とある夫婦が事故にあった。 妻は即死。 夫は瀕死の重傷。 しかし彼の元には漸く生まれた赤子が一人残されていた。 彼は最後の力を振り絞り、赤子を外に押し出す。 その直後、彼と妻は紅蓮の炎に包まれ天に召された。 誰一人頼る者もなく過酷な自然界に唯一人残された幼い命。 もはや風前の灯かと思われたそのとき、救いの手が差し伸べられた。 「デェ?」 〜実装少女〜 「おかーさん、ただいまー」 「おかえりなさいデス、もう直ぐゴハンデス。おとーさんを呼んでくるデス。」 「はーい」 その子は軽やかな足取りで家の裏の畑に走っていった。 この子の名は”ぷろみ”。 あの事故で生き残った赤子である。 あのあと赤子は実装石に拾われた。 そして育てられていた。 ここは、とある山奥の廃村。 不思議な実装一家の村。 「おとーさん、ゴハンだよー」 「わかったボク」 畑仕事で汗を流す実蒼石。 これが”おとーさん”である。 そして獣装石の”まーくん”。 これに実装石の”おかーさん”を加えた家族。 それが”ぷろみ”の家族。 囲炉裏を囲み、今日あった出来事を楽しそうに語る”ぷろみ”に相槌を打ちながら楽しい夕餉は進む。 やがて夜も更け、”ぷろみ”が眠った頃。 何かが庭に舞い降りる。 「”ケイ”デス?」 「ルトー」 すっと部屋の中に入ってくる実燈石。 「じゃあ話を聞こうデス」 何時の間にか”おとーさん”と”まーくん”も集まっていた。 「やっぱり”ぷろみ”のことは判らなかったルト」 失望の溜息。 人が二人も死んだ事故のはずなのに誰も探しに来ないのを不思議に思った村の仲間は 実燈石の”ケイ”に頼んで麓の人間たちの町まで様子を見てきてもらったのである。 「困ったデス・・・」 確かに村の皆は”ぷろみ”を可愛がっていた。 だが”ぷろみ”は人間。 そして自分達は実装なのだ。 人間は人間のなかで生きるべき。 あと少し、もう少しと引き伸ばしてしまったが、ここら辺が潮時かもしれない。 村の皆は結論を出すことにした。 明日、”ぷろみ”を人間の町へ。 その夜、眠れぬ夜を、”ぷろみ”との最後の夜を 何も知らずに眠る”ぷろみ”の寝顔とともに過ごした。 翌朝、”おかーさん”は”ぷろみ”にお使いを頼んだ。 麓にある人間の町へ買い物に行ってきてくれと。 ”ぷろみ”は元気に返事をすると籠と村の薔薇実装”ティナ”が作ってくれた水晶をもって家を出た。 途中までは獣実装の”まーくん”が背に乗せてくれた。 獣道が途切れる頃、”まーくん”は”ぷろみ”を降ろした。 「じゃあいって来るね!」 何の躊躇いもなく駆け出していく”ぷろみ”。 ”まーくん”はその姿が見えなくなるまでじっと見送っていた。 獣道を抜け、舗装された道に出た”ぷろみ”。 実燈石の”ケイ”に話は聞いていたが、見ると聞くとでは大違い。 全てが新鮮で珍しかった。 暫らく歩くと”ぷろみ”の目に信じられない光景が飛び込んできた。 初めて見る人間。 それが実装石を嬲っていたのである。 実装石は仲間と言う認識の”ぷろみ”は居ても立っても居られず 両者の間に割って入った。 「あ?なんだオメー」 その男はバールのような物を携え、”ぷろみ”を見下ろす。 「あの仔を虐めないで!」 両手を広げ実装石の盾になる”ぷろみ”。 「なに?ソレ、オマエのペットかなにか?」 「ち、違うけど・・・」 「だったらスッコンでな!ソレはオレの獲物だ!」 苛立ちそうに手で”ぷろみ”を薙ぎ払う男。 「やめてーーー!!!」 「ひゃっはーーー!!」 ”ぷろみ”の願いも虚しく実装は無残な姿に・・・。 「なんで・・・」 「あん?」 「なんでこんな酷いことをするの・・・?」 「プッ糞蟲を殺すのに理由なんかいるかよ!ヒャッハッハッハ!!!」 何がおかしいのだろう? ”ぷろみ”は悔しかった。 そして悲しかった。 「ん?なに泣いてるの?バッカジャネーノ!」 「おとーさーん!!」 ”ぷろみ”の悲鳴にも似た声が山間の町に響いた。 「!?呼んでる・・・」 それは村の仲間達全てに届いた。 何時の間にか集まった仲間達。 「行ってくるデス」 無言で頷く”おとーさん”。 納屋から一振りの刃を持ち出し、背に負う。 「往くボク!」 ”まーくん”の背に跨ると雄叫びを上げ疾走。 山を飛び、谷を超え、走る。 救いを待つ”娘”の元へ。 「おっと糞蟲発見伝ってか!」 再び虐殺を始めようとする男。 ”ぷろみ”は足に縋って止めようとする。 しかし足蹴にされ転がった。 土だらけになり肘も膝も擦り剥き、血が滲んでいた。 もはや”ぷろみ”には泣くことしか出来なかった。 自動車を追い越し、信号を飛び越え、走り続ける”おとーさん”と”まーくん”。 次第に強くなる”ぷろみ”の匂い。 そして二人は目撃する。 ”ぷろみ”が人間に足蹴にされる瞬間を。 まさに怒髪天。 その目に怒りを。 その手に力を。 ”おとーさん”は刃を引き抜き、”まーくん”は牙を剥いた。 疾風の如く間合いを詰めると男と”ぷろみ”の間に割って入る”おとーさん” 「じ、実蒼石!?人間に歯向かおうってのかよ!」 「・・・」 無言で相手を射抜く氷の眼。 何時もの温和な”おとーさん”じゃない。 全てを察した”まーくん”は”ぷろみ”を咥えると駆け出した。 これで全力を出せる。 これで本性を出せる。 「・・・泣かしたボク」 「あ?」 「娘を泣かしたボクゥゥゥ!!!」 次の瞬間、男は地面に這い蹲っていた。 「峰打ちボク・・・」 刃の背で両足首と股間を潰された男は泡を吹いて悶絶したのだった。 山の麓で合流した”おとーさん”は”ぷろみ”を慈しむ様に「家に帰ろう」と言った。 「そうデスか・・・タイミングが悪かったと言うべきなんデス?」 ”おかーさん”は”ぷろみ”の両親が眠る盛り土に手を合わせた。 何時か必ず”ぷろみ”を人間の世界に帰すと誓って。 あれから幾ばくかの時が経った頃。 「ブルー、戻って来い」 村の入り口で対峙する3匹の実蒼石。 1匹は村を背に、2匹はその実装を説得すべく。 「御主人様は全てを許すと言っている」 1匹の実蒼石が言葉を続ける。 「また昔のようにやろう」 だがブルーと呼ばれた実蒼石は沈黙を守ったまま。 「一体どうしちまったんだ?昔のアンタならこんなことは・・・」 「よせ、アス−ル」 一匹が言葉を制した。 「・・・4年前の事件か?」 ピクリと身を振るわせるブルーと呼ばれた実蒼石。 「アレはオマエの責任じゃない!不可抗力だったんだ」 燃え盛る宿舎。 焼け死んでいく仔実蒼。 その光景がフラッシュバックしていく。 そのときだった。 一人の人間がやってきた。 「”おとーさん”、”おかーさん”が呼んでるよ・・・あれ?お友達?」 「ブラウ、今日のところは引き上げよう」 「わかった。ブルー、またくるよ」 二匹の実蒼石は去って行った。 ブルー=”おとーさん”は無言で立ち尽くしていた。 「・・・そうデスか。そんなことがあったデスか」 その夜、”ぷろみ”は”おかーさん”に聞いてみた。 ”おとーさん”はどうしたのかと。 「”ぷろみ”。ここにはね、いろんな事情を抱えた実装たちが流れ着いてくるんデス ワタシからは何も言えないデス。 ”おとーさん”が自分から教えてくれるのを待つデス」 今一、判ってない”ぷろみ”に”おかーさん”は、もう寝るように薦めた。 そして静寂が支配する部屋で囲炉裏の火を見つめながらワタシもそうなんデスと呟いた。 その腕にはバーコードとナンバーが焼き付けられていた。 数日後のことだった。 ”ぷろみ”は何時ものように村の外れにある広場で遊んでいた。 すると、先日の実蒼石が現れた。 「少し、話をしてもいいかな?」 ”ぷろみ”はコクリと頷いた。 一人と二匹は腰を下ろす。 「さて、何から話したものかな・・・」 「皆さんは”おとーさん”とはお友達なんです?」 二匹の実蒼石は顔を見合わせると苦笑する。 「そうだね、古い友人だった・・よ」 ブラウと呼ばれた実蒼石は寂しそうに答えた。 「ボクたちは昔、一緒に働いていたんだ」 「どんなお仕事だったんです?」 いかにも興味津々といった風の”ぷろみ”は瞳を輝かせて聞く。 「それは・・・」と、アスールと呼ばれた実蒼石が言い澱む。 「軍用石といってね、特別に訓練された『ニンゲンを殺すために作られた実装』だよ」 「”おとーさん”?」 何時からそこに居たのだろう? ”おとーさん”が立っていた。 「ブルー・・・」 「ボクはニンゲンの言われるままに殺し続けた。何の疑問も持たずにね。 でもある日・・・」 「よせ!ブルー!」 ブラウと呼ばれた実蒼石が言葉を遮った。 「それ以上言っちゃダメだよ・・・」 「あれは事故だったんだ・・・それで・・・いいじゃないか・・・」 慰めるように宥めるようにアスールと呼ばれた実蒼石は言う。 「ブラウ、いいんだ。ボクが殺したんだよ。たくさんの仔実蒼を・・・」 「ブルー・・・」 「”ぷろみ”。”おとーさん”はね、お仕事を優先するあまり、多くの仲間の仔を見殺しにしたんだよ」 「”おとーさん”・・・」 「あの時、ボクは漸く過ちに気が付いたんだ。そして全てを捨てて逃げ出したんだ・・・」 「そしてこの村にたどり着いた。皆は何も聞かずに迎え入れてくれた。 畑の耕し方、魚の取り方、生きるために必要なこと全てを惜しみなく与えてくれたんだ」 「どのくらい時がたったんだろうな・・・何時しかボクもまた笑えるようになったんだ そんなときだ、村の外れでキミを見つけたんだよ」 ”おとーさん”は細い目で”ぷろみ”を見つめる。 「燃える自動車の炎がまだ小さかったキミに襲いかかろうとしたとき ボクはあのときを思い出したんだ。 同じ失敗は繰り返したくなかった・・・。 ボクは何時の間にか走り出していた。 そしてキミを助け出したんだ」 「”おとーさん”?何を言ってるの・・・」 「・・・今まで黙っててゴメンね・・・”ぷろみ”、キミはボクたちの仔じゃない・・・ キミはニンゲンだよ」 「やれやれ・・・とうとう言っちまったデス・・・」 「”おかーさん”・・・ウソだよね?」 「”ぷろみ””おとーさん”の言ったことは本当デス」 「そんな・・・」 「”ぷろみ”、皆居るべきところに居るのが幸せなんだよ」 ”おとーさん”は寂しそうに呟く。 「ここはキミの世界じゃない・・・”ぷろみ”、ニンゲンの世界に帰りなさい・・・」 「やだよぉ・・・”おとーさん”と”おかーさん”・・・」 「ブラウさんとアスールさんと言ったデス? 聞いての通りデス。 ワタシたちの家族ごっこは此処までのようデス。 そこでお願いがあるデス この子を・・・”ぷろみ”をニンゲンの世界に戻してやって欲しいデス・・・」 無言で顔を見合わせるブラウとアスール。 「無論、タダでとは言わないよ。 ボクもご主人様の元に戻る。 それでキミ達の面目も立つ・・・」 「ブルー!本当にそれで良いのかい?」 ブラウと呼ばれた実蒼石が叫ぶ。 「キミを迎えに来ておいてなんだけど・・・これじゃあまりにも・・・」 「良いんだ・・・夢は何時か覚めるもの・・・今がその時だったんだよ」 泣きじゃくる”ぷろみ”に優しく、そして残酷に別れを告げる”おとーさん” 「”ぷろみ”・・・それじゃサヨナラだ・・・」 「アスール!ブルーは既に死んでいた!そうだね!」 ブラウと呼ばれた実蒼石は背を向けたまま吼えた。 「その通りだ!全くの無駄足だったねブラウ!」 同じく背を向けて小刻みに震えるて答えるアスール。 「おまえたち・・・」驚いたように答える”おとーさん” 「ブルー。もう二度と会うことはないだろうけど、元気でね」 「もう一度アンタと暴れてみたかったよ。じゃあな!」 二匹の実蒼石はこうして去って行った。 「ありがとう・・・」 ”おとーさん”と”おかーさん”は静かに見送った。 「”ぷろみ”、もう少し・・・もう少しだけ家族でいよう・・・」 「でもキミはニンゲン・・・そのことを忘れちゃダメデス?」 うんうんと頷く”ぷろみ”。 その後暫らく山間に元気な子供の声が響き渡っていたが ある日を境にその声はピタリと止んだそうである。 そして実装家族の暮らしていた廃村は山崩れで埋もれてしまった。 あの家族は何処に行ってしまったのだろうか? その答えは誰も知らない・・・。 〜劇終〜 「ただいまー!」 セーラー服姿の少女が元気に飛び込んでくる。 優しく迎える両親。 「もう直ぐご飯だよ、着替えてきなさい」 「学校は楽しかったかい?」 「もちろん!ただいま!”まーくん”、”ケイ”」 庭には獣実装と実燈が仲良くまどろんでいる。 そしてシッポと欠伸で返事する二匹。 この退屈で代わり映えのしない毎日が何時までも続きますように・・・。
