「ドライブ」 伊豆の海岸線を走る車の中で運転をしている敏明が呟いた 「クソ!やってらんねーよ」 毒づいた理由は今日のデートをすっぽさかれたからだ。 恋人の君子と付き合い初めて3ヶ月になるが、今日は念願のドライブデートだった。 いつものデートでは無い、新車が納車されて始めてのドライブだ。 この日の為に一ヶ月前から入念な計画をした 観光スポットのチェックに、美味しいと評判のレストランに予約も入れた。 免許だって先月君子の為に取ったし、車だって君子の希望通りに買ったのだ。 それを電話一本「あのね〜・・急に仕事入ちゃって無理、ごめんね」である。 中止にしようかとも思ったがレストランの予約もあるし、なんだか中止は負けた気もするので一人で行く事にした。 だが一人で走る観光地の海岸線はどこか寂しく惨めなものだった。 レストランで食事をしたが、回りはカップルだらけで惨めさにいっそう拍車が掛かった。 レストランを出ると敏明はデート予定の美術館やお手軽小アジ釣りはやめて帰ることにした。 帰り道は怒りからかアクセルを踏む力も心なしか強くなっていった。 暫く走ると伊豆の街中に入って来た、信号が赤になったので止まった。 ふと見ると実装石がちらほらと道路脇に見られた、右脇の公園入り口にもいる。 「あいつら良い気なもんだぜ」 仔実装が数匹カルガモ親子のように列を作って親の後をよちよち歩いている。 幸せそうな実装石と惨めな自分、実装石を見つめる敏明に邪悪な心が芽生えた。 後ろに車がいない事を確認すると少しバックをする。 おもむろにアクセルを踏み込むと実装親子に向かって車を走らせた。 歩道脇に滑らせるようにハンドルを切るとぷちぷちぷち!ドン!と衝撃が走った、 一瞬間が空き親実装がクルクルと宙を舞った、そしてボンネットの上へ仰向けにぐしゃりと落ちた。 ボンネットの親実装は何が起きたのか分からないようだ、あお向けて逆に向いた顔を敏明に向けてパクパクと口を上下させた。 敏明はドアを開け車外に出ると様子を確認した、仔実装達は吹っ飛ばずにタイヤの下で煎餅のようにぺちゃんこなっていた。 ぺちゃんこだがタイヤ溝模様に肉が盛り上がっている、 道路には血と糞が入り混じり風船を割ったような液体が放射線状にぶちまけられていた。 親実装の当たった箇所を確認すると血が混じった皮膚が貼りついていた。 観察すると髪の毛が混じっているので頭部の皮だと認識できた。 これだけの惨状だが当たったバンパーには傷一つ付いていない。 スポンジのような肉がクッションになったのだろうか。 するといきなりボンネットの親実装が「デッシャァァァアアァァァァ!!!」と大きな悲鳴を上げた。 「なんだ?うるせーなぁ・・」 仰向けのままの実装石は、ピンク色の脳味噌を頭からうどんの様にでろんとはみ出させている。 その頭から湯気のような物が出ていた。 ビクン!ビクン! どうやら体が勝手にえびぞっているようだ、 ブリッジをする度に薄い頭蓋骨がパキンパキンと割れ更に脳髄を撒き散らした。 「汚い・・汚ねーんだよ!このウンコ!!」 足を掴むとボンネットから道路に向かって引き摺り下ろした。 「たく・・新車を汚されちゃたまらねーぜ」 敏明はトランクから雑巾を出すとせっせと拭き始めた。 だがウンコも一緒に塗り付けられていたので、また怒りが湧き上がって来る。 落ちている太目の枝を拾い道路上でビクビクと絶命を待っている親実装の前に立った。 割れた頭の中に棒を突っ込むと残った脳味噌を掻きだした。 その脳味噌は形容するとウシガエルのおたまじゃくしの腸の様だ。 細くぐるぐるしていてしわは無くツルンとしている。 驚いた事に脳味噌を全て掻き出しても親実装は死んでいなかった。 ビクビクと相変わらず痙攣を繰り返すが、呼吸はしている。 敏明は車の前輪先に親実装をセットした。 掃除が終わり車をゆっくり走らせる。 前輪からパン!っと破裂音が聞こえた、そのあとで後輪がぬるりとした滑る感触をシート越しに味わった。 その後は冷静な気持ちになって交通ルールを守らなかった自分を反省する。 「いやいや・・まだ初心者マークなのに俺は・・」 「もうやめよう・・気持ちも晴れたしね」 そんな事を呟いているとまた赤信号に捕まった。 すると目の前の横断歩道をまたカルガモ親子のような実装石が通り過ぎようとした。 親実装の手には黄色い旗が握られている。 仔実装を誘導する親実装は相当頭が良いのだろうか、信号と旗の意味を理解しているようだ。 だがそんな姿が敏明にとってはイラつきの種となった。 「てめ〜・・実装石の分際で生意気に信号渡ってるんじゃねー!!」 車の前に差し掛かると敏明はいきなりアクセルを踏んだ。 実装石を車の下に飲み込むと、どこで憶えたのかサイドブレーキを引いてマックスターンを始めた。 タイヤとアスファルトの摩擦で肉が抉れ摺り潰れ焦げる臭いがする。 小さく「デギャ!ブチチ!」悲鳴とも潰れる音とも取れない音が聞こえる。 「死ね!死ね!市ね!誌ね!シネェェェェ!!」 その瞬間敏明の車は実装石の糞と脂肪と血で滑り、大きくスライドすると対向車線に出てしまった。 キキィィィ!!ドガン!! 敏明の車は4トントラックと正面衝突をしてしまう。 救急車で運ばれた敏明は地元の病院で目を覚ました。 幸い命に別状のある怪我では無かった。 実装石相手に散々な目の敏明だが一つだけ良い事があった。 目を覚ました病院のベッドの椅子に君子が座っていた。 敏明が意識を回復した事を知ると君子の目は涙で潤んでいる 「君子か・・仕事は良いのかい?」 「ごめんよ、車も無くなっちゃった」 敏明に抱きつく君子は「バカ、仕事や車なんかよりあなたが一番大事よ」と甘えた。 敏明はほっとすると心の中で呟く「一件落着、めでたし、めでたし」。 終わり
