タイトル:【肥育】 高級食用仔実装
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初投稿日時:2011/10/18-03:21:01修正日時:2011/10/18-03:21:01
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「…ええ、納期までにはなんとか。 …ハイ、わかりました。では数が揃い次第また追って
 ご連絡を…。 …いえいえ、こちらこそ毎度ご贔屓にして頂き…。 …それでは失礼いた
 しますー…」

ガチャリ

「よし、久々の大口注文だぞ!」

受話器を置いた俺は拳を握り大きくガッツポーズを取った。
そのまま意気揚々と口笛を吹きながら伝票にペンを走らせ、顧客の名前、連絡先、注文数、
期日などを書き込んでいく。
それが終わったら『商品』のチェックだ。
期日にはかなり余裕があるが何しろ俺の扱う商品は生産性がかなり悪い。そして俺の様な自
営業者は一度信用を失ったらおしまいだ。なんとしても間に合わせるためには今から余裕な
ど捨てて取り組まねばならない。
どうしても最終的には運に頼ることになるがその成功率を上げるためにも尽くせる人事は尽
くしておかないとな。
伝票を書き終えた俺は机の上の台帳を手に取り、今日の日付のページを開いた。

「今日は…、っと。『403』がOKだな」

台帳を確認した俺は続いてスタンバイ状態だったパソコンを起動させ、表示されたリストの
中から『403』にカーソルを合わせてクリックした。
画面が切り替わり、モニターに様々な角度から撮ったある部屋の様子が分割で映し出される。
さらにその中のひとつをクリックすることでその画面がモニターいっぱいに拡大された。

『「デッデロゲー♪ デッデロボェー♪」』

映し出されたのは白いベッドの上に腰掛け、大きく膨らんだ腹を撫でながらズレた音程で胎
教の歌を歌う両目が緑に揃った成体実装だ。
そう、俺の仕事は実装石のブリーダーである。ただし仔実装を飼いになるよう躾けてペット
ショップに卸すようなブリーダーとは少し違う。
なぜなら俺が育てるのはペットとしての仔実装石ではなく、『人が食べるための』仔実装だ
からだ。





【パンチョ第6話・高級食用仔実装】





『「デッデロゲー♪デッデロボェー♪ 早く生まれてくるデッスー お外は天国楽園デスー
  おいしいゴハンにポカポカおふろ、あったかいフトンで眠るんデッスー 優しいゴシュ
  ジンサマに愛されてー シアワセいっぱいに暮らすデース♪」』

幸せそうな笑顔を浮かべたまま妊娠実装の胎教の歌が続く。
この妊娠実装、『403』がいるのは4畳ほどの小さな…、とはいえ実装石が住むには十分
過ぎるほど広い部屋である。
床はピカピカのフローリング、壁は真っ白なタイル張り、天井からは大き目の照明が室内を
優しく照らしていた。
さらに部屋の奥には実装石でも開閉可能なドアが付いていて、入った先はやはり実装石でも
使用できるシャワー付きバスタブとウォシュレット付きトイレを備えたユニットバスとなっ
ていた。
そのうえそれらすべての部屋に空調が行き届き、実装石にとって快適な温度と湿度になるよ
う調整されている。
飼い実装でもここまで至れり尽くせりの環境のものはそうそういないだろう。

「さてと、それじゃ始めるかな」

この『403』はちょうど1週間前に種付けした個体だ。
上質なマラ実装の種を元に、健康な母体から栄養をたっぷりと受けて育った胎児はプリップ
リの仔実装となって生まれてくる。
実装石の妊娠期間はおよそ1週間。放っておいても今日明日には出産になるだろうがここで
はその1、2日のズレを失くすため、そして確実に出産に立ち会うために1週間ジャストで
強制出産させることにしていた。

強制出産と言っても眼球を染料などで染めるようなマネはしない。そういった無理矢理な方
法では母体にストレスを与えることになってしまう。あくまで自然に、少なくとも母体には
そう思わせながら出産させなければならない。
俺はマウスを動かし、『403』の項目にある出産アイコンをクリックした。
[出産させますか?]のチェック画面で間違いなく『403』が選択されていることを確認
して再度『OK』をクリック。これで準備完了だ。

今行った操作により『403』の部屋の照明は5分間、数秒に1回の間隔で赤いフラッシュ
を焚き続ける。それは認識できないほどほんの一瞬ではあるが、繰り返したかれることによ
り確実に妊娠実装の意識へと擦り込まれていく。
いわゆるサブリミナル効果というやつだ。
これにより無意識のうちに両目に赤を感じた妊娠実装の体は自然に出産へと向かい出す。
緑だった瞳は見る見るうちに赤く染まり、大きく膨らんだ腹は仔を産み出そうと蠢いた。
程なく『403』は出産を始めるだろう。

『「デデッ!? そろそろ生まれそうデス! ゴシュジンサマ! ゴシュジンサマー!」』

『403』もそれを感じ取ったのだろう。モニターの中で俺を呼んで叫んでいる。
その声を背で聞きつつ、俺は『403』の元へ向かうべく事務所を後にした。



元々俺はただの虐待派だった。
実装石を生きたまま調理し喰らうというのもそれこそ最初は単に虐待の一環でしかなかった。
だがいつしか俺は実装石の独特の味、歯ごたえ、そして自らが、あるいは仔が、親が、目の
前でオイシクされていくことへの悲鳴、絶望に満ちた表情、そういったものに魅了されてし
まった。
鍋派として目覚めた俺は実装石がどうやったらより美味い肉になるかの研究に没頭した。
実装石はストレスを与えると肉が締まり美味くなる。これは周知の事実だ。
ではどのようなストレスがもっとも適しているのだろうか?
切るのか? 叩くのか? 孤独にさせるのか?
そういったことを延々と繰り返した結果、俺は遂に理想とする食用仔実装を生み出すことに
成功したのだった。
当初は一度に作れる頭数も少ないため個人的に酒のツマミなどとして楽しむ程度だったが、
ある日同じ鍋派の知り合いに食べさせたところ「これは商品として通用する。ぜひ販売して
いくべきだ!」と強く勧められた。
さらにコネのあった知り合いはなんと実装産業の大手『メイデン社』から融資の話まで持っ
てきてくれたのだ。
ちょうどその頃の仕事に嫌気の差していた俺はこれを機にと一念発起して脱サラし、食用仔
実装ブリーダーとして再出発したのだった。
最初の頃は苦労の連続で時に後悔をしたこともあったが、実装肉が世間的に認知されるよう
になるにつれて注文も増え、今では企業などから株主への御中元や御歳暮用にとまとまった
数を依頼されることも多くなった。先程の大口注文もメイデン社からの依頼である。



事務所を出た俺はプラスチックのタライを手に廊下の先にある階段を駆け足で4階まで昇る。
俺が実装石の飼育場として選び、メイデン社の融資を元に買い取ったもの。それは5階建て
の小さなワンルームアパートだった。
ひと階辺り5部屋持つこのアパート。仔実装の生産に使う各部屋は用途に合わせて改修して
あるが1階は先程まで俺がいた事務所と俺自身の居住空間、その他作業部屋として利用して
いる。
そして4階と5階の計10部屋にそれぞれ母体となる出産石を1匹ずつ住まわせているのだ。
今から向かう出産石のことも『403』なんて意味あり気な記号で呼んでいるが何のことは
ない。単に部屋番のことである。

ガチャガチャ… ガチャリ

4階に着いた俺は403号室の鍵を開けて中に入った。

「ゴ、ゴシュジンサマッ! タイヘンデス! 仔が生まれそうデスゥ!!」

その途端、予定通り両目が赤く染まった『403』が足元まで駆けて来てイゴイゴと腕を振
りながら訴えてきた。

「ああ、わかってるよミドリ。大丈夫だからバスルームへ行こう」

ミドリとは『403』に与えた名前だ。もっともここにいる10匹の出産石には全匹ミドリ
と名付けてある。これならうっかり呼び間違うことがない。
人間から名前を貰うことを特別とする実装石はその名を呼ぶだけでストレスの軽減作用があ
ることがわかっている。だが逆に同属に限らず自分と同じ名前のものがいると知ると非常に
激しい嫌悪感を抱くことも知られていた。
しかしここの出産石達は少なくともここでの飼育中に他の〝ミドリ〟に会うことはまずない。
最後のお勤めのときまで自分のための特別な名前と信じているのだ。

俺はそんな『403』を連れてバスルームへ入る。
『403』が服を脱いでいる間に湯を適温に調節して持って来たタライに半分ほどまで注い
でおいた。
さらにその中に新生石用粘膜除去剤を流し込んでよく混ぜる。

「さ、おいでミドリ」

準備が出来たところで全裸になり胸と股間を手で隠してモジモジしている『403』を抱え
てタライの中に入れた。

「デッデッスー…! デッデッスー…!」

さすがにこれまで何度も出産を繰り返してきた『403』は慣れたものだ。
タライに入るやいなやその縁を掴み尻を突き出すようなスタンスで力み出した。ブピピッと
屁と共に軟便が流れる。
糞袋として子宮も大腸も一緒くたの実装石。出産の際に漏れる便は潤滑油の役割を果たすら
しい。
こんなナマモノでもそれなりの合理性は持っているものだ。

「テッテレー♪」

そんなことを思っているうちに1匹目の仔実装が産声と共にヌルンと飛び出してきた。
そうして一度総排泄口が開いた後は残りの姉妹も一斉に続く。

「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」

タライの中に次々と仔実装が産み落とされる。
仔実装といっても生まれたての段階では手も足も後ろ髪もなく蛆実装と変わりない。
だが姿こそ同じでも仔実装となるべく生まれてきた仔は大きさも身の締まり具合も未熟児で
ある蛆実装などとは大違いだ。

「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」
「デヘェ… デヘェ… これでぜんぶデスゥ」

9匹目の仔実装が産み落とされたところで『403』の出産は打ち止めとなった。
多産である実装石は通常一度の出産で10匹前後の仔実装を産み出す。
ふむ、『403』が今まで10匹を割ったことはなかったはずだが…。
どんなに栄養状態が良い出産石でもさすがに何度も出産を繰り返していると徐々に出産能力
は低下していく。
うちの出産石達もそれは例外ではなく、徐々に仔の頭数が落ち、親指や本当の蛆実装が混じ
るようになったら交換の時期だ。
別室で出産石候補として育てている個体と取り替えることになる。
とりあえず今回『403』の仔には親指や蛆といった出来損ないはいなかった。
9匹とも肉付きが良く丸々としていてこのまま食べても美味そうなくらいだ。

「ゴシュジンサマ?」

口元にヨダレを浮かべてタライの中の仔実装を見つめていた俺は『403』の声で我に返っ
た。
いかん、いかん。鍋派の性というか、美味そうな実装石を目の前にするとついつい調理法や
味付けを考えてしまう。早く粘膜を取らないと全部台無しだ。
俺はタライのぬるま湯の中、仰向けで浮かんでいる仔実装を手に取るとその全身を手の平で
揉み合せるように擦る。
それだけで粘膜除去剤入りの湯に浸かっていた仔実装の粘膜はボロボロと崩れ落ちていった。
おもしろいものでその途端申し訳なさ程度の突起だった手足がオクルミを突き破ってグイグ
イと伸び始める。その際腕はそのまま貫通していくが、足の方は先端にオクルミの切れ端が
付着したままだ。
そして伸びる手足とは逆にピコピコと動いていた尻尾は見る見る縮んでいき、同時にオクル
ミの糞穴が大きく広がってワンピース型のスカートへ変化していく。
さらに一体化していたフードが分離して頭巾となり、うなじ付近の隙間から後ろ髪がゾワゾ
ワと生えてきた。
最後に肩から胸にかけての実装服の一部が剥離、脱色されて前掛けとリボンを形成し、足先
に付いていたオクルミの切れ端が靴になったら一丁前の仔実装の完成だ。
この間わずか数秒の出来事である。

「テッチューン☆」

粘膜が取れ、完全に仔実装となった仔が開口一番俺に媚びてきた。あまり賢くはなさそうだ。
手にした仔実装は床に降ろされるとさっそくテチテチ言いながら辺りをウロウロし始める。
どこにも行きようがないのでソイツは放っておき、俺は2匹目の仔実装を手に取りって同じ
ように粘膜を擦り落としていった。

「カワイイデスゥ! カワイイデスゥ!」

出産を終えた『403』も仔の1匹を抱き上げ、ベロベロ舐めて粘膜を取っていく。

「テチュ? ママテチ! 会いたかったテチィ」
「お?」
「デデッ!? お前は賢い仔デスゥ!」

実装石の賢さは生まれた直後の反応でわかる。第一声が意味のある言葉だった仔は非常に賢
い仔である可能性が高い。逆に1匹目の様に媚びたり泣き出したりと本能的な行動を取った
ものはあまり賢くないことが多かった。
ただしこれはあくまで知能の話であり、実装石には賢い糞蟲や愛情深い馬鹿といった個体も
いるので性格面はまた別の問題ではあるが…。
ともかく賢い仔が生まれたのは久しぶりだ。大半が並以下の知能しか持たない実装石の中で
生まれながらに賢い個体は貴重である。
『403』から仔を受け取った俺は腰に巻いた作業ベルトから赤の油性マジックを取り出し、
頭巾の目立たないところにこっそりと目印の点を打っておいた。
その後も残りの仔実装達の粘膜を『403』と二人がかりで除去していく。
残念ながらその中には賢い個体は見つからなかった。

「デスーン さあオッパイデスゥ。いっぱい飲んで元気な仔になるデスー」
「ング ング ング… プハーッテチ! オッパイおいしいテチー!」
「テチャァッ! 早くどくテチィ! 次はワタチの番テチャァ!!」

9匹全部の粘膜を取り終わった『403』はさっそく仔に母乳を与えている。
多産のくせに実装石の乳首の数は2つなので姉妹達は押し合いへし合いの大乱闘だ。
俺はすっかり緑に染まったタライの湯を流し、軽く掃除しながらその様子を眺めていた。
見れば我先にと姉妹が乳に群がる中、赤い印を付けた仔実装だけがおとなしく待っている。

「どうした? おまえは行かなくていいのか?」
「ワタチはオネチャだから後でいいテチ。先にイモチャたちに飲ませてあげたいテチ」

ほう、賢いだけでなく愛情も深い個体か。これは久々の大当たりだぞ。

「えーと、お前は何番目だ?」
「ワタチは次女テチ」
「次女? じゃあ長女はどうした?」
「長女オネチャはあそこテチ」
「テシャァッ! イモウトのくせにナマイキテチ! ママのオッパイはワタチのものテチ!
 おまえらはワタチが満足したらオノコリにありつけばいいテチィ!」
「ああ、あの乳にしがみ付いたまま妹を蹴り落としてるのがそうか」
「イモチャたちがカワイソウテチ…」
「はは、妹達も似たようなもんだがな。まあ俺はお前達が元気に育ってくれればそれでいい」
「テ…? そういえばニンゲンサンはだれテチ?」
「俺か? んー、お前達のママの飼い主だ」
「ママのカイヌシテチ? じゃあワタチたちのカイヌシでもあるテチ?」
「・・・・・、まあそうだな。特にお前とは長く付き合うことになるかもしれないしな」
「テチュ…?」
「さてと…だ」

次女との会話を断ち切り、洗い終わったタライの水を流して俺は立ち上がる。

「よく頑張ったな、ミドリ。それじゃ俺は朝食を用意してくるからしっかり仔達の面倒を見
 るんだぞ」
「ハイデス、ゴシュジンサマ。みんな私のカワイイ仔デスゥ。大事にするデス」

嬉しそうに返事をする『403』の頭をひと撫でし、俺は403号室を後にした。
さあ、これからがひと仕事だ。各階にいる様々な目的の実装石達にそれぞれに合わせた餌を
配らなくちゃならない。
俺は駆け足で給餌用作業室のある1階まで降りて行った。



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「うーし、待たせたなー」

再び俺が403号室を訪れたのはそれから30分ほど経ってからだった。
手にしたトレーには朝の分の餌がこんもりと盛られている。

「デッスーン☆ ゴシュジンサマ、ありがとうデスゥ」
「出産で体力使ったんだからしっかり食べて栄養付けなくちゃな」

そう言って『403』の前にトレーを置いてやるとさっそく手づかみでボリボリと食べ始め
る『403』。

「おいしいデス、おいしいデス〜ン!」

『403』に限らずここの出産石達に食わせているのはローゼン社製の高級実装フードであ
る。
特殊調味料により極めて実装石好みの味に調整されたフードで、その美味さ故一度これを食
べてしまった実装石はもはや普通のフードや食物では満足できなくなってしまうほどの代物
だ。
稀にネジの飛んだ愛護派が自称善意で公園などの野良実装に与えることがあるが、それを食
べてしまった野良実装のその後の運命は想像に難くない。
そしてこのフードは味だけでなく栄養面にも優れていた。実装石の健康に必要な肉、魚、野
菜、その他様々な自然食材の養分が一粒一粒にたっぷりと含まれた非常に栄養価の高いフー
ドなのだ。
だが俺はこれにさらにひと手間加えていた。それがフード全体にまぶせられた緑のフリカケ
である。
このモスグリーン色をしたアオノリにも見えるフリカケの正体は粉末状になるまで細かく砕
いた生まれたての仔実装の偽石だ。
実装石の命そのものとも言える偽石にはカオス成分と呼ばれる未知のエネルギーが凝縮され
ている。
この成分は実装石の成長や健康、寿命に深く影響し、直接あるいは間接的に摂取することで
実装石の体調が著しく上昇することが知られていた。
野良実装間でも同属喰いを繰り返す個体ほど体付きが逞しくなっていくのはこういう理由で
ある。
特に生まれたての仔実装の偽石は成長や代謝で消費していない分、より濃くカオス成分を内
包している。これを砕いて高栄養フードと一緒に食べさせることで常に出産石達のコンディ
ションをトップに保ち、商品向けの質の良い仔実装を産ませるのだ。
もちろんこれは出産後にも続けられる。出産石の体を次の妊娠へ向けて備えつつ、母乳を介
して仔実装達へも摂取させるためだ。
もともと実装石の母乳には親実装の偽石を元とする微量のカオス成分が含まれている。
これは仔実装の成長になくてはならないものであり、母乳を飲んで育った仔とそうでない仔
とでは成長速度や免疫力、健康状態に大きな差が見られることがわかっていた。
よって我が社では仔実装を生後1週間まで親実装に育てさせ、その間たっぷりと母乳を与え
るようにさせている。
上記の方法で他石の偽石を十分に摂取している親実装の母乳には通常の数倍以上の濃いカオ
ス成分が含まれ、それを飲むことで仔実装はより上質な肉質へと成長していくわけだ。


「テッ!? ママなに食べてるテチ!? ずるいテチィ! ワタチにもよこすテチッ!!」

『403』が夢中になって餌を食べていると姉妹で遊んでいた仔実装の1匹が気付いて駆け
寄ってきた。
そのまま餌皿からフードを一粒奪い取ると大口を開けてかぶり付く。
だがまだ歯も生えていないような生まれたての仔実装では硬いフードを齧ることが出来ない。
出きる事といえばせいぜいしゃぶる程度だがそれでは大して味も出てこないだろう。
もちろん世の中には新生児用の軟質フードも存在している。しかし今は仔実装に母乳以外の
ものを口にされるのは望ましくない。
よってここでは仔実装が食べてしまわないようにあえて硬めのフードを採用していた。

「テムテムテム… テッチャァァァッ! かたくて食べれないテチィ!!」

やがて癇癪を起こした仔実装は床にフードを投げつける。

「デスー おまえたちにはまだ早いデスゥ。もう少し大きくなったらオイシイものがたくさ
 ん食べられるようになるデス。だからいっぱいオッパイ飲んで元気な仔になるデスー」

投げ捨てられたフードを拾って口に放り込みながら『403』は仔の頭を撫でた。

「さて、それじゃ俺はそろそろ行くからな。次来る昼飯の時には一緒に仔共用のオモチャを
 持って来てやるよ」

そう言って俺は立ち上がる。
なにしろまだ多くの出産石への餌やりが残っている。『403』ばかりに時間をかけている
暇はない。

「ありがとうデスー、ゴシュジンサマ。みんな喜ぶデスゥ」

テチテチと騒がしい403号室を後にし、扉を閉めて鍵をかける。
途端に室内の喧騒は聞こえなくなった。このアパートを買った理由のひとつがこの防音性だ。
これにより各部屋にいる出産石およびその仔実装達は周りに同じような家族がいることに気
付くことなく、自分は飼い主に愛された特別な存在だと信じて疑わない。
外界から隔離されたこの部屋が彼女の全てであり、外の世界を知らない仔実装達は部屋から
出たいとも思わないだろう。
こうして幸せに満ちた親仔の蜜月は仔実装達が第一次成長期を迎えるまで1週間続けられる。



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【1週間後(仔実装生後1週間)】



事務所にて俺は手にした台帳を捲り本日の日程を確認する。

「えーと、『401』『505』が出産、『403』が回収か…」

今日で『403』が出産してからちょうど1週間が経った。
この頃になると仔実装には歯が生え始め、いよいよ固形物が食べられるようになる。
母乳からたっぷりと栄養を取って下準備を整えた身体はそうして得たエネルギーを元に爆発
的な成長を遂げる。
栄養状態が良ければひと月ほどで成体まで成長する実装石。このまま放っておけば出産石用
の高栄養フードを食べ出してあっというまに中実装だ。そうなる前に親元から引き離し、次
の育成部屋へと送り込む必要がある。

「今日はやることが多いな。急がなくては…」

とりあえず俺は最優先事項である『401』と『505』の出産準備に取り掛かった。



その後『401』『505』の出産を終え、各階に餌も配り終えた俺は大きめのキャリーケ
ージを手に改めて403号室へと戻ってきた。

「入るぞー、ミドリ」
「ウマウマテッチュン☆ ウマウマテッチュン☆」

あーあ、案の定仔実装の1匹が『403』用の高級実装フードに齧りついてやがった。
さすがにまだバクバクと食べれるほどではないが生えかけの歯を使って角から削りながら少
しずつ食べているようだ。
おそらく姉妹でもっとも親の食べているフードに固執していた長女だろう。
まったくバカなヤツだ。最後の最後にそんな美味いものを食ってしまって後で辛い思いをす
るのは自分だぞ。
一方で他の仔実装達は以前俺が持ち込んだオモチャ、スポンジボールやミニカーなどでそれ
ぞれ好き勝手に遊んでいる。
そして俺を見ればいつでも笑顔で迎えていた『403』の表情が今回は暗い。
正確には俺ではなく手に下げたキャリーケージを見ていた。

「デェェ…。 もうデスか…」

俺はそんな『403』の近くにケージを置いてフタを開ける。

「さ、ミドリ。みんなにお別れを言いなさい」
「デスゥ…」

『403』は気乗りしないようだがそれでも俺に逆らうことはない。我が社で出産石として
選ばれた実装石は皆、高級飼い実装並みの躾を受けているからだ。

「みんな聞くデース! 今からおまえたちはそれぞれ新しいゴシュジンサマのとこへ貰われ
 ていくデス! だがら… ママとは… おわがれデズゥ…!!」

そう言って泣き出す『403』。今までに何度も繰り返したことなのにコイツは毎回こうだ。
他の出産石に比べて情が深いらしい。
そしてそんな親を見て仔実装達も混乱していた。お互いに顔を見合わせては何事かテチテチ
話している。

「ママ、どういうことテチ? ワタチたちはちがうニンゲンサンのところに行くテチ?」

おずおずと尋ねてきたのは頭巾に赤い印を付けた仔実装、次女だ。やはりコイツは頭がいい。

「そうデスゥ。ヒック…、おまえたちは違うニンゲンサンの飼い実装になるんデス。グス…、
 そこで新しいゴシュジンサマに愛されてママみたいに幸せに暮らすデス」

ここにきてようやく状況を理解し始めた他の仔実装達も一斉に色めき立つ。

「テェー! 飼いになったらママみたいにおいしいゴハンがたくさん食べれるテチ!?」
「そうデース! おいしいゴハンを毎日おなかいっぱい食べれるデスゥ。それだけじゃない
 デス! 自分用のフカフカベッドも貰えるデス! おっきくなったらカワイイ仔もたくさ
 ん産めるデース!」
「どうしたらいいテチ!? どうしたら飼いになれるテチ!?」
「あのケージの中に入るデスゥ。そしたら後はゴシュジンサマが連れて行ってくれるデス」
「テチャー! 行くテチ! ワタチがイチバンに行くテチィー!」
「なに言ってるテチ! ワタチが先テチー!」

別段順番など関係ないのに子実装達は姉妹を押しのけながら我先にとケージの中へ突入して
いく。ご丁寧に後から入ってきた姉妹を押し出そうとするものまでいるくらいだ。

「ワタチはママと離れたくないテチィ…。ここにいたいテチ…」

そんな中、次女だけが涙を浮かべて母である『403』へとしがみ付いた。

「デェ…。 ゴシュジンサマ、この仔だけでも…」
「ダメだ。 何度も言っただろう? うちではお前以外飼えないんだよ」
「デェェェ…」
「テチュ…、わかったテチ。ワタチ行くテチ。ママとゴシュジンサマを困らせたくないテチ」
「次女…! デェェェェン!! おまえは本当にいい仔デスゥ!!」

お互いに泣きながら母と一頻り強く抱き合った次女は後ろ髪を引かれるようにチラチラと振
り返りながらも自らケージの中へと入っていった。
お涙頂戴の寸劇が終わり、ケージに入った仔実装は全部で8匹。残るは…

「ウマウマテッチュン☆ ウマウマテッチュン☆」

未だにフードを齧り続けている長女だけだ。そもそもコイツは話を聞いていたのかも怪しい
が時間が押している以上バカに構っている暇はない。
俺は長女の首筋を掴んで持ち上げ、抱くようにして齧っているフードを取り上げるとそのま
ま長女をケージに放り込んでフタを閉めた。

「テッチャァァァッ!! なにするテチ!このクソニンゲン! ブッコロステチャァッ!!」

激昂した長女がケージの格子を掴んでガシャガシャと揺すっているが無視し、俺はポケット
からビーダマほどもある大きな金平糖を取り出した。

「ほら、ミドリ。いつものご褒美だぞ」
「デッスーン☆」
「それじゃ、また後でな」

俺から金平糖を受け取った『403』はさっそく口の中に放り込んでコロコロと舐め始める。
それを見た仔実装達は長女だけでなく次女を除いた全匹が「ワタチにも寄こせ」と騒ぎ出し
た。
そんな騒がしいケージを持ち上げ、俺は403号室を出て外の廊下に出る。
途端に散々騒いでいた仔実装達は始めて見た外の世界に目が点となり皆一様に押し黙った。
その間に俺は403号室を施錠する。

さっき『403』に渡した特大金平糖は無論ただの金平糖ではない。
繁殖用種マラ実装の精液を砂糖で作ったカプセルに流し込んで塞ぎ、金平糖型にコーティン
グしたものだ。
胃袋も子宮も兼ねた糞袋を持つ実装石は何も交尾して総排泄口から精液を注がなくとも口か
ら流し込めばそれだけで妊娠してしまう。
有機物であれば大抵のものは消化してしまう実装石だがマラ実装の精液だけは例外らしく、
なんらかの避妊処置を施してない限り100%の確率で妊娠する。
『403』も金平糖を食べ終わった頃には再び妊娠していることだろう。
念のため確認は後でするとして、今重要なのはこの仔実装達の方だ。
俺はケージを手に小走りで一気に2階まで降りる。揺れに対する苦情で再びケージ内が騒が
しくなるが気にしない。
ほどなくして俺は2階へと到達した。

5階建て、ひと階あたり5部屋からなるこのアパート。4、5階はすでに見せた通り、各部
屋の出産石による育児部屋である。
心身共に極めて良好の出産石から生まれ、さらに1週間栄養満点の母乳を飲み続けた仔実装
は野良はもちろん飼い実装の仔でもあり得ないほど張り艶のあるモチモチした姿へと育って
いた。
だがここまでは所詮下準備に過ぎない。十分に肥育されてますます肉付きが良くなった仔実
装達だが、同時にその身には脂肪や水分など余計なものも大量に蓄えている。
それら不純物を徹底的に削ぎ落とすことを目的とするのがこの2、3階にある各部屋だ。
育児部屋から回収された仔実装達はそれぞれの部屋番に対応した部屋、401なら201へ、
505なら303へと送られる。

かくして『403』から仔実装を回収した俺は203号室へとやってきた。
部屋にある机にキャリーケージと床に転がしてあった底深のタライを並べて置き、続いてケ
ージのフタを開いて中にいる9匹の仔実装を次々とタライに移す。

「テェ…? ここはどこテチ?」
「もう飼いになったテチ?」
「ニンゲン! おいしいゴハンはどこテチ!? フカフカのベッドはどこテチ!?」
「さっさと用意しろテチ! ウスノロ!」

仔実装達はテチテチ文句を言いながら集まってくるがタライの縁は仔実装の身長より高いの
でそれ以上どうすることも出来ない。
さて、本来ならこのまま処置に入るところだが今回はその前に少しやることがある。
俺はタライの中に手を突っ込み、一番後ろでキョドキョドしていた次女を掴み上げた。

「テ…!?」
「お前は別な。他の連中は少し待ってろ」

タライに入った8匹をいったん残し、次女を掴んだまま203号室から外に出る。
残された仔実装達はますますギャーギャーと騒がしくなり、どうにかタライの縁を越えよう
としていたが身長からして脱走はまず不可能だ。
もし仮にタライから出られたとしてもそこは仔実装にとって断崖絶壁に等しい机の上。
これから輝かしい飼い実装生活が待っていると信じて疑わない仔実装達が命の危険を冒して
まで脱出を図ることはないだろう。

次女を手に俺はさらに階段を下り、遂に1階まで降りてきた。目指すは廊下の一番奥、10
5号室だ。

コンコン…
「いるかい?」
「はーい、今開けます」

ノックと同時に問いかけると返事はすぐに返ってきた。
数秒してガチャリと鍵の外れる音と共に中からドアが開けられる。

「ヂュアアアアアッ!!」

その途端、室内から仔実装の悲鳴が聞こえてきた。手の中の次女がビクリと反応したのがわ
かる。

「どうしました? 社長」

続いてひとりの青年が顔を出した。
彼の名は場良友人(ばらともひと)君。うちで雇っているアルバイトだ。
雇っているとはいえ彼は直接生産ラインに関わっているわけではない。彼の仕事は次期出産
石候補の育成にあった。
実装石は母体の状態が良ければ良いほど質のいい仔実装が生まれてくる。
それは栄養面だけに限った話ではなくストレスなどの心的要因も深く影響していた。
故に我が社ではこれ以上ないほどの優遇接待で出産石を飼育しているわけだが、そこで求め
られるのが『満ち足りることを知る実装石』だ。
なにしろ糞蟲個体はどんなに恵まれた環境を与えてもすぐにそれを当然と思い込んでさらに
上のグレードを要求し、それが通らなければ不満を抱いてストレスとなってしまう。
確かに実装石の肉はストレスを与えるほど美味くなるが出産石をいくら美味くしたところで
意味がない。
現状に満足し幸せを感じる。そんな高級飼い実装クラスの個体でないと我が社の出産石には
使えないのだ。
だが高級飼い実装は極めて高価であり、出産石のローテーションが激しい我が社ではその都
度買い上げていたのでは採算が取れない。
そこで稀に出産石から生まれてくる賢くて愛情深い仔をフリーの実装ブリーダーに託し、相
応の教育を受けさせてから出産石として使用する方法を導入した。
現在雇っているブリーダーは2名。104、105号室をそれぞれの調教部屋にあてがって
いる。
彼、場良君はその一人であり105号室の担当だ。
まだ学生の身でありながら非常に優秀な調教テクを持ち、今使用中の出産石も大半が彼の育
てた実装石である。
今日は平日だが講義がない日だったそうで朝から来てはずっと105号室にこもっていた。

「すまない、邪魔したね。お仕置き中だったかな?」
「ええ、『504』の仔実装です。残念ながら糞蟲化したので見せしめも兼ねて処分してい
 るところです」
「『504』か。期待してたのだけどなぁ」
「チュギャアアアアッ!!」

部屋の中を覗いてみれば小さな水槽に入れられた仔実装が全身から血を噴き上げながら悶え
転がっている最中だった。激痛コロリでも打たれたのだろう。
その様子を遠巻きに他の子実装達が青い顔で見つめている。

「仕方がないな。ま、そういうことならちょうど良い。さっそく補充といこうか」

そう言って俺は手にしていた『403』の次女を彼に渡した。

「この仔は?」
「『403』の次女だよ。生まれてすぐに会話が出来た珍しい仔だ」
「ああ、以前社長が話されてた。それは期待できそうですね」
「は、はじめましテチ。ニンゲンサンが新しいカイヌシサンテチィ?」
「ん? いや、僕は君の先生だよ。これから君はここで飼い実装になるための勉強をしても
 らう。いい仔になれば君のママみたいに幸せいっぱいになれるけど、悪い仔になったらあ
 の仔みたいに苦し〜いお仕置きが待ってるからね」
「テヒィッ!!」
「なーに、いい仔にしてれば大丈夫だよ。それじゃ社長、預からせてもらいますね」
「ああ、よろしく頼むよ」

そうして場良君は『403』の次女を連れて部屋に戻った。
手ぶらになった俺は一度事務所に寄り、冷蔵庫から2本の1.5リットルペットボトルを取り
出すと再び203号室を目指して階段を駆け上がる。
部屋を出るときに脱走を多少心配していたがいざ戻ってみればやはりそれは杞憂であった。
8匹の仔実装達は全匹タライから出ることもなく、あるものは横になってイビキを掻き、あ
るものは姉妹でママゴトのようなことをして遊んでいる。中には早くも色を覚えたのか股間
を弄って喘いでいるものもいた。

「さてと…」

俺は抱えていたペットボトルを床に置き、ポケットからゴム手袋を取り出すと両手に装着し
てタライの中から適当に仔実装を掴み上げる。

「テ…!? なにするテチ! おろせテチ、このバカニンゲン! もうすこしでイケたテ…」
 ブチィッ

指をポフポフ叩きながら抗議してくる仔実装の前髪を摘み、そのまま一気に引き抜いた。

「テ…? テ…? テ…? テチャァァァァッ!?」

前髪を抜かれた仔実装の絶叫が部屋に響き渡る。
抜いた前髪をゴミ箱に払い、仔実装をひっくり返して今度は後ろ髪を二束まとめて引っこ抜
く。

 ブチブチッ
「テヒャァァァァッ!! ワタチの!ワタチのお髪がぁぁぁぁッ!!」

両目からぶわっと涙を流し、ブリブリとパンツの中に糞を漏らす仔実装。
俺は後ろ髪もゴミ箱に捨てると、続いて頭巾、服、パンツと次々に奪っていく。

「ヂュワァァァァッ!! やめテチ! だめテチ! ワタチのお髪!お服!返すテチィ!!」

虐待派時代からの手馴れた作業だ。わずか数秒でハゲハダカとなった仔実装をタライへ戻す。

「テピャピャピャピャピャ…!!」
「ハゲハダカテチ! みっともないテチ! みじめテチィ!」
「ブサイクなおまえにはおにあいのかっこテチ!」
「ハゲハダカはドレイテチ! さっそくウンチ食わせてやるテチ!」
「テェェェェン! テェェェェン!」

さっそく姉妹相手にもまったく容赦のない罵声を浴びせ始める仔実装達。
だがそれも自分に髪と服があるうちだけだ。同じ要領で俺はタライの中の仔実装を順々に禿
裸へと剥いていく。
さすがに半数も剥くと俺の意図に気が付いたらしく、無事な仔実装達は必死にタライから逃
げ出そうとするがお互いに邪魔し合っているだけで一向に出られる気配がない。
結局2分足らずで8匹の仔実装達はすべて禿裸となった。

「テヒッ… テヒンッ… ひどいテチ… おさきまっくらテチィ…」

完全に意気消沈し、すっかりおとなしくなった仔実装達。
俺はタライごとキャスター付きの机を押して部屋の真ん中ほどまで進む。
そこには幅150cm、奥行100cmほどはある大型のテーブルが置いてあった。
テーブルの縁は30cmほどの高さのアクリル板で覆われ、さらにテーブル上も同じように
およそ10cmの間隔で奥に向かって長く仕切られている。
そして奥の壁面の手前20cmほどで仕切りは切れ、代わりに約5cmの深さの溝が作られ
ていた。

〔上図〕
.________________
| _______________ |
||\____________/||
|| |             | ||
|||‾|‾|‾|‾|‾|‾|‾|‾|‾|||
||| | | | | | | | | |||
||| | | | | | | | | |||
||| | | | | | | | | |||
| ‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾ |
.‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾

〔横図〕
. _______________
 ‖               ‖
 ‖___________    ‖
 ‖           |   ‖
 ‖  (仕切り版)    |   ‖
 ‖           |   ‖
|‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾|  ‖‾|
|   (テーブル断面)   |  ‖ |
|             |  ‖ |
              ‾‾‾
〔わかりにくくてスイマセン。文字化けとかしなければいいデスが…〕


続いて俺は机の引き出しを開け、中からプラスチックのトレイと薬ビンをひとつ取り出した。
そのトレイの中にビンに入っていた液体を流し込み、トレイごと机の溝部分にハメ込む。
そしてタライから仔実装達を掴み出し、1匹ずつ仕切りで作られたレーンの中に入れていく。
髪と服を失って放心状態の仔実装は抵抗することもなくなすがままだ。
全ての仔実装を各レーンへ入れ終わった俺は机とタライを隅へ押しやり、テーブルの脇に置
いてあるパイプイスへと腰を下ろした。
さあ、これで準備完了だ。
テーブルの側面にある複数のボタンのひとつを押す。

 ヴヴン…

微かな音と共にテーブルの真正面に置いてあるテレビに電源が入った。

『「デッデロゲー♪デッデロボェー♪ 早く生まれてくるデッスー お外は天国楽園デスー
  おいしいゴハンにポカポカおふろ、あったかいフトンで眠るんデッスー 優しいゴシュ
  ジンサマに愛されてー シアワセいっぱいに暮らすデース♪」』
「「「テ…!?」」」

茫然自失だった仔実装達が一斉に反応した。
そう、テレビに映されたのは彼女らの母親、『403』の姿だ。
4、5階の各部屋に仕掛けられた監視カメラの映像は事務所のパソコンだけでなく、2、3
階のそれぞれ対応した部屋にも送られている。
よってこの映像はリアルタイム、今現在の『403』の状況を映していた。
予定通りしっかり妊娠したらしく両目は緑に揃い、ベッドの上で胎教の歌を歌っている。

「ママァ!! 助けテチィ!! このニンゲンはギャクタイハテチィィィ!!」
「お髪もお服も取られたテチャァッ!! しかえしするテチッ!!」
「カワイイワタチがヒドイ目にあったのになにノンキに歌ってるテチィ!!」

もちろんこのテレビはただのモニターなので仔実装達がいくら叫んでもその声が母に届くこ
とはない。
それを知ってか知らずか仔実装達は助けを求めたり罵声を吐きかけながらもワラワラと画面
に向かって歩きだした。
それを見計らって俺はさらに別のボタンを押す。

ウィィィィィン…

モーターの駆動音が部屋に響き、仔実装達の足元の床が滑る様に動き出した。

俺が仔実装達を置いた場所、それはテーブルに埋め込んだ小型のベルトコンベアの上だった。
コンベアは母を映すモニター側から液体を湛えた溝の方に向かってゆっくりと、だが確実に
加速しながら動いていく。

「テッ…!?」

母の映像へ向かっていた仔実装達もこの異変に気付き、離されまいと歩む速度を上げる。
だが1匹、座り込んで泣いたまま歩くこともせずにコンベアに流されていく仔実装がいた。

「テェェェェン… テェェェェン…」

最初に剥いた仔実装だろうか。ショックで立つ気力も無くしてしまったようだ。

「おい、歩かないと死ぬぞ?」
「テェェェェン… テェェェェン…」

一応声を掛けてみたが聞く耳持たずだ。
まあいい。どうせ最初に1匹見せしめになるんだからこのまま放っておこう。
そう思っているうちに仔実装はいよいよコンベアの縁まで流れてきた。

「テェェェェン… テェェェ…テチャッ!?」

仔実装はそのままポロッと溝に落ち、パシャリとトレイに張った液体の中に転がり込む。
高低差はせいぜい5cm程度なので落下で怪我をするようなことはない。
だが…

「テヂュアアアアアアアアアアッ!!!」

落ちた仔実装は断末魔のような盛大な悲鳴を上げた。
その絶叫に他の仔実装達も驚いて振り返る。

「テヂャッ!! テギィィィィィッ!!」

パシャパシャと液体を跳ねさせながら悶える仔実装。
見る見るうちにその体は熱せられた雪だるまのごとくドロドロに崩れ始めた。
皮膚が溶け、肉が流れ、骨が泡立つ。
緩くなった眼窩からこぼれ落ちた眼球は熱湯に落とした氷のようにたちどころに消えてなく
なった。

「ヘヒィィィィィ…」

顎も溶け崩れ、舌をでろりと垂らした口内からもはや空気漏れにしか聞こえない悲鳴を出し
たのを最後に仔実装は完全に溶解して消えた。残ったのは僅かに濁った液体のみだ。

「テ…、テ…、テチャアアアアッ!!」

目を見開き、その一部始終を眺めていた他の仔実装達から一斉に悲鳴が上がった。

仔実装を溶かした液体、その正体は実装駆除剤の一種『実装ドロリ』である。
その名の通り実装石の肉体をドロドロに溶かしてしまう薬液で、主に駆除後に回収された実
装石の死骸の処分に使われていた。
もちろん生体にも効果を発揮し、生きたままこの薬液に触れた実装石は焼けるような激しい
痛みに苦しみながら溶かされていくことになる。
その凄惨な様子は見せしめとして十分だったらしく、頭の足りない仔実装達にも『あの水に
落ちたら死ぬ』ということは伝わったようだ。
しばらく歩みを止めて眺めていたせいでかなり溝に近付いていた仔実装達は再び前を向いて
一目散に走り出す。
だが落ちた仔実装が溶かされている間も加速を続けていたコンベアは今や小走りでは追いつ
かないほどのスピードになっていた。
最終的には全力疾走してやっとという速度まで達することになる。
その後は徐々に速度を落としていき再び小走り程度になった時点でまたしても加速を始める
仕組みとなっていた。
いわゆるハイ&ロー・トレーニングというやつだ。
1ストローク3分のこのトレーニングを3セット繰り返し、開始時終了時のロスを含めたお
よそ10分間走り続けさせる。
生まれてこの方遊び以外で運動らしい運動などしてこなかった仔実装達は開始数分で早くも
顎が上がり、涙、鼻水、ヨダレ、汗、水便と全身からあらゆる液体を撒き散らしながら喘い
でいた。
だがコンベアの速度に負けて背後の液体に落ちたが最後、想像を絶する苦しみを伴う死が待
っている。
母の歌う幸せの歌をBGMに仔実装達は懸命に走り続けた。



—————————————————————————————————————————



ウィィィィンウィンウィンウィン…

やがて仔実装達にとって永遠とも思えるような10分が過ぎ、ようやくコンベアがゆっくり
と停止する。
もはやそんなことを意識する余裕もないのか仔実装達はなおも走り続け、正面のアクリル板
に激突してひっくり返った。

「へヒッ… ヘヒッ… ヘヒィィィ…」

転がり倒れた仔実装達は息も絶え絶えだ。
明らかに仔実装の限界を超えた運動量。だが死という恐怖が後押しし、仔実装達は必死に走
りきった。
おかげで今回脱落したのは見せしめとなった1匹だけ。なかなか幸先の良いスタートだ。
酷いときには最初の1回で半数以下にまで減ることもある。
それを見届けた俺は仔実装達が走っている間に準備していた吸盤付きの仔実装用給水機を頭
数分それぞれの仕切りの中へ取り付けた。
給水機の中身は事務所から部屋に持ち込んだペットボトルの中に入っていた水だ。
もちろんこれもただの水ではなく、粉末状にした新生仔実装の偽石が溶かし込んである。

「うしっ、よく頑張ったな。しっかり飲んで休んどけよ。また来るからな」

聞こえていたかどうかは知らないが俺は疲労から身動きもままならない仔実装達にそう告げ
て部屋を出た。
これから残る9部屋を順番に回り、各部屋にいる子実装達にも同じことをさせるのだ。
今日から203号室に入れられた『403』の仔実装達は今回が初めてだが、他の部屋にい
る仔実装達はすでに数日間毎日トレーニングを続けている。中には出荷日の近いグループも
あった。
本来なら201号室から順番に回っていくのだが今回の様に新入りの回収があった日は多少
順序を変更して回ることになる。
各部屋でそれぞれ10分。10部屋回ると100分かかる計算だ。
そこに移動やその他雑務のロスが加わり、1周するのにおおよそ2時間かかっていた。
つまり仔実装達は2時間ごとに10分のランニングを強制されることになる。
そしてここではそれを1日に4回繰り返していた。
人間にしてみれば10分走り続けるなど造作もないことだが仔実装にとってはかなりのハー
ドワークだ。
しかもこの強制トレーニングは仔実装達の親が次の仔を出産し、同じように育てて回収する
までの2週間毎日続けられる。
そしてその間与えられる食事と水分は必要最低限のものだ。
こうして栄養を蓄えた仔実装の体から余計な脂肪や水分といった不純物を徹底的に取り除く。
同時に繰り返されるハードワークで筋力を鍛え、赤身部分を増やしながら締めることでより
肉の美味さと歯ごたえが増すという寸法だ。
もちろん最後まで耐え切れず脱落していく仔実装は多い。
むしろ最初の3分の1も残れば御の字である。出荷日を待たずして全滅してしまうことすら
多々あるのだ。
この『403』の仔実装達も最終的に何匹残ることになるかわからない。
先ほど仔実装達にかけた「よく頑張ったな」という言葉はある意味本心だ。
彼女らには1匹でも多く商品として出荷できるよう頑張ってもらわねばならない。
祈るような気持ちで203号室のドアに鍵をかけた俺は逆にため息をつきながら1週間足ら
ずで早くも3匹にまで数を減らしてしまった204号室のドアを開けた。

「テチャァァァァッ!! ニンゲンがきたテチィ!!」
「いやテチィィィ! もう走りたくないテチャァッ!!」
「助けテチ! ママァッ! 助けテチィィィ!!」



—————————————————————————————————————————
【さらに1週間後(仔実装生後2週間)】



ウィィィィィィィ…

「ほれほれ頑張れ、あと10秒」
「「「テハッ! テハッ! テハッ!」」」

『403』の仔達を回収してから1週間が過ぎた。
今は本日2度目のランニングが終わるところだ。
この1週間でさらに2匹が脱落し、残りは6匹となっている。


“もう走るのイヤテチ! 苦しいのイヤテチ! いっそ死んだ方がマシテチィ!”

そう叫んで自ら実装ドロリに飛び込んだ5女。

“チュギャアアアアアッ!! イタイテチ! イタイテチィィィ!! やっぱり死にたくな
 いテチ! ちゃんと走るテチ! だから助けテチ! ママッ!ゴシュジンサマァァァ!!”


体力が保たず、ズルズルと後退していった9女。

“ハッ ハッ ハッ ダメテチ…もう走れないテチィ! お願いテチ、ちょっと止めテチ!
 ちょっと休んだらまた走れるテ… テチャッ!? 落ちるテチ!止めテチ!止めテチィ!
 イヤテチ! 死にたくな…『ポチャン』 テビャアアアアアッ!!”


背後で聞こえるそれら姉妹の死にゆく叫びは残る仔実装の生への執着を後押しする。
そして目の前で流れる幸せそうな母実装の映像は仔実装達にとってすがるべき希望であり、
同時に憎むべき絶望でもあった。
しかも今や画面に写るのは母実装だけではない。

『「デッデロゲー デッデロボェー♪ 私のカワイイ仔どもたちー 元気にスクスク育つデ
  スー♪ いつか優しいゴシュジンサマがー トクベツな飼いにしてくれるデース♪」』
『「テッテロテー♪ ワタチたちはしあわせテッチー♪」』
『「テッテロテー♪ ここは楽しいことばかりテチー♪」』
『「テッテロテー♪ いっぱい遊んでおねんねしテチ♪」』
『「テッテロテー♪ お腹がすいたらおっぱい飲むテチュ♪」』
『「テッテロテー♪ まさにセレブちゃんテッチッチー♪」』

『403』と一緒に踊りながら歌う10匹の仔実装達。今朝生まれたばかりの『403』の
仔共らだ。

「ふざけるなテチィィィ! なにがやさしいゴシュジンサマテチ! なにがトクベツな飼い
 テチ! ここは地獄テチッ! ママはおおウソつきテチャァァァッ!!」
「おまえらはなんでしあわせそうにしてるテチッ! そこはワタチのイバショテヂィ!!」
「さわるなテチ! それはワタチのボールテチ! おまえのじゃないテチャァッ!!」

走りながら仔実装達が叫ぶ。
スタミナを大きく消費する行為だが1週間毎日命がけで走り続けてきた仔実装はすでに相当
の体力を身に付けていた。スタミナだけ見ればそこらの成体実装にも勝りうるだろう。
それに伴いこの1週間で体付きも目に見えて変化していた。
幼児の様にぽっちゃりとしていた体は細く締まり、うっすらと腹筋が割れて見えるようにま
でなっている。
逆に太ももとふくらはぎは筋肉の隆起がはっきりわかるほど大きく膨れ上がっていた。
だがまだまだ未完成だ。残り1週間、さらに絞り上げて完成を目指すことになる。



ウィィィィンウィンウィンウィン…

「テハァ…! テハァ…! テハァ…!」

程なくしてベルトコンベアがゆっくりと停止した。
走りきった仔実装達は皆仰向けに寝転んで荒い息を吐く。
どんなにスタミナが付こうと辛いものは辛い。ここまでくると脱落するか否かは気力の問題
だ。
その気力を支えているのが目の前で流される母実装や次姉妹の映像だった。
どれほど罵詈雑言を吐き掛けようと仔実装達にとって母実装は唯一の庇護者であり、その母
に胎教の時から聞かされ続けた『いつか幸せになれる』という言葉を信じ込んでいる。
物事を都合良く捉え、結果として不幸を招くことの多い幸せ回路はここでも残酷にその機能
を果たしていた。

「ごくろーさん、っと。ほれ、水だぞ」

いつもの様に俺はアクリル板へ偽石配合水入りの給水機を取り付けていく。

「テヘェェェ… んぐっ んぐっ んぐっ…」

最初の頃は走り終わった後はしばらくグッタリして動けなかった仔実装達も最近は這いよる
ようにしてすぐに水を飲みに来れるようになった。
そうして仔実装達が一心不乱に水を飲んでいる間、俺は餌の入った小皿を仕切りごとに一皿
ずつ入れていく。
ここでの仔実装達の食事は2度目と4度目のランニングの後との1日2回と決められていた。
そして与える餌も親実装に食べさせていたような市販の実装フードではない。
豆腐屋から安く仕入れている『おから』にプロテインを始め各種ビタミン、カルシウム、マ
ンガン、ナトリウム等の粉末サプリメントを混ぜて水で練ったお粥のようなペーストフード
だ。
もちろん味など度外視しているので調味料は一切使っていない。
糖分として僅かに果糖も含まれているが甘いと感じられるほどではないだろう。
実際調理過程で俺も何度か口にしているがとても食べられるものではなかった。
混ぜまくったサプリメントのせいで甘味どころかベースになったおからの味すらほとんどし
ない。
当然仔実装達にも甚だ不評であるが、それしか与えられる餌がないのだから不味かろうがな
んだろうが生きたければ嫌々でも食べるしかない。
たまにハンガーストライキよろしく意地でも食おうとしないヤツがいるが結局は空腹に負け
て泣く泣く食べるか、そうでなければ体力が尽きてコンベアに流されドロリに落ちるだけだ。
もっともここに至るまで基本的に仔実装達は親実装の母乳しか口にしたことがないため、い
くら不味い餌とはいえそこまで嫌悪感は抱かないはずである。
食い意地を張って親実装のフードをつまみ食いでもしたなら話は別だが…。

「テチャァ!! またこのマズマズゴハンテチィ!? もっとオイシイゴハンにしろテチ!
 ママが食べてたウマウマのカリカリもってこいテチャァァァッ!!」

水を飲み終わった仔実装達がモソモソと餌を食べ始める中、1匹の仔実装が癇癪を起こして
喚き出した。
姉妹の長女である。
403号室から回収する寸前、生えかけの歯で親実装のフードを齧ったことで味覚のレベル
が上がってしまった長女は他の姉妹以上に激しくこのおからフードを拒絶した。
初めてこれを出された時はこんな不味いものが食えるかと餌の上に脱糞までしてみせたのだ。
その時は勝ち誇ったようにチププと笑った長女だったが、そのまま餌抜きで続けられた3度
目4度目のランニングでは空腹によって力が出ず、危うくドロリに落下する寸前まで追い込
まれていた。
なんとか生き残った後の晩飯で同じ餌が出された際には眉間にシワを寄せ、時々吐きそうに
なりながらも少しずつ口に運ぶ姿があった。
その後も長女は何かに付けては反抗し、俺に対して暴言を吐きながら待遇の改善を要求し続
けている。
この仔実装達は飼い用ではなくあくまで食用なのでどれほど糞蟲行動を取ろうと躾の様なこ
とは行わない。
だが逆にいくら不平不満をブチ撒けても決して状況が変わることもなかった。
走って、走って、食べ、走って、走って、食べた後は娯楽も何もない狭い仕切りの中でただ
漫然と時を過ごす。
毎日淡々と繰り返される日々で徐々に他の姉妹が無気力になっていく中、最初から一貫して
反抗を続ける長女の反骨心は見事なものだ。
我を捨てた個体よりこういうヤツほどストレスにより抽出される旨み成分を身に蓄えやすい。
最後まで残ることができれば相当美味い個体に仕上がるはずだ。

「よしよし。あと1週間、頑張ってくれよ?」

未だテチテチと喚く長女に俺は満面の笑みを返して次の部屋へと向かった。



—————————————————————————————————————————
【さらにさらに1週間後(仔実装生後3週間)】




「43、44、45、46っと」

ダンボール箱の中にパックされ出荷待ちとなった仔実装達を梱包材と共に詰めていく。
現在のストックは全部で46匹。メイデン社からの注文は50匹分なのでまだ少し足りない。
だが今日回収できる203号室の仔実装を加えれば合計51匹となってノルマ達成だ。
今回は全体的に粒ぞろいだったようで多くの仔実装が生き残り、指定された納期よりずいぶ
ん早く数を揃えることができた。
早めの納品は信頼に繋がる。203号室の仔実装達の出荷準備ができたらさっそく連絡を入
れるとしよう。
出産の時にも使うプラスチックのタライを手にして俺は部屋を出た。
沈みかけた夕日を背に浴びながら階段を昇り、203号室のドアを開ける。

「テッ…!?」
「ニ、ニンゲンがまた来たテチ!」
「なんでテチ!? 今日はもう走らなくていいはずテチ!!」
「いやテチ! もう走れないテチィィィ!!」

俺の姿を見るなり仔実装達がざわめき出す。
実際俺が部屋に来るのは1日4回あるランニングの時だけだった。
今までも4度目のランニングを終え、晩の餌を補充した後は翌日の1回目のランニング時ま
で基本的に放置してきたのだ。
この2週間で仔実装達も 俺が来るイコール走らさせられる、だがそれは1日4回まで と
理解していたのだろう。
それがまさかの5度目の登場とあって仔実装達は戦々恐々だ。
だが心配しなくていい。何も俺は5度目のランニングをさせに来たわけじゃないんだから。
俺はタライを左手で抱え込み、残る右手をアクリル板で囲ったテーブルの仕切りの中に突っ
込んで仔実装を1匹掴み上げた。

「テチャッ!? テッ、テェェェェ!」

掴まれた仔実装は手の中でイゴイゴと抵抗する。
その体は1週間前よりさらに引き締まり、余計な脂肪のなくなった腹は腹筋で割れ、両脚は
競輪選手さながらに膨れた筋肉で今にもはちきれそうだ。
俺の指を押しのけようとする力も仔実装とは思えないほどに強い。まるでカブトムシを掴ん
でいるかのようだった。

「上出来だな。お前らよく頑張ったぞ」

そう言って俺は手にした仔実装をタライに入れ、残りの姉妹も次々に放り込んでいく。
ちなみに1週間前には6匹残っていた仔実装は今は5匹になっていた。
死んだ1匹はどうやらストレスから偽石が限界に達していたようで、先日俺が部屋に入ると
同時に絶叫し、口から血を噴いて倒れるとピクリとも動かなくなったのだ。
その顔は苦悶に満ちていたが他の姉妹と比べたらずいぶんマシな死に方じゃないだろうか?
そもそもここでは偽石が割れて死ぬ仔実装は滅多にいなかった。

実装石は過度のストレスを受けると偽石がヒビ割れ、いわゆるパキン死してしまうというこ
とは今さら言うまでもないが、先人の虐待師達によってこれを防ぐ何種類もの方法が発見さ
れているのも周知の事実だ。
その中でも最もシンプルにして基本的なのが偽石に十分な栄養を与える方法である。
代表的なやり方としては体内から抜き出した偽石を栄養剤などに漬け込む方法が挙げられる。
偽石に栄養が満ちている間はよほどの致命傷でも負わない限り実装石自身がどんな目に遭っ
ても決して偽石は自壊しない。
精神的にも壊れにくくなり体の治癒力も増すので長くハードに虐待が楽しめるという訳だ。
この方法は虐待派に限らず飼い実装の万が一の怪我に備えて愛護派が予め行うこともある。
だが食用として実装石を扱う鍋派にとってこのやり方は昔からご法度とされていた。
実は偽石を取り出してしまった実装石は肉の旨みが落ちるという欠点があるのだ。
もちろん取り出してすぐに味が悪くなるというわけではない。
調理過程で抜いた程度の話なら問題はないはずだ。
しかし偽石を取り出したまま1日でも経つと実装石の肉質は明らかに劣化してしまう。
こと実装食肉業では偽石を抜いて育てるという手段は使えないのだ。
とはいえ何も偽石を直接栄養剤漬けにすることだけがパキン防止法というわけではない。
それより多少効果は下がるが偽石が体内にある状態でも実装石自身がしっかり栄養を得てい
れば偽石の自壊率はグッと下がる。
そういった意味でもうちで仔実装に与えているサプリメント配合おからフードは味はともか
く栄養面では申し分ない餌だった。
これを食べている限り仔実装が自壊で死ぬことはまずあり得ない。
それでも極稀にパキン死するものがいるがそれはもともと偽石耐久力の低い個体であり、例
え自壊しなかったとしてもどのみち最後まで生き残ることはできなかっただろう。
こうして知らず知らずのうちに偽石を強化された仔実装達は心が壊れそうなほどのストレス
を受けながらも、精神の崩壊や偽石の自壊といった最後の逃げ道すら奪われて走り続けるの
だ。

「テチャッ! テヂィィィ!!」
「お前で最後だ。おとなしくしろっ」

掴まれた長女が手の中で激しく暴れている。
手足を振り回すだけでなく隙あらば噛み付こうとまでしてきた。
全体的に脆く弱い仔実装だが噛まれるとさすがに痛い。それに変に暴れられて怪我でもされ
たら大変だ。そうなる前に素早くタライの中に放り込む。
タライ内では近くにいながらも仕切り板によって遮られていた姉妹が2週間振りに抱き合っ
て咽び泣いていた。
そのタライを持って俺は203号室から外に出る。
再び階段を降りてやってきたのは103号室だ。ここは商品の在庫置き場兼加工所である。
2週間のトレーニングを終えて回収された仔実装達はこの部屋で洗浄の後パックされ、箱詰
めされて出荷を待つことになるのだ。
今回は203号室の5匹だけなので俺ひとりで作業を行うが回収する仔実装が多い日などは
近所のオバチャンに日当を払いヘルプに入ってもらうこともあった。

部屋に入った俺は備え付けの流し台の上にタライを置き、蛇口を捻って適温の湯が出るまで
待つ。
その間に両手に実装用アカスリ手袋を装着した。愛護派御用達の実装エステでも使用される
超極細繊維質のものだ。
実装の脆い肌を傷付けることなく表皮の汚れや垢をトコトン落とせるスグレモノである。
そして水が湯に変わったところでタライから仔実装を1匹取り出し、流し湯の要領で頭から
湯を浴びせながらアカスリ手袋をはめた手で全身を優しく揉んでいく。
2週間風呂に入ってない仔実装は垢汚れでドロドロだ。その体をひと擦りする度に大量の垢
がボロボロと落ちていった。
いくら繰り返してもなかなか終わりの見えない作業だがそれでも辛抱強く頭のてっぺんから
足の先まで念入りに洗浄を続けていく。
最初は暴れていた仔実装もこれが風呂であり、体を綺麗にしているのだと気付くと途端に気
持ち良さそうな声を出しながら体を預けてきた。
この2週間で俺から受けた仕打ちもあっさり忘れてしまったかのようだ。
タライの中の仔実装達も縁まで詰め寄ってきて自分を洗えとテチャテチャ騒いでいる。

だがこれはあくまで洗浄であってお前らの思っている風呂とは違うぞ?

ようやくどこを擦っても垢が出てこなくなったところで俺は仔実装の顎下に親指を差し込み、
その顔をクイッと上に向ける。
そしてそのまま勢いよく湯を流している蛇口をだらしなく開いたミツクチへ突っ込んだ。

「チュガボボボボボボ…!?」

突然の仕打ちに目を大きく見開いてもがく仔実装。
その腹がまるで水風船のように膨らんだかと思った瞬間、今度は総排泄口からドバッと薄緑
に染まった湯が流れ出した。

「チュボッボゥガボボボ…!!」

体内を攪拌しながら通り抜ける激流にビクンビクンと仔実装の体が痙攣する。
十数秒ほどそのままにし、総排泄口から溢れ出す湯が透明になったところで口から蛇口を引
き抜いた。
最後の行程である糞抜きを終え、これで洗浄は完了だ。

「テヒィィィ…」

ぐったりとした洗浄済み仔実装を別の綺麗な箱に移し、次の1匹を求めて俺は一転タライの
中を逃げ惑う仔実装達に手を伸ばす。
その後も同じように全身の汚れを落としては蛇口を咥えさせて糞袋内の汚物を流していった。
この時点での仔実装は体内にあまり糞を溜めていないので体の洗浄に比べたら糞抜きはずっ
と楽チンだ。
2週間のトレーニング中に出されていたフードはおから以外ほとんどサプリメントというこ
ともあって非常に吸収率が高い。
しかも栄養価こそ高いものの与えられる量自体は少なめなのでほとんど余すことなく体に吸
収されていくというわけだ。
これならトレーニングの期間中入れていたコンベアテーブルを糞まみれにすることもない。
しかしいくら量が少ないとはいえ、これだけ栄養が良く吸収率の高い餌を与えていれば本来
成長速度の速い実装石はあっと言う間に成体化してしまうはずだった。
だが実際には生後3週間たっているにも関わらず仔実装達は体付き以外ほとんど成長してい
ない。
現在の身長はおよそ15cmほど。このくらいの仔実装が味と食い応えを両立させるベスト
なサイズである。
そして仔実装達の成長が遅い理由は日々繰り返されるハードワークにあった。
これは虐待派に飼われた仔実装によく起こりうる現象で、摂取した栄養の大半を傷ついた体
の再生に当てるため成長そのものはほとんど止まってしまうというものだ。
もっともそういう境遇の仔実装は実際には食事すらロクに与えられないため傷の回復すらま
まならなくなってしまうわけだが、ともかくうちの場合は仔実装には明らかに過剰な運動量
が本来成長に使うはずだったエネルギーをほぼチャラにしていた。
虐待と違ってトレーニングでズタズタになった仔実装の体は食事で得た栄養を使い、実装石
特有の回復力も相まって筋繊維の急激な超回復を引き起こす。
その結果2週間という短期間で仔実装は鍛え上げられ、不純物を落として赤身を増した体は
心身ともに与え続けられるストレスでさらに締まり旨みを濃縮させる。
砂肝の様な弾力のある歯ごたえに噛めば噛むほど溢れ出す肉汁。
生で良し、焼いて良し、茹でて良し。
バツグンの味に加え、調理法を選ばない食材としての万能さが鍋派以外にも受けた人気の理
由だった。


「ふぅ、やっと終わった…!」

1時間近くかけてようやく5匹全てを洗い終わった俺はため息を吐きながら仔実装の入った
箱を抱えて流し台から作業台として使っている大型の机へと部屋の中を移動する。
机の上に箱を置き、再び中から仔実装を1匹掴み出す。
そして端にセットしてある機械から大きめの判子の様なものを取り出して仔実装の後頭部に
押し当てた。

 ジュウウウウウウウウウ…
「テギャアアアアアアッ!!」

肉の焼ける音と共に仔実装の後頭部から煙が上がる。
う〜ん、いい匂いだ。口の中にヨダレが溢れてきた。
この判子の様なものはうちの社名を掘った焼印で、車のシガーライターと同く電熱線の原理
によって熱せられたものだ。
これにより仔実装の後頭部にはハッキリと社名が焼き付けられた。

「テヒッ… テヒィィィ…」

涙を流しながら届かない腕を必死に後頭部へ伸ばそうとする仔実装。
焼印を元の機械に戻した俺はそんな仔実装を厚手のビニール袋に放り込み、その開いた袋の
口を別の機械のスリットに差し入れた。

ブィィィィィン

見る見るうちに袋の中から空気が抜かれていき、萎んで仔実装の体を圧迫し始める。
仔実装が入れられているのは保存のための真空パックだ。
やがてすっかり空気が抜けたところで袋の口は溶接されてしっかりと閉じられた。
パックされた仔実装は呼吸はおろか、密着したビニールで身動きすらままならない。
しばらくは袋越しにピクピクと振動が伝わってきたが10秒もしないうちに完全に停止して
動かなくなった。
これでもまだ死んだわけではない。いわゆる仮死状態に陥っただけだ。

実装石が命の危機に瀕した際に行う仮死行動。便利なものでこの仮死状態になった実装石は
防腐剤等の処置を施さなくともそのままで長期保存が可能となる。
それどころかパックから出してしばらく置けば息を吹き返すため、いつでも新鮮な状態で調
理することができるわけだ。鮮度にうるさい奥様も大満足である。
そうして最後に仔実装の入ったパックに厚紙で出来たパッケージが取り付けられて『高級食
用仔実装』は遂に完成を迎えた。

「これで47っと」

出来上がった商品を先ほど梱包途中だったダンボール箱に詰める。
あと3つでノルマ達成だ。残り4匹もさっさとパックしてしまおう。
そう思って振り向いた俺の目に意外な光景が飛び込んできた。

「こんなとこで死んでたまるかテチィ! ワタチはぜったい生きのびてシアワセになるんテ
 チィィィ!!」

例のごとく長女だ。
ぐったりした他の姉妹を踏み台にし、今まさに箱の縁を乗り越えて転げ落ちたところだった。
この期に及んでまだ脱走しようという気概が残っているとは驚きである。ここまでくれば大
抵の仔実装はもはや夢も希望も失って諦観の域に入るというのに。
だが残念。その諦めの悪さは買うが箱を出たところで今お前がいるのは高さ1mはある机の
上だ。そこから先の逃げ場はないぞ。
とはいえ追い詰められたコイツがもしもパニクって飛び降りでもしたら厄介だ。
潰れて死ぬか良くて大怪我、どちらにせよ売り物にはならなくなってしまう。
ここまで育てたのに無駄にするわけにはいかない。さっさととっ捕まえてパックしてしまお
う。
そう思い駆け寄ろうとしたのだが…

 ガッ
「うぐっ!?」
「テ…!? テ…テ…テ…! テチャァッ!!」

腰に巻いていた作業ベルトが机の角に引っかかってしまった。
しかもその音に驚いた長女はあろうことかバランスを崩し、しばらく机の端でワタワタと足
掻いたあげく足を踏み外して真っ逆さまに落っこちていったのだ。
なんてこった! 俺は必死に手を伸ばしたがダメだ、ここからじゃ間に合わない!

「おっと!」
「テチャッ!」
「えっ?」

だがしかし、床に墜落寸前だった長女は何者かにギリギリでキャッチされた。
顔を上げるとそこにいたのは今日も次期出産石の調教に来ていた場良君だった。

「あぶないあぶない。社長、大丈夫ですか?」
「お…、おお! よくやったぞ、場良君! ナイスキャッチだ!」
「事務所にいなかったのでこちらかと思って来てみたんですが。いやー、危機一髪でしたね」
「かっこ悪いところを見せてしまったなぁ。それで何か用だったのかい?」
「ええ、新しい出産石が1匹仕上がりました。いつでもいけますよ」
「そうかそうか、助かるよ。君の手がけた出産石は上等だからな」
「いえいえ、とりあえず今は全部屋埋まっているようですからいつもの様にキープにしてお
 きますね」
「ああ、頼んだよ」
「では今日のところは失礼させていただきます」
「ああ、ご苦労様」

そう言って場良君は手にした長女を差し出してきた。
俺はそれを受け取ろうとして

「「あ…」」

二人の声がハモった。

「チュワァァ…」

場良君の手の平に横たわる長女。その右足があらぬ方向に捻じ曲がっていたのだ。

「あっちゃぁ〜!!」
「す、すいません。うまくキャッチしたつもりだったんですが…」

曲がり方からすると足の骨は確実に折れているだろう。傷物になってしまった以上、コイツ
は売り物にならなくなってしまった。

「いや、場良君のせいじゃない。俺が油断したのが悪いんだし、どのみち君がいなかったら
 潰れて死んでいたさ」

残念だがこうなったら仕方ない。残りの3匹がいればギリギリノルマは達成できるし、コイ
ツのことは運がなかったと思って諦めよう。次からはもう少し深い箱を使うべきだろうな。
さて、それよりも長女の処分だが…。

「場良君。良かったらそれ、持ってくかい?」

手の平に長女を乗せたままの彼に提案してみる。

「え…? いいんですか?」
「ああ、もう商品としては使えないし自分で食ってもいいんだがどうせならいつもお世話に
 なってる君にあげるよ。まあ現物支給で悪いがボーナスの様なものだと思ってくれ」
「いえ、そういうことでしたらありがたく頂戴します」
「実際足の1本折れたぐらいで味は変わらないんだ。きっとソイツは特に美味いぞー」
「ええ、ありがとうございます。じゃあ今度こそ僕はこれで…」
「うん、お疲れ様」

持ち帰り用に小箱を渡して俺は場良君を見送った。
正直ちょっと惜しいかなとも思うがたまには社員サービスもしなくちゃなるまい。
さあそれよりも早いとこ残りの連中をパックしてしまおう。今日はまだまだやることがたく
さんある。
空になった203号室のコンベアテーブルの清掃とメンテ、そして明日コイツらの次妹であ
る『403』の仔を回収する準備。各部屋の出産石へ晩飯も配ってこなくちゃならない。

「ふう、毎日毎日忙しいなぁ」

そんな愚痴を漏らす度に「儲かってるんだから誰か雇えばいいじゃない」とヘルプのオバチ
ャンにも言われ続けてきた。
確かにそうしたら楽になるんだろうが何故か俺はそういう気分にはなれなかった。
結局のところ俺は食う以外でも実装石に関わるのが好きな人間なんだろう。
自分の趣味を他人に任せて楽しい人なんているわけがない。そういうことだ。

「ま、そのうちアパートと言わずでっかいマンションでもドーンと買ってみるかァ。誰か雇
 うならその時だな」

もっとも今現在マンション1棟買えるだけの貯蓄なんかありはしない。
狸の皮算用ならぬ実装の肉算用をしながら俺はニヨニヨした顔で箱の中の仔実装に手を伸ば
す。
そして捕まえた仔実装の後頭部に1匹目と同じく真っ赤に熱せられた焼印を押し付けた。

 ジュウウウウウウウウウ…
「チュビャアアアアアアッ!!」

  【(有)虹浦食実装】

一文字も欠けることなくしっかりと焼き付いた社名を指でなぞり、ウンウンと頷く。

俺の名は『虹浦良介(にじうらりょうすけ)』。
実装石をより美味く食べることに情熱を燃やすひとりの鍋派である。



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「テチャッ! テチテチ! テッチィ!!」
「さてと…」

台所のまな板の上に座り込んだムキムキの仔実装がさっきから喚いている。右足を骨折して
いるので立ち上がることができないみたいだ。
それにしても思わぬ棚ボタだったぁ。
まさか普通に買えば高級和牛張りの値段のする…、いや、なかなか市場に出回ることすらな
いことを考えると入手レベルは和牛の非じゃない高級食用仔実装が手に入るなんて。
多少傷ついているけどこの程度じゃ味に問題はない。さっそく今夜のツマミになってもらお
うか。
調理道具一式を準備し終えた僕はその間まな板の横に置いておいたリンガルの履歴をざっと
流し読んでみた。

「ニンゲン! ワタチをあそこから助け出したことは褒めてやるテチ。おまえはなかなか気
 が利きそうだからトクベツにコウキなワタチを飼うことをゆるしてやるテチ!」
「まずはワタチのアンヨを手当てするテチ! 少しでも痛くしたらブッコロステチャッ!!」
「そしたらゴハンテチ! ママが食べてたウマウマのカリカリを用意するテチ。マズマズの
 ゴハンなんか出したらウンチ食わせてやるテチィ!」

etc、etc…。
うんうん、清清しいほどに糞蟲だなぁ。
社長も言ってたけど出荷できるまで生き延びていながらまだここまでの反骨心が残ってる個
体は特に旨みを凝縮させていることが多い。これは楽しみだね。
さて、それじゃさっそく調理に取り掛かろう。実は今、リビングに人を待たせていた。
彼とは大学に入ってからの知り合いだけどいろいろと気が合うことが多くて今じゃ一番仲が
良い友達になれたと思っている。
残念なことに実装石には興味がなかったみたいだけど、どういう風の吹き回しか少し前から
禿パンツ一丁の仔マラ実装を飼いだした。最近はさらに親指実装も増えたらしい。
もともと友達の少ない僕は嬉しくていろいろアドバイスしたり、さらに実装に興味を持って
もらおうともっともらしい理由を付けてマラ実装を預からせたり、メイデン社で働く兄さん
に頼み込んで駆除実験の見学をさせてもらったりした。
もちろんそういう裏事情は彼には内緒だ。少しずつ少しずつ、自然に実装石に関心を向けて
いくように誘導していかなくちゃ。
今日彼を呼んだのもその一環だった。
今回のテーマは食用実装石の試食。
汚いイメージのある実装石だけどちゃんと一から食用に育てた実装石は清潔で信じられない
ほど美味しい。
最初は彼も嫌がってたけど『飲みの席のツマミのひとつで出す、嫌なら避けてもいい』とい
う条件と酒代はこっちで持つという約束をしたら驚くほどあっさり折れた。
こういう単純で現金なところが僕は気に入っているのかもしれない。
そんなわけで我が家にお招きした彼が今リビングで僕が定期購読している『月刊・実と装』
を読みながら待っている。早く準備しないとコンビニで買ってきた他のツマミも冷めてしま
う。急いで取り掛かろう。
まずは…っと。

 ダンッ
「テグッ!?」

指で額を押さえてまな板に寝かせた仔実装の喉元に包丁の背を使って一撃入れる。
強すぎると首が飛んじゃうから絶妙な加減が必要だ。

「…ッヒ…! ヒュィ…!」

仔実装は喉を押さえてジタバタもがいているけど声帯を潰されたせいで声が出なくなった。
悲鳴は実装料理の最高のスパイスと言われるけどまだ彼には早いと思う。
とりあえず今日はまず食べてみてもらうのが目的だから変に悲鳴を聞かせて食欲を無くされ
ちゃったら大変だ。残念だけど今回は静かに調理しよう。
その調理法も同じ理由で生け作りなどの上級者向けは避けたほうが良さそうだ。
なので今回は全身こんがりのステーキ風姿焼きにすることにした。
予定通り仔実装の声を奪ったら次は同じように包丁の背で首から下を満遍なく叩いていく。

 ダッ  ダッ  ダッ  ダッ
「…ッ! ヒッ! …ッ! チッ!」

一撃ごとに柄を通して伝わってくる仔実装の骨がポキポキと砕ける感覚が心地良い。
こうしてただでさえ脆い仔実装の骨をさらに砕いておくことで骨を気にせずに食べることが
できるようになる。
あらかた全身を叩き終えたら次は体中に小さな切り傷、いわゆる隠し包丁を入れていく。

 スッ スッ スッ スッ
「…! …! …! …!」

あっと言う間にまな板の上は血抜き前の魚を捌いたような大惨事と化した。
肉や筋を切られたため動くこともままならなくなった仔実装はそんな血の海の中で大の字に
寝転んでビクビクと痙攣を繰り返す。
僕はその胸に包丁の切っ先を当ててプスリと刺し、そのまま一気に下腹部まで切り裂いた。

「…………ッッッ!!!」

ひと際大きく仔実装の体が震える。
お次はその切り開いた腹の中に人差し指と親指を差し込み、腹部にすっぽり収まっていた糞
袋を摘み出して包丁で切り取った。
魚のワタと同じく実装の糞袋も大抵の人が取り出して捨ててしまう。衛生的な観念からだと
思うけどこれはこれでしっかり調理すれば通好みの隠れた珍味になるのだ。
まあ今回はとりあえず置いておいて後で仕込むとしよう。
取り出した糞袋は小皿に移し、ラップをかけて冷蔵庫に仕舞っておいた。
さて、その開いたお腹にはまだ用があるんだよ。

 ぐちゅぐちゅ…
「テヒィ…!!」

再び仔実装の腹部に人差し指を突っ込み、体の中をかき回すように念入りに探る。
ん…、あったあった!
指で掻き、腹から取り出したのはこの仔実装の偽石だ。
さすがに瀕死に追い込まれていた仔実装だけど自身の命が抜き取られたことを悟ると必死な
表情で何かを訴えてきた。
声も出ない仔実装の無言の叫びを無視して偽石を水で洗い、別の小皿の上に置いておく。
そして血達磨になっている仔実装も一度ざっと水洗いし、その体をボウルに注いだタレの中
へ漬けると良く染み込むように何度も転がした。
全身の切り傷、そしてなにより切り裂かれた腹の中に入り込んでくるタレが相当沁みるらし
く、仔実装の唯一自由に動かせる顔の表情は凄まじいものになっている。
口の中にもタレは入り込んでいるけど当然ながらそれを味わう余裕はないようだ。
やがて十分に染み込んで茶色くなった仔実装をボウルから取り出し、耐熱皿の上に仰向けで
寝かせる。その腹の中に刻んだ香草を詰めたらようやく準備完了だ。
皿ごとオーブンの中に入れ、弱火でじっくりと焼いていく。

「………ァァァッ! ヂィィィィッ!!」

途中で声帯がある程度回復したらしく、オーブンの中から小さな悲鳴が漏れてきた。
もはや体は動かず必死に頭を振って泣き叫ぶ仔実装。その体が徐々にキツネ色に変化し、所
々にはケロイド状になったコゲが浮かびだす。
そして今までで一番大きく、裂けるほどに口を開いて何かを叫ぼうとしたところで背後のテ
ーブルに置いてあった小皿からパキンと渇いた音が聞こえた。
それを合図に僕はオーブンを止め、ミトンをはめた手で中から皿を取り出す。

仔実装の焼き具合は完璧といっていいものだった。
香ばしい匂いがキッチンに充満し鼻腔を刺激する。意思とは関係なく口内にヨダレがあふれ
出して止まらない。
元々料理の腕には自信があったけどなにしろ今回は素材が違う。スーパーで売っている安価
な食用仔実装じゃこうはならない。
これならきっと彼も喜んで食べてくれるはず。
最後の仕上げに小皿の上で割れている偽石をすりこぎでさらに細かく砕いたものを全体に軽
くまぶして完成だ。
僕は皿を持ってキッチンを後にし、リビングへ向かった。

「おまたせー!」
「おお!? なんだなんだ? メチャクチャいい匂いだなぁ」





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【エピローグ】




「デッデッスー…! デッデッスー…!」

403号室のバスルーム。そこで湯を張ったタライに浸かり、縁を握って力む『403』。
俺はしゃがんでその様子を眺めていた。
メイデン社からの依頼を片付けてから1週間が経ち、あれから大きな注文はないものの小口
の依頼はいくつも入っている。
今回も活きの良い仔実装をたくさん産んでくれよ。

「デッデッスゥゥゥッ…!!」
「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」

『403』がひと際大きく息を吐くと同時に堰を切ったように蛆形態の仔実装達がボトボト
と産み落とされた。
だが…

「テッテレー♪」「テッテレー♪」「テッテレー♪」
「・・・・・、え? もう終わりか?」
「デフゥ〜、ゴシュジンサマ、これで全部デスゥ」

たったの6匹だと? しかもコイツら今までに比べて明らかにサイズが小さい。特に最後に
生まれたやつ、あれはどう見ても…。

「デップ〜ン、私の仔デスー、カワイイデスゥ」

ちょうど『403』がその6匹目を取り上げ粘膜を舐め落とした。

「レッチューン☆」

体を覆う粘膜が取れ、本来の姿となった仔が媚びのポーズを取る。
それは紛れもなく親指実装の姿だった。

「デデッ!? 親指ちゃんデスゥ! ゴシュジンサマ、見てくださいデス! はじめての親
 指ちゃんデス、おにんぎょうみたいでカワイイデスゥ! ・・・・・ゴシュジンサマ?」
「はぁ、思ったより早かったなぁ、お前…」

親指実装を掲げてみせる『403』を無視し、俺は他の姉妹が入ったままのタライを傾けて
中の湯を一度すべて流す。

「テピャッ!?」

まだ蛆形態の仔実装達は湯と共に床に投げ出されて小さな悲鳴を上げた。

「デデッ!? ゴ、ゴシュジンサマ、何をしてるんデス!?」

慌てて『403』が仔を抱き上げようとするが、それより早く俺が全部拾い上げて空になっ
たタライの中に再び放り込んだ。

「デェェェ!? ダ、ダメデスゥ、ゴシュジンサマ! それじゃみんな蛆ちゃんになっちゃ
 うデス! 早くナメナメしてあげないとダメなんデスゥ!」
「いいんだよ、どうせコイツらは餌になるんだから」
「デッ…?」
「もちろんコイツもな」
「レピャッ!」

同じように『403』の手に抱かれていた親指も奪い取ってタライの中に入れる。

「デデェッ!! ゴシュジンサマ!?」
「レチャー、おっきなウジチャンレチィ!」

状況が飲み込めず困惑する『403』。
一方で親指は自分より大きな体の蛆形態仔実装に大ハシャギだ。

「あーあ、もうふた月くらいは使えると思ったんだけどなー」

そう言いながら俺はタライを脇に抱えて立ち上がる。

「ど、どういうことデスゥ!? ゴシュジンサマ、なんで仔を取り上げちゃうんデッ…!?
 デギャァ!! い、痛いデス! 痛いデス、ゴシュジンサマァァァッ!!」

さらに『403』の後ろ髪を二束まとめて掴んで持ち上げた。
宙吊りになった『403』は全体重が後頭部の髪の生え際に掛かる痛みでジタバタと暴れな
がら泣き叫ぶ。
それを聞き流しながら俺は部屋を横切って廊下に出た。
タライと成体実装と両方持っているとさすがに少し重い。急ぎ足で階段を降りて103号室
へ向かう。
ひとつ下の階なのですぐに到着したのはいいが、在庫置き場も兼ねているこの部屋は特にし
っかりと施錠してあるのでこのままじゃ開けられない。
『403』を地面に下ろし、タライも置いて3つあるシリンダーの鍵をそれぞれ違うキーで
開けていく。
念のためその間も『403』の髪は握ったままだ。

「デスン… デスン… なんでデスゥ? なんでこんなことするんデスゥ?」

ようやく痛みから解放された『403』がしゃくりあげながら聞いてきた。

「もうお前はいらなくなったからだよ」

鍵を開けながら顔も見ずに言い放つ。
親指や蛆が混じるようになった出産石はもう使えない。十分な栄養を与えているにもかかわ
らず仔の数が少なかったり出来損ないが生まれたりするということは母体の妊娠力が落ちた
ことを意味していた。
今までの経験上、そうなった親から生まれた仔は見た目にはそう変化がなくとも体力や成長
力が明らかに劣っていた。これでは2週間にわたるトレーニングにはどうせ耐え切れない。
育てるだけ時間と費用の無駄だ。
そしてそれは親である出産石も同様である。多少もったいないが早々に見切りを付けて新し
い出産石と入れ替えなくてはならない。

「なんでデスゥ!? 私なにかわるいことしたんデス!? あやまるデス! ごめんなさい
 デス! ダメなところは直しますデスゥ! だから捨てないでくださいデスゥゥ!!」

顔を涙と鼻水とヨダレでグチャグチャにした『403』が足にすがり付いてくる。

「あー、心配すんな。捨てやしないよ」
「デ…?」

それを振りほどきながらようやく全ての鍵を開けた俺は再び『403』を吊るし上げ、タラ
イも拾い上げると様々な機材の置いてある室内をズンズンと進んでいく。
そして部屋の奥にあるバスルームへ続くドアを開けた。

「「「デヒィィィィ!!」」」

途端に響き渡る複数の実装石の声。
本来あったはずのバスタブや蛇口は取り外され、壁に取り付けられたシャワー以外は何もな
い冷たいタイル張りの部屋。
床のところどころに糞が落ちていて悪臭を放つその薄暗い部屋の隅に、数匹の禿裸の成体が
固まって震えていた。全匹両目が緑に揃い、腹が膨らんだ妊娠実装だ。
禿裸達はお互いに押し合い引き合いしながら少しでも俺から離れようとしている。
それらの大半はガリガリに痩せ細り、妊娠で膨らんだ腹と相まってその容姿はさながら地獄
の餓鬼のようだ。

「ははっ、大丈夫だ。まだお前らの時間じゃないぞ」

俺は怯える禿裸達に声をかけ、タライと『403』を床に下ろす。

「デ…、ゴシュジンサマ、これはどういうことデス…?」

自分の親と姉妹、そして仔以外の実装石(しかも禿裸)を生まれて初めて見た『403』は怯
えた表情で俺の顔を見上げてくる。

「どうもこうも今日からここがお前の部屋だ。あいつらはルームメイトってとこだな」
「デェェェ!? ここがオウチデス!? お布団もおトイレもないデス! それにみんなハ
 ゲハダカでかわいそうデスゥ」
「ははは、気にすんな。お前もすぐに馴染むさ。 さて、今はそんなことよりも…」

俺はタライを正面に置いてしゃがみ込むと腰の作業ベルトからカッターを取り出した。
そしてタライの中を這いずっている蛆仔実装を1匹捕まえる。

「テフ…? ニンゲンサン、プニプニしてくれるテフ?」

無防備な腹をこちらに向け、短いままで固まった手足をピコピコと動かす蛆仔実装。
その体を指で丹念に探り、目的のものを見つけた俺は手にしたカッターの刃を蛆仔実装の胸
に当ててスッと切り裂いた。

「テピャァァァァッ!!」
「蛆チャァァァァン!!」

蛆仔実装と『403』の絶叫が室内に響く。
俺はいったんカッターを床に置くとたった今切り裂いた蛆仔実装の胸に指を入れ、奥の方に
収まっていた偽石を穿り出した。

「ゴ、ゴシュジンサマ!? なにをしてるんデス!? やめてデス! 蛆チャンが死んじゃ
 うデスー!!」

泣きながらしがみ付いてくる『403』を振りほどき、残る蛆仔実装からも次々に偽石を抜
き取っていく。
最後に恐怖でパンコンした親指実装が残ったが…、こいつはまあいいだろう。
手にした5匹分の偽石を作業ベルトのポケットから出したフィルムケースに入れた俺は、続
いてタライの中で痙攣している蛆仔実装達と親指を部屋の隅の禿裸達の前へ放り投げた。

「ほれ、新入りの仔だ。餌の時間はまだ先だが特別に食っていいぞ」
「「「デシャァァァッ!!」」」

言うが早いか先程まで必死に逃げようとしていた禿裸達は我先にと蛆仔実装に群がり、その
身を引き千切りながら奪い合いを始める。

「デェェェッ!! 私の仔がぁぁぁっ!! デギャッ!!」

それを目の当たりにした『403』が仔の元へ駆け出そうとしたのを俺は後ろ髪を掴んで引
き止めた。

「やめとけ、やめとけ。あの中に飛び込んだらお前まで食われちまうぞ」
「で、でも私の仔が食べられちゃうデスゥ!」
「諦めろよ。もう手遅れだって」

それを肯定するようにポケットに仕舞ったフィルムケースからパキンパキンと続けざまに渇
いた音が聞こえてくる。

「デェェェン! やめてデスー!! 私の仔を食べないでデスゥゥゥ!!」
「なーに、気にすんなって。仔ならこれから毎日産ませてやるからさ」
「デ…?」
「それよりもだ、今日からお前もここで暮らすのにお前だけ髪と服があったら不公平だろ?」

そう言って俺は『403』の頭に片手を置き、後ろ髪を掴んでいたもう一方の手を思い切り
引き寄せた。

 ブチブチブチッ
「デ、デ…?」

『403』は大きく見開いた目で俺の手から垂れる髪の束を見つめ、そろそろと自身の後頭
部に腕を持っていく。
その隙に俺はさらに前髪を掴んで同じように引き抜いた。

「デエエエエエッ!!」

ぶわっと涙を流して叫ぶ『403』。
俺はさらに頭巾や服を次々に破り、空になったタライの中に捨てていった。
あっと言う間にパンツ一丁にされた『403』は最後の財産を奪われまいと必死に抵抗する。

「レチャァァァッ!!」

だがひと際高い悲鳴に思わず後ろを振り返ってしまう。
見れば2匹の禿裸に掴まれた親指実装が今まさに真っ二つに裂かれたところだった。

「六女ォォォッ!!」

『403』の慟哭が木霊する中、親指の上半身と下半身はそれぞれの禿裸の口内へと消える。
少し遅れてもう一度渇いた音がした。
どうやらこれですべての仔を食い終わったようだ。食べ物のなくなった禿裸達は今度は床に
垂れた血をベロベロと舐め始める。

「ひどいデス… あんまりデスゥ…」

為す術もなくその光景を見せ付けられ、その間にパンツも奪われて禿裸となった『403』
は膝を折って泣き崩れた。
栄養のある餌を食べていなければコイツの偽石も割れていたかも知れない。
そんな『403』の右目に俺は作業ベルトから取り出した緑の塗料スプレーを吹き付けた。

「デジャッ!?」

さすがに沁みたらしく右目を押さえて仰け反る『403』。
使った塗料は水性なのでしばらくすれば涙などで落ちる。
だが一度両目が緑で揃った『403』の体は強制妊娠状態となり、見る見るうちに腹が大き
く膨らみ始め、何度も擦って塗料を落とした右目もすでに眼球自体が緑に変色していた。

「デェェェ! また赤ちゃんが出来たデスゥ!」
「言っただろ?毎日産ませてやるって。お前はさっき産んだばっかだけどまだ初回だし短時
 間でもいけるだろ」
「赤ちゃんデス、私の赤ちゃんデスー! ゴシュジンサマ、今度はちゃんとカワイイ仔をた
 くさん産みますデスゥ。だからお部屋に戻して下さいデス、優しいゴシュジンサマに戻っ
 て下さいデスゥ!」

両目から滝の様に涙を流しながら『403』は土下座で懇願してきた。

「ふっ、優しい御主人様に戻って…か」

確かに今まで優しく大切に育ててきたがそれは決して可愛がっていたわけじゃない。
全ては質の良い仔実装を産ませるため。それが出来なくなった今、もはやコイツの出産石と
しての価値は消滅していた。
コイツらは言わば使い捨ての電池のような存在である。十分な効果が得られなくなったら新
しいものと交換されて捨てられる運命だ。
だが電池は捨てる前に時計などの電力消費の少ないものに移し代えればまだもう少し使うこ
とができる。
それはコイツらも同じだった。
直接製品を産み出す出産石としてはもう使えないが、そのサポートとしてならまだ多少は役
に立ってくれる。

「また夜に来る。それまで精々体を休めて無駄な体力を使わないことだな。それがここで長
 生きするためのコツだ。 言っとくがお前らもだぞ?」
「「「デヒャァァァ…!」」」

いつの間にか床の血を舐め終わり、再び部屋の隅で震えていた禿裸達が怯えた声を上げる。

「デスッ…デスン… 大丈夫デスゥ。おまえたちがいい仔に生まれたらきっとゴシュジンサ
 マはかわいがってくれるデスー。だからちゃんとママの歌を聞いて元気に生まれるデスゥ。
 デッデロゲー デッデロボェー…」

あーあ、言ったそばから歌なんてカロリー消費するようなことを…。
まあいいか。コイツも2、3日すれば胎教なんか無意味だってことがわかるだろう。
俺は最後に『403』を一瞥してタライを手にバスルームを後にした。
ここの部屋は…、というより出産石の部屋以外のバスルームの扉は改造していないので禿裸
達はここから出ることは出来ない。

部屋に戻った俺はタライの中の髪と服をゴミ箱へ捨て、続いて戸棚の中から大きめのジャム
ビンを取り出してフタを開ける。
もちろんビンの中身はジャムではない。半分ほどまで溜まっているのは濃緑色にくすんだ偽
石の欠片だ。そこへフィルムケースの中の『403』の仔の砕けた偽石も移し入れる。

商品用の仔実装を産む出産石として使えなくなった実装石達の次の役目。それが今の『40
3』の様に偽石提供用の仔実装を産むことだった。
ここに連れてこられた廃出産石はバスルームに監禁されたまま1日1回のサイクルで死ぬま
で仔を産まされ続ける。
そうして生まれた仔は即座に偽石を抜かれ、不要となった肉体はそのまま廃出産石達の餌に、
得られた偽石は現役出産石の餌やトレーニング中の仔実装の水に混ぜるなどして使用される
のだ。
来たばかりの廃出産石は仔を食うことを嫌がるが、2、3日もしてここではそれ以外の食べ
物が出されないことを悟ると最初は泣く泣く口にし、やがては先程の禿裸達のように争いな
がら奪い合うようになるのだった。


「おっと、もうこんな時間か…」

『403』の処分にちょっと時間をかけすぎたな。
偽石の入ったビンにフタをしながらチラリと時計を見た俺は小さく舌打ちをする。
もともと偽石の回収作業は夜に行われる仕事であり、いつもなら朝は各部屋の出産石の餌の
準備から取り掛かっていた。それも出産石達が空腹と言うストレスを受けないよう可能な限
り決められた時間内で終わらせるよう気を付けながらだ。
時間が押している以上一刻も早く餌やりに取り掛からなくてはならないが、まだその前にや
るべきことが残っている。
403号室の出産石の補充だ。

俺は部屋の隅に積んであった大きめのダンボール箱のうち、適当な1箱を抱えて外に出た。
そのまま階段を昇り、今や住人のいなくなった403号室へと戻る。
そして部屋に入った俺はガムテープで梱包されたダンボール箱をカッターで開封した。

箱の中に入っていたもの、それは1匹の成体実装だ。
目を閉じたまま箱の底に横たわって呼吸すらしていないそれを取り出し、一緒に入っていた
小さな注射針付きアンプルを首筋に打ち込む。

「・・・・・・・・・・、デスー…」

しばらくするとそれまでピクリともしなかった実装石がゆっくりと息を吐き、モゾモゾと動
き出した。

この実装石は場良君らブリーダーに育ててもらった出産石候補だ。
厳しい躾を乗り越えてうちの出産石として使用できるようになった実装石はある程度まで育
ったところで、「目が覚めたら新しい飼い主さんのところだよ」の言葉と共に特殊な実装ネ
ムリで苦痛を伴わない仮死状態にさせる。
こうすることでそれ以上の成長を止め、出産石に欠員が出るまでキープしておくのだ。
打ち込んだアンプルは仮死から蘇生させるための活性剤である。

「デェェェ… デ…!?」

やがて完全に目を覚ました成体実装はキョロキョロと辺りを見回し、俺に気が付くと一瞬驚
いたような表情をした。

「は、はじめましてデスゥ。ニンゲンサンが私の新しいカイヌシサンデス?」

だがすぐに気を取り直すと礼儀正しくお辞儀をしながら挨拶をしてきた。
はじめまして、と言うが実際には生まれてから母元で育てられた1週間は毎日顔を合わせて
いるはずなので初めてではない。
しかしそれから1ヶ月近く繰り返された躾の中でそんな生まれたての頃の記憶などどこかに
飛んでしまったようだ。
もっとも俺にとってもその方が都合がいい。

「始めまして。そうだよ、俺が君の新しい飼い主だ。よろしくね」
「デッス〜ン☆」

笑顔で頭を撫でてやると成体実装は顔を綻ばせて喜んだ。

「生活のルールは先生の所で覚えたね?」
「ハイデス! おふろやおトイレは自分でできるデス。ゴハンは残さず食べるデス。お外は
 危ないから絶対に出たり出たがったりしちゃダメデス!」
「よしよし、イイコだ。そしたら今日からこの部屋が君のおうちだよ」
「大きなお部屋デスゥ! うれしいデスー。 それになんだか懐かしい臭いがするデス」
「ん…?」

その言葉が気になり、もしやと思ってダンボール箱の側面を見てみる。
そこには【403・次女】とマジックで書かれていた。

「そうか、お前は…」

ピスピスと鼻を鳴らしながら部屋を見渡している『403』の次女こと新『403』。
なるほど、偶然にもタイミングが重なり母と仔が入れ替わったわけか。
親仔の入れ替えなど滅多に起こらないことなのでなんとなく感慨深いものがある。
さて、果たしてお前は母親より役に立ってくれるのかな?

「じゃあまずはうちに来たお祝いに名前をあげよう。今からお前の名前は『ミドリ』だ」
「デスーン☆ おなまえデス!? 私のおなまえはミドリデスゥ!?」
「そうだよミドリ。それがお前の名前だ」
「うれしいデスー 私は世界で一番幸せな実装石デース」
「はは、もう少ししたら餌も持って来てやるよ。それまでホラ、これを食べてな」
「デデッ! おっきなコンペイトウデス! ゴシュジンサマ、ありがとうデスー!」

俺はミドリと名付けた新『403』へポケットから取り出した特大金平糖を渡してやった。
元から賢い仔だったが大好物の金平糖を貰ったのにすぐに食べ始めるのではなく、ちゃんと
お礼が言えるあたりしっかりと教育が施されているようだ。
食べることを許可され、生まれて初めて口にした金平糖の甘味に『403』は恍惚の表情を
浮かべながら言った。

「おいしいデスゥ。ゴシュジンサマ大好きデッスン☆ 私、ゴシュジンサマに喜んでもらえ
 るようにカワイイ仔をたくさん産むデスー」

普通の飼い実装であれば勝手に仔が産めると思うのは減点対象だが、ここの出産石達はより
多くの仔を産むことが飼い主のためであると教え込まれている。
その右目が早くもうっすらと緑がかってきたのを確認し、俺はもう一度コイツの頭を撫でて
やった。

「ああ、元気な仔をたくさんたくさん産んでくれよ。期待してるからな、ミドリ」
「デッスーン☆」




END

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     <あとがき>   という名の言い訳

あれ? なんか寒くね? というわけで気が付いたら10月も半分過ぎてました。
なんてこった…。猛暑スクやらなんやら考えていたのに…!
相変わらずの遅筆で時期を逃してしまったようデス…。
ま、まあいいや。世の中には30分の試合を1年かけて連載するマンガもある! 冬に猛暑
スクを上げても問題ない…、デスよね?
それはそうと今回は鍋派を中心にした話を書いてみました。
以前渋に投下したイラストでなんとなく『あなたは何派?』的なアンケートを取ってみたと
ころ鍋派がダントツで最下位だったのを受けて思い立ちました。
まあダントツって言えるほど投票が多かったわけでもなく、このあとがきを書いている時点
では総投票数91回のロースコアゲームでしたが…(笑)
「よっしゃここはひとつ大衆に迎合するのではなく少数派を盛り上げよう」としょうもない
天邪鬼根性を出してはみたものの、いざ書き上げてみたら肝心の食シーンがまったくない作
品になってしまいました。アルェー?
そして相変わらず無駄に長い、と。 しかもパンチョなのにパンチョ未登場ときたもんだ。
まあこれは同世界で進行している話であるということと作者自身のちょっとした自己顕示だ
と思っていただけたらなと思います。
筆は遅いデスがまたちょくちょく上げていきますのでお付き合いいただければ幸いデス。
それではここまで読んでいただきありがとうございます。

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1 Re: Name:匿名石 2014/09/12-06:49:58 No:00001326[申告]
栄養豊富な餌にたっぷり運動させて締まった肉ってのに食欲刺激されてたまらん
2 Re: Name:匿名石 2014/09/12-09:23:05 No:00001328[申告]
掲示板の機能が変わって過去作の再評価がされやすくなったのは嬉しい。
このスクも昔大好きだった
3 Re: Name:匿名石 2015/04/02-00:39:42 No:00001697[申告]
この話本当に好き
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