『並行世界』と言う言葉をご存知ですか?
今いる世界とよく似た世界、全く似ても似つかぬ世界・・・・そして実装石のいる世界、
これは無限にある並行世界の一つ『実装石のいる世界』であった物語
実装崩壊黙示録・2『創生秘話』
ここはどこにでもある普通の森林公園の一番奥、そこに一匹の妊婦野良実装石が住んでいた
「デスゥ・・・・・・・・・・・・・」
その妊婦実装石は自分の大きくなったお腹をさすりながら小さくため息をついた
『おかしいデスゥ?今日も産まれる気分じゃないデス・・・・』
しばらくお腹をさすっていた実装石だったがやがて空腹感を覚えたのかノロノロと動き出し
落ちている適当な草や木の実を食べ、保存の利きそうな硬い木の実をビニール袋に放り込みながら家路に着いた
「で、あきとし・・・俺に見せたい観察対象ってのがこれか?」
とある普通の家でモニターに映る先程の妊婦実装石を見ながら実験派のとしあきはつまらなそうに呟いた
「ああ、コイツは今までにないレアの可能性を持った実装石なんだよ」
「くだらん、実装石が全滅寸前とは言えただの妊婦実装石なら・・・」
「コイツが妊娠6ヶ月以上でも価値がないと?」
あきとしの言葉にとしあきは一瞬固まり、不機嫌な表情がすぐに明るくなった
「あきとし・・そこがお前の悪い癖だ、どうしてそんな重要な事を先に教えてくれないんだ」
「はっはっは・・・そこは俺だぞ、そう簡単にジョーカーを見せると思ったか?」
やれやれと言った表情のとしあきは改めて別のモニター(ダンボールハウス内)でモソモソ食事を続ける実装石を見た
「・・・・・で、どうやって見付けたんだ?」
「もともといくつかの観察対象の一匹だよ、例の懸賞金騒ぎで唯一生き残った奴なんだが見付けた時から妊娠状態だったんだ
しかも驚くべき事に偽石センサーの反応は2つ、つまり腹の中には一匹しか入ってないんだ」
「そこは珍しくないだろ、実装石を長期妊娠させると中の仔実装が共食いして一匹になるってのは実験派ならみんな知ってるって」
「そして強制的に妊娠を継続させていれば一ヶ月程度で親の体内で子は成体になり親の腹を食い破って誕生するってのが定石だ・・・・
しかしこいつは観察を始めて六ヶ月たった今でも出産の気配もなく母子共に安定している・・・・・まあ、例えて言うなら・・」
「哺乳類動物みたい・・・・とでも言うのか?」
あきとしの想像にとしあきは怪訝な顔をした
「あくまでも俺の想像の範疇での話だ、何せ観察派なんでお前程実装石に詳しくないからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あきとしの話を聞きながらとしあきは何かを考え込みながらモニターを見つめていた
「・・・・・・あきとし・・・・コイツの事を知ってるのって・・・」
「お前以外にはいないはずだ、俺以外に観察派がいなければな」
「当然ローゼン社やメイデン社も・・」
「やっぱりそうきたか・・・お前も聞いてるようだな『ローゼンメイデンの実装石狩り』の噂話」
「妊娠している実装石、仔実装石、獣実装石や実装さんのような派生実装石を
ローゼン社やメイデン社のお抱え特殊駆除部隊が片っ端から捕獲・又は殺処分しているって話・・・お前も知ってたのか」
感心したようにとしあきは呟いた
「知ってる・・・って言うか俺の観察対象とカメラをいくつか台無しにされちまったからな」
その言葉にとしあきは驚いた
「カメラまでやられたのか!!」
「運が良かったのは壊されたカメラが3台だけだったのと数少ない無線タイプじゃなかった事・・・それと草に埋もれていた4台目に気付かれなかった事かな?
もし無線の送信先である俺の家を割り出されていたらゾッとしたよ」
「おいおい・・・・・・一体どうなってるんだ?いくら何でもおかしすぎるぜ・・・・・」
軽く引いているとしあきに対してあきとしは再び口を開いた
「それについて特殊部隊の連中がおかしな事を呟いていたのをカメラが音声だけ記録してた、『会長の命令』とか『最後の子』とかってね」
「会長?・・・・・・・それってローゼン社とメイデン社が分離する前の『ローゼンメイデン社』の創業者の事か?」
「その辺は俺にも分からない・・・・それより問題なのは『最後の子』だと思う」
「最後の子・・・・何の事だろう?」
一方・・・・
「会長・・・なぜ我々に一切の報告なく会社の特殊駆除部隊を勝手に動かしているんですか!!」
「そうですよ会長!!この事態に警察や役所関係からひっきりなしに苦情の電話が掛かってきてるんですよ」
「会長・・・・納得のいく説明がないのならば我々としてはあなたを・・・」
「私を・・・何だね?」
ローゼン社の重役会議、今ローゼン社の会長が独断でローゼン社お抱えの特殊駆除部隊を動かしている事が議題として上がっていた
本来この特殊駆除部隊は実装さんや獣装さん・カオス奇形実装などの『一般業者では手に負えず・殺傷能力のある危険な実装種』を駆除する為に
銃器・刀剣・軍隊級の重火器等を国家の特例許可を受けて所持している対危険実装種の切り札的存在だ
そしてここ最近の駆除部隊の連続出動は言うまでもなく警察やお役所関係の不安を煽り、ローゼン社もメイデン社も毎日その苦情の対応に追われていた
「お前達は何も分かっていない・・・・今は彼らを使ってでも見つけ出さなければならんのだ・・・・・『最後の仔』を」
「だから何なんですか!!その・・最後の仔ってのは!!」
「いい加減にしてください会長!!これ以上ローゼン社もメイデン社もあなたの戯言に人員は割けません!!」
「これ以上我侭を押し通すと言うのならば会長、あなたの持つ権限を全て剥奪するしかないようですね」
さすがに会長の意味不明の言葉に業を煮やした重役達は怒りを露にした・・・・・しかし・・・・
「この会社を作ったのは私だ・・・・そしてこの会社の運営を決めるのも私だ・・・・例えお前達が何をしようとも私を止める事はできん」
会長はそこまで喋ると席を立って会議室を後にした
(愚か者共め・・・・最後の仔を殺さなければ私は・・・・)
時間は更に半月程過ぎる・・・・・
例の妊婦実装石がいよいよ出産の時を向かえようとしていた
『もうすぐデス・・・やっとワタシの娘が産まれるデス・・・・』
出産の兆しを感じた母実装石は愛おしそうにお腹を撫で、そして
『ありがとうございますニンゲン様・・・ここなら安心して子供を産めそうデス』
大型の飼育ゲージの向こうにいるとしあきに頭を下げた
「何、気にする事はないさ・・それよりまだ休んでた方がいいぞ」
そっけない返事を交わしたとしあきはそのまま隣の部屋に入っていった
「はは・・・・・・何やってんだろ俺?・・・・・俺は確か実装石を憎んでいたはずなのに・・・・」
あきとしの許可を受けて妊婦実装石を捕獲してから半月、としあきが彼女に行った事と言えば血液検査と出来る限りの精密検査・・・後は一切手は出していない
今まで捕獲した実装石は賢いも馬鹿も関係なく10日程度で原型を留めない程の虐待や実験を施して偽石自壊まで追い込んでいたのに・・・・
あの実装石には一切手を出していない・・・・珍しいのもあるがそれ以前に何か不思議なモノを感じたからだ
「まさか哀れんだとでも?・・・・・弟を殺した実装石を・・・・・・馬鹿らしい・・アレはレアなサンプルだ、だから保護した・・・ただそれだけだ」
自分の内に湧き上がった不可解な感情を振り払うようにとしあきは呟いた
それから更に10日程経った昼下がり、妊婦実装石の両目が遂に赤く染まった
『産まれるデス・・・・やっとワタシの子供が産まれるデス〜』
「おい実装、水タライ用意してやったからちょっと隅に行ってくれ」
『分かったデス〜』
としあきの持ってきた大きめの水タライを避けながら実装石は服を脱ぎ、置かれたタライの中に入った
『産まれるデス〜・・・ママも頑張るからお前も頑張るデス〜』
傍から見れば間抜けな呼吸を繰り返しながらお腹に力を込める実装石、それをとしあきは複数のカメラと連絡を受けて駆けつけたあきとしが一緒になって見ていた
「いよいよ産まれるのか・・・・一体どんな子供なんだろう」
「まあここまで引っ張って普通の仔実装はないな」
二人が他愛ない会話をしていたその時
『デデ!!何デス?お腹が・・お腹が割れてるデス!!』
信じられない事が始まった、本来なら総排泄口から仔実装が糞のようにひり出されて『テッテレー』と間抜けな声を上げるはずなのに
実装石のお腹に綺麗な縦すじが入ったかと思ったらゆっくりとお腹が割れ始めたのだ
「おい実装!!どうなってんだ!!」
『なんでデス・・・お腹が割れてるのに痛くないデス・・・・これは・・・これは・・・』
信じられない事態はまだ続く、ゆっくりと割れた腹からこれまたゆっくりとまるで蝶の羽化のように現れたのは成体実装石とほぼ同じ大きさの人化実装だった
「何だコリャ・・・・実翠石・・・いや・・違う・・・・新種なのか?」
あっけにとられている二人より先に実装石の方が本能的にその存在の正体を理解した
『まさか・・・まさかワタシの子供が最後の仔だったんデスか・・・・じゃあ・・・じゃあやっと実装石は終わるのデス・・・』
タライに寝転がったままの実装石は自分のお腹から産まれた存在に問いかけ、その存在は無言で頷いた
『良かったデス・・・・やっと実装石が終わるのデス・・・・これでやっと・・・』 パキン
そう言いながら安堵の表情を浮かべた実装石はスッと目を閉じて眠るように息絶えた
「おい実装!!どうしたんだ!!」
「彼女はワタシの内に戻ったです・・・・言い換えるのなら『死んだ』です・・・」
「「なっ!!」」
未だに母親の割れたお腹の中で立っている存在は人間の言葉でゆっくりと呟いた
「今・・・お前人間の言葉を・・・」
「喋ったです・・・ワタシは実装石を終わらせる為に産まれた翠星石に最も近い存在です」
「実装石を・・・・終わらせる・・・・だと?」
未だに頭の整理が追いつかないとしあきが混乱しながらもその存在に問いかけた
「そうです・・・・ワタシが産まれる事が出来たと言う事は今こそ実装石を終わらせる数少ないチャンスがやって来た事を意味しているのです」
「どう言う事なの?実装石を終わらせるチャンスって?ちょっと説明してくれないかな、えーっと・・・」
「好きな名前で呼ぶといいです、それと説明してもいいですけどその前に体を洗って母親を埋葬したいのですけど」
その後、バタバタしながらも一通り親実装の亡骸の埋葬とお風呂と洗濯を済ませた翠(と命名)は『自らの内にあるローザミスティカの断片的な記憶』を語りだした
「最初の記憶は今から100年近く・・・大正浪漫の時代のこと・・・・・
ある男がローゼンメイデンの存在を知り、そしてローゼンメイデンを求めた事が始まりです」
「あの伝説のローゼンメイデンを?なんでまた?」
「順序よく説明するです・・・商人だった男は金にモノを言わせて第三ドール・翠星石を手に入れた・・・ローゼンメイデンを男が求めた理由は『金儲け』の為・・・
螺子さえ巻けば人間と同等に行動出来る人形・・・・これを大量生産できればその需要は使い捨ての利く小間使いから死も痛みも恐れず幾らでも補充の利く兵隊までまさに無限大
大量生産を軌道に乗せられれば自分は一気に世界一の金持ちに、そして世界の頂点に立つ事も夢じゃない
男はそのドス黒い欲望の為に翠星石の意識を起こしたまま無理矢理分解した・・・・ドールの構造を知る為に
翠星石は痛みと自分だった物がただのモノにされる恐怖に泣き叫び、男に許しを乞うた・・・・・でも、金儲けしか頭にない男にその言葉は届かず
やがて翠星石は一番大切なローザミスティカを体内から引きずり出された
もう首だけを残してほとんど部品単位まで分解された翠星石の目の前で『内部構造を知りたい』なんて理由でローザミスティカは割られ、その半分が塵よりも細かく砕け
たまたま開いていた窓から風に吹かれて外に飛び散った
そしてその欠片達は砕けた瞬間に男のドス黒い欲望で汚染され、更に空を漂う内に他の人間から沸き立つ邪念や欲望を吸収した結果、ローザミスティカに良く似た偽物『偽石』が誕生したのです」
「まさか・・・・有り得ない!!・・だってローゼンメイデンって言えば究極の美しさを持つドールだろ!!あんな不細工害獣の産みの親が翠星石だなんて信じられるか!!」
あまりの言葉にあきとしは思わず怒鳴った、しかし翠は続けて喋り続けた
「偽石からどうやって実装石が産まれたかについてはイロイロとあるです、例えば動物や人間の死肉から産まれた者・・・他の生物の子宮を使って産まれた者・・・
誕生の仕方は千差万別ですけどこうして実装石は世に現れたのです・・・・・
それと先刻説明にあった翠星石が分解された場所・・・それは大分県です・・・翠星石は大分県で残酷な最後を迎えたのです」
「「な!!なんだってえええええ!!」」
さすがに翠のこの言葉に二人は間抜けな大声を上げて驚いた
「じゃ!!じゃあ実装石が大分県を恐れる理由ってまさか!!」
「偽石の核であるローザミスティカに深く刻み込まれている翠星石が味わった恐怖と絶望が大分県に関するモノが引き金となって圧縮された記憶が脳内でいきなり開放され、
それが実装石を死に追いやる・・・・それこそが実装石が大分県を拒み恐れる理由なんです」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
あまりに衝撃的な言葉に二人は思わず無言で顔を見合わせた
「こうして世に産まれた実装石は偽石が吸収した人間の欲望や願望を本能として忠実に汲み上げ、自分以外の全てを見下し、自分こそこの世の頂点と考える思考が実装されたのです
人間をドレイと考える事も、産まれた直後から寿司・ステーキ・金平糖の名前を正確に言えるのも、自分一番主義なのも、
汚染されたローザミスティカが取り込んだ『人間が持つ願望・欲望・物欲』を都合に合わせて体現しているからなのです・・・」
「馬鹿な・・・・そんな」
あまりにも突拍子のない長話・・・・・あきとしはその言葉を信じられずにいた・・・しかし
「いや・・・・一応筋は通ってると思う・・・・それにこんな長話・・・産まれたばかりの実超石にだって出来やしない・・・」
としあきは翠の話に何らかの信憑性を感じた
「けど!!」
「考えてみろ、実装石の共通の性格・大分の謎・・・今まで『実装石だから』で片付けてた事に対して一番辻褄が合う説明じゃないか・・・こんなのローゼン社どころか世界中の科学者だって・・」
「ローゼン社?」
二人の会話に割り込むように翠が質問したきた
「ん?・・ああ、実装産業で世界一の企業だよ」
「そうそう、確か・・・虹野・・・・ナントカって人が・・」
あきとしの口からその名前が出た瞬間翠の顔が真っ青になった
「虹野豪蔵!!!・・・・まさか・・・そんな・・・・・」
「翠?・・」
「オイ翠?・・・お前知ってるのか?」
としあきの言葉に翠は震えながら口を開いた
「ソイツはワタシを・・・・・翠星石を殺した男・・・」
「なっ!!」
「ちょっと待て・・・翠星石を殺したのが虹野豪蔵だって!!それも大正って・・・じゃあ・・あのジイさんとっくの昔に100歳越えてんのかよ!!」
「やっぱり・・・あの男はまだ生きているんですね・・・・・ワタシのローザミスティカを砕いた男・・・・」
連続で驚き続ける二人の横で翠は何か確信したかのように呟いた
最後の仔・・・・その誕生を何らかの力で感じた者がいた
「そうか・・・・遂にこの時が来たのか、実装最後の時が・・・・ならば・・・・」
英国紳士風の身なりの老人は机に置いていた帽子と杖を持ち、ゆっくりと立ち上がった
「あの男が気付いている以上彼女の近くにいる者達だけではおそらく守りきれまい・・・・・守りきれなければ再び実装石は世に解き放たれる・・・・」
『虐待紳士』・・・・そんな異名を持つ老人は真っ黒なレインコートを羽織った
「虹野よ・・・・もういいだろ・・・・・十分世界にお前の我侭を通しただろ・・・・・もう夢を見る時間の終わりを受け入れろ・・・」
紳士はまるで誰かに言い聞かせるように呟きながら小雨の降る夕闇に消えていった
そして最後の仔の誕生をローゼン社の会長、虹野も感じていた
「やはり駆除部隊だけでは無理があったか・・・・」
忌々しげに呟く虹野を乗せた車は小雨の中、とある刑務所に向かっていた
「最早なりふり構ってはいられん・・・・劇薬だの毒薬だのと選んでいる余裕も時間もない・・・」
刑務所に到着した虹野はある男と面会した・・・
その男はこれまでに実装虐待にかこつけて10人以上の虐待派・愛護派を飼い実装諸共惨殺しまくった連続猟奇殺人鬼『日仝亜気(ひどうあっき)』
事もあろうか虹野は最後の仔を殺す為にあらゆる非合法手段を用いてこの最凶最悪の悪魔を最後の仔狩りの為に解き放ちに来たのだ
「日仝君・・・君に仕事を頼みたい、成功すれば君は自由と一生遊んで暮らせる金、それと君をココにぶち込んだ虐待紳士への復讐が出来るが・・・・・・・・・どうする?」
実装石崩壊黙示録・3に続く