「ヨウ、久しぶりだなジャーップ!元気だったか?」 「ジャップ言うんじゃねェよファッキンヤンキー。元気そうで何よりだ」 サングラスにアロハシャツの人物と握手を交わす。 アメリカに滞在するときにいつも会いに行く友人だ。口は悪いし典型的なアメリカ人 思考の持ち主だが、悪いやつではない。 そして俺とこのアメリカ人、デイビットがつるんでまず行くところといえば、一つき りと決まっている。 ここは市街から離れた場所にあるシューティングレンジ。つまりは民間人向けの射撃 場だ。ただ趣味で撃ちに来るやつから、護身用にと銃を練習したいやつ用にインスト ラクターまで準備している。もちろん、リボルバーからオートマチック、22口径か ら44マグナム、デリンジャーから対物ライフルまで各種銃のレンタルも行っている。 まさに銃好き野郎の天国というわけだ。 もちろん、こんな場所に来ている以上、おれもデイビットもかなりのスキモノなわけだ。 早速レンジの一箇所を借りて、持ち込んだ銃やレンタルの銃を台に並べて、なにから 撃つか物色する俺たち。 「まずは俺からだな。久々なんだから優先させろよ」 拳銃好きにはおなじみの、コルトガバメントをとり、文字どうり無人の荒野といった 印象のレンジに照準を向ける。 シューティングレンジにはペンキで距離が測れるようになっており、それは約1マイ ル先の小高い丘まで10ヤード刻みで描かれている。そのほかは本当に何もない。 こちら側、撃つ場所はコンクリート製の箱みたいな個室になっており、レンジの方向 へ壁が取り払われた形だ。わかりやすく言うと野球の選手が待機しているボックスの 親戚みたいなやつだ。 「まずはどのレベルで行くよ。30ヤード30カウントとかいってみるか?」 「おまえむちゃくちゃ言うな。久しぶりつってんだろ?まずは30ヤード10カウン トだ。」 壁にかけられたリモコンを、先ほど言ったように30ヤード10カウントに設定し、 実行ボタンを押す。すると、屋根についている機械からぽしゅぽしゅとビニール袋が 打ち出され、だいたい30ヤードの位置に落ちる。 この中には臭い袋と金平糖が入っている。臭い袋はあいつらが飛びつきやすくするた めの、いわばフェロモン剤みたいなもんだ。 ここまで書けば、だれだって解るだろう。この射撃場の的は、 「「「「デッスウゥゥゥゥーーーー!!!」」」」 そう。実装石だ。 リモコンのボタンを押してから数秒でブザーが鳴り、個室を区切る壁にもうけられた スキマから、勢いよく実装石が飛び出してくる。その数10。 普通の実装石なら人間に媚びたりするだろう。しかし、こいつらに限ってはそうはな らない。ヤバイ薬でトリップ状態で、金平糖とフェロモン臭以外はまったく目に入ら ない。普通ならトロクサイ実装石だが、こうなると話は別で、薬で痛覚その他が消え うせているらしく、限界を超えたスピードで30ヤード先の大好物めがけて突っ走る。 たどり着いたときには、荒地をそんなスピードで走った代償にほとんど脚が擦り切れ て、足首からつま先まで身長が縮むという有様になる。 まあ、そんな状態にはしてやらんのだが。 雄たけびを上げて突っ走る実装石たちの最後尾に照準を合わせ、引き金を絞るように 銃を撃つ。 ドンッ! 強めのキックと、イヤープロテクターで遮られた轟音が耳を掠める。 撃たれた実装石は、狙いどうり頭に当たり、比重の軽い脳みそと目玉、体液やらを撒 き散らして絶命した。 まずまずの成果だ。ブランクがあっても腕は鈍ってない。 俺は気をよくして、どんどんと実装石たちを撃っていく。 胸、腹、下半身、また下半身、頭、腹——。 糞や体液を撒き散らして次々と絶命、あるいは行動不能となっていく実装石。まだ生 きているやつは、鉛弾の変わりに遮るもののない強烈な直射日光がプレゼントされ、 減少した体力を削り取っていく。 七匹撃ったところで弾切れだ。かしん、とスライドが開ききる。 即座にマガジンを落とし、台に置かれた予備のものと交換、その間にも残りの三匹は 目当ての金平糖へと猛ダッシュしている。 まずい、そろそろとどかれちまうか。 別に実装石が金平糖にたどり着いてもペナルティがあるわけじゃない。実際に動く目 標を撃つのが苦手な初心者は、わざと的が金平糖をしゃぶっているときを狙って撃っ たりもする。 だが、俺には後ろのヤンキーのひやかしには耐えられん! しっかり狙って残りの三匹を撃つ。 一匹は左胸に命中した。左腕と心臓に泣き別れしつつ、きりきりとコマのように回る そいつ。そのままばたりと倒れて動かなくなる。 次の一匹は頭だ。手りゅう弾のように頭が破裂し、残った体だけがそのままの速度で しばらく走り、足を躓かせて転んで、それっきりだ。 ラストの一匹は、しまった、右腕に当たっちまった!それもひじの辺りか! 当然痛覚のない実装石はそんな負傷など気にも留めない。ちょっとバランスがおかし くなったと思うだけだ。 ちょっとあわてながら狙いを付け直し、そいつを撃つ。今度は狙いたがわず体を打ち 抜く。やばい。もうギリギリの距離しかなかった。 しかし、無傷の首がころころと転がり、金平糖に覆いかぶさった。 俺はなんともいえない顔をしているのだろう。その証拠にデイビットは大笑いだ。 「HAHAHA!!30といわず100ヤードにすりゃ良かったな! それに、お前さんみたいなジャップが45口径なんて100年はええぜ。ヘタクソな らヘタらしく、弾がいっぱい入って軽いグロックにでもすりゃいいじゃねぇか」 「だまれクソッタレ。プラスチックの拳銃なんざ使えるか」 趣味的な要素で拳銃を選べるのは幸福だ。 そのあとも俺たちは交代しながら射撃を楽しんだ。ちなみに、金平糖の入ったビニー ル袋は、ヘマをやったほうが回収して消臭機能のついたダストボックスに捨てに行か なければならない。これを怠ると実装石がどこに行くかわかったもんじゃない。 隣の、といっても少し離れたレンジでは、成体実装石が直立しても十分隠れられるほ どのブッシュが植えられ、こちらはカンフル剤をぶち込まれていないのか、こそこそ とした動きで茂みがかすかに揺れているのが見える。 当然、そこめがけて銃弾が降り注ぐ。 少しはなれたところで6フィートほどの台に乗った男が片膝でライフルを構え、じっ くりと狩りを楽しんでいる。ただ撃ちまくるだけではなくこういった趣向も用意され ている。 流石に先進国に限って言えば、とみに銃規制におおらかな国だけある。おかげで実装 石がたっぷりとワリを喰うわけだが。 話はそれるが、陸軍がルーキーの初陣ショック対策に、実装石を撃って生き物を殺す 忌避感を軽減させようと試みたことがあったらしい。 ぶっちゃけニンゲン様と糞蟲ごときをいっしょくたにするとはなにを考えているんだ と思うのだが、体液と糞の詰まった皮製のズダ袋という点は変わりないということで、 多少なりとも効果はあったそうだ。 が、問題は別のところからやってきた。この訓練を受けた連中が、やたら訓練の再申 請を言ってきたのだ。「錬度維持のため」というタテマエらしいが、俺はそいつらの 気持ちがよーくわかる。 結局予算がパンクしてこの訓練はストップするわけだが、このやたら再申請していた 連中はまだまだ再開の嘆願書を出し続けているらしい。 閑話休題。 「そういやデイビット。電話で散々自慢していたやつはどうした?」 買い込んだ弾薬をほとんど撃っちらかしたあたりで、俺はふと思い出した。 「オー、危ない。忘れるところだったぜ。こいつよこいつ!見やがれ!!」 そういってやたらでっかいケースから、マットブラックの鉄の塊を取り出す。 「こりゃお前M60じゃねぇか。いったいいくらしたんだこれ」 ベトナム戦争などで使用されていた軽機関銃だ。それほど銃に詳しくないやつでも、 映画でランボーやシュワルツネッガーが担いでいたやつといえば知っているかもしれ ない。 「こいつをお披露目したかったのよ!!」 そういって台を蹴っ飛ばし、えっちらおっちらと土嚢を積み上げるデイビット。二脚 は使わず、土嚢の上にM60をおき、自分は寝そべって銃を構える。その隣には実装 石がぎりぎり(手足をへし折ったりして)入るくらいの箱が置かれており、ベルトに 繋がった弾薬がM60まで伸びていた。 「リモコン頼むぜ!50ヤード100カウントだ!!」 「あいよ」 イヤープロテクターを付け直しつつ、リモコンを操作する俺。その直後。 「「「「デッスウゥゥゥゥーーーー!!!」」」」 「「「「デギョアァァァァーーーー!!!」」」」 「「「「デヒデォォォォォーーーー!!!」」」」 プロテクター越しでもしっかり聞こえる絶叫と共に、緑の津波が金平糖へと押し寄せる! 「ハハハ・・・」 かすかにデイビッドの笑う声も聞こえた。そして。 「フゥハハーハハーーーーーー!!!」 ドダダダダダダダ!ダダダダダダァーー!! 一つの繋がった音のような轟音と共に、実装石が片っ端から吹っ飛んでいく。もとも と狙って撃たずにとにかく弾を撃ちだすための銃だけあって、拳銃なんぞとは迫力の ケタが違う。 緑の津波が緑の水溜りに変わっていく光景を見ながら俺が思い出したのは、プライベ ートライアンの冒頭の上陸シーンだった。 「ハハ!ハッハー!ハァーハ!ハァーって、あれ?」 現代のドアガナーの哄笑がストップする。みれば弾の入っていた箱はすっからかんに なり、反対側には空薬きょうの小山ができていた。 実装石どものほうはほとんどすべてが肉と糞のミンチがぶちまけられた、すっさまじ い光景へと変貌している。俺はどこかにいるだろう、掃除役の職員に同情した。 ほとんどすべて、なわけで、ぼろぼろの実装石が三匹ばかり金平糖へとよろよろと歩 いている。狙いもつけずにメクラ撃ちしてりゃ、そりゃ何匹か生き残っても不思議じゃ ないか。 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 なんともいえない沈黙が二人を襲う。 「やっぱり俺は鉄砲は狙ってなんぼと思うわけだが、そこらへんどうよ?」 「うるせぇ!!」 野良実装石駆除はもう日本じゃ社会問題化してひさしい。 が、海外ではそれを逆手に取ったビジネスも色々とあるんだそうだ。この射撃場もそ の一つ。 個人的には是非とも輸入して欲しいんだが、無理なんだろうなぁ。 『使いすぎだYO』と主張している請求書を見ながら、そう思ったのだった。
