タイトル:【梅雨】 ある晴れた日
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初投稿日時:2011/06/05-03:21:02修正日時:2011/06/05-03:21:02
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6月初旬、日本全国に梅雨入り宣言が出されてから数日が経ったある日のこと。

「デデッ、久しぶりのお日さまデッスーン!」

町外れにポツンと残された小さな林の中でヨレたダンボールハウスから顔を覗かせた1匹の
成体実装石が嬉しそうな声を上げた。

「お日さまテチ? もうザーザーしてないテチ?」

その脇から仔実装が一匹顔を出す。そして何日か振りに見た眩しい太陽の光に顔を綻ばせた。

「テッチューン☆ お日さまサンサンテチィ! ママ、お外に出てもいいテチ!?」
「もちろんいいデスゥ。 今日は絶好のお洗濯日和デスー♪」

言わずもがな、2匹は親仔である。
ここ数日間降り続いた雨をダンボールハウスに篭ってやり過ごしていた親仔はようやく晴れ
た空の下へ出て凝った体を存分にほぐすのだった。



【梅雨スク・ある晴れた日】



「それじゃあ服を脱ぐデス。 今はお日さまが出てるデスがまたいつ雨が降ってくるかわか
 らないデスゥ。 今のうちにしっかり服を乾かしておくデス」
「テェェェ? またザーザーするテチ? おうちの中にずっといるの、もうイヤテチィ…」

この仔実装は梅雨入り前に生まれたばかりの仔だ。
当初は親仔共々近くの公園に住んでいたが、ある日親実装が留守にしている間に巣が飢えた
同属に襲われ、たまたま連れ歩いていたこの仔実装を残して他の姉妹は無残に喰い散らかさ
れた肉片となってしまった。
ここにいたのでは最後に残った仔もどうなるかわからない。そう思った親実装は住み慣れた
公園を後にし、仔を連れてこの林へと渡ってきたのだった。
林は池やトイレなどがあった公園と違い離れた水田まで行かないと水が手に入らなかったり
と不便なことも多いが、それゆえに同属も少なく人間もあまり立ち寄らない比較的安全な場
所と言えた。

「ワガママ言っちゃダメデスゥ。さ、早く服を脱ぐデス」
「テチィ…」

親実装はむずがる仔実装をなだめながら服と頭巾、パンツに靴まで脱がし、それらを日当た
りの良い石の上に並べていく。
ジメジメした日が続いたせいで仔実装の服はじっとりと湿っていた。
濡れた服を着ていたら気持ちだけでなく体にも悪いのは人間も実装石も同じである。

「ママはお洗濯しなくていいテチ?」
「ママはゴハンを探しに行って来るデス。お洗濯は帰ってきてからするデスゥ」

数日間ハウスに篭っている間に親仔は蓄えていた食糧を少しずつ食べて過ごしてきた。
親実装は晴れているうちに少しでも減った分を補充しなくてはいけないのだ。

「テェ!? ママおでかけするテチ!? だったらワタチもついてくテチ!」
「ダメデス。お外の世界はオマエにはまだ危険なんデッス!」

いつもは親実装が出かけている間、仔はハウスの中に入れて蓋をしっかり閉めていた。外に
出ていいのは親実装が帰ってきてから、それもハウス周辺の僅かな範囲に限ってである。
目を離した隙に仔を食べられてしまった経験を持つこの親実装はそれ以来このルールを徹底
してきた。
残された仔も渋々ながら納得し、これまでやってきたのだが…。

「イヤテチ! イヤテチ! せっかくザーザーが終わってお外に出れたのにまたおうちでお
 るすばんするのはイヤテッチィィィ!!」

何日も一歩も外に出られなかった仔実装は相当鬱憤が溜まっていたようだ。
糞でさえ大きな葉っぱの上に出し、それを親実装が外に捨てに行っていた。
全ては仔を濡らしたくないという親心からだったが遊びたい盛りの仔実装にとって狭いハウ
スにずっと閉じ込められるというのはストレスに他ならない。
親実装だって久々に晴れた空の下に出られて嬉しいのだ。仔実装なら尚更だろう。

「デェ…。 わかったデス。今日は特別にお外で遊んでいていいデスゥ」
「テッ!? ホントテチ!? ホントにお外にいていいテチ!?」
「いいデス。だけど約束デス。絶対に遠くへ行っちゃダメデス! いつも通りおうちの近く
 から離れちゃダメデッス!」
「やったテチー! ダイジョーブテチ! ちゃんとイイコにしてるテッチュン☆」

その後も何度も繰り返し約束させ、親実装はチラチラと振り返りながらコンビニ袋を片手に
食料集めに出かけていった。

「テッチー♪ テッチュン♪ テッチッチー♪」

1匹残された仔実装は上機嫌で木の小枝を振り回しながらハウスの周りをウロウロしていた。
なにしろたった1匹で外にいるのは生まれて初めての経験だ。恐怖もあるがそれ以上に興奮
が仔実装を支配している。
裸なのをいいことに浅い水溜りに飛び込んではパチャパチャと泥をこねてダンゴを作ったり、
雨水の付いた葉っぱを叩いては飛び散る水滴に歓声を上げた。

そうしてしばらく遊んでいたときだった。
何気なく振った手が1本の細木に当たって揺らしたその瞬間…

ぼたっ
「テヒィッ!?」

突然仔実装の頭頂部に何かヌルリとしたものが落ちてきた。
いきなりの刺激に思わず飛び跳ねる仔実装。必死に頭を振ってみるが落ちてきたものは張り
付いたまま離れない。それどころかモゾモゾと小刻みに動き出した。

「テヒャァァァ!! なんテチ!?なんテチ!? キモチワルイテチィィィ!!」

人型生物にとって頭の真上は死角である。しかも実装石の短い腕では頭まで届かないため手
で払い除けることもできない。
頭頂部でぬたぬたと蠢く異物に対し仔実装は為す術もなく悶絶する。

仔実装の頭に落ちてきたもの。それは1匹のナメクジだった。
太陽が出ている日中は葉の影に隠れて休んでいたのだが、仔実装が枝を揺らした衝撃で滑っ
て落ちてしまったのだ。
仔実装の頭に落ちたナメクジは安全な場所を求めて動き出した。その独特の感触が仔実装の
敏感な頭部を刺激していく。もはや仔実装は半狂乱だ。

「テヒョォォォ!! チュアッ!! テヒャァァァァン!!」

人間で言えば脇腹や足の裏をくすぐられながらもそれを止めることができないような状態だ
ろうか。
仔実装は死に物狂いで草木に頭を擦り付けるがそれが余計にナメクジを追い立てる結果とな
っていることに気が付かない。

「テヒャッ! た、たすけテチ! ママァ! たすけテチィィィ!!」

自分ではどうにもならないと悟った仔実装が母親に助けを求め始めたとき、近くの茂みでガ
サガサと音がした。

「ママッ! ママァァァッ!!」

その音を聞いた仔実装は母親が帰ってきてくれたと思い込んで音のした方へと走り出す。
ママなら取ってくれる。ママならこの気持ち悪いものを取り除いてくれる。
その一念で刺激に耐えながら仔実装は茂みへ辿り着いた。

「ママァ! 取っテチ! これ取っテチィ! ママ! マ……マ……」
「ブモー…」

しかし茂みから姿を現したのは親実装ではなかった。
飛び出した目玉、突き出した口、大きな体。あえて言うならくすんだ緑色をしているところ
は一緒だろうか。
その大きさを除けばそれは仔実装もよく知っている生き物だった。まれに親実装が捕ってく
るゴチソウにそっくりだ。
だが親実装が捕ってくるのはせいぜい3cm程度のアマガエル。今仔実装の目の前に現れた
のは20cmにもなる巨大なウシガエルである。時にネズミやヘビまでも捕食してしまう獰
猛かつ貪欲なカエルだ。
そのウシガエルは目の前の仔実装をじっと見つめていた。
カエルは動くものを餌と認識する。と言うより動かないものはほとんど背景と区別が付かな
いのだ。
だが逆に動くものであれば例えそれが風に流される落ち葉であっても喰らい付く性質を持っ
ている。食べ物かどうかは後で判断するのだ。
故に突然の展開に固まってしまった仔実装の反応は図らずも正解だったと言えよう。下手に
逃げようとしていればすぐさま丸呑みにされていたはずだ。
このままウシガエルが仔実装から注意を外し立ち去るまでジッとしていることが出来れば生
還の可能性も残されていた。
しかし…

ヌヌヌ…
「テッヒャァァァ!!」

しばし忘れていた感覚が仔実装を襲い、反射的に両手を振り回し地団駄を踏みながら奇声を
上げてしまう。

「テヒャァァァ…ビャッ!?」

次の瞬間には仔実装の半身はカエルの口内に収まっていた。
大きく横に裂けた口からハミ出た下半身。その足がジタバタと空を蹴る。
10cm級の仔実装はさすがのウシガエルにも少々大きい獲物だ。カエルは細かく口を動か
しては位置を修正し、時には器用に前足を使って仔実装を徐々に飲み込んでいく。
ここにきて仔実装も自身が今まさに喰われようとしていることに気が付いた。

「テッチャァァァァァッ!? やめテチ! 食べちゃダメテチ! ワタチを食べたらダメな
 んテチィィィ!!」

狭い口内で仔実装は喰われまいと必死にもがいて抵抗する。
しかし爪も無くツルリとした仔実装の手ではヌルヌルした粘液で覆われたカエルの喉に対し
ブレーキをかけることができなかった。腕を突っ張ったままズルズルと飲み込まれていく仔
実装。

「いやテチ!死にたくないテチィ!! ママッ!ママァ! 助けテチ!助けテチィィ!!」

バクン

その絶叫を最後に仔実装は完全にカエルの口内に消えた。
さらにウシガエルは何度も目を閉じて口内を圧迫し、捕らえた獲物を胃袋へと押し込んでい
く。そうして飲み込まれた仔実装によってその白い腹が大きく膨らんだ。

「ブモー…」

満足そうな鳴き声を上げるウシガエル。不意にその腹の表面がモゴモゴと蠢いた。
喰われたとはいえ、外傷なく丸呑みにされた仔実装はカエルの胃袋でまだ生きていた。
だがだからといってそれが決して活路になるわけではない。もはや脱出は不可能だ。後はこ
のままゆっくりと消化されるだけである。
せめてもの救いはその前に窒息という形で比較的早く意識を手放すことになる事か。
それまでの数十秒、仔実装はほとんど身動きの出来ないままカエルの腹の中で泣いた。

(テェェェン… テェェェン… 動けないテチ、苦ちいテチ… もうワガママ言わないテチ、
 ずっとおうちの中でもいいテチィ… だからママッ! ここから出しテチィィィ!)

内部で響く慟哭も気にせず、仔実装を食べたウシガエルは自身のねぐらである水田へと向か
って跳ねていく。
その途中1匹の成体実装の前を横切った。

「デデッ! おっきなゲコゲコデスゥ。 食いでがありそうデスが…、ゲコゲコは早くてな
 かなか捕まらないデス。 それより今日は茶色のニョロニョロが大漁デース! これだけ
 あればムスメもお腹いっぱいデッスン! はやくおうちに“カエル”デスー♪」

先程までの快晴とは打って変わって急に曇り出した空を見上げ、親実装は仔の待つハウスへ
と帰路を急ぐのだった。


END


     <あとがき>   と言う名の言い訳
『冬越え』以来の季節物として書きました梅雨スクになります。
今回は半日で書いた突貫スクなので読み難いところ等多々あったと思いますが最後までお付
き合い頂きありがとうございます。まあ今回に限らずいつものことなんデスけどね…。
さて梅雨スクといえば大雨による被害というのが定番でしょう。しかしそれは過去にいくつ
もの良作が存在しているので今回はあえて避ける方向で攻めようかと。つかぶっちゃけ被ら
ないネタが浮かびませんデシター!というのが本音デスね…。
そんなわけであえて晴れた日を舞台にこの季節に活発になる生き物を絡めた話にさせてもら
いました。不意に触ってしまったナメクジとかホント勘弁デスよ…。
おそらくこれを上げるとパンチョとの2連投になってしまうかな? 本当はふたばスレに投
下する気でいたんデスが少し長くなってしまったのでこちらにあげさせてもらいます。申し
訳ないデスゥ。
ちなみにナメクジに這われて悶絶する仔実装のイメージはTさんの『頭をくすぐられる仔実
装』のイラストから拝借しました。重ね重ね申し訳ないデスゥ。

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