天と地と 7 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 与えられた天国と地獄… それは、どちらがどちらでも差が存在しない天国と地獄。 そこから開放された姉実装と2匹の仔、妹実装と3匹の仔。 彼女らが解放されて、1年半の時が過ぎた。 時間は、俺が仔実装を若者に託した時間に一時戻る。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 約束の1週間だね…ずいぶん疲れているようだが、大丈夫かね? まぁ、ゆっくり話そうじゃないか?掛け給え…。 その箱が、彼女らかね…。 なーに、仔が1匹しか生き残らなかったことぐらい気にすることは無いよ。 そうなって当たり前なのだから。 そうか、我慢できずに殴り潰してしまったか…まだまだ若いなぁ。 なに?こいつらの正体? まぁ、慌てることは無い… 俺の3年前の出来事から話そうか… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ずいぶん長く話してしまった。 もう、こんな時間かね… 夕食でも食べていくかね? 何?その後の2匹の家族の行方か…ようやく、君も、この実装石の正体が判ってきたようだね。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 妹仔実装は、朝方、近所の家の前に、箱詰めのまま放置された。 その家は、近所でも有名な”愛護派”の金持ち婦人の家であった。 しかも、気に入った実装石の可愛がり方は尋常ではなく、 既にお気に入りで、ペット登録しているだけでも20匹は広大な家と庭で遊ばせている。 好き放題させ、出入りする野良にすら贅沢な餌を与えて増長させる。 リンガルを使わずに、自分は実装石の全てがわかると勘違いをし、 実装石が少しでも甘い声や弱々しい声を出すと、コロっとやられる溺愛の中でも重症なタイプだ。 その実装石が大変なトラブルを起こそうが、周りの人間の注意や意見を聞こうともしない。 自分のペット登録した実装石に対してもだ…。 市が野良の駆除をしていると、激興して食って掛かる始末。 「こんなに可愛い実装石を苛めるなんて、○○議員に言ってお前達なんかクビにしてやる! お前達みたいな下っ端は、小汚い犬猫でも駆除してればいいのよ!」 という状態。 実を言えば、この婦人の存在が、その飼い実装の公害が、俺が虐待派になった現況と言っても過言ではない。 そんな家の前に放置した。 手紙には、 「都合で飼えなくなりました。 ここのお宅では、大変、実装石を可愛がっていただけると聞き、藁にも縋る思いで この子達を置いていくことをお許しください。 親仔共に、人の言うことを良く聞く、大人しい子達です。 お気に入らなければ、野良としても仕方ありません…よろしくお願いいたします」 箱を開けて、ビックリした婦人の顔は見ものだ。 実装石たちもビックリしただろう。 どうせ、人間を見てオドオドしている事だろう。 婦人は、少し汚れた実装石達を抱え上げる。 親も仔も、その婦人の腕や指に盛んに甘えているのが見える。 どうやら、上手く行った様だな。 婦人の甘い言葉に、すっかりその気のようだ。 婦人も、弱々しく怯える実装石一家にメロメロな様子。 婦人と実装石一家は、抱かれたまま家に入っていく。 しかし、その夢心地はいつまで続くのかな? 今は舞い上がっている実装石達だが、その夫人の家に漂う匂いは、まさに、あの水槽の中にある香水の香り。 与えられる贅沢は、既に味わいつくした物。 豪華な絨毯敷きの床に、豪華な実装石用ペットハウス、沢山の遊具に玩具…。 贅沢な高級フードに、人間の食べ物を分けて貰える。 香水を振り掛けられた清潔な服を与えられ、使用人が常に身体を清潔にしてくれる。 そんな”地獄のような生活” 程なく、婦人が入院した。 ちょいとしたノイローゼで…。 年上の人間に悪い事をしたとは思うが、重症の溺愛派の目を覚ますには、このぐらいのショック療法が丁度良い。 その家の実装石は、全て婦人に叩き潰された…。 可愛がれば可愛がるほどに、怯え恐怖する実装石に自分の絶対の自信が崩れたのだろう。 ついに、次々とあの実装石の親も仔も『地獄絵図の生活』の為に死んでいった。 ”自分だけがこれだけ愛情を注ぎ、贅沢させたのに…” そこで、溺愛によって成り立っていた相互関係が崩れた。 使用人の制止も聞かずに、家で庭で、ゴルフクラブで自分のペットを叩き潰す様は、 今まで溜まりに溜まった、俺の溜飲を下げるのに十分だった。 その様子を、救急車が来るまで、近所の人間と共に見物した。 「あんなに可愛くなついてくれたのに、途端に私を避けてぇぇぇ! 贅沢させたのに食べ物を醜く吐き出して、逃げ出そうとするなんてぇぇぇ! 何が悪かったのぉぉぉ!私の愛が受け入れられないのぉぉぉ!実装石の分際で私を小馬鹿にしてぇぇぇ!!」 ガス!バキ!ベチャ!ドパァ! 餌がもらえると、庭に入り込んだ野良達も殴り殺し、野良実装石が派手に逃げ回る様と共に…。 今、やたらと議員に顔の広い婦人は、実装石が蔓延っていない海外の島に移住したという話を風の噂に聞いた。 一方の姉の方は、少し離れたふたば市の実装石テーマパークに送られた。 そのテーマパークは、やはり愛護派を名乗る連中が立ち上げ、 ”動物愛護”の観点から、虐待派に虐げられた実装石を保護し。 人との触れ合いの中から、実装石の認識を改め、実装石と人との橋渡しをするという建前の施設だ。 デスデスランドとかいうのをパクって、 最近、この手の、慈善団体を名乗る連中による利益を優先しない触れ合い施設が増えていると聞く。 様は、虐待派がいかに非人道的存在で、自分達がいかに立派な人間かを比較させる施設であり、 多少性格を改善させて、ペットとして広めるためのプロパガンダ施設である。 実装石など、そんなに生易しく飼えない事は、当人達が知り尽くしているのにだ…。 そこに、姉実装一家を、”虐待派に酷い仕打ちをされていたのを保護しました”と手紙を添えて送ったのだ。 すると、一週間後には、そのテーマパークの里親募集に乗って居やがる。 ロクに知能や質を調べもしないで、じつにいい加減な組織だな。 実装石に顔が判らないようにサングラスをして様子を見に行くと、 姉実装一家は、『新入りさんのお部屋』というところに隔離されていた。 小まめに綺麗にされているので、ずいぶん落ち着かず元気も無いが、 ビニール袋の服のまま、覗き込む人間達に、懸命に一人遊びの踊りと歌を披露していた。 「新入りさんです。名前はまだありません。 とても可愛く踊り、歌も大好き、虐待派に大変な目に遭っていた可愛そうな子で、 人間の言葉を怖がる可愛そうな子です。言葉遣いも未熟です。 服も取り上げられて、とってもとっても可愛そうな子達なのです。 でも、やさしく声を掛けるととっても喜んで言うことを聞こうとする良い子達です。 おトイレもお洗濯も出来ませんが、何でも良く食べます。 褒めると一生懸命踊るので、本当はとっても賢い親仔でしょう」 …ずいぶんな過大評価じゃないか? それにしても、やたらと可愛そうを連呼するバカな文面だ。 いかに虐待派を毛嫌いしているかが伺える構成だ。 丁度、姉実装一家の触れ合い広場のお披露目の日だと言うので、面白いものが見られると見学に行く。 「ほら、みんな仲間だよ〜よろしくねぇ」 係員が広場に連れて行くと、広場の実装石達は、行儀良くお辞儀と挨拶をする。 真新しい実装服を着せられた姉仔実装達も、ぎこちなく挨拶を返すと、広場の客からは拍手が起きる。 ずいぶん、短期間に形だけ躾は出来ているな。 様子から察するに、丁度、妹実装の時と同じ状態だ。 汚い(綺麗な)空間に追いやられて、精神的に参っているのだろう。 その上で、人間の言う言葉に従っているだけなのだ。 そこで、俺は、姉実装の本能を開放してやることにした。 触れ合いタイムが始まると、こっそり、姉実装たちの背後に位置する。 新入りの姉実装親仔は、見た目が小さい仔が居るので大人気だ。 ”人に見られていると懸命に踊る”と紹介されたのも人気の要素だ。 その背後で、こっそりICレコーダーの声を聞かせる。 「お前達は本当に可愛いなぁー、この世のどの実装石よりも可愛いのに、なんで、そんな格好なのだ」 「デデ!ママの声デスゥ!何処にいるデスゥ!ここはママの言った天国とは全然違うデスゥ!」 「テッチ!毎日毎日、きれいにしてもキタナクされるテチィ…ここは地獄テチィ!」 「ニンゲンはみんな同じ事言うけど、全然違うテチィ!ここのヤツは苛めるテチィィィィ…」 3匹はキョロキョロと頭を振る。 幸い、係員には聞こえない程度の音量だ。 「それは、お前達が汚くされたからだよ。 お前達本来の美しさを見せ付ければ、ニンゲンはイチコロさ」 そこで、ICレコーダーを隠して、その場を離れる。 もう、後は姉実装一家の本性が明らかになる。 どれだけ形作っても、深層心理に染み込んだ本能や無意識の記憶に刻まれたものは、生半可なことでは隠せない。 「何デスゥ!?コイツらは…どいつもこいつもマヌケな服ばかりの小汚いクズばかりデスゥ」 「ママー、みんなマヌケテチー、キタナイテチィ!」 係員がギョッとした顔になる。 当然、実装石達もピクッと反応する。 同様に、離れた場所でリンガルを隠し見る俺はニンマリだ。 この施設は、実装石の良い面ばかりを見せ付ける施設なので、客は実装リンガルを持たせてもらえない。 実装石個々に付けられた専用の個体翻訳用リンガル首輪の表示だけが客とのコミュニケーションだ。 広場に慣れていない、躾の浅い実装石には、個体用リンガル首輪を付けずに人間に慣れさせる。 リンガルで心情が見えなければ、どの実装石も可愛く見えるものだ。 「ママー、こいつらにワタシ達の可愛さを見せ付けるテチィ!」 「そうデスゥ!こいつら全部ワタシ達の美しさにひれ伏し、人間はメロメロになって何でも捧げるデスゥ!」 そう言うと、見、聞き慣れた歌と踊りを披露しだす。 係員がホッとして「この子達は歌と踊りが大好きですみんなも仲良くしてあげてねー」 それで、客達もしばし和やかになる。 しばしだ…。 調子付いた姉実装一家は、予想通り、悦に入りながら、緑の異物を撒き散らし始める。 「ワタシはキレイ!キレイデスゥ!もっとキレイになるデスゥ!」 撒き散らし、踊りながら器用に手で糞を取り身体に塗りたくる。 「ニンゲン見るテチュ!こんなにミドリのパンチュテチィ!」 「キレイキレイ♪この匂いテチュン♪ミドリパンチュに釘付けテチュー♪」 そこまで行くと、客や他の実装石が騒ぎ出し、係員が止めに入る。 その係員に一家は、糞まみれで「こんなにキレイ!キレイ!ニンゲンメロメロデスゥ!ステーキよこすデスゥ!」 「ステーキ、プリンが食べ放題テチィ!キレイになればなるほど食べ放題テチィ!」 「テテェェェ!!」「テチィ!」 その言葉とうれしそうな仕草を見て、他の実装石達は衝撃を受ける。 そりゃ、他種族たる人間に言われるより、同族が自信たっぷりに、心のそこから言っているのでは重みが違う。 ひょっとして、自分の今の環境の方が間違っている?と考えるヤツもいるだろう。 何せ、所詮は実装石の知能…パニックになると一時的にメモリーが吹っ飛んでクリアになる。 係員が、一家を一旦、キレイなシャワーで洗い流そうとすると、 「イヤー!またシャワーテチィ!キライテチィ!拷問テチィ!体が汚くなるテチィ!身体が溶けるテチィィィィィ」 ペパァ!と胃の内容物を泡と共に口から吐き出し、恐怖のあまり舌を無残に垂らして死に至る。 その形相や絶叫は、リンガルを見れない客には余計に残虐な死に様だ。 一般人は、実装石が恐怖で死ぬという場面には中々遭遇しないため、その姿に貰いゲロする客も居る。 子供達は泣き出し、係員は冷ややかな視線を受ける。 「いや、あの、その…これは…だ・大丈夫です!実装石は生き返りますから」 逃げるように仔実装の死体を持った係員が施設の裏口に駆けていく。 『無理だろうな。どう見てもストレスの偽石崩壊だ』 親と残った仔は係員のスキを見て、客の前に立ち、盛んに糞踊りを見せ付け客達に媚び寄って行く。 ショックを受けた他の実装石にも嘔吐や脱糞、パニックの輪が広がり、 中には、変に感化されて糞パックを始める実装石も居る。 流石は、虐待経験を持つ実装石達だ。 こうなると”可愛い小動物”と同列な物を期待して訪れた客達も大パニックだ。 根っからの愛護派という連中も顔をしかめている。 その日は、結局、緊急閉鎖となった。 一月程して再開したが、結局、パニックに落ちた広場の更正実装石達は大半が入れ替えられ、 姉実装達と同様に、隔離された部屋で里親を待つだけの日々となった。 一旦、本能に目覚め、肉体の記憶に染まった実装石が、 あるいは、仔実装の壮絶な死に様や、その後の人間のパニックで衝撃を受けた実装石が、 あんなぬるい環境でペットとして良い仔になる事などない。 以降も客足は伸びず、彼らに里親の候補が来ることは奇跡の確率であろう。 姉実装は、そんな愛護派連中には持て余す状態で、未だに、施設の水槽を糞で汚し、 人が来れば、踊り歌い、自分の肉体を傷付けて、懸命に媚びを売り続けているだろう。 だが、建前上、その施設から姉実装達が消されることは無い。死ぬまで飼われる事になる。 その狭い世界だけが、ソイツラの天国なのだから…。 そして、そこに到るようにしたのは、せめてもの俺の親心とでも言うべきか…。 『お前達は実に良く働いたからな』 向こうが先に、虐待派をイメージ作戦で貶めようというなら、こちらは実装石の現実を叩きつけてやるだけだ。 その実弾として、姉・妹の実装一家は、実に役に立った。 世界は常にプラスマイナスゼロで動いていくものなのだ。 虐待派も愛護派も波風を悪戯に立てるのは良くない。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ん!? ようやく判ったかね? そう、君に預けた一家の親実装は、立派に成長した、その姉の仔だよ。 虐待師が好んで落とす悪環境を天国と感じ、ぞんざいな扱いや食事に慣れ、至福とすら感じる。 肉体への加虐すら、かまってもらえると喜んで耐えてしまう。 彼女は、姉よりもはるかにレベルアップしているからねぇ。 多少の痛みは幸福回路で遮断して耐性が高い。 力んで、より肉体への責め苦を与えれば、新しい遊びとすら感じてしまう。 その行き着く先は、君の様に怒りを抑えきれずに殺してしまうか、降参するか、耐えられずに精神を病んでしまう。 自分で言うのも何だが、じつに虐待師泣かせに育ったものだ。 君のような若手への試験として、最適だよ姉実装の家系は…。 でも、少し観察してやれば、からくりはすぐにバレてしまうのだが。 まぁ、若いということは恥ではない。 君自身が壊れなかったことは、大いに評価している。 推薦状は書かせてもらうが、俺の師匠は厳しいぞ…。 俺ですら、このレポートを提出しても、まだ、ヒヨッ仔扱いだ。 ん!?まだ質問かね? 妹の方の仔はどうするのか? ああ…最近、別の愛護派団体が、何やら法案をどうこうとうるさいから、 そこの幹部の家に送りつけようかと思っているよ。 現役のニュースキャスターらしいから ”虐待された実装石を保護して飼う、やさしいキャスター大いに語る”でも仕組んでやろうかとねぇ… 材料を与えれば勝手に妄想を膨らませてしまうのは、人間も実装石も一緒さ。 我々も、これを教訓と、常に気を引き締めないとねぇ。 それにしても、どちらの家系も、まだまだ、私の役に立ちそうだ。 まだ、どちらの家系の仔も手元で繁殖させるつもりだよ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 〜 天と地と 完結 〜

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/02-02:19:29 No:00002674[申告] |
| 最後にニンゲン世界の愛誤や虐待が絡んでくるのは好き嫌い分かれそうだけど
手間暇かけたナマモノにはその分ニンゲンさんの役に立ってもらわなきゃね 元から異常ナマモノと言えばそれまでだが異常に育てられた実装が惨劇を引き起こすのは楽しいものだ |