タイトル:【虐】 101号室
ファイル:101号室.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:8452 レス数:2
初投稿日時:2011/09/10-01:47:37修正日時:2011/09/10-01:47:37
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男の姿を目に留めると、ショーケースの中の実装石達が一斉に鳴き声をあげた。
成体も仔実装も親指実装も、果ては蛆実装も男に対して必死にアピールをする。
大概は両手を適当に振り回したり前面のガラスをぺしぺしと叩いたり。
だが、仔実装や親指実装の中には複数で踊ったり歌ったりする個体もいた。
実装ショップにおける至って普遍的な光景である。
たいして大きくはない店舗は、通り側に四列二段で計八つのショーケースが拵えられている。
主に通りの客を引き込むために親指や蛆が愛嬌を振りまいている。
もちろん蛆を食ったり他の個体を虐げないように厳選されているため、少々値は張る。
店内には商品棚が二列並んでおり、色々な玩具や餌、飼育道具に実装服などが区分けされ陳列されている。
そして奥の壁には五列三段にわたるショーケースがあった。
丁度目線に当たる真ん中の段にはやはり躾済みの仔実装や親指が並ぶ。
上の段には育ちすぎた仔実装や成体になってしまったものが何度も書き直された値札を提げていた。
下段は禿裸や、身なりの汚い仔実装と親指が上二段と比べるとみっしりと詰め込まれている。これらは虐待や生餌用だ。
そしてレジ前には蛆実装が一掬いいくらで並んでいた。
鳴いているのは主に下段、それも禿裸と糞蟲個体が必死だ。
これらはあまり育ちすぎると躾済みのように値切りされることなく処分される。
多少大人しければ成体でも買い手がないわけではない。
現に定年を迎えた層には仔実装というよりも、やや落ち着きのある成体が好まれる節があった。
けれど糞蟲や禿裸はみすぼらしさを増すばかりか、素行も不良であるため調教と称した虐待や餌として出なければ売り物にならない。
下段の格安品たちはそれを分かっているから精一杯アピールする。
その結果が、死んだほうが増しだったと思うような末路であるのはほぼ決まっているのだが。
それに比べて中段の仔実装達はのんびりとしている。
一区画には四匹程度が収められ、トイレや水場に玩具まで揃っている小さな部屋で、ゴムボールを転がしたりしていた。
親指実装は教育用に蛆実装を与えられていることが多く、熱心にプニプニしたり糞の掃除をしたり。
一連の行動が店員に褒められたり、客に「かわいー」と言われることにつながるので嬉しそうだ。
上段は大人の男が見上げる位置にあり、中の成体実装達は這いつくばって媚をしたり、スカートの中をあえて見せて気を引こうと躍起だ。
今の時刻は夕方の五時に差し掛かったところであり、もう少しで今日の営業も終わる。
そしてこれ以上売り物にならないと判断された実装石たちは処分される。
故に最後の客かもしれない男に実装石たちは一縷の望みをかけて決死の自己主張をしていた。
男はまだ自前のリンガルのスイッチを入れていないため実装石たちの主張は聞き取れない。
大方想像がつくため必要ないとも言えるが。
男はショーケース群の真ん前に立ち、隅から隅まで何度も視線を這わせ、その都度奇声を上げる実装石達に笑いかける。
更に狂乱する実装石の群れの中、男は下段の『被虐待個体』と書かれたケースの仔実装を指定して店員に取り上げてもらった。
生まれつき身体が小さかったり、糞蟲と一緒の部屋で育てられることにより虐められる個体は少なくない。
いくつか欠損が目立つそれは多少卑屈であるが賢かったり素直な個体が多く、既に飼っている成体実装への養子としての需要もあった。
「こんにちは」
男は初めてリンガルのスイッチを入れた。
途端に選ばれなかった実装石たちの嫉妬や憤怒の声が飛び込んでくるが、店員がいくつか壁のスイッチを押すと悲鳴と共に治まった。
ショーケースには個別に床に電流が流れるように作られていて今回のように粗相がある場合に良く用いられる。
連れ出された仔実装は仲間の叫びにビクリと身を震わせたが、幸い糞を漏らすまでには至らなかった。
「こんにちは」
『テェ…こんにちはテチュニンゲンさん』
仔実装はペコリとお辞儀をして、あやふやな笑みを浮かべた。
おそらく他者に対する根源的な恐怖を持っているのだろう。
何とか笑おうと、気に入ってもらおうとするものの本心は今すぐにでも泣き叫びたいに違いない。
「うん、お腹は減ってないかい?」
『…だいじょうぶテチ、テンインサンにまいにちもらってるテチ』
「お腹いっぱいってことかい?」
『すこしだけ…ほんのちょっとだけたりないかもしれないテチ……』
ちらちらと店員の顔色を伺う仔実装。どうやら誰に生かされているかを理解しているらしい。
それともこの笑顔を貼り付けた店員が相当にやり手なのだろうか。
ともあれ、食欲そのものはあるらしいと分かった男は、店員に財布から取り出した黒いカードを手渡す。
「カフェはまだ使える?」
「大丈夫ですよ」
カードを確認し返却してきた店員に案内されるまま、仔実装を手の平に乗せてレジ横の扉から奥へと。
その際、店員から用紙とペンを渡された男は躊躇うことなく記名を行った。
細く長い部屋。壁に向かって十脚ほどの椅子が置いてある。
席の一つ一つは仕切りによって区切られており、壁から張り出したカウンターと共に小さなブースを作っていた。。
恭しく椅子を引き、男を座らせて店員は尋ねる。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」


カウンターに乗せられた仔実装は困惑してた。
「テチ?」
自分を連れてきた人間はなにやら本のようなものを眺めている。
その人間と仔実装の姿を映す鏡が正面にあり、両側には黒光りする高い壁。
「テチャァ…」
これからどうなるのだろうか。仔実装は男がこちらを見ていないのでとりあえず腰を下ろした。
この部屋のことは知っていた。
いつもあの低いショーケースから眺めていたのだ。
外から来た飼い実装が飼い主である人間と一緒に、あるいは他のケースの実装石が飼い主となった人間と一緒に入っていく部屋。
出てくる実装石たちはどれもが顔を紅潮させて、興奮した口調で人間に語りかけていた。
『デッスゥ、やっぱりここのご飯は最高デスゥ』
『ニンゲンさん、ワタチあんなウマウマはじめてたべたテチ。ありがとうテチ』
(ずっときになってたテチ…)
その場所に自分がいる。そして何が起こるか。
ちらりと鏡を見れば足を伸ばしてだらしなく口を開いたみすぼらしい仔実装がいる。
もっと小さい親指実装だった頃に姉妹によって餌代わりに耳を齧られ、抵抗したため暴力を振るわれた。
結果、擦り切れた服と耳の部分が片方かけた頭巾に半分程の密度になった後ろ髪という容姿となってしまった。
(このニンゲンさんはどうしてワタチをえらんでくれたテチ?)
男の顔を見上げる。この格好が如何に無様なものかは自覚している。
飼い実装になることを諦めたわけではないが、手に取られた同属が皆綺麗な身なりをしているのを見てきたため、大きな期待もしていなかった。
「いいかな」
男が唐突に口を開いたので、慌てて仔実装は立ち上がった。呼ばれたかもしれないと。
だが、男の声に応えたのはさっきまでとは別の店員だ。
伝票片手に傍らに立つ。
「はい、お待たせしました」
「準備は出来てる?」
「ええ大丈夫です」
店員の笑顔に男は満足したように頷いて、
「ブレンドと…そうだなこのステーキ味のフードを」
「かしこまりました」
一礼して店員が去ると、男は仔実装にようやく視線を落とした。
「落ち着かないかな?」
『テッ!? …テチ。ニンゲンさんはワタチをかってくれるテチ?』
俯きがちに問いかける仔実装に男は少しだけ気を良くしたようで、笑顔を見せた。
「そのつもりだけどね。少しだけキミの様子を見たいんだ」
『が、がんばるテチ! おしごとするテチ!! わがままいわないテチィ!! おねがいしますテチ!』
仔実装は普通に飼い実装としての躾は受けている。
姉妹からの暴行が無ければ普通の躾済み飼い実装くらいにはなれていただろう。
その使命感が今ゆっくりと再燃し、仔実装を奮い立たせていた。
「うんうん、頑張って」
微笑む男の言葉にもう一度『がんばりますテチ!』と応えたところで店員がトレーを携えてやってきた。
「お待たせいたしました」
男の前には飾り気の薄いコーヒーカップが置かれる。砂糖とミルクはポーションスタイルで一つずつ添えられた。
そして、
『テェェェェ!!』
仔実装は思わず叫んでしまう。
それもそのはず、仔実装の目の前にピンクの餌皿に盛られた実装フードが置かれたのだ。
仔実装の鼻が、耳が忙しなく動く。
匂いからしてまずこれまで食べてきたものとは違う。まるで焼いたような香ばしさに、食欲をそそる刺激的な感覚。
それをスパイスだと仔実装は知るよしも無いが、身体は正直に反応する。
目は大きく見開かれ、だらだらと涎を垂らしながら駆け寄る。
いつものショーケース前の棚にこれ見よがしに並べられている憧れのもの。
飼い実装にはそれこそ選り取り見取りなのに、この仔実装を含めたほとんどの実装石には無縁のもの。
飼い主と訪れていた飼い実装がわざとらしくクチャクチャと音を立ててショーケースの前で食い散らかしていたのを思い出す。
それが目の前に。
「この仔はどこまで躾されてるのかな?」
「トイレと、水場があれば身体を洗うことは出来ます。待ては教えていた筈ですが…」
店員の言葉は苦笑交じりに尻すぼみとなる。
それもそのはず、仔実装がフードの山に顔から突撃し、貪っていたからだ。
『ウマウマテチィ! ウマウマテチィィィ!! こんなのしらないテチ! たべたことないテチャァ!!』
頭は餌皿に埋没させ、高々と上げた尻を振って喜びを表現する。その下着は嬉しさのあまりパンコンして盛り上がっていた。
「まぁ、初めてだろうし、こんなものだよね」
男も店員の苦笑につられる様に笑みを浮かべてコーヒーを一口。
「申し訳ございません」
店員は一歩下がってお辞儀をすると部屋を出て行った。
仔実装はそれにすら気付かずに、一心不乱に初めて味わう至福の味に酔いしれていた。


仔実装が失態に気がついたのは空になった餌皿を丹念に舐めていた時だった。
口の中に未だに残る怒涛のような旨味が名残惜しく、残渣を求めて舌を這わせていたのだ。
どこかにフードは転がってないか。あちこちに目線を泳がせていて、その視線が絡み合う。
ニコニコと人間は仔実装を見下ろしていた。
『テチャァァァァァァァァッ!!?』
飼い実装としての教育における「ご飯を綺麗に食べること、意地汚く食べない事」は「ウンチはトイレでする」と同等なくらい厳しく躾けられた。
ご主人様にみっともない姿を見せてはいけない。
それだけで捨てられるかもしれないと散々脅された。
(もうだめテチィ…)
四肢をテーブルにつき、がっくりと項垂れる仔実装。
気がつけばパンツも糞でずっしりと重い。
二つも禁忌を犯して飼い実装になれるはずがない。
『ご、ごめんなさいテチィィィ!』
それでも仔実装は諦めずに賭けに出た。
今この機を逃しては次にいつ取り上げられるか分からない。
もしかしたらこの後すぐに死ぬ運命にあるかもしれないのだ。
『もうしませんテチ! ゆるしてくださいテチィ!!』
男の言葉はシンプルだった。
「いいよ。気にしてない」
『テ?』
「まだ仔供だからね。気にすることは無いよ」
『テェェェェ…ニンゲンさんやさしいテチ……ありがとうございますテチ!』
ぺこぺこと頭を下げる仔実装に男はやさしく問いかける。
「本当はもっと色々出来る仔なんだよね?」
『で、できますテチ! ワタチいいこテチ! おやくにたつテチャ!!』
「そっか、じゃあお留守番できるかな?」
『おるすばん…だいじょうぶテチ! ちょっとさみしいけどがまんできるテチ!!』
仔実装の応えに男は二度頷き、店員を呼んだ。
「とりあえず一週間取り置いてもらえるかな?」
「かしこまりました。通常で?」
実装石を飼う際に、このように事前に性格や躾具合を見ることは最近少なくない。
何せそれなりに人間と意思疎通ができるのである。できるならば相性のいい仔を選びたいのが他人の常。
それに最近は実装石を捨てるにも金が掛かるのだ。
このカフェスペースはそういったテストのために用いられてきた。
もちろん飼い実装をつれての入店もできる。この御時勢、実装石を受け入れる店はそう多くはない。
さて、飼い実装になったかどうかは別として、この店では気に入った実装石の取り置きもしていた。
週末まで預かって欲しい、もう少し様子をみたいなどの意見があったためだ。
もちろん別途経費は必要だが無駄に実装石を飼うよりは安上がりになるため利用者は多い。
実際、この制度により実装石の売上が二割ほど増えたくらいだ。
「そうだなぁ」店員の言葉に男は顎を撫でさすりながら「普通にしてくれる? 餌は今より一つ下」
「かしこまりました」
店員は男の注文に礼を返すと、仔実装に手を伸ばした。
『テヒィ!? どうしてテチ!? ニンゲンさん、ワタチをかってくれるんじゃないテチャ!? おるすばんさせてくれるんじゃないテチィィィィ!!?』
包んだ店員の腕の中、必死にもがいて抜け出そうとする仔実装。
先ほどのパンコンに加えてさらに脱糞をしているため、これ以上ないほど膨れ上がった下着から糞が零れる。
「そうだね、もう少し準備が要るんだ。また明日来るから、ここでお留守番してくれるかい?」
男の手が仔実装の頭をそっと撫でる。
そのやさしい手つきにうっとりとした仔実装は、
『わかりましたテチ……はやくむかえにきてほしいテチー』
涙を浮かべながらも笑顔を作る。既に気分は飼い実装だ。
背を向ける男に仔実装は、懸命に手を振る。
『ニーンゲーンさーん! まってるテチィ!! いいこでおるすばんしてるテーチッ!』
店を出る間際に男が仔実装に向けて手を振ってくれたことで、胸を撫で下ろした。


『…ほんとうにいいんテチ?』
「いいんだよ。これが注文どおりだからね」
仔実装はいつものショーケースに戻されるとばかり思っていた。
が、連れられたのはレジの後ろにある特別なケージだった。
かつてここに入れられたものが軒並み人間の手に抱かれ店を出て行ったのを覚えている。
(やっぱりかってもらえるテチィ!)
思わず小躍りする仔実装だったが、しげしげと自分がいる場所を見渡して更に激しい踊りを見せた。
吸い口がついた給水機がある、トイレがある、ふかふかのタオルがある、そして水浴び用の容器がある。
どれもこれまでとは段違いの高待遇だ。
以前はかび臭いスポンジに含まれてた水を飲み、糞はその辺に垂れ流して三日に一度寝床代わりにしかれた新聞紙と共に交換されていた。
水浴びなど週に一度、無理矢理集団で水をかけられるだけ。
それがどうだろう。広い空間を独り占めどころか、まさしく、
(こ、これはかいじっそうのくんれんにちがいないテチ!!)
きっと飼われてからもこんな生活ができるに違いない。
嬉しさのあまりに仔実装はテチュテチュ踊り狂う。
『テ! おせんたくするテチ!! あしたはキレイキレイなワタチをみてもらうテッチューン』
いそいそと服を脱いだ仔実装は下着からもれる糞で緑の線を引きながら水場へと飛び込んだ。
水しぶきを上げ、仔実装としては念入りに洗っているつもり。傍からは溺れているようにしか見えないが。
すっかり緑に染まった水から上がった仔実装は、その水に服を浸そうとして、
『…きちゃないテチィ』
つまりはそれだけ汚れていたというわけだ。
仔実装は濡れた身体のまま給水機まで行くと、何度か水を口に含んでは服に吐きかける行為を繰り返した。
『これでおせんたくテチ』
床に濡れた服を広げて手で擦るだけ。それで汚れが取れるわけではないが、仔実装は五分ほど手を動かし続けた。
もう一度同じ要領で水を含ませると緑色の液体が服から滴り、
『キレイになってるテチィ!!』
満足げだ。
パンツも洗ってすっかり裸になった仔実装は、服を床に広げて自分はタオルの山へ飛び込んだ。
『テッチューン! フカフカアッタカテチィ! いいにおいするテチャー!!』
乾ききってない身体に付着した汚水を吸って見る間に薄い緑を呈していくタオルであったが、新聞紙よりもずっと良い肌触りのため気にならない。
存分に転げまわった仔実装は、急に身体を起こすと一目散にトイレへと向かう。
既に限界だったのか少しずつ糞をちびらせながらおまる型のそれに跨ろうとして足を上げた。
その瞬間、緩んだ総排泄口からジェット噴射の如く糞が吹き出た。
『テァァァァァッ!!? チャ…ヂャァァァァァァア!!!』
とんでもない粗相である。躾課程ならば懲罰室行きも免れないであろう。
仔実装が内股を締めても一度漏れ出した糞は止まらない。
ケージの一角はあっという間に緑に染まる。
(なんとかするテチ! なんとか…テェ…おにくのにおいテチ)
手で掬ってトイレへ片付けようとした仔実装だったが、かき集めた糞からいい匂いがするのに困惑する。
原因は男に食べさせてもらった実装フードステーキ味だ。
その味と香りの一部が残っており、さらにそれはいつも食していたフードよりも、
(おいしそうテチャー…ダメテチ! これはウンチテチ! ウンチはたべちゃダメテチ!!)
誘惑を振り払おうと頭を振って堪えるが、自然に涎は垂れる。
その欲求を断ち切ったのは店員だ。
「ありゃ、糞こぼしたか」
『テヒィィィ! これはまちがいテチ! うっかりテチィ! ついテチャァァッァ!!』
必死に糞をトイレに投げ込む仔実装を店員は手袋をした右手で摘み上げた。
『ごめんなさいテチィィィィ! もうしないテチィ! ゆるしてくださいテェェェェッェチ!!』
痛いのはいや、お仕置きはいや、熱いのいや。
過去の記憶から仔実装は本気の涙を流して謝る。が、
「暴れんなー。今綺麗にすっから」
店員は片手に仔実装を下げたまま、もう片方の手で器用にウェットティシュを操り、瞬く間に糞を取り除いた。
ついでに汚れていた水場も取替えて、仔実装の身体についた糞を洗い流してやる。
「洗濯はこうするんだぞー」
そして汚れた服の洗い方まで教えてくれた。
『あ、ありがとうございますテチ…』
困惑しながら感謝の意を示す仔実装に、店員は微笑みかけた。
「いいってことよー。それよりちゃんと買われてくれよ」
『がんばりますテチ! ぜったいしあわせになるテチ!!』
力を入れた瞬間、再び仔実装は糞をもらした。


夢のような待遇にすっかり頭のネジも股間も緩みきった仔実装であったが、一つだけ不満があった。
『……おいしくないテチャー…』
翌朝、目覚めた時には既に準備されていたフードに齧り付くと、一口二口で眉をしかめた。
昨日食べた物とは全然違う。それどころか従来の餌よりも味気ない。硬い。ぼそぼそする。
仔実装は半粒を食して一度フードを置いた。
お腹は空いている。
けれど食指は動かない。
「ん? 腹いっぱいか?」
他のショーケースの掃除を終えた店員が、餌の山を前にしてじっと座っていた仔実装に語りかけた。
『テェ…』仔実装は迷った。せめてもとのご飯に戻してもらえないかと懇願すべきか否か。『きのうたべさせてもらったごはんのせいかもテチ』
遠まわしに口に合わないことを伝えようとするも、
「そっか、結構食ったもんな昨日は。じゃあ片付けよう」
『テェェ……おやつにとっておくテチ…』
このまま下げられてはかなわないと仔実装は三粒のフードを抱えてタオルのベッドへと戻った。
店員に背中を向けたまま試しに一齧りして、やっぱりまずいと食べかけをそのままタオルの下に隠した。
仔実装は空きっ腹を抱えたまま、ぼんやりと過ごす。
教えてもらったように洗濯をしようかとも考えたが服が乾かないと困るのでやめた。
することがないと空腹にいやでも気がいってしまうため、誤魔化すために水を飲む。
ぽっこりと腹が出っ張るまで補給すると少しは気がまぎれた。
オープンした店内は客が来るたび実装石たちの鳴き声が響く。
それをどこか覚めた目で仔実装は聞いていた。先日まではあの群れの中にいたというのに。
そのせいか、一つ気付いたことがあった。
仔実装のいるレジのケースから一番近い最下段のショーケースが空になっていたのだ。
そこには禿裸の仔実装が四匹と同じく禿裸の蛆実装が一匹いたはずだ。
(バイバイしちゃったテチィ…?)
いつも元気がなく、誰が来てもお愛想の一つもしない仔達だった。
昨日に限っては最後のチャンスと悟っていたのか全員でケースの前面を叩いてアピールをしていたが。
(ワタチだけごめんテチィ…)
昼を回る頃に隠していたフードを少しだけ齧りすぐに仕舞った。やはり食べる気にはなれず。
普段なら一緒にいるはずの同属とお話したり追いかけっこをしたりするのだが一匹では何もすることがない。
仕方なく、仔実装はタオルに潜ると丸まって眠りについた。

急に温かい空気が逃げ、仔実装はぶるりと身体を震わせた。
「起きたかい?」
『テー……お、おはようございますテチィ!!』
いつの間にか仔実装は男の手の中にいた。
慌てて見渡すと昨日と同じようなカフェスペース。
(き、きょうはちゃんとやるテチ…)
仔実装の決意を知ってか知らずか、男はまたもメニューに目を通している。
そわそわと落ち着かない仔実装は狭いカウンター上をうろうろしてみる。
鏡に自分を映して、服が汚れていないかチェックしたり、髪を整えたり。
「おいで」
『はいテチ!』
鏡越しに手招きされた仔実装はえっちらおっちら駆け出した。
「お留守番はどうだい? できそうかい?」
『ぜんぜんだいじょうぶだったテチャ。ちょっと…』
言いかけて仔実装は慌てて自分の手で口を塞いだ。ご飯が美味しくないと、思わず言いかけたからだ。
我侭はいけないことと教わっている。飼い主となる人間からは与えられる分だけを大人しく受け入れなさいと。
それ以上を望むと捨てられてしまうよとも。
「なにかな?」
『……なんでもないテチ』
結局言わないことにした。
「お待たせしました」と、店員がトレー片手にやってきた。
仔実装の気持ちは否が応でも昂ぶってしまう。再びあの濃厚な旨味を味わえるのだと決め付けていた。
「ブレンドとコンペイトウでございます」
「ありがとう」
『テッテッテ…テッチュ〜ン!! アマアマ! アマアマテチィ!!』
カクテルグラスに色とりどりのコンペイトウが入っている。
仔実装の背丈では取ることが出来ず、ぴょんぴょん飛び跳ねて何とかグラスの縁に手が掛かるかどうかといったところだ。
「こらこら、お行儀が悪いぞー」
男が仔実装の頭を指で軽く押さえつける。
『テヒッ…ご、ゴメンナサイテチ…』
謝るものの仔実装の瞳はコンペイトウに釘付けだ。
無理もない。飼い実装の勉強中に一度だけ食べたことがある魅惑の甘味である。
その時の同属は出てくる糞まで甘い甘いと喰らって、そして落伍石として禿裸の奴隷に喰らわれた。
頭を押さえつける指の圧力がなくなっても仔実装は待った。
自分では届かないのだからきっとご主人様が取ってくれるはず。
「好きな遊びはあるかい?」
『テチ? おうまさんごっこたのしいテチ。アマアマはもっとすきテチ』
「お馬さん? 玩具があるのかな?」
『ちがうテチ。おともだちにのっかるテチィ。それで、はしってもらうテチュ。ワタチアマアマだいすきテチ』
「へぇ、お馬さんになる仔は可哀想だね。交代交代で遊ぶのかな?」
『ちがうテチ。おうまさんになるのはかみも、おふくもないおともだちテチャ』
仔実装は男の質問に答えながら、ぐるぐるとカクテルグラスの周囲を歩き始めた。
「…嫌がらないのかな、お友達は」
『へっちゃらテチ。はげはだかはどれいっていうテチ。なにしてもいいんテ…ッチィ!』
男に背を向けたところでこっそりジャンプしてみる。
隠れてコンペイトウに手を伸ばしたつもりなのだろう。
しかし、かすかに手には触るものの掴むまでにはいかない。
「そっか何されてもいいなんて可哀想な仔達だね」
『そうなんテチ? みんなやってるテチ。アマアマはみんなだいすきテチィ』
仔実装の言うとおり、実装ショップでは一つの暗黙の了解として禿裸は必ず別のケージに入れて置く必要があった。
禿裸は実装石のヒエラルキーの中ではもっとも最下層である。
野良では仔を産む機械として糞を食わされて生かされたり、ストレス発散の玩具になる。
飼い実装として躾けられても根底にはその気質が残っており、「おともだち」と称しながらも絶対的な立場の違いがあるのだ。
この店では掃除をする短い時間だけ、仔実装と禿裸仔実装を一緒にする場合があった。
仔実装達のストレス解消もあるが、共食いにまでいたる個体のあぶり出しなども目的としている。
ここで禿裸を庇おうという個体が出てくれば優先的に特級となるべく教育もするのだ。
話を聞くに、この仔実装は至って普通の、取り立てて特徴のない個体であると男は考えた。
仔実装はもう男の話など上の空で、なんとかしてグラスの中のコンペイトウを取れないかと飛び跳ねている。
男が何を言っても『そうテチ』としか返さない。
血走った目と荒い呼吸。当初の決意もどこへやらといった具合だ。
やれやれと男は溜息をつき、一粒コンペイトウを摘み上げた。
『テッチャァァァァァ!! アマアマテチ! はやくはやくちょうだいテチィィィ!!』
届きもしない高さめがけて何度もジャンプを繰り返す。
だが男はそれを自分の口に運んだ。
「ん、久しぶりに食べると意外と美味いな」
『…テ…ヂャァァァァァァア!!? それはワタチのテチィィ!!』
眉間に皺を寄せて、仔実装は吼えた。あまりの興奮にパンコンまでしている。完全にコンペイトウに目が眩んだ状態だ。
カウンターに置かれた男の左手に走り寄ると、人差し指を懸命に持ち上げようとする。
『はやくとるテチィィィ!! アマアマをけんじょうするテチャァァァ!』
「せっかちだねぇ」
男は一粒を鏡の方へ放った。転がるそれに仔実装は敏感に反応し、一目散に駆け出した。
盛り上がった下着が随分と重そうだったがなんら気にかける様子もない。
そして鏡に一度当たって跳ね返ったそれに手を伸ばそうとして、
『ヂギッ!?』
背中を小突かれて派手に転倒する。強かに顔を打ちつけ、さらにパンツを盛り上げる。
「ダメだなぁ」
痛みにいくらか冷静になった仔実装の耳に冷ややかな男の声が届いた。
そこではっと我に返る。じっとりと嫌な汗が全身から滲む。
『…テ、テッチュゥゥゥゥゥゥッ!?』
何とかしようと、寝転んだまま仰向けになり、お愛想をしようとしたところで腹部をコーヒースプーンで圧迫された。
「今日は頑張るって言ったよね?」
『ヂィィィッ! イギィィァァァァ!』
穴が開きそうなほどの痛みに糞は次々と搾り出され、下着はその意味を成していない。
「頑張ってこれかな? それとも頑張ることもできないのかな?」
『ヒギィ! が、がんばりますテチィ……もっと、もっとがんばりますテ…チャ…』
真っ青な顔で懇願する。と、急に押さえつける痛みが消えた。
『テヒッ! テヒッ!』
お腹を押さえ、顎を仰け反らせて息を吸おうとする仔実装。
「次はないよ」
『は、はいテチャ!』
何とか返事をすると、眼前に大量のコンペイトウが雪崩れ込んできた。
男がカクテルグラスを倒したのだ。
今すぐに貪りたい、舐めしゃぶりたい衝動を歯を食いしばって耐える。
気がつけば自分の右手を咥え、血が出るほどに噛んでいた。
仔実装の中では非常に長い時間、実際は三分ほど経過して、男が言った。
「食べていいよ」
『テヂャァッァッァ!! アマアマテチューン!』
男の言葉を聞き終わる前に仔実装は転がるコンペイトウに飛びついた。
無理矢理口に詰め込んで噛み砕き、次々と拾い漁る。
歩き回るうちに下着から零れた糞が付着したコンペイトウもいくつかあったが躊躇なく口に入れる。
残り二個になってようやく大事さを理解したのか、惜しむようにちびちびと舐めだした。
カウンターの上は余すところなく仔実装の糞に塗れて異臭を放っている。
男は口元に笑みを浮かべてそれを見ていた。


ショーケースに戻された後も仔実装はうっとりと口の中で甘味の記憶を反芻していた。
(幸せだったテチィ……)
あの後、男に糞をまき散らかしたことを叱られたが、何とか掃除をするとお風呂に入れてもらえたのだ。
風呂と言っても洗面器に温めのお湯を張っただけのものだったが、冷たくない水など初めてだった仔実装は大歓喜だった。
またまた湯船でもらしてしまうも、男は初めてだからしょうがないと笑って許してくれた。
服も洗ってもらい、床の上で乾かしている。
仔実装は自らの髪に触れる。
これまでも大事にしてきた髪だったが、今はもっと大事だ。
丁寧に洗われたそれは一本一本が綺麗になびき、滑らかな手触りをしていた。
鏡でそれを見て、仔実装は感動して泣いてしまったくらいに。
千切りとられた無残な髪の毛ではあったが、ここまで美しければそんじょそこらの実装石では太刀打ちできないのではないだろうか。
男は帰り際に、
「もう少しお勉強がいるかな。また留守番をしててね」
『…はいテチ! つぎは、つぎはもっといいところをみせるテチ!!』
一回でもいいところがあったかは別として、並々ならぬ意欲を仔実装は見せた。
相変わらず、供されるフードはまずいものの、美容を保とうと頑張って食べた。
掃除や荷物運びの練習もした。
男が来る度にその成果を披露して、頭を撫でられ、美味しいものをいっぱい食べさせてもらう。
いい食事に慣れてくると仔実装はがっつかなくなった。どうせ我慢すれば手に入るのだから。
それよりも自分が出来る仔だと主張することが大切だと考え、なるべく男との会話を優先した。
『テェ…怖いテチィ…』
「そうだね、でも公園でちゃんと生活できてる実装石もいるからね」
『すごいテチー、ワタチはとてもむりテチ…』
今日は男から公園の話を聞いていた。自分たちと同じだけど全然違う実装石の話。
飼い実装になったら一匹では公園に行ってはいけないと教えられていた。
故に男の話は新鮮ではなかったものの、仔実装は熱心に相槌を打つ。
「やってみなくちゃわからないぞー」
『むりテチむりテチ〜』
嫌がる素振りを見せつつ、男の右手中指に頬ずりする。
その仔実装を男は手の平で包むように持ち上げた。
『あったかいテチィ〜』
「きつくないかい?」
『だいじょうぶテチ…。こうしてるとママにだっこされてるみたいテチャァ』
目を細めて男の手に全身を預ける仔実装。
半開きの口から涎が滴るも気持ちよいのか気付いていない。
「ははは、そんなこと言っちゃママに悪いぞ」
『テチャー…でもワタチ、ママにあったこともなでなでしてもらったこともないテチ……』
所謂飼い実装用の仔実装は、それなりの性質を持ったとみなされた親から生まれた後、すぐに教育を受け始める。
母親の乳も体温も知らずにひたすら人間に飼われる事を目指し続けるのだ。
その過半数が教えについていけず、あるいは心を病んで脱落していく。
「そうか…寂しかったかい?」
『いまはへいきテチュ!! ニンゲンさんがあいにきてくれるから…とってもたのしいテチ!』
身体を起こした仔実装は、ふと思いついたことを口にしようとして、躊躇って俯く。
もじもじと肩をゆする仕草に気付いた男が、促すと、顔を真っ赤にしながら
『テチー…お願いがあるテチ、ニンゲンさんを……ママって呼んでいいテチ?』
右手を顎につけてお愛想しながら仔実装は言った。
「甘えん坊だな、キミは」
男はその頭をそっと撫で、
「今日のお留守番で最後にしようか」
仔実装はいよいよだと感激の涙を流しつつ、男の手に存分に甘えたのだった。


翌朝早々と目を覚ました仔実装は、まず服の洗濯をして、自らの身を清めた。
といっても実装石にできる範囲でだ。
それから服を乾かしながらひたすらに男を待つ。
裸のままケースの前面ガラスに張り付くようにして、入ってくる客を注視した。
餌は食べない。糞をしたらそのたびに身体を洗う。
晴れて人間の家に迎え入れられるのだから準備をしすぎることはない。
昼を過ぎ、外から差し込む光がオレンジ色を呈し始めた頃、仔実装の焦燥感を拭うように男はやってきた。
「やあ、待ったかな」
『ママ! あいたかったテチ! ママァ!!』
急いで服を着た仔実装はケースの中で全力で跳ねる。
店員が仔実装を取り出し、男に手渡す。
『テチャァ〜ママのおててはおひさまみたいにぽかぽかテチュ〜』
男の手の中で仔実装は全身を弛緩させ、全てを委ねる。
そしてふと、顔を上げると店をぐるりと見渡した。
(ここともおわかれテチ…)
早く去りたいと思っていた場所だったが、いざ離れるとなると感慨深い気持ちが湧いてくる。
ショーケースに陳列されている実装石達が一斉に仔実装を見つめていた。
皆、羨望の眼差しを向け、糞蟲ラベルの個体に至っては投糞でケージ内を汚す始末。
それを受けて仔実装の中に優越感が沸き起こる。
憧れの飼い実装になってやった、ざまあみろ。
「さて、行こうか」
『テッチュ〜ン!』
男は一声かけると、店の裏手へ続くドアをくぐった。
『テチ? こっちはおそとじゃないテチ?』
バックヤードへの短い通路の間に、事務所兼休憩室と、もう一つ黒いドアがあった。
店員が鍵を開け、そのドアを開ける。
途端にむせ返るほどの腐臭が漂ってきた。
『テチャァ!? くさいテチィ!!』
咄嗟に鼻を押さえる仔実装だったが、構わず男は脚を踏み入れる。
そこは暗く、細長い部屋で十個のブースに区切られ、ベニヤで作られた簡易のドアが設えてあった。
男は一番手前、「101」と記されたスペースに身体を、仔実装を滑り込ませる。
そこは一見すればカウンター席のようにも見えるが、違うと感じさせるのはテーブルではなく水槽が置いてあるからだ。
水槽の中には禿裸の仔実装が四匹と仔実装に抱かれた禿裸の蛆が一匹。
糞の緑に染まった尻をこちら側に向けて、向こう側に見える景色をじっと見ていた。
仔実装はその向う側に酷く見覚えがある。
『あっちはウマウマのへやテチ?』
「そうだよ」
声に禿裸たちは一斉に振り返る。
『ママァ! まってたテチャァァ!!』
『ずっとおるすばんしてるテチ! ワタチいいこテチィィィ!』
『ママ! ママ! もういちどだっこしてテチ! ウマウマたべたいテチ!!』
『おなかへったテチ…おねがいテチ……せめてうじちゃんにごはんほしいテチ』
『レフー、蛆ちゃんプニプニが不足してるレフ。今すぐにプニプニ分の補給を所望するレフ』
一斉に男へ向かって騒ぎ立てる。ママ、と。
『テ? ママ?』
事態が飲み込めない仔実装はただ男に尋ねる。
「いよう、久しぶりだな」
『ママーいつまでおるすばんテチ?』
『またウマウマほしいテチ…ウンチばっかりはもういやテチュ』
『テ…そいつはだれテチ?』
『テシャァァァァァァ!! そいつはきのうまでママのてでウマウマやアマアマくってたやつテヂャァァァァァァッ!!』
『レフ! 蛆ちゃん堪忍袋の緒が切れそうレフ。早急にプニプニを要求するレフ!』
仔実装の姿を認めると、四匹はすごい剣幕でがなり散らす。
そいつを寄越せ、どっかいけ、殺せなどなど。
明らかに向けられる殺意に仔実装は、
『テヒィィィ…ママァ! なんかこわいテチィ!!』
「ははは、臆病だなぁ。そんなんじゃダメだぞ」
男は仔実装の襟首を掴むと、水槽の中に置いた。
『テ…ママ……ママァ!?』
『おふくをよこすテチャァ!!』
『おにくぅぅぅ! くわせるテチィィィ!!』
瞬く間に襲い掛かる四匹の勢いに圧倒され、なす術なく仔実装は服を剥ぎ取られ、髪を毟られた。
禿裸。奴隷。
仔実装の頭の中に走馬灯のように楽しかったここ一週間の記憶がよみがえる。
背中を丸めて頭を抱えた仔実装に対して、先住の禿裸立ちは怒りくるって投げる蹴るの連打を浴びせる。
「おーい殺すなよ」
男ののんびりとした声に、
『テチャァァァ! こいつはドロボウむしテチ! しんでもゆるされないテェェェェチャ!!』
『そうテチ! ころしてもたりないくらいテチ!』
抑制を聞かない禿裸の一匹に対して、男は親指で力を溜めた中指の一撃、デコピンをお見舞いする。
後頭部を打ち抜かれた禿裸は水槽の壁に顔面からぶつかり、ずるずると血の跡を引いて崩れ落ちた。
『テ…』
『テァァァ…』
『テチャァァァァァッァァ!!?』
他の三匹が悲鳴をあげて逃げ惑う。隅で穴を掘ろうとしゃがんで床を掻いたり、抜け出そうとジャンプを繰り返す。
「みんな、仲良く、な? 良い仔なんだろう?」
男は傷だらけで蹲る仔実装をひっくり返す。
仰向けになっても足と腕を縮込めたまま、急所を守ることに全力を注いでいた。
『ゆるしテチ…ゆるしテチ……ママ…ごめんなさいテチャ、たすけてくださいテチ…』
くぐもった声が聞こえるが男は気にせず、
「なぁもう少しお留守番できるだろう? 良い仔なんだから」
『レフ。蛆ちゃんはずっと待ってるレフ。我慢の後には最高のプニプニに到達出来るはずレフ』
水槽の中央で腹を見せた蛆が尻尾を小刻みに振っている。
『…おるすばん……するテチ』
床を引っ掻いていた禿裸が涙を拭いながら立ち上がると、男に向かって両手を掲げた。
『がんばるテチ、でももういちどだっこしてほしいテチャー』
『ずるいテチ!』飛び跳ねていた禿裸も駆け寄る。『ママァー! ワタチはなでなでがいいテチィ!!』
「ははは、ちゃんと約束を守ってお留守番できたらしてあげるよ」
隅っこで尻を突き出して震えていた禿裸もいつの間にか男の目の付くところへ歩み寄ってきていた。
『やくそく…おるすばんはしてるテチ。いいこにしてるテチ』
「そうだね。今日からお友達が増えるから、次に来るときまで仲良くしてな」
お友達。三匹の禿裸はほぼ同時に四肢を強張らせて丸まっている仔実装に向けられる。
ガタガタと震えながら、うわごとのように謝罪を繰り返す。
そして、三匹が三匹とも互いの眼を見つめあい、頷く。
『がんばるテチ』
『たいせつにするテチ』
『お友達テチィ』
その応えに男は笑顔で返す。すると仔実装達も笑顔を見せた。
ご褒美がいるね。男は良い、折曲がった仔実装の四肢を強引に伸ばす。
『ごめんなさいテチごめんなさいテチごめ……テァァ! ママテチ! ママ! こわかったテチ! いたかったテチィ!!』
男の指に抱きつく仔実装を引き剥がし、首を押さえて床に固定する。
『…ママ? どうしたんテチ? ワタチはやくだっこしてほしいテチ。ここはイタイイタイテチ…ウマウマたべたいテ……ヒボッ!?』
男の手が邪魔で仔実装からは自分の腹部が死角になっている。
躊躇うことなく男はこの一週間で無駄に脂肪が付いた腹を搾り出すように押した。
『イガァァァアァァァッァ!!? やめ、や、テヂィィッァァァァァァ!!』
内臓が圧迫され、内容物が次々と吐き出されていく。
『デギョォォォォッ!!』
仔実装の股の間にはでっぷりと緑の山が出来上がった。
仔実装を解放して男は禿裸達に告げる。
「さあごちそうだよ」
『テ? これはウンチテチ…』
『もうウンチいやテチ…おいしくなくてもカリカリがいいテチャァ!』
『なんでいじわるするテチ、ママァ』
三匹は目の前で産み出され、湯気の立つそれを餌とは認めない。
散々空腹に耐えかねて食糞は繰り返しているが、卑しい行為だという自覚はあるのだろう。
男に促されてもいっかな手を付けようとはしない。
が、
『レフ? お肉の臭いレフ! 発見レフ! …これは……ウマウマレフ!? 香ばしくてまったりとコクのある風味…ステーキレフ!?』
蛆実装は臭いを嗅ぎつけると、躊躇い無く糞山に顔をつけて頬張る。
『ウマウマレフ! ウマウマレフ! これはもはやウンチを越えているレフ! 至高のウンチレフ!!』
仔実装は一週間のうちに飼い実装と同等かそれ以上の餌を食べた。
故に糞も醸成され、旨味成分が残留していたのだ。
蛆実装の食いっぷりに、三匹の禿裸はふらふらと吸い寄せられるように、糞の前に跪き、
『…ウマウマテチ!?』
一口食べて戦慄した。
あとはなし崩し的に、奪い合うようにして糞をかっ食らう。
足りなくなれば仔実装の腹を踏み、なけなしの糞を総排泄口から直に啜る。
男はいつの間にか姿を消していた。
虚ろな仔実装の視線が薄暗い部屋を彷徨うが、何も捕らえることは出来なかった。


「じゃあまたしばらくお願いしますね」
店員にこれまでの経費を支払うと、男は言った。
「はい。いつもありがとうございます」
「いやー今から帰って映像を見るのが楽しみだよ」
男の手には小さなSDカードが何枚も重ねて握られていた。
ここ一週間の、「101号室」における仔実装たちの様子を録画したものだ。
店を出ると、大きく伸びをして、
「仔実装を上げるのはめんどくさいけど、この瞬間は最高だしな」
帰りしな、ショーウィンドウから店内を覗くと先ほどまでの仔実装たちが、ショーケースの下段に戻されるところだった。
次はどれくらい期間をあけようか。
鼻歌を歌いながら男は帰路についた。


仔実装はぺたりと顔を水槽のガラスにくっつけていた。
隣ではここ最近で仲良くなった禿裸の仔実装たちが並んでいる。
みんながみんな全身のいたるところに糞をこびり付かせ、特に食糞するための右手は緑に染まっていた。
そんな禿裸の仔実装たちは目の前の光景に釘付けだった。
水槽とマジックミラーを隔てた向こう、かつて自分達も幸せな時を過ごした場所が見える。
そこには彼女達がママと呼ぶ人物がこちらを向いて座っている。
手元には白いコーヒーカップと、
『テッチューン!』
新しい仔実装。男に選ばれたことに興奮しているのか、パンツは既に緑に染まっている。
その仔実装は差し出されたコンペイトウにむしゃぶりついている。
『テェ…』
禿裸の誰かが涎を啜る音がした。
あの味を知っている。だからこそ見ているだけで辛いのだ。
見なければいいと頭では分かっていても、嬉しそうな声が届くだけで反応してしまう。
『アマアマ…テチュ……』
男が戯れに転がしたコンペイトウが迫ってくると、届くわけでもないのに、禿裸たちは頭を突きつけ、向こう側へと手を伸ばす。
新しい仔実装が寸ででそれを捕らえれば、地べたを踏み鳴らし、あるいは倒れこんで手足をばたつかせて悶える。
男と仔実装が席を立ってもまだ顔面を水槽に貼り付けたまま禿裸たちは立ち尽くす。
今日の仔実装を自分に変換して夢想しているのだ。
次の日も、その次の日も禿裸の仔実装たちはじっと向こう側を見詰め続ける。
多少癇癪を起こすものの、仲間内で傷つけあうことも、騒ぎすぎることも無い。
「いい仔だから、お留守番できるね?」
彼女達は男のその言葉に、はいと答えた。
自分は出来る仔であるという自覚もあった。
故に待つ。いつの日か迎えに来てくれるその時までずっと、遠い日の思い出を噛み締めながら。

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1 Re: Name:匿名石 2023/06/13-15:30:53 No:00007290[申告]
ショップに併設された選別用にも使えるカフェや取り置きの設定良いなあ
必死に実装の本性を抑えてがんばろうとするもコンペイトウであっさり瓦解して糞蟲性出してしまう所も可愛い。
面白かったです
2 Re: Name:匿名石 2023/08/10-09:20:29 No:00007755[申告]
画像であったな
元ネタこれだったか
でも正直こういう複雑なのいらんな
もっとシンプルに売り実装全員に映像見せてうらやましがらせるのが良いと思った
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