必殺殺石人〜太秦激闘編〜 ※実装の登場する割合は少なめです。 主な登場人物 トシゾウ…映画監督 アキオ…トシゾウの友人助監督 オヤヂ…居酒屋丹下の老主人 某サーカス団…3人組 アノパン…通販の人 ニョッポさん&ギョン太…ハサミとって 浜崎…とったどー 有田…係長 エガ…タイツ 後藤…自称エスパー ジソ平…愛護派 北大蛆…愛護派 ******************** 太秦撮影所にて ******************** 全ては太秦映画村での愛護派による実装愛護運動から始まった。 普通の実装達、実装紅や実装蒼の擁護ならまだ分からないでもない。 だが忌むべきことに、実装石もその愛護対象の中にいたのだ。 お陰で今や太秦は実装石の巣窟である。 そして。その実装石達がこの悲劇を生んだ。 ———コタツが恋しい晩秋 「忌々しい色無し供が!」 「トシゾウさん声が大きいですよ」 「そんな事は分かっている!分かっているんだ!アキオ!!!」 ”色無し”とは実装石を指す隠語である。 隠語とはいえ、分かる者には分かるものである。 愛護派にでも聞かれようなことがあれば、ここ太秦では大問題になる。 アキオはそのことを十分すぎるほど知っている上で、慌てる風でなくいつものように実装石に憤慨するトシゾウを諭した。 「あの色無し供のお陰でワシの…、否、ワシらの愛した太秦が…」 「トシゾウさん。今は新春用の映画製作に集中しましょう」 「そうだなアキオ」 トシゾウはアキオに心の内を話し、幾分気持ちを静めてから撮影現場に向かった。 撮影現場には大物俳優の北大蛆とジソ平が憤怒の形相で待ち構えていた。 「監督!なぜ実装石だけ不当に扱うのかね?!」 「監督!なぜ私のサンバに、実装石だけ出てはいけないのか?説明していただこう!」 「ま、まってくれ。以前にも話した通り、実装石を起用すると製作期間が間に合わない」 「何を言っているんだ!監督は私の愛実装がバカとでも言いたいのか!」 「そうだ!監督は実装石だけを差別している!」 「ワシはそういうつもりで……」 「不愉快だ!実に、不愉快だ!私は降りるぞ!」 「北大蛆さんが降りるなら、実装愛護大使として、このジソ平も降りる以外ありませんな」 トシゾウは実装石の起用を避けたのには理由がある。 一つ、学習能力が実装達の中で最も劣る。ゆえに撮影に時間が掛かるのだ。 一つ、脱糞による悪臭や糞蟲化した実装が居ると、撮影に時間が掛かってしまう。 一つ、”実装石に係わると……”というジンクスがあり。共演者にとっては不快という者も居る。 上記の理由によりトシゾウは実装石の起用を避けてきたのだが、それが気に入らなかったらしくこのようなことになってしまった。 そして、トシゾウは今までの苦労と実装石に対する嫌悪・怒りを堪えきれる事が出来ずに、思わず手に持っていた台本を地面にたたきつけた。 それがいけなかった、その台本が運悪く野良実装親子を襲った。 蛆1匹、親指2匹、仔実装1匹がペシャンコになり、仔実装1匹が重症といったありさまだ。 トシゾウは、この事故を愛護派の目の前で起こしたのが原因で、スポンサーにより監督を降ろされてしまう。 これが今の太秦を取り巻く環境であり、この環境があるスキマ産業を生み出した。 愛護派の目を欺き実装石供を狩り続ける殺石人である。 ******************** 居酒屋 丹下 ******************** 昭和を髣髴させる居酒屋、立ち飲みではないが安い店それがココ丹下だ。 太秦とともに歴史を歩んだ店と店主の居る風景は、タイムスリップしたかのよう錯覚を思わせる。 スポンサーの意向により監督を降ろされたトシゾウは、その足でこの居酒屋”丹下”にやってきた。 トシゾウはカウンター席で1人黙々と飲み続けており、時間はそろそろ店じまいといったところだ。 「おやぢ!もう一本!」 「トシゾウさん。飲みすぎだよ」 隣の席に居た芸人のエガがトシゾウを気遣うように声をかけてきた。 「エガ。ワシの代わりに色無し供を始末できるヤツはおらんかのう?」 エガは驚きの表情を隠せずにいた。 エガはトシゾウが実装石に対して、中立的な立場におるものだとばかり思っていたからだ。 酔いが回り、目もうつろなトシゾウにエガはこう囁く。 「オレ知っているよ。殺石人ってヤツラがいるらしいよ」 「頼むワシの無念を……」 そう言って、トシゾウは懐から札束の入った茶封筒をカウンターに叩きつけるように置くと眠ってしまった。 「分かったよトシゾウさん。恨み晴らしてやるよ」 エガはそういうと、茶封筒をタイツの中に突っ込み、そそくさと居酒屋を後にした。 ******************** 太秦撮影所(資材倉庫) ******************** エガ達は昔に使われていたであろう撮影用の資材倉庫の一室に居た。 光源は蝋燭のみで、エガ以外に人が居るのか判別するのが難しい程の明るさだ。 「頼み料は1人50万。この金は……監督への口止め料込みの値段だろう……」 「そんなことはどうでもいい。標的は?」 「北大蛆の愛実装エメラルドとスイ、ジソ平のS級実装サンバ隊10匹、そして太秦の野良の実装石全て!」 「おいおい!大御所二人の実装石でも厄介なのに、太秦全域の野良もなのか!?」 「音叉や実装香が持ち込むことの出来ないこの太秦で、それだけの数は……」 「そっちはこの某サーカス団の団長以下2名が引き受けてくれる。問題は大御所の二人の実装石だ!」 簡単に打ち合わせを終え、頼み料を配りきるとエガはフッと蝋燭の火を吹き消した。 それを合図に、その場に居た殺石人たちは闇に溶け込むように、その場から消え去った。 ******************** 仕事決行! ******************** 真夜中の太秦、団長が褌一丁で駆け回る。立ちふさがる野良実装を蹴り殺しながら、手にした砂糖水を霧吹きで撒き散らし、甘い香りで実装石たちを一箇所に集めるようだ。 実装石たちが、10分もしない間に広場へ甘い香りに釣られてワラワラと集まりだす。 「今だ!シロちゃん!」 暗闇の中からヌッと現れた海坊主を思わせる禿頭のヒゲ男が、その姿からは想像出来ない声を発する。 「ヴア”ァ”ァ”ーーーーー」 『デプププ!あのデブ人間何か言っているデス』 『テヂィィ!早くアマアマをだしやがれデス』 『テッチューン!ワタチのビボウでイチコロテチ!』 シロは高音をまるで音域を探るように、徐々に声の質を調整している。 突然集まってきた実装石達が、体を掻き毟るように動きながら苦悶の表情でもだえ苦しむ。 「ヴヴア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”」 『ヂッ!ヂ、ヂィィィィ!!!!!!』 『デェェーー!テゴォーーー!テ……』 『デピャ!』 『ホヂィィーーー』 パキンパキンとそこらかしこから何かが割れる音とともに実装石が一匹また一匹と痙攣を起こし倒れだす。 どうやら偽石が割れてしまったようだ。 シロの手口は音叉を真似た高周波を発する声だ。 シロの声が届かないところには、浅黒く焼けた巨漢のPIROが豆まきの要領で石粒を実装石たちに投げ放つ。 ボス、ボスボスと実装石達の体に石粒が吸い込まれるようにめり込んでゆく。 『テギャッ!テギャァァァァァーーー!』 『テヂィィィィ!!!!』 『ヤメルデスゥ!ワタシは高貴なワタシを…ホヂッ!』 『妹チャ!妹チャ!オメメを開けるテチ!オメメを、ヂッ…!』 『アンヨがぁ!ワタチのアンヨはどこテチィーーー!』 PIROの近くに居た実装石たちは石粒を食らう前に、踏みこみや投げた後の手で、水風船を割るかのような音とともに、次々と染みになってゆく。 このままいけば野良実装たちはあと一歩で全滅というところで、予想外のアクシデントが発生した。 実装石の一匹が投糞したのである。そして、その糞が偶然にもシロの口の中に……。 「ヴォゲェェェェェェーーーーーー」 シロの音叉ボイスが止み、それと同時に実装石達はほうほうの体で逃げ出す。 団長とPIROが事態の異変を悟るも、結構な数を逃がした後だった。 どこから湧いて出たのか?太秦の警備を任されているガードマン達が殺到する。 「お前達!そこで何をやっている!」 「班長!実装石たちが!何者かに殺されています」 「逃げるぞ!PIRO、シロ!」 団長は部下の二人を伴い、その場から退散しようとするも、今だ嘔吐をしているシロ、汗だくで動けないPIROを見捨てて逃げるわけにはいかなかった。 「団長だけでも!逃げて」 「うぅ……う……」 「必ず助けに来る!それまで待っていろ!」 団長は文字通り断腸の思いで、その場からの撤退を図るが、褌をガードマンに踏まれ、その場で転んでしまう。 「逃がさんぞ!」 「グァ!こんな時に昔やった玉の捻転がぁ!グゥゥ」 ———太秦豪華旅館 太秦を一望できる豪華な旅館の一室に北大蛆は居た。 豪奢なバスローブンを纏い太秦の夜景を肴にブランデーを味わっていた。 「ん?」 北大蛆がいつもと違う愛実装の様子を気にかけていた。 『デスデス!寿司、ステーキ、コンペイトウはもう食べ飽きたデスゥ』 『そうデス!うに、いくら、フォアグラも飽き飽きデス!』 「ははは、そうかそうか。じゃあ今度は更に上の物もって来させよう」 実装石にとっては「寿司、ステーキ、コンペイトウ」はご馳走だが「うに、いくら、フォアグラ」に至っては、安物であっても人間にとってもご馳走である。 それを「食べ飽きた」などという辺りが、実装石の業であろうか? 殺石人のアノパンは怒りを必死に堪えながら、北大蛆と愛実装のエメラルドとスイのやり取りを聞いていた。 仕事を遂行するには”冷静さ”は不可欠である。 「オレが通販の仕事で必死なのにこの蟲ども!」 「殺気!何ヤツ!」 アノパンが怒りのあまりに囁いた小言を北大蛆は聞き逃さなかった。 北大蛆がどこから取り出したのか、日本刀を抜き放った! 何もない空間に裂け目が生じ、そこからアノパンの姿が現れた。 「ドイツ製の光学迷彩3万円今ならさらに同じものが…、ハッ!俺に何を言わせる気だ!」 「貴様!私の愛実装を狙ったな!さては殺石人か!」 ギン!ギギン!北大蛆の日本刀とアノパンのドイツ製調理包丁セットが火花を散らし激突する。 「やるな貴様!ではこれは!」 そういうと北大蛆は、バスローブの中から黒光りする立派なものを取り出した。 ダンダン! 銃弾にはじき飛ばされアノパンが何事もなかったかのように身を起こしながら北大蛆に言い放つ。 「ロシア製の防弾チョッキの前には銃弾も無力!」 「よく見たまえ。それはメイド・イン・チャイナだ」 「!!!!!!」 アノパンは真っ青な顔で、撃たれた部分をまさぐった。 血に濡れて真っ赤になった己の手を、まるで奇妙なオブジェを見るように眺めながら 「ク、クク、クーリングオ……」 「残念だったな。通販にはクーリングオフはないんだよ」 ダン! 既に息のないアノパンを一瞥すると、北大蛆は頭に”ヤ”のつく便利屋に電話をかけた。 『デププププ!バカ人間です!ご主人様は最強デス!』 『デピャピャ!惨めなバカ人間デスゥ!』 かつてアノパンであったものに投糞を続ける実装石を他所に、北大蛆は便利屋が電話に出るのをイライラと待ち続けた。 ———太秦撮影村にて 妖精の被るようなトンガリ房に似た帽子を被った男と着ぐるみの男の二人が闇の中で、音を立てずに、ただじっと居た。 「どうやら他の連中は失敗したようだな」 「……フゴフゴ」 「撤退するぞ!ギョン太君」 「フゴフフ……」 そういうとお互いの体に墨を塗り始めた。 そして音もなく闇夜に紛れその場を後にした。 ******************** 居酒屋 丹下 ******************** カウンター席に場違いな組み合わせの3人組が座っていた。 1人はタイツの半裸男、1人はトンガリ帽のような帽子を被った男、そして最後に着ぐるみの男。 「失敗だ!」 エガがグラスに注がれた安酒を一気に飲み干す。 「エガの旦那飲みすぎですぜ」 「オヤヂおかわりだ!」 「ン?エガの旦那何やら外が騒がしいですぜ」 オヤヂの一言で何かに気がついたエガがイスを引き素早く立ち上がった。 「オヤヂ二人を頼む」 そういうとエガは、入り口の引き戸をガラリと開け放ち、居酒屋を包囲していたガードマン達に襲い掛かった。 「ささ、旦那達はこっちへ」 「エガのヤツ、ムチャしやがって」 「フゴ…」 「ウォォォォーーーーーータァァーーーーーーベッッッドォォーーーー」 エガの絶叫が太秦にこだました……。 ******************** 太秦撮影所(資材倉庫) ******************** トンガリ帽のような帽子を被った男(ニョッポ)と着ぐるみの男ギョン太は居酒屋丹下の老主人に案内され地下道から脱出しことなきを得た。 「オヤヂあんた一体…」 「お前さんたち、ヘマ踏んだような」 先ほどまでとは違う老主人の口調に、二人は悟られぬように身構えた。 「止めときな!こちとらもう引退した身だ。誰だって命が惜しーわな」 そういうと老主人は耳の後ろ辺りに手を掛け、まるで変装用の仮面を剥ぎ取る仕草をした。 ベリベリベリ!という音と供に仮面が引き剥がされる。 「あ!あんた、死んだはずじゃ!」 「フゴフゴゴフ!!!」 さすがに普段はクールが売りの二人も驚いた。 殺石人の元になった蛆田がそこに居たのだから……。 「かかぁと女房が借金こさえるから、仕方無しに死んだことにしてたんだ」 「あ、あんたが加わればこの仕事!」 「おっと、俺はぁ銭になんねぇ仕事は受けねーぜ」 「フゴ……」 「まぁ頼み人が居ればッての話だがな」 そう言い残すと、蛆田は闇に溶けるようにその場を後にした。 残された二人は、蝋燭の薄暗い明かりを手にただ立ち尽くすしかなかった。 ******************** 太秦撮影所(広場) ******************** アキオは太秦の広場に居た。 トシゾウに実装石たちの末路を見届けるように頼まれた手前、こうなることも予想はしていたが、事がここまで大事になるとはまったくの予想外であった。 某サーカス団の3人組が全裸で市中引き回しの上、三角木馬の上で晒チクビの刑に処せられていた。 『よくもオトモダチを殺してくれたデス!』 『奴隷の分際で仔をコロシタデシャー!』 『オネチャと妹チャをかえすテヂィ!』 3人組に止むことのない投糞が浴びせ続けられる。 中には『デププププ』と厭らしい笑みを浮かべ、石の入った糞を投げる糞蟲も居た。 傍らにある立て札には、エガ、アノパンの指名手配書が貼り付けられていた。 実装石の抹殺の失敗を悟ったアキオは、思うところがあるらしく、似合わない変装をしてある場所へ向かった。 ******************** 居酒屋 丹下 ******************** ガラガラと引き戸を開けアキオが居酒屋「丹下」に入った。 「へい、らっしゃい」と蛆田がいつものようにアキオに声をかけてくる。 日も高く店にはアキオを含めて客が5人も居ない状態だった。 いつものようにカウンターに腰を下ろし、蛆田に酒を注文する。 そして蛆田がいつものように酒をアキオに出した。 そう、いつものように……つとめていつものようにアキオが口を開いた。 「オヤヂさん、殺石人ってご存知ですか?」 蛆田の動きが一瞬、ほんの一瞬、止まったのをアキオは逃さなかった。 「へぇ?なんですか、その殺…何とかってのは?」 「殺石人ですよ。殺石人。オヤヂさんなら顔が広いし、知っていると思ったんですがね」 「アキオさん悪いことは言わねぇ。太秦出て行ったほうが良いよ」 「……オヤヂさんもしも殺石人ってヤツラがいたら、自分の代わりに頼んでおいてもらえますか?」 そう言って、アキオはカウンターに厚みのある茶封筒を置いて、店を後にした。 それに続くように蛆田は店の入り口に「準備中」の看板をかけた。 見計らって、浜崎と有田というチビとノッポの二人がなれなれしく蛆田に話しかけてきた。 「オヤヂ!久々の仕事か?」 「浜崎くん声大きいって」 「なんや有田ビビリやのう」 「こっちの若いのはヤルらしいが、あんたはどうするんだ」 奥の座敷座っていた男がゆっくりと立ち上がり蛆田に近づいてきた。 「蛆田さぁん仲間がぁ仲間がぁ」 エガだった。その禿散らかした頭を見れば、エガがここに来るまでの道のりがいかに険しかったかが窺える。 「エガ!人手がたりねぇ。ニョッポとギョン太も呼んで来いついでに、調べてもらいてぇ事がある」 エガはニカリと笑みをこぼし、カツラを被って店を後にした。 ******************** 再度仕事決行! ******************** この間の騒ぎもあり、太秦の警備は更に厳しい物となっていた。 野良実装達ですら保護のために、特別な施設まで建てられる有様だ。 そしてその施設に、野良達の娯楽の提供と称してニョッポとギョン太が入り込む。 「ホーラ、ホラホラ実装ちゃん、おもちゃだよー」 ニョッポがスポンジボールを片手に仔実装達を集め、目にも止まらぬ早業で遅効性のコロリが塗られた小さな針を仔実装の眉間に撃ち込みまくる。 『ホヂッ!』 『ヂッ』 『テッ・・・』 眉間に針を打ち込まれた仔実装達が、イゴイゴイゴと小刻みに痙攣をしている。 ニョッポは満面の笑みで最後の一匹の眉間に針を刺したままグリグリと回していた。 『テ…ヂ……ヂ…ホ…ヂ…』 ズズズズッと残りの針を根元まで押し込む、仔実装は残像が見えるほど高速で痙攣していた。 「そろそろ行くぞ!ギョン太!」 ニョッポの問いに、辺りをフラフラ歩いてはずのギョン太が、振り向きざまに着ぐるみの裾を掴んで持ち上げると、中からぐったりとした実装達が山のように現れた。 脛毛が生い茂る足で、汚い物を遠ざけるように気ぐるみの中に居た実装石たちを蹴り出す。 ギョン太は、極度のワキガと油足のせいで着ぐるみ内は想像を絶する悪臭が蔓延している。 その中に実装達を閉じ込めたのだ。 人間でさえ油断すると気絶するほどの悪臭である、実装ごとき耐えられるわけもなく、ことごとくパキンしていた。 「ギョン太。お前屁もしたな……」 気を抜くと意識が飛びそうな悪臭の中で、ニョッポさんが消臭スプレーを辺りに散布する。 その後示し合わせたように、ガードマン達に異常を知らせた。 ガードマンが駆けつけるころには、仔実装たちの眉間にある針の傷はふさがっていた。 二人はガードマンに持ち物チェックを受けたが、それらしい凶器も出てこず、野良実装保護施設を後にした。 水路脇の小さな広場に、ジソ平のS級実装石サンバ隊は調教師の下、辺りが暗闇に包まれる時間になっても振り付けの練習をさせられていた。 「お前達!楽園に行きたければこのサンバをモノにしろ!」 「いいかお前ら本番もこの場所だから、近くにある水路には間違ってもおちるなよ!」 『『デ』』 一糸乱れぬ返事に調教師は満足げに頷いた。 だが実装の鳴き声は返事ではなく、調教師の後ろに現れた有田という闖入者に対して発したものだと気づくのはだいぶ後だった。 ガス! 「ウッ!」 有田の当て身を喰らって調教師がその場に崩れ落ちる。 「無双タイムのはじまりや!いくでぇーー」 ネイルハンマーと錆びた鋸を両手に構え、実装石たちに襲い掛かる。 実装石たちが怯え、逃げまどう。 位置的にどうしても水路側に逃げてしまう実装石たちの中に、一匹水路に飛び込んで逃げようとしたものがいた。 『デ!デェェェ!に、逃げるデスゥ』 トゥ!とジャンプしたが、その実装は落下することはなかった。 水面から突き出た銛に、空中で串刺しにされていたからだ。 ザバァァ!と水の中から、全身黒のウェットスーツに身を包んだ浜崎が現れる。 「取ったどぉー!」 浜崎の奇声を合図に一方的な殺戮が行われた。 『テギャーー!』 『デェーーー!』 恐怖のあまり動けない実装は浜崎の銛の餌食になった。 奇声を上げる浜崎とは対照的に有田は声を発することもなく、実装の背後に忍び寄りネイルハンマーでひたすら殴り続けた。 時には錆びた鋸でなで斬りにし、時には捕まえた実装の方耳にシュノーケルをあてがい、息を吹き込み反対側の耳から脳漿を吹き飛ばしながら、二人は愉快に仕事を楽しんだ。 「浜崎くんあっちに二匹逃げたで!」 「オッシャまかせとけ!」 そういうと浜崎は水路に飛び込み、水路沿いに逃げた実装石を追った。 『デヒィ!デヒィ!ココまで来れば大丈夫デス』 『デェェェ!オトモダチがぁいっぱい逝ったデスゥ』 水路に掛かった、小さな木の橋の下にある石垣の隙間に二匹は隠れていた。 浜崎有田の追撃をかわしたつもりであろう。息を整えて石垣の隙間からチラチラと顔をのぞかせていた。 『デフゥ!どうやら大丈夫デス』 『良かったデ……』 実装が言い終わらないうちに、それは起こった。 水面が盛り上がり、ザッパーーンンという音とともに浜崎が銛を持って現れたのだ! ヒュッ! 寸分たがわず狙いをつけられた銛は、実装の両目とその間の3箇所に突き刺さり、絶叫する暇もなく水中に引きずり込まれた。 取り残された最後の一匹は訳側からず、石垣の隙間の奥をひたすら素手で掘り続け、パンコンするだけしかなかった。 その行為が功を奏したのか?浜崎の銛も石垣の奥には届かず、ついには浜崎も諦めてしまった。 ザッザッザッ、実装が石垣の奥を掘り進めている中、人間が地上から近づいてくる足音がし、突如足音が止んだ。 いつもなら警戒したであろうが、人間の姿が見えないせいもあり、実装は休まずに掘り続けた。 「ここらへんかなぁ?」 そう独り言を言うと、有田が地面に五寸釘を構えネイルハンマーを振り上げた。 「ココやぁ!」 ゴン 『ヂ……!』 穴を掘っていた実装の小さな鳴き声と、五寸釘を伝わってイゴイゴと痙攣している振動、有田は更にネイルハンマーでもう一撃を加えた。 ブババビチビチビチ! 断末魔の代わりに、盛大にもらした脱糞の音が惨事の終わりを告げた。 「今日は大漁やのう!有田」 「浜崎くん早くズラかろう!さっき当て身喰らわした人起きるよ」 軽い足取りで二人はその場を後にした。 北大蛆は着流しに刀を腰に差したいでたちで、愛実装二匹と散歩を楽しんでいた。 この間の騒ぎで、日課である散歩を自重するのは「大御所としての体面にかかわる」といった理由で、SPまで雇っての散歩であった。 『テチューン♪ご主人様おトイレに行きたいデスゥ』 『テチューン♪ワタチもいきたいデスゥ』 「そうかトイレか、今日はたくさん食べたからなぁ。さぁ、SPを付けるからゆっくり行って来なさい」 SPの護衛の下エメラルドとスイは近くにある高級ホテルのトイレまでやってきた。 『テヂャーー!下僕供!高貴なワタシのウンコする姿を見るなデス!』 『デシャーーー!奴隷は奴隷らしくトイレの外で待っているデス!』 SPたちは仕事柄しかたなくトイレの個室を確認した。 和式便器と人が通れないほどの小さな換気窓があることを、トランシーバーで北大蛆に伝えた後エメラルドとスイを個室に入れて、トイレの外で待機することになった。 ———それから10分後 「それにしても長いな」 「ああ、たぶん嫌がらせだろう」 ———更に10分後 さすがにおかしい思ったSPたちはトイレ個室に駆け込んだ。 するとトイレの換気窓から小男が顔を突き出した体勢でこう言い放った。 「このエスパー後藤忍び込めぬ隙間無し!」 SPたちが後藤を捕まえようとするが、スルリと換気窓から離れどこかへ行ってしまった。 その知らせを聞いた北大蛆は激怒した。 「貴様らクビだぁ!」 連絡用のトランシーバーを地面に叩きつけ、更に踏みにじった。 「エメラルド!スイ!きっと助けてやる!」 怒り冷めぬ北大蛆の前に、ギャグボールを咥えさせられた実装を抱えたエガが現れた。 「貴様指名手配のエガ!エメラルドを!スイをかえせぇ!!」 腰に差した日本刀を抜き放ち、北大蛆はエガに襲い掛かった。 エガはニヤリと笑い言い放った。 「ドォォーーーーン」 抱えた実装の総排泄口から頭を突き抜けるまでタイツ越しの腕が、実装の全身を貫く。 ギャグボールを咥えた口の隙間から、体液とも糞ともいえない汚らしい緑の汚物が、安物の水鉄砲のようにピューピューと吹き出る。 怒りと勢いに任せエガを叩き斬ろうと、北大蛆は日本刀を大上段に構えたが、愛実装の亡骸を投げつけられ、必殺の一撃を放ち損ねた。 「エガ!貴様だけは、貴様だけは!」 愛実装の亡骸にベルターチュオリジナルを添えると、鬼のような形相でエガに向かって走り出した。 エガもそうなることは予想していたらしく、太秦の暗い路地を走り続けた。 ———どのくらい走り続けたのだろう?北大蛆は息も上がり、エガ追撃を中断することにした。 そこへ実装石を抱え、マフラーで口元を隠した時代劇の役者風の男が出てきた。 「おや?北大蛆さんですか?」 「いかにも!北大蛆だ!貴様の手にしているものはなんだ!」 「さっき変な男が、この実装ちゃんを落としたので、はぁ」 「なに!その実装見せてくれるか!」 「はぁ、どうぞ」 「よくやった!そうだ名前を聞いておこう。大御所たる北大蛆が礼もせんのは、体面を損なうからな」 「ウ……タ、と申します」 「よく聞こえなかったな、もう一度言って貰えるか」 「蛆田と申します」 「…………蛆田だと!死んだはずでは!」 ズギュ! 抱きかかえた愛実装ごと北大蛆を蛆田の刀が刺し貫いた。 「地獄の閻魔さんは、オレよりアンタの命がご所望らしい」 そう言いきると、刀で傷口抉るように手首を回してから引き抜いた。 ******************** 居酒屋 丹下 ******************** ——————仕事も終わりいつものように居酒屋をやっている蛆田のもとにアキオが尋ねて来た。 「といった顛末でさぁ旦那」 「そうですか、コレでトシゾウさんの無念も晴れる」 「何か忘れちゃいやせんかい?」 「は?」 「とぼけてもらっちゃ困りますぜ。愛護派近畿支部のアキオさん」 蛆田とカウンターを挟んで座っていたアキオの顔がみるみる青ざめていった。 「な、何のことだか、自分にはさっぱり」 「反愛護派と殺石人を駆除する腹積もりだったらしいが、そうは問屋がおろさねぇ」 「待て、自分には何のことやら」 いつの間にか店内には客はおらず、両隣には殺石人のメンバーが座っていた。 エガが無造作に写真をアキオに投げつける。 「コイツ!オレ達をかつぎやがった」 写真には北大蛆、ジソ平、アキオが仲良く写っていた。 「コイツが俺たちを嵌めやがったのか!」 「フゴフゴ!」 「こ、ここ、これは何かの間違いだ!そう、誰かが自分を嵌めようと」 そういってアキオが立ち上がろうと、カウンターに手を着いたその時 ズキュ! 「グゥ!」 カウンター越しに蛆田が、刃を上にした刀で突き刺した。 「まぁゆっくり座な」 立ち上がろうと少し浮き上がった上半身を、カウンター越しに手をアキオの肩に当てて座らせた。 ズギュギュギュ 上に向いた刃が刺さっているので、上半身が下がるにつれアキオの腹を割く。 「グゥゥ……ゥゥゥ!」 有田がその刃を中ほどをネイルハンマーで叩き折り、ニョッポがアキオの腹に刺さった刃に和紙を巻き付けた。 「コレで立派な切腹の出来上がりよ」 こうして全ての犯行の黒幕はアキオということで太秦撮影所事件は幕を閉じた。 ******************** ******************** 実装ネタの割合が少ないのであまり楽しめない方もおられると思いますが 最後まで読んでいただきありがとうございました。 当方国語能力が低いので、ご覧の方に満足いただける出来かどうか自信がありませんが 消すのもどうかと思いこのたび投稿してみました。
