【ライター】 『自分でキャラを生み出せない人が東方に食いついてるんじゃないかな。 公式絵が下手だから誰でも気軽に描けるし、公式設定の縛りが少ないから アレンジも自由にできる。あと東方ネタならとりあえず東方厨が見てくれるしね』 今しがた書き終えた三行の文章に改めて目を通したのち、彼は送信ボタンを押した。 これは、東方Projectの作品や周辺事情について語り合うスレッドへの投稿である。 いささか挑発めいた物言いになってしまったが、これぐらい書かないと、 彼は満足できなかった。 ひと仕事を終えた彼は、反響を待つ間の手持ちぶさたを紛らわすために、 机の上に置かれたテレビのリモコンを手にとり、電源ボタンを押した。 テレビは陸上競技の国際大会を中継しており、現在は男子ハンマー投げが行われている。 その競技の模様をぼんやりと眺めているうちに、彼にあるひらめきが浮かんだ。 そのひらめきには、モノになりそうな見込みがあった。 興に乗った彼は、ひとまず頭の中でああだこうだと言葉を練っていたが、 やがてパソコンのメモ帳を立ち上げて、キーボードを叩き始めた。 先ほどの東方スレのことは、もはや頭に無かった。 『男子ハンマー狩り、日本代表室伏広治、注目の第一投…… さあこれはどうだ!?スピードは十分か?狙いはどうだ!? 80メートルライン付近に逃げまどう親実装!! 狙いはいい!これは当たるか!?当たった!当たりました!! 着地寸前、ハンマーが親実装の頭部をしっかりと捕らえました!やった!! そして着地からのランですが……、親実装の後方にいた蛆と親指が、 三匹ほど潰れているように見えますが……、ああ三匹です、三匹潰れています! これは好記録が出ました室伏広治。一投目から見事な投擲を見せています!』 ここで腕と背筋を伸ばしながら、深呼吸をひとつ。 それから投稿先のコミュニティにアクセスして、 場の様子をうかがう傍ら、下書きの字面を整えていく。 それは彼の日常生活において、もっとも心が踊るひとときだった。
