは直接鼻腔を刺激するかのように強烈だ。 鼻いっぱいに広がる香ばしい匂いが否応無しに次のひと噛みを求めさせる。 ギョリンギョリンとアゴから骨を伝って耳に響く咀嚼音がまた心地良い。 舌、鼻、耳。食を楽しむ感覚の全てが満たされ、飲み込むのがもったいないと思っ てしまうほどだった。 これはあくまで特殊な方法で育てられた仔実装だからだと友人は言っていたがあの 実装石が育て方ひとつでこうも変わるというのだから驚きである。 ますます実装石のデタラメさと奥深さを知った気分だった。 「さてと…、む?」 用も済んだところで帰ろうとしたオレだが不意に感じた尿意に自転車に跨るのを止 める。 そういえばずいぶん飲んだが出しちゃいないな…。 ついでだ、トイレも借りていこう。 そう思ったオレは買った商品をそのままに再び店内へと引き返した。 ————————————————————————————————————— キキー… 「とうちゃーく」 ふらつきながらアパートへ帰ってきたオレは駐輪場に自転車を止め、ハンドルに掛 けていたコンビニ袋を手に取った。 「・・・あれ?」 買ったものはビールにアイス、焼き鳥…だけだったか? なんか足りないような…。もうひと袋分何か買っていた気がするんだが…。 だがいよいよ本格的に酔いの回ってきた頭はぼんやりと霞み、まともに記憶を辿れ るような状態ではなかった。 「まあいいか」 気のせいだと判断したオレは口笛を吹きながら階段を上がって2階の自室へと入る。 「たっだいま〜♪」 玄関にてサンダルを脱ぎ捨てながら声を掛けたが、いつもなら即返ってくる2匹の 飼い実装の返事が今回はない。 「ん〜?」 「テハッ テハッ テハッ」 「レ… レ… ヒッ…」 部屋の隅に置いたケージの中を覗いてみれば、我が家の仔マラ実装パンチョがその コンドーム代わりに連れてきた親指実装のノパン相手に腰を打ち付けている真っ最 中だった。 「おやおや、お盛んですなー」 コンビニ袋をキッチンの流し台の上に置いたオレは戸棚の中から500mlのペッ トボトルを取り出す。 ペットボトルの中身は薄めた液状ドドンパだ。 パンチョの出した精液を戻さないようノパンには排泄行為を押さえ込む裏ドドンパ と嘔吐を抑える裏ゲロリを常用させている。 これによってノパンの体内に出された精液は漏れることがなくなり、部屋は汚れな いという算段だが同時にノパンは普通の排泄すら出来ない状態だ。 そのため1日1回、晩の餌の前にドドンパで糞抜きをするのが日課となっている。 毎回々々原液を薄めて作るのが面倒だったので今はこうしてペットボトル1本分ま とめて作り置きするようにしていた。 「テハッ テハッ テハッ テッチュゥゥゥゥゥン!!」 「レヴォァァァァッ!!」 ちょうどスポイトで適量のドドンパを吸い上げたのと同時にパンチョが雄叫びと共 に果てた。 その瞬間に糞袋内に大量の精液を流し込まれたノパンの体がピンポン玉の様に膨れ 上がる。 「テハァァァ…」 ヌポッとノパンの総排泄口からマラを抜くパンチョ。 ボール状になったノパンを転がし、自身もスッキリした顔で背後に倒れこむとその まま穏やかな寝息を立て始める。 いきり立っていたマラは見る間に縮んでいき、米粒大の小さな突起となってパンチ ョの股間に収まった。 「終わったか。ちょうどいいや。 糞抜きと精液抜きが一緒に出来て今日は一石二 鳥だな」 オレは膨らんだ体にほとんど埋もれた手足をイゴイゴと動かしているノパンを摘ん でトイレに行き、便器の上でドドンパを飲ませた。 ブリュリュリュという不快な音と共に大量の精液と1日分の糞、少々の血が混じっ たものが便器内に流れていく。 「レヒィィ…」 パンチョに襲われてから今まで続いただろう苦痛からようやく解放されてノパンは ぐったりとうな垂れて意識を失った。 部屋に戻り、ノパンとパンチョをケージ内のハウスへ寝かせると次に実装フードを 取り出して空になっていた餌皿へ流し込む。 今夜の晩飯だ。そのうち起きたら食べるだろう。 戸棚にドドンパのボトルと実装フードを戻したオレは流し台の上に放置していたコ ンビニ袋を手に取った。 「おっと、いけないいけない。アイスが溶けちゃうぜ」 袋に手を突っ込み、手探りで取り出したカップアイスを冷凍庫へ入れる。 続いて電子レンジの扉を開け、冷えている焼き鳥をパックごと入れて加熱ボタンを 押した。3分後にはホッカホカの焼き鳥が出来上がるだろう。 最後に残った缶ビールのプルタブを起こしながらオレは部屋のテーブルの前に腰を 下ろす。 ぐいっとあおりながらテレビをつけ、適当なバラエティに合わせた。 後は焼き鳥がチンできるのを待つだけだ。そいつを肴に1杯飲んだらシャワーでも 浴びてアイス食って寝よう。 だがそう思っていたオレの視界が突然急激に霞み始めた。 「お…? おお…?」 さらに霞むのは視界だけに留まらず意識までもがあっと言う間に混濁してフラフラ と体が揺れる。いや、その揺れる感覚すらほとんど消えていた。 ヤバイ…、飲み過ぎた…。 辛うじて残った思考力でそう思い至る。 もともとそんなに酒に強いわけでもなく、飲むといっても普段は精々ビールやチュ ーハイを2、3本程度に留めていたオレだが、今日の飲みの席では高級食用仔実装 のあまりの美味さについつい酒が進みいつも以上に缶を開けてしまっていた。 自宅に帰って一息入れたことで気が緩み、酔いが一気に回ってきたようだ。 ぼんやりとした頭でなんとか考えることが出来たのはそこまでだった。 完全に意識が暗転したオレはそのままテーブルに突っ伏し、ちょうど加熱が完了し たレンジのアラームを聞きながら深い眠りの中に落ちていった。 【託児の果てに】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 夕暮れのコンビニ。 その軒先に並んだゴミ箱の影に1匹の成体実装石がいた。 時折鼻の穴からスピー…という音を立てながらガラス球のような無機質な目でコン ビニに出入りする人間の様子を慎重に眺めている。 そしてその足元では5cmほどの親指実装が3匹、成体と同じように道行く人々の 様子を眺めていた。 この4匹は近くの公園に住む親仔である。 仔を連れた野良実装が人間の領域であるコンビニまでやってくる理由は知れている。 多分に漏れずこの親実装もコンビニ客への託児を狙っていた。 去年の夏を仔実装として過ごし、地獄の様な暑さと渇きに苦しめられながらどうに か生き延びた経験を持つ親実装は今年は仔をダシに飼い実装となり、悠々自適な生 活を送ろうと画策しているのだ。 思考自体はよくある糞蟲のそれだが、この親実装は有象無象の野良実装の中では比 較的賢い…、いやズル賢いと言うべき知能を持っていた。 連れている3匹の親指実装は言わば鉄砲玉である。 体格が小さくて軽い親指実装は非力な実装石でも投げ易く、人間の持つコンビニ袋 の狭い隙間を狙うにはうってつけだった。 託児の失敗理由のほとんどが投擲ミスによる自爆であることをこの親実装は知って いたのである。 そして無事に託児が成功したら臭いを追い、巣に残してきた本命の仔実装らを連れ て押し掛ける算段でいた。 もっとも投げ込みが成功したところで相手が飼ってくれるかわからない。それどこ ろか虐待派かも知れないというところまで考えが及ばないのが所詮は実装石の限界 とも言えた。 ともかく、そんな理由で先程から様子を窺い続けているのだがそこは実装石。 本石はうまく隠れているつもりでも傍からは丸見えである。 故に入店前にその姿を確認した客は買い物後、しっかりと袋口を閉じて出てくるた め親実装は親指を投げ入れるチャンスすら見出せないでいた。 そうこうしているうちにすっかり日も暮れてしまい、親指達もダレて諦めムードが 漂う中、フラフラと自転車を漕ぎながらひとりの青年がやってきた。 赤い顔をした青年は危うく転びそうになりながらも自転車から降り、ゴミ箱の影か ら半身を覗かせている実装親仔に気付くことなくコンビニへ入店する。 やがて両手にひとつずつコンビニ袋を提げて店から出て来た青年は自転車の左右の ハンドルに袋を吊るすと、一旦はサドルに跨るような仕草を見せたがふと何か思い たったかのように再び店内へと戻っていった。 自転車にふたつのコンビニ袋をぶら下げたまま…。 「チャ、チャンスデス!」 ぶら下がったまま動かないコンビニ袋。口も大きく開いている。 高さこそあるものの人が持ってユラユラ揺れる袋の小さな口を狙うのに比べればず っと容易い状況だ。 これならまず外すことはない。どうぞ託児してくださいと言っているようなもので ある。 親実装は親指達を連れて素早く自転車の下に駆け寄った。 「いいデス? ニンゲンのおうちに着いたらいっぱいオアイソしておくデス! 教 えたとおりにカワイイお歌と踊りでニンゲンをメロメロにするデース!」 「わかったレチ! カワイイワタチにかかればニンゲンなんてイチコロレチュ☆」 「今日からカイジッソウレチィ♪ ウマウマゴハン食べほうだいレチ!」 「キレイなお服をたくさん貢がせるレッチュン!」 各々好き勝手な妄想を膨らませる実装親仔。 だが青年がいつ戻ってくるかわからないのだからゆっくりしている暇はない。 親実装はさっそく親指の1匹を持ち上げると狙いを定め、ポイッと放り投げた。 「レチャッ!」 一瞬の浮遊の後、最初の親指実装は吸い込まれるようにコンビニ袋の中に消える。 「レッチューン☆ ヒエヒエでキモチイイレチィ♪」 親指が放り込まれたのはビール、焼き鳥、アイスなど冷たい物の入っている袋だ。 1匹目が成功した親実装は続けて2匹目もシュートする。 これまた上手い具合に袋に入れることが出来たが、ここでアクシデントが起きた。 2匹目が入った際の振動で袋の口が狭まってしまったのだ。 「デ… だったらこっちデス!」 「いやレチ! ワタチもあっちがいいレチィ!」 先に入れられ、冷たさにハシャぐ2匹の姉妹の声に自分もそっちへ入りたいと騒ぐ 3匹目の駄々を無視して親実装はもう片方の袋を狙う。 少し考えてみれば1匹目が成功した時点で当初の目的は達成されていることになる のだが、そこに気付かない親実装は今度は唐揚げとスナック菓子の入った袋を目掛 けて親指実装を投げた。 「レヒャッ!?」 「デッ…!!」 ところが先の2匹と違い、3匹目の親指は親実装の手の中で駄々をこねてイゴイゴ と蠢いていたためリリースポイントが僅かにズレてしまっていたのだ。 その結果、宙を舞った親指は目標である袋口まで届かず袋の側面へと突っ込むこと になった。 こうなってしまえば後はアスファルトの地面へ落下して潰れるのを待つだけである。 ガサガサッ ドサッ ところが偶然にもハンドルの縁ギリギリに掛かっていたコンビニ袋が親指の衝突の 衝撃で外れ、親指を包み込むように一緒に落下した。 さらにスナック菓子の袋がクッションとなったおかげで親指は奇跡的に無傷での生 還を果たしたのだった。 「レヒィ… なにやってるレチ! もう少しで死ぬとこだったレチィ!」 「う、うるさいデス! そもそもお前が暴れるからいけないんデス!」 お互いに責任を擦り合いながらも再び親実装は親指を掴み上げる。 失敗はしたが生きているのなら改めて最初の袋に入れ込むつもりだった。 「デ…?」 だがふと親実装は動きを止め、ピスピスと鼻を鳴らす。 落っこちたコンビニ袋。その中に入っていた唐揚げの匂いを嗅ぎ取ったのだ。 袋から漂ってくる香ばしい香りに親実装と親指の口からヨダレが溢れ出す。 この時、親実装の頭はこれまでの実生最速で回転していた。 目の前に落ちているニンゲンの食べ物。それも生ゴミや残飯ではない、調理したて のホカホカだ。 匂いからすると肉だろう。もしかしたらこれが本能で名前だけは知っている『ステ ーキ』なのかもしれない。 しかもよくよく考えれば既に2匹も託児に成功している。後は臭いを追うだけなの だからわざわざ3匹目を投入する必要はないのだ。 ならば貴重なニンゲンの食べ物が手に入るチャンスをむざむざ見逃す手はない。 これを持ち帰ってゆっくり食べた後で悠々とニンゲンの家を目指せばいい。 実装石らしからぬ素早さで損得を計算した親実装は足元に落ちているコンビニ袋を 拾い上げると親指を抱いたままそそくさとその場を立ち去った。 その直後にコンビニの自動ドアが開き、すっきりした顔で先程の青年が戻ってきた。 青年は袋がひとつ減ったことにも気付かず、自転車に跨るとフラフラとペダルを漕 ぎながらコンビニを後にしたのだった。 ————————————————————————————————————— 揺れるコンビニ袋の中、2匹の親指実装は焼き鳥のパックの上で寝そべっていた。 日に日に蒸し暑くなっていく気温に辟易していた親指達にとってひんやりと冷たい 袋の中は実に快適である。 思わずこのまま眠ってしまいそうになったが、ここで片方の親指があることに気が 付いた。 「そうレチ。ニンゲンのふくろの中には食べ物があるはずレチ!」 「レ…!? そのとおりレチ! ウマウマがいっぱい入ってるはずレチィ!」 色めき立つ親指姉妹。 無論人間の手提げ袋の中身が必ずしも食料であるとは限らない。 しかし大半の実装石は人間の持つ袋の中身と言えば食べ物であると思い込んでいる。 そのため託児された袋の中身が食料でなかった場合、後で託児に気が付いた人間に 対して逆ギレを起こし、より深く怒りを買うのが常だった。 だが今回は親指達の思い込みも正解である。 今彼女らのいる袋の中身はアイスと焼き鳥、そして缶ビールだ。 完全にパックされている上に冷えているので匂いがあまり漏れず、親指達も気付い ていなかった。 さっそく食べ物らしきものを探す2匹。 とりあえずビール缶の周りをグルリと回ってみたがどこにも開けられそうな場所が 見あたらない。 試しに叩いてみたものの、脆い親指実装には柔らかいアルミ缶も鋼鉄のドラム缶と 変わらない強度だ。ほんの2,3発で手を傷めるのが先だった。 早々に缶を諦めた2匹はそれよりはまだ柔らかそうなアイスと焼き鳥の包みにそれ ぞれ取り掛かる。 両手で引っ張ったり噛み付いたりしながらアイスの紙蓋と焼き鳥のラップをどうに か破こうとするも非力な親指実装の力ではなかなかままならない。 冷たい袋の中で汗だくになりながら踏ん張ること数分。一向に破れない包みにいよ いよ2匹が癇癪を起こしそうになったその時… ドスン 「「レチャッ!?」」 揺れるだけだった袋に突然衝撃が走る。 それは帰宅した青年がキッチンの流し台に袋を置いた際の振動だった。 そしてその衝撃で今まで立っていたビールの缶が倒れこんでくる。 「レヒャァッ!!」 焼き鳥の上にいた親指は危うく押し潰されるところだったがギリギリで逸れた缶は 焼き鳥の串の柄を直撃した。 その圧力で反対側から押し出されるように串の先端がラップを突き破って飛び出す。 さらに飛び出した串はアイスの紙蓋を引っかき、小さな裂け目を作った。 「「レ…? レッチューン☆」」 ラップの穴と蓋の裂け目から漂いだした匂いに有頂天になる親指2匹。 さっそくそれぞれの穴に飛びつき全力で拡張を始めた。 先程はまるでビクともしなかったラップと紙蓋だが、何物も一ヶ所傷付けば案外脆 いもので今度は少しずつ穴が広がっていく。 そうしてようやく自身が通れるだけの穴を開けることの出来た親指達は口中からヨ ダレを垂らしながら中に飛び込んだ。 「「ウマウマレッチュン♪ ウマウマレッチュン♪」」 アイスのカップに飛び込んだ親指はその表面をベロベロと舐め回し、生涯初の甘味 に夢中になった。 これまで親実装が人間のお菓子や残飯の果物など甘そうなものを持って帰ってきた ことも度々あったが、それらは全て親実装自身か姉の仔実装達が独占してしまい親 指達にまで回ってくることはなかったのだ。 この世にこんな甘くて美味しいものがあるなんて知らなかった…。バニラの海に溺 れるように親指実装は涙すら流しながら一心不乱にアイスを舐め続けた。 焼き鳥のパックに潜り込んだ親指は甘辛い味付けのタレを啜り、柔らかい鳥皮を歯 のない口で必死に咀嚼していた。 今まで木の実や小さな虫、腐りかけた残飯のさらに余り物くらいしか食べさせて貰 えなかった親指にとって濃い味付けの焼き鳥は味覚が壊れるほどに強烈だ。 ラップに圧迫されてほとんど身動きが取れないがそんなことは気にもならない。 感激からプリプリとパンツを膨らませながら親指は無我夢中でタレを飲み、肉をし ゃぶり続けた。 一方、親指達の混入に気付かないまま帰宅した青年も家で飼っている2匹の実装石 の世話を終え、しばらく放置していたコンビニ袋に手を伸ばしたところだった。 袋を手にした青年は中からアイスを取り出して冷凍庫にしまう。 さらに焼き鳥のパックも取り出して電子レンジに入れ、加熱ボタンを押すと最後に 残ったビールを持ってその場を離れていった。 この時、彼が素面であればアイスの紙蓋に入った亀裂や焼き鳥のパックの中で蠢い ている緑のナマモノに気が付いたであろう。 しかし正体を無くすほど泥酔していた青年はその小さな変化を見落としてしまった。 直前に飼い実装の糞の世話をしていて実装臭に鈍感になっていたことも原因に挙げ られる。 あるいは彼の飼っている仔実装と親指実装なら同属の臭いや声に反応できたかもし れない。 だが彼女達もまた、片方は快楽から、片方は苦痛から意識を手放した状態であった。 さらに酔い潰れた青年もそのまま居間でテーブルに突っ伏して寝入ってしまう。 しばらくの後、静かになった部屋にレンジの加熱完了アラームだけが小さく鳴り響 いた。 ————————————————————————————————————— 「レチ…?」 夢中で焼き鳥に舌鼓を打っていた親指はふと感じた痒みに何気なく顔を擦る。 その痒みが治まるよりも先に今度は尻にも同じ痒みを感じて指のない手でポリポリ と掻いた。 「レヒィッ!?」 だが痒みは一向に治まらず、むしろ全身に広がっていく。 堪らず焼き鳥のパックから這い出した直後、親指の体をかつて経験したことのない 凄まじい痒みが襲った。 「チュアアアアッ!! かゆいレチ! かゆいレチィィィッ!!」 頭の天辺から足の先まで何万という小虫が蠢いているような痒みに悶絶する親指。 だが次の瞬間、全身に感じていた痒みがそのまま激しい痛みへと変化した。 「レヂィィィ!! ヂュァァァ!!」 突如発生した全身を焼くような激痛に親指はその場に倒れ込んで泣き叫ぶ。 その流した涙が頬を伝いながら蒸気を上げた。 火や炎こそ見えないものの、比喩ではなく実際に今親指の体は焼かれているのだ。 レンジの中を飛び交うマイクロ波によって体中の水分を内側から熱せられることで。 「レギュィィィィ…!!」 奥まで熱が通るよう弱設定で稼動しているレンジにジワジワと親指の体が焦がされ ていく。 すでに全身の皮膚は爛れ、その至るところで水泡が浮かび割れていった。 パチュッ パチュン 大きく見開かれていた左右の眼球が破裂し、空っぽになった眼科から勢いよく湯気 が立ち昇る。 体中の血液が沸騰し、焦げた皮膚の下でゴポゴポと音を立てていた。 さらにまるで餅か風船のように親指の腹が見る見る大きく盛り上がり始める。 体内で沸騰した糞の圧力で糞袋が大きく膨らみ出したのだ。 そして… 「…ヒュィ…」 ボチュッッ 最後に出した悲鳴とも空気漏れとも取れない音と共に親指の体は爆ぜて四散した。 飛び散った血肉でガラス製の覗き窓が曇る。 ピピピ… ピピピ… ピピピ… それとほぼ同時にタイマーの切れたレンジが加熱終了のアラームを鳴らすも、惨劇 の場となったその扉が開かれるのはもう少し後になってからのことだった。 ————————————————————————————————————— 「レップゥ〜ン」 半溶けのアイスの上に大の字で寝そべりながら親指は至福の溜息をつく。 家族の中でも立場の弱い親指実装は親実装の取って来た餌のお残りを食べる姉仔実 装のさらにお残りしか分けて貰えない。 それすらも3匹の親指姉妹と末娘の蛆実装とで分けてきたのだ。 甘いものを食べたのも初めてだがそれ以前に満腹を味わうのが初めての経験だった。 満足気に下品なゲップを漏らし、大きく膨らんだ腹をポフポフと叩く。 「レチュ…」 不意にムクリと起き上がる親指。 唐突にパンツを下ろすとその場で尻を突き出し力み始める。 ブリュリュリュリュリュリュ…… 白いバニラの上に放出される濃緑の糞。 アイスの冷気を受けていつも以上にホカホカと湯気を上げる。 糞袋しか消化器官を持たない実装石は鳥類と同じく基本的に食い溜めが出来ない。 成体にもなれば糞袋自体の肥大化に伴いスペースに余裕ができて多少の我慢も利く のだが、まだ小さな仔実装や親指実装ではそうもいかない。 食ったら出るのである。 「レチュゥゥゥン☆」 排泄の快感から恍惚の表情を浮かべる親指。 しかし排泄を終え、パンツを穿き直すと途端に顔をしかめる。 溶けたアイスでベチャベチャになったパンツの穿き心地が悪かったのだ。 気持ち悪いのはパンツだけではない。服も頭巾も前後の髪もベタベタと肌に貼り付 いてくる。 無我夢中で食べ続けていた時には気にならなかったが、満足した今はその不快感を 強く感じていた。 ニンゲンの家に着いたらまず温かいオフロに入り、キレイで気持ちのいい服を用意 させよう。 そう思いながら親指はゴソゴソと蓋紙の穴を通ってアイスのカップから外に出た。 「レ…?」 だが目の前にはカップに潜り込む前にいたコンビニ袋の中とはまるで違う景色が広 がっていた。 除菌用ブルーライトのぼんやりとした光に照らされた薄暗い冷凍庫。 凍り付いた結露が鈍く輝いている。 「レェェェ… ここはどこレチィ?」 キョロキョロと周りを見渡すも四方上下の六面全てが白い壁に囲まれていた。 今自分が立っているアイスのカップの他に2,3個の箱が置かれただけの狭くて殺 風景な空間だ。 「さ、さむいレチィ!」 親指は白い息を吐きながら自分の体を抱きしめてガタガタと震えた。 今年の春に生まれ、まだ冬も知らない親指。その体を身を切るような氷点下の冷気 が襲う。 ジッとしていることに耐えられなくなった親指はこの場から逃げ出そうとアイスの カップから降りようとした。 冷凍庫の中にいる以上どこに行こうと変わらないのだがそんなことは知る由もない。 短い手足を懸命に使って自身の身長にも等しいカップの縁からどうにかぶら下がる。 まだ地面に足は届かないがこの高さなら怪我をすることはない。 両手を離し着地する親指。 「レッ!? チベッ…!」 だが地面に足が付いた瞬間、ツルリと滑った親指は後頭部を強かに打ちつけた。 アイスが置かれていたのは氷の張った製氷機の上だったのだ。 「チュィィィ… レヂッ!」 痛む後頭部に手を回しながら起き上がろうとした親指はまたしても滑って今度は顔 面を強打する。 凹凸もなく、溶けたアイスでヌルヌルになっている実装靴では氷の上に立つことな ど不可能に近い。 鼻血を垂らしつつ親指は腹這いで必死に製氷機の上から脱出した。 ギュルルルルルル… 「レヒィィィ…」 文字通り這う這うの体で製氷機から降り立った親指にさらなる苦難が訪れる。 なにしろ冷たいアイスを腹いっぱい食べた上にこの極寒の冷気の中で氷の上を匍匐 前進したのだ。 親指は腹を壊し、凄まじい腹痛に襲われた。 ブリュリュリュリュリュリュ… パンツを脱ぐ暇もなく、食べたばかりのアイスが軟便となって溢れ出す。 大量に排出された糞はパンコンでは収まり切らず隙間からボトボトと零れ落ちた。 「レェェェェン… もういやレチィ! ここから出すレチャァッ!!」 度重なるアクシデントに癇癪を起こした親指は冷凍庫の隅まで駆けて行くと両手を 突っ張り全力でその壁面を押し始めた。 だが今親指が押しているのは冷凍庫の側面だ。いくら押し込んだところで元から開 くようには出来ていない。 そもそも仮に正しく扉部分を押していたとしても非力な親指の力では重い冷凍庫の 扉を開けることなど出来なかっただろうが。 「ヂィィィィ…!!」 汗ばむほど必死に押してみてもビクともしない壁に苛立ちを募らせた親指は別の場 所で試そうとその場を離れようとした。 グッ グッ 「レ…?」 しかしその両腕が壁面にくっ付いて離れない。 アイスキャンディーが舌に貼り付くのと同じように湿気を帯びた手が冷えた冷凍庫 の壁面に凍り付いてしまったのだ。 「レチャァァァァッ! イタイレチ! イタイレチィ!」 冷たさはすぐに痛みに変わり、手の先端から徐々に肩へと迫ってくる。 冷着は人間であれば自身の体温ですぐに溶けるような一時的なものだが、小さく細 い親指実装の腕はあっと言う間に熱を奪われ、霜を付着させながら見る見る凍って いく。 「レヒィ! レヒィィィィ!! (パキッ) レヂッ!!」 肩まで達した激痛にジタバタと悶えていた親指は突然解放されて後ろに倒れこんだ。 またしても後頭部を強打し、唸りながら起き上がろうとするがどういうわけか一向 に立ち上がることが出来ない。 それもそのはず、凍りついた親指の両腕は肩口付近で砕け、冷凍庫の壁に今もくっ 付いたままだからだ。 凍傷の痛みで感覚がなくなった親指は両腕を失ったことに気付いていなかった。 ただでさえ頭でっかちでトップヘビーな体型の実装石は五体満足の状態でも一度倒 れたら起き上がるのにも難儀するというのに両腕を失ったのではなおさらである。 そうこうしているうちに親指は今度は頭が動かせなくなってしまう。 腕と同じく後ろ髪が床に凍り付いてしまったのだ。 「レェェェェン… レェェェェン…」 もはや泣くことしか出来ない親指。 その泣き声も段々と小さくなってくる。 動いているうちはまだ良かったが動けなくなった途端に体が一気に冷え込み、親指 は体中が凍結し始めていた。 「レヘェ…」 やがて唯一自由だった足の動きが止まり、最後に大きく白い息を吐き出して親指は 完全に凍りついた。 駆動音が響く冷凍庫の中、苦悶の表情を浮かべたまま白いオブジェと化した親指。 だがこの時、まだ親指は仮死状態で生きていたのである。 偽石さえ無事なら適切に解凍すれば蘇生する可能性も十分に残されていた。 そんな親指の運命の扉、もとい冷蔵庫の扉が開かれたのはそれから数時間経ってか らのことであった。 ————————————————————————————————————— 街灯に照らされた薄暗い公園の茂みの中を託児帰りの親実装が歩いていた。 片手に託児しそこなった親指実装を抱き、もう片手にその代わりの戦利品とも言え るコンビニ袋を提げている。 彼女の進む先には落ち葉などでカモフラージュしたダンボールハウスがあった。 親実装は中腰になってその中に入りながら奥に向かって声を掛ける。 「ただいまデスゥ」 「テチャー☆ ママー、お帰りテチィ」 「ちゃんとイイ仔に待ってたテチー」 「プニフー プニフー」 ハウスの奥に丸められたタオルから2匹の仔実装と1匹の蛆実装が這い出してきた。 すべてこの親実装の仔共達だ。 「ママ、託児はどうだったテチ!? 成功したテチ!?」 「もちろん大成功デスー。ニンゲンの袋に五女と八女を入れてきたデス」 「すごいテチー! じゃあ早く追いかけるテチ! 今日から飼い実装テッチュン☆」 「デフフ…、ちょっと落ち着くデスー。臭いはまだまだ追えるデス。その前に今日 はスゴイゴチソウも手に入ったデース!」 色めき立つ仔実装達を制し、親実装はコンビニ袋の中に手を入れる。 取り出したのは紙パックに入ったまだ温かい6個入りの唐揚げだ。 「ニンゲンの家まではきっと遠いデスゥ。出発の前にまずはしっかり食べて体力を 付けておくデス」 「す、すごいテチィ!! どうしたんテチ!?」 「ママがニンゲンから奪ってきたんデース」 「ちがうレチィ! ワタチが取ったんレチ!」 「どっちでもいいテチ! はやく食べるテチ!食べるテチ!」 「プニフー! プニフー!」 狭いハウス内に香ばしい匂いが充満し、仔実装達は我を忘れて親実装へ詰め寄った。 そんな仔実装達をなだめながら親実装は獲物を分配する。 6個入っていた唐揚げの内半分を親実装が取り、2匹の仔実装にはそれぞれ1個ず つ、親指と蛆は2匹で1個だ。 本来こんな貴重な食べ物は親指や蛆になど回してもらえないのだが、もうすぐ飼い 実装になれるという余裕が普段よりも親実装を大らかな気持ちにさせていた。 待ちきれない様子の仔実装達は唐揚げを渡されるや否や、服が汚れるのも気にせず 抱え込んで齧り付いていく。 親実装もひとつ掴んで口の中に放り込み、いつもの腐った残飯とは比べ物にならな いほどジューシーな肉汁に舌鼓を打った。 「ウマウマテッチュン♪ ウマウマテッチュン♪」 「ほっぺが落っこちちゃうテチュ〜☆」 「ウジチャンおいちくってウンチ出ちゃうレフ〜ン」 「レチャァ! 蛆チャンウンチするなレッチィ! でもウンチ付いてもまだオイシ イレッチュ〜ン☆」 「やっぱりコレがステーキなんデスゥ! 飼いになったら毎日コレをケンジョウさ せるデッスーン!」 クチャクチャクチャクチャと下品な音を響かせながら実装親仔の晩餐は続く。 さすがに親実装は唐揚げ3個では足りないが、どうせ今夜で最後なのだからと溜め 込んでいた保存食もすべて取り出して腹に収めていった。 「テップゥ〜 おいしかったテチィ♪」 「しあわせテチューン☆」 「ゴハンのあとはプニプニしてほしいレフ〜」 やがて唐揚げを平らげた仔実装達は膨らんだ腹を満足そうに撫でながら横になる。 親指と蛆はまだ食べていたが半分ほどになった唐揚げは親実装が取り上げて食べて しまった。 文句を言う親指を無視し、親実装は置いておいたコンビニ袋をたぐり寄せる。 「お前たち、満足するのはまだ早いデス。今日はデザートもあるんデスー♪」 そう言って中からスナック菓子の袋を取り出した。 「デッデレー♪ ニンゲンのお菓子デスゥ!」 「テェ!? ニンゲンのお菓子テチ!?」 「すごいテチィ! きっとアマアマテチ! もしかしたらコンペートーかも知れな いテチ!」 人間でいえばバスケットボールほどの大きさがある唐揚げを食べ切った直後だとい うのに、お菓子は別腹とばかりに集まってくる仔実装達。 親実装もさっそく袋を開けにかかるが唐揚げの油で滑る指のない手ではなかなか開 封できない。 仔実装達に急かされながら噛みつきまでして引き千切ろうと力んでいると、突然袋 が裂けて中身のスナック菓子がハウス中に散乱した。 「デデッ! 開いたデスゥ!」 「いい匂いテチ〜」 「おいしそうテッチィ」 飛び散ったリングの様な形をした赤い菓子。 甘い香りではないがさっきの唐揚げにも似た香ばしい匂いを漂わせている。 「「「ゴクリ…」」」 「レッチュ〜ン!」 全匹がツバを飲んだのと同時に先ほど途中で唐揚げを取り上げられた親指が真っ先 に落ちている菓子に突進した。 それを引き金に残る仔実装達も一斉に飛び付いていく。 親実装が分配する前に散らばったのをいいことに少しでも多く食べてしまおうとい う腹積もりだ。 親実装も負けじと菓子を拾い上げてはボリボリと噛み砕き飲み込んでいく。 味わって食べるということを忘れた浅ましい奪い合い。 だがわずかに遅れて舌がその菓子の味を認識した瞬間、全匹がそろってピタリと動 きを止めた。 「デヒィィィィッ!!?」 「テヒャァァァァッ!!」 「テヂィィィィッ!!」 「レチャァァァァッ!!」 パキン 一瞬の後、ハウスから親仔の悲鳴が響き渡った。 親仔は皆真っ赤な顔で目を見開き、舌を突き出して悶え転げている。 蛆実装に至っては一言も発することなくパキンして息絶える有り様だ。 のた打ち回る実装親仔の足元で投げ捨てられた菓子の袋がカサリと音を立てた。 黒を基調にした袋に不敵な笑みを浮かべた真っ赤なピーマンの様なキャラクターが 描かれているパッケージ。 親仔が食べたのは世界一辛い唐辛子をベースにしたスナック菓子だった。 しかも期間限定で発売された10倍辛いスペシャルバージョンである。 売り文句は『辛い(つらい)ほど辛い(からい)!!』だ。 甘いものが好きな実装石は反面辛いものに弱い。 辛みとは痛みの延長であると言われるが、彼女達は今まさに口内を直接焼かれてい るかのような激痛を味わっていた。 しかも既に飲み込んでしまったそれは口内だけに留まらず、食道と糞袋をも同様に 攻め立ててくる。 堪らず親実装はハウスの奥に置いてあった貯水用ペットボトルを手に取り、もどか しそうに急いでキャップを外すと一気に傾けてラッパ飲みを始めた。 「テヒィ…! ママッ、次はワタチテチ! はやくよこすテチャァッ!!」 「ワタチが先テッチィ! テハッテハッ… さっさと飲ませろテヂィィィ!!」 親実装の足元で喚く仔実装2匹。 しかし聞こえていないのか無視しているのか親実装は自分が飲むのを止めない。 「レチャヒィ… ワタチにも飲ませるレチィ…」 そこへ這いずりながら親指もやって来る。 蛆実装に次いで耐久力のない親指は今にもパキンしそうな雰囲気だ。 それを見た仔実装の片方は親指を抱き上げ、いきなりその喉笛に歯を食い込ませた。 「レヂッ!? オネチャ、イタイレチィィィ!!」 親指は必死に抵抗するも倍以上ある体格の仔実装相手には為す術がない。 噛み付いた仔実装はそのまま親指の首筋から溢れる鮮血をジュルジュルと啜り飲ん でいく。 「ワ、ワタチにも飲ませろテチッ!」 さらに別の仔実装が親指の無防備な脇腹に齧り付いた。 「レヒィ…」 パキン 遂に限界を迎えた親指はパキンし、さらに奪い合う2匹の仔実装によって上下半身 を真っ二つに裂かれてしまった。 「「「ゴキュ… ゴキュ… ゴキュ…」」」 あらゆる水分を口に入れてどうにか焼け付くような口内の痛みを取ろうとする実装 親仔。 しかし痛みは治まるどころかますます激しく増していくばかりである。 この手の食べ物は半端に水分を取ると却って余計に辛みを強くしてしまうものなの だが当然彼女らにそんな知識があるはずもない。 いくら水を飲んでも一向に消えない痛みに親仔は発狂寸前だ。 「デギィィィィッ…!!!」 ついにペットボトルの水を飲み干した親実装が絶叫しながらダンボールハウスを飛 び出していった。 目指すは公園の端にある雨水の貯水池だ。 公園に住む実装石達はここを水の補給地としていた。 その後を追うように2匹の仔実装も駆けて行く。 普段は親実装の連れ添いなしでハウスから離れてはいけないと躾けられていたが今 はそれどころではない。 「「テッヒ! テッヒ!」」 腫れた唇から掛け声とも悲鳴ともつかない鳴き声を出しながら懸命に親の後を追う。 一方で一足早く貯水池に到着した親実装は駆けて来た勢いそのままに、水を汲んだ り洗濯をしていた先客の野良実装を押し退けて水面に口を付けた。 「デデッ!? 何するデス!」 「コイツ後から来たくせにナマイキデス!」 押しやられた野良実装達が怒り、這い蹲っている親実装の背中を叩いたり尻を蹴り 上げたりしてくるが親実装は口の中を漱ぐのに必死で身を守る余裕がない。 なにしろ冷たい水を含んだ瞬間は多少和らぐがすぐにまた痛みがぶり返してくるの だ。 無抵抗なのをいいことに後ろ髪を抜かれたり服を裂かれたりとエスカレートする野 良実装の暴行を受けながらも抗うことができずにいた。 「「テッヒ! テッヒ!」」 そして親実装が後ろ髪のほとんどを抜かれ服もパンツもボロボロにされた頃、よう やく仔実装姉妹が貯水池へ到着した。 リンチの最中にある親実装の姿が目に入ったが気にかけることなく池へと直進する。 その仔実装達が野良実装達の脇を駆け抜けた際、野良達がふと動きを止めた。 「デ…? なんかいい匂いがするデス…」 「本当デスー。うまそうな匂いデスゥ」 野良達が嗅ぎ取ったのは仔実装から漂う唐揚げと菓子、そして血の匂いだった。 仔実装達の服や髪は唐揚げの肉汁や菓子のカス、親指の返り血でベタベタだ。 慢性的に飢えている野良実装達が全身から濃い匂いを放つ仔実装を見逃すはずがな い。 「テチャッ!?」 ようやく水際まで辿り着き、今まさに水面に口を付けようとした仔実装は寸前で野 良実装に捕まり持ち上げられた。 「なにするテチッ! はなすテチィ! おみず…! おみずぅぅぅ!!」 あと少しのところでお預けを食った仔実装が目の前にある水を求めて激しく暴れる。 だが野良実装はまるで意に介さず、手にした仔実装を鼻先へ持ってきてピスピスと 臭いを嗅いだ。 そして… グチュッ 「テヒッ!? テチャァァァァッ!! ワタチのおててがぁぁぁぁッ!!」 イゴイゴと動いていた仔実装の左腕を齧り取った。 「クチャクチャクチャ… デッスーン☆ こいつはうまいデスゥ!!」 喜声を上げながらさらに右腕も食い千切る野良実装。 もう1匹の仔実装も別の野良に捕まり、こちらは足から食べられていた。 唐揚げの肉汁が染み付いた仔実装の体は風味を増し、直接口にすれば地獄を見る激 辛スナック菓子も僅かなカスなら程良いスパイスだ。 「テヂィィィ…! たすけテチ! ママッ、たすけテチィィィ!!」 生きたまま貪られながら仔実装達は母親に助けを求める。 しかし当の親実装はだらしなく舌を伸ばしたまま水面から口を離せないでいた。 目の前で娘達が食べられていく光景に涙を流すことしかできない。 「デププ… 寝る前にいいゴチソウが手に入ったデッス〜ン」 やがてミニトマトやイチゴのヘタでも取るかのように頭部だけになった仔実装から 髪を抜き捨て、野良実装はその頭を齧りながらどこかへ去って行った。 それからしばらくしてようやく口内の痛みが幾分治まった親実装が立ち上がる。 「デック… グス… デック…」 後ろ髪をあらかた失い、服も頭巾もパンツもボロボロにされた親実装は抜き捨てら れた仔実装達の髪や服の破片を集め、まだヒリヒリと痛む口から嗚咽を漏らしなが ら我が家へと戻った。 当然ながら出迎える者は誰もいない。 ハウスに残っているのはパキンした蛆と真っ二つに裂かれた親指、そして一面に散 らばった悪魔の赤い菓子だけである。 「デェェェェン… デェェェェン…」 決して愛情深いとは言えない個体だったが家族を失うのはそれなりにツライ。 なにより自分自身の髪や服までズタズタにされたのだ。 親実装はハウスの中でへたり込み、声を上げて泣いた。 だが悪魔のような菓子は傷心の親実装をさらに攻め立てる。 刺激性の強い唐辛子を原料とするこの菓子は皮膚に付着してしばらく経つと痒みや 痛みを伴う炎症を引き起こすのだ。 ただでさえ実装石は皮膚が弱いうえに親実装は今や半裸である。 堪らず転がるようにしてハウスから飛び出した。 「デヒィィィィッ!!」 ザッパーン 蓄えのすべての水を飲み干してしまっていた親実装は再び貯水池まで駆けて行くと まだまだ冷たい池の中に頭から飛び込んで体に付いた粉を洗い落とした。 案の定、しばらくして池から上がってきた親実装は寒さにガタガタと震える。 だが今や住み慣れたハウスに戻ることも出来ない。 家を失い、完全では無いにしろほぼ禿裸となった親実装の将来はもはや決まったも 同然である。 蔑まれてリンチを受けるか、奴隷にされて酷使されるか…。どちらにせよ野良では 長く生きられまい。 当初の予定であった託児親指の後を追って自らも飼い実装になることが最後の希望 だったが、臭いを嗅ぎ取ろうにも鼻の粘膜にまで達した菓子の刺激で今の親実装は 嗅覚がまともに機能しなくなっていた。 親指の臭いを嗅ごうにも鼻腔に付着した菓子粉の濃い匂いしか感じないのだ。 「デズゥゥゥゥ!! なんでこんな目に会うデス!? 私が何をしたデスゥゥ!!」 元はと言えば託児からの飼い実装などという分不相応な夢を見た自分が悪いのだが そんなことは露と忘れて理不尽な運命に叫びながら地団駄を踏む親実装。 不意にその腹がグルグルと鳴った。 度重なるストレスを緩和すべく体が排泄を訴えているのだ。 パンツを脱ごうとして既に破かれていることを思い出し、怒りに歯軋りしながら親 実装はその場でしゃがみ込んだ。 「デッフ〜ン… デデッ!? デギィィィィ!! し、尻が痛いデシャァッ!!」 本来快感を伴うはずの実装石の排泄行為。 しかしそこでまたしても悪魔は牙を剥いたのだった。 赤く染まった糞が総排泄口を通る度に先ほど散々口で味わったのと同じような痛み が襲い、親実装は糞を垂らしながら悶え転がる。 その周りをいつの間にか多数の野良実装が囲っていた。 「なんデス、アイツ。さっきからうるさいデス!」 「いい加減に静かにしろデス! 眠れないデース!」 「デププ… 見るデス。アイツ貧相な格好デスゥ」 「みずぼらしい糞蟲のブンザイで高貴な私の安眠をジャマするとはいい度胸デッス」 夜更けにずっと騒ぎ続けている親実装に周辺に住む野良実装達の忍耐の緒が切れた ようだ。 数を増し、罵りながらジリジリと親実装を囲う輪を狭めてくる。 「デヒッ… デヒッ… デヒィ…」 涙を流しながら排泄を終えた親実装が再び悲鳴を上げるのはそれから少し経ってか らのことであった。 ————————————————————————————————————— 「うごおおおお…」 朝日に照らされて起き上がったオレは割れるように痛む頭を抱えて悶絶した。 どうやらいつの間にかテーブルに突っ伏して眠ってしまったようだ。 無理な体勢で寝てたから体中が軋んでいる。 だがなにより酷いのが絶え間なく続く頭痛だった。 間違いなく二日酔いだ。思えば昨日はさすがに飲みすぎた。 頭痛だけでなく気を抜けば戻してしまいそうな吐き気もしている。 「うう〜、堪らんなコレは…。確か冷凍庫に保冷材があったはず」 冷やせば少しはマシになるかと思い、一歩ごとにカナヅチで殴られているような痛 みに耐えながらオレは冷凍庫まで辿り着きその扉を開けた。 「・・・・・なんだコレ? 人形?」 扉を開けてすぐ目に付いたのは白く氷結した両腕の無い親指実装だ。 はて、こんなもの冷凍庫に入れた覚えはないんだが…。 以前パンチョが大事にしていた親指人形だろうか? だがあれはマラ実装に食われ てボロボロになって捨てたはず。 不思議に思ったオレは手を伸ばし、冷凍庫の中の謎のオブジェを摘んでみた。 カシャン 「あ…」 しかし床に凍り付いたそれを取ろうと指先に少し力を加えた瞬間、軽い音を立てて 親指実装らしきものの頭部が粉々に砕け散ってしまった。 続いて胴体と思われる場所を摘んでみたがこちらも同じくほとんど感触も無いまま あっさりと砕けてしまう。 「なんだったんだ、いったい…」 まったく訳がわからないが深く考えようとすると頭が痛んで仕方が無い。 とりあえず目当ての保冷材を取り出したオレは冷凍庫を閉め、額に当てながら買い 溜めしてある栄養ドリンクを1本飲み干した。 キッチンを横切って流し台に空になったビンを置く。 その時視界の隅で電子レンジのランプが点滅しているのに気が付いた。 そういえば昨晩眠る前に何か温めていたような…。 「ああそうだ、焼き鳥だ」 レンジに向かいながら思い出す。 やばいなー、腐ってなければいいが…。 痛んでいないなら冷蔵庫に入れてもう一度冷やしておこう。 とてもじゃないが今は二日酔いが気持ち悪くて食う気にはなれそうもない。 そう思いながらオレはレンジの扉を開けた。 もわっ 「うげあっ!?」 扉を開いた途端、腐ってるとか痛んでるとかそういう次元では済まない悪臭がレン ジ内から立ち込める。 まともに嗅いでしまったオレは一気に喉元までせり上がってきた吐き気を抑え、慌 ててトイレへ駆け込んだ。 「オエェェェェェ…」 あの臭いはどこかで嗅いだことがある。 そうだ、以前公園で焚き火にくべられた野良実装があんな臭いを放っていたはず。 腹の中のものをすべて吐き出しながらようやくオレは自分が託児され、知らぬ間に レンジで加熱していたことに気が付いた。 もしかしてさっきの冷凍庫にいた親指もそうなんだろうか。 トイレから戻り、流しでうがいをしながら憂鬱な気分になる。 吐いたことでいくらかスッキリしたが開けっ放しのレンジから漏れた臭いが部屋中 に充満してしまっていたのだ。 これだけ強烈な臭いはしばらく落ちそうに無い。 特にレンジはよほどしっかりと掃除しなくては使い物にならないだろう。 現状を理解するに連れてフツフツと怒りが込み上げてきた。 もし託児した親実装が来るようならこの怒りを思い切りぶつけてやる。 虐待趣味はないがそれとこれとは話が別だ。絶対に許すもんか。 そう決心したオレだったが結局それらしい実装石が尋ねて来ることはなかった。 怒りの矛先を向ける相手も無く、悶々とした気分のままその日何度も襲う頭痛と吐 き気に耐えながら1日かけてレンジと冷凍庫の掃除をし、さらに大量の消臭剤も買 い込むハメになったオレは改めて実装石の迷惑振りを認識すると共に今後酒は程々 にしようと誓うのであった。 END 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 <あとがき> という名の言い訳 凹凸(おうとつ)という漢字に違和感があるなぁ…。 まあそれはさておき、11月中に上げたいと思いながら気が付いたら12月半分ま で来てしまいました。 風邪をひいては治りひいては治りを繰り返して体めっさダルイデス。皆さんも体調 にはお気をつけ下さい。 さて、今回は託児した実装親仔が託児先の人間に気付かれること無く全滅するとい うテーマで典型的なものをオムニバス形式で書いてみました。 自滅系のネタ大好きなので挑戦してみましたがやっぱり難しいデスね。 いろいろ冗長な部分あるかと思いますがここまで読んで頂いてありがとうございま す。 ちなみに前作では正直自分でも『パンチョ』のタイトルを入れるのはどうかと思っ ていたのデスが案の定ご指摘を受けることになりました。 一応一連の関連した話ということで今後もテキスト名はパンチョを使用するつもり デスが今回からタイトルは独立したもので書くことにします。 (梅雨スクのように完全に違う話の場合は別) 今後もボチボチ続けていきますのでお付き合いいただければ幸いです。 さてクリスマススク…、間に合うかなぁ…。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/06/19-17:29:07 No:00007329[申告] |
| 続きが読みたいデスゥ… |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/06/19-23:16:53 No:00007331[申告] |
| 飼い主が徐々に目覚め始める兆候がどうなるか確かに続きが気になる所だったな…
成長阻害フードを与えたり生意気な親指の排泄権を奪いオナホ代わりに与えたりと素質は十分だし |
| 3 Re: Name:匿名石 2026/04/02-01:45:09 No:00009933[申告] |
| 酒カスは低能って解るね
|